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第211回 子会社の有償減資:資本の払戻し・みなし配当・株式簿価を仕訳で整理

資本金を減少させ、その結果生じたその他資本剰余金を株主へ配当する取引は、実務上「有償減資」と呼ばれることがあります。ただし、資本金の減少と剰余金の配当は別の手続です。

本稿では、非上場子会社が金銭を交付する設例を用い、子会社と親会社の会計処理、法人税上の資本の払戻し、みなし配当、株式簿価の動きを整理します。

1.資本金の減少と金銭配当を分ける

段階 S社の処理 純資産合計
資本金の減少 資本金300をその他資本剰余金へ振り替える 変わらない
剰余金の配当 その他資本剰余金300を株主へ交付する 300減少する

「減資」という名称だけでは、株主へ財産が交付されるかは分かりません。資本金の減少額、振替先、配当原資、配当額および各効力発生日を分けて確認します。

2.会社法上の二つの手続

会社法447条は資本金の額の減少、449条は債権者の異議手続を定めています。剰余金の配当は453条および454条に定められています。「有償減資」という一つの法的手続が設けられているわけではありません。

段階 主な確認事項 本設例
資本金の減少 減少額、効力発生日、決議、債権者異議手続 資本金300をその他資本剰余金へ振り替える
剰余金の配当 配当財産、総額、割当方法、効力発生日、分配可能額 その他資本剰余金300を比例配当する

準備金の計上額と減少する剰余金の内訳は、会社計算規則22条・23条に従って確認します。また、会社法461条により、株主へ交付する財産の帳簿価額は効力発生日の分配可能額を超えられません。

3.S社の個別仕訳

資本金の減少

企業会計基準第1号第20項により、資本金の減少で生じる剰余金は、減少の法的効力が発生したときにその他資本剰余金へ計上します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
資本金 300 その他資本剰余金 300

純資産の内訳が変わるだけで、純資産合計は1,250のままです。

その他資本剰余金からの配当

配当の効力発生日に債務を計上します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
その他資本剰余金 300 未払配当金 300

支払時には未払配当金300を消し込みます。非支配株主に対する源泉徴収の要否は、その株主の属性などによって異なるため、現金支払額と源泉所得税等の預り額を区分します。ただし、両者の合計は300です。

項目 取引前 減資後 配当の効力発生後 支払・納付後
資産合計 1,250 1,250 1,250 950
負債合計 0 0 300 0
資本金 800 500 500 500
資本準備金 200 200 200 200
その他資本剰余金 0 300 0 0
繰越利益剰余金 250 250 250 250
純資産合計 1,250 1,250 950 950

4.P社は決議の効力が生じた年度に認識する

企業会計基準適用指針第3号第3項により、その他資本剰余金の処分による金銭配当を受けた株主は、売買目的有価証券などを除き、原則として受領額を対象株式の帳簿価額から減額します。

配当金の認識時期について、同指針第6項は移管指針第9号第94項と同様に扱うとしています。市場価格のない株式では、原則として、配当に関する決議の効力が生じた日の属する事業年度に認識します。決議の効力発生後、通常必要な期間内に支払われる場合には、支払日の属する事業年度に認識する方法も継続適用を条件に認められます。

本設例では原則的な方法を採用し、配当決議が効力を生じる日と会社法上の配当の効力発生日を同日にしています。P社に割り当てられる金額は、300×80%=240です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
未収金 240 子会社株式 240

P社はS社株式を自己名義で80%保有しており、3分の1超の保有要件を満たします。本設例の前提では、所得税法177条・212条3項により、P社に支払う配当等について源泉徴収を要しません。支払時の仕訳は次のとおりです。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 240 未収金 240

国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」も、自己名義で保有する株式について、一定の内国法人が発行済株式等の3分の1を超えて保有する場合の配当等は源泉徴収を要しないと説明しています。実際の判定では、配当等に係る基準日等の名義、保有数および株主属性を確認する必要があります。

計算 金額
配当前の子会社株式 600
帳簿価額からの減額 △240
配当後の子会社株式 360

未収金の計上と子会社株式の減額は借貸とも240であり、P社の会計上の利益は生じません。

5.連結上は非支配株主への交付だけが外部流出になる

P社に割り当てられる240は企業集団内の取引として消去します。非支配株主に割り当てられる金額は、300×20%=60です。

項目 取引前 取引後 増減
S社の純資産 1,250 950 △300
非支配株主持分 250 190 △60
親会社株主に帰属する持分 - - 0

非支配株主への支払と必要な源泉所得税等の納付が完了した後の連結上の純額は、次のとおりです。

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 60 現金 60

これは連結上の結果を示すものであり、P社またはS社の個別帳簿へそのまま記帳する仕訳ではありません。株式数と持分比率は変わりません。

6.法人税では交付額を資本と利益に分ける

法人税法24条は、資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当を、一定のものを除き「資本の払戻し」として扱います。具体的な計算は、法人税法施行令23条・119条の9などに基づきます。

払戻割合

300÷1,250=0.240

分子は資本の払戻しにより減少した資本剰余金300、分母は法定調整後の前事業年度末の簿価純資産価額1,250です。本設例では法定の端数処理後も0.240です。

払戻等対応資本金額等

1,000×0.240=240

計算額240は、実際に減少した資本剰余金300を超えないため、そのまま使用します。

みなし配当

交付額300-払戻等対応資本金額等240=60

項目 取引前 減少額 取引後
資本金等の額 1,000 240 760
利益積立金額 250 60 190
合計 1,250 300 950

会計上の資本金の減少額は300ですが、税務上の資本金等の額の減少額は240です。両者を一致させることはできません。

7.P社のみなし配当・みなし譲渡・税務簿価

項目 計算 金額
金銭交付額 300×80% 240
資本金等対応額 240×80% 192
みなし配当 60×80% 48

税務上の譲渡対価は、金銭交付額240からみなし配当48を除いた192です。

譲渡原価=600×0.240=144

譲渡益=192-144=48

払戻し後の税務上の株式簿価=600-144=456

借方 金額 貸方 金額
金銭交付額 240 子会社株式の税務簿価減少 144
みなし配当 48
譲渡益 48
合計 240 合計 240

この表は税務上の構成を検算するものであり、P社の会計帳簿へ追加記帳する仕訳ではありません。会計処理との差額は申告調整します。

項目 会計 法人税
交付額 240 240
利益等 0 みなし配当48、譲渡益48
株式簿価の減少 240 144
払戻し後の株式簿価 360 456

会計簿価と税務簿価の差額は96です。みなし配当に対する受取配当等の益金不算入額は、株式区分や保有期間などを確認して別に計算するため、本設例では課税所得および税額まで算定しません。

子会社株式簿価減額特例の確認

国税庁の子会社株式簿価減額特例に関する資料では、一定の支配関係がある法人から受ける対象配当等と同一事業年度内配当等の合計額が、所定の株式簿価の10%相当額を超える場合に、適用除外要件に該当しない限り、益金不算入相当額を株式簿価から減額する仕組みが示されています。

本設例で対象となり得るみなし配当48は、株式簿価600の10%である60を超えません。同一事業年度中のほかの配当もないため、本設例ではこの特例を適用しません。

100%保有の場合との違い

本設例の持分比率は80%です。完全支配関係にある内国法人間でみなし配当事由が生じた場合には、譲渡対価を譲渡原価相当額とする法人税法上の特則があります。したがって、本設例の譲渡益48を100%保有の事例へそのまま当てはめることはできません。

8.消費税では課税対象外

国税庁「非課税と不課税の違い」では、出資に対する配当は、対価を得て行う取引に当たらないものとして整理されています。

S社が本件の金銭交付を課税売上としたり、P社が課税仕入れとしたりすることはありません。法人税上、株式の一部譲渡をみなして計算することだけを理由に、消費税の課税売上割合へ算入するものでもありません。

9.税務簿価管理ではS社からの通知も照合する

法人税法施行令119条の9には、払戻しを行った法人が株主へ払戻等割合を通知する規定があります。P社では、S社から通知された払戻等割合を申告計算資料と照合し、税務上の株式簿価456を会計簿価360と区別して管理します。

10.結論

本設例では、S社は資本金300をその他資本剰余金へ振り替えた後、その300を配当します。P社は配当決議の効力が生じた日の属する事業年度に未収金240を計上し、子会社株式を240減額します。

法人税上は、交付総額300を資本金等対応額240とみなし配当60に分けます。P社では、みなし配当48、譲渡原価144、譲渡益48となり、払戻し後の税務簿価は456です。会計簿価360との差額96は、申告調整と税務簿価管理で追跡します。

第210回 子会社の無償減資ゼロ入門:資本金・欠損填補・税務上の資本金等の額を仕訳で整理(5日練習付き)

第209回では、子会社が自己株式を消却する場面を扱いました。自己株式の消却では発行済株式数が減ります。

今回扱う無償減資では、株主へ財産を払い戻さず、株式数も変えません。動くのは資本金などの内訳です。

無償減資と欠損填補は二段階で考えます。まず資本金をその他資本剰余金へ振り替え、次にその他資本剰余金で繰越利益剰余金のマイナスを埋めます。

1.自己株式の消却、無償減資、欠損填補を分ける

手続 主に動くもの 発行済株式数 純資産合計
自己株式の消却 自己株式と対応する株主資本項目 減る 原則として変わらない
無償減資 資本金から資本剰余金への振替 減資だけでは変わらない 変わらない
欠損填補 その他資本剰余金から繰越利益剰余金への振替 変わらない 変わらない

減資は株式を消す手続ではありません。株式併合や自己株式の消却を併せて行えば株式数も動きますが、本設例では行いません。

株主へ財産を交付する減資は、今回のような払戻しのない無償減資とは会計・税務が異なります。

2.会社法上も二つの手続になる

会社法447条により、資本金を減少するときは、減少額、準備金とする額、効力発生日などを定めます。本設例では株主総会で決議します。

資本金の減少については、同法449条の債権者異議手続が必要です。官報公告と知れている債権者への各別催告を行い、異議を述べられる期間は1か月以上とします。官報に加え、定款所定の日刊新聞紙または電子公告による公告を行った場合は、各別催告を省略できます。手続が終わっていなければ、予定した効力発生日は到来しません。

欠損填補は、同法452条に基づく剰余金の処分です。本設例では、資本金の減少と欠損填補について、それぞれ必要な事項を決議します。

順序 確認すること
1 資本金の減少と剰余金の処分について決議する
2 債権者異議手続を行う
3 効力発生日に資本金の減少を帳簿へ反映する
4 その他資本剰余金で確定した欠損を填補する
5 資本金の変更登記と税務申告への反映を確認する

会計仕訳だけで法的手続が終わるわけではありません。

3.取引前の残高

科目 金額
資産 900
負債 300
資本金 800
資本準備金 100
その他資本剰余金 0
繰越利益剰余金 △300
純資産合計 600

貸借対照表は「資産900=負債300+純資産600」です。純資産も「800+100+0-300=600」と一致します。

4.S社の個別仕訳

第1段階:資本金をその他資本剰余金へ振り替える

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金 300 その他資本剰余金 300

資本金は800から500へ減り、その他資本剰余金は0から300へ増えます。株主資本内部の振替なので、収益や費用は生じません。

第2段階:その他資本剰余金で欠損を填補する

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
その他資本剰余金 300 繰越利益剰余金 300

繰越利益剰余金は「△300+300=0」となります。利益が300発生したのではありません。

科目 取引前 減資後 欠損填補後
資本金 800 500 500
資本準備金 100 100 100
その他資本剰余金 0 300 0
繰越利益剰余金 △300 △300 0
純資産合計 600 600 600

検算:第1段階も第2段階も借方300=貸方300です。資産900、負債300、純資産600も変わりません。

企業会計基準第1号では、資本金の減少によって生じる剰余金を、減少の法的効力が生じたときにその他資本剰余金へ計上します。

資本剰余金から利益剰余金への振替は原則として認められません。ただし、年度決算時の利益剰余金が負の残高である場合に、その他資本剰余金でその負の残高を補う処理は、両者の混同には当たらないとされています。正の利益剰余金をつくるための振替はできません。

欠損が200なら填補額も200です。残る100はその他資本剰余金に残します。

5.P社の個別と連結

P社の個別財務諸表

P社は現金や財産を受け取らず、保有株式数も子会社株式の取得原価480も変わりません。本設例では仕訳を行いません。

子会社の資本金が減ったという理由だけで、子会社株式を減額することもありません。ただし、実際に子会社株式の実質価額が著しく低下している場合は、減損処理の要否を別に検討します。

連結財務諸表

S社の純資産600とP社の持分比率80%は変わりません。P社持分は480、非支配株主持分は120のままです。

区分 計算 減資前 欠損填補後
P社持分 600×80% 480 480
非支配株主持分 600×20% 120 120

本設例の前提による欠損填補後の投資と資本の相殺消去は、次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金 500 子会社株式 480
資本準備金 100 非支配株主持分 120
合計 600 合計 600

無償減資と欠損填補だけを理由に、連結上の損益、新たなのれん、持分変動差額は生じません。実際の資本連結仕訳は、取得日、取得後損益、評価差額、既存ののれんなどによって変わります。

6.法人税、消費税、地方税

確認項目 本設例の扱い
S社の法人税所得 株主資本内部の振替だけであり、この取引単独による益金・損金はない
法人税上の資本金等の額 株主への払戻しがないため900のまま
税務上の繰越欠損金 会計上の欠損填補だけでは増減しない
P社の法人税 財産の交付も株式譲渡もないため、この取引単独による収益はない
消費税 対価を得て行う資産の譲渡等ではなく、課税対象外

法人税法施行令8条による資本金等の額は、会計上の資本金と同じではありません。資本金を300減少させても、払戻しのない本設例では、その減少額に対応する税務上の調整によって資本金等の額900は変わりません。

指標 金額
会計上の資本金 500
会計上の資本金+資本準備金 600
会計上の純資産合計 600
法人税上の資本金等の額 900

会計上の繰越利益剰余金が0になっても、税務上の繰越欠損金は消えません。欠損金の繰越控除は、欠損金が生じた事業年度の申告や、その後の申告などについて、法人税法57条等の要件を別に判定します。国税庁のタックスアンサーNo.5762は、2026年4月1日現在の取扱いを案内しています。

消費税についても、無償減資は有価証券の譲渡ではありません。対価を得て行う取引に当たらないため、国税庁タックスアンサーNo.6209にいう不課税取引、つまり課税対象外の取引として整理します。

地方税の資本金等の額はもう一度計算する

法人住民税均等割では、法人税上の資本金等の額に無償減資等による損失填補の調整を行い、会計上の資本金と資本準備金の合計額と比較します。

本設例で、損失填補に使ったその他資本剰余金300が、填補日前1年以内の資本金減少によって計上されたものであり、必要書類も整っている場合は、調整後の資本金等の額は「900-300=600」です。会計上の資本金と資本準備金の合計も「500+100=600」なので、均等割の税率区分の基準は600となります。

ここでいう損失は、填補時のその他利益剰余金全体のマイナス額を基礎に判定します。添付書類や過去の組織再編によって計算が変わることもあります。申告時は、申告先自治体の様式と案内を確認してください。東京都主税局のチェックポイントでは、1年以内という要件や必要書類が示されています。

7.間違えやすいポイント

  • 無償減資だけで現金を減らさない。
  • 減資だけで発行済株式数や持分比率を変えない。
  • 欠損填補額を収益にしない。
  • 正の利益剰余金をつくるために資本剰余金を振り替えない。
  • 親会社の子会社株式を自動的に減額しない。
  • 会計上の欠損と税務上の繰越欠損金を同一視しない。
  • 会計上の資本金500を地方税の判定へそのまま使わない。

8.3問で確認する

問題1

資本金を300減少させた直後、欠損填補前の残高はいくらでしょうか。

答え:資本金500、資本準備金100、その他資本剰余金300、繰越利益剰余金△300、純資産合計600です。

問題2

資本金800、資本準備金100、その他資本剰余金0、繰越利益剰余金△200の会社が、資本金を300減少させて欠損を全額填補する場合はどうなるでしょうか。

答え:まず「借方:資本金300/貸方:その他資本剰余金300」、次に「借方:その他資本剰余金200/貸方:繰越利益剰余金200」とします。最終残高は資本金500、資本準備金100、その他資本剰余金100、繰越利益剰余金0です。純資産合計700は変わりません。

問題3

本設例の無償減資と欠損填補により、非支配株主持分120は増減するでしょうか。

答え:増減しません。S社の純資産600と非支配株主の持分比率20%が変わらないため、「600×20%=120」のままです。

9.5日で定着させる

日 練習内容
1日目 自己株式の消却、無償減資、欠損填補の違いを書く
2日目 資本金からその他資本剰余金への仕訳と残高を確認する
3日目 欠損填補の仕訳を書き、純資産合計を検算する
4日目 親会社個別、連結、法人税、消費税、地方税を分けて説明する
5日目 上の3問を資料なしで解き、借貸と残高を再計算する

10.まとめ

  • 自己株式の消却は株式数、無償減資は資本金の額を動かす。
  • 欠損填補は、資本金からその他資本剰余金、その他資本剰余金から繰越利益剰余金という二段階で考える。
  • 本設例では、現金、純資産合計、株式数、持分比率は変わらない。
  • 会計上の資本金、法人税上の資本金等の額、税務上の繰越欠損金、地方税の判定額は別に確認する。

主な一次資料

第209回 子会社の自己株式消却をゼロから学ぶ:発行済株式数・持分比率・仕訳(5日間の復習例付き)

自己株式とは、自社が取得して保有する自社の株式です。本稿では、子会社が取得済みの自己株式を第三者へ処分せず、消却する場合を整理します。

消却すると発行済株式数は減ります。ただし、自己株式は消却前から持分比率の分母に含めないため、本設例では親会社の持分比率は変わりません。

1.発行済株式数と持分比率

項目 消却前 消却後
発行済株式数 100株 100株-20株=80株
自己株式数 20株 0株
社外株式数 100株-20株=80株 80株-0株=80株
P社の持分比率 60株÷80株=75% 60株÷80株=75%
B社の持分比率 20株÷80株=25% 20株÷80株=25%

消却では、発行済株式数と自己株式数が同じ20株ずつ減ります。社外株式数は80株のままなので、P社とB社の持分比率も変わりません。これに対し、自己株式を第三者へ処分すると、自己株式が社外へ戻るため社外株式数が増え、通常は持分比率が変わります。

実際の支配判定では、議決権の内容、種類株式、契約関係なども確認します。本設例の株式数による計算を、すべての支配判定にそのまま使うことはできません。

2.自己株式の消却と資本金の減少は別の手続

会社法178条により、株式会社は保有する自己株式を消却できます。消却する自己株式数を定め、取締役会設置会社では取締役会決議によらなければなりません。消却の対象は会社が保有する自己株式であり、P社やB社の保有株式をS社の決定だけで消却するものではありません。

会社計算規則24条は、消却する自己株式の帳簿価額を自己株式から減らし、同額をその他資本剰余金から減らすことを定めています。自己株式の消却だけでは資本金は減少しません。資本金の額の減少は会社法447条以下による別の手続です。

3.S社の個別仕訳

消却直前のS社の純資産を次のように仮定します。

項目 残高
資本金 400
資本準備金 100
その他資本剰余金 260
繰越利益剰余金 240
自己株式 △240
純資産合計 400+100+260+240-240=760

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第11項に基づき、消却手続が完了したときに次の仕訳を行います。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
その他資本剰余金 240 自己株式 240
合計 240 合計 240

自己株式は純資産の控除項目です。貸方に240を記入して、消却した自己株式の借方残高をゼロにします。消却益や消却損は計上しません。

項目 消却前 増減 消却後
資本金 400 0 400
資本準備金 100 0 100
その他資本剰余金 260 △240 20
繰越利益剰余金 240 0 240
自己株式 △240 240 0
純資産合計 760 0 400+100+20+240=760

その他資本剰余金と自己株式の控除額が同額ずつ減るため、純資産合計は760のままです。消却時に現金も動きません。

一部だけを消却する場合の帳簿価額は、同会計基準第13項に従い、会社が定めた計算方法によって株式の種類ごとに算定します。

4.その他資本剰余金が不足する場合

消却直前のその他資本剰余金が100、消却する自己株式の帳簿価額が240であれば、消却手続の完了時には「その他資本剰余金240/自己株式240」と仕訳し、その他資本剰余金は△140になります。

同会計基準第12項により、会計期間末に「繰越利益剰余金140/その他資本剰余金140」と仕訳して、その他資本剰余金をゼロにします。消却時から240の全額を繰越利益剰余金へ振り替えるのではなく、不足額140だけを会計期間末に減額します。

5.親会社個別と連結の処理

確認先 処理
S社の個別財務諸表 その他資本剰余金240/自己株式240
P社の個別財務諸表 P社の保有株式数、子会社株式の帳簿価額および現金に変動がないため、消却に伴う仕訳はない
P社の連結財務諸表 S社が計上した消却仕訳を連結修正で取り消す

企業会計基準適用指針第2号第20項は、連結子会社が保有する自己株式を消却しても、連結貸借対照表の資産、負債および純資産に変動は生じないとしています。同適用指針の設例3では、子会社の消却処理を取り消す次の連結修正が示されています。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
自己株式(子会社) 240 その他資本剰余金 240

これはS社の個別仕訳を取り消す連結修正であり、新たな持分変動を認識する仕訳ではありません。消却前後とも、P社持分相当額は760×75%=570、非支配株主持分は760×25%=190です。自己株式取得時に認識した持分変動を消却時に再計上すると、二重計上になります。

6.法人税と消費税

法人税

会計上のその他資本剰余金の減少は費用ではないため、本設例の240を消却損として損金算入する処理は行いません。

法人税法施行令8条・9条では、自己株式の取得について、取得の態様や交付対価などに応じて税務上の資本金等の額および利益積立金額を計算する仕組みが定められています。一方、取得済みの自己株式を会社法上消却することは、これらの条文に掲げる新たな増減事由ではありません。

したがって、本設例のように消却時に株主への金銭その他の資産の交付がない場合、消却だけを理由として新たな益金、損金またはみなし配当を認識しません。実際の申告では、自己株式の取得方法、取得対価、取得相手、みなし配当の有無ならびに取得時からの資本金等の額および利益積立金額の履歴を確認する必要があります。

消費税

今回の消却には対価の受領も他者への資産移転もないため、消却自体は消費税の課税対象外です。有価証券を第三者へ譲渡する非課税取引とは区別します。

国税庁「非課税と不課税の違い」によれば、不課税取引は課税売上割合の分母にも分子にも算入しません。したがって、消却した自己株式の帳簿価額240を課税売上割合へ算入しません。登記費用や専門家報酬などが生じた場合は、それぞれの取引について消費税区分を別途判定します。

7.確認問題

S社の発行済株式数は200株です。P社が120株、B社が40株を保有し、S社は40株を自己株式として保有しています。自己株式の帳簿価額は360、その他資本剰余金は300です。同一種類の自己株式の1株当たり帳簿価額を9として、S社が30株を消却した場合を計算してください。

答えと検算

消却する自己株式の帳簿価額は9×30株=270です。

項目 答え
発行済株式数 200株-30株=170株
自己株式数 40株-30株=10株
社外株式数 170株-10株=160株
P社の持分比率 消却前後とも120株÷160株=75%
消却仕訳 その他資本剰余金270/自己株式270
その他資本剰余金 300-270=30
自己株式 △360+270=△90

その他資本剰余金と自己株式の控除額が270ずつ減るため、純資産合計は変わりません。

8.5日間の復習例

  1. 取得・処分・消却について、発行済株式数と自己株式数の動きを表にする。
  2. 「発行済株式数-自己株式数」で社外株式数を求め、持分比率を再計算する。
  3. その他資本剰余金が足りる場合と不足する場合の仕訳を書く。
  4. S社個別、P社個別、連結の処理を並べ、持分変動を二重計上していないか確認する。
  5. 確認問題を見ずに解き、株式数、借貸、残高、税務の順で検算する。

まとめ

  • 自己株式の消却では、発行済株式数と自己株式数が同数だけ減る。
  • 社外株式数が変わらないため、本設例のP社持分は75%のままである。
  • S社個別では、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
  • その他資本剰余金が負となる場合は、会計期間末に不足額を繰越利益剰余金から減額する。
  • P社個別では消却に伴う仕訳はなく、連結ではS社の消却仕訳を取り消す。
  • 消却だけを理由とする新たな法人税上の益金・損金や消費税上の課税売上は生じない。

第208回 子会社の自己株式処分ゼロ入門:新株発行との違い・非支配株主持分・資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第207回では、子会社S社が非支配株主から自社株式を取得する場面を扱いました。今回は、S社がその自己株式を第三者へ処分します。

自己株式を処分しても、発行済株式数は増えません。ただし、議決権割合の分母に入る株式が増えるため、親会社の持分比率は下がります。

1.自己株式の取得・処分・新株発行を分ける

項目 自己株式の取得 自己株式の第三者処分 第三者への新株発行
発行済株式数 変わらない 変わらない 増加する
自己株式数 増加する 減少する 変わらない
議決権割合の分母 通常は減少する 通常は増加する 通常は増加する
子会社の現金 減少する 増加する 増加する
親会社の保有株式数 変わらない 変わらない 引き受けなければ変わらない

企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第17項・第19項は、連結子会社による非支配株主への自己株式の処分を、親会社による子会社株式の一部売却に準じ、さらに子会社による非支配株主への第三者割当増資に準じて処理するとしています。

2.持分比率は自己株式を分母から外して計算する

本設例の持分比率は、次の式で計算します。

親会社の持分比率=親会社の保有株式数÷(発行済株式数-自己株式数)

項目 処分前 処分後
発行済株式数 100株 100株
自己株式数 20株 0株
分母となる株式数 100-20=80株 100-0=100株
P社の持分比率 60÷80=75% 60÷100=60%
非支配株主の持分比率 20÷80=25% (20+20)÷100=40%

P社の保有株式数は60株のままです。比率が75%から60%へ下がる原因は、分子ではなく分母の増加です。

3.S社とP社の個別財務諸表

3-1.S社は処分差額をその他資本剰余金とする

自己株式の帳簿価額240を現金300で処分するため、処分差益は60です。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 300 自己株式 240
— — その他資本剰余金 60
合計 300 合計 300

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第9項・第10項は、自己株式処分差益をその他資本剰余金へ計上し、処分差損をその他資本剰余金から減額すると定めています。

60は売却益ではありません。株主との資本取引から生じた差額であり、当期純利益には入りません。

項目 増減
自己株式の控除額 240減少するため、純資産は240増加
その他資本剰余金 60増加
純資産 240+60=300増加
処分後純資産 760+300=1,060

3-2.P社の個別帳簿には仕訳がない

P社は株式を売却せず、現金も受け取りません。保有するS社株式も60株のままです。したがって、P社の個別帳簿には仕訳を行いません。

4.連結上の持分変動を計算する

処分後も支配が続くため、連結上は損益取引ではなく、親会社株主と非支配株主との資本取引として扱います。企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第29項・第30項は、支配継続中の一部売却や子会社の時価発行増資等による持分変動差額を資本剰余金としています。

項目 処分前 処分後 増減
S社の修正後純資産 760 760+300=1,060 +300
P社の持分比率 75% 60% △15ポイント
親会社に帰属する額 760×75%=570 1,060×60%=636 +66
非支配株主持分 760×25%=190 1,060×40%=424 +234

税効果考慮前の純資産の増加300=親会社に帰属する額の増加66+非支配株主持分の増加234

親会社の比率は下がりましたが、C社がS社へ払い込んだ現金の効果により、親会社に帰属する額は570から636へ増えます。本設例では、この持分変動差額66を税効果考慮前の連結上の資本剰余金として処理します。P社が現金66を受け取ったという意味ではありません。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第27項・第122項によれば、子会社の時価発行増資等に伴う親会社の持分変動差額は連結財務諸表固有の一時差異に該当します。その一時差異について繰延税金資産または繰延税金負債を計上する場合は、資本剰余金が相手勘定となります。したがって、税効果会計を適用した後の資本剰余金は、ここで示した66と異なる場合があります。

4-1.連結修正を二段階で確かめる

適用指針の考え方に沿って、取引を二段階に分けます。以下の「S社株式」は連結精算表上の便宜的な勘定であり、P社の個別帳簿へ記帳するものではありません。いずれも税効果会計を考慮する前の仕訳です。

第1段階:処分対価300を処分前の持分比率で配分する

借方 金額 貸方 金額
自己株式(子会社) 240 非支配株主持分 300×25%=75
資本剰余金 60 S社株式 300×75%=225
合計 300 合計 300

第2段階:親会社に対応する払込額と、非支配株主へ移る持分との差額を求める

非支配株主へ移る持分は、処分後純資産1,060の15%である159です。親会社に対応する払込額225との差額66が、税効果考慮前の資本剰余金になります。

借方 金額 貸方 金額
S社株式 225 非支配株主持分 1,060×15%=159
— — 資本剰余金 225-159=66
合計 225 合計 225

非支配株主持分の増加額は、第1段階の75と第2段階の159を合わせた234です。

S社の個別仕訳と連結修正を合わせた税効果考慮前の取引効果は、次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 300 非支配株主持分 234
— — 資本剰余金 66
合計 300 合計 300

この要約仕訳は、税効果考慮前の連結上の取引効果を示すものです。S社またはP社の法定帳簿へ、そのまま記帳する仕訳ではありません。また、連結全体の資本剰余金が期末に負の値となる場合は、連結会計基準第30-2項に基づく処理を別途検討します。

5.会社法では募集株式の手続を確認する

会社法第199条以下は、新株の発行と自己株式の処分を「募集株式の発行等」として定めています。募集株式の数、払込金額、払込期日または払込期間などを決定します。引受人が株主となる時期は、原則として同法第209条第1項によります。

自己株式を処分しても新株を発行したことにはならないため、本設例の発行済株式数は100株のままです。実際の決議機関や必要な手続は、公開会社かどうか、機関設計、定款、譲渡制限の有無、処分条件などにより異なります。

6.法人税・消費税は会計処理と分ける

確認項目 本設例の取扱い
S社の法人税所得 自己株式の処分は資本等取引であり、会計上の処分差益60を通常の売却益として益金に算入しない
S社の資本金等の額 処分対価300から、この取引による資本金の増加額0を控除した300が増加する
P社 株式の譲渡も金銭等の受取りもないため、この処分自体による譲渡損益やみなし配当は生じない
消費税 自己株式の処分は資産の譲渡等に該当せず、処分対価300は課税売上割合の分子・分母に算入しない

法人税法第22条第2項・第5項は、資本金等の額の増減を生ずる資本等取引を通常の収益取引と区別しています。さらに、法人税法施行令第8条第1項第1号は、原則として、株式の発行または自己株式の譲渡により払い込まれた金銭等から、その発行により増加した資本金の額を控除した金額を資本金等の額に加算すると定めています。

本設例は自己株式の処分だけであり、資本金は増加しません。このため、税務上の資本金等の額は300-0=300増加します。これに対し、会計上のその他資本剰余金の増加は300-240=60です。

国税庁の自己株式に関する質疑応答事例も、法人税法上、自己株式は発行法人の有価証券から除かれ、税務上の帳簿価額を持たないことを示しています。申告では、損益だけでなく、別表五(一)の資本金等の額の増減も確認します。

消費税については、消費税法基本通達5-2-9が、法人による自己株式の処分に伴う他の者への株式の引渡しは資産の譲渡等に該当しないと定めています。通常の保有株式の売却と同じ処理にはなりません。

著しく低い価額による処分、役員・従業員への報酬としての処分、現物出資、関連当事者間取引などでは、追加の検討が必要です。本設例は、第三者に対する時価相当額での現金処分に限定しています。

7.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 確認する答え
1日目 処分前後の分母とP社の持分比率を計算する 80株・75%から、100株・60%へ変わる
2日目 S社の個別仕訳を作り、借貸を合計する 借方300、貸方240+60=300
3日目 処分前後の非支配株主持分を計算する 190から424へ、234増加する
4日目 税効果考慮前の連結上の持分変動差額を二つの方法で求める 636-570=66、または225-159=66
5日目 個別会計、連結会計、法人税、消費税の処理を区別する 個別の処分差益は60、連結の持分変動差額は税効果考慮前で66、税務上の資本金等の額は300増加し、消費税では資産の譲渡等に該当しない

計算が止まったら、まず「発行済株式数-自己株式数」という分母を書きます。その後、個別仕訳、処分後純資産、持分比率、連結上の持分変動差額の順に確認します。

まとめ

自己株式の処分では、発行済株式数ではなく、議決権割合の分母に入る株式数が変化します。そのため、親会社が株式を手放さなくても持分比率は下がり得ます。個別会計、連結会計、法人税および消費税では計算の目的が異なるため、どの財務諸表と税目を確認しているかを先に区別することが重要です。本設例の連結上の資本剰余金66は税効果考慮前の金額であり、税効果会計を適用する場合は別途検討が必要です。

第207回 子会社の自己株式取得ゼロ入門:持分比率・非支配株主持分・資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第206回では、親会社が非支配株主から子会社株式を追加取得する場面を扱いました。今回は、子会社自身が非支配株主から自社株式を取得します。

親会社の保有株式数が変わらなくても、子会社の自己株式を分母から除くため、親会社の持分比率は上がります。親会社の個別財務諸表では仕訳がありません。連結財務諸表では、非支配株主からの追加取得に準じて処理します。

1.個別と連結を分ける

確認先 基本処理
S社の個別財務諸表 取得原価で自己株式を計上し、株主資本から控除する
P社の個別財務諸表 P社の株式数と現金は動かないため、仕訳はない
P社の連結財務諸表 非支配株主からの追加取得に準じ、非支配株主持分と資本剰余金を調整する

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第7項は、取得した自己株式を取得原価で株主資本から控除すると定めています。

企業会計基準適用指針第2号第17項・第18項は、連結子会社が非支配株主から自己株式を取得した場合、親会社による追加取得に準じて処理し、取得対価と非支配株主持分の減少額との差額を資本剰余金とするよう定めています。

2.自己株式を分母から除く

S社の発行済株式総数は、自己株式を消却するまでは100株のままです。ただし、連結上の持分比率は、発行済株式総数からS社の自己株式数を控除して計算します。

項目 取得前 取得後
発行済株式総数 100株 100株
S社の自己株式 0株 20株
持分比率の分母 100株 100株-20株=80株
P社の保有株式 60株 60株
P社の持分比率 60株÷100株=60% 60株÷80株=75%
非支配株主の持分比率 40株÷100株=40% B社20株÷80株=25%

P社の株式数は60株のままです。分母が100株から80株へ減ったため、持分比率は60%から75%へ上がります。比率の変動は、自己株式を取得した時点で認識します。

3.S社とP社の個別仕訳

S社の仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
自己株式 240 現金預金 240
合計 240 合計 240

自己株式は借方に記入しますが、資産ではありません。貸借対照表では、純資産の部の株主資本から控除して表示します。取得時に資本金や利益剰余金を直接減額することはなく、損失も計上しません。

この仕訳は取得対価総額を示したものです。みなし配当に対する源泉徴収が必要となる場合の預り金と納付は、別に処理します。

P社の仕訳

仕訳はありません。P社はS社株式を取得しておらず、対価も支払っていないためです。P社の個別貸借対照表に計上されたS社株式の帳簿価額も、この取引だけでは変わりません。

4.連結上の非支配株主持分を計算する

取得前後の非支配株主持分を比べます。

順序 計算 金額
1.取得前の非支配株主持分 1,000×40% 400
2.取得後のS社純資産 1,000-240 760
3.取得後の非支配株主持分 760×25% 190
4.非支配株主持分の減少額 400-190 210
5.取得対価との差額 240-210 30

取得対価240が非支配株主持分の減少額210を30上回ります。この30を、連結上の資本剰余金から減額します。支配が継続しているため、のれんや当期損失にはしません。

連結修正仕訳

S社の個別仕訳を取り込んだ後、次の連結修正を行います。

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 210 自己株式(S社) 240
資本剰余金 30 ― ―
合計 240 合計 240

S社の個別仕訳と合わせると、連結上では「現金240の減少」に対し、「非支配株主持分210」と「資本剰余金30」が減少します。

帰属先 取得前 取得後 増減
親会社株主に帰属する部分 1,000×60%=600 760×75%=570 △30
非支配株主持分 400 190 △210
合計 1,000 760 △240

親会社株主に帰属する部分の減少30は、資本剰余金の減少額と一致します。非支配株主持分の減少210と合わせると、現金の減少240とも一致します。

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とするよう定めています。第30-2項により、一連の処理で連結上の資本剰余金が負の値となる場合は、連結会計年度末に資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。本例ではこの処理は生じません。

5.取得・処分・消却を分ける

S社の行為 持分比率への影響 連結上の基本処理
非支配株主から取得 P社の比率が上がる 親会社による追加取得に準じる
非支配株主へ処分 P社の比率が下がることがある 非支配株主への第三者割当増資に準じる
取得済み自己株式を消却 比率は変わらない 連結貸借対照表の資産・負債・純資産に変動は生じない

本例で20株を消却すると、発行済株式総数は80株、自己株式は0株になります。持分比率の分母は、消却前も消却後も80株です。P社の持分比率は75%のままです。

6.会社法上の手続も確認する

会社法第156条、第160条、第461条などにより、取得する株式数、交付する金銭等の総額、取得期間、特定の株主から取得する場合の手続、分配可能額を確認します。

S社がA社だけを取得先とする本例では、特定の株主から取得する場合の決議や他の株主への通知等が検討対象になります。適用される例外や機関決定は会社の状況によって異なります。会計仕訳が正しくても、会社法上の手続を満たしたことにはなりません。

7.法人税ではみなし配当を分ける

税務上、取得対価の全額が株式の譲渡対価になるとは限りません。市場取引による取得などの除外事由に該当しない自己株式取得では、交付を受ける金銭等が、その株式に対応する資本金等の額を超えると、超過額がみなし配当になります。

法人税法第24条・第61条の2と、法人税法施行令の計算規定を前提に、税務上の数値を追加します。

項目 計算 金額
取得株式に対応する資本金等の額 500÷100株×20株 100
交付を受ける金銭等の額 ― 240
みなし配当 240-100 140
税務上の株式譲渡対価 240-140 100
譲渡株式の税務簿価 ― 120
税務上の譲渡損 100-120 △20

240は、みなし配当140と譲渡対価100に分かれます。譲渡損益は240ではなく、みなし配当を控除した譲渡対価100から計算します。

S社側では、税務上の資本金等の額を100、利益積立金額を140減額します。合計240は取得対価と一致しますが、240を損金に算入する処理ではありません。

A社における受取配当等の益金不算入額や、S社における源泉徴収の要否・税率・納付手続は、株式区分、保有関係、支払時期などを確認して別に判定します。この設例だけで納付税額までは決まりません。

消費税では課税対象外になる

消費税法基本通達5-2-9は、証券市場での買入れを除き、法人が自己株式を取得する場合の株主から法人への株式の引渡しを「資産の譲渡等」に該当しないものとしています。

したがって、本例の相対取引は、通常の有価証券譲渡に当たる非課税取引ではなく、消費税の課税対象外です。取得対価240は、課税売上割合の分子にも分母にも算入しません。専門家報酬などの付随取引は、その内容に応じて別に判定します。

8.解答するときの順序

  1. 誰が自己株式を取得し、対価を支払ったかを確認する。
  2. 発行済株式総数から自己株式数を控除して持分比率を計算する。
  3. 子会社と親会社の個別仕訳を分ける。
  4. 取得前後の非支配株主持分を計算する。
  5. 取得対価との差額を資本剰余金で処理する。
  6. 法人税のみなし配当と譲渡対価を分ける。
  7. 消費税の課税対象外取引を、通常の有価証券譲渡と区別する。
誤った処理 正しい考え方
P社の比率を60株÷100株のままにする 自己株式20株を分母から除き、60株÷80株とする
P社でS社株式を追加計上する 取得者はS社なので、P社の個別仕訳はない
S社が支払う240を損失にする 自己株式として株主資本から控除する
連結差額30をのれんにする 支配継続中の資本取引なので、資本剰余金を減額する
消費税上、通常の有価証券譲渡として対価の5%を課税売上割合の分母に入れる 本例の自己株式取得は資産の譲渡等に該当せず、分子にも分母にも入れない

9.5日で定着させる

日 取り組む内容 確認点
1日目 100株、自己株式20株、P社60株から持分比率を計算する 分母を80株にできるか
2日目 S社とP社の個別仕訳を書く S社だけに仕訳があるか
3日目 取得前後の非支配株主持分を計算する 400から190への減少210を求められるか
4日目 連結修正仕訳を作り、借貸を合計する 借方210+30と貸方240が一致するか
5日目 240をみなし配当140と譲渡対価100に分ける 会計、法人税、消費税を混同していないか

まとめ

  • 子会社が自己株式を取得すると、親会社の株式数が同じでも持分比率が上がる。
  • S社の個別仕訳は「自己株式240/現金預金240」で、P社の個別仕訳はない。
  • 連結上は非支配株主持分を210、資本剰余金を30減額する。
  • 支配継続中の資本取引なので、新たなのれんや当期損失は計上しない。
  • 法人税ではみなし配当と譲渡対価を分け、本例の自己株式取得は消費税の課税対象外として扱う。

第206回 子会社株式の追加取得ゼロ入門:非支配株主持分・資本剰余金・取得関連費用を仕訳で整理(5日練習付き)

第205回では、子会社が第三者へ新株を発行し、親会社の持分比率が下がる場面を扱いました。今回は、親会社が非支配株主から既存の子会社株式を買い取り、持分比率を高める場面です。

現金を受け取るのは子会社ではなく、株式を売った非支配株主です。親会社の個別財務諸表では子会社株式が増えます。一方、支配が続く連結財務諸表では新たなのれんを計上せず、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金で処理します。

1.第三者割当増資との違いは「現金の行き先」

項目 子会社の第三者割当増資 親会社による追加取得
動く株式 子会社が新株を発行する 非支配株主が既存株式を売る
現金の受取人 子会社 非支配株主
発行済株式数 増加する 変わらない
親会社の個別処理 引き受けなければ原則として仕訳なし 子会社株式を取得原価で計上する
子会社の個別処理 現金と払込資本が増加する 株主間の売買なので原則として仕訳なし
支配継続時の連結処理 親会社持分の変動差額を資本剰余金とする 追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とする

どちらも連結上は非支配株主との資本取引です。ただし、追加取得では、追加取得日現在の非支配株主持分から、買い取った株式に対応する額を求めます。

2.最初に「支配が続くか」を判定する

取得前 取得後 会計処理の中心
支配していない 支配を獲得する 取得原価の配分とのれんを検討する
支配している 引き続き支配する 非支配株主持分と資本剰余金を処理する
支配している 100%保有になる 追加取得として処理し、非支配株主持分をゼロにする

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減額し、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とするよう定めています。

支配獲得時に計上した既存ののれんは従来どおり処理します。今回の追加取得を理由に、新たなのれんや負ののれん発生益は計上しません。

3.設例:75%から90%へ追加取得する

S社の発行済株式数 100株
P社の保有株式 75株、持分比率75%
非支配株主の保有株式 25株、持分比率25%
連結上の非支配株主持分 2,500
P社がA社から取得する株式 15株
株式の売買価額 2,100
取得後のP社持分比率 90%

3-1.減額する非支配株主持分

P社は、非支配株主が保有する25株のうち15株を取得します。非支配株主持分全体の60%です。

2,500×15株÷25株=1,500

減額する非支配株主持分は1,500です。取得後の残高は次のようになります。

2,500-1,500=1,000

実務では、S社の個別純資産だけから計算せず、追加取得日現在の連結精算表にある非支配株主持分を確認します。支配獲得後の利益、配当、評価差額、その他の包括利益累計額などが反映されていることがあるためです。

3-2.資本剰余金の減少額

追加取得持分1,500に対して、P社が支払う株式代金は2,100です。

追加取得持分1,500-追加投資額2,100=△600

追加投資額の方が600大きいため、連結上の資本剰余金を600減額します。

4.個別仕訳と連結修正仕訳

4-1.P社の個別財務諸表

借方科目 金額 貸方科目 金額
子会社株式 2,100 現金預金 2,100

4-2.S社の個別財務諸表

S社は株式を発行せず、現金も受け取りません。P社とA社との株主間取引なので、S社の個別帳簿では原則として仕訳を行いません。

4-3.連結修正仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 2,100
資本剰余金 600 ― ―
合計 2,100 合計 2,100

これは連結精算表上の修正であり、P社やS社の個別帳簿へ記帳する仕訳ではありません。借方・貸方はいずれも2,100です。追加取得による損益や新たなのれんは生じません。

5.残高で検算する

項目 P社個別 連結
現金預金 2,100減少 外部株主への支払いなので2,100減少
子会社株式 2,100増加 相殺消去されるため残らない
非支配株主持分 影響なし 1,500減少し、1,000になる
資本剰余金 影響なし 600減少
当期純利益 影響なし 取得関連費用がなければ影響なし

連結上は現金が2,100減り、純資産も「非支配株主持分1,500+資本剰余金600=2,100」減ります。資産と純資産の減少額が一致します。

6.取得価額が低い場合と資本剰余金が不足する場合

6-1.追加投資額が追加取得持分より少ない場合

同じ15株を1,200で取得したと仮定します。

追加取得持分1,500-追加投資額1,200=300

この場合は、非支配株主持分1,500を借方、子会社株式1,200と資本剰余金300を貸方に記入します。資本剰余金は300増加し、差額を利益にはしません。

6-2.資本剰余金全体が負の値になる場合

設例の追加取得直前に、連結上の資本剰余金残高が400だったとします。今回の600の減額により、資本剰余金全体が200の負の値になります。

連結会計基準第30-2項により、連結会計年度末には資本剰余金をゼロとし、その負の値を利益剰余金から減額します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
利益剰余金 200 資本剰余金 200

振替後の資本剰余金はゼロです。純資産合計は変わりません。

7.取得関連費用60がある場合

株式代金2,100とは別に、株式の購入へ直接要した付随費用60を支払ったと仮定します。この60は、会計上の付随費用であり、税務上も株式の購入に要した費用に該当するものとします。消費税等は設例から除外します。

移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第46-2項では、支配獲得後の追加取得についても、個別財務諸表では付随費用を取得価額に含め、連結財務諸表では取得関連費用を発生した連結会計年度の費用とします。

7-1.P社の個別仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
子会社株式 2,160 現金預金 2,160

7-2.連結修正仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 2,160
資本剰余金 600 ― ―
取得関連費用 60 ― ―
合計 2,160 合計 2,160

資本剰余金の減額600は、追加取得持分1,500と株式代金2,100の差額です。付随費用60はこの計算に混ぜず、連結上で費用に振り替えます。

7-3.税効果は差異の内訳まで確認する

税務上の子会社株式簿価は、株式代金2,100と取得価額算入対象の費用60を合わせた2,160です。今回の追加取得だけを見ると、次の二つが子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異となります。

内訳 金額
追加投資額2,100と追加取得持分1,500との差額 600
個別の取得原価に残り、連結で費用処理した付随費用 60
合計 660

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第22項では、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、原則として繰延税金資産を計上しません。予測可能な将来の売却等による解消可能性と回収可能性など、所定の要件を満たす場合に計上します。

本設例では将来の売却等に関する意思決定または実施計画がないため、この660について繰延税金資産を計上しません。要件を満たす別の事例では、適用税率と回収可能性を確認し、同適用指針第27項に従って相手勘定も判定します。

8.法人税と消費税

8-1.P社の法人税

国税庁「法人税法(基礎編)」の有価証券に関する解説では、購入した有価証券の取得価額を、購入代価に購入手数料その他の購入に要した費用を加えた金額としています。

本設例では2,160が税務上の取得価額です。株式代金と取得価額算入対象の費用を、取得時の損金にはしません。ただし、通信費や名義書換料など、取得価額に含めないことが認められる支出もあるため、実際の内容に基づく判定が必要です。

8-2.売手A社の法人税

A社の売却株式に係る税務上の譲渡原価が1,300で、譲渡費用や課税繰延べの特例がないと仮定します。

通常得べき対価2,100-譲渡原価1,300=譲渡利益800

法人税法第61条の2により、通常の有価証券譲渡では譲渡利益または譲渡損失を所得計算へ反映します。また、法人税基本通達2-1-22により、相対取引の譲渡損益は原則として約定が成立した日に計上します。

A社は連結グループ外であるため、A社の譲渡利益800はP社の連結損益には入りません。

8-3.消費税

  • 国内で行う株式などの有価証券の譲渡は非課税取引です。株式代金2,100に消費税を上乗せする取引ではありません。
  • A社が課税売上割合を計算する場合、対象となる有価証券の譲渡対価については、その5%相当額を分母の総売上高へ算入します。
  • P社の株式代金は取得額であり、P社の課税売上割合の分母へ売上として入れるものではありません。
  • 仲介や助言に対する手数料は株式代金と分け、課税仕入れへの該当性と仕入税額控除上の区分を確認します。

根拠は、国税庁のNo.6201「非課税となる取引」およびNo.6405「課税売上割合の計算方法」です。

著しく低い価額による売買、完全支配関係のある法人間取引、発行法人による自己株式の取得、組織再編、非居住者・外国法人との取引、個人株主からの取得では、別の検討が必要です。

9.連結キャッシュ・フローと注記

項目 設例の表示
株式代金2,100 連結範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出として、財務活動によるキャッシュ・フロー
関連費用60 営業活動によるキャッシュ・フロー
資本剰余金600の減少 連結株主資本等変動計算書で、非支配株主との取引に係る親会社の持分変動として表示

移管指針第6号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」第9-2項は、支配が継続する追加取得に係る支出を財務活動に、関連費用の支出を営業活動に区分しています。

取引に重要性がある場合は、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第52項により、追加取得した子会社株式の取得原価と対価の内訳、資本剰余金の主な変動要因と金額などを確認します。

10.間違えやすい点

誤りやすい処理 確認方法
持分比率が増えれば、すべて追加取得とする 取得前から支配していたかを先に確認する
支払額だけから非支配株主持分を減らす 追加取得日現在の非支配株主持分から取得株式対応額を計算する
支払額が大きい差額をのれんにする 支配継続中の差額は資本剰余金とする
S社でも現金受領や資本増加を仕訳する 既存株式の株主間売買ならS社は原則として仕訳なし
個別と連結で付随費用を同じ処理にする 個別では取得価額、連結では取得関連費用として処理する
税効果を付随費用だけで判定する 追加取得による持分変動差額を含め、子会社投資全体の一時差異を確認する
追加取得代金を連結CFの投資活動にする 連結範囲が変わらない追加取得は財務活動に区分する

11.5日で定着させる練習

「支配判定→非支配株主持分→対価→仕訳」の順で進めます。

  1. 1日目:取引を分類する

    持分比率が30%から60%、75%から90%、75%から100%へ増える三つのケースを分類してください。

    解答

    他に支配判定へ影響する事情がなければ、30%から60%は支配獲得です。75%から90%と75%から100%は追加取得です。

  2. 2日目:非支配株主持分を計算する

    P社80%、非支配株主20%、非支配株主持分1,800とします。P社が全100株のうち5株を取得した場合の減少額を求めてください。

    解答

    1,800×5÷20=450です。取得後の非支配株主持分は1,350、P社持分比率は85%です。

  3. 3日目:連結仕訳を作る

    2日目の5株を550で取得した場合の仕訳を作ってください。

    解答

    借方は非支配株主持分450と資本剰余金100、貸方は子会社株式550です。借貸はいずれも550です。

  4. 4日目:低い取得価額と付随費用を分ける

    株式代金が400なら資本剰余金はどうなりますか。また、購入へ直接要した付随費用20は個別・連結・法人税でどう扱いますか。

    解答

    追加取得持分450-株式代金400=50なので、連結上の資本剰余金は50増加します。設例の前提では、付随費用20は個別財務諸表と法人税上の取得価額に含め、連結では取得関連費用として費用処理します。

  5. 5日目:期末残高とキャッシュ・フローを確認する

    3日目の取引前の資本剰余金が70だった場合の期末処理を示してください。株式代金550と関連費用20の連結CF区分も答えてください。

    解答

    資本剰余金は100減るため30の負の値になります。期末に利益剰余金30を借方、資本剰余金30を貸方として、資本剰余金をゼロにします。株式代金550は財務活動、関連費用20は営業活動です。

12.まとめ

  • 追加取得は、親会社がすでに支配しており、取得後も支配が続く取引です。
  • 減額する非支配株主持分は、追加取得日現在の残高から取得株式対応額を求めます。
  • 追加取得持分と追加投資額との差額は資本剰余金であり、新たなのれんや損益ではありません。
  • 個別では子会社株式を計上し、連結では追加投資額を消去します。子会社自身には原則として仕訳がありません。
  • 付随費用は個別・連結・法人税で処理が異なります。
  • 税効果は付随費用だけでなく、追加取得による親会社持分の変動差額も含めて確認します。

迷ったときは、「誰が現金を受け取ったか」と「支配が続いているか」を先に書き出してください。その後に非支配株主持分を動かすと、仕訳を組み立てやすくなります。

第205回 子会社の第三者割当増資ゼロ入門:持分比率の希薄化・非支配株主持分・資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第204回では、親会社が子会社株式を一部売却する場面を扱いました。今回は、親会社は株式を売らず、子会社が外部投資家へ新株を発行します。

現金を受け取るのは親会社ではなく子会社です。親会社の個別財務諸表では仕訳がなくても、連結財務諸表では非支配株主持分と資本剰余金が動くことがあります。

1.一部売却との違い

項目 親会社による一部売却 子会社による第三者割当増資
株式を動かす会社 親会社が保有株式を売る 子会社が新株を発行する
現金を受け取る会社 親会社 子会社
発行済株式数 変わらない 増加する
親会社の個別財務諸表 投資を減額し、売却損益を計上する 引受けも売却もしなければ仕訳なし
子会社の個別財務諸表 原則として仕訳なし 現金と払込資本が増加する
支配継続時の連結処理 持分変動差額を資本剰余金とする 持分変動差額を資本剰余金とする

持分比率が下がっただけでは、売却とはいえません。誰が株式を発行し、誰が現金を受け取ったかを先に確認します。

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第30項は、支配関係が続く場合、子会社の時価発行増資等に伴う親会社の払込額と親会社持分の増減額との差額を資本剰余金としています。移管指針第4号第47項では、従来の持分比率でいったん新株を引き受け、その後に追加取得または一部売却をしたものとみなして考えます。

2.設例:親会社が新株を引き受けない場合

S社の発行済株式数 100株
P社の保有株式数 80株
P社の持分比率 80%
S社の修正後純資産 9,000
P社個別貸借対照表上のS社株式の会計簿価 7,200
P社が保有するS社株式の税務簿価 設例では提示しない
外部投資家への発行株式数 20株
1株当たり払込金額 150
払込総額 3,000
P社の引受株式数・払込額 0株・0

払込金額150は、必要な株価算定を経た価額であると仮定します。増資前の1株当たり純資産額90を上回るという理由だけで、時価と判断するものではありません。

増資後の持分比率

80株÷(100株+20株)=66と3分の2%

株主 増資前 増資後 増資後の比率
P社 80株 80株 66と3分の2%
非支配株主 20株 40株 33と3分の1%
合計 100株 120株 100%

P社は議決権の過半数を維持しているため、本設例では支配が続きます。

3.子会社と親会社の個別仕訳

会社法第199条・第445条により、募集株式の払込金額などを定め、株式発行時の払込財産を資本金とするのが基本です。ただし、払込額の2分の1を超えない額は資本金に計上せず、資本準備金にできます。

本設例では、払込額の半分ずつを資本金と資本準備金にします。

S社の個別仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 3,000 資本金 1,500
資本準備金 1,500
合計 3,000 合計 3,000
科目 増資前 増加 増資後
資本金 5,000 1,500 6,500
資本準備金 1,000 1,500 2,500
利益剰余金 3,000 0 3,000
合計 9,000 3,000 12,000

P社の個別仕訳

仕訳はありません。P社は保有株式を売却せず、新株も引き受けていないためです。P社の個別貸借対照表にあるS社株式の会計簿価は7,200のままです。

4.連結上の持分変動

増資前後の修正後純資産を、それぞれの時点の持分比率で配分します。

項目 増資前 増資後 増減
S社の修正後純資産 9,000 12,000 +3,000
親会社持分 9,000×80%=7,200 12,000×80株÷120株=8,000 +800
非支配株主持分 9,000×20%=1,800 12,000×40株÷120株=4,000 +2,200

持分比率は80%から66と3分の2%へ下がりました。一方、親会社持分の金額は7,200から8,000へ増えています。新株の払込金額が増資前の1株当たり純資産額を上回るためです。

この800は、P社の個別財務諸表にあるS社株式を評価替えする金額ではありません。連結上の持分配分から生じた差額です。

親会社持分の増加800-P社の払込額0=資本剰余金800

非支配株主持分の増加=4,000-1,800=2,200

増資分に関する連結修正仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金(S社増資分) 1,500 非支配株主持分 2,200
資本準備金(S社増資分) 1,500 資本剰余金 800
合計 3,000 合計 3,000

これは連結精算表上の修正です。P社やS社の個別帳簿には記帳しません。

外部から増えた現金 3,000
資本剰余金の増加 800
非支配株主持分の増加 2,200
検算 800+2,200=3,000
増資後の純資産配分 親会社持分8,000+非支配株主持分4,000=12,000

支配が続いているため、800は連結損益ではなく、のれんも計上しません。連結会計基準第28項から第30項までの処理の結果、期末の資本剰余金が負の値となる場合は、同基準第30-2項により資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。

5.親会社の引受割合による違い

新株20株のうち、P社が16株を引き受ければ従来の80%を維持できます。

P社の引受け 増資後の持分比率 連結上の見方
16株 (80株+16株)÷120株=80% 従来の比率どおりの引受け
16株未満 80%より低下 不足分を一部売却に準じて考える
16株超 80%より上昇 超過分を追加取得に準じて考える

増資でも、親会社が多く引き受ければ持分比率は上がります。

6.支配が続くかを先に判定する

資本剰余金として処理できるのは、増資後も親会社と子会社の支配関係が続く場合です。

増資後の関係 処理の入口
支配が続く 連結を続け、持分変動差額を資本剰余金とする
支配を失い、重要な影響力が残る 連結範囲から外し、持分法の適用を判定する
支配も重要な影響力も失う 連結範囲から外し、金融商品会計による処理を検討する

議決権の過半数は重要な目安ですが、会計上の支配は比率だけで決まりません。連結会計基準第7項では、40%以上50%以下の場合でも、同一内容の議決権を行使する者、役員構成、重要な方針を支配する契約などを含めて判定します。

7.法人税上の処理

法人税法第22条は、資本金等の額の増減を生ずる取引を資本等取引として、通常の損益取引と区別しています。資本金等の額と有価証券の取得価額については、法人税法施行令第8条・第119条を確認します。

当事者 基本的な整理
発行法人S社 払込額3,000は資本等取引による受入れであり、通常の収益として益金に算入するものではない。資本金等の額は合計3,000増加する
既存株主P社 株式を取得も譲渡もしていないため、増資時の株式譲渡損益は生じない。本設例の前提では、既存のS社株式の税務簿価総額は増資直前の税務簿価から変わらない。ただし、増資直前の税務簿価は提示していないため、会計簿価と同じ7,200であるとは断定できない
新株を引き受ける法人 有利発行に該当しない本設例では、払込額に取得のため直接要した費用を加えた金額が取得価額となる

連結上の資本剰余金800を、P社の法人税申告でそのまま益金800とするわけではありません。連結修正と各法人の所得計算を分けます。

有利発行は本設例の外

払込金額が株式の取得に通常要する価額に比べて有利な場合は、法人税法施行令第119条による取得価額や経済的利益の検討が必要です。会社法上の「特に有利な金額」と税務上の有利発行は、根拠規定と目的が異なります。非上場株式では、帳簿上の1株当たり純資産額だけで結論を出さず、発行条件、株価算定の前提、当事者間の関係を確認します。

8.税効果会計

税効果会計では、P社個別貸借対照表上のS社株式の会計簿価7,200と、その税務簿価を混同しないことが重要です。本設例では増資直前の税務簿価と、増資前から存在する投資に係る一時差異の有無を示していません。そのため、増資後の投資に係る一時差異の総額を800と断定することはできません。

項目 本設例で確認できる金額
P社個別貸借対照表上の会計簿価 7,200
P社が保有するS社株式の税務簿価 提示なし
増資後の連結上の親会社持分 8,000
増資後の税務簿価との差額 8,000-増資直前の税務簿価。税務簿価が未提示のため金額は確定できない

仮に、増資直前の税務簿価も7,200であり、増資前から存在する投資に係る一時差異がないという追加前提を置く場合に限り、増資後の8,000との差額800を、本件増資に伴う連結財務諸表固有の将来加算一時差異として整理できます。この条件を置かない場合は、実際の税務簿価と既存の一時差異を確認して計算します。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第23項・第27項によれば、親会社が投資の売却等を自ら決めることができ、予測可能な将来に売却等を行う意思がないなどの要件を満たす場合は、繰延税金負債を計上しません。要件を満たさず、時価発行増資等に伴う親会社の持分変動差額に係る繰延税金負債を計上する場合、その相手勘定は資本剰余金です。

本設例では、税務簿価、既存の一時差異、売却方針および適用税率の前提を置いていないため、一時差異の総額と税効果額は計算しません。

9.よくある誤り

誤り 正しい確認
P社が現金3,000を受け取る 現金を受け取るのは新株を発行したS社
P社の個別帳簿で売却益を計上する P社は株式を売却していない
非支配株主持分を3,000増やす 本設例では4,000-1,800=2,200増やす
差額800を連結利益にする 支配継続中の持分変動差額は資本剰余金
P社個別のS社株式を8,000にする 8,000は連結上の親会社持分。個別の会計簿価は7,200のまま
会計簿価7,200をそのまま税務簿価とする 税務簿価は税務上の取得価額やその後の調整を確認する。本設例では金額を提示していない
1株当たり純資産額を税務上の時価と決める 発行条件や株価算定の前提を別に確認する

10.5日で定着させる練習

日 練習内容 確認点
1日目 一部売却との違いを説明する 現金を受け取る会社を区別できるか
2日目 増資前後の株式数と持分比率を計算する 分母に新株数を加えたか
3日目 親会社持分と非支配株主持分を計算する 増資前後の純資産を使い分けたか
4日目 S社個別、P社個別、連結修正の仕訳を書く 個別と連結を混ぜていないか
5日目 確認問題を解く 借貸と純資産残高を検算できるか

確認問題

S社の修正後純資産は6,000、発行済株式は100株です。P社は70株を保有しています。S社が外部投資家へ25株を2,500で時価発行し、P社は引き受けません。増資後も支配は続くものとします。

  1. 増資後のP社持分比率
  2. 親会社持分の増減額
  3. 非支配株主持分の増減額
  4. 連結上の資本剰余金
解答と検算

P社持分比率は70株÷125株=56%です。

増資前の親会社持分 6,000×70%=4,200
増資後の純資産 6,000+2,500=8,500
増資後の親会社持分 8,500×56%=4,760
親会社持分の増加 4,760-4,200=560
増資前の非支配株主持分 6,000-4,200=1,800
増資後の非支配株主持分 8,500-4,760=3,740
非支配株主持分の増加 3,740-1,800=1,940
資本剰余金 親会社持分増加560-P社払込額0=560
最終検算 560+1,940=2,500

連結修正仕訳は、借方のS社払込資本2,500に対し、貸方が非支配株主持分1,940と資本剰余金560です。

まとめ

  • 現金は新株を発行した子会社に入る
  • 親会社が引受けも売却もしなければ、親会社の個別財務諸表では仕訳をしない
  • 支配が続く場合、連結上の持分変動差額は資本剰余金とする
  • 持分比率が下がっても、親会社持分の金額が増えることがある
  • 非支配株主持分は増資前後の残高差で検算する
  • 会計簿価と税務簿価を区別し、税務簿価が未確認なら一時差異の金額を断定しない
  • 連結会計、法人税、有利発行、税効果会計を分けて考える

「株数、支配、個別仕訳、持分配分、資本剰余金」の順に確認すると、売却との混同を防げます。税効果会計まで検討するときは、これに税務簿価と既存の一時差異の確認を加えます。

第204回 子会社株式の一部売却ゼロ入門:支配継続・支配喪失と資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第203回では、株式交付によって会社を子会社にする場面を確認しました。今回は、その子会社株式の一部を売却します。

最初に見るのは売却益ではありません。売却後も支配が続くかどうかです。

個別財務諸表では株式の売却損益を計上します。一方、連結財務諸表では、支配が続く一部売却を非支配株主との資本取引として扱います。

1.売却後の関係を判定する

売却後の関係 個別財務諸表 連結財務諸表
支配が続く 売却した株式の簿価を減らし、売却損益を計上する 売却持分を非支配株主持分へ振り替え、売却価額との差額を資本剰余金とする
支配を失うが重要な影響力が残る 売却損益を計上し、残存株式を関連会社株式として保有する S社を連結から外し、残存投資に持分法を適用する。個別上の売却損益には連結上の修正が入ることがある
支配も重要な影響力も失う 売却損益を計上し、残存株式を金融商品会計に従って扱う S社を連結から外す。残存投資は連結除外時に個別貸借対照表上の帳簿価額で評価する

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第29項は、支配が続く一部売却について、売却持分と売却価額との差額を資本剰余金とするよう定めています。支配を失う場合を含む具体的な計算は、移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第41項以下で確認できます。

以下の「80%から60%なら支配継続」「80%から30%なら関連会社」という区分は、各設例の前提です。実務では議決権割合のほか、役員構成、契約、意思決定機関への影響なども確認します。

2.個別では、売却した株式の簿価を外す

企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第17項では、子会社株式と関連会社株式を個別財務諸表上、取得原価で評価します。減損が必要な場合は別途処理します。

同一種類の株式を比例的に売却する単純な設例では、次の順に計算できます。

売却株式の簿価=売却前の株式簿価×売却した持分比率÷売却前の持分比率

個別上の売却損益=売却価額-売却株式の簿価

複数回取得した株式がある場合は、会計上の帳簿価額の算定方法と税務上の一単位当たりの帳簿価額を、それぞれ確認します。

設例1:80%から60%へ売却する

P社の売却前持分 80%
P社個別上のS社株式簿価 800
売却する持分 S社全体の20%
売却価額 260
売却後持分 60%。支配は継続する
売却時のS社連結上純資産 1,000

S社全体の20%を売ることは、P社が保有する80%のうち4分の1を売ることです。

  • 売却株式の個別簿価:800×20%÷80%=200
  • 個別上の売却益:260-200=60
  • 売却後のS社株式残高:800-200=600
借方 金額 貸方 金額
現金預金 260 S社株式 200
― ― 関係会社株式売却益 60
合計 260 合計 260

借方と貸方は260で一致します。仕訳後のS社株式残高は600です。

3.支配が続けば、連結上の差額は資本剰余金

売却後もP社はS社を支配しています。連結上は事業を手放したとは考えず、親会社株主と非支配株主との間の資本取引として処理します。

  • 売却持分:S社連結上純資産1,000×20%=200
  • 非支配株主持分:売却前200から売却後400へ増加
  • 親会社持分変動差額:売却価額260-売却持分200=60

開始時の投資と資本の相殺消去を引き継いだ連結精算表では、法人税等相当額を考慮する前の修正を次のように表せます。

借方 金額 貸方 金額
S社株式 200 非支配株主持分 200
関係会社株式売却益 60 資本剰余金 60
合計 260 合計 260

第1行は、個別で減額した株式簿価200を非支配株主持分へ振り替える修正です。第2行で個別上の売却益60を消去し、法人税等相当額控除前の資本剰余金へ振り替えます。この仕訳は連結精算表上の修正であり、P社の個別帳簿へ追加記帳するものではありません。

項目 増減
受取現金 +260
非支配株主持分 +200
資本剰余金(法人税等相当額控除前) +60

現金の増加260=非支配株主持分の増加200+資本剰余金の増加60となります。

支配が続く一部売却では、支配獲得時に計上したのれんの未償却額を売却割合に応じて減額しません。売却手数料等は売却時の費用です。

実際の連結決算では、親会社持分変動差額に関連する法人税等相当額を資本剰余金から控除します。原則的な計算は、持分変動差額に法定実効税率を乗じる方法です。本設例では税率を置いていないため、資本剰余金60は法人税等相当額控除前の金額です。会計処理の結果、連結会計年度末の資本剰余金が負の値となる場合は、資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。

4.支配を失えば、連結上も売却損益を認識する

設例2:80%から30%へ売却する

設例1とは別の取引です。

売却前持分と個別簿価 80%、800
S社の連結上の資産・負債 資産1,400、負債400、純資産1,000
売却する持分と価額 S社全体の50%を650で売却
売却後持分 30%。支配を失うが重要な影響力は残る
その他の前提 非支配株主持分200。のれん、取得後の投資修正額、その他の包括利益累計額はない

個別財務諸表の計算は次のとおりです。

  • 売却株式の簿価:800×50%÷80%=500
  • 売却益:650-500=150
  • 残存する関連会社株式:800-500=300
借方 金額 貸方 金額
現金預金 650 S社株式 500
― ― 関係会社株式売却益 150
合計 650 合計 650

連結では、支配喪失日までのS社損益を取り込んだうえで、S社の資産・負債と非支配株主持分を連結から外します。残存する30%は持分法による投資へ切り替えます。

本設例には取得後の投資修正額がないため、残存投資は個別簿価と同じ300です。連結上の売却益も次のように150となります。

受取現金650+残存投資300-売却前の親会社持分800=売却益150

借方側の増減 金額 貸方側の増減 金額
現金の増加 650 S社資産の連結除外 1,400
残存投資の計上 300 連結上の売却益 150
S社負債の連結除外 400 ― ―
非支配株主持分の取崩し 200 ― ―
合計 1,550 合計 1,550

これは支配喪失前後の増減をまとめた検算表です。P社の個別仕訳へそのまま追加する連結修正仕訳ではありません。

実際には、支配獲得後の利益剰余金、評価差額、その他の包括利益累計額、のれん償却累計額などがあるため、個別上と連結上の売却損益が一致しないことがあります。関連会社になる場合は、残存株式の個別簿価へ売却後持分に対応する投資の修正額を加減し、持分法による投資評価額へ直します。残存持分に対応する未償却のれんも、持分比率の推移などを踏まえて算定します。

支配も重要な影響力も失う場合、連結除外時の残存投資は個別貸借対照表上の帳簿価額で評価します。日本基準では、支配喪失時に残存持分を一律に時価へ再測定するわけではありません。

5.法人税と消費税は連結処理から分ける

論点 取扱い 設例1
法人税上の譲渡原価 一単位当たりの帳簿価額に譲渡株式数を乗じて計算する 800×20%÷80%=200
法人税上の譲渡利益 通常得べき対価の額から譲渡原価を控除する 260-200=60
計上事業年度 原則として譲渡契約日の属する事業年度 契約日と引渡日が同日の前提
消費税 株式の譲渡は非課税取引 売却価額に消費税を上乗せしない
課税売上割合 株式など特定の有価証券等の譲渡対価は、原則として対価の5%相当額を分母へ算入する 260×5%=13

法人税法61条の2第1項では、有価証券の譲渡利益額または譲渡損失額を、通常得べき対価の額と譲渡原価との差額として計算します。譲渡原価は、一単位当たりの帳簿価額に譲渡した株式数を乗じた金額です。計上時期は、法人税基本通達2-1-22により、原則として譲渡契約の成立日です。

したがって、設例1の差額60を連結上の資本剰余金とすることと、P社の法人税上の譲渡利益60を認識することは別の処理です。税務簿価が会計上の簿価と異なる場合や、通常得べき対価と異なる価額で譲渡する場合は、税務上の金額も変わる可能性があります。

消費税について、国税庁のタックスアンサーNo.6209は、有価証券の譲渡を非課税取引として示しています。また、タックスアンサーNo.6405では、課税売上割合の分母へ加える特定の有価証券等の譲渡対価を、その対価の5%相当額としています。5%は消費税率ではありません。いずれも2026年4月1日現在の法令等に基づく国税庁資料です。

6.間違えやすい五つの点

誤り 直し方
持分比率だけで支配喪失を決める 議決権、契約、役員構成なども含めて判定する
80%から20%分を売ると、保有株式の20%を売ったことになる S社全体の20%は、保有する80%の25%に当たる
支配継続時も個別上の売却益を連結損益に残す 売却価額と売却持分との差額を資本剰余金とする
支配継続時にのれんを売却割合だけ減らす 支配獲得時の未償却のれんは減額しない
株式の売却価額へ消費税を上乗せする 株式の譲渡は非課税。ただし課税売上割合の分母計算は別に確認する

7.5日で定着させる練習

日 練習 確認点
1日目 80%から60%、30%、10%へ売却する例を分類する 設例の前提に従い、支配継続、持分法、両方の対象外に分ける
2日目 設例1の個別仕訳を作る 売却簿価200、売却益60、残高600
3日目 設例1の連結処理を計算する 売却持分200、非支配株主持分の増加200、資本剰余金は法人税等相当額控除前60
4日目 設例2の支配喪失を検算する 残存投資300、売却益150、増減合計1,550
5日目 設例1の法人税と消費税を分けて説明する 法人税上の譲渡利益60、課税売上割合の分母算入額13
5日練習の答えを確認する
  1. 設例の前提では、80%から60%は支配継続、30%は支配喪失後に持分法、10%は連結と持分法の対象外です。
  2. 個別仕訳は、借方・現金預金260、貸方・S社株式200、関係会社株式売却益60です。
  3. 連結では非支配株主持分が200増え、売却価額260との差額60を法人税等相当額控除前の資本剰余金とします。
  4. 設例2は、650+300+400+200=1,550、1,400+150=1,550で一致します。
  5. 法人税上の譲渡利益は60です。株式譲渡は消費税の非課税取引ですが、課税売上割合の分母には260の5%である13を算入します。

まとめ

子会社株式を一部売却するときは、売却後の支配関係から判定します。

支配が続けば、個別上の売却損益を連結上は資本剰余金へ振り替えます。支配を失えばS社の資産・負債を連結から外し、残存投資を持分法または金融商品会計へ切り替えます。

連結上の処理、法人税上の譲渡損益、消費税上の非課税判定は別々に確認します。この順序を守れば、一部売却の処理を整理できます。

第203回 株式交付ゼロ入門:子会社化・個別と連結・親会社株式80%要件を整理(5日練習付き)

第202回では、発行済株式の全部を取得する株式交換・株式移転を確認しました。今回は、全部を取得せずに他社を子会社にできる「株式交付」を扱います。

会社法上の議決権割合、会計上の支配、税務上の親会社株式80%要件は、別々の判定です。まず、ここを分けます。

1.三つの判定を分ける

判定 確認するもの 意味
会社法 株式交付後の議決権保有割合 議決権の過半数を取得し、新たに子会社とすることが株式交付の前提
会計 財務・営業・事業方針の決定を支配しているか 企業結合の分類、取得企業、取得日を決める
税務 各株主が受け取る対価に占める株式交付親会社株式の価額 80%以上かどうかが株主側の課税繰延べの要件になる

会社法の「50%超」は議決権の割合です。税務の「80%以上」は受取対価の構成割合です。S社株式の60%を取得しても、税務上の対価割合が60%になるわけではありません。

2.株式交付とは何か

会社法2条32号の2、774条の2以下による株式交付は、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、その会社の株式を譲り受け、譲渡人に自社株式を交付する制度です。

会社法施行規則4条の2は、株式交付で用いる子会社判定を同規則3条3項1号の議決権過半数基準に限っています。役員構成や契約などによる実質的な支配だけでは、会社法上の株式交付を利用できません。

項目 株式交付 株式交換 株式移転
親会社 既存の株式会社 既存の株式会社または合同会社 新設する株式会社
取得する株式 子会社化に必要な株式。全部でなくてもよい 発行済株式の全部 発行済株式の全部
対象会社 国内の株式会社 完全子会社となる株式会社 完全子会社となる一社または複数の株式会社
既存子会社の追加取得 新たに「子会社とする」取引ではないため対象外 完全子会社化する場合は利用を検討できる 新設親会社の下に完全子会社として置く

株式交付計画には、譲り受ける株式数の下限、交付する親会社株式の数または算定方法、資本金・準備金に関する事項、申込期日、効力発生日などを定めます。取得下限は、効力発生日に対象会社が子会社となる数でなければなりません。

3.親会社の個別仕訳

ここからは、P社とS社に従前の支配関係がなく、株式交付によりP社が会計上もS社の支配を獲得し、P社が取得企業となる場合を考えます。

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」23項と企業会計基準適用指針第10号38項では、取得企業の株式を対価とする場合、取得の対価を原則として企業結合日における交付株式の時価で算定します。

設例:P社がS社の議決権60%を取得する

項目 前提
取得前 P社はS社株式を保有していない
S社株式 議決権のある株式は100株
取得株式 60株。取得後の議決権割合は60%
交付するP社株式 新株3,000株
P社株式の時価 1株2
取得対価 3,000株×2=6,000
増加する株主資本 資本金3,000、資本準備金3,000

会社計算規則39条の2に基づく株主資本等変動額を6,000とし、株式交付計画の定めに従って資本金と資本準備金へ半分ずつ振り分ける前提です。

借方 金額 貸方 金額
子会社株式 6,000 資本金 3,000
資本準備金 3,000
合計 6,000 合計 6,000

P社の子会社株式と株主資本が、それぞれ6,000増えます。この設例では取得日に現金は減りません。

S社自身には、既存のS社株式が株主からP社へ移ったことだけを理由とする仕訳はありません。S社株主の会計・税務は、S社自身の帳簿と分けて考えます。

4.連結ではのれんを計算する

S社の取得日時点の帳簿価額と時価が等しく、識別可能な資産・負債が次のとおりだったとします。

項目 金額
識別可能資産 15,000
負債 6,000
時価純資産 9,000
資本金 4,000
資本剰余金 1,000
利益剰余金 4,000

P社持分相当額:9,000×60%=5,400

のれん:取得対価6,000-5,400=600

非支配株主持分:9,000×40%=3,600

借方 金額 貸方 金額
資本金(S社) 4,000 子会社株式(P社) 6,000
資本剰余金(S社) 1,000 非支配株主持分 3,600
利益剰余金(S社) 4,000
のれん 600
合計 9,600 合計 9,600

消去するのは、S社の取得日時点の資本とP社の子会社株式です。P社が株式交付で増加させた自社の資本金・資本準備金は消去しません。のれん600は連結上の金額であり、P社の個別帳簿には計上しません。

日本基準では、のれんを原則として20年以内の効果が及ぶ期間にわたり規則的に償却します。実務では、識別可能な無形資産、時価評価差額、税効果などを検討してから金額を確定します。

5.税務の80%要件は取得割合ではない

株式交付の税務特例は、適格合併や適格分割とは別の制度です。個人株主については租税特別措置法37条の13の4、法人株主については同法66条の2に規定されています。

国税庁「No.1545 株式等を対価とする株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例」は、個人株主について、受取対価に占める株式交付親会社株式の価額が80%以上である場合、親会社株式に対応する部分の譲渡がなかったものとみなす取扱いを示しています。

この割合は、株式交付子会社の株主ごとに判定します。法令上の要件を満たす場合に適用される規定であり、株主が課税と繰延べを自由に選ぶ制度ではありません。

確認事項 内容
法的形式 会社法上の株式交付による譲渡か
対価割合 受取対価に占める株式交付親会社株式の価額が80%以上か
親会社の属性 株式交付直後の親会社が、対象外となる一定の同族会社に該当しないか
繰延べの範囲 親会社株式だけなら原則として全部、混合対価なら親会社株式に対応する部分
取得価額 旧株式の取得価額のうち、親会社株式に対応する部分を引き継ぐ

2023年10月1日以後に行われる株式交付では、株式交付直後の親会社が一定の同族会社に該当すると特例の対象外です。ただし、いわゆる非同族の同族会社は一律に除外されません。名称だけで決めず、株主構成を確認します。範囲は国税庁の措置法66条の2関係通達の趣旨説明で確認できます。

税務設例1:親会社株式だけを受け取る

S社株主Aが、取得価額2,400のS社株式を譲渡し、時価6,000のP社株式だけを受け取ります。P社は対象外となる一定の同族会社に該当せず、株式の交付を受けるための費用はないものとします。

項目 計算
通常の譲渡益相当額 6,000-2,400=3,600
親会社株式の対価割合 6,000÷6,000=100%
株式交付時の譲渡損益 特例により0
取得したP社株式の取得価額 2,400
繰り延べられる含み益 6,000-2,400=3,600

利益3,600が消えるわけではありません。Aが将来P社株式を譲渡するときは、引き継いだ取得価額2,400を基礎に譲渡損益を計算します。

税務設例2:親会社株式80%、現金20%を受け取る

Aが時価4,800のP社株式と現金1,200を受け取る場合を考えます。対価総額は6,000です。

株式交付割合:4,800÷(4,800+1,200)=80%

除外されるのは80%に満たない場合です。ちょうど80%なら割合要件を満たします。ただし、他の要件は別に確認します。

項目 計算 金額
課税部分の収入金額 6,000×20% 1,200
課税部分へ配分する取得価額 2,400×20% 480
今回認識する譲渡益 1,200-480 720
取得したP社株式の取得価額 2,400×80% 1,920
P社株式へ繰り延べる含み益 4,800-1,920 2,880
検算 認識する利益720+繰延べる利益2,880 3,600

この計算方法は国税庁の措置法37条の13の4関係通達に沿ったものです。親会社株式の割合が80%未満なら、この特例は全体に適用されず、通常の譲渡損益計算に戻ります。

割合計算に使う親会社株式の価額は、原則として株式交付日の価額です。ただし、80%要件の判定については、課税上の弊害がない限り、株式交付計画の算定基準日の株価を基礎に合理的に算定した価額を使える取扱いがあります。評価日と根拠を残しておきます。

6.間違えやすい点

誤りやすい理解 正しい整理
S社株式を80%取得しなければ特例を使えない 80%は取得割合ではなく、各株主の受取対価に占める親会社株式の価額割合
議決権50%で株式交付を利用できる 単純な過半数基準では50%を超える必要がある
のれん600をP社の個別帳簿にも計上する 個別帳簿は子会社株式6,000。のれん600は連結上で認識する
S社も資本金を増やす 既存のS社株式が移るだけなら、S社自身にその移転仕訳はない
課税繰延べは非課税である 親会社株式に旧株式の取得価額を引き継ぎ、将来の譲渡時に利益が表れる
会社法上の株式交付なら必ず課税が繰り延べられる 80%要件、一定の同族会社からの除外、株主属性などを別に確認する

7.5日で定着させる

日 練習 答え
1日目 株式交付、株式交換、株式移転を「既存・新設」「全部・一部」で分ける 株式交付は既存の株式会社による一部取得が可能。株式交換・株式移転は全部取得
2日目 議決権100個の会社を子会社にする場合、50個と51個のどちらが必要か考える 単純な過半数基準では51個以上
3日目 取得対価6,000、資本金3,000、資本準備金3,000の個別仕訳を書く 借方・子会社株式6,000、貸方・資本金3,000、資本準備金3,000
4日目 時価純資産9,000、持分60%、対価6,000から、のれんと非支配株主持分を求める のれん600、非支配株主持分3,600
5日目 取得価額2,400、親会社株式4,800、現金1,200から税務計算をする 割合80%、今回の譲渡益720、親会社株式の取得価額1,920

8.まとめ

  • 株式交付は、既存の株式会社が自社株式を対価として、他の国内株式会社を新たに子会社とする制度です。
  • 株式交換と異なり、対象会社の発行済株式全部を取得する必要はありません。
  • 親会社の個別財務諸表では子会社株式を計上します。
  • 連結では投資と資本を相殺し、のれんと非支配株主持分を計算します。
  • 会社法上の議決権50%超と、税務上の親会社株式80%以上は別の判定です。
  • 税務特例は非課税ではなく、親会社株式に対応する利益を将来へ繰り延べる仕組みです。

問題文に「株式交付」とあったら、会社法上の子会社化、会計上の支配獲得、株主税務の対価割合の順に分けます。この順番で十分です。

第202回 株式交換・株式移転ゼロ入門:完全親子会社化の個別・連結と税務を整理(5日練習付き)

第201回では、独立企業が共同で会社を支配する「共同支配企業の形成」を確認しました。今回は、会社を消滅させずに完全親子会社関係をつくる株式交換と株式移転を扱います。

株式交換・株式移転は会社法上の形式です。会計では、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等のどれに当たるかを別に判定します。単独株式移転は、企業結合に該当しない取引です。

1.株式交換と株式移転の違い

会社法2条31号・32号、767条から774条を基に整理すると、違いは「既存会社を親会社にするか、新会社を設立するか」です。

形式 完全親会社 取得する株式 特徴
株式交換 既存の株式会社または合同会社 完全子会社となる株式会社の発行済株式の全部 株式交換契約を締結する。本稿の設例では株式会社を親会社とする
株式移転 株式移転により新設する株式会社 一社または複数社の発行済株式の全部 株式移転計画を作成し、新設会社の下に既存会社を置く
株式交付 既存の株式会社 他社を子会社とするために必要な株式 全株式の取得を要しない。本稿の対象外

株式交換や株式移転では、完全子会社となる会社は消滅しません。その会社の事業用資産・負債も、個別帳簿に残ります。親会社が取得するのは、原則として完全子会社の株式です。

2.六つの順序で判定する

順序 確認事項
1 株式交換か株式移転か
2 取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等、企業結合に該当しない取引のどれか
3 会計上の取得企業はどの会社か
4 各社の個別財務諸表で何を計上するか
5 連結財務諸表で何を消去・調整するか
6 株主の課税関係と法人税上の適格性を、それぞれ判定する

法的な親会社が、そのまま会計上の取得企業になるとは限りません。議決権比率、株主構成、経営陣などを総合して判定します。

3.取得となる株式交換

A社を株式交換完全親会社、B社を株式交換完全子会社とし、会計上もA社が取得企業となる例です。

項目 金額
A社が交付する自社株式の時価総額 1,200
A社で増加させる払込資本 資本金600、資本剰余金600
B社の資本金 500
B社の利益剰余金 300
B社の帳簿上の株主資本 800
B社の土地の時価評価差額 200
B社の識別可能純資産の時価 1,000

土地の評価差額に関する税効果は、計算の流れを明確にするため除外しています。税効果を考慮する設例では、評価差額200をそのまま純資産の増加額とはしません。

A社の個別財務諸表

企業会計基準適用指針第10号の第110項・第111項によれば、取得となる株式交換では、完全親会社は取得対価を基礎として子会社株式を計上し、新株の発行額を払込資本とします。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
子会社株式 1,200 資本金 600
- - 資本剰余金 600
合計 1,200 合計 1,200

A社の個別財務諸表で取得する資産はB社株式です。B社の土地や負債を直接計上しません。子会社株式とB社の純資産との差額を、A社の個別財務諸表でのれんにすることもありません。

実際に取得に直接要した付随費用がある場合、個別財務諸表では子会社株式の取得原価に含める一方、連結財務諸表では取得関連費用として発生時に費用処理する点にも注意が必要です。本設例では付随費用をゼロとしています。

B社の個別財務諸表

B社では株主がA社へ変わりますが、B社自身の資産・負債は移転しません。この株主変更だけを理由とする仕訳はなく、土地も時価へ書き換えません。

新株予約権の処理やB社自身が負担した費用などがあれば、別途検討します。

A社の連結財務諸表

連結では、A社の投資と取得日におけるB社の資本を相殺します。適用指針第116項に従い、消去差額をのれんまたは負ののれんとして処理します。

項目 計算 金額
取得対価 A社が交付した株式の時価 1,200
B社の帳簿上の株主資本 500+300 800
土地の時価評価差額 - 200
識別可能純資産の時価 800+200 1,000
のれん 1,200-1,000 200
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
B社資本金 500 子会社株式 1,200
B社利益剰余金 300 - -
土地 200 - -
のれん 200 - -
合計 1,200 合計 1,200

借方と貸方は1,200で一致します。B社は100%子会社となるため、この設例に非支配株主持分はありません。

4.単独株式移転で持株会社を設立する場合

C社が単独株式移転により、新しい完全親会社H社を設立する例です。C社の資本金は400、利益剰余金は500、適正な帳簿価額による株主資本は900とします。

適用指針第258項・第259項では、単独株式移転について、第239項・第240項のうち旧親会社に関する処理に準じるとしています。設例では、会社法に基づいてH社の資本金を300、資本剰余金を600とすることが決定済みと仮定します。

H社の個別財務諸表

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
子会社株式 900 資本金 300
- - 資本剰余金 600
合計 900 合計 900

子会社株式900は、C社の株式移転日前日の適正な帳簿価額による株主資本を基礎にしています。C社では、株主がH社へ変わったことだけを理由とする仕訳はありません。

H社の連結財務諸表

まず、H社の子会社株式とC社の株主資本を相殺します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
C社資本金 400 子会社株式 900
C社利益剰余金 500 - -
合計 900 合計 900

このままでは、H社個別の資本金300と資本剰余金600だけが残ります。株式移転前のC社の利益剰余金500を連結上で引き継ぐため、株主資本項目を調整します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本剰余金 500 利益剰余金 500
合計 500 合計 500

調整後の連結株主資本は、資本金300、資本剰余金100、利益剰余金500、合計900です。子会社株式900とC社の株主資本900の消去差額はゼロであり、単に新しい親会社を上に置くこの設例では、新たなのれんは生じません。

5.複数社の株式移転は分類が先

形態 判断の中心 処理の方向
一社だけの単独株式移転 企業結合には該当しない 旧会社の適正な帳簿価額による株主資本を基礎とする
独立した複数社の株式移転で、一社が取得企業となる どの既存会社が会計上の取得企業か 取得企業となる会社の株式は帳簿価額を基礎とし、被取得企業となる会社には取得の会計処理を適用する
共同支配企業の形成となる株式移転 共同支配契約などの判定要件を満たすか 共同支配企業の形成として処理する
既存の親子会社が共同で行う株式移転 最終的な支配が継続しているか 共通支配下の取引等として帳簿価額を基礎に処理する

新設された会社が法的な親会社だからといって、会計上の取得企業になるとは限りません。株式移転完全子会社となった既存会社が、会計上の取得企業になることがあります。

6.税務は株主と法人を分ける

居住者である個人株主

国税庁のNo.1526「株式交換により株式を譲渡した場合の譲渡所得等の特例」とNo.1527「株式移転により株式を譲渡した場合の譲渡所得等の特例」は、いずれも令和8年4月1日現在の法令等を基準としています。

株式交換では、一定の場合に、株式交換完全親法人または同親法人との間に所定の完全支配関係がある法人の株式だけを受け取ると、旧株式の譲渡がなかったものとみなされます。株式移転では、株式移転完全親法人の株式だけを受け取ることが要件です。法令上除外される金銭等は別に扱います。

この特例を受けた新株式の取得価額は、原則として旧株式の取得価額を引き継ぎ、取得に要した費用があれば加算します。一株未満の端数に対応する金銭には、その端数株式の譲渡として課税関係が生じます。法人株主や非居住者には別の規定があります。

完全子法人の法人税

法人税法2条は、適格株式交換等と適格株式移転を定義しています。この適格判定は、個人株主について旧株式の譲渡がなかったものとする所得税の判定とは別です。

確認事項 注意点
交付する対価 所定の親法人株式以外の資産が交付されていないか。法令上除外される金銭等は区別する
再編前の資本関係 完全支配関係、支配関係、いずれもない場合で要件が異なる
再編後の関係 完全支配関係や支配関係の継続見込みを確認する
事業・従業者等 資本関係の区分に応じ、主要事業や従業者の継続、事業関連性などを確認する
株主による継続保有 資本関係や株主数などにより要件となる場合がある
無対価・参加会社数 無対価取引や単独株式移転には個別の要件がある

表の項目がすべての取引に一律に必要になるわけではありません。再編前の資本関係などに応じて、適用する要件を選びます。株式だけを対価としたという理由だけで、適格とは決められません。

また、「非適格なら必ず全資産を時価評価する」とも限りません。法人税法62条の9の対象となる非適格株式交換等では、完全子法人が直前に有する時価評価資産の評価益または評価損を所得計算へ反映しますが、同条の適用対象から除かれる取引や、法人税法施行令123条の11により時価評価資産から除かれる資産があります。国税庁の法人税基本通達12の2-3-1も併せて確認します。

法人税上の時価評価が必要でも、それだけを理由に完全子会社の会計帳簿を時価へ書き換えるわけではありません。会計上の帳簿価額と税務上の金額に差が生じた場合は、申告調整と税効果会計を別に検討します。

7.よくある誤り

誤り 正しい整理
株式交換でB社の土地をA社個別に計上する A社個別が取得するのはB社株式。土地の時価評価は、取得となる場合の連結手続で行う
A社個別で子会社株式との差額をのれんにする 株式取得によるのれんは、連結上の投資と資本の相殺消去で計算する
B社の資産・負債をすべて時価へ書き換える 株主が変わっただけなら、B社個別では従来の帳簿価額を引き継ぐ
新設H社を必ず会計上の取得企業とする 法的な親会社と会計上の取得企業を分けて判定する。単独株式移転は企業結合に該当しない
株式対価だけなら税務上も適格と考える 資本関係、支配の継続、事業・従業者等の該当要件も確認する
個人株主の課税関係と法人税上の適格判定を同一視する 株主、完全子法人、完全親法人の課税関係を分けて確認する

8.5日で定着させる

日 練習内容 到達点
1日目 株式交換、株式移転、株式交付の違いを書く 既存親会社と新設親会社を区別できる
2日目 A社、B社、旧B社株主の間で何が移るかを書く B社の資産ではなくB社株式が移ると説明できる
3日目 A社個別の仕訳を再現する 子会社株式1,200と払込資本1,200を一致させられる
4日目 連結修正仕訳とのれんを再計算する 1,200-(800+200)=200を説明できる
5日目 会計上の分類、個人株主の課税関係、法人税上の適格を別々に説明する 三つの判定を混同しない

9.まとめ

  • 株式交換では既存会社、株式移転では新設株式会社が完全親会社となる。
  • 会社法上の形式と、会計上の取得・共同支配・共通支配等の分類は別に判定する。
  • 完全親会社の個別財務諸表では子会社株式を計上する。完全子会社では、株主の変更だけを理由とする仕訳は行わない。
  • 取得となる株式交換では、連結上、投資と取得日資本を相殺し、差額をのれん等として処理する。
  • 単独株式移転では旧会社の帳簿価額が継続し、連結上は株主資本項目を調整する。
  • 個人株主の課税関係と法人税上の適格判定は別である。株式対価だけで結論を出さない。

問題では、法的形式→会計上の分類→取得企業→個別仕訳→連結修正→税務判定の順に進めます。一つずつ分ければ、組織再編の問題も整理できます。