第198回では、事業を取得する側から、取得原価の配分とのれんを確認しました。今回は反対側です。事業を手放す分離元企業の会計処理を整理します。
最初に判断するのは、移転した事業への投資が清算されたか、分離先企業の株式を通じて継続しているかです。ただし、共同支配企業の形成に該当する場合は別区分として扱います。
1.事業分離とは何か
企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」は、事業分離を、企業を構成する事業を他の企業へ移転することと定めています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 事業 | 企業活動を行うために組織化され、有機的一体として機能する経営資源 |
| 分離元企業 | 事業を移転する企業 |
| 分離先企業 | 事業を受け入れる企業 |
| 事業分離日 | 事業が移転される日。会社分割では通常は分割期日、事業譲渡では譲渡期日 |
機械や土地を一つ売っただけでは、必ずしも事業分離になりません。人員、設備、契約などの経営資源が、一体として事業を構成しているかを確認します。
2.処理を決める順序
| 順序 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 移転対象が事業に当たるか |
| 2 | 受取対価が現金等か、分離先企業の株式か |
| 3 | 共同支配企業の形成に該当するか。該当しない場合は、分離後の分離先企業が子会社、関連会社、またはそれら以外のいずれになるか |
| 4 | 個別財務諸表と連結財務諸表のどちらを処理しているか |
| 5 | 会社分割では、法人税法上の適格要件を満たすか |
会計上の投資の清算・継続、共同支配企業の形成、法人税法上の適格・非適格は、それぞれ区別して判定します。
3.受取対価ごとの基本処理
| 受取対価 | 分離後の関係 | 基本処理 |
|---|---|---|
| 現金等のみ | 子会社・関連会社以外 | 原則として投資の清算。受取対価の時価と株主資本相当額との差額を移転損益とする |
| 現金等のみ | 子会社 | 個別財務諸表では共通支配下の取引として処理し、差額は原則として移転損益とする。連結上は未実現損益の消去に準じて処理する |
| 現金等のみ | 関連会社 | 個別財務諸表では原則として移転損益を認識する。連結上は持分法の未実現損益の消去に準じて処理する |
| 分離先企業の株式のみ | 子会社または関連会社となる | 投資の継続。個別財務諸表では移転損益を認識せず、受取株式の取得原価を株主資本相当額に基づいて算定する |
| 分離先企業の株式のみ | 共同支配企業の形成 | 別区分として扱う。共同支配投資企業の個別財務諸表では、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて共同支配企業株式の取得原価を算定し、連結財務諸表では共同支配企業への投資に持分法を適用する |
| 分離先企業の株式のみ | 子会社・関連会社以外で、共同支配企業の形成にも該当しない | 原則として投資の清算。移転事業または分離先企業株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定できる時価に基づいて株式を計上し、移転損益を認識する |
| 現金等と株式 | 各区分 | 分離後の関係に応じた規定を適用する。現金と株式へ単純に割合配分する処理ではない |
共同支配企業の形成は、企業会計基準第7号第23項が「子会社や関連会社以外」となる場合の原則から明示的に除外しています。株式だけを受け取り、子会社にも関連会社にもならないという理由だけで、投資の清算と判断してはいけません。分類と処理は、企業会計基準適用指針第10号第97項、第196項および第197項で確認します。
現金を受け取っても、買戻条件がある場合や、長期購入契約を通じて移転事業のほとんどすべてのコストを負担する場合など、重要な継続的関与が残るときは移転損益を認識できないことがあります。詳細は企業会計基準適用指針第10号第96項を確認します。
4.株主資本相当額を計算する
移転損益と受取株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額を基礎にします。
株主資本相当額=移転資産の適正な帳簿価額-移転負債の適正な帳簿価額-移転事業に係る評価・換算差額等-新株予約権
事業分離日の前日における適正な帳簿価額を、移転事業へ合理的に区分します。
| 項目 | 区分 | 金額 |
|---|---|---|
| 棚卸資産 | 資産 | 3,000 |
| 機械装置 | 資産 | 7,000 |
| 買掛金 | 負債 | 2,000 |
移転資産10,000から移転負債2,000を差し引くと、株主資本相当額は8,000です。
5.設例1:現金11,000で外部企業へ事業譲渡する
A社は、共通設例の事業を資本関係のないB社へ移転し、現金11,000を受け取ります。重要な継続的関与はないものとします。
移転利益=現金11,000-株主資本相当額8,000=3,000
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 11,000 | 棚卸資産 | 3,000 |
| 買掛金 | 2,000 | 機械装置 | 7,000 |
| 事業譲渡益 | 3,000 | ||
| 合計 | 13,000 | 合計 | 13,000 |
買掛金はA社の負債から外れるため、借方に記入します。仕訳後、移転した棚卸資産、機械装置、買掛金の残高はゼロです。借方合計と貸方合計はいずれも13,000で一致します。
6.設例2:株式だけを受け取り、B社が子会社となる
A社は同じ事業をB社へ移転し、対価としてB社株式だけを受け取ります。A社は事業分離前にB社株式を保有しておらず、分離後にB社がA社の子会社となるものとします。
A社はB社株式を通じて事業投資を続けています。個別財務諸表では移転利益を認識せず、子会社株式を株主資本相当額8,000で計上します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 8,000 | 棚卸資産 | 3,000 |
| 買掛金 | 2,000 | 機械装置 | 7,000 |
| 合計 | 10,000 | 合計 | 10,000 |
移転事業の純額8,000が子会社株式8,000に置き換わりました。この取引だけではA社の純資産は増減しません。仕訳後、移転した棚卸資産、機械装置、買掛金の残高はゼロで、子会社株式の残高は8,000です。
関連会社株式だけを受け取る場合も、個別財務諸表では同じ考え方です。B社が子会社にも関連会社にもならない場合は、共同支配企業の形成に該当するかを先に確認します。共同支配企業の形成でなければ、原則として投資の清算となり、より高い信頼性をもって測定できる時価に基づいて株式と移転損益を計上します。
7.個別と連結を混ぜない
| 状況 | 連結上の確認 |
|---|---|
| 子会社へ事業を移転し、個別上で移転損益を認識した | 企業集団内部の損益として、未実現損益の消去に準じて処理する |
| 関連会社へ移転して個別上で移転損益を認識した | 持分法における未実現損益の消去に準じて処理する |
| 株式対価により分離先企業が新たに子会社となった | 分離先企業の従来の事業には取得の会計処理を適用する。移転事業に関する差額は、個別仕訳とは別に連結上の処理を行う |
| 会社分割が共同支配企業の形成に該当した | 共同支配投資企業は共同支配企業への投資に持分法を適用する |
個別財務諸表で利益を計上したからといって、その全額が連結損益に残るとは限りません。第196回の連結会計、第197回の持分法、第198回の企業結合会計とつながる部分です。
8.法人税では適格・非適格を判定する
適格分社型分割は、分社型分割のうち法人税法上の適格分割に該当するものです。事業譲渡に適格・非適格の判定をそのまま当てはめるものではありません。
| 税務上の区分 | 分割法人の基本的な取扱い |
|---|---|
| 適格分社型分割 | 移転資産・負債を分割直前の税務上の帳簿価額で譲渡したものとして所得を計算し、譲渡損益の計上を繰り延べる |
| 非適格分割 | 移転資産・負債を分割時の価額で譲渡したものとして、譲渡利益または譲渡損失を所得計算へ反映する |
根拠は、e-Gov法令検索「法人税法」第2条、第62条および第62条の3です。
適格要件は、分割法人と分割承継法人の資本関係などによって異なります。株式以外の資産が交付されないという共通要件だけでなく、資本関係に応じて主要な資産・負債、従業者、事業継続、株式の継続保有などの要件を確認します。100%グループ内であることや、株式だけを受け取ることだけで適格と断定してはいけません。
要件の構造は、国税庁「いわゆる三角分割(分社型分割)に係る適格要件について」および国税庁「法人税基本通達 第4節 組織再編成」で確認できます。
設例2の会計上の移転利益はゼロですが、それだけでは税務上の譲渡損益もゼロとは判断できません。分社型分割に該当するか、適格要件を満たすか、移転資産・負債の税務上の帳簿価額はいくらかを別に確認します。非適格分割では資産調整勘定や負債調整勘定が関係することもあるため、事業全体の時価だけで申告調整額を決めることはできません。
9.見落としやすい点
| 誤りやすい考え方 | 確認すること |
|---|---|
| 会社全体の純資産を使う | 移転事業に属する資産・負債を合理的に区分する |
| 株式の時価が高ければ必ず利益を計上する | 子会社・関連会社となるか、共同支配企業の形成に該当するかを先に判定する |
| 子会社・関連会社にならなければ必ず投資の清算と考える | 共同支配企業の形成は、子会社・関連会社以外となる場合の原則から除外される |
| 現金対価なら無条件で利益を計上する | 重要な継続的関与が残っていないかを確認する |
| 個別上の利益を連結でも残す | 子会社・関連会社への移転では消去の要否を確認する |
| 会計上の利益がゼロなら課税もないと考える | 適格要件と税務上の帳簿価額を別に確認する |
| 事業分離に要した支出をすべて受取株式へ加算する | 事業分離に要した支出は発生時の事業年度の費用とする。ただし、交付された株式等の取得原価には、金融商品会計実務指針に従って株式等の取得に係る付随費用を加算する |
最後の取扱いは企業会計基準適用指針第10号第91項に基づきます。事業分離に要した支出と、交付された株式等の取得に係る付随費用を区別する必要があります。
10.5日間の練習
| 日 | 練習内容 | 確認する答え |
|---|---|---|
| 1日目 | 分離元企業、分離先企業、事業分離日を説明する | 誰が事業を移転し、誰が受け入れるかを区別できる |
| 2日目 | 共通設例の株主資本相当額を計算する | 3,000+7,000-2,000=8,000 |
| 3日目 | 現金11,000の場合と現金7,000の場合の仕訳を作る | 前者は利益3,000、後者は損失1,000。借貸はいずれも一致する |
| 4日目 | 株式だけを受け取り、子会社となる場合を仕訳する | 子会社株式8,000を計上し、移転損益は認識しない |
| 5日目 | 会計判定と税務判定を別々の欄に分ける | 投資の清算・継続、共同支配企業の形成、適格・非適格を区別して確認する |
まとめ
- 事業分離では、移転事業の株主資本相当額を先に計算する。
- 現金等の対価は原則として投資の清算となり、移転損益を認識する。
- 子会社・関連会社となる分離先企業の株式だけを受け取る場合は、原則として投資が継続する。
- 共同支配企業の形成は別区分であり、子会社・関連会社以外という理由だけで投資の清算としてはいけない。
- 個別財務諸表で認識した損益が、連結または持分法上で消去されることがある。
- 法人税法上の適格・非適格は、会計処理とは別に判定する。
問題を解くときは、「受取対価」「分離後の関係」「共同支配企業の形成の該当性」「税務上の適格判定」を分けて書きます。一度に結論を出さないことが大切です。
