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第223回 役員変更登記の司法書士報酬をゼロから整理:報酬4万円・登録免許税1万円・源泉徴収3,063円の仕訳

役員変更登記を個人の司法書士へ依頼した場合の請求額と支払額を、仕訳まで整理します。

請求・精算額54,000円と、司法書士へ振り込む50,937円は一致しません。差額3,063円は値引きではなく、会社が源泉徴収し、後日国へ納める所得税および復興特別所得税です。

1.請求書を三つに分ける

最初に「報酬」「報酬に対する消費税等」「会社が負担する登録免許税」を分けます。

項目 金額 税抜経理の科目 源泉徴収の計算対象
司法書士報酬 40,000円 支払手数料 対象
消費税等 4,000円 仮払消費税等 明確に区分されているため、本設例では対象から除外
登録免許税の立替額 10,000円 租税公課 会社が本来納付すべき実費であることが明らかなため対象外
合計 54,000円 三つの科目へ区分 計算対象額は40,000円

国税庁「No.2801 司法書士等に支払う報酬・料金」は、会社が本来納付すべき登録免許税等に充てることが明らかな金額について、源泉徴収は不要としています。

役員に関する事項の変更登記に対する登録免許税は、登録免許税法別表第一第24号(一)カにより、申請1件につき30,000円、資本金1億円以下の会社は10,000円です。資本金3,000万円のT社は後者に該当します。

2.源泉徴収税額3,063円を計算する

2026年中に居住者である個人の司法書士へ支払う本設例では、同一人に対する1回の報酬額から10,000円を控除し、残額へ10.21%を掛けます。1円未満の端数が生じた場合は切り捨てます。

(40,000円-10,000円)×10.21%=3,063円

計算式で控除する10,000円と、請求明細にある登録免許税10,000円は別物です。前者は源泉徴収税額の計算上の控除額、後者はT社が負担する税金です。設例では偶然同額になっています。

国税庁「No.6929 消費税等と源泉所得税および復興特別所得税」によれば、報酬と消費税等が明確に区分されていれば、消費税等を除いた報酬額だけを源泉徴収の対象にして差し支えありません。

請求書の表示 計算対象額 計算 源泉徴収税額
報酬40,000円と消費税等4,000円を明確に区分 40,000円 (40,000-10,000)×10.21% 3,063円
報酬等44,000円とのみ表示 44,000円 (44,000-10,000)×10.21% 3,471円

二段目は、報酬と消費税等が区分されていない場合の比較です。本設例の仕訳には一段目の3,063円を使います。

3.司法書士への振込額は50,937円

請求・精算額から源泉徴収税額を差し引きます。

項目 計算 金額
報酬 税抜報酬 40,000円
消費税等 40,000円×10% 4,000円
登録免許税 明確に区分された立替額 10,000円
請求・精算額 40,000+4,000+10,000 54,000円
源泉徴収税額 差し引く金額 △3,063円
振込額 54,000-3,063 50,937円

2026年10月26日の仕訳は次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
支払手数料 40,000円 預り金 3,063円
仮払消費税等 4,000円 普通預金 50,937円
租税公課 10,000円
合計 54,000円 合計 54,000円

借方合計と貸方合計は、ともに54,000円です。預り金3,063円は会社の収益でも費用の値引きでもなく、国へ納付するまでの負債です。

4.預り金を国へ納付する

源泉徴収した税額は、原則として支払った月の翌月10日までに納付します。T社は2026年10月26日に支払っているため、本設例の納付期限は2026年11月10日です。

給与の支給人員が常時10人未満で、申請により納期の特例の適用を受けている場合は期限が異なります。要件と期限は、国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」で確認できます。

2026年11月10日に3,063円を納付した仕訳は次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
預り金 3,063円 普通預金 3,063円

関連科目の残高を確認します。

時点 普通預金 仮払消費税等 預り金 費用累計
取引前 100,000円 0円 0円 0円
10月26日の支払後 49,063円 4,000円 3,063円 50,000円
11月10日の納付後 46,000円 4,000円 0円 50,000円

普通預金の減少額は、司法書士への50,937円と国への3,063円を合わせた54,000円です。請求・精算額と一致します。

5.源泉徴収と仕入税額控除は別に判定する

本設例では、司法書士報酬に標準税率10%を適用します。登録免許税10,000円には消費税等を上乗せせず、仮払消費税等も計上しません。

国税庁「No.6303 消費税および地方消費税の税率」は、消費税等の標準税率を10%としています。また、国税庁「No.6355 課税売上げと課税仕入れ」によれば、仕入税額控除には原則として一定事項を記載した帳簿と適格請求書等の保存が必要です。

消費税等を報酬と区分して源泉徴収の対象から外せるかという判定と、仕入税額控除を受けられるかという判定は別です。本設例では、後者の要件も満たすと仮定しています。

免税事業者、簡易課税制度の適用事業者、税込経理の事業者などでは処理が変わります。税込経理では、報酬と消費税等の合計44,000円を支払手数料として処理し、仮払消費税等を別計上しない方法があります。登録免許税10,000円は租税公課として区分します。

6.間違えやすい四つの点

間違えやすい処理 問題点 確認方法
54,000円の全額を支払手数料にする 報酬、消費税等、登録免許税が混ざる 請求明細を三つに分ける
請求額54,000円をそのまま源泉計算に使う 明確に区分された消費税等と登録免許税の除外、計算上の10,000円控除が反映されない 対象額40,000円を確定し、そこから10,000円を控除する
二つの10,000円を同じものと考える 登録免許税と計算上の控除額を混同する 実費の除外と法定計算を別の行にする
50,937円を振り込んで処理を終える 預り金3,063円が残ったままになる 納付日と納付後残高ゼロまで確認する

実務では、依頼先が個人か法人か、請求書の表示、登録免許税の負担者、消費税の課税方式、納期の特例の有無を資料から確認してください。不明点がある場合は、所轄税務署、税理士、司法書士などへ個別に確認する必要があります。

第222回 取締役の重任登記ゼロ入門:原則2年・一定の非公開会社の最長10年・2週間・登録免許税を整理(5日練習付き)

第221回では、最後の登記から12年を経過した株式会社のみなし解散を確認しました。

今回は、その前に行う取締役の任期管理です。同じ人が続けて取締役になる場合でも、任期満了後に再任すれば重任登記が必要です。

重任そのものに仕訳はありません。登記申請に伴う登録免許税には仕訳があります。まず法律上の日付を決め、その後に会計処理を考えます。

1.選任・就任・重任を分ける

用語 意味 S社の日付
選任 株主総会が取締役となる人を選ぶこと 2024年6月25日
就任 選任された人が承諾して取締役になること 2024年6月25日
任期満了 会社法または定款に基づく任期が終わること 2026年6月25日の定時株主総会終結時
重任 任期満了後、間を置かず同じ人が同じ役職に就任すること 2026年6月25日
変更登記 重任年月日などを登記簿へ反映すること 2026年7月2日に申請

氏名が変わらなくても、任期満了による退任と再度の就任が生じます。そのため、登記を省略することはできません。

2.2年任期は「選任日の2周年」ではない

会社法332条による取締役の原則的な任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最後の事業年度に関する定時株主総会の終結時までです。

区分 取扱い
原則 選任後2年以内に終了する最後の事業年度に関する定時株主総会の終結時まで
短縮 定款または株主総会決議により短縮できる
最長10年への伸長 公開会社でない株式会社のうち、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除く会社は、定款により伸長できる
監査等委員でない取締役など 機関設計に応じて別の任期規定があるため、個別に確認する

会社法上の公開会社は、上場会社と同じ意味ではありません。発行する株式の全部または一部について譲渡制限を設けていない株式会社が公開会社です。反対に、すべての株式について譲渡による取得に会社の承認を要する会社が、ここでいう公開会社でない株式会社です。

10年は上限です。非公開会社になれば自動的に10年になるわけではありません。機関設計と定款の両方を確認します。

3.S社の任期と登記期限を計算する

日付 出来事
2024年6月25日 Aを選任し、Aが就任を承諾
2025年3月31日 選任後に終了する第1の事業年度
2026年3月31日 選任後2年以内に終了する最後の事業年度
2026年6月25日 定時株主総会の終結時に任期満了。同じ総会で重任
2026年6月26日 2週間の期間計算を開始
2026年7月2日 重任登記を申請
2026年7月9日 本設例の申請期限

2024年3月期はAの選任前に終了しているため、任期計算に含めません。選任後に終了する2025年3月期と2026年3月期を数えます。

民法140条、141条および143条により、本設例では6月25日を算入せず、翌26日から2週間を数えます。末日は7月9日です。

4.同じ人でも重任登記をする

法務省の役員変更登記案内は、任期満了後、間を置かず同じ人を再任した場合にも役員変更登記が必要であると案内しています。

会社法915条1項では、登記事項に変更が生じたときから、本店所在地で2週間以内に変更登記をすることとされています。

S社では、Aが総会に出席し、その場で就任を承諾するため、重任日は2026年6月25日です。承諾が後日となる場合などは、登記原因の日を事実関係から確認します。

S社は取締役会を置かず、取締役がA一人です。会社法349条によりAが会社を代表します。取締役の任期満了に伴い代表者としての地位も更新されるため、取締役と代表取締役の重任を登記します。

申請前には、現行定款、登記事項証明書、株主総会議事録、株主リストおよび就任承諾を示す記載を確認します。議事録に就任承諾の事実が記載されている場合は、その記載を援用できることがあります。

必要書類は機関設計や代表取締役の選定方法によって変わります。S社のように取締役会を置かず、各取締役が会社を代表する会社で役員全員が重任する場合は、法務局の商業・法人登記申請書様式の「1-8」が確認の出発点になります。

5.登録免許税は資本金で判定する

登録免許税法別表第一第24号(一)カおよび国税庁「登録免許税の税額表」による役員変更登記の税額は、次のとおりです。

申請時の資本金 課税標準 税額
1億円以下 申請件数 1件につき1万円
1億円超 申請件数 1件につき3万円

S社の資本金は3,000万円です。したがって、重任登記1件の登録免許税は1万円、千円単位では10となります。

取締役一人ごとに1万円を納付するのではありません。ただし、同じ申請書で別の課税区分に属する登記も受ける場合は、その申請内容に応じて税額を計算します。

6.重任には仕訳なし、登録免許税には仕訳あり

2026年6月25日の任期満了と重任だけでは、S社の資産、負債、純資産、収益および費用は動きません。この日の仕訳はありません。

7月2日に登録免許税10を普通預金から支払ったときは、次のように仕訳します。

日付 借方科目 借方 貸方科目 貸方
2026年7月2日 租税公課 10 普通預金 10

借方と貸方は、それぞれ10で一致します。

区分 支払前 支払後
普通預金 30,300 30,290
資産合計 30,300 30,290
未払金 300 300
資本金 30,000 30,000
利益剰余金 0 △10
負債・純資産合計 30,300 30,290

登録免許税10の費用計上により当期利益が10減り、利益剰余金も10減るものとして簡略化しています。支払後も、資産30,290と負債・純資産30,290は一致します。

国税庁「租税公課等の損金算入の可否と租税の損金算入時期」では、法人が納付する租税公課等は、損金不算入とされるものを除き原則として損金算入するとされています。本設例の登録免許税10は支払時に租税公課として費用計上し、法人税上も同額を損金算入する前提であるため、申告調整はありません。

7.期限を過ぎても100万円を仕訳しない

法務局の商業・法人登記に関するFAQによると、登記期間を過ぎたことだけを理由に申請が却下されるわけではありません。遅れに気付いたら、放置せずに申請を進めます。

一方、会社法976条により、必要な登記を怠った代表取締役は100万円以下の過料に処される可能性があります。

項目 登録免許税 登記懈怠による過料
性質 登記を受ける際に納付する税 登記義務違反に対して科される可能性がある制裁
本設例 S社が1万円を納付 Aに対する決定はない
100万円 関係しない 上限であり固定額ではない
期限超過を知った時点 申請に必要な税額を確認する 有無も金額も未確定

本設例で過料の対象となり得るのは代表取締役Aであり、S社自身に科されるとは限りません。期限超過を知っただけで、S社が100万円を費用や未払金に計上することはありません。

S社がAに科された過料を負担する場合は、Aに対する経済的利益や役員給与に当たるかを含めて別途検討します。会社自身に科された過料の損金不算入を説明する国税庁資料だけで、この場合の処理を決めることはできません。

8.任期は毎期確認する

時期 確認すること
毎期末 役員の選任日、定款上の任期、機関設計を確認する
総会準備時 任期満了者と再任・交代の予定を照合する
総会当日 決議内容と就任承諾日を議事録に残す
総会直後 登記期限、申請担当者、申請予定日を決める
申請後 登記完了、納付証憑、仕訳を確認する

10年任期にしても、任期管理が不要になるわけではありません。毎期確認し、次に任期が満了する事業年度を更新します。

9.5日で確認する

日 練習
1日目 選任、就任、任期満了、重任の違いを書く
2日目 S社の任期満了日と2026年7月9日の登記期限を再計算する
3日目 定款と登記事項証明書で確認する項目を挙げる
4日目 租税公課10/普通預金10を転記し、残高を検算する
5日目 役員名、選任日、任期、対象事業年度、総会予定日、登記期限を一覧にする

確認問題:2024年6月25日に選任されたAの任期を計算するとき、2024年3月期を含めるでしょうか。

答え:含めません。2024年3月期は選任前に終了しています。選任後に終了する2025年3月期と2026年3月期を数え、2026年3月期に関する定時株主総会の終結時に任期が満了します。

10.まとめ

  • 原則2年の任期は、選任日の2周年ではなく、事業年度と定時株主総会から計算する
  • 一定の非公開会社は定款により最長10年まで伸長できるが、自動適用ではない
  • 同じ人を間を置かず再任しても、重任登記が必要になる
  • S社の登記期限は2026年7月9日で、7月2日の申請は期限内である
  • 重任自体には仕訳がなく、登録免許税の支払には仕訳がある
  • 資本金3,000万円のS社の登録免許税は1万円である
  • 100万円は過料の上限であり、期限超過時に直ちに計上する債務ではない

人が変わらなくても、任期は終わります。毎期一度、選任日と定款を確認しておけば、重任登記の見落としを防ぎやすくなります。

第222回 みなし解散・会社継続時の消費税ゼロ入門:3つの課税期間・申告期限・締切仕訳を整理(5日練習付き)

第221回では、みなし解散と会社継続によって、法人税の事業年度が三つに分かれることを確認しました。

今回は、同じ日程を消費税へつなげます。

法人の消費税の課税期間は、課税期間を短縮する特例を選択していない限り、その法人の事業年度です。したがって、みなし解散と会社継続で事業年度が三つに分かれる本設例では、消費税も三つの課税期間に分かれます。

ただし、みなし解散や会社継続そのものは売上げや仕入れではありません。法的な出来事と、消費税が動く取引を分けて整理しましょう。

1.三つの事業年度は三つの課税期間になる

消費税法19条1項2号と国税庁「課税期間」によれば、法人の課税期間は原則としてその法人の事業年度です。

法人税法14条1項1号・6号では、事業年度の中途で解散した場合は解散日で区切り、清算中の法人が継続した場合は継続日の前日で再び区切ります。

区分 課税期間 区切る理由 申告・納付期限
解散前 2026年4月1日~12月16日 みなし解散の日で終了 2027年2月16日
清算中 2026年12月17日~2027年1月19日 会社継続日の前日で終了 2027年3月19日
継続後 2027年1月20日~3月31日 継続日から通常の決算日まで 2027年5月31日

国税庁「申告と納税」によれば、課税事業者である法人は、原則として課税期間終了日の翌日から2か月以内に消費税と地方消費税を申告・納付します。表の期限日は、いずれも休日による繰下げがなく、延長もない本設例での日付です。

清算中の法人について残余財産が確定した場合には、最後の課税期間に特別な申告期限があります。しかし、S社は残余財産が確定する前に会社を継続するため、その特例は使いません。通常清算の最終申告と会社継続時の短い課税期間を混同しないことが大切です。

なお、事業年度が分かれたことと、各期間で課税事業者になることは別の論点です。実務では、基準期間、特定期間、課税事業者選択、適格請求書発行事業者の登録状況などを課税期間ごとに確認します。

2.みなし解散・会社継続だけでは消費税の仕訳をしない

会社法473条・476条によれば、清算株式会社は清算の目的の範囲内で存続し、所定の期間内であれば株主総会決議によって継続できます。

同じ法人が存続し、みなし解散または継続だけを理由とする資産の譲渡や対価の授受がない本設例では、その法的な出来事自体から消費税や仕訳は生じません。

出来事 消費税 仕訳
2026年12月16日のみなし解散 それ自体は課税売上げ・課税仕入れではない 法的地位の変更だけを理由とする仕訳はない
2027年1月20日の会社継続 それ自体は課税売上げ・課税仕入れではない 資産・負債の残高をそのまま引き継ぐ
顧客への役務提供 本設例では標準税率の課税売上げ 売上と仮受消費税等を計上する
事務用品の購入 要件を満たせば仕入税額控除の対象 消耗品費と仮払消費税等を計上する
確定した消費税等の納付 新たな課税仕入れではない 未払消費税等を取り崩す

実際に登録免許税や専門家報酬などを支払った場合は、その支出について別途仕訳と消費税区分を判定します。「継続の登記に関係する支出だから、すべて同じ税区分」とは限りません。

3.各課税期間の税額を別々に計算する

S社の開始残高は、現金2,000、資本金2,000です。各課税期間の取引は次のとおりです。

課税期間 取引日 課税売上げ 課税仕入れ
解散前 2026年11月30日 税込1,100
本体1,000・消費税等100
税込660
本体600・消費税等60
清算中 2027年1月10日 税込330
本体300・消費税等30
税込110
本体100・消費税等10
継続後 2027年3月10日 税込880
本体800・消費税等80
税込440
本体400・消費税等40

国税庁「消費税および地方消費税の税率」によれば、基準日現在の標準税率10%は、国の消費税率7.8%と地方消費税率2.2%から成ります。地方消費税は、納付すべき国の消費税額に22分の78ではなく、22/78を乗じて計算します。

課税期間 売上げに係る国税 仕入れに係る国税 納付する国税 地方消費税 合計
解散前 78.0 46.8 31.2 8.8 40
清算中 23.4 7.8 15.6 4.4 20
継続後 62.4 31.2 31.2 8.8 40
合計 163.8 85.8 78.0 22.0 100

金額は千円単位なので、31.2は31,200円を表します。たとえば解散前の期間は、国税31.2に地方消費税8.8を加え、納付額40となります。

三期間の合計納付額は100ですが、3月31日にまとめて一回だけ申告するわけではありません。40、20、40を、それぞれの課税期間の申告書で計算します。

実際の申告では、税率別集計、課税標準額や税額の端数処理、売上返還、貸倒れ、中間納付、控除対象外消費税額などにより、仮受消費税等と仮払消費税等の単純差額が納付税額と一致しないことがあります。本設例では、それらがない前提です。

4.税抜経理の仕訳を期間ごとに締める

国税庁「税抜経理方式または税込経理方式による経理処理」では、税抜経理方式の場合、売上げに係る消費税等を仮受消費税等、仕入れに係る消費税等を仮払消費税等として処理します。

日付・内容 借方 金額 貸方 金額
2026年4月1日
開始残高
現金 2,000 資本金 2,000
2026年11月30日
役務提供
現金 1,100 売上
仮受消費税等
1,000
100
2026年11月30日
事務用品購入
消耗品費
仮払消費税等
600
60
現金 660
2026年12月16日
第1課税期間の締切
仮受消費税等 100 仮払消費税等
未払消費税等
60
40
2027年1月10日
役務提供
現金 330 売上
仮受消費税等
300
30
2027年1月10日
事務用品購入
消耗品費
仮払消費税等
100
10
現金 110
2027年1月19日
第2課税期間の締切
仮受消費税等 30 仮払消費税等
未払消費税等
10
20
2027年2月16日
第1課税期間分の納付
未払消費税等 40 現金 40
2027年3月10日
役務提供
現金 880 売上
仮受消費税等
800
80
2027年3月10日
事務用品購入
消耗品費
仮払消費税等
400
40
現金 440
2027年3月19日
第2課税期間分の納付
未払消費税等 20 現金 20
2027年3月31日
第3課税期間の締切
仮受消費税等 80 仮払消費税等
未払消費税等
40
40

国税庁「納付税額または還付税額の経理処理」でも、税抜経理方式による納付税額は、その課税期間を含む事業年度で未払消費税等として計上する取扱いが示されています。

2027年1月20日に会社を継続しても、未払消費税等60を消去しません。第1課税期間分40と第2課税期間分20は、申告・納付まで同じ法人の負債として残ります。

5.現金・負債・純資産を検算する

時点 現金 未払消費税等 資本金+累積利益 貸借確認
2026年12月16日 2,440 40 2,400 2,440=40+2,400
2027年1月19日 2,660 60 2,600 2,660=60+2,600
2027年3月31日 3,040 40 3,000 3,040=40+3,000

各期間の税抜利益は、解散前400、清算中200、継続後400です。累積利益は1,000となるため、資本金2,000との合計は3,000です。

現金の最終残高も、2,000+売上入金2,310-仕入支出1,210-消費税等の納付60=3,040と一致します。第3課税期間分40はまだ納付していないため、未払消費税等として残ります。

開始仕訳から第3課税期間の締切仕訳までを合計すると、借方・貸方はいずれも5,790です。

6.初学者が区別したい五つの点

誤りやすい考え方 整理方法
3月31日に一年分をまとめて申告する 解散日と継続日前日でも課税期間を締める
会社継続時に勘定残高をゼロへ戻す 同じ法人なので現金や未払消費税等を引き継ぐ
仮受消費税等と仮払消費税等の差額が常に納付税額になる 控除要件、端数、簡易課税、控除対象外税額などを確認する
購入仕訳があれば仕入税額控除を受けられる 帳簿・請求書等の保存要件も確認する
法人税の申告期限延長が消費税にも自動適用される 消費税の延長要件と届出を別に確認する

7.5日で定着させる練習

日 練習内容 到達点
1日目 三つの課税期間と申告期限を書き写す 解散日と継続日前日で区切れる
2日目 法的な出来事と課税取引を分類する みなし解散・継続だけでは仕訳がないと判断できる
3日目 第1課税期間の売上・仕入・締切仕訳を書く 仮受100-仮払60=未払40を計算できる
4日目 第2・第3課税期間の仕訳と納付仕訳を書く 未払消費税等が期間をまたいで残る理由を説明できる
5日目 現金、未払消費税等、累積利益を検算する 最終残高3,040=40+3,000を確認できる

確認問題:2027年1月20日の会社継続直後、未払消費税等はいくらでしょうか。答えは、第1課税期間分40と第2課税期間分20の合計60です。会社継続そのものによる仕訳はありません。

8.まとめ

  • 法人の消費税の課税期間は、原則として法人税法上の事業年度と一致する
  • みなし解散日と会社継続日の前日で事業年度が区切られるため、本設例の課税期間は三つになる
  • 各課税期間の申告・納付期限は、延長がなければ原則として終了日の翌日から2か月以内となる
  • みなし解散と会社継続だけでは、課税取引も会計仕訳も生じない
  • 税抜経理では、仮受消費税等と仮払消費税等を課税期間ごとに締め、納付額を未払消費税等へ振り替える
  • 会社継続後も、現金や未払消費税等などの帳簿残高は同じ法人の中で引き継ぐ

事業年度の区切り、取引の税区分、締切仕訳の順に確認すると、短い課税期間が続く場合でも落ち着いて整理できます。

第221回 休眠会社のみなし解散ゼロ入門:12年・2か月・3年と会社継続後の3つの事業年度を仕訳で整理(5日練習付き)

第220回では、通常清算が終わった後の清算結了登記と帳簿保存を確認しました。

今回は、株主が解散を決めていないのに、長期間登記をしなかったため解散したものと扱われる「みなし解散」です。

最後の登記から12年が過ぎただけで、直ちに解散するわけではありません。法務大臣の公告後2か月以内に必要な登記または所定の届出をしなかったとき、解散したものとみなされます。

1.12年・2か月・3年・2週間を分ける

法務省の2026年度案内と会社法472条・473条をS社の日程へ当てはめます。

段階 日付・期間 意味
休眠会社の判定 2026年10月15日 最後の登記から12年を経過しているため、整理作業の対象となる
官報公告・通知発送 2026年10月15日 2026年度の実際の公告日・通知発送日
対応期限 2026年12月15日 必要な登記または所定の届出を行う期限
みなし解散 2026年12月16日 期限までにどちらも行わなければ、この日付で解散したものとみなされる
継続できる期間 みなし解散後3年以内 清算結了前に株主総会の特別決議を行う。S社は2027年1月20日に決議する
継続登記 継続決議から2週間以内 S社の申請期限は2027年2月3日

12年は整理作業の対象を決める期間です。2か月はみなし解散を避けるための対応期間、3年はみなし解散後に会社を継続できる期間、2週間は継続決議後の登記期間です。

なお、会社法472条による整理作業の対象は株式会社です。特例有限会社は含まれません。

2.営業や税務申告を続けていても防止策にはならない

会社法上の「休眠会社」は、営業実態や税務申告の有無ではなく、最後の登記からの期間で判定されます。

会社の行動 防止できるか 注意点
必要な役員変更等の登記を申請する できる 登記内容と必要書類を事前に確認する
「まだ事業を廃止していない」旨を届け出る その年度はできる 未登記の事実は解消されず、必要な登記をしなければ翌年度も対象になり得る
実際に営業や取引を続ける できない 事業実態だけでは会社法472条の手続に代わらない
法人税の申告・納付を続ける できない 税務署への申告と商業登記は別の手続
登記事項証明書や印鑑証明書を取得する できない 証明書の交付請求は新たな登記ではない
登記所からの通知が届かなかった できない 通知の不着にかかわらず公告後の期限が進行する

法務省の整理作業案内も、実際に事業を続けている場合や通知が届かない場合であっても、期限内の登記または届出が必要であると説明しています。

所定の届出をしてみなし解散を回避しても、登記を怠った事実まで消えるわけではありません。必要な登記と過料の可能性は別に確認します。

3.みなし解散だけでは資産・負債は消えない

会社法475条・476条により、みなし解散後のS社は清算株式会社となり、清算の目的の範囲内で存続します。

したがって、職権で解散登記がされても、現金、売掛金、買掛金、資本金などの帳簿残高がゼロになるわけではありません。法的地位が変わったという事実だけでは、資産、負債または純資産の増減がないため、その事実だけを原因とする仕訳もありません。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 1,000 買掛金 200
売掛金 300 資本金 500
― ― 繰越利益剰余金 600
合計 1,300 合計 1,300

S社は清算中に売掛金を回収し、会社継続後に買掛金を支払います。

日付 借方 金額 貸方 金額 内容
2026年12月20日 現金 300 売掛金 300 帳簿価額どおり回収
2027年1月25日 買掛金 200 現金 200 会社継続後に帳簿価額どおり支払

取引後の現金は、1,000+300-200=1,100です。売掛金と買掛金はともにゼロとなり、借方の現金1,100と、貸方の資本金500+繰越利益剰余金600=1,100が一致します。

額面どおりの債権回収と計上済み債務の支払であるため、本設例では収益も費用も生じません。登記費用、専門家報酬その他の支出が実際に発生したときは、請求書や納付記録に基づく実額を別途仕訳します。

4.3年以内と2週間以内は別の期限

みなし解散後の会社継続には、次の条件を順番に確認します。

確認事項 S社の扱い
清算の状況 清算結了前である
継続可能期間 みなし解散後3年以内である
会社の意思決定 株主総会の特別決議を行う
継続日 決議で2027年1月20日と定める
登記期限 決議から2週間以内の2027年2月3日
会社機関 継続後の取締役、代表取締役、取締役会の有無などを定款と決議に合わせる

3年間は申告や登記を保留できる期間ではありません。会社を継続できる上限期間です。継続を決議した後は、2週間以内に登記を申請します。

法務局の商業・法人登記申請書様式には、みなし解散後の株式会社継続について、継続後の機関設計に応じた記載例があります。必要な登記事項が複数あれば登録免許税の合計も変わるため、継続登記だけの金額を全案件へ一律に当てはめないことが大切です。

会社継続は新会社の設立ではありません。同じ法人が続くため、現金、債権、債務、資本金などをゼロから計上し直す仕訳は行いません。

5.法人税の事業年度は三つに分かれる

法人税法14条1項1号・6号により、事業年度の中途で解散した場合は解散日で区切り、清算中の法人が継続した場合は継続日の前日で再び区切ります。

法人税基本通達1-2-4によれば、株主総会で継続日を定めたときはその日、定めなかったときは継続決議の日が法人税上の継続日です。継続登記の完了日を機械的に区切りの日とするわけではありません。

区分 期間 区切る理由
解散前の事業年度 2026年4月1日~12月16日 みなし解散の日で終了する
清算中の事業年度 2026年12月17日~2027年1月19日 会社継続日の前日で終了する
継続後の事業年度 2027年1月20日~3月31日 継続日から定款上の通常の決算日まで

帳簿残高は同じ法人の中で連続しますが、法人税の所得または欠損は三つの期間ごとに計算します。

国税庁「法人税法」教材は、確定申告書の提出期限を原則として各事業年度終了の日の翌日から2か月以内と説明しています。本設例の前提では次のとおりです。

対象期間 終了日 申告期限
2026年4月1日~12月16日 2026年12月16日 2027年2月16日
2026年12月17日~2027年1月19日 2027年1月19日 2027年3月19日
2027年1月20日~3月31日 2027年3月31日 2027年5月31日

三つの日はいずれも本設例では休日による繰下げがなく、申告期限の延長もない前提です。実際には承認済みの延長、災害、通算制度その他の事情を確認します。納付税額が生じない場合でも、申告義務まで当然になくなるわけではありません。

6.登記・会計・税務を一枚で管理する

時点 登記 会計・税務
2026年12月15日まで 登記事項証明書で最後の登記日と未登記事項を確認し、必要な登記または所定の届出を行う 通常の帳簿と申告を継続する
みなし解散後 登記記録と解散日を確認し、清算を続けるか会社を継続するかを決める 解散日で帳簿を区切り、清算開始時の書類と申告準備を進める
会社継続時 特別決議、役員等の整備、2週間以内の継続登記を行う 継続日前日で清算中の事業年度を締め、継続日から通常の事業年度へ戻す
各決算後 登記事項と実態の一致を確認する 各事業年度の所得・欠損と申告期限を別々に管理する

税務署には、法人の解散などが生じた場合、異動届出書を異動後速やかに提出します。会社継続に伴って事業年度、代表者その他の届出事項が変わる場合も該当事項を確認します。都道府県や市区町村への届出は、所在地の自治体が示す様式と期限を別途確認してください。

7.5日で定着させる練習

日 取り組む内容 確認できればよいこと
1日目 12年・2か月・3年・2週間を一行ずつ書く 四つの期間の目的を区別できる
2日目 営業、税務申告、証明書取得、届出、登記を分類する みなし解散を防ぐ行動だけを選べる
3日目 S社の売掛金回収と買掛金支払を仕訳する みなし解散・会社継続そのものは仕訳なしと判断できる
4日目 三つの事業年度と申告期限を書き出す 解散日と継続日前日で区切れる
5日目 自社または練習会社について、最後の登記日、通常の決算日、対応期限を一枚にまとめる 登記と申告を同じ予定表で管理できる

確認問題:S社が12月15日までに何もしなかった場合の解散日は12月16日です。1月20日に会社を継続する場合、清算中の事業年度は1月19日で終わります。仕訳後の現金は1,100、売掛金と買掛金はゼロで、借方・貸方はいずれも1,100です。

8.まとめ

  • 最後の登記から12年の経過は整理作業の対象要件であり、それだけで直ちに解散するわけではない
  • 2026年度は12月15日までに必要な登記または所定の届出がなければ、12月16日付で解散したものとみなされる
  • 営業や法人税申告を続けていても、会社法上の届出や登記の代わりにはならない
  • みなし解散後も資産・負債は残り、法的地位の変更だけを原因とする仕訳はない
  • 会社継続はみなし解散後3年以内の特別決議で行い、決議後2週間以内に登記する
  • 法人税の事業年度は、解散日と継続日の前日で区切って申告期限を管理する

登記の日付、帳簿、申告期限を順に並べると、みなし解散という例外的な場面でも落ち着いて整理できます。

第220回 清算結了登記と帳簿保存ゼロ入門:2週間・会社法10年・法人税7年/10年を整理(5日練習付き)

第219回では、清算事務が終わった後の決算報告を確認しました。

その承認後に行うのが、清算結了登記です。ただし、登記が終わっても帳簿資料の保存は続きます。

登記の2週間、会社法の10年、法人税の7年または10年は、それぞれ起算点が異なります。まず日付を分けましょう。

1.清算結了登記は承認日から2週間以内

会社法507条3項および929条1号により、清算株式会社は決算報告について株主総会の承認を受け、その承認の日から2週間以内に本店所在地で清算結了登記をしなければなりません。

日付 出来事 確認点
2026年10月22日 株主総会が決算報告を承認 2週間の基準となる日
2026年10月23日 期間計算の1日目 承認日は原則として算入しない
2026年10月27日 登記申請を受け付けた日 設例では清算結了登記年月日として記録
2026年11月5日 2週間の満了日 本設例の申請期限

民法140条から143条では、日・週・月・年で定めた期間は原則として初日を算入せず、暦に従って計算します。10月23日を1日目とすると、14日目は11月5日です。

末日が休日に当たる場合は、民法142条も確認します。補正に備えるためにも、満了日を待たずに申請するのが安全です。

申請の受付後には登記官の審査があり、手続の完了は後日になることがあります。保存期間を管理するときは、発送日や審査完了予定日ではなく、登記事項証明書などで清算結了登記年月日を確認します。

2.申請書、添付書類、登録免許税を確認する

商業登記法75条は、決算報告の承認があったことを証する書面の添付を求めています。

法務局の株式会社清算結了登記申請書の記載例による主な確認項目は、次のとおりです。

項目 内容
登記申請書 商号、本店、登記の事由、登記すべき事項などを記載する
株主総会議事録 決算報告書を含め、承認の事実を明らかにする
株主リスト 対象株主の氏名・名称、住所、議決権数などを記載する
委任状 代理人に申請を委任する場合に添付する
登録免許税 申請1件につき2,000円

登録免許税2,000円は、2026年10月22日現在の登録免許税法別表第一と法務局の記載例に基づく金額です。

必要書類は申請方法や代理申請の有無などによって変わります。実際の申請では、管轄法務局の最新様式を使います。

3.登記の事実と登録免許税の支払を分ける

決算報告の承認や清算結了登記は法的な手続です。それだけで資産、負債または純資産が増減するわけではないため、登記の事実自体には仕訳をしません。

一方、会社が登録免許税を負担すれば、費用と預金などが動きます。

借方 金額 貸方 金額
租税公課 2,000円 普通預金 2,000円

借方合計と貸方合計は、どちらも2,000円です。支払直前の普通預金残高が2,000円なら、支払後はゼロになります。

ただし、これは登録免許税の取引だけを抜き出した仕訳です。この仕訳だけで清算会社の全勘定残高がゼロになるわけではありません。

登録免許税は決算報告の承認後に行う登記申請に伴う費用です。実務では、承認前に負担者、支払原資、決算報告との整合を確認します。清算人が立て替えて会社に返還を求める場合は、貸方が未払金などになることもあります。

4.会社法の10年は清算結了登記の時から始まる

会社法508条により、原則として清算人は、本店所在地における清算結了登記の時から10年間、会社の帳簿と、その事業・清算に関する重要な資料を保存します。

S社では、株主総会の承認日である10月22日ではなく、清算結了登記年月日である10月27日が基準です。保存管理上は2036年10月27日までは廃棄対象にせず、廃棄前に他法令の保存期間も確認します。

会社法は保存対象を一つずつ列挙していません。次の表は、保存対象を点検するための整理例です。

分類 資料例
会計帳簿 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、固定資産台帳
決算関係 財産目録、清算開始時貸借対照表、決算報告
会社手続 株主総会議事録、登記申請の控え、登記年月日を確認できる資料
債権・債務 公告・催告の記録、債権申出書、回収・弁済の証憑、契約書
残余財産 株主別の分配計算、振込記録、分配完了日を確認できる資料
税務 申告書、届出書、納付記録、電子申告の受信通知、計算資料

裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人に代わる保存者を選任できます。誰が、どこで保存するのかも記録しておきます。

5.法人税の7年・10年は申告期限の翌日から数える

国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」によれば、法人税上の帳簿書類は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から原則として7年間保存します。

青色申告書を提出した事業年度に青色繰越欠損金が生じた場合、または青色申告書を提出しなかった事業年度に災害損失金額が生じた場合は10年間です。本稿は2018年4月1日以後に開始した事業年度を前提としています。

ケース 申告期限 起算日 保存期限
通常の事業年度 2026年3月31日 2026年4月1日 2033年3月31日まで
青色繰越欠損金が生じた事業年度 2026年3月31日 2026年4月1日 2036年3月31日まで

10年になるのは、青色繰越欠損金などが生じた対象事業年度です。後の事業年度の帳簿がすべて自動的に10年になる、という意味ではありません。

会社法の10年とは、起算点も保存対象も異なります。同じ資料に複数の保存義務がある場合は、最も遅い期限まで保存します。

6.電子取引データはデータのまま残す

国税庁の電子取引関係資料では、請求書、領収書、契約書などに相当する情報を電子的に授受した場合、その電子取引データを保存する必要があると案内しています。

紙へ印刷しても、元の電子取引データを削除してはいけません。清算に伴ってメールや会計サービスを解約する前に、必要なデータを取り出し、実際に開けることを確認します。

保存要件に従えないことについて所轄税務署長が相当の理由があると認める猶予措置でも、税務調査などの際に電子データのダウンロードの求めに応じ、電子データと整然・明瞭に出力した書面を提示または提出できる状態が必要です。

確認項目 確認内容
対象 電子請求書、領収書、契約、会計帳簿、申告データを洗い出す
可読性 保存先からファイルを開き、内容を表示できるか試す
保存要件 検索、改変防止、出力など適用される要件を確認する
責任者 清算後の照会に対応する人と連絡方法を残す
期限 根拠法令ごとの保存期限を記録する

7.税務署への異動届も別に確認する

国税庁「C1-8 異動事項に関する届出」は、法人の清算結了を届出対象としています。提出時期は「異動等後速やかに」です。

国税庁の案内上、添付書類はありません。e-Taxソフトのほか、書面を持参または送付する方法も示されています。

清算結了登記、確定申告、異動届出書は別の手続です。登記だけで税務署への申告や届出まで完了するわけではありません。

地方税、社会保険、許認可、金融機関などの手続は提出先によって異なります。所在地と事業内容に応じて、それぞれの一次資料を確認します。

8.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 完了の目安
1日目 承認日、申請日、登記年月日を書き分ける 三つの日付の意味を説明できる
2日目 2026年10月22日の翌日から14日を数える 11月5日を導ける
3日目 登録免許税2,000円の仕訳を書く 借方と貸方が一致する
4日目 法人税の7年と10年の期限を計算する 2033年3月31日と2036年3月31日を区別できる
5日目 電子資料の保存場所、責任者、根拠、期限を書く 一つの表に整理できる

9.まとめ

  • 清算結了登記は、決算報告の承認日から2週間以内に申請します。
  • 会社法上の帳簿資料は、清算結了登記の時から10年間保存します。
  • 法人税上の帳簿書類は、確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間、対象事業年度は10年間です。
  • 登記の事実自体には仕訳がなくても、会社が負担する登録免許税には仕訳が必要です。
  • 電子取引データは、紙だけでなく電子データも保存します。

清算が終わったときほど、日付を一つにまとめないことが大切です。「何を、誰が、いつまで保存するか」を最後に一表へまとめましょう。

第219回 清算結了時の決算報告ゼロ入門:収入・費用・残余財産・一株当たり分配額を仕訳で整理(5日練習付き)

第218回では、清算株式会社の債権者保護手続と債務弁済を確認しました。

債権の回収、債務や税金の支払、残余財産の分配が終わると、清算人は決算報告を作成します。

決算報告の「収入・費用」は、会計帳簿上の「収益・費用」と同じではありません。売掛金の回収は決算報告の収入ですが、新たな売上ではありません。借入金の返済は決算報告の費用ですが、会計上の費用ではありません。

1.決算報告に記載する四つの項目

会社法507条は、清算事務が終了したとき、清算株式会社が遅滞なく決算報告を作成するよう定めています。

決算報告の内容は、会社法施行規則150条に定められています。

項目 内容
収入の額 債権の取立て、資産の処分その他の行為による収入
費用の額 債務の弁済、清算に係る費用の支払その他の行為による費用
残余財産の額 支払税額がある場合は、その税額と控除後の財産額も表示
一株当たりの分配額 種類株式発行会社では株式の種類ごとに表示

一株当たりの分配額には、残余財産の分配を完了した日を注記します。金銭以外の財産を分配した場合は、その種類と価額も必要です。

2.第218回から引き継ぐ現金を確認する

前回までの回収と弁済を、決算報告に必要な数字へまとめます。

取引 借方 貸方 取引後の現金
売掛金の回収 現金1,000 売掛金1,000 1,000
貸付金の回収 現金300 貸付金300 1,300
買掛金の弁済 買掛金250 現金250 1,050
借入金の弁済 借入金400 現金400 650

債権の回収額は1,000+300=1,300、債務の弁済額は250+400=650です。弁済後の現金は650になります。

3.清算費用と法人税等を反映する

取引 借方 貸方 取引後の現金
清算費用の計上 清算費用40 未払金40 650
清算費用の支払 未払金40 現金40 610
法人税等の計上 法人税等10 未払法人税等10 610
法人税等の納付 未払法人税等10 現金10 600

最終的な現金は、650-40-10=600です。

清算費用40と法人税等10を反映すると、繰越利益剰余金は150-40-10=100になります。分配直前の残高は、現金600、資本金500、繰越利益剰余金100です。

資産600=純資産500+100となり、借方と貸方が一致します。

4.決算報告の数字を組み立てる

項目 内訳 金額
収入の額 売掛金の回収1,000+貸付金の回収300 1,300
費用の額 債務の弁済650+清算費用40+法人税等10 700
税額控除前の残余財産 税額控除後600+支払税額10 610
支払税額 法人税等 10
税額控除後の財産 610-10 600
一株当たりの分配額 600÷100株 6

開始時の現金がゼロなので、現金収支は1,300-700=600です。

支払税額10は費用700に含まれています。一方、会社法施行規則150条に沿った残余財産の表示では、税額控除前610、支払税額10、控除後600を分けて示します。税額10を二重に差し引くものではありません。

5.会計帳簿上の損益と混同しない

取引 決算報告 会計帳簿上の損益
売掛金1,000の回収 収入1,000 回収時の収益ではない
貸付金300の回収 収入300 元本回収なので収益ではない
買掛金・借入金650の弁済 費用650 元本弁済なので費用ではない
清算費用40 費用40 会計上も費用40
法人税等10 費用10 法人税等10を計上

会計帳簿上の損益減少額は50ですが、決算報告の収入は1,300、費用は700です。差額600は分配できる財産であり、「清算利益600」ではありません。

6.一株当たり分配額を検算する

会社法504条では、残余財産の割当ては、種類株式について異なる取扱いを定める場合などを除き、株主の有する株式数に応じて行います。

本設例の一株当たり分配額は、600÷100株=6です。金額の単位を円へ戻すと、一株6,000円になります。

株主 株式数 計算 分配総額
株主A 60株 60×6 360
株主B 40株 40×6 240
合計 100株 100×6 600

360+240=600となり、税額控除後の財産と一致します。

7.株主側の税務は別に判定する

法人税法22条5項では、残余財産の分配または引渡しは資本等取引に含まれます。清算会社が残余財産600を分配しても、その600を費用や損金にはしません。

会計上の繰越利益剰余金100が、そのまま株主側のみなし配当100になるわけでもありません。みなし配当は、交付額と税務上の資本金等の額のうち株式に対応する部分などから計算します。

国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし・第5 配当所得の源泉徴収事務」でも、解散による残余財産の分配は、みなし配当が生じ得る事由として示されています。

ただし、本設例では株主の属性や税務上の資本金等の額を設定していません。源泉徴収の要否、税率、税額は数値化せず、実際の分配前に個別に確認します。

8.株主総会の承認から清算結了登記へ進む

順序 確認事項
1 債権回収、債務・税金・清算費用の支払を終える
2 残余財産の割当てを決め、株主への分配を完了する
3 収入、費用、残余財産、一株当たり分配額、分配完了日を記載した決算報告を作る
4 清算人会設置会社では清算人会の承認を受ける
5 株主総会へ決算報告を提出または提供し、承認を受ける
6 承認の日から二週間以内に、本店所在地で清算結了の登記を申請する
7 本店所在地における清算結了登記の時から、帳簿資料を十年間保存する

登記期限は会社法929条、帳簿資料の保存期間は会社法508条によります。

法務局「株式会社清算結了登記申請書・決算報告書の記載例」では、決算報告書の例と必要な記載事項を確認できます。実際の添付書類は、会社の機関設計や申請方法に応じて確認してください。

9.間違えやすい点

誤り 確認方法
売掛金回収を新たな売上にする 回収時の仕訳は現金と売掛金の振替
借入金返済を決算報告の費用から外す 会計上の費用でなくても、決算報告では債務の弁済として集計する
税額控除前610を分配する 支払税額10を控除した600を用いる
税額10を二重に差し引く 費用総額700と、税額控除前後の表示を区別する
一株当たりの分配額を省く 600÷100株=6、株主別合計360+240=600を確認する
分配完了日を記載しない 予定日ではなく、実際に分配を完了した日を記載する
利益剰余金100をみなし配当100と決める 税務上の資本金等の額と株主属性を使って別に判定する

10.5日で定着させる練習

  1. 1日目:決算報告の四つの記載事項を書き出します。
  2. 2日目:売掛金1,000と貸付金300の回収から、収入1,300を求めます。
  3. 3日目:債務650、清算費用40、法人税等10から、費用700と税額控除後の財産600を求めます。
  4. 4日目:600÷100株=6、60株分360、40株分240を計算します。
  5. 5日目:決算報告の収入・費用と、会計帳簿上の収益・費用を取引ごとに分けます。

まとめ

清算結了時の決算報告は、清算中の損益だけを示す書類ではありません。債権回収や債務弁済を含む清算事務全体をまとめます。

本設例では、収入1,300、費用700、税額控除前の残余財産610、支払税額10、控除後の財産600です。一株当たり分配額は6で、株主Aへの360と株主Bへの240を合計すると600になります。

決算報告の収入・費用、会計帳簿上の収益・費用、税務上の益金・損金は分けて確認します。

第218回 清算株式会社の債権者保護手続:官報公告・個別催告・債務弁済を仕訳で整理(5日練習付き)

第217回では、解散日現在の財産目録と清算開始時貸借対照表を確認しました。

財産と債務を把握した後は、債権者への公告と催告を行い、債権を回収し、債務を弁済します。

官報公告をしても、買掛金や借入金は消えません。一方、帳簿に債務が載っていても、債権申出期間中は原則として弁済できません。手続と仕訳を分けて確認します。

1.清算人の仕事と帳簿をつなげる

会社法481条は、清算人の職務として、現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の分配を定めています。

段階 主な作業 帳簿への影響
債権者の確認 官報公告、個別催告、申出内容の確認 公告や催告だけでは資産・負債は動かない
債権の取立て 売掛金や貸付金を回収する 債権が減り、現金預金が増える
債務の弁済 弁済できる時期を確認して支払う 現金預金と負債が同額減る
残余財産の分配 債務弁済後の財産を株主へ分配する 残余財産と純資産を整理する

会社法施行規則146条は、各清算事務年度の貸借対照表を会計帳簿に基づいて作成することを定めています。解散後も記帳と残高管理は続きます。

2.官報公告と個別催告は別の手続

会社法499条の要点は次のとおりです。

項目 内容
官報公告 債権者に対し、一定期間内に債権を申し出るよう公告する
個別催告 会社に知れている債権者へ各別に催告する
申出期間 二か月を下回ることはできない
公告の付記 期間内に申出がなければ清算から除斥される旨を記載する

官報公告をしただけでは、知れている債権者への個別催告を省略できません。また、この債権者向けの解散公告は官報に掲載する必要があります。

会社法503条は、清算から除斥される債権者から「知れている債権者」を除いています。知れている債権者が申出をしなかったという理由だけで、買掛金や借入金を消すことはできません。

確認項目 主な資料
債権者名と連絡先 補助元帳、契約書、請求書
債権の原因 仕入れ、借入れ、賃貸借、給与、保証などの資料
金額 元本、利息、遅延損害金、解約金などの計算資料
弁済期と担保 契約書、返済予定表、担保関係資料
催告と申出 送付日、到達記録、申出日、確認結果
公租公課など 申告書、納付書、給与・社会保険関係資料

帳簿残高だけでは、未着請求書、解約前の契約、保証債務などを見落とすことがあります。元帳と契約・事実関係の両方を確認します。

3.二か月を60日と置き換えない

会社法499条の最低期間は「二か月」です。60日ではありません。

民法138条から143条により、日、週、月または年で定めた期間は原則として初日を算入せず、月による期間は暦に従って計算します。

官報発行サイトの解散公告例も、官報掲載の翌日から二か月以内に申し出る形を示しています。

日付 出来事 仕訳
2026年10月20日 解散、清算人就任 その事実だけでは仕訳なし
2026年10月23日 官報公告、個別催告 その事実だけでは仕訳なし
2026年10月24日 申出期間の起算 仕訳なし
2026年12月23日 二か月という最低期間の満了日 期限到来だけでは仕訳なし
2027年1月8日 設例で定めた申出期限 期限到来だけでは仕訳なし
2027年1月12日 買掛金と借入金の弁済期、全額支払い 負債と現金を減額

2026年10月23日に掲載した場合、暦による二か月の最低期間は2026年12月23日の終了時までです。設例の2027年1月8日は、この最低期間より後の日です。

末日が休日に当たる場合は、民法142条の要件も確認します。実際の期限は、公告文と掲載日を照合して決めます。

公告の申込日と掲載日は同じとは限りません。官報発行サイトの案内では、申込みから掲載までの日数を官報サービスセンターまたは官報公告等取次店へ確認するよう案内しています。期間計算には実際の掲載日を使います。

4.申出期間中の債務弁済には制限がある

会社法500条により、債権申出期間中は、原則として債務を弁済できません。

行為 取扱い
売掛金を回収する 債権の取立てであり、弁済制限の対象ではない
通常の買掛金を支払う 原則として弁済できない
少額債権や担保付債権などを弁済する 他の債権者を害するおそれがない債権について、裁判所の許可を得た場合に弁済できる
株主へ残余財産を分配する 会社法502条により、原則として債務弁済後でなければできない

例外に当たる「少額」について、一律の金額基準は条文にありません。個別の債権と会社財産を前提に裁判所の許可を得る制度です。清算人が二人以上いる場合、許可の申立てには全員の同意が必要です。

期間中に弁済できなくても、会社は債務不履行によって生じる責任を免れません。弁済期、利息、遅延損害金を別に確認します。設例では、弁済期を申出期間満了後に置いています。

条件付債権や金額が不確定な債権は、会社法501条に基づき、裁判所に鑑定人の選任を申し立て、その評価に従って弁済します。申出期間中に弁済する場合は、会社法500条による制限も確認が必要です。

5.公告、回収、弁済を別々に仕訳する

公告時の残高から確認します。金額の単位は千円です。

区分 科目 金額
資産 現金 1,000
売掛金 300
資産合計 1,300
負債 買掛金 250
借入金 400
負債合計 650
純資産 資本金 500
繰越利益剰余金 150
純資産合計 650
負債・純資産合計 1,300

現金1,000+売掛金300=資産1,300、買掛金250+借入金400=負債650、資本金500+繰越利益剰余金150=純資産650です。資産1,300=負債650+純資産650で一致します。

出来事 仕訳 理由
官報公告 公告という事実だけでは仕訳なし 既存の資産・負債は変わらない
個別催告 催告という事実だけでは仕訳なし 買掛金や借入金は残る
債権申出の受付 受付だけでは仕訳なし 未計上債務が判明したときは、その原因に応じて別途計上する
公告掲載料の債務が成立 借方:支払手数料等/貸方:未払金等 実際の金額と会社の勘定科目に従う

売掛金300を回収する

2026年11月10日に売掛金を全額回収します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 300 売掛金 300
科目 回収前 増減 回収後
現金 1,000 +300 1,300
売掛金 300 −300 0
資産合計 1,300 0 1,300
負債合計 650 0 650
純資産合計 650 0 650

資産の中身が売掛金から現金へ変わっただけです。回収額と帳簿価額が同じなので、損益は生じません。

買掛金250と借入金400を弁済する

申出期間が終わり、弁済期が到来した2027年1月12日に全額を支払います。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
買掛金 250 現金 650
借入金 400
借方合計 650 貸方合計 650

借方は買掛金250+借入金400=650、貸方は現金650で一致します。

科目 弁済前 増減 弁済後
現金 1,300 −650 650
買掛金 250 −250 0
借入金 400 −400 0
負債合計 650 −650 0
純資産合計 650 0 650

弁済後は、資産650=負債0+純資産650です。

ただし、現金650は設例上の残余財産候補額にすぎません。実務では、税金、清算費用、未計上債務、争いのある債権に必要な留保額などを確認してから分配へ進みます。

6.申出がなかった債権を一律に消さない

状況 会社法上の扱い 帳簿上の注意
知れている債権者が申出をしない 会社法503条の除斥対象ではない 申出がないことだけを理由に負債を消さない
知れていない債権者が申出をしない 清算から除斥され、未分配の残余財産に対してのみ弁済を請求できる 期間満了だけで仕訳を決めず、債権の状態と分配状況を確認する
条件付または金額不確定の債権 裁判所が選任する鑑定人の評価に従って弁済する 負債認識と見積額を事実に基づいて検討する
存否または金額に争いがある債権 必要な財産を留保すれば、他の財産を分配できる場合がある 必要な債務または引当ての処理を検討する

申出によって未計上債務が判明したときは、その原因を確認します。既に受けた役務の対価なら関連する費用と未払金、取得済みの資産ならその資産と未払金というように処理します。内容を確認せず、すべてを雑損失にすることはできません。

7.会社法、会計、法人税を分ける

判定軸 確認すること
会社法 誰を債権者として保護し、いつ弁済や分配ができるか
会計 負債などをいつ、いくら認識するか
法人税 その事業年度の損金算入要件を満たすか

国税庁「No.5387」によると、償却費以外の販売費、一般管理費その他の費用について債務が確定したといえるためには、原則として事業年度終了日までに、次の三つを満たす必要があります。

  1. 費用に係る債務が成立していること
  2. 具体的な給付原因となる事実が発生していること
  3. 金額を合理的に算定できること

したがって、将来支払う清算費用を見積もっただけで、直ちに法人税上の損金になるとは限りません。会計上の計上時期と税務上の損金算入時期は分けて確認します。

また、国税徴収法34条は、法人が国税を納付しないまま残余財産を分配または引き渡し、その法人に滞納処分をしても徴収額に不足すると認められる場合に、一定の限度で清算人や分配・引渡しを受けた者が第二次納税義務を負うことを定めています。

債権申出期限が終わっても、税務申告や納付の期限が終わったことにはなりません。残余財産を分配する前に、税額と申告・納付状況を確認します。

8.5日で定着させる練習

日 練習内容 到達点
1日目 会社法499条から503条を、公告・弁済・分配・除斥に分ける 各条文の役割を一文で説明できる
2日目 元帳、契約書、税務資料から債権者一覧の項目を作る 帳簿外の債務も確認できる
3日目 公告日、起算日、最低期間の満了日、設例の申出期限を並べる 二か月と60日を区別できる
4日目 売掛金300の回収と債務650の弁済を仕訳する 借方と貸方を一致させられる
5日目 資産1,300、負債650、純資産650から弁済後残高を再計算する 現金650が残余財産の確定額ではない理由を説明できる

9.確認した一次資料

官報公告は債務を消す手続ではありません。債権者を確認し、期間中の弁済制限を守り、回収と弁済を事実に沿って記帳することが、残余財産を計算する土台になります。

第217回 清算開始時の財産目録ゼロ入門:処分価格・清算帳簿・税務簿価を仕訳で整理(5日練習付き)

第216回では、解散日から残余財産確定日までの時間軸を整理しました。

今回は、解散日現在の財産目録と貸借対照表です。

清算開始時には、解散直前の会計簿価、会社法上の処分価格、法人税上の帳簿価額が異なることがあります。

処分価格へ評価し直しても、法人税上の帳簿価額が自動的に変わるわけではありません。

1.清算で作る書類を三段階に分ける

会社法492条、494条、507条と会社法施行規則144条から150条を基に並べます。

段階 主な書類 内容
清算開始時 財産目録、貸借対照表 解散日現在の財産状態を示す
各清算事務年度 貸借対照表、事務報告、各附属明細書 清算事務中の財産状態と執行状況を示す
清算事務終了時 決算報告 収入、費用、残余財産、一株当たり分配額などを示す

清算人は、就任後遅滞なく財産の現況を調査し、解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成します。

清算人会設置会社では、先に清算人会の承認が必要です。その後、清算人は財産目録と貸借対照表を株主総会へ提出または提供し、承認を受けます。

作成した財産目録と貸借対照表は、作成時から本店所在地における清算結了登記の時まで保存します。

2.財産目録と貸借対照表を分ける

会社法施行規則144条と145条は、二つの書類を別に定めています。

項目 財産目録 貸借対照表
作成の基礎 清算人による財産調査 財産目録に基づく
資産の金額 処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格 財産目録の金額を引き継ぐ
表示区分 資産、負債、正味資産 資産、負債、純資産
処分価格を付すことが困難な資産 処分価格による評価の例外 財産評価の方針を注記する

正味資産と純資産は名称が異なります。本設例では、いずれも資産から負債を差し引いた金額になります。

3.三つの金額を二列以上で管理する

会社法施行規則144条2項は、財産目録に計上する財産について、処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格を付すよう定めています。

同項は、清算株式会社の会計帳簿について、財産目録に付した価格を取得価額とみなすことも定めています。

金額 土地 使う場面
解散直前の会計簿価 500 解散直前の帳簿残高
清算開始時の処分価格 700 財産目録、清算開始時貸借対照表、清算帳簿
法人税上の帳簿価額 500 法人税上の譲渡損益計算

処分価格には一律の算定方法があるわけではありません。基準日、購入申出、鑑定、回収可能性、処分費用など、見積りの根拠を残します。

見積額は、将来の売却額を保証するものではありません。

4.清算開始時の金額を仕訳でつなぐ

まず、解散直前の残高を確認します。

区分 科目 金額
資産 現金 300
負債 買掛金 200
純資産 資本金500+繰越利益剰余金100 600

資産800=負債200+純資産600です。

土地を500から700へ組み替える差額は200です。通常帳簿から清算帳簿へのつながりを確認するため、学習上は次のように表せます。

借方 貸方
土地 200 清算開始時評価差額 200

借方と貸方は、ともに200です。

「清算開始時評価差額」は説明用の名称です。法令がこの勘定科目名を指定しているわけではありません。実務上の表示や帳簿への反映方法は、作成する計算書類とのつながりを確認して決めます。

区分 科目 金額
資産 現金 300
負債 買掛金 200
正味資産・純資産 1,000-200 800

資産1,000=負債200+純資産800となり、貸借は一致します。

5.売却後の清算帳簿を検算する

清算帳簿では、財産目録に付した700を土地の取得価額とみなします。

土地を700で売却したときの仕訳は次のとおりです。

借方 貸方
現金 700 土地 700

清算帳簿上の売却損益は、700-700=0です。現金は300+700=1,000になります。

買掛金200を支払います。

借方 貸方
買掛金 200 現金 200

支払後は、現金800、負債0、純資産800です。

ただし、税額と清算費用を計算していません。現金800をそのまま最終的な残余財産とすることはできません。

6.法人税上の土地簿価は500のまま

法人税法25条では、資産の評価換えによる評価益は、同条に定める例外を除き、益金の額に算入しないとされています。評価損については同法33条に対応する規定があります。

本設例は、評価益を益金算入する例外に該当しない前提です。清算開始時に土地を700で表示しても、法人税上の帳簿価額は500のまま残ります。

土地を700で売却した時点の法人税上の譲渡益は、次のとおりです。

売却額700-法人税上の帳簿価額500=譲渡益200

時点 清算帳簿 法人税
清算開始時 土地を500から700へ組み替える 評価益200は本設例では益金不算入
700で売却 売却損益0 譲渡益200

税務申告では、会計上の利益と法人税上の所得の差を別表四で調整し、必要に応じて別表五(一)などの残高とつなぎます。

ただし、申告調整の時期と記載方法は、清算開始時の評価差額を損益へ計上したか、純資産へ直接反映したか、会社法用の組替表だけで管理したかによって異なります。

損益に含まれていない評価差額を、別表四で機械的に減算してはいけません。申告書の出発点となる利益と、土地の法人税上の帳簿価額500を照合して調整します。

現行の様式と記載要領は、国税庁「令和8年4月以降に提供した法人税等各種別表関係」で確認できます。

7.よくある混同

混同 整理
解散直前の貸借対照表をそのまま財産目録にする 財産を調査し、原則として解散日現在の処分価格を付す
財産目録と貸借対照表を同じ書類と考える 貸借対照表は財産目録に基づいて別に作成する
処分価格700を税務簿価にする 本設例の法人税上の帳簿価額は500のまま
清算帳簿の売却益が0なら課税所得も0と考える 法人税上は700-500=200の譲渡益を計算する
評価差額を必ず別表四で減算する 申告書の出発点となる利益に含まれているかを先に確認する
現金800をすべて分配できると考える 税金、清算費用、未確定債務などを反映してから残余財産を確定する

8.5日で定着させる

日 取り組むこと 確認点
1日目 清算開始時、各清算事務年度、清算事務終了時の書類を分ける 財産目録と決算報告を混同していないか
2日目 三つの金額を表にする 会計簿価、処分価格、税務簿価を区別できるか
3日目 処分価格への組替えを再現する 700-500=200で借貸が一致するか
4日目 売却時の清算帳簿と法人税を二列で計算する 清算帳簿0、法人税200を説明できるか
5日目 次の確認問題を解く 税金控除前の現金を残余財産と断定していないか

確認問題

T社の解散直前の残高は、現金180、土地400、買掛金140です。土地の法人税上の帳簿価額も400です。解散日現在の処分価格は460で、後日同額で売却します。処分費用と税額は計算しません。

  1. 処分価格への評価差額はいくらですか。
  2. 財産目録の資産、負債、正味資産はいくらですか。
  3. 学習用の組替仕訳を示してください。
  4. 土地売却時の清算帳簿上の損益と、法人税上の譲渡益はいくらですか。
  5. 土地売却と買掛金支払後の現金はいくらですか。その全額を残余財産と断定できますか。

答え

  1. 460-400=60です。
  2. 資産は180+460=640、負債は140、正味資産は640-140=500です。
  3. 借方「土地60」、貸方「清算開始時評価差額60」です。
  4. 清算帳簿上は460-460=0、法人税上は460-400=60の譲渡益です。
  5. 現金は180+460-140=500です。税額や清算費用を計算していないため、500全額を最終残余財産とは断定できません。

9.今回のまとめ

  • 清算人は、解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受けます。
  • 財産目録の財産には、処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格を付します。
  • 財産目録は資産・負債・正味資産、貸借対照表は資産・負債・純資産に区分します。
  • 本設例では、清算帳簿の土地は700、法人税上の帳簿価額は500です。
  • 700で売却すると、清算帳簿上の売却損益は0でも、法人税上の譲渡益は200です。
  • 別表四の調整は、評価差額が申告書の出発点となる利益に含まれているかを確認して行います。

清算では、一つの金額だけを追うと混乱します。

会社法上の処分価格と法人税上の帳簿価額を分けて残し、売却時までつなげてください。

第216回 清算株式会社の事業年度と申告期限をゼロから整理:解散日・清算事務年度・残余財産確定日(5日練習付き)

清算株式会社の申告期限を求めるには、まず事業年度の開始日と終了日を確定させる必要があります。

事業年度の途中で解散した株式会社は、解散日でいったん区切ります。翌日からは清算事務年度に入り、残余財産が確定した日で最後の事業年度が終わります。

最後の事業年度には通常と異なる申告期限が適用されるため、解散から最後の分配までを一つの時間軸に置いて確認します。

1.最初に五つの日を分ける

会社法476条・494条によれば、清算株式会社は清算の目的の範囲内で清算結了まで存続し、各清算事務年度の貸借対照表などを作成します。

解散しただけで、会社や帳簿残高が消えるわけではありません。

日 本設例 意味
解散日 2026年10月18日 解散前の事業年度が終わる
清算事務年度の開始日 2026年10月19日 解散日の翌日から清算中の期間が始まる
第1清算事務年度末 2027年10月18日 解散日の翌日から1年間を区切る
残余財産確定日 2028年1月25日 最後の事業年度が終わる
最後の分配日 2028年2月15日 申告期限を早める場合がある

清算結了の登記日を、最後の事業年度の終了日と考えないことが大切です。解散、残余財産の確定、最後の分配、清算結了は別の出来事です。

2.事業年度は三つに分かれる

法人税法14条は、事業年度の途中で解散した場合と、清算中に残余財産が確定した場合の区切りを定めています。株式会社の清算中の事業年度は、会社法494条の清算事務年度が基礎になります。

区分 期間 終了理由
解散日の属する事業年度 2026年4月1日~2026年10月18日 事業年度の途中で解散したため
第1清算事務年度 2026年10月19日~2027年10月18日 解散日の翌日から1年間が経過したため
残余財産確定日の属する事業年度 2027年10月19日~2028年1月25日 残余財産が確定したため

従来の決算日は3月31日でしたが、清算中の期間を3月31日で区切るわけではありません。本設例では、2027年10月19日から始まった期間の途中で残余財産が確定するため、2028年1月25日が最後の事業年度の終了日です。

3.法人税の申告期限を計算する

国税庁「法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告」では、通常の確定申告期限を、原則として事業年度終了日の翌日から2か月以内と案内しています。期限が土曜日、日曜日、祝日等に当たる場合は、その翌日が期限です。

一方、法人税法74条2項によれば、清算中の法人で残余財産が確定した場合は、原則として、その確定日の翌日から1か月以内に申告します。その期間内に残余財産の最後の分配または引渡しを行うときは、その前日までです。

対象事業年度 計算 法人税の申告期限
2026年4月1日~10月18日 終了日の翌日から2か月以内 2026年12月18日
2026年10月19日~2027年10月18日 2か月後の2027年12月18日は土曜日 2027年12月20日
2027年10月19日~2028年1月25日 原則は2028年2月25日。ただし、2月15日に最後の分配を行う 2028年2月14日

「2か月以内」を60日後と読み替えてはいけません。暦で2か月後または1か月後を求め、休日と最後の分配日を確認します。

4.消費税と地方税は分けて確認する

法人税の期限を、そのまま他の税目へ転記することはできません。

税目 確認すること 一次資料
法人税等 各事業年度の終了日、2か月期限、残余財産確定時の1か月期限、最後の分配日 法人税法14条・74条、国税庁の申告案内
消費税 課税事業者に該当するか、課税期間、清算時の申告期限 国税庁タックスアンサーNo.6610
法人住民税・法人事業税 所在地を管轄する自治体の期限、様式、提出先 都道府県・市町村の案内

国税庁は、清算中の課税事業者について残余財産が確定した場合、消費税の確定申告書を原則として課税期間終了日の翌日から1か月以内に提出すると案内しています。その期間内に最後の分配等を行うときは、その前日までです。

これは課税事業者についての説明です。すべての清算法人に消費税の申告義務や納税額が生じるという意味ではありません。

地方税は所在地ごとに確認します。たとえば、東京都主税局の法人事業税・法人都民税の案内にも、通常の確定申告と残余財産確定時の期限が示されています。東京都の案内を他道府県や市町村へそのまま当てはめることはできません。

5.残余財産確定日は資料で確認する

解散日と残余財産確定日は同じとは限りません。「換価がほぼ終わった」「分配額の見込みが立った」というだけで日付を決めることもできません。

消費税法基本通達15-2-6は、消費税における残余財産の確定を、一切の資産と負債の額が具体的に確定したこととしています。

この通達は消費税の取扱いであり、法人税や会社法上の判断を無条件に置き換えるものではありません。実務では、確定日を事実と資料から確認する必要があります。

確認項目 資料の例
資産 換価結果、預金残高、売掛金等の回収状況
負債 債務の弁済状況、未払費用、税金、清算費用
残余財産 財産目録、貸借対照表、株主ごとの分配額を示す計算資料
分配 分配内容を決めた記録、支払予定日、振込記録

確定日と最後の分配日は申告期限に直結するため、計算資料、会議録、元帳、支払資料を突き合わせます。

6.解散日で費用を分ける

事業年度が解散日で終わるため、月額費用も期間帰属を確認します。

企業会計原則注解の注5では、継続して役務の提供を受ける契約について、まだ提供されていない役務に対する支出を前払費用として資産に計上する考え方が示されています。

S社は2026年10月1日、10月分の事務所家賃310を普通預金から支払い、全額を地代家賃に計上しました。役務は毎日均等に提供されるものとし、消費税は設例から除きます。

1日当たりの家賃は、310÷31日=10です。解散日までの18日分は180、翌日以後の13日分は130となります。

日付 借方 金額 貸方 金額
2026年10月1日 地代家賃 310 普通預金 310
2026年10月18日 前払費用 130 地代家賃 130
2026年10月31日 地代家賃 130 前払費用 130
確認時点 地代家賃 前払費用 検算
2026年10月18日 解散日までの費用180 借方残高130 180+130=310
2026年10月31日 清算中の事業年度の費用130 残高0 180+130=310

各仕訳の借方と貸方は一致しています。前払費用130は、翌日から始まる清算中の事業年度へ引き継ぎます。

この仕訳は会計上の期間配分です。法人税上の損金算入時期は、契約内容と適用要件を別に確認します。

7.5日で定着させる

日 練習 到達点
1日目 解散日、清算事務年度末、残余財産確定日、最後の分配日を時系列に並べる 四つの日を区別できる
2日目 S社の三つの事業年度を書く 開始日と終了日がつながる
3日目 2か月期限、休日、1か月期限、分配日前日を順に確認する 12月18日、12月20日、2月14日を理由付きで求められる
4日目 家賃310を180と130に分けて仕訳する 借貸と前払費用残高を検算できる
5日目 法人税、消費税、地方税の確認先を書く 一つの期限を全税目へ流用しない

まとめ

清算株式会社の申告期限は、解散日、清算事務年度末、残余財産確定日、最後の分配日を順に確定してから、税目ごとの一次資料に当てはめて判断します。

第215回 清算中子会社の期限切れ欠損金ゼロ入門:残余財産がない見込み・控除順序・別表七(四)を整理(5日練習付き)

第214回では、子会社の残余財産が確定した後に、一定の未処理欠損金額を親会社が引き継ぐ場面を扱いました。

今回は、その前の段階です。清算中の子会社に土地売却益などが生じても、残余財産がないと見込まれるときは、法人税法59条4項による欠損金の損金算入を受けられる場合があります。

先に法人税法57条の欠損金を控除し、その後に法人税法59条4項の金額を控除します。判定時点は解散日ではなく、適用を受ける清算中の事業年度終了時です。

1.第214回との違い

項目 第214回 今回
欠損金を使う法人 親会社P社 清算中の子会社S社
主な時点 子会社の残余財産確定日の翌日以後 適用を受ける清算中の事業年度終了時
中心となる規定 法人税法57条2項 法人税法59条4項
主な別表 親会社側の別表七(一)付表一など 子会社側の別表七(一)と別表七(四)

子会社がすでに使った欠損金額を、親会社が重ねて使うことはできません。また、会計上の累積赤字が、そのまま親会社へ引き継がれるわけでもありません。

2.法人税法59条4項の確認順序

法人税法59条4項・6項と法人税法施行令117条の5を、三段階に分けます。

段階 確認内容
1.判定 解散した法人について、適用年度終了時に残余財産がないと見込まれるか
2.通常の控除 法人税法57条の欠損金を先に控除する
3.限度額 政令で計算した欠損金額と、法人税法59条4項の適用前の所得金額のうち少ない額を控除する

「期限切れ欠損金」は実務上の呼び方です。期限を過ぎた欠損金を年度別に足すだけではありません。前事業年度以前から繰り越された税務上の欠損金額、税務上の資本金等の額、法人税法57条による当期控除額を使って計算します。

また、確定申告書には損金算入額とその計算明細を記載し、残余財産がないと見込まれることを説明する書類を添付する必要があります。

対象となる所得は債務免除益に限られません。本設例の土地売却益も、適用年度の所得に含まれます。

3.土地売却の仕訳と残高

土地の帳簿価額は100、売却額は800です。売却益は700になります。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 800 土地 100
合計 800 合計 800
科目 売却前 増減 売却後
現金 200 +800 1,000
土地 100 △100 0
資産合計 300 +700 1,000
外部借入金 1,200 0 1,200
資本金 100 0 100
繰越利益剰余金 △1,000 +700 △300
純資産合計 △900 +700 △200
負債・純資産合計 300 +700 1,000

売却後の資産は1,000、負債は1,200です。純資産は△200となり、資産をすべて債務の弁済に充てても株主へ分配する財産は残りません。

4.残余財産がない見込みの判定

帳簿上の純資産がマイナスであることだけで判定するのではありません。含み益のある資産、回収可能な簿外債権、保証金、未計上の債務なども確認します。

法人税基本通達12-3-7から12-3-9では、判定時点を清算中の各事業年度終了時としています。その時点で債務超過であれば、残余財産がないと見込まれる場合に該当します。

本設例では、土地は第三者へ800で売却済みです。期末資産は現金1,000、外部借入金は1,200であるため、実態価額で見ても200の債務超過です。

5.控除額を計算する

会計上・税務上の土地売却益はともに700で、ほかに所得調整項目はありません。欠損金控除前の所得金額は700です。

設例では、法人税法57条により当期に控除できる欠損金額を300としています。したがって、通常の欠損金を控除した後の所得金額は次のとおりです。

700-300=400

次に、2026年4月1日以後終了事業年度分の別表七(四)に沿って、法人税法59条4項の限度額を計算します。

計算項目 金額 計算
前事業年度以前から繰り越された欠損金額 1,000 設例の前提
資本金等の額に係る金額 0 資本金等の額がプラス100のため0
法人税法57条による当期控除額 300 別表七(一)の当期控除額
差引欠損金額 700 1,000-0-300
通常の欠損金控除後の所得 400 700-300
法人税法59条4項の損金算入額 400 700と400のうち少ない額
最終的な所得金額 0 700-300-400

土地売却益700-法人税法57条の欠損金300-法人税法59条4項の欠損金400=所得0

これは、この設例における法人税の所得計算です。所得が0でも、法人住民税の均等割などが別に生じることがあります。

6.欠損金控除の仕訳はしない

項目 会計仕訳 税務上の処理
土地の売却 現金、土地、固定資産売却益を記帳する 売却益700を所得計算に反映する
法人税法57条の300 仕訳しない 別表七(一)などで控除する
法人税法59条4項の400 仕訳しない 別表七(四)などで控除する

税金費用を除いた設例上の会計利益は700です。繰越利益剰余金は△1,000から△300になります。一方、税務上の所得金額は0です。

残った会計上の赤字300が、そのまま翌期に控除できる欠損金300を意味するわけではありません。繰越利益剰余金、別表五(一)の利益積立金額、別表七(一)の控除未済欠損金額は分けて確認します。

7.申告時に確認する資料

法人税法施行規則26条の6第3号は、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付を定めています。

資料 確認内容
別表七(一) 法人税法57条による当期控除額300
別表七(四) 法人税法59条4項による損金算入額400
別表四・別表五(一) 所得金額と利益積立金額等のつながり
実態貸借対照表 期末の資産1,000と負債1,200
土地売買契約書・入金資料 土地の処分価額800と入金額
借入金残高資料 期末借入金1,200の存在と金額

実際には、未払清算費用、租税債務、保証債務、回収予定債権なども確認します。資産と負債の一部だけを選んで債務超過を示すことはできません。

8.各事業年度で判定し直す

残余財産がない見込みは、解散時に一度だけ判定するものではありません。清算が複数年度にわたる場合は、適用を受ける各事業年度終了時の現況で判定します。

国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例」問9・問10では、ある事業年度末に適正に適用した後、翌年度に見込みが変わっても、過去の適用をさかのぼって修正する必要はないと説明されています。翌年度については、その年度末の現況で改めて判定します。

この質疑応答事例は公表当時の条文番号で記載されています。2026年10月17日現在の対応規定は、法人税法59条4項と法人税法施行令117条の5です。

9.5日で定着させる

日 練習内容 確認結果
1日目 第214回と今回について、欠損金を使う法人を書く 第214回はP社、今回はS社
2日目 土地売却の仕訳を書く 借方800、貸方100+700
3日目 売却後の貸借対照表を再計算する 資産1,000=負債1,200+純資産△200
4日目 欠損金の控除順序を書く 700-300-400=0
5日目 売却後に損金となる清算費用100を現金で支払った場合を計算する 600-300-300=0。資産900=負債1,200+純資産△300

覚える順序は、期末判定、法人税法57条、法人税法59条4項、所得の再計算です。最初から別表のすべての欄を覚える必要はありません。

10.まとめ

  • 法人税法59条4項は、残余財産がないと見込まれる清算中の法人自身が適用する制度です。
  • 判定は、適用を受ける清算中の事業年度終了時に行います。
  • 設例では、土地売却益700から法人税法57条の欠損金300を先に控除し、残る400を法人税法59条4項により控除しました。
  • 欠損金の控除は税務申告上の処理であり、固定資産売却益を消す会計仕訳は行いません。
  • 申告時には、別表七(四)だけでなく、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付も確認します。

実務では、過去の申告書、別表五(一)、別表七(一)、資産の処分価額、債務残高、清算日程を一体で確認してください。個別案件は税理士などの専門家へ確認する必要があります。

根拠資料