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第204回 子会社株式の一部売却ゼロ入門:支配継続・支配喪失と資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第203回では、株式交付によって会社を子会社にする場面を確認しました。今回は、その子会社株式の一部を売却します。

最初に見るのは売却益ではありません。売却後も支配が続くかどうかです。

個別財務諸表では株式の売却損益を計上します。一方、連結財務諸表では、支配が続く一部売却を非支配株主との資本取引として扱います。

1.売却後の関係を判定する

売却後の関係 個別財務諸表 連結財務諸表
支配が続く 売却した株式の簿価を減らし、売却損益を計上する 売却持分を非支配株主持分へ振り替え、売却価額との差額を資本剰余金とする
支配を失うが重要な影響力が残る 売却損益を計上し、残存株式を関連会社株式として保有する S社を連結から外し、残存投資に持分法を適用する。個別上の売却損益には連結上の修正が入ることがある
支配も重要な影響力も失う 売却損益を計上し、残存株式を金融商品会計に従って扱う S社を連結から外す。残存投資は連結除外時に個別貸借対照表上の帳簿価額で評価する

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第29項は、支配が続く一部売却について、売却持分と売却価額との差額を資本剰余金とするよう定めています。支配を失う場合を含む具体的な計算は、移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第41項以下で確認できます。

以下の「80%から60%なら支配継続」「80%から30%なら関連会社」という区分は、各設例の前提です。実務では議決権割合のほか、役員構成、契約、意思決定機関への影響なども確認します。

2.個別では、売却した株式の簿価を外す

企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第17項では、子会社株式と関連会社株式を個別財務諸表上、取得原価で評価します。減損が必要な場合は別途処理します。

同一種類の株式を比例的に売却する単純な設例では、次の順に計算できます。

売却株式の簿価=売却前の株式簿価×売却した持分比率÷売却前の持分比率

個別上の売却損益=売却価額-売却株式の簿価

複数回取得した株式がある場合は、会計上の帳簿価額の算定方法と税務上の一単位当たりの帳簿価額を、それぞれ確認します。

設例1:80%から60%へ売却する

P社の売却前持分 80%
P社個別上のS社株式簿価 800
売却する持分 S社全体の20%
売却価額 260
売却後持分 60%。支配は継続する
売却時のS社連結上純資産 1,000

S社全体の20%を売ることは、P社が保有する80%のうち4分の1を売ることです。

  • 売却株式の個別簿価:800×20%÷80%=200
  • 個別上の売却益:260-200=60
  • 売却後のS社株式残高:800-200=600
借方 金額 貸方 金額
現金預金 260 S社株式 200
― ― 関係会社株式売却益 60
合計 260 合計 260

借方と貸方は260で一致します。仕訳後のS社株式残高は600です。

3.支配が続けば、連結上の差額は資本剰余金

売却後もP社はS社を支配しています。連結上は事業を手放したとは考えず、親会社株主と非支配株主との間の資本取引として処理します。

  • 売却持分:S社連結上純資産1,000×20%=200
  • 非支配株主持分:売却前200から売却後400へ増加
  • 親会社持分変動差額:売却価額260-売却持分200=60

開始時の投資と資本の相殺消去を引き継いだ連結精算表では、法人税等相当額を考慮する前の修正を次のように表せます。

借方 金額 貸方 金額
S社株式 200 非支配株主持分 200
関係会社株式売却益 60 資本剰余金 60
合計 260 合計 260

第1行は、個別で減額した株式簿価200を非支配株主持分へ振り替える修正です。第2行で個別上の売却益60を消去し、法人税等相当額控除前の資本剰余金へ振り替えます。この仕訳は連結精算表上の修正であり、P社の個別帳簿へ追加記帳するものではありません。

項目 増減
受取現金 +260
非支配株主持分 +200
資本剰余金(法人税等相当額控除前) +60

現金の増加260=非支配株主持分の増加200+資本剰余金の増加60となります。

支配が続く一部売却では、支配獲得時に計上したのれんの未償却額を売却割合に応じて減額しません。売却手数料等は売却時の費用です。

実際の連結決算では、親会社持分変動差額に関連する法人税等相当額を資本剰余金から控除します。原則的な計算は、持分変動差額に法定実効税率を乗じる方法です。本設例では税率を置いていないため、資本剰余金60は法人税等相当額控除前の金額です。会計処理の結果、連結会計年度末の資本剰余金が負の値となる場合は、資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。

4.支配を失えば、連結上も売却損益を認識する

設例2:80%から30%へ売却する

設例1とは別の取引です。

売却前持分と個別簿価 80%、800
S社の連結上の資産・負債 資産1,400、負債400、純資産1,000
売却する持分と価額 S社全体の50%を650で売却
売却後持分 30%。支配を失うが重要な影響力は残る
その他の前提 非支配株主持分200。のれん、取得後の投資修正額、その他の包括利益累計額はない

個別財務諸表の計算は次のとおりです。

  • 売却株式の簿価:800×50%÷80%=500
  • 売却益:650-500=150
  • 残存する関連会社株式:800-500=300
借方 金額 貸方 金額
現金預金 650 S社株式 500
― ― 関係会社株式売却益 150
合計 650 合計 650

連結では、支配喪失日までのS社損益を取り込んだうえで、S社の資産・負債と非支配株主持分を連結から外します。残存する30%は持分法による投資へ切り替えます。

本設例には取得後の投資修正額がないため、残存投資は個別簿価と同じ300です。連結上の売却益も次のように150となります。

受取現金650+残存投資300-売却前の親会社持分800=売却益150

借方側の増減 金額 貸方側の増減 金額
現金の増加 650 S社資産の連結除外 1,400
残存投資の計上 300 連結上の売却益 150
S社負債の連結除外 400 ― ―
非支配株主持分の取崩し 200 ― ―
合計 1,550 合計 1,550

これは支配喪失前後の増減をまとめた検算表です。P社の個別仕訳へそのまま追加する連結修正仕訳ではありません。

実際には、支配獲得後の利益剰余金、評価差額、その他の包括利益累計額、のれん償却累計額などがあるため、個別上と連結上の売却損益が一致しないことがあります。関連会社になる場合は、残存株式の個別簿価へ売却後持分に対応する投資の修正額を加減し、持分法による投資評価額へ直します。残存持分に対応する未償却のれんも、持分比率の推移などを踏まえて算定します。

支配も重要な影響力も失う場合、連結除外時の残存投資は個別貸借対照表上の帳簿価額で評価します。日本基準では、支配喪失時に残存持分を一律に時価へ再測定するわけではありません。

5.法人税と消費税は連結処理から分ける

論点 取扱い 設例1
法人税上の譲渡原価 一単位当たりの帳簿価額に譲渡株式数を乗じて計算する 800×20%÷80%=200
法人税上の譲渡利益 通常得べき対価の額から譲渡原価を控除する 260-200=60
計上事業年度 原則として譲渡契約日の属する事業年度 契約日と引渡日が同日の前提
消費税 株式の譲渡は非課税取引 売却価額に消費税を上乗せしない
課税売上割合 株式など特定の有価証券等の譲渡対価は、原則として対価の5%相当額を分母へ算入する 260×5%=13

法人税法61条の2第1項では、有価証券の譲渡利益額または譲渡損失額を、通常得べき対価の額と譲渡原価との差額として計算します。譲渡原価は、一単位当たりの帳簿価額に譲渡した株式数を乗じた金額です。計上時期は、法人税基本通達2-1-22により、原則として譲渡契約の成立日です。

したがって、設例1の差額60を連結上の資本剰余金とすることと、P社の法人税上の譲渡利益60を認識することは別の処理です。税務簿価が会計上の簿価と異なる場合や、通常得べき対価と異なる価額で譲渡する場合は、税務上の金額も変わる可能性があります。

消費税について、国税庁のタックスアンサーNo.6209は、有価証券の譲渡を非課税取引として示しています。また、タックスアンサーNo.6405では、課税売上割合の分母へ加える特定の有価証券等の譲渡対価を、その対価の5%相当額としています。5%は消費税率ではありません。いずれも2026年4月1日現在の法令等に基づく国税庁資料です。

6.間違えやすい五つの点

誤り 直し方
持分比率だけで支配喪失を決める 議決権、契約、役員構成なども含めて判定する
80%から20%分を売ると、保有株式の20%を売ったことになる S社全体の20%は、保有する80%の25%に当たる
支配継続時も個別上の売却益を連結損益に残す 売却価額と売却持分との差額を資本剰余金とする
支配継続時にのれんを売却割合だけ減らす 支配獲得時の未償却のれんは減額しない
株式の売却価額へ消費税を上乗せする 株式の譲渡は非課税。ただし課税売上割合の分母計算は別に確認する

7.5日で定着させる練習

日 練習 確認点
1日目 80%から60%、30%、10%へ売却する例を分類する 設例の前提に従い、支配継続、持分法、両方の対象外に分ける
2日目 設例1の個別仕訳を作る 売却簿価200、売却益60、残高600
3日目 設例1の連結処理を計算する 売却持分200、非支配株主持分の増加200、資本剰余金は法人税等相当額控除前60
4日目 設例2の支配喪失を検算する 残存投資300、売却益150、増減合計1,550
5日目 設例1の法人税と消費税を分けて説明する 法人税上の譲渡利益60、課税売上割合の分母算入額13
5日練習の答えを確認する
  1. 設例の前提では、80%から60%は支配継続、30%は支配喪失後に持分法、10%は連結と持分法の対象外です。
  2. 個別仕訳は、借方・現金預金260、貸方・S社株式200、関係会社株式売却益60です。
  3. 連結では非支配株主持分が200増え、売却価額260との差額60を法人税等相当額控除前の資本剰余金とします。
  4. 設例2は、650+300+400+200=1,550、1,400+150=1,550で一致します。
  5. 法人税上の譲渡利益は60です。株式譲渡は消費税の非課税取引ですが、課税売上割合の分母には260の5%である13を算入します。

まとめ

子会社株式を一部売却するときは、売却後の支配関係から判定します。

支配が続けば、個別上の売却損益を連結上は資本剰余金へ振り替えます。支配を失えばS社の資産・負債を連結から外し、残存投資を持分法または金融商品会計へ切り替えます。

連結上の処理、法人税上の譲渡損益、消費税上の非課税判定は別々に確認します。この順序を守れば、一部売却の処理を整理できます。