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第210回 子会社の無償減資ゼロ入門:資本金・欠損填補・税務上の資本金等の額を仕訳で整理(5日練習付き)

第209回では、子会社が自己株式を消却する場面を扱いました。自己株式の消却では発行済株式数が減ります。

今回扱う無償減資では、株主へ財産を払い戻さず、株式数も変えません。動くのは資本金などの内訳です。

無償減資と欠損填補は二段階で考えます。まず資本金をその他資本剰余金へ振り替え、次にその他資本剰余金で繰越利益剰余金のマイナスを埋めます。

1.自己株式の消却、無償減資、欠損填補を分ける

手続 主に動くもの 発行済株式数 純資産合計
自己株式の消却 自己株式と対応する株主資本項目 減る 原則として変わらない
無償減資 資本金から資本剰余金への振替 減資だけでは変わらない 変わらない
欠損填補 その他資本剰余金から繰越利益剰余金への振替 変わらない 変わらない

減資は株式を消す手続ではありません。株式併合や自己株式の消却を併せて行えば株式数も動きますが、本設例では行いません。

株主へ財産を交付する減資は、今回のような払戻しのない無償減資とは会計・税務が異なります。

2.会社法上も二つの手続になる

会社法447条により、資本金を減少するときは、減少額、準備金とする額、効力発生日などを定めます。本設例では株主総会で決議します。

資本金の減少については、同法449条の債権者異議手続が必要です。官報公告と知れている債権者への各別催告を行い、異議を述べられる期間は1か月以上とします。官報に加え、定款所定の日刊新聞紙または電子公告による公告を行った場合は、各別催告を省略できます。手続が終わっていなければ、予定した効力発生日は到来しません。

欠損填補は、同法452条に基づく剰余金の処分です。本設例では、資本金の減少と欠損填補について、それぞれ必要な事項を決議します。

順序 確認すること
1 資本金の減少と剰余金の処分について決議する
2 債権者異議手続を行う
3 効力発生日に資本金の減少を帳簿へ反映する
4 その他資本剰余金で確定した欠損を填補する
5 資本金の変更登記と税務申告への反映を確認する

会計仕訳だけで法的手続が終わるわけではありません。

3.取引前の残高

科目 金額
資産 900
負債 300
資本金 800
資本準備金 100
その他資本剰余金 0
繰越利益剰余金 △300
純資産合計 600

貸借対照表は「資産900=負債300+純資産600」です。純資産も「800+100+0-300=600」と一致します。

4.S社の個別仕訳

第1段階:資本金をその他資本剰余金へ振り替える

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金 300 その他資本剰余金 300

資本金は800から500へ減り、その他資本剰余金は0から300へ増えます。株主資本内部の振替なので、収益や費用は生じません。

第2段階:その他資本剰余金で欠損を填補する

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
その他資本剰余金 300 繰越利益剰余金 300

繰越利益剰余金は「△300+300=0」となります。利益が300発生したのではありません。

科目 取引前 減資後 欠損填補後
資本金 800 500 500
資本準備金 100 100 100
その他資本剰余金 0 300 0
繰越利益剰余金 △300 △300 0
純資産合計 600 600 600

検算:第1段階も第2段階も借方300=貸方300です。資産900、負債300、純資産600も変わりません。

企業会計基準第1号では、資本金の減少によって生じる剰余金を、減少の法的効力が生じたときにその他資本剰余金へ計上します。

資本剰余金から利益剰余金への振替は原則として認められません。ただし、年度決算時の利益剰余金が負の残高である場合に、その他資本剰余金でその負の残高を補う処理は、両者の混同には当たらないとされています。正の利益剰余金をつくるための振替はできません。

欠損が200なら填補額も200です。残る100はその他資本剰余金に残します。

5.P社の個別と連結

P社の個別財務諸表

P社は現金や財産を受け取らず、保有株式数も子会社株式の取得原価480も変わりません。本設例では仕訳を行いません。

子会社の資本金が減ったという理由だけで、子会社株式を減額することもありません。ただし、実際に子会社株式の実質価額が著しく低下している場合は、減損処理の要否を別に検討します。

連結財務諸表

S社の純資産600とP社の持分比率80%は変わりません。P社持分は480、非支配株主持分は120のままです。

区分 計算 減資前 欠損填補後
P社持分 600×80% 480 480
非支配株主持分 600×20% 120 120

本設例の前提による欠損填補後の投資と資本の相殺消去は、次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金 500 子会社株式 480
資本準備金 100 非支配株主持分 120
合計 600 合計 600

無償減資と欠損填補だけを理由に、連結上の損益、新たなのれん、持分変動差額は生じません。実際の資本連結仕訳は、取得日、取得後損益、評価差額、既存ののれんなどによって変わります。

6.法人税、消費税、地方税

確認項目 本設例の扱い
S社の法人税所得 株主資本内部の振替だけであり、この取引単独による益金・損金はない
法人税上の資本金等の額 株主への払戻しがないため900のまま
税務上の繰越欠損金 会計上の欠損填補だけでは増減しない
P社の法人税 財産の交付も株式譲渡もないため、この取引単独による収益はない
消費税 対価を得て行う資産の譲渡等ではなく、課税対象外

法人税法施行令8条による資本金等の額は、会計上の資本金と同じではありません。資本金を300減少させても、払戻しのない本設例では、その減少額に対応する税務上の調整によって資本金等の額900は変わりません。

指標 金額
会計上の資本金 500
会計上の資本金+資本準備金 600
会計上の純資産合計 600
法人税上の資本金等の額 900

会計上の繰越利益剰余金が0になっても、税務上の繰越欠損金は消えません。欠損金の繰越控除は、欠損金が生じた事業年度の申告や、その後の申告などについて、法人税法57条等の要件を別に判定します。国税庁のタックスアンサーNo.5762は、2026年4月1日現在の取扱いを案内しています。

消費税についても、無償減資は有価証券の譲渡ではありません。対価を得て行う取引に当たらないため、国税庁タックスアンサーNo.6209にいう不課税取引、つまり課税対象外の取引として整理します。

地方税の資本金等の額はもう一度計算する

法人住民税均等割では、法人税上の資本金等の額に無償減資等による損失填補の調整を行い、会計上の資本金と資本準備金の合計額と比較します。

本設例で、損失填補に使ったその他資本剰余金300が、填補日前1年以内の資本金減少によって計上されたものであり、必要書類も整っている場合は、調整後の資本金等の額は「900-300=600」です。会計上の資本金と資本準備金の合計も「500+100=600」なので、均等割の税率区分の基準は600となります。

ここでいう損失は、填補時のその他利益剰余金全体のマイナス額を基礎に判定します。添付書類や過去の組織再編によって計算が変わることもあります。申告時は、申告先自治体の様式と案内を確認してください。東京都主税局のチェックポイントでは、1年以内という要件や必要書類が示されています。

7.間違えやすいポイント

  • 無償減資だけで現金を減らさない。
  • 減資だけで発行済株式数や持分比率を変えない。
  • 欠損填補額を収益にしない。
  • 正の利益剰余金をつくるために資本剰余金を振り替えない。
  • 親会社の子会社株式を自動的に減額しない。
  • 会計上の欠損と税務上の繰越欠損金を同一視しない。
  • 会計上の資本金500を地方税の判定へそのまま使わない。

8.3問で確認する

問題1

資本金を300減少させた直後、欠損填補前の残高はいくらでしょうか。

答え:資本金500、資本準備金100、その他資本剰余金300、繰越利益剰余金△300、純資産合計600です。

問題2

資本金800、資本準備金100、その他資本剰余金0、繰越利益剰余金△200の会社が、資本金を300減少させて欠損を全額填補する場合はどうなるでしょうか。

答え:まず「借方:資本金300/貸方:その他資本剰余金300」、次に「借方:その他資本剰余金200/貸方:繰越利益剰余金200」とします。最終残高は資本金500、資本準備金100、その他資本剰余金100、繰越利益剰余金0です。純資産合計700は変わりません。

問題3

本設例の無償減資と欠損填補により、非支配株主持分120は増減するでしょうか。

答え:増減しません。S社の純資産600と非支配株主の持分比率20%が変わらないため、「600×20%=120」のままです。

9.5日で定着させる

日 練習内容
1日目 自己株式の消却、無償減資、欠損填補の違いを書く
2日目 資本金からその他資本剰余金への仕訳と残高を確認する
3日目 欠損填補の仕訳を書き、純資産合計を検算する
4日目 親会社個別、連結、法人税、消費税、地方税を分けて説明する
5日目 上の3問を資料なしで解き、借貸と残高を再計算する

10.まとめ

  • 自己株式の消却は株式数、無償減資は資本金の額を動かす。
  • 欠損填補は、資本金からその他資本剰余金、その他資本剰余金から繰越利益剰余金という二段階で考える。
  • 本設例では、現金、純資産合計、株式数、持分比率は変わらない。
  • 会計上の資本金、法人税上の資本金等の額、税務上の繰越欠損金、地方税の判定額は別に確認する。

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