第201回では、独立企業が共同で会社を支配する「共同支配企業の形成」を確認しました。今回は、会社を消滅させずに完全親子会社関係をつくる株式交換と株式移転を扱います。
株式交換・株式移転は会社法上の形式です。会計では、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等のどれに当たるかを別に判定します。単独株式移転は、企業結合に該当しない取引です。
1.株式交換と株式移転の違い
会社法2条31号・32号、767条から774条を基に整理すると、違いは「既存会社を親会社にするか、新会社を設立するか」です。
| 形式 | 完全親会社 | 取得する株式 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 株式交換 | 既存の株式会社または合同会社 | 完全子会社となる株式会社の発行済株式の全部 | 株式交換契約を締結する。本稿の設例では株式会社を親会社とする |
| 株式移転 | 株式移転により新設する株式会社 | 一社または複数社の発行済株式の全部 | 株式移転計画を作成し、新設会社の下に既存会社を置く |
| 株式交付 | 既存の株式会社 | 他社を子会社とするために必要な株式 | 全株式の取得を要しない。本稿の対象外 |
株式交換や株式移転では、完全子会社となる会社は消滅しません。その会社の事業用資産・負債も、個別帳簿に残ります。親会社が取得するのは、原則として完全子会社の株式です。
2.六つの順序で判定する
| 順序 | 確認事項 |
|---|---|
| 1 | 株式交換か株式移転か |
| 2 | 取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等、企業結合に該当しない取引のどれか |
| 3 | 会計上の取得企業はどの会社か |
| 4 | 各社の個別財務諸表で何を計上するか |
| 5 | 連結財務諸表で何を消去・調整するか |
| 6 | 株主の課税関係と法人税上の適格性を、それぞれ判定する |
法的な親会社が、そのまま会計上の取得企業になるとは限りません。議決権比率、株主構成、経営陣などを総合して判定します。
3.取得となる株式交換
A社を株式交換完全親会社、B社を株式交換完全子会社とし、会計上もA社が取得企業となる例です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| A社が交付する自社株式の時価総額 | 1,200 |
| A社で増加させる払込資本 | 資本金600、資本剰余金600 |
| B社の資本金 | 500 |
| B社の利益剰余金 | 300 |
| B社の帳簿上の株主資本 | 800 |
| B社の土地の時価評価差額 | 200 |
| B社の識別可能純資産の時価 | 1,000 |
土地の評価差額に関する税効果は、計算の流れを明確にするため除外しています。税効果を考慮する設例では、評価差額200をそのまま純資産の増加額とはしません。
A社の個別財務諸表
企業会計基準適用指針第10号の第110項・第111項によれば、取得となる株式交換では、完全親会社は取得対価を基礎として子会社株式を計上し、新株の発行額を払込資本とします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 1,200 | 資本金 | 600 |
| - | - | 資本剰余金 | 600 |
| 合計 | 1,200 | 合計 | 1,200 |
A社の個別財務諸表で取得する資産はB社株式です。B社の土地や負債を直接計上しません。子会社株式とB社の純資産との差額を、A社の個別財務諸表でのれんにすることもありません。
実際に取得に直接要した付随費用がある場合、個別財務諸表では子会社株式の取得原価に含める一方、連結財務諸表では取得関連費用として発生時に費用処理する点にも注意が必要です。本設例では付随費用をゼロとしています。
B社の個別財務諸表
B社では株主がA社へ変わりますが、B社自身の資産・負債は移転しません。この株主変更だけを理由とする仕訳はなく、土地も時価へ書き換えません。
新株予約権の処理やB社自身が負担した費用などがあれば、別途検討します。
A社の連結財務諸表
連結では、A社の投資と取得日におけるB社の資本を相殺します。適用指針第116項に従い、消去差額をのれんまたは負ののれんとして処理します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 取得対価 | A社が交付した株式の時価 | 1,200 |
| B社の帳簿上の株主資本 | 500+300 | 800 |
| 土地の時価評価差額 | - | 200 |
| 識別可能純資産の時価 | 800+200 | 1,000 |
| のれん | 1,200-1,000 | 200 |
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| B社資本金 | 500 | 子会社株式 | 1,200 |
| B社利益剰余金 | 300 | - | - |
| 土地 | 200 | - | - |
| のれん | 200 | - | - |
| 合計 | 1,200 | 合計 | 1,200 |
借方と貸方は1,200で一致します。B社は100%子会社となるため、この設例に非支配株主持分はありません。
4.単独株式移転で持株会社を設立する場合
C社が単独株式移転により、新しい完全親会社H社を設立する例です。C社の資本金は400、利益剰余金は500、適正な帳簿価額による株主資本は900とします。
適用指針第258項・第259項では、単独株式移転について、第239項・第240項のうち旧親会社に関する処理に準じるとしています。設例では、会社法に基づいてH社の資本金を300、資本剰余金を600とすることが決定済みと仮定します。
H社の個別財務諸表
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 900 | 資本金 | 300 |
| - | - | 資本剰余金 | 600 |
| 合計 | 900 | 合計 | 900 |
子会社株式900は、C社の株式移転日前日の適正な帳簿価額による株主資本を基礎にしています。C社では、株主がH社へ変わったことだけを理由とする仕訳はありません。
H社の連結財務諸表
まず、H社の子会社株式とC社の株主資本を相殺します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| C社資本金 | 400 | 子会社株式 | 900 |
| C社利益剰余金 | 500 | - | - |
| 合計 | 900 | 合計 | 900 |
このままでは、H社個別の資本金300と資本剰余金600だけが残ります。株式移転前のC社の利益剰余金500を連結上で引き継ぐため、株主資本項目を調整します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 資本剰余金 | 500 | 利益剰余金 | 500 |
| 合計 | 500 | 合計 | 500 |
調整後の連結株主資本は、資本金300、資本剰余金100、利益剰余金500、合計900です。子会社株式900とC社の株主資本900の消去差額はゼロであり、単に新しい親会社を上に置くこの設例では、新たなのれんは生じません。
5.複数社の株式移転は分類が先
| 形態 | 判断の中心 | 処理の方向 |
|---|---|---|
| 一社だけの単独株式移転 | 企業結合には該当しない | 旧会社の適正な帳簿価額による株主資本を基礎とする |
| 独立した複数社の株式移転で、一社が取得企業となる | どの既存会社が会計上の取得企業か | 取得企業となる会社の株式は帳簿価額を基礎とし、被取得企業となる会社には取得の会計処理を適用する |
| 共同支配企業の形成となる株式移転 | 共同支配契約などの判定要件を満たすか | 共同支配企業の形成として処理する |
| 既存の親子会社が共同で行う株式移転 | 最終的な支配が継続しているか | 共通支配下の取引等として帳簿価額を基礎に処理する |
新設された会社が法的な親会社だからといって、会計上の取得企業になるとは限りません。株式移転完全子会社となった既存会社が、会計上の取得企業になることがあります。
6.税務は株主と法人を分ける
居住者である個人株主
国税庁のNo.1526「株式交換により株式を譲渡した場合の譲渡所得等の特例」とNo.1527「株式移転により株式を譲渡した場合の譲渡所得等の特例」は、いずれも令和8年4月1日現在の法令等を基準としています。
株式交換では、一定の場合に、株式交換完全親法人または同親法人との間に所定の完全支配関係がある法人の株式だけを受け取ると、旧株式の譲渡がなかったものとみなされます。株式移転では、株式移転完全親法人の株式だけを受け取ることが要件です。法令上除外される金銭等は別に扱います。
この特例を受けた新株式の取得価額は、原則として旧株式の取得価額を引き継ぎ、取得に要した費用があれば加算します。一株未満の端数に対応する金銭には、その端数株式の譲渡として課税関係が生じます。法人株主や非居住者には別の規定があります。
完全子法人の法人税
法人税法2条は、適格株式交換等と適格株式移転を定義しています。この適格判定は、個人株主について旧株式の譲渡がなかったものとする所得税の判定とは別です。
| 確認事項 | 注意点 |
|---|---|
| 交付する対価 | 所定の親法人株式以外の資産が交付されていないか。法令上除外される金銭等は区別する |
| 再編前の資本関係 | 完全支配関係、支配関係、いずれもない場合で要件が異なる |
| 再編後の関係 | 完全支配関係や支配関係の継続見込みを確認する |
| 事業・従業者等 | 資本関係の区分に応じ、主要事業や従業者の継続、事業関連性などを確認する |
| 株主による継続保有 | 資本関係や株主数などにより要件となる場合がある |
| 無対価・参加会社数 | 無対価取引や単独株式移転には個別の要件がある |
表の項目がすべての取引に一律に必要になるわけではありません。再編前の資本関係などに応じて、適用する要件を選びます。株式だけを対価としたという理由だけで、適格とは決められません。
また、「非適格なら必ず全資産を時価評価する」とも限りません。法人税法62条の9の対象となる非適格株式交換等では、完全子法人が直前に有する時価評価資産の評価益または評価損を所得計算へ反映しますが、同条の適用対象から除かれる取引や、法人税法施行令123条の11により時価評価資産から除かれる資産があります。国税庁の法人税基本通達12の2-3-1も併せて確認します。
法人税上の時価評価が必要でも、それだけを理由に完全子会社の会計帳簿を時価へ書き換えるわけではありません。会計上の帳簿価額と税務上の金額に差が生じた場合は、申告調整と税効果会計を別に検討します。
7.よくある誤り
| 誤り | 正しい整理 |
|---|---|
| 株式交換でB社の土地をA社個別に計上する | A社個別が取得するのはB社株式。土地の時価評価は、取得となる場合の連結手続で行う |
| A社個別で子会社株式との差額をのれんにする | 株式取得によるのれんは、連結上の投資と資本の相殺消去で計算する |
| B社の資産・負債をすべて時価へ書き換える | 株主が変わっただけなら、B社個別では従来の帳簿価額を引き継ぐ |
| 新設H社を必ず会計上の取得企業とする | 法的な親会社と会計上の取得企業を分けて判定する。単独株式移転は企業結合に該当しない |
| 株式対価だけなら税務上も適格と考える | 資本関係、支配の継続、事業・従業者等の該当要件も確認する |
| 個人株主の課税関係と法人税上の適格判定を同一視する | 株主、完全子法人、完全親法人の課税関係を分けて確認する |
8.5日で定着させる
| 日 | 練習内容 | 到達点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 株式交換、株式移転、株式交付の違いを書く | 既存親会社と新設親会社を区別できる |
| 2日目 | A社、B社、旧B社株主の間で何が移るかを書く | B社の資産ではなくB社株式が移ると説明できる |
| 3日目 | A社個別の仕訳を再現する | 子会社株式1,200と払込資本1,200を一致させられる |
| 4日目 | 連結修正仕訳とのれんを再計算する | 1,200-(800+200)=200を説明できる |
| 5日目 | 会計上の分類、個人株主の課税関係、法人税上の適格を別々に説明する | 三つの判定を混同しない |
9.まとめ
- 株式交換では既存会社、株式移転では新設株式会社が完全親会社となる。
- 会社法上の形式と、会計上の取得・共同支配・共通支配等の分類は別に判定する。
- 完全親会社の個別財務諸表では子会社株式を計上する。完全子会社では、株主の変更だけを理由とする仕訳は行わない。
- 取得となる株式交換では、連結上、投資と取得日資本を相殺し、差額をのれん等として処理する。
- 単独株式移転では旧会社の帳簿価額が継続し、連結上は株主資本項目を調整する。
- 個人株主の課税関係と法人税上の適格判定は別である。株式対価だけで結論を出さない。
問題では、法的形式→会計上の分類→取得企業→個別仕訳→連結修正→税務判定の順に進めます。一つずつ分ければ、組織再編の問題も整理できます。
