第217回では、解散日現在の財産目録と清算開始時貸借対照表を確認しました。
財産と債務を把握した後は、債権者への公告と催告を行い、債権を回収し、債務を弁済します。
官報公告をしても、買掛金や借入金は消えません。一方、帳簿に債務が載っていても、債権申出期間中は原則として弁済できません。手続と仕訳を分けて確認します。
1.清算人の仕事と帳簿をつなげる
会社法481条は、清算人の職務として、現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の分配を定めています。
| 段階 | 主な作業 | 帳簿への影響 |
|---|---|---|
| 債権者の確認 | 官報公告、個別催告、申出内容の確認 | 公告や催告だけでは資産・負債は動かない |
| 債権の取立て | 売掛金や貸付金を回収する | 債権が減り、現金預金が増える |
| 債務の弁済 | 弁済できる時期を確認して支払う | 現金預金と負債が同額減る |
| 残余財産の分配 | 債務弁済後の財産を株主へ分配する | 残余財産と純資産を整理する |
会社法施行規則146条は、各清算事務年度の貸借対照表を会計帳簿に基づいて作成することを定めています。解散後も記帳と残高管理は続きます。
2.官報公告と個別催告は別の手続
会社法499条の要点は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 官報公告 | 債権者に対し、一定期間内に債権を申し出るよう公告する |
| 個別催告 | 会社に知れている債権者へ各別に催告する |
| 申出期間 | 二か月を下回ることはできない |
| 公告の付記 | 期間内に申出がなければ清算から除斥される旨を記載する |
官報公告をしただけでは、知れている債権者への個別催告を省略できません。また、この債権者向けの解散公告は官報に掲載する必要があります。
会社法503条は、清算から除斥される債権者から「知れている債権者」を除いています。知れている債権者が申出をしなかったという理由だけで、買掛金や借入金を消すことはできません。
| 確認項目 | 主な資料 |
|---|---|
| 債権者名と連絡先 | 補助元帳、契約書、請求書 |
| 債権の原因 | 仕入れ、借入れ、賃貸借、給与、保証などの資料 |
| 金額 | 元本、利息、遅延損害金、解約金などの計算資料 |
| 弁済期と担保 | 契約書、返済予定表、担保関係資料 |
| 催告と申出 | 送付日、到達記録、申出日、確認結果 |
| 公租公課など | 申告書、納付書、給与・社会保険関係資料 |
帳簿残高だけでは、未着請求書、解約前の契約、保証債務などを見落とすことがあります。元帳と契約・事実関係の両方を確認します。
3.二か月を60日と置き換えない
会社法499条の最低期間は「二か月」です。60日ではありません。
民法138条から143条により、日、週、月または年で定めた期間は原則として初日を算入せず、月による期間は暦に従って計算します。
官報発行サイトの解散公告例も、官報掲載の翌日から二か月以内に申し出る形を示しています。
| 日付 | 出来事 | 仕訳 |
|---|---|---|
| 2026年10月20日 | 解散、清算人就任 | その事実だけでは仕訳なし |
| 2026年10月23日 | 官報公告、個別催告 | その事実だけでは仕訳なし |
| 2026年10月24日 | 申出期間の起算 | 仕訳なし |
| 2026年12月23日 | 二か月という最低期間の満了日 | 期限到来だけでは仕訳なし |
| 2027年1月8日 | 設例で定めた申出期限 | 期限到来だけでは仕訳なし |
| 2027年1月12日 | 買掛金と借入金の弁済期、全額支払い | 負債と現金を減額 |
2026年10月23日に掲載した場合、暦による二か月の最低期間は2026年12月23日の終了時までです。設例の2027年1月8日は、この最低期間より後の日です。
末日が休日に当たる場合は、民法142条の要件も確認します。実際の期限は、公告文と掲載日を照合して決めます。
公告の申込日と掲載日は同じとは限りません。官報発行サイトの案内では、申込みから掲載までの日数を官報サービスセンターまたは官報公告等取次店へ確認するよう案内しています。期間計算には実際の掲載日を使います。
4.申出期間中の債務弁済には制限がある
会社法500条により、債権申出期間中は、原則として債務を弁済できません。
| 行為 | 取扱い |
|---|---|
| 売掛金を回収する | 債権の取立てであり、弁済制限の対象ではない |
| 通常の買掛金を支払う | 原則として弁済できない |
| 少額債権や担保付債権などを弁済する | 他の債権者を害するおそれがない債権について、裁判所の許可を得た場合に弁済できる |
| 株主へ残余財産を分配する | 会社法502条により、原則として債務弁済後でなければできない |
例外に当たる「少額」について、一律の金額基準は条文にありません。個別の債権と会社財産を前提に裁判所の許可を得る制度です。清算人が二人以上いる場合、許可の申立てには全員の同意が必要です。
期間中に弁済できなくても、会社は債務不履行によって生じる責任を免れません。弁済期、利息、遅延損害金を別に確認します。設例では、弁済期を申出期間満了後に置いています。
条件付債権や金額が不確定な債権は、会社法501条に基づき、裁判所に鑑定人の選任を申し立て、その評価に従って弁済します。申出期間中に弁済する場合は、会社法500条による制限も確認が必要です。
5.公告、回収、弁済を別々に仕訳する
公告時の残高から確認します。金額の単位は千円です。
| 区分 | 科目 | 金額 |
|---|---|---|
| 資産 | 現金 | 1,000 |
| 売掛金 | 300 | |
| 資産合計 | 1,300 | |
| 負債 | 買掛金 | 250 |
| 借入金 | 400 | |
| 負債合計 | 650 | |
| 純資産 | 資本金 | 500 |
| 繰越利益剰余金 | 150 | |
| 純資産合計 | 650 | |
| 負債・純資産合計 | 1,300 | |
現金1,000+売掛金300=資産1,300、買掛金250+借入金400=負債650、資本金500+繰越利益剰余金150=純資産650です。資産1,300=負債650+純資産650で一致します。
| 出来事 | 仕訳 | 理由 |
|---|---|---|
| 官報公告 | 公告という事実だけでは仕訳なし | 既存の資産・負債は変わらない |
| 個別催告 | 催告という事実だけでは仕訳なし | 買掛金や借入金は残る |
| 債権申出の受付 | 受付だけでは仕訳なし | 未計上債務が判明したときは、その原因に応じて別途計上する |
| 公告掲載料の債務が成立 | 借方:支払手数料等/貸方:未払金等 | 実際の金額と会社の勘定科目に従う |
売掛金300を回収する
2026年11月10日に売掛金を全額回収します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 300 | 売掛金 | 300 |
| 科目 | 回収前 | 増減 | 回収後 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 1,000 | +300 | 1,300 |
| 売掛金 | 300 | −300 | 0 |
| 資産合計 | 1,300 | 0 | 1,300 |
| 負債合計 | 650 | 0 | 650 |
| 純資産合計 | 650 | 0 | 650 |
資産の中身が売掛金から現金へ変わっただけです。回収額と帳簿価額が同じなので、損益は生じません。
買掛金250と借入金400を弁済する
申出期間が終わり、弁済期が到来した2027年1月12日に全額を支払います。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 250 | 現金 | 650 |
| 借入金 | 400 | ||
| 借方合計 | 650 | 貸方合計 | 650 |
借方は買掛金250+借入金400=650、貸方は現金650で一致します。
| 科目 | 弁済前 | 増減 | 弁済後 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 1,300 | −650 | 650 |
| 買掛金 | 250 | −250 | 0 |
| 借入金 | 400 | −400 | 0 |
| 負債合計 | 650 | −650 | 0 |
| 純資産合計 | 650 | 0 | 650 |
弁済後は、資産650=負債0+純資産650です。
ただし、現金650は設例上の残余財産候補額にすぎません。実務では、税金、清算費用、未計上債務、争いのある債権に必要な留保額などを確認してから分配へ進みます。
6.申出がなかった債権を一律に消さない
| 状況 | 会社法上の扱い | 帳簿上の注意 |
|---|---|---|
| 知れている債権者が申出をしない | 会社法503条の除斥対象ではない | 申出がないことだけを理由に負債を消さない |
| 知れていない債権者が申出をしない | 清算から除斥され、未分配の残余財産に対してのみ弁済を請求できる | 期間満了だけで仕訳を決めず、債権の状態と分配状況を確認する |
| 条件付または金額不確定の債権 | 裁判所が選任する鑑定人の評価に従って弁済する | 負債認識と見積額を事実に基づいて検討する |
| 存否または金額に争いがある債権 | 必要な財産を留保すれば、他の財産を分配できる場合がある | 必要な債務または引当ての処理を検討する |
申出によって未計上債務が判明したときは、その原因を確認します。既に受けた役務の対価なら関連する費用と未払金、取得済みの資産ならその資産と未払金というように処理します。内容を確認せず、すべてを雑損失にすることはできません。
7.会社法、会計、法人税を分ける
| 判定軸 | 確認すること |
|---|---|
| 会社法 | 誰を債権者として保護し、いつ弁済や分配ができるか |
| 会計 | 負債などをいつ、いくら認識するか |
| 法人税 | その事業年度の損金算入要件を満たすか |
国税庁「No.5387」によると、償却費以外の販売費、一般管理費その他の費用について債務が確定したといえるためには、原則として事業年度終了日までに、次の三つを満たす必要があります。
- 費用に係る債務が成立していること
- 具体的な給付原因となる事実が発生していること
- 金額を合理的に算定できること
したがって、将来支払う清算費用を見積もっただけで、直ちに法人税上の損金になるとは限りません。会計上の計上時期と税務上の損金算入時期は分けて確認します。
また、国税徴収法34条は、法人が国税を納付しないまま残余財産を分配または引き渡し、その法人に滞納処分をしても徴収額に不足すると認められる場合に、一定の限度で清算人や分配・引渡しを受けた者が第二次納税義務を負うことを定めています。
債権申出期限が終わっても、税務申告や納付の期限が終わったことにはなりません。残余財産を分配する前に、税額と申告・納付状況を確認します。
8.5日で定着させる練習
| 日 | 練習内容 | 到達点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 会社法499条から503条を、公告・弁済・分配・除斥に分ける | 各条文の役割を一文で説明できる |
| 2日目 | 元帳、契約書、税務資料から債権者一覧の項目を作る | 帳簿外の債務も確認できる |
| 3日目 | 公告日、起算日、最低期間の満了日、設例の申出期限を並べる | 二か月と60日を区別できる |
| 4日目 | 売掛金300の回収と債務650の弁済を仕訳する | 借方と貸方を一致させられる |
| 5日目 | 資産1,300、負債650、純資産650から弁済後残高を再計算する | 現金650が残余財産の確定額ではない理由を説明できる |
9.確認した一次資料
- e-Gov法令検索「会社法」481条、499条から503条
- e-Gov法令検索「民法」138条から143条
- e-Gov法令検索「会社法施行規則」146条
- 官報発行サイト「会社法 法定公告について」
- 官報発行サイト「よくあるご質問」
- 国税庁「No.5387 販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定」
- e-Gov法令検索「国税徴収法」34条
官報公告は債務を消す手続ではありません。債権者を確認し、期間中の弁済制限を守り、回収と弁済を事実に沿って記帳することが、残余財産を計算する土台になります。
