第206回では、親会社が非支配株主から子会社株式を追加取得する場面を扱いました。今回は、子会社自身が非支配株主から自社株式を取得します。
親会社の保有株式数が変わらなくても、子会社の自己株式を分母から除くため、親会社の持分比率は上がります。親会社の個別財務諸表では仕訳がありません。連結財務諸表では、非支配株主からの追加取得に準じて処理します。
1.個別と連結を分ける
| 確認先 | 基本処理 |
|---|---|
| S社の個別財務諸表 | 取得原価で自己株式を計上し、株主資本から控除する |
| P社の個別財務諸表 | P社の株式数と現金は動かないため、仕訳はない |
| P社の連結財務諸表 | 非支配株主からの追加取得に準じ、非支配株主持分と資本剰余金を調整する |
企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第7項は、取得した自己株式を取得原価で株主資本から控除すると定めています。
企業会計基準適用指針第2号第17項・第18項は、連結子会社が非支配株主から自己株式を取得した場合、親会社による追加取得に準じて処理し、取得対価と非支配株主持分の減少額との差額を資本剰余金とするよう定めています。
2.自己株式を分母から除く
S社の発行済株式総数は、自己株式を消却するまでは100株のままです。ただし、連結上の持分比率は、発行済株式総数からS社の自己株式数を控除して計算します。
| 項目 | 取得前 | 取得後 |
|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 100株 | 100株 |
| S社の自己株式 | 0株 | 20株 |
| 持分比率の分母 | 100株 | 100株-20株=80株 |
| P社の保有株式 | 60株 | 60株 |
| P社の持分比率 | 60株÷100株=60% | 60株÷80株=75% |
| 非支配株主の持分比率 | 40株÷100株=40% | B社20株÷80株=25% |
P社の株式数は60株のままです。分母が100株から80株へ減ったため、持分比率は60%から75%へ上がります。比率の変動は、自己株式を取得した時点で認識します。
3.S社とP社の個別仕訳
S社の仕訳
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 自己株式 | 240 | 現金預金 | 240 |
| 合計 | 240 | 合計 | 240 |
自己株式は借方に記入しますが、資産ではありません。貸借対照表では、純資産の部の株主資本から控除して表示します。取得時に資本金や利益剰余金を直接減額することはなく、損失も計上しません。
この仕訳は取得対価総額を示したものです。みなし配当に対する源泉徴収が必要となる場合の預り金と納付は、別に処理します。
P社の仕訳
仕訳はありません。P社はS社株式を取得しておらず、対価も支払っていないためです。P社の個別貸借対照表に計上されたS社株式の帳簿価額も、この取引だけでは変わりません。
4.連結上の非支配株主持分を計算する
取得前後の非支配株主持分を比べます。
| 順序 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 1.取得前の非支配株主持分 | 1,000×40% | 400 |
| 2.取得後のS社純資産 | 1,000-240 | 760 |
| 3.取得後の非支配株主持分 | 760×25% | 190 |
| 4.非支配株主持分の減少額 | 400-190 | 210 |
| 5.取得対価との差額 | 240-210 | 30 |
取得対価240が非支配株主持分の減少額210を30上回ります。この30を、連結上の資本剰余金から減額します。支配が継続しているため、のれんや当期損失にはしません。
連結修正仕訳
S社の個別仕訳を取り込んだ後、次の連結修正を行います。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 非支配株主持分 | 210 | 自己株式(S社) | 240 |
| 資本剰余金 | 30 | ― | ― |
| 合計 | 240 | 合計 | 240 |
S社の個別仕訳と合わせると、連結上では「現金240の減少」に対し、「非支配株主持分210」と「資本剰余金30」が減少します。
| 帰属先 | 取得前 | 取得後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 親会社株主に帰属する部分 | 1,000×60%=600 | 760×75%=570 | △30 |
| 非支配株主持分 | 400 | 190 | △210 |
| 合計 | 1,000 | 760 | △240 |
親会社株主に帰属する部分の減少30は、資本剰余金の減少額と一致します。非支配株主持分の減少210と合わせると、現金の減少240とも一致します。
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とするよう定めています。第30-2項により、一連の処理で連結上の資本剰余金が負の値となる場合は、連結会計年度末に資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。本例ではこの処理は生じません。
5.取得・処分・消却を分ける
| S社の行為 | 持分比率への影響 | 連結上の基本処理 |
|---|---|---|
| 非支配株主から取得 | P社の比率が上がる | 親会社による追加取得に準じる |
| 非支配株主へ処分 | P社の比率が下がることがある | 非支配株主への第三者割当増資に準じる |
| 取得済み自己株式を消却 | 比率は変わらない | 連結貸借対照表の資産・負債・純資産に変動は生じない |
本例で20株を消却すると、発行済株式総数は80株、自己株式は0株になります。持分比率の分母は、消却前も消却後も80株です。P社の持分比率は75%のままです。
6.会社法上の手続も確認する
会社法第156条、第160条、第461条などにより、取得する株式数、交付する金銭等の総額、取得期間、特定の株主から取得する場合の手続、分配可能額を確認します。
S社がA社だけを取得先とする本例では、特定の株主から取得する場合の決議や他の株主への通知等が検討対象になります。適用される例外や機関決定は会社の状況によって異なります。会計仕訳が正しくても、会社法上の手続を満たしたことにはなりません。
7.法人税ではみなし配当を分ける
税務上、取得対価の全額が株式の譲渡対価になるとは限りません。市場取引による取得などの除外事由に該当しない自己株式取得では、交付を受ける金銭等が、その株式に対応する資本金等の額を超えると、超過額がみなし配当になります。
法人税法第24条・第61条の2と、法人税法施行令の計算規定を前提に、税務上の数値を追加します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 取得株式に対応する資本金等の額 | 500÷100株×20株 | 100 |
| 交付を受ける金銭等の額 | ― | 240 |
| みなし配当 | 240-100 | 140 |
| 税務上の株式譲渡対価 | 240-140 | 100 |
| 譲渡株式の税務簿価 | ― | 120 |
| 税務上の譲渡損 | 100-120 | △20 |
240は、みなし配当140と譲渡対価100に分かれます。譲渡損益は240ではなく、みなし配当を控除した譲渡対価100から計算します。
S社側では、税務上の資本金等の額を100、利益積立金額を140減額します。合計240は取得対価と一致しますが、240を損金に算入する処理ではありません。
A社における受取配当等の益金不算入額や、S社における源泉徴収の要否・税率・納付手続は、株式区分、保有関係、支払時期などを確認して別に判定します。この設例だけで納付税額までは決まりません。
消費税では課税対象外になる
消費税法基本通達5-2-9は、証券市場での買入れを除き、法人が自己株式を取得する場合の株主から法人への株式の引渡しを「資産の譲渡等」に該当しないものとしています。
したがって、本例の相対取引は、通常の有価証券譲渡に当たる非課税取引ではなく、消費税の課税対象外です。取得対価240は、課税売上割合の分子にも分母にも算入しません。専門家報酬などの付随取引は、その内容に応じて別に判定します。
8.解答するときの順序
- 誰が自己株式を取得し、対価を支払ったかを確認する。
- 発行済株式総数から自己株式数を控除して持分比率を計算する。
- 子会社と親会社の個別仕訳を分ける。
- 取得前後の非支配株主持分を計算する。
- 取得対価との差額を資本剰余金で処理する。
- 法人税のみなし配当と譲渡対価を分ける。
- 消費税の課税対象外取引を、通常の有価証券譲渡と区別する。
| 誤った処理 | 正しい考え方 |
|---|---|
| P社の比率を60株÷100株のままにする | 自己株式20株を分母から除き、60株÷80株とする |
| P社でS社株式を追加計上する | 取得者はS社なので、P社の個別仕訳はない |
| S社が支払う240を損失にする | 自己株式として株主資本から控除する |
| 連結差額30をのれんにする | 支配継続中の資本取引なので、資本剰余金を減額する |
| 消費税上、通常の有価証券譲渡として対価の5%を課税売上割合の分母に入れる | 本例の自己株式取得は資産の譲渡等に該当せず、分子にも分母にも入れない |
9.5日で定着させる
| 日 | 取り組む内容 | 確認点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 100株、自己株式20株、P社60株から持分比率を計算する | 分母を80株にできるか |
| 2日目 | S社とP社の個別仕訳を書く | S社だけに仕訳があるか |
| 3日目 | 取得前後の非支配株主持分を計算する | 400から190への減少210を求められるか |
| 4日目 | 連結修正仕訳を作り、借貸を合計する | 借方210+30と貸方240が一致するか |
| 5日目 | 240をみなし配当140と譲渡対価100に分ける | 会計、法人税、消費税を混同していないか |
まとめ
- 子会社が自己株式を取得すると、親会社の株式数が同じでも持分比率が上がる。
- S社の個別仕訳は「自己株式240/現金預金240」で、P社の個別仕訳はない。
- 連結上は非支配株主持分を210、資本剰余金を30減額する。
- 支配継続中の資本取引なので、新たなのれんや当期損失は計上しない。
- 法人税ではみなし配当と譲渡対価を分け、本例の自己株式取得は消費税の課税対象外として扱う。
