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第221回 休眠会社のみなし解散ゼロ入門:12年・2か月・3年と会社継続後の3つの事業年度を仕訳で整理(5日練習付き)

第220回では、通常清算が終わった後の清算結了登記と帳簿保存を確認しました。

今回は、株主が解散を決めていないのに、長期間登記をしなかったため解散したものと扱われる「みなし解散」です。

最後の登記から12年が過ぎただけで、直ちに解散するわけではありません。法務大臣の公告後2か月以内に必要な登記または所定の届出をしなかったとき、解散したものとみなされます。

1.12年・2か月・3年・2週間を分ける

法務省の2026年度案内と会社法472条・473条をS社の日程へ当てはめます。

段階 日付・期間 意味
休眠会社の判定 2026年10月15日 最後の登記から12年を経過しているため、整理作業の対象となる
官報公告・通知発送 2026年10月15日 2026年度の実際の公告日・通知発送日
対応期限 2026年12月15日 必要な登記または所定の届出を行う期限
みなし解散 2026年12月16日 期限までにどちらも行わなければ、この日付で解散したものとみなされる
継続できる期間 みなし解散後3年以内 清算結了前に株主総会の特別決議を行う。S社は2027年1月20日に決議する
継続登記 継続決議から2週間以内 S社の申請期限は2027年2月3日

12年は整理作業の対象を決める期間です。2か月はみなし解散を避けるための対応期間、3年はみなし解散後に会社を継続できる期間、2週間は継続決議後の登記期間です。

なお、会社法472条による整理作業の対象は株式会社です。特例有限会社は含まれません。

2.営業や税務申告を続けていても防止策にはならない

会社法上の「休眠会社」は、営業実態や税務申告の有無ではなく、最後の登記からの期間で判定されます。

会社の行動 防止できるか 注意点
必要な役員変更等の登記を申請する できる 登記内容と必要書類を事前に確認する
「まだ事業を廃止していない」旨を届け出る その年度はできる 未登記の事実は解消されず、必要な登記をしなければ翌年度も対象になり得る
実際に営業や取引を続ける できない 事業実態だけでは会社法472条の手続に代わらない
法人税の申告・納付を続ける できない 税務署への申告と商業登記は別の手続
登記事項証明書や印鑑証明書を取得する できない 証明書の交付請求は新たな登記ではない
登記所からの通知が届かなかった できない 通知の不着にかかわらず公告後の期限が進行する

法務省の整理作業案内も、実際に事業を続けている場合や通知が届かない場合であっても、期限内の登記または届出が必要であると説明しています。

所定の届出をしてみなし解散を回避しても、登記を怠った事実まで消えるわけではありません。必要な登記と過料の可能性は別に確認します。

3.みなし解散だけでは資産・負債は消えない

会社法475条・476条により、みなし解散後のS社は清算株式会社となり、清算の目的の範囲内で存続します。

したがって、職権で解散登記がされても、現金、売掛金、買掛金、資本金などの帳簿残高がゼロになるわけではありません。法的地位が変わったという事実だけでは、資産、負債または純資産の増減がないため、その事実だけを原因とする仕訳もありません。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 1,000 買掛金 200
売掛金 300 資本金 500
― ― 繰越利益剰余金 600
合計 1,300 合計 1,300

S社は清算中に売掛金を回収し、会社継続後に買掛金を支払います。

日付 借方 金額 貸方 金額 内容
2026年12月20日 現金 300 売掛金 300 帳簿価額どおり回収
2027年1月25日 買掛金 200 現金 200 会社継続後に帳簿価額どおり支払

取引後の現金は、1,000+300-200=1,100です。売掛金と買掛金はともにゼロとなり、借方の現金1,100と、貸方の資本金500+繰越利益剰余金600=1,100が一致します。

額面どおりの債権回収と計上済み債務の支払であるため、本設例では収益も費用も生じません。登記費用、専門家報酬その他の支出が実際に発生したときは、請求書や納付記録に基づく実額を別途仕訳します。

4.3年以内と2週間以内は別の期限

みなし解散後の会社継続には、次の条件を順番に確認します。

確認事項 S社の扱い
清算の状況 清算結了前である
継続可能期間 みなし解散後3年以内である
会社の意思決定 株主総会の特別決議を行う
継続日 決議で2027年1月20日と定める
登記期限 決議から2週間以内の2027年2月3日
会社機関 継続後の取締役、代表取締役、取締役会の有無などを定款と決議に合わせる

3年間は申告や登記を保留できる期間ではありません。会社を継続できる上限期間です。継続を決議した後は、2週間以内に登記を申請します。

法務局の商業・法人登記申請書様式には、みなし解散後の株式会社継続について、継続後の機関設計に応じた記載例があります。必要な登記事項が複数あれば登録免許税の合計も変わるため、継続登記だけの金額を全案件へ一律に当てはめないことが大切です。

会社継続は新会社の設立ではありません。同じ法人が続くため、現金、債権、債務、資本金などをゼロから計上し直す仕訳は行いません。

5.法人税の事業年度は三つに分かれる

法人税法14条1項1号・6号により、事業年度の中途で解散した場合は解散日で区切り、清算中の法人が継続した場合は継続日の前日で再び区切ります。

法人税基本通達1-2-4によれば、株主総会で継続日を定めたときはその日、定めなかったときは継続決議の日が法人税上の継続日です。継続登記の完了日を機械的に区切りの日とするわけではありません。

区分 期間 区切る理由
解散前の事業年度 2026年4月1日~12月16日 みなし解散の日で終了する
清算中の事業年度 2026年12月17日~2027年1月19日 会社継続日の前日で終了する
継続後の事業年度 2027年1月20日~3月31日 継続日から定款上の通常の決算日まで

帳簿残高は同じ法人の中で連続しますが、法人税の所得または欠損は三つの期間ごとに計算します。

国税庁「法人税法」教材は、確定申告書の提出期限を原則として各事業年度終了の日の翌日から2か月以内と説明しています。本設例の前提では次のとおりです。

対象期間 終了日 申告期限
2026年4月1日~12月16日 2026年12月16日 2027年2月16日
2026年12月17日~2027年1月19日 2027年1月19日 2027年3月19日
2027年1月20日~3月31日 2027年3月31日 2027年5月31日

三つの日はいずれも本設例では休日による繰下げがなく、申告期限の延長もない前提です。実際には承認済みの延長、災害、通算制度その他の事情を確認します。納付税額が生じない場合でも、申告義務まで当然になくなるわけではありません。

6.登記・会計・税務を一枚で管理する

時点 登記 会計・税務
2026年12月15日まで 登記事項証明書で最後の登記日と未登記事項を確認し、必要な登記または所定の届出を行う 通常の帳簿と申告を継続する
みなし解散後 登記記録と解散日を確認し、清算を続けるか会社を継続するかを決める 解散日で帳簿を区切り、清算開始時の書類と申告準備を進める
会社継続時 特別決議、役員等の整備、2週間以内の継続登記を行う 継続日前日で清算中の事業年度を締め、継続日から通常の事業年度へ戻す
各決算後 登記事項と実態の一致を確認する 各事業年度の所得・欠損と申告期限を別々に管理する

税務署には、法人の解散などが生じた場合、異動届出書を異動後速やかに提出します。会社継続に伴って事業年度、代表者その他の届出事項が変わる場合も該当事項を確認します。都道府県や市区町村への届出は、所在地の自治体が示す様式と期限を別途確認してください。

7.5日で定着させる練習

日 取り組む内容 確認できればよいこと
1日目 12年・2か月・3年・2週間を一行ずつ書く 四つの期間の目的を区別できる
2日目 営業、税務申告、証明書取得、届出、登記を分類する みなし解散を防ぐ行動だけを選べる
3日目 S社の売掛金回収と買掛金支払を仕訳する みなし解散・会社継続そのものは仕訳なしと判断できる
4日目 三つの事業年度と申告期限を書き出す 解散日と継続日前日で区切れる
5日目 自社または練習会社について、最後の登記日、通常の決算日、対応期限を一枚にまとめる 登記と申告を同じ予定表で管理できる

確認問題:S社が12月15日までに何もしなかった場合の解散日は12月16日です。1月20日に会社を継続する場合、清算中の事業年度は1月19日で終わります。仕訳後の現金は1,100、売掛金と買掛金はゼロで、借方・貸方はいずれも1,100です。

8.まとめ

  • 最後の登記から12年の経過は整理作業の対象要件であり、それだけで直ちに解散するわけではない
  • 2026年度は12月15日までに必要な登記または所定の届出がなければ、12月16日付で解散したものとみなされる
  • 営業や法人税申告を続けていても、会社法上の届出や登記の代わりにはならない
  • みなし解散後も資産・負債は残り、法的地位の変更だけを原因とする仕訳はない
  • 会社継続はみなし解散後3年以内の特別決議で行い、決議後2週間以内に登記する
  • 法人税の事業年度は、解散日と継続日の前日で区切って申告期限を管理する

登記の日付、帳簿、申告期限を順に並べると、みなし解散という例外的な場面でも落ち着いて整理できます。

第220回 清算結了登記と帳簿保存ゼロ入門:2週間・会社法10年・法人税7年/10年を整理(5日練習付き)

第219回では、清算事務が終わった後の決算報告を確認しました。

その承認後に行うのが、清算結了登記です。ただし、登記が終わっても帳簿資料の保存は続きます。

登記の2週間、会社法の10年、法人税の7年または10年は、それぞれ起算点が異なります。まず日付を分けましょう。

1.清算結了登記は承認日から2週間以内

会社法507条3項および929条1号により、清算株式会社は決算報告について株主総会の承認を受け、その承認の日から2週間以内に本店所在地で清算結了登記をしなければなりません。

日付 出来事 確認点
2026年10月22日 株主総会が決算報告を承認 2週間の基準となる日
2026年10月23日 期間計算の1日目 承認日は原則として算入しない
2026年10月27日 登記申請を受け付けた日 設例では清算結了登記年月日として記録
2026年11月5日 2週間の満了日 本設例の申請期限

民法140条から143条では、日・週・月・年で定めた期間は原則として初日を算入せず、暦に従って計算します。10月23日を1日目とすると、14日目は11月5日です。

末日が休日に当たる場合は、民法142条も確認します。補正に備えるためにも、満了日を待たずに申請するのが安全です。

申請の受付後には登記官の審査があり、手続の完了は後日になることがあります。保存期間を管理するときは、発送日や審査完了予定日ではなく、登記事項証明書などで清算結了登記年月日を確認します。

2.申請書、添付書類、登録免許税を確認する

商業登記法75条は、決算報告の承認があったことを証する書面の添付を求めています。

法務局の株式会社清算結了登記申請書の記載例による主な確認項目は、次のとおりです。

項目 内容
登記申請書 商号、本店、登記の事由、登記すべき事項などを記載する
株主総会議事録 決算報告書を含め、承認の事実を明らかにする
株主リスト 対象株主の氏名・名称、住所、議決権数などを記載する
委任状 代理人に申請を委任する場合に添付する
登録免許税 申請1件につき2,000円

登録免許税2,000円は、2026年10月22日現在の登録免許税法別表第一と法務局の記載例に基づく金額です。

必要書類は申請方法や代理申請の有無などによって変わります。実際の申請では、管轄法務局の最新様式を使います。

3.登記の事実と登録免許税の支払を分ける

決算報告の承認や清算結了登記は法的な手続です。それだけで資産、負債または純資産が増減するわけではないため、登記の事実自体には仕訳をしません。

一方、会社が登録免許税を負担すれば、費用と預金などが動きます。

借方 金額 貸方 金額
租税公課 2,000円 普通預金 2,000円

借方合計と貸方合計は、どちらも2,000円です。支払直前の普通預金残高が2,000円なら、支払後はゼロになります。

ただし、これは登録免許税の取引だけを抜き出した仕訳です。この仕訳だけで清算会社の全勘定残高がゼロになるわけではありません。

登録免許税は決算報告の承認後に行う登記申請に伴う費用です。実務では、承認前に負担者、支払原資、決算報告との整合を確認します。清算人が立て替えて会社に返還を求める場合は、貸方が未払金などになることもあります。

4.会社法の10年は清算結了登記の時から始まる

会社法508条により、原則として清算人は、本店所在地における清算結了登記の時から10年間、会社の帳簿と、その事業・清算に関する重要な資料を保存します。

S社では、株主総会の承認日である10月22日ではなく、清算結了登記年月日である10月27日が基準です。保存管理上は2036年10月27日までは廃棄対象にせず、廃棄前に他法令の保存期間も確認します。

会社法は保存対象を一つずつ列挙していません。次の表は、保存対象を点検するための整理例です。

分類 資料例
会計帳簿 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、固定資産台帳
決算関係 財産目録、清算開始時貸借対照表、決算報告
会社手続 株主総会議事録、登記申請の控え、登記年月日を確認できる資料
債権・債務 公告・催告の記録、債権申出書、回収・弁済の証憑、契約書
残余財産 株主別の分配計算、振込記録、分配完了日を確認できる資料
税務 申告書、届出書、納付記録、電子申告の受信通知、計算資料

裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人に代わる保存者を選任できます。誰が、どこで保存するのかも記録しておきます。

5.法人税の7年・10年は申告期限の翌日から数える

国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」によれば、法人税上の帳簿書類は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から原則として7年間保存します。

青色申告書を提出した事業年度に青色繰越欠損金が生じた場合、または青色申告書を提出しなかった事業年度に災害損失金額が生じた場合は10年間です。本稿は2018年4月1日以後に開始した事業年度を前提としています。

ケース 申告期限 起算日 保存期限
通常の事業年度 2026年3月31日 2026年4月1日 2033年3月31日まで
青色繰越欠損金が生じた事業年度 2026年3月31日 2026年4月1日 2036年3月31日まで

10年になるのは、青色繰越欠損金などが生じた対象事業年度です。後の事業年度の帳簿がすべて自動的に10年になる、という意味ではありません。

会社法の10年とは、起算点も保存対象も異なります。同じ資料に複数の保存義務がある場合は、最も遅い期限まで保存します。

6.電子取引データはデータのまま残す

国税庁の電子取引関係資料では、請求書、領収書、契約書などに相当する情報を電子的に授受した場合、その電子取引データを保存する必要があると案内しています。

紙へ印刷しても、元の電子取引データを削除してはいけません。清算に伴ってメールや会計サービスを解約する前に、必要なデータを取り出し、実際に開けることを確認します。

保存要件に従えないことについて所轄税務署長が相当の理由があると認める猶予措置でも、税務調査などの際に電子データのダウンロードの求めに応じ、電子データと整然・明瞭に出力した書面を提示または提出できる状態が必要です。

確認項目 確認内容
対象 電子請求書、領収書、契約、会計帳簿、申告データを洗い出す
可読性 保存先からファイルを開き、内容を表示できるか試す
保存要件 検索、改変防止、出力など適用される要件を確認する
責任者 清算後の照会に対応する人と連絡方法を残す
期限 根拠法令ごとの保存期限を記録する

7.税務署への異動届も別に確認する

国税庁「C1-8 異動事項に関する届出」は、法人の清算結了を届出対象としています。提出時期は「異動等後速やかに」です。

国税庁の案内上、添付書類はありません。e-Taxソフトのほか、書面を持参または送付する方法も示されています。

清算結了登記、確定申告、異動届出書は別の手続です。登記だけで税務署への申告や届出まで完了するわけではありません。

地方税、社会保険、許認可、金融機関などの手続は提出先によって異なります。所在地と事業内容に応じて、それぞれの一次資料を確認します。

8.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 完了の目安
1日目 承認日、申請日、登記年月日を書き分ける 三つの日付の意味を説明できる
2日目 2026年10月22日の翌日から14日を数える 11月5日を導ける
3日目 登録免許税2,000円の仕訳を書く 借方と貸方が一致する
4日目 法人税の7年と10年の期限を計算する 2033年3月31日と2036年3月31日を区別できる
5日目 電子資料の保存場所、責任者、根拠、期限を書く 一つの表に整理できる

9.まとめ

  • 清算結了登記は、決算報告の承認日から2週間以内に申請します。
  • 会社法上の帳簿資料は、清算結了登記の時から10年間保存します。
  • 法人税上の帳簿書類は、確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間、対象事業年度は10年間です。
  • 登記の事実自体には仕訳がなくても、会社が負担する登録免許税には仕訳が必要です。
  • 電子取引データは、紙だけでなく電子データも保存します。

清算が終わったときほど、日付を一つにまとめないことが大切です。「何を、誰が、いつまで保存するか」を最後に一表へまとめましょう。

第219回 清算結了時の決算報告ゼロ入門:収入・費用・残余財産・一株当たり分配額を仕訳で整理(5日練習付き)

第218回では、清算株式会社の債権者保護手続と債務弁済を確認しました。

債権の回収、債務や税金の支払、残余財産の分配が終わると、清算人は決算報告を作成します。

決算報告の「収入・費用」は、会計帳簿上の「収益・費用」と同じではありません。売掛金の回収は決算報告の収入ですが、新たな売上ではありません。借入金の返済は決算報告の費用ですが、会計上の費用ではありません。

1.決算報告に記載する四つの項目

会社法507条は、清算事務が終了したとき、清算株式会社が遅滞なく決算報告を作成するよう定めています。

決算報告の内容は、会社法施行規則150条に定められています。

項目 内容
収入の額 債権の取立て、資産の処分その他の行為による収入
費用の額 債務の弁済、清算に係る費用の支払その他の行為による費用
残余財産の額 支払税額がある場合は、その税額と控除後の財産額も表示
一株当たりの分配額 種類株式発行会社では株式の種類ごとに表示

一株当たりの分配額には、残余財産の分配を完了した日を注記します。金銭以外の財産を分配した場合は、その種類と価額も必要です。

2.第218回から引き継ぐ現金を確認する

前回までの回収と弁済を、決算報告に必要な数字へまとめます。

取引 借方 貸方 取引後の現金
売掛金の回収 現金1,000 売掛金1,000 1,000
貸付金の回収 現金300 貸付金300 1,300
買掛金の弁済 買掛金250 現金250 1,050
借入金の弁済 借入金400 現金400 650

債権の回収額は1,000+300=1,300、債務の弁済額は250+400=650です。弁済後の現金は650になります。

3.清算費用と法人税等を反映する

取引 借方 貸方 取引後の現金
清算費用の計上 清算費用40 未払金40 650
清算費用の支払 未払金40 現金40 610
法人税等の計上 法人税等10 未払法人税等10 610
法人税等の納付 未払法人税等10 現金10 600

最終的な現金は、650-40-10=600です。

清算費用40と法人税等10を反映すると、繰越利益剰余金は150-40-10=100になります。分配直前の残高は、現金600、資本金500、繰越利益剰余金100です。

資産600=純資産500+100となり、借方と貸方が一致します。

4.決算報告の数字を組み立てる

項目 内訳 金額
収入の額 売掛金の回収1,000+貸付金の回収300 1,300
費用の額 債務の弁済650+清算費用40+法人税等10 700
税額控除前の残余財産 税額控除後600+支払税額10 610
支払税額 法人税等 10
税額控除後の財産 610-10 600
一株当たりの分配額 600÷100株 6

開始時の現金がゼロなので、現金収支は1,300-700=600です。

支払税額10は費用700に含まれています。一方、会社法施行規則150条に沿った残余財産の表示では、税額控除前610、支払税額10、控除後600を分けて示します。税額10を二重に差し引くものではありません。

5.会計帳簿上の損益と混同しない

取引 決算報告 会計帳簿上の損益
売掛金1,000の回収 収入1,000 回収時の収益ではない
貸付金300の回収 収入300 元本回収なので収益ではない
買掛金・借入金650の弁済 費用650 元本弁済なので費用ではない
清算費用40 費用40 会計上も費用40
法人税等10 費用10 法人税等10を計上

会計帳簿上の損益減少額は50ですが、決算報告の収入は1,300、費用は700です。差額600は分配できる財産であり、「清算利益600」ではありません。

6.一株当たり分配額を検算する

会社法504条では、残余財産の割当ては、種類株式について異なる取扱いを定める場合などを除き、株主の有する株式数に応じて行います。

本設例の一株当たり分配額は、600÷100株=6です。金額の単位を円へ戻すと、一株6,000円になります。

株主 株式数 計算 分配総額
株主A 60株 60×6 360
株主B 40株 40×6 240
合計 100株 100×6 600

360+240=600となり、税額控除後の財産と一致します。

7.株主側の税務は別に判定する

法人税法22条5項では、残余財産の分配または引渡しは資本等取引に含まれます。清算会社が残余財産600を分配しても、その600を費用や損金にはしません。

会計上の繰越利益剰余金100が、そのまま株主側のみなし配当100になるわけでもありません。みなし配当は、交付額と税務上の資本金等の額のうち株式に対応する部分などから計算します。

国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし・第5 配当所得の源泉徴収事務」でも、解散による残余財産の分配は、みなし配当が生じ得る事由として示されています。

ただし、本設例では株主の属性や税務上の資本金等の額を設定していません。源泉徴収の要否、税率、税額は数値化せず、実際の分配前に個別に確認します。

8.株主総会の承認から清算結了登記へ進む

順序 確認事項
1 債権回収、債務・税金・清算費用の支払を終える
2 残余財産の割当てを決め、株主への分配を完了する
3 収入、費用、残余財産、一株当たり分配額、分配完了日を記載した決算報告を作る
4 清算人会設置会社では清算人会の承認を受ける
5 株主総会へ決算報告を提出または提供し、承認を受ける
6 承認の日から二週間以内に、本店所在地で清算結了の登記を申請する
7 本店所在地における清算結了登記の時から、帳簿資料を十年間保存する

登記期限は会社法929条、帳簿資料の保存期間は会社法508条によります。

法務局「株式会社清算結了登記申請書・決算報告書の記載例」では、決算報告書の例と必要な記載事項を確認できます。実際の添付書類は、会社の機関設計や申請方法に応じて確認してください。

9.間違えやすい点

誤り 確認方法
売掛金回収を新たな売上にする 回収時の仕訳は現金と売掛金の振替
借入金返済を決算報告の費用から外す 会計上の費用でなくても、決算報告では債務の弁済として集計する
税額控除前610を分配する 支払税額10を控除した600を用いる
税額10を二重に差し引く 費用総額700と、税額控除前後の表示を区別する
一株当たりの分配額を省く 600÷100株=6、株主別合計360+240=600を確認する
分配完了日を記載しない 予定日ではなく、実際に分配を完了した日を記載する
利益剰余金100をみなし配当100と決める 税務上の資本金等の額と株主属性を使って別に判定する

10.5日で定着させる練習

  1. 1日目:決算報告の四つの記載事項を書き出します。
  2. 2日目:売掛金1,000と貸付金300の回収から、収入1,300を求めます。
  3. 3日目:債務650、清算費用40、法人税等10から、費用700と税額控除後の財産600を求めます。
  4. 4日目:600÷100株=6、60株分360、40株分240を計算します。
  5. 5日目:決算報告の収入・費用と、会計帳簿上の収益・費用を取引ごとに分けます。

まとめ

清算結了時の決算報告は、清算中の損益だけを示す書類ではありません。債権回収や債務弁済を含む清算事務全体をまとめます。

本設例では、収入1,300、費用700、税額控除前の残余財産610、支払税額10、控除後の財産600です。一株当たり分配額は6で、株主Aへの360と株主Bへの240を合計すると600になります。

決算報告の収入・費用、会計帳簿上の収益・費用、税務上の益金・損金は分けて確認します。

第218回 清算株式会社の債権者保護手続:官報公告・個別催告・債務弁済を仕訳で整理(5日練習付き)

第217回では、解散日現在の財産目録と清算開始時貸借対照表を確認しました。

財産と債務を把握した後は、債権者への公告と催告を行い、債権を回収し、債務を弁済します。

官報公告をしても、買掛金や借入金は消えません。一方、帳簿に債務が載っていても、債権申出期間中は原則として弁済できません。手続と仕訳を分けて確認します。

1.清算人の仕事と帳簿をつなげる

会社法481条は、清算人の職務として、現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の分配を定めています。

段階 主な作業 帳簿への影響
債権者の確認 官報公告、個別催告、申出内容の確認 公告や催告だけでは資産・負債は動かない
債権の取立て 売掛金や貸付金を回収する 債権が減り、現金預金が増える
債務の弁済 弁済できる時期を確認して支払う 現金預金と負債が同額減る
残余財産の分配 債務弁済後の財産を株主へ分配する 残余財産と純資産を整理する

会社法施行規則146条は、各清算事務年度の貸借対照表を会計帳簿に基づいて作成することを定めています。解散後も記帳と残高管理は続きます。

2.官報公告と個別催告は別の手続

会社法499条の要点は次のとおりです。

項目 内容
官報公告 債権者に対し、一定期間内に債権を申し出るよう公告する
個別催告 会社に知れている債権者へ各別に催告する
申出期間 二か月を下回ることはできない
公告の付記 期間内に申出がなければ清算から除斥される旨を記載する

官報公告をしただけでは、知れている債権者への個別催告を省略できません。また、この債権者向けの解散公告は官報に掲載する必要があります。

会社法503条は、清算から除斥される債権者から「知れている債権者」を除いています。知れている債権者が申出をしなかったという理由だけで、買掛金や借入金を消すことはできません。

確認項目 主な資料
債権者名と連絡先 補助元帳、契約書、請求書
債権の原因 仕入れ、借入れ、賃貸借、給与、保証などの資料
金額 元本、利息、遅延損害金、解約金などの計算資料
弁済期と担保 契約書、返済予定表、担保関係資料
催告と申出 送付日、到達記録、申出日、確認結果
公租公課など 申告書、納付書、給与・社会保険関係資料

帳簿残高だけでは、未着請求書、解約前の契約、保証債務などを見落とすことがあります。元帳と契約・事実関係の両方を確認します。

3.二か月を60日と置き換えない

会社法499条の最低期間は「二か月」です。60日ではありません。

民法138条から143条により、日、週、月または年で定めた期間は原則として初日を算入せず、月による期間は暦に従って計算します。

官報発行サイトの解散公告例も、官報掲載の翌日から二か月以内に申し出る形を示しています。

日付 出来事 仕訳
2026年10月20日 解散、清算人就任 その事実だけでは仕訳なし
2026年10月23日 官報公告、個別催告 その事実だけでは仕訳なし
2026年10月24日 申出期間の起算 仕訳なし
2026年12月23日 二か月という最低期間の満了日 期限到来だけでは仕訳なし
2027年1月8日 設例で定めた申出期限 期限到来だけでは仕訳なし
2027年1月12日 買掛金と借入金の弁済期、全額支払い 負債と現金を減額

2026年10月23日に掲載した場合、暦による二か月の最低期間は2026年12月23日の終了時までです。設例の2027年1月8日は、この最低期間より後の日です。

末日が休日に当たる場合は、民法142条の要件も確認します。実際の期限は、公告文と掲載日を照合して決めます。

公告の申込日と掲載日は同じとは限りません。官報発行サイトの案内では、申込みから掲載までの日数を官報サービスセンターまたは官報公告等取次店へ確認するよう案内しています。期間計算には実際の掲載日を使います。

4.申出期間中の債務弁済には制限がある

会社法500条により、債権申出期間中は、原則として債務を弁済できません。

行為 取扱い
売掛金を回収する 債権の取立てであり、弁済制限の対象ではない
通常の買掛金を支払う 原則として弁済できない
少額債権や担保付債権などを弁済する 他の債権者を害するおそれがない債権について、裁判所の許可を得た場合に弁済できる
株主へ残余財産を分配する 会社法502条により、原則として債務弁済後でなければできない

例外に当たる「少額」について、一律の金額基準は条文にありません。個別の債権と会社財産を前提に裁判所の許可を得る制度です。清算人が二人以上いる場合、許可の申立てには全員の同意が必要です。

期間中に弁済できなくても、会社は債務不履行によって生じる責任を免れません。弁済期、利息、遅延損害金を別に確認します。設例では、弁済期を申出期間満了後に置いています。

条件付債権や金額が不確定な債権は、会社法501条に基づき、裁判所に鑑定人の選任を申し立て、その評価に従って弁済します。申出期間中に弁済する場合は、会社法500条による制限も確認が必要です。

5.公告、回収、弁済を別々に仕訳する

公告時の残高から確認します。金額の単位は千円です。

区分 科目 金額
資産 現金 1,000
売掛金 300
資産合計 1,300
負債 買掛金 250
借入金 400
負債合計 650
純資産 資本金 500
繰越利益剰余金 150
純資産合計 650
負債・純資産合計 1,300

現金1,000+売掛金300=資産1,300、買掛金250+借入金400=負債650、資本金500+繰越利益剰余金150=純資産650です。資産1,300=負債650+純資産650で一致します。

出来事 仕訳 理由
官報公告 公告という事実だけでは仕訳なし 既存の資産・負債は変わらない
個別催告 催告という事実だけでは仕訳なし 買掛金や借入金は残る
債権申出の受付 受付だけでは仕訳なし 未計上債務が判明したときは、その原因に応じて別途計上する
公告掲載料の債務が成立 借方:支払手数料等/貸方:未払金等 実際の金額と会社の勘定科目に従う

売掛金300を回収する

2026年11月10日に売掛金を全額回収します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 300 売掛金 300
科目 回収前 増減 回収後
現金 1,000 +300 1,300
売掛金 300 −300 0
資産合計 1,300 0 1,300
負債合計 650 0 650
純資産合計 650 0 650

資産の中身が売掛金から現金へ変わっただけです。回収額と帳簿価額が同じなので、損益は生じません。

買掛金250と借入金400を弁済する

申出期間が終わり、弁済期が到来した2027年1月12日に全額を支払います。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
買掛金 250 現金 650
借入金 400
借方合計 650 貸方合計 650

借方は買掛金250+借入金400=650、貸方は現金650で一致します。

科目 弁済前 増減 弁済後
現金 1,300 −650 650
買掛金 250 −250 0
借入金 400 −400 0
負債合計 650 −650 0
純資産合計 650 0 650

弁済後は、資産650=負債0+純資産650です。

ただし、現金650は設例上の残余財産候補額にすぎません。実務では、税金、清算費用、未計上債務、争いのある債権に必要な留保額などを確認してから分配へ進みます。

6.申出がなかった債権を一律に消さない

状況 会社法上の扱い 帳簿上の注意
知れている債権者が申出をしない 会社法503条の除斥対象ではない 申出がないことだけを理由に負債を消さない
知れていない債権者が申出をしない 清算から除斥され、未分配の残余財産に対してのみ弁済を請求できる 期間満了だけで仕訳を決めず、債権の状態と分配状況を確認する
条件付または金額不確定の債権 裁判所が選任する鑑定人の評価に従って弁済する 負債認識と見積額を事実に基づいて検討する
存否または金額に争いがある債権 必要な財産を留保すれば、他の財産を分配できる場合がある 必要な債務または引当ての処理を検討する

申出によって未計上債務が判明したときは、その原因を確認します。既に受けた役務の対価なら関連する費用と未払金、取得済みの資産ならその資産と未払金というように処理します。内容を確認せず、すべてを雑損失にすることはできません。

7.会社法、会計、法人税を分ける

判定軸 確認すること
会社法 誰を債権者として保護し、いつ弁済や分配ができるか
会計 負債などをいつ、いくら認識するか
法人税 その事業年度の損金算入要件を満たすか

国税庁「No.5387」によると、償却費以外の販売費、一般管理費その他の費用について債務が確定したといえるためには、原則として事業年度終了日までに、次の三つを満たす必要があります。

  1. 費用に係る債務が成立していること
  2. 具体的な給付原因となる事実が発生していること
  3. 金額を合理的に算定できること

したがって、将来支払う清算費用を見積もっただけで、直ちに法人税上の損金になるとは限りません。会計上の計上時期と税務上の損金算入時期は分けて確認します。

また、国税徴収法34条は、法人が国税を納付しないまま残余財産を分配または引き渡し、その法人に滞納処分をしても徴収額に不足すると認められる場合に、一定の限度で清算人や分配・引渡しを受けた者が第二次納税義務を負うことを定めています。

債権申出期限が終わっても、税務申告や納付の期限が終わったことにはなりません。残余財産を分配する前に、税額と申告・納付状況を確認します。

8.5日で定着させる練習

日 練習内容 到達点
1日目 会社法499条から503条を、公告・弁済・分配・除斥に分ける 各条文の役割を一文で説明できる
2日目 元帳、契約書、税務資料から債権者一覧の項目を作る 帳簿外の債務も確認できる
3日目 公告日、起算日、最低期間の満了日、設例の申出期限を並べる 二か月と60日を区別できる
4日目 売掛金300の回収と債務650の弁済を仕訳する 借方と貸方を一致させられる
5日目 資産1,300、負債650、純資産650から弁済後残高を再計算する 現金650が残余財産の確定額ではない理由を説明できる

9.確認した一次資料

官報公告は債務を消す手続ではありません。債権者を確認し、期間中の弁済制限を守り、回収と弁済を事実に沿って記帳することが、残余財産を計算する土台になります。

第217回 清算開始時の財産目録ゼロ入門:処分価格・清算帳簿・税務簿価を仕訳で整理(5日練習付き)

第216回では、解散日から残余財産確定日までの時間軸を整理しました。

今回は、解散日現在の財産目録と貸借対照表です。

清算開始時には、解散直前の会計簿価、会社法上の処分価格、法人税上の帳簿価額が異なることがあります。

処分価格へ評価し直しても、法人税上の帳簿価額が自動的に変わるわけではありません。

1.清算で作る書類を三段階に分ける

会社法492条、494条、507条と会社法施行規則144条から150条を基に並べます。

段階 主な書類 内容
清算開始時 財産目録、貸借対照表 解散日現在の財産状態を示す
各清算事務年度 貸借対照表、事務報告、各附属明細書 清算事務中の財産状態と執行状況を示す
清算事務終了時 決算報告 収入、費用、残余財産、一株当たり分配額などを示す

清算人は、就任後遅滞なく財産の現況を調査し、解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成します。

清算人会設置会社では、先に清算人会の承認が必要です。その後、清算人は財産目録と貸借対照表を株主総会へ提出または提供し、承認を受けます。

作成した財産目録と貸借対照表は、作成時から本店所在地における清算結了登記の時まで保存します。

2.財産目録と貸借対照表を分ける

会社法施行規則144条と145条は、二つの書類を別に定めています。

項目 財産目録 貸借対照表
作成の基礎 清算人による財産調査 財産目録に基づく
資産の金額 処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格 財産目録の金額を引き継ぐ
表示区分 資産、負債、正味資産 資産、負債、純資産
処分価格を付すことが困難な資産 処分価格による評価の例外 財産評価の方針を注記する

正味資産と純資産は名称が異なります。本設例では、いずれも資産から負債を差し引いた金額になります。

3.三つの金額を二列以上で管理する

会社法施行規則144条2項は、財産目録に計上する財産について、処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格を付すよう定めています。

同項は、清算株式会社の会計帳簿について、財産目録に付した価格を取得価額とみなすことも定めています。

金額 土地 使う場面
解散直前の会計簿価 500 解散直前の帳簿残高
清算開始時の処分価格 700 財産目録、清算開始時貸借対照表、清算帳簿
法人税上の帳簿価額 500 法人税上の譲渡損益計算

処分価格には一律の算定方法があるわけではありません。基準日、購入申出、鑑定、回収可能性、処分費用など、見積りの根拠を残します。

見積額は、将来の売却額を保証するものではありません。

4.清算開始時の金額を仕訳でつなぐ

まず、解散直前の残高を確認します。

区分 科目 金額
資産 現金 300
負債 買掛金 200
純資産 資本金500+繰越利益剰余金100 600

資産800=負債200+純資産600です。

土地を500から700へ組み替える差額は200です。通常帳簿から清算帳簿へのつながりを確認するため、学習上は次のように表せます。

借方 貸方
土地 200 清算開始時評価差額 200

借方と貸方は、ともに200です。

「清算開始時評価差額」は説明用の名称です。法令がこの勘定科目名を指定しているわけではありません。実務上の表示や帳簿への反映方法は、作成する計算書類とのつながりを確認して決めます。

区分 科目 金額
資産 現金 300
負債 買掛金 200
正味資産・純資産 1,000-200 800

資産1,000=負債200+純資産800となり、貸借は一致します。

5.売却後の清算帳簿を検算する

清算帳簿では、財産目録に付した700を土地の取得価額とみなします。

土地を700で売却したときの仕訳は次のとおりです。

借方 貸方
現金 700 土地 700

清算帳簿上の売却損益は、700-700=0です。現金は300+700=1,000になります。

買掛金200を支払います。

借方 貸方
買掛金 200 現金 200

支払後は、現金800、負債0、純資産800です。

ただし、税額と清算費用を計算していません。現金800をそのまま最終的な残余財産とすることはできません。

6.法人税上の土地簿価は500のまま

法人税法25条では、資産の評価換えによる評価益は、同条に定める例外を除き、益金の額に算入しないとされています。評価損については同法33条に対応する規定があります。

本設例は、評価益を益金算入する例外に該当しない前提です。清算開始時に土地を700で表示しても、法人税上の帳簿価額は500のまま残ります。

土地を700で売却した時点の法人税上の譲渡益は、次のとおりです。

売却額700-法人税上の帳簿価額500=譲渡益200

時点 清算帳簿 法人税
清算開始時 土地を500から700へ組み替える 評価益200は本設例では益金不算入
700で売却 売却損益0 譲渡益200

税務申告では、会計上の利益と法人税上の所得の差を別表四で調整し、必要に応じて別表五(一)などの残高とつなぎます。

ただし、申告調整の時期と記載方法は、清算開始時の評価差額を損益へ計上したか、純資産へ直接反映したか、会社法用の組替表だけで管理したかによって異なります。

損益に含まれていない評価差額を、別表四で機械的に減算してはいけません。申告書の出発点となる利益と、土地の法人税上の帳簿価額500を照合して調整します。

現行の様式と記載要領は、国税庁「令和8年4月以降に提供した法人税等各種別表関係」で確認できます。

7.よくある混同

混同 整理
解散直前の貸借対照表をそのまま財産目録にする 財産を調査し、原則として解散日現在の処分価格を付す
財産目録と貸借対照表を同じ書類と考える 貸借対照表は財産目録に基づいて別に作成する
処分価格700を税務簿価にする 本設例の法人税上の帳簿価額は500のまま
清算帳簿の売却益が0なら課税所得も0と考える 法人税上は700-500=200の譲渡益を計算する
評価差額を必ず別表四で減算する 申告書の出発点となる利益に含まれているかを先に確認する
現金800をすべて分配できると考える 税金、清算費用、未確定債務などを反映してから残余財産を確定する

8.5日で定着させる

日 取り組むこと 確認点
1日目 清算開始時、各清算事務年度、清算事務終了時の書類を分ける 財産目録と決算報告を混同していないか
2日目 三つの金額を表にする 会計簿価、処分価格、税務簿価を区別できるか
3日目 処分価格への組替えを再現する 700-500=200で借貸が一致するか
4日目 売却時の清算帳簿と法人税を二列で計算する 清算帳簿0、法人税200を説明できるか
5日目 次の確認問題を解く 税金控除前の現金を残余財産と断定していないか

確認問題

T社の解散直前の残高は、現金180、土地400、買掛金140です。土地の法人税上の帳簿価額も400です。解散日現在の処分価格は460で、後日同額で売却します。処分費用と税額は計算しません。

  1. 処分価格への評価差額はいくらですか。
  2. 財産目録の資産、負債、正味資産はいくらですか。
  3. 学習用の組替仕訳を示してください。
  4. 土地売却時の清算帳簿上の損益と、法人税上の譲渡益はいくらですか。
  5. 土地売却と買掛金支払後の現金はいくらですか。その全額を残余財産と断定できますか。

答え

  1. 460-400=60です。
  2. 資産は180+460=640、負債は140、正味資産は640-140=500です。
  3. 借方「土地60」、貸方「清算開始時評価差額60」です。
  4. 清算帳簿上は460-460=0、法人税上は460-400=60の譲渡益です。
  5. 現金は180+460-140=500です。税額や清算費用を計算していないため、500全額を最終残余財産とは断定できません。

9.今回のまとめ

  • 清算人は、解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受けます。
  • 財産目録の財産には、処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格を付します。
  • 財産目録は資産・負債・正味資産、貸借対照表は資産・負債・純資産に区分します。
  • 本設例では、清算帳簿の土地は700、法人税上の帳簿価額は500です。
  • 700で売却すると、清算帳簿上の売却損益は0でも、法人税上の譲渡益は200です。
  • 別表四の調整は、評価差額が申告書の出発点となる利益に含まれているかを確認して行います。

清算では、一つの金額だけを追うと混乱します。

会社法上の処分価格と法人税上の帳簿価額を分けて残し、売却時までつなげてください。

第216回 清算株式会社の事業年度と申告期限をゼロから整理:解散日・清算事務年度・残余財産確定日(5日練習付き)

清算株式会社の申告期限を求めるには、まず事業年度の開始日と終了日を確定させる必要があります。

事業年度の途中で解散した株式会社は、解散日でいったん区切ります。翌日からは清算事務年度に入り、残余財産が確定した日で最後の事業年度が終わります。

最後の事業年度には通常と異なる申告期限が適用されるため、解散から最後の分配までを一つの時間軸に置いて確認します。

1.最初に五つの日を分ける

会社法476条・494条によれば、清算株式会社は清算の目的の範囲内で清算結了まで存続し、各清算事務年度の貸借対照表などを作成します。

解散しただけで、会社や帳簿残高が消えるわけではありません。

日 本設例 意味
解散日 2026年10月18日 解散前の事業年度が終わる
清算事務年度の開始日 2026年10月19日 解散日の翌日から清算中の期間が始まる
第1清算事務年度末 2027年10月18日 解散日の翌日から1年間を区切る
残余財産確定日 2028年1月25日 最後の事業年度が終わる
最後の分配日 2028年2月15日 申告期限を早める場合がある

清算結了の登記日を、最後の事業年度の終了日と考えないことが大切です。解散、残余財産の確定、最後の分配、清算結了は別の出来事です。

2.事業年度は三つに分かれる

法人税法14条は、事業年度の途中で解散した場合と、清算中に残余財産が確定した場合の区切りを定めています。株式会社の清算中の事業年度は、会社法494条の清算事務年度が基礎になります。

区分 期間 終了理由
解散日の属する事業年度 2026年4月1日~2026年10月18日 事業年度の途中で解散したため
第1清算事務年度 2026年10月19日~2027年10月18日 解散日の翌日から1年間が経過したため
残余財産確定日の属する事業年度 2027年10月19日~2028年1月25日 残余財産が確定したため

従来の決算日は3月31日でしたが、清算中の期間を3月31日で区切るわけではありません。本設例では、2027年10月19日から始まった期間の途中で残余財産が確定するため、2028年1月25日が最後の事業年度の終了日です。

3.法人税の申告期限を計算する

国税庁「法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告」では、通常の確定申告期限を、原則として事業年度終了日の翌日から2か月以内と案内しています。期限が土曜日、日曜日、祝日等に当たる場合は、その翌日が期限です。

一方、法人税法74条2項によれば、清算中の法人で残余財産が確定した場合は、原則として、その確定日の翌日から1か月以内に申告します。その期間内に残余財産の最後の分配または引渡しを行うときは、その前日までです。

対象事業年度 計算 法人税の申告期限
2026年4月1日~10月18日 終了日の翌日から2か月以内 2026年12月18日
2026年10月19日~2027年10月18日 2か月後の2027年12月18日は土曜日 2027年12月20日
2027年10月19日~2028年1月25日 原則は2028年2月25日。ただし、2月15日に最後の分配を行う 2028年2月14日

「2か月以内」を60日後と読み替えてはいけません。暦で2か月後または1か月後を求め、休日と最後の分配日を確認します。

4.消費税と地方税は分けて確認する

法人税の期限を、そのまま他の税目へ転記することはできません。

税目 確認すること 一次資料
法人税等 各事業年度の終了日、2か月期限、残余財産確定時の1か月期限、最後の分配日 法人税法14条・74条、国税庁の申告案内
消費税 課税事業者に該当するか、課税期間、清算時の申告期限 国税庁タックスアンサーNo.6610
法人住民税・法人事業税 所在地を管轄する自治体の期限、様式、提出先 都道府県・市町村の案内

国税庁は、清算中の課税事業者について残余財産が確定した場合、消費税の確定申告書を原則として課税期間終了日の翌日から1か月以内に提出すると案内しています。その期間内に最後の分配等を行うときは、その前日までです。

これは課税事業者についての説明です。すべての清算法人に消費税の申告義務や納税額が生じるという意味ではありません。

地方税は所在地ごとに確認します。たとえば、東京都主税局の法人事業税・法人都民税の案内にも、通常の確定申告と残余財産確定時の期限が示されています。東京都の案内を他道府県や市町村へそのまま当てはめることはできません。

5.残余財産確定日は資料で確認する

解散日と残余財産確定日は同じとは限りません。「換価がほぼ終わった」「分配額の見込みが立った」というだけで日付を決めることもできません。

消費税法基本通達15-2-6は、消費税における残余財産の確定を、一切の資産と負債の額が具体的に確定したこととしています。

この通達は消費税の取扱いであり、法人税や会社法上の判断を無条件に置き換えるものではありません。実務では、確定日を事実と資料から確認する必要があります。

確認項目 資料の例
資産 換価結果、預金残高、売掛金等の回収状況
負債 債務の弁済状況、未払費用、税金、清算費用
残余財産 財産目録、貸借対照表、株主ごとの分配額を示す計算資料
分配 分配内容を決めた記録、支払予定日、振込記録

確定日と最後の分配日は申告期限に直結するため、計算資料、会議録、元帳、支払資料を突き合わせます。

6.解散日で費用を分ける

事業年度が解散日で終わるため、月額費用も期間帰属を確認します。

企業会計原則注解の注5では、継続して役務の提供を受ける契約について、まだ提供されていない役務に対する支出を前払費用として資産に計上する考え方が示されています。

S社は2026年10月1日、10月分の事務所家賃310を普通預金から支払い、全額を地代家賃に計上しました。役務は毎日均等に提供されるものとし、消費税は設例から除きます。

1日当たりの家賃は、310÷31日=10です。解散日までの18日分は180、翌日以後の13日分は130となります。

日付 借方 金額 貸方 金額
2026年10月1日 地代家賃 310 普通預金 310
2026年10月18日 前払費用 130 地代家賃 130
2026年10月31日 地代家賃 130 前払費用 130
確認時点 地代家賃 前払費用 検算
2026年10月18日 解散日までの費用180 借方残高130 180+130=310
2026年10月31日 清算中の事業年度の費用130 残高0 180+130=310

各仕訳の借方と貸方は一致しています。前払費用130は、翌日から始まる清算中の事業年度へ引き継ぎます。

この仕訳は会計上の期間配分です。法人税上の損金算入時期は、契約内容と適用要件を別に確認します。

7.5日で定着させる

日 練習 到達点
1日目 解散日、清算事務年度末、残余財産確定日、最後の分配日を時系列に並べる 四つの日を区別できる
2日目 S社の三つの事業年度を書く 開始日と終了日がつながる
3日目 2か月期限、休日、1か月期限、分配日前日を順に確認する 12月18日、12月20日、2月14日を理由付きで求められる
4日目 家賃310を180と130に分けて仕訳する 借貸と前払費用残高を検算できる
5日目 法人税、消費税、地方税の確認先を書く 一つの期限を全税目へ流用しない

まとめ

清算株式会社の申告期限は、解散日、清算事務年度末、残余財産確定日、最後の分配日を順に確定してから、税目ごとの一次資料に当てはめて判断します。

第215回 清算中子会社の期限切れ欠損金ゼロ入門:残余財産がない見込み・控除順序・別表七(四)を整理(5日練習付き)

第214回では、子会社の残余財産が確定した後に、一定の未処理欠損金額を親会社が引き継ぐ場面を扱いました。

今回は、その前の段階です。清算中の子会社に土地売却益などが生じても、残余財産がないと見込まれるときは、法人税法59条4項による欠損金の損金算入を受けられる場合があります。

先に法人税法57条の欠損金を控除し、その後に法人税法59条4項の金額を控除します。判定時点は解散日ではなく、適用を受ける清算中の事業年度終了時です。

1.第214回との違い

項目 第214回 今回
欠損金を使う法人 親会社P社 清算中の子会社S社
主な時点 子会社の残余財産確定日の翌日以後 適用を受ける清算中の事業年度終了時
中心となる規定 法人税法57条2項 法人税法59条4項
主な別表 親会社側の別表七(一)付表一など 子会社側の別表七(一)と別表七(四)

子会社がすでに使った欠損金額を、親会社が重ねて使うことはできません。また、会計上の累積赤字が、そのまま親会社へ引き継がれるわけでもありません。

2.法人税法59条4項の確認順序

法人税法59条4項・6項と法人税法施行令117条の5を、三段階に分けます。

段階 確認内容
1.判定 解散した法人について、適用年度終了時に残余財産がないと見込まれるか
2.通常の控除 法人税法57条の欠損金を先に控除する
3.限度額 政令で計算した欠損金額と、法人税法59条4項の適用前の所得金額のうち少ない額を控除する

「期限切れ欠損金」は実務上の呼び方です。期限を過ぎた欠損金を年度別に足すだけではありません。前事業年度以前から繰り越された税務上の欠損金額、税務上の資本金等の額、法人税法57条による当期控除額を使って計算します。

また、確定申告書には損金算入額とその計算明細を記載し、残余財産がないと見込まれることを説明する書類を添付する必要があります。

対象となる所得は債務免除益に限られません。本設例の土地売却益も、適用年度の所得に含まれます。

3.土地売却の仕訳と残高

土地の帳簿価額は100、売却額は800です。売却益は700になります。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 800 土地 100
合計 800 合計 800
科目 売却前 増減 売却後
現金 200 +800 1,000
土地 100 △100 0
資産合計 300 +700 1,000
外部借入金 1,200 0 1,200
資本金 100 0 100
繰越利益剰余金 △1,000 +700 △300
純資産合計 △900 +700 △200
負債・純資産合計 300 +700 1,000

売却後の資産は1,000、負債は1,200です。純資産は△200となり、資産をすべて債務の弁済に充てても株主へ分配する財産は残りません。

4.残余財産がない見込みの判定

帳簿上の純資産がマイナスであることだけで判定するのではありません。含み益のある資産、回収可能な簿外債権、保証金、未計上の債務なども確認します。

法人税基本通達12-3-7から12-3-9では、判定時点を清算中の各事業年度終了時としています。その時点で債務超過であれば、残余財産がないと見込まれる場合に該当します。

本設例では、土地は第三者へ800で売却済みです。期末資産は現金1,000、外部借入金は1,200であるため、実態価額で見ても200の債務超過です。

5.控除額を計算する

会計上・税務上の土地売却益はともに700で、ほかに所得調整項目はありません。欠損金控除前の所得金額は700です。

設例では、法人税法57条により当期に控除できる欠損金額を300としています。したがって、通常の欠損金を控除した後の所得金額は次のとおりです。

700-300=400

次に、2026年4月1日以後終了事業年度分の別表七(四)に沿って、法人税法59条4項の限度額を計算します。

計算項目 金額 計算
前事業年度以前から繰り越された欠損金額 1,000 設例の前提
資本金等の額に係る金額 0 資本金等の額がプラス100のため0
法人税法57条による当期控除額 300 別表七(一)の当期控除額
差引欠損金額 700 1,000-0-300
通常の欠損金控除後の所得 400 700-300
法人税法59条4項の損金算入額 400 700と400のうち少ない額
最終的な所得金額 0 700-300-400

土地売却益700-法人税法57条の欠損金300-法人税法59条4項の欠損金400=所得0

これは、この設例における法人税の所得計算です。所得が0でも、法人住民税の均等割などが別に生じることがあります。

6.欠損金控除の仕訳はしない

項目 会計仕訳 税務上の処理
土地の売却 現金、土地、固定資産売却益を記帳する 売却益700を所得計算に反映する
法人税法57条の300 仕訳しない 別表七(一)などで控除する
法人税法59条4項の400 仕訳しない 別表七(四)などで控除する

税金費用を除いた設例上の会計利益は700です。繰越利益剰余金は△1,000から△300になります。一方、税務上の所得金額は0です。

残った会計上の赤字300が、そのまま翌期に控除できる欠損金300を意味するわけではありません。繰越利益剰余金、別表五(一)の利益積立金額、別表七(一)の控除未済欠損金額は分けて確認します。

7.申告時に確認する資料

法人税法施行規則26条の6第3号は、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付を定めています。

資料 確認内容
別表七(一) 法人税法57条による当期控除額300
別表七(四) 法人税法59条4項による損金算入額400
別表四・別表五(一) 所得金額と利益積立金額等のつながり
実態貸借対照表 期末の資産1,000と負債1,200
土地売買契約書・入金資料 土地の処分価額800と入金額
借入金残高資料 期末借入金1,200の存在と金額

実際には、未払清算費用、租税債務、保証債務、回収予定債権なども確認します。資産と負債の一部だけを選んで債務超過を示すことはできません。

8.各事業年度で判定し直す

残余財産がない見込みは、解散時に一度だけ判定するものではありません。清算が複数年度にわたる場合は、適用を受ける各事業年度終了時の現況で判定します。

国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例」問9・問10では、ある事業年度末に適正に適用した後、翌年度に見込みが変わっても、過去の適用をさかのぼって修正する必要はないと説明されています。翌年度については、その年度末の現況で改めて判定します。

この質疑応答事例は公表当時の条文番号で記載されています。2026年10月17日現在の対応規定は、法人税法59条4項と法人税法施行令117条の5です。

9.5日で定着させる

日 練習内容 確認結果
1日目 第214回と今回について、欠損金を使う法人を書く 第214回はP社、今回はS社
2日目 土地売却の仕訳を書く 借方800、貸方100+700
3日目 売却後の貸借対照表を再計算する 資産1,000=負債1,200+純資産△200
4日目 欠損金の控除順序を書く 700-300-400=0
5日目 売却後に損金となる清算費用100を現金で支払った場合を計算する 600-300-300=0。資産900=負債1,200+純資産△300

覚える順序は、期末判定、法人税法57条、法人税法59条4項、所得の再計算です。最初から別表のすべての欄を覚える必要はありません。

10.まとめ

  • 法人税法59条4項は、残余財産がないと見込まれる清算中の法人自身が適用する制度です。
  • 判定は、適用を受ける清算中の事業年度終了時に行います。
  • 設例では、土地売却益700から法人税法57条の欠損金300を先に控除し、残る400を法人税法59条4項により控除しました。
  • 欠損金の控除は税務申告上の処理であり、固定資産売却益を消す会計仕訳は行いません。
  • 申告時には、別表七(四)だけでなく、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付も確認します。

実務では、過去の申告書、別表五(一)、別表七(一)、資産の処分価額、債務残高、清算日程を一体で確認してください。個別案件は税理士などの専門家へ確認する必要があります。

根拠資料

第214回 完全子会社清算の欠損金引継ぎゼロ入門:残余財産確定・10年枠・5年継続支配を整理(5日練習付き)

第213回では、債務超過子会社の債権放棄と、子会社が繰越欠損金を使う場面を扱いました。

今回は、清算後も残る税務上の欠損金を親会社が引き継ぐ場面です。

解散しただけでは欠損金は移りません。完全支配関係などの要件を満たした子会社の残余財産が確定すると、その未処理欠損金額が親会社の過年度の欠損金額とみなされます。

1.前回と今回では欠損金を使う会社が違う

項目 第213回 今回
欠損金を使う法人 S社 P社
用途 S社の所得計算で使う P社の所得計算で使う
基準となる時点 S社の各事業年度 S社の残余財産確定日の翌日
欠損金引継ぎの仕訳 ― 仕訳なし

S社がすでに繰越控除した額や、繰戻還付の計算の基礎とした額を、P社がもう一度使うことはできません。引継ぎの対象は、それらを除いた未処理欠損金額です。

2.解散日ではなく残余財産確定日を見る

法人税法14条1項5号・57条2項に沿って日付を並べます。

段階 本設例の日付 意味
解散 設例では省略 清算を始める。解散だけでは欠損金は移らない
残余財産の確定 2026年10月16日 S社の最後事業年度が終了する
確定日の翌日 2026年10月17日 この日が属するP社の事業年度を合併等事業年度とする
P社の合併等事業年度 2026年4月1日~2027年3月31日 要件を満たす欠損金を利用できる最初の事業年度になる

残余財産確定日の翌日が、親会社のどの事業年度に入るかまで確認します。

例えば、子会社の残余財産が3月31日に確定した場合、その翌日は4月1日です。3月決算の親会社では、原則として4月1日から始まる事業年度が合併等事業年度になります。

3.会計上の赤字と未処理欠損金額は別である

項目 意味 引継ぎの扱い
繰越利益剰余金のマイナス 会計上の累積損失 税務上の欠損金額とは一致しない
欠損金額 法人税の所得計算で生じた税務上の赤字 発生年度、申告、保存などの要件を確認する
未処理欠損金額 繰越控除済額や繰戻還付の基礎とした額などを除いた残額 法人税法57条2項・3項などの範囲で引き継ぐ
繰越期間を過ぎた欠損金 通常の繰越控除に使えなくなった欠損金 法人税法57条2項による通常の引継ぎ対象にはならない

国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」では、原則として各事業年度開始日前10年以内に開始した事業年度の欠損金を対象としています。

引継ぎによって、新たな10年が始まるわけではありません。S社で欠損金が生じた年度を基礎として、P社における発生年度と残存期間を判定します。

4.100%・10年・5年を分ける

数字 確認すること 本設例
100% 残余財産確定時に法人税法57条2項所定の完全支配関係があるか P社がS社を直接100%保有している
10年 残余財産確定日の翌日前10年以内に開始したS社の事業年度か 設例の欠損年度はすべて期間内にある
5年 法人税法57条3項による引継制限を受けない継続支配関係があるか 判定期間を通じて支配関係が続いている

5年継続支配の判定では、次の日のうち最も遅い日を起点にします。

  • P社の合併等事業年度開始日の5年前の日
  • P社の設立日
  • S社の設立日

本設例では、最も遅い日は2021年4月1日です。P社とS社の支配関係は2020年4月1日から続いているため、2021年4月1日から残余財産確定日までの継続支配を満たします。

100%は引継ぎの入口です。5年継続支配は、引継ぎから除外される欠損金がないかを判定するための要件です。残余財産確定日に100%保有しているだけで、すべての欠損金を引き継げるとは限りません。

5.未処理欠損金額500を年度別に置く

S社の欠損事業年度 未処理欠損金額 P社で生じたものとみなす事業年度
2022年4月1日~2023年3月31日 250 2022年4月1日~2023年3月31日
2023年4月1日~2024年3月31日 150 2023年4月1日~2024年3月31日
2026年4月1日~2026年10月16日 100 2025年4月1日~2026年3月31日
合計 500 ―

S社の最後事業年度は、P社の合併等事業年度開始日と同じ2026年4月1日に始まっています。

このように、S社の欠損事業年度がP社の合併等事業年度開始日以後に始まる場合、その欠損金は法人税法57条2項後段により、P社の合併等事業年度の前事業年度に生じたものとみなします。

P社自身には、2021年4月1日から2022年3月31日までの事業年度に生じた欠損金100があります。欠損金は古い年度のものから控除します。

順序 欠損金 控除額 控除後所得
控除前 ― ― 800
1 P社自身の欠損金 100 700
2 S社の2022年度分 250 450
3 S社の2023年度分 150 300
4 S社の最後事業年度分 100 200
計算項目 計算 金額
利用可能額 100+250+150+100 600
損金算入限度額 800×100% 800
当期控除額 600と800の少ない額 600
欠損金控除後所得 800-600 200
翌期繰越額 600-600 0

本設例では、利用可能額600をすべて控除し、控除後所得は200、翌期繰越額は0です。

P社が中小法人等事業年度に該当せず、法人税法57条11項のほかの例外にも該当しない場合、2026年10月16日現在の損金算入限度額は欠損金控除前所得の50%です。同じ数値なら限度額と当期控除額は400、控除後所得は400、翌期繰越額は200となります。

6.欠損金の引継ぎ自体に仕訳はない

処理 借方 貸方 金額
未処理欠損金額500の引継ぎ 仕訳なし 仕訳なし ―
法人税申告での欠損金控除600 欠損金控除自体の仕訳なし 欠損金控除自体の仕訳なし ―

欠損金の引継ぎは、法人税法上、P社の過年度の欠損金額とみなす処理です。現金、資産、負債が動く処理ではありません。

したがって、P社の会計上の税引前利益800は変わりません。税務申告上の欠損金控除後所得が200になります。

残余財産の受取りや子会社株式の消滅に関する仕訳は別に必要です。本稿では、第212回・第213回で扱った処理と分けて、欠損金の引継ぎだけを確認しています。

本設例では引き継いだ欠損金を当期中にすべて使うため、期末に残る引継欠損金はありません。法人税等の計上や、未使用額が残る場合の繰延税金資産は別に判定します。

7.5年継続支配を満たさない場合

仮にP社がS社株式を取得した日が2025年4月1日で、それ以前に両社間の支配関係がなかった場合、本設例の5年継続支配は満たしません。

ただし、引継額が自動的にすべて0になるわけではありません。法人税法57条3項と法人税法施行令112条に基づき、次の金額を年度別に計算します。

欠損金の区分 確認すること
支配関係事業年度前の欠損金 引継ぎから除外される額を確認する
支配関係事業年度以後の欠損金 特定資産譲渡等損失額に相当する部分を確認する
欠損等法人に関する欠損金 法人税法57条の2の適用がないかを別に確認する

短期間だけ完全子会社にして清算すれば、欠損金を全額利用できるという制度ではありません。

8.申告書はS社からP社へつなぐ

順序 確認する書類 役割
1 S社の最後事業年度の別表七(一) 最終的な未処理欠損金額を確認する
2 P社の別表七(一)付表一 P社自身の欠損金とS社からの引継額を年度別に調整する
3 P社の別表七(一) 当期控除額と翌期繰越額を計算する
4 S社の別表七(一)の写し P社の合併等事業年度の申告書に添付する

国税庁「別表七(一)付表一の記載の仕方」は、残余財産が確定した法人の最後事業年度の申告書に添付された別表七(一)の写しを添付するよう示しています。

最後事業年度について修正申告や更正があり、別表の金額が変わっている場合は、最も新しい別表または金額を確認できる書類の写しを使います。

株主名簿、資本関係図、支配関係が生じた日、各欠損年度の申告書、繰戻還付の有無も突き合わせます。実際の申告では、その事業年度に対応する国税庁の法人税申告書別表を確認してください。

9.間違えやすい点

誤り 正しい整理
解散日に欠損金を引き継ぐ 残余財産確定日と、その翌日が属するP社の事業年度を確認する
繰越利益剰余金のマイナスを使う S社の税務申告上の未処理欠損金額を使う
引継日から10年間使える S社で欠損金が生じた年度を基礎に残存期間を確認する
確定日に100%なら全額引継ぎ 5年継続支配、特定資産譲渡等損失、欠損等法人の制限も確認する
引継額を費用として仕訳する 引継ぎ自体は税務上のみなし処理であり、直接の仕訳はない
S社の期首残高を使う 最後事業年度の所得計算や繰戻還付を反映した最終残高を使う
利用可能額を必ず全額控除する P社の法人区分と損金算入限度額を確認する

10.5日で定着させる

日 取り組むこと 確認点
1日目 解散日、残余財産確定日、その翌日を時系列で書く 引継ぎの基準日を説明できる
2日目 会計上の赤字と税務上の未処理欠損金額を分ける 繰越利益剰余金を使わないと判断できる
3日目 100%、10年、5年の役割を一行ずつ書く 三つの判定を混同しない
4日目 800-100-250-150-100を再計算する 控除後所得200、翌期繰越額0になる
5日目 S社の別表七(一)からP社の付表一・別表七(一)への流れを書く 仕訳がなくても申告書処理が必要だと説明できる

まとめ

  • 欠損金引継ぎの起点は、解散ではなく残余財産の確定である
  • 引継ぎ対象は、会計上の累積損失ではなく税務上の未処理欠損金額である
  • 完全支配関係、10年内事業年度、5年継続支配は別々に判定する
  • 欠損金の発生年度と繰越期間は、引継ぎによってリセットされない
  • 本設例では600を控除し、控除後所得200、翌期繰越額0となる
  • 引継ぎ自体に仕訳はないが、別表七(一)付表一と添付書類の確認が必要になる

実際の引継額は、資本関係の変遷、設立日、過年度申告、繰戻還付、特定資産の譲渡、グループ通算制度などによって変わります。清算前から欠損金を年度別に整理し、適用法令と申告年度用の様式に基づいて個別に判定してください。

第213回 債務超過子会社の清算ゼロ入門:債権放棄・貸倒損失・債務免除益を仕訳で整理(5日練習付き)

第212回では、残余財産がある完全子会社の清算を扱いました。今回は、負債が資産を上回る子会社です。

親会社の貸付金と子会社株式は別の資産です。債権放棄による損失と株式の損失を分け、会計と法人税も別々に判定します。

1.貸付金の回収と残余財産を分ける

区分 科目 金額
資産 現金 500
負債 外部債務 300
純資産 資本金 200
  1. P社への返済原資:現金500-外部債務300=200
  2. 貸付金の回収不能額:500-200=300
  3. 株主への残余財産:500-300-200=0

S社からP社へ支払う200は、貸付金の返済です。株主として受け取る残余財産ではありません。

この計算は、P社貸付金が外部債務に契約上劣後するという設例の前提によります。一般に外部債務が親会社借入金より優先するわけではありません。担保、租税債権、契約および債権者間の合意を確認します。

2.通常清算へ進めるかを先に確認する

会社法484条、510条、511条では、清算株式会社の財産で債務を完済できないことが明らかになった場合の破産手続開始の申立てと、債務超過の疑いがある場合の特別清算開始の申立てが定められています。

本設例では、解散前に300を免除します。免除後は資産500、負債500、純資産0となるため、すべての債務を弁済できることを確認した上で通常清算へ進む前提です。

順序 処理 残高の確認
1 財産、債務、税金、清算費用を調査する 免除前は300の債務超過
2 P社が回収不能部分300を免除する 資産500、負債500
3 S社が解散し、債権者保護手続を行う 未計上債務がないか再確認
4 外部債務300とP社借入金200を弁済する 資産、負債、純資産はいずれも0

税金や清算費用を見落とすと、免除後も債務を完済できません。会計上の債務超過額だけで通常清算の可否を決めないことが大切です。

3.親会社と子会社の仕訳

企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」は、債務者の財政状態などに応じて貸倒見積高を算定することを定めています。また、市場価格のない株式等は、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに減額します。

(1)回収不能見込額と株式評価損を計上する

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 300 貸倒引当金 300
S社株式評価損 200 S社株式 200

貸付金500から貸倒引当金300を控除した純額は200です。S社には株主へ分配できる財産がないため、本設例では株式の実質価額を0として200を減額します。

回収不能や株式価値の低下が以前の決算ですでに明らかだった場合は、その時点で引当てや減額が必要だった可能性があります。本設例では、当期に回収見積りが確定したものとします。

(2)債権放棄が効力を生じる

会社 借方 金額 貸方 金額
P社 貸倒引当金 300 S社貸付金 300
S社 P社借入金 300 債務免除益 300

P社はすでに貸倒引当金300を計上しているため、債権放棄時に同じ損失をもう一度計上しません。事前の引当てがない場合は、「貸倒損失300/S社貸付金300」とする処理が考えられます。

(3)残った債務を弁済する

会社 借方 金額 貸方 金額
S社 外部債務
P社借入金
300
200
現金 500
P社 現金 200 S社貸付金 200

S社の現金と債務は0になります。債務免除益300により繰越利益剰余金はマイナス200となり、資本金200と合わせた純資産合計も0です。

4.残高で二重計上を防ぐ

科目 放棄前 放棄後 弁済後
現金 500 500 0
外部債務 300 300 0
P社借入金 500 200 0
純資産合計 △300 0 0
貸借一致 500=800+△300 500=500+0 0=0+0
項目 金額
株式と貸付金の当初合計 200+500=700
貸付金に係る損失 300
株式評価損 200
現金回収額 200
検算 700-300-200=200

P社の会計上の損失は合計500です。これに回収額200を加えると、当初の投下額700と一致します。

5.法人税は三つの区分を混ぜない

法人税基本通達9-6-1(4)は、債務超過が相当期間継続し、弁済を受けられないと認められる場合に、書面で明らかにされた債務免除額を貸倒れとして損金算入する取扱いを示しています。

単に100%子会社であることや、貸借対照表が債務超過であることだけでは足りません。資産状況、支払能力、担保・保証、弁済順位、回収経緯および免除額を総合して判定します。

法人税基本通達9-4-1は、子会社の整理に伴う損失負担について、より大きな損失を避けるためにやむを得ないなど相当な理由がある場合、その経済的利益を寄附金に該当しないものとしています。

区分 P社 S社
9-6-1(4)の貸倒れ 要件を満たす免除額を損金算入 債務免除益を益金算入
9-4-1の子会社整理損 相当な理由があれば寄附金に該当しない損失として処理 債務免除益を益金算入
寄附金 法人による完全支配関係では対応額を全額損金不算入 対応する受贈益を益金不算入

法人税基本通達4-2-5によれば、親会社側の経済的利益が9-4-1などにより寄附金に該当しない場合、子会社側の受贈益には法人税法25条の2の益金不算入を適用しません。

反対に、債権放棄が寄附金と判定された場合は、国税庁タックスアンサーNo.5281のとおり、法人による完全支配関係がある内国法人間では、対応する寄附金が親会社で全額損金不算入となり、子会社の受贈益は益金不算入となります。

本設例では、貸倒引当金繰入300を税務上加算済みであるため、債権放棄時に貸倒れ300を認容して減算します。会計仕訳に新たな費用が現れない場合でも、申告調整による認容は別に検討します。

判断資料を残す

確認事項 資料の例
実際の財産状態 換価価額による貸借対照表、債権者一覧、偶発債務の調査
回収可能額 現金収支表、担保・保証、劣後合意、弁済順位の資料
免除額の合理性 500のうち300だけを免除する計算過程
整理の必要性 清算計画、代替案との比較、取締役会等の議事録
免除の成立 債務免除通知書、到達記録または合意書

国税庁「再建支援等事案に係る検討項目及びその概要」でも、実質債務超過、損失負担の必要性、支援額および負担割合などが確認項目とされています。

6.債務免除益と欠損金は事業年度で判定する

S社の会計上の繰越利益剰余金マイナス500と、税務上の繰越欠損金は同じとは限りません。別表五(一)、別表七(一)および過去の申告調整を確認します。

本設例では、通常の繰越欠損金を債務免除益300に充てる前提です。実際の控除額は、欠損金の発生時期、申告要件、控除期限および控除限度額によって変わります。

法人税基本通達12-3-7から12-3-9によれば、法人税法59条4項の「残余財産がないと見込まれる」かどうかは、清算中に終了する各事業年度末の現況で判定します。

債権放棄日が解散前というだけで、59条4項を一律に適用できないとはいえません。解散によって通常の事業年度が直ちに区切られるとは限らないためです。債務免除益が計上された事業年度が清算中に終了するか、その期末に残余財産がないと見込まれるか、他の欠損金規定が適用されるかを時系列で確認します。

残余財産確定時に未処理欠損金額が残る場合は、完全支配関係などの要件を満たせば法人税法57条2項によるP社への引継ぎを検討します。S社ですでに控除した欠損金や、59条4項で損金算入した金額が重ねて引き継がれるわけではありません。

7.子会社株式評価損200は税務上損金不算入

P社は会計上、S社株式200を減額します。しかし、会計上の評価損と法人税上の評価損は別です。

国税庁タックスアンサーNo.5574および法人税法33条5項によれば、完全支配関係がある内国法人のうち、清算中の法人や解散することが見込まれる法人の株式等に係る評価損は損金算入できません。

本設例では清算計画が客観的に確定しているため、会計上の株式評価損200を申告加算します。さらに、残余財産の確定まで完全支配関係が続く場合は、法人税法61条の2により株式の譲渡損益を計上しません。税務簿価200を清算時の追加損金にする処理ではありません。

8.連結では内部取引を消去する

連結財務諸表では、P社貸付金とS社借入金を相殺し、内部の債権放棄に伴う損益も消去します。P社個別の株式評価損も、投資と資本の相殺消去を基礎に処理します。

個別上の項目 連結上の処理
P社貸付金とS社借入金 内部債権・債務として相殺
貸倒引当金関係の損失と債務免除益 内部取引に係る損益として消去
S社株式とS社純資産 投資と資本の相殺消去を基礎に処理
P社への200の返済 連結グループ内の現金移動
外部債務300の支払 連結現金を300減額

S社の過去の損失は、連結期間中の各期に連結損益へ取り込まれています。P社個別で計上した損失500を、そのまま連結損失へ追加するわけではありません。

9.5日練習

日 練習
1日目 現金500、優先する外部債務300、親会社借入金500から回収額と免除額を計算する
2日目 S社の債務免除時の仕訳を書く
3日目 P社が貸倒引当金300を計上済みの場合の仕訳を書く
4日目 債権放棄が寄附金と判定された場合のP社・S社の税務処理を答える
5日目 現金620、優先する外部債務270、親会社借入金500、株式簿価200の場合の回収額と会計上の損失を計算する
練習の答え
  1. 回収額は500-300=200、免除額は500-200=300です。
  2. 借方はP社借入金300、貸方は債務免除益300です。
  3. 借方は貸倒引当金300、貸方はS社貸付金300です。
  4. 法人による完全支配関係が続く前提では、P社の対応する寄附金は全額損金不算入、S社の受贈益は益金不算入です。
  5. 回収額は620-270=350、免除額は500-350=150です。株式の実質価額を0とすれば、会計上の損失は150+200=350です。投下額700-回収額350=損失350で検算できます。

まとめ

債務超過子会社の清算では、先に貸付金の回収可能額を求めます。本設例では、P社は貸付金500のうち200を回収し、回収不能部分300を免除します。株主として受け取る残余財産はありません。

会計上は貸付金と株式の損失を分けます。税務上は、貸倒れ、子会社整理損、寄附金のどれに当たるかを資料に基づいて判定します。

回収可能額、仕訳、税務区分、欠損金の事業年度。この順に確認すると、二重計上と時期の誤りを防げます。

第212回 完全子会社の解散・清算ゼロ入門:残余財産・みなし配当・株式譲渡損益不計上を仕訳で整理(5日練習付き)

第211回では、有償減資による資本の払戻しを扱いました。今回は、完全子会社を解散し、清算する場面です。

解散しただけでは、会社は消滅しません。資産を換金し、債務を弁済し、残余財産を株主へ分配します。親会社では、会計上の清算損益と法人税上のみなし配当を分けて考えます。

1.解散から清算結了まで

会社法471条、475条、476条、481条、492条、507条、929条を基に流れを並べます。決算報告の承認は会社法507条、清算結了登記は同法929条に定められています。

段階 会社の状態 確認すること
解散 P社による株主総会決議などで解散する 解散だけで会社や子会社株式が消えるわけではない
清算開始 清算目的の範囲で会社が存続する 財産目録と清算開始時の貸借対照表を作成する
清算事務 現務を終え、債権を取り立て、債務を弁済する 資産処分損益や清算事務費を計上する
残余財産の分配 残った財産を株主へ分配する 子会社の純資産と親会社の子会社株式を整理する
清算結了 決算報告の承認を受け、清算結了登記を行う 資産、負債、純資産の残高を確認する

会社法施行規則144条・145条では、処分価格を付すことが困難な場合を除き、財産目録の財産に清算開始時の処分価格を付すこととされています。

会社法499条による債権者の申出期間は、2か月を下回ることができません。会社法502条により、原則として債務を弁済する前に残余財産を分配することもできません。解散直後に全額を親会社へ送金するわけではありません。

2.S社の清算開始時残高

S社の資産は、会計簿価、税務簿価、清算開始時の処分価格が一致しているものとします。したがって、清算開始時の評価替えはありません。

区分 科目 金額
資産 現金 300
売掛金 500
備品 330
資産合計 1,130
負債 買掛金 200
負債合計 200
純資産 資本金 700
繰越利益剰余金 230
純資産合計 930

資産1,130=負債200+純資産930

P社は、S社の純資産が900だった時点で全株式を900で取得しました。取得時の評価差額とのれんはありません。その後にS社が計上した利益30が、現在の純資産930に含まれています。

3.清算会社S社の仕訳

S社は、売掛金500を回収し、備品を帳簿価額と同じ330で売却します。その後、買掛金200と清算事務費30を現金で支払います。

取引 借方 貸方 取引後の現金
売掛金の回収 現金 500 売掛金 500 800
備品の売却 現金 330 備品 330 1,130
買掛金の支払 買掛金 200 現金 200 930
清算事務費の支払 清算事務費 30 現金 30 900

300+500+330-200-30=900

清算事務費30により、繰越利益剰余金は230から200へ減ります。残余財産分配直前の残高は、現金900、資本金700、繰越利益剰余金200です。

必要な手続と債務の弁済を終え、残余財産900をP社へ分配します。残高をゼロにするための学習上の閉鎖仕訳は次のとおりです。

借方 貸方
資本金 700
繰越利益剰余金 200
現金 900

借方と貸方は、ともに900です。実務では清算会社の勘定体系に応じて残余財産勘定などを使うことがあります。

4.親会社P社の個別会計

解散決議だけで、P社の子会社株式を直ちに消すことはありません。一方、決算時には市場価格のない子会社株式について減損の要否を判定します。

移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」では、市場価格のない株式について、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下した場合の減損処理を定めています。本設例では、清算費用等を反映したS社株式の実質価額が900であり、会計簿価900を著しく下回らないものとします。この前提により、評価損は計上しません。

最終残余財産900を受け取ったときの仕訳は次のとおりです。

借方 貸方
現金 900 子会社株式 900

受取残余財産900-子会社株式簿価900=会計上の清算損益0

法人税上のみなし配当があることだけを理由に、会計仕訳を「現金/受取配当金」とするわけではありません。

5.連結財務諸表での見方

清算株式会社であっても、意思決定機関を支配している限り、原則として連結の範囲に含まれます。解散日だけを理由に連結から外しません。

連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針と移管指針第4号に従い、支配を失った日以後の資産、負債、収益、費用を連結から除外します。

項目 P社個別 連結
清算事務費30 S社の費用なので計上しない S社の費用として連結損益に含める
残余財産900 現金を受け取り、子会社株式を消す 企業集団全体の現金総額は変わらない
分配時の追加損益 0 本設例では生じない

S社は取得後に利益30を計上し、その後に清算事務費30を計上しました。取得後損益の累計は0です。残余財産分配後にS社の資産と負債は残らないため、本設例では連結除外時にも追加損益は生じません。

6.法人税は三段階で計算する

法人税法23条、24条、61条の2および法人税法施行令8条・23条を基に計算します。

第一段階:みなし配当を求める

残余財産900-株式対応資本金等の額700=みなし配当200

ここで使う700は、会計上の資本金をそのまま転記したものではありません。法人税法施行令の算式で求める金額です。

第二段階:特則がない場合の株式譲渡損益を確認する

譲渡対価部分700-S社株式の税務簿価900=譲渡損200

これは、完全支配関係の特則を適用する前の計算です。

第三段階:完全支配関係の特則を適用する

P社とS社には完全支配関係があります。この場合、S社株式の譲渡対価は譲渡原価相当額900とされ、法人税上の株式譲渡損益は0になります。前段階で求めた譲渡損200を損金にはできません。

項目 計算 金額
みなし配当 900-700 200
特則前の譲渡対価部分 900-200 700
特則前の譲渡損 700-900 △200
特則適用後の譲渡対価 譲渡原価相当額 900
実際に計上する譲渡損益 900-900 0

譲渡損相当額200は消えるのではなく、P社の税務上の資本金等の額を調整します。本設例では、次の200が減算額です。

みなし配当200+特則による譲渡対価900-受取現金900=200

国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例」は、残余財産分配時の株式譲渡損益不計上と資本金等の額の調整算式を確認するために参照しています。同資料は平成22年度税制改正時の旧資料であり、金銭交付部分のみなし配当に源泉徴収が必要であるとする当時の記載が残っています。その源泉徴収に関する記載は、2026年10月14日現在の本設例には適用しません。

みなし配当200は、本設例の前提では完全子法人株式等に係る配当等として全額が益金不算入です。帳簿上は配当収益を計上していないため、申告書では、みなし配当の認識と益金不算入の調整を行います。所得金額への純影響は0ですが、資本金等の額の減算200は残ります。

2026年10月14日現在、自己名義で保有する完全子法人株式等に係る一定の配当等に該当する本設例では、源泉徴収を要しません。現在の取扱いは、国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし・配当所得の源泉徴収事務」で確認できます。

100%保有でない場合は、株式譲渡損益、受取配当等の益金不算入額、源泉徴収の取扱いが変わります。

7.清算中の申告期限

2010年10月1日以後に解散した普通法人は、清算中も各事業年度の所得に対する法人税の申告を行います。

事業年度 原則的な申告期限
事業年度開始日から解散日まで 事業年度終了日の翌日から2か月以内
解散日の翌日から始まる清算事務年度 原則として1年ごとに区切り、終了日の翌日から2か月以内
残余財産確定日の属する最後事業年度 終了日の翌日から1か月以内。ただし、その期間内に最後の分配をする場合は分配日の前日まで

根拠と設例は、国税庁「法人税法」教材および法人税法14条・74条で確認できます。期限延長などの特例は別に判定します。

消費税では、清算中に行う備品などの売却が課税資産の譲渡等に当たることがあります。一方、金銭による残余財産分配は、対価を得て行う資産の譲渡等ではありません。課税対象の基本は国税庁「『資産の譲渡等』とは」、残余財産確定時の申告期限は国税庁「法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について」で確認できます。

8.よくある混同

混同 整理
解散日に会社が消滅する 清算目的の範囲で会社は存続する
債務を残したまま親会社へ分配する 原則として債務を弁済してから残余財産を分配する
受取額900を会計上すべて配当収益にする 受取額と子会社株式簿価の差額から清算損益を求める
会計上の資本金を税務計算にそのまま使う 株式対応資本金等の額を法人税法令により計算する
特則前の譲渡損200を損金にする 完全支配関係の特則により譲渡損益を計上しない
解散日に連結から外す 事実関係に基づいて支配喪失日を判定する

9.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 確認点
1日目 解散から清算結了までを順番に書く 解散と消滅を同じにしていないか
2日目 S社の4仕訳を再現する 現金が300から900になるか
3日目 S社とP社の最終仕訳を書く 借方と貸方が一致するか
4日目 900をみなし配当200と資本対応額700に分ける 会計上の清算損益と混ぜていないか
5日目 確認問題を解く 譲渡損益不計上と資本金等の額の調整を説明できるか

確認問題

P社が完全子会社S社から最終残余財産760を受け取ります。P社の子会社株式の会計簿価・税務簿価は760、株式対応資本金等の額は600です。ほかの前提は本設例と同じです。

  1. 会計上の清算損益はいくらですか。
  2. 法人税上のみなし配当はいくらですか。
  3. 完全支配関係の特則がなければ、株式譲渡損益はいくらですか。
  4. 実際に法人税上計上する株式譲渡損益はいくらですか。
  5. P社の税務上の資本金等の額の減算額はいくらですか。

答え

  1. 760-760=0です。
  2. 760-600=160です。
  3. 600-760=△160で、譲渡損160です。
  4. 完全支配関係の特則により0です。
  5. 160+760-760=160です。

10.今回のまとめ

  • 解散後も、清算が終わるまで会社は清算目的の範囲で存続します。
  • 子会社では、資産の換金、債務の弁済、清算費用、残余財産分配の順に残高を追います。
  • 親会社の個別会計では、最終分配額と子会社株式簿価との差額から清算損益を求めます。
  • 法人税では、残余財産をみなし配当と株式の譲渡対価部分に分けます。
  • 完全支配関係がある場合、株式譲渡損益は計上せず、その相当額を資本金等の額で調整します。

清算では、解散日、残余財産確定日、分配日、清算結了日が別々に現れます。最初に日付と残高を並べ、その後で会計と税務を分けると整理しやすくなります。