第204回では、親会社が子会社株式を一部売却する場面を扱いました。今回は、親会社は株式を売らず、子会社が外部投資家へ新株を発行します。
現金を受け取るのは親会社ではなく子会社です。親会社の個別財務諸表では仕訳がなくても、連結財務諸表では非支配株主持分と資本剰余金が動くことがあります。
1.一部売却との違い
| 項目 | 親会社による一部売却 | 子会社による第三者割当増資 |
|---|---|---|
| 株式を動かす会社 | 親会社が保有株式を売る | 子会社が新株を発行する |
| 現金を受け取る会社 | 親会社 | 子会社 |
| 発行済株式数 | 変わらない | 増加する |
| 親会社の個別財務諸表 | 投資を減額し、売却損益を計上する | 引受けも売却もしなければ仕訳なし |
| 子会社の個別財務諸表 | 原則として仕訳なし | 現金と払込資本が増加する |
| 支配継続時の連結処理 | 持分変動差額を資本剰余金とする | 持分変動差額を資本剰余金とする |
持分比率が下がっただけでは、売却とはいえません。誰が株式を発行し、誰が現金を受け取ったかを先に確認します。
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第30項は、支配関係が続く場合、子会社の時価発行増資等に伴う親会社の払込額と親会社持分の増減額との差額を資本剰余金としています。移管指針第4号第47項では、従来の持分比率でいったん新株を引き受け、その後に追加取得または一部売却をしたものとみなして考えます。
2.設例:親会社が新株を引き受けない場合
| S社の発行済株式数 | 100株 |
| P社の保有株式数 | 80株 |
| P社の持分比率 | 80% |
| S社の修正後純資産 | 9,000 |
| P社個別貸借対照表上のS社株式の会計簿価 | 7,200 |
| P社が保有するS社株式の税務簿価 | 設例では提示しない |
| 外部投資家への発行株式数 | 20株 |
| 1株当たり払込金額 | 150 |
| 払込総額 | 3,000 |
| P社の引受株式数・払込額 | 0株・0 |
払込金額150は、必要な株価算定を経た価額であると仮定します。増資前の1株当たり純資産額90を上回るという理由だけで、時価と判断するものではありません。
増資後の持分比率
80株÷(100株+20株)=66と3分の2%
| 株主 | 増資前 | 増資後 | 増資後の比率 |
|---|---|---|---|
| P社 | 80株 | 80株 | 66と3分の2% |
| 非支配株主 | 20株 | 40株 | 33と3分の1% |
| 合計 | 100株 | 120株 | 100% |
P社は議決権の過半数を維持しているため、本設例では支配が続きます。
3.子会社と親会社の個別仕訳
会社法第199条・第445条により、募集株式の払込金額などを定め、株式発行時の払込財産を資本金とするのが基本です。ただし、払込額の2分の1を超えない額は資本金に計上せず、資本準備金にできます。
本設例では、払込額の半分ずつを資本金と資本準備金にします。
S社の個別仕訳
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 3,000 | 資本金 | 1,500 |
| 資本準備金 | 1,500 | ||
| 合計 | 3,000 | 合計 | 3,000 |
| 科目 | 増資前 | 増加 | 増資後 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 5,000 | 1,500 | 6,500 |
| 資本準備金 | 1,000 | 1,500 | 2,500 |
| 利益剰余金 | 3,000 | 0 | 3,000 |
| 合計 | 9,000 | 3,000 | 12,000 |
P社の個別仕訳
仕訳はありません。P社は保有株式を売却せず、新株も引き受けていないためです。P社の個別貸借対照表にあるS社株式の会計簿価は7,200のままです。
4.連結上の持分変動
増資前後の修正後純資産を、それぞれの時点の持分比率で配分します。
| 項目 | 増資前 | 増資後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| S社の修正後純資産 | 9,000 | 12,000 | +3,000 |
| 親会社持分 | 9,000×80%=7,200 | 12,000×80株÷120株=8,000 | +800 |
| 非支配株主持分 | 9,000×20%=1,800 | 12,000×40株÷120株=4,000 | +2,200 |
持分比率は80%から66と3分の2%へ下がりました。一方、親会社持分の金額は7,200から8,000へ増えています。新株の払込金額が増資前の1株当たり純資産額を上回るためです。
この800は、P社の個別財務諸表にあるS社株式を評価替えする金額ではありません。連結上の持分配分から生じた差額です。
親会社持分の増加800-P社の払込額0=資本剰余金800
非支配株主持分の増加=4,000-1,800=2,200
増資分に関する連結修正仕訳
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金(S社増資分) | 1,500 | 非支配株主持分 | 2,200 |
| 資本準備金(S社増資分) | 1,500 | 資本剰余金 | 800 |
| 合計 | 3,000 | 合計 | 3,000 |
これは連結精算表上の修正です。P社やS社の個別帳簿には記帳しません。
| 外部から増えた現金 | 3,000 |
| 資本剰余金の増加 | 800 |
| 非支配株主持分の増加 | 2,200 |
| 検算 | 800+2,200=3,000 |
| 増資後の純資産配分 | 親会社持分8,000+非支配株主持分4,000=12,000 |
支配が続いているため、800は連結損益ではなく、のれんも計上しません。連結会計基準第28項から第30項までの処理の結果、期末の資本剰余金が負の値となる場合は、同基準第30-2項により資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。
5.親会社の引受割合による違い
新株20株のうち、P社が16株を引き受ければ従来の80%を維持できます。
| P社の引受け | 増資後の持分比率 | 連結上の見方 |
|---|---|---|
| 16株 | (80株+16株)÷120株=80% | 従来の比率どおりの引受け |
| 16株未満 | 80%より低下 | 不足分を一部売却に準じて考える |
| 16株超 | 80%より上昇 | 超過分を追加取得に準じて考える |
増資でも、親会社が多く引き受ければ持分比率は上がります。
6.支配が続くかを先に判定する
資本剰余金として処理できるのは、増資後も親会社と子会社の支配関係が続く場合です。
| 増資後の関係 | 処理の入口 |
|---|---|
| 支配が続く | 連結を続け、持分変動差額を資本剰余金とする |
| 支配を失い、重要な影響力が残る | 連結範囲から外し、持分法の適用を判定する |
| 支配も重要な影響力も失う | 連結範囲から外し、金融商品会計による処理を検討する |
議決権の過半数は重要な目安ですが、会計上の支配は比率だけで決まりません。連結会計基準第7項では、40%以上50%以下の場合でも、同一内容の議決権を行使する者、役員構成、重要な方針を支配する契約などを含めて判定します。
7.法人税上の処理
法人税法第22条は、資本金等の額の増減を生ずる取引を資本等取引として、通常の損益取引と区別しています。資本金等の額と有価証券の取得価額については、法人税法施行令第8条・第119条を確認します。
| 当事者 | 基本的な整理 |
|---|---|
| 発行法人S社 | 払込額3,000は資本等取引による受入れであり、通常の収益として益金に算入するものではない。資本金等の額は合計3,000増加する |
| 既存株主P社 | 株式を取得も譲渡もしていないため、増資時の株式譲渡損益は生じない。本設例の前提では、既存のS社株式の税務簿価総額は増資直前の税務簿価から変わらない。ただし、増資直前の税務簿価は提示していないため、会計簿価と同じ7,200であるとは断定できない |
| 新株を引き受ける法人 | 有利発行に該当しない本設例では、払込額に取得のため直接要した費用を加えた金額が取得価額となる |
連結上の資本剰余金800を、P社の法人税申告でそのまま益金800とするわけではありません。連結修正と各法人の所得計算を分けます。
有利発行は本設例の外
払込金額が株式の取得に通常要する価額に比べて有利な場合は、法人税法施行令第119条による取得価額や経済的利益の検討が必要です。会社法上の「特に有利な金額」と税務上の有利発行は、根拠規定と目的が異なります。非上場株式では、帳簿上の1株当たり純資産額だけで結論を出さず、発行条件、株価算定の前提、当事者間の関係を確認します。
8.税効果会計
税効果会計では、P社個別貸借対照表上のS社株式の会計簿価7,200と、その税務簿価を混同しないことが重要です。本設例では増資直前の税務簿価と、増資前から存在する投資に係る一時差異の有無を示していません。そのため、増資後の投資に係る一時差異の総額を800と断定することはできません。
| 項目 | 本設例で確認できる金額 |
|---|---|
| P社個別貸借対照表上の会計簿価 | 7,200 |
| P社が保有するS社株式の税務簿価 | 提示なし |
| 増資後の連結上の親会社持分 | 8,000 |
| 増資後の税務簿価との差額 | 8,000-増資直前の税務簿価。税務簿価が未提示のため金額は確定できない |
仮に、増資直前の税務簿価も7,200であり、増資前から存在する投資に係る一時差異がないという追加前提を置く場合に限り、増資後の8,000との差額800を、本件増資に伴う連結財務諸表固有の将来加算一時差異として整理できます。この条件を置かない場合は、実際の税務簿価と既存の一時差異を確認して計算します。
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第23項・第27項によれば、親会社が投資の売却等を自ら決めることができ、予測可能な将来に売却等を行う意思がないなどの要件を満たす場合は、繰延税金負債を計上しません。要件を満たさず、時価発行増資等に伴う親会社の持分変動差額に係る繰延税金負債を計上する場合、その相手勘定は資本剰余金です。
本設例では、税務簿価、既存の一時差異、売却方針および適用税率の前提を置いていないため、一時差異の総額と税効果額は計算しません。
9.よくある誤り
| 誤り | 正しい確認 |
|---|---|
| P社が現金3,000を受け取る | 現金を受け取るのは新株を発行したS社 |
| P社の個別帳簿で売却益を計上する | P社は株式を売却していない |
| 非支配株主持分を3,000増やす | 本設例では4,000-1,800=2,200増やす |
| 差額800を連結利益にする | 支配継続中の持分変動差額は資本剰余金 |
| P社個別のS社株式を8,000にする | 8,000は連結上の親会社持分。個別の会計簿価は7,200のまま |
| 会計簿価7,200をそのまま税務簿価とする | 税務簿価は税務上の取得価額やその後の調整を確認する。本設例では金額を提示していない |
| 1株当たり純資産額を税務上の時価と決める | 発行条件や株価算定の前提を別に確認する |
10.5日で定着させる練習
| 日 | 練習内容 | 確認点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 一部売却との違いを説明する | 現金を受け取る会社を区別できるか |
| 2日目 | 増資前後の株式数と持分比率を計算する | 分母に新株数を加えたか |
| 3日目 | 親会社持分と非支配株主持分を計算する | 増資前後の純資産を使い分けたか |
| 4日目 | S社個別、P社個別、連結修正の仕訳を書く | 個別と連結を混ぜていないか |
| 5日目 | 確認問題を解く | 借貸と純資産残高を検算できるか |
確認問題
S社の修正後純資産は6,000、発行済株式は100株です。P社は70株を保有しています。S社が外部投資家へ25株を2,500で時価発行し、P社は引き受けません。増資後も支配は続くものとします。
- 増資後のP社持分比率
- 親会社持分の増減額
- 非支配株主持分の増減額
- 連結上の資本剰余金
解答と検算
P社持分比率は70株÷125株=56%です。
| 増資前の親会社持分 | 6,000×70%=4,200 |
| 増資後の純資産 | 6,000+2,500=8,500 |
| 増資後の親会社持分 | 8,500×56%=4,760 |
| 親会社持分の増加 | 4,760-4,200=560 |
| 増資前の非支配株主持分 | 6,000-4,200=1,800 |
| 増資後の非支配株主持分 | 8,500-4,760=3,740 |
| 非支配株主持分の増加 | 3,740-1,800=1,940 |
| 資本剰余金 | 親会社持分増加560-P社払込額0=560 |
| 最終検算 | 560+1,940=2,500 |
連結修正仕訳は、借方のS社払込資本2,500に対し、貸方が非支配株主持分1,940と資本剰余金560です。
まとめ
- 現金は新株を発行した子会社に入る
- 親会社が引受けも売却もしなければ、親会社の個別財務諸表では仕訳をしない
- 支配が続く場合、連結上の持分変動差額は資本剰余金とする
- 持分比率が下がっても、親会社持分の金額が増えることがある
- 非支配株主持分は増資前後の残高差で検算する
- 会計簿価と税務簿価を区別し、税務簿価が未確認なら一時差異の金額を断定しない
- 連結会計、法人税、有利発行、税効果会計を分けて考える
「株数、支配、個別仕訳、持分配分、資本剰余金」の順に確認すると、売却との混同を防げます。税効果会計まで検討するときは、これに税務簿価と既存の一時差異の確認を加えます。
