資本金を減少させ、その結果生じたその他資本剰余金を株主へ配当する取引は、実務上「有償減資」と呼ばれることがあります。ただし、資本金の減少と剰余金の配当は別の手続です。
本稿では、非上場子会社が金銭を交付する設例を用い、子会社と親会社の会計処理、法人税上の資本の払戻し、みなし配当、株式簿価の動きを整理します。
1.資本金の減少と金銭配当を分ける
| 段階 | S社の処理 | 純資産合計 |
|---|---|---|
| 資本金の減少 | 資本金300をその他資本剰余金へ振り替える | 変わらない |
| 剰余金の配当 | その他資本剰余金300を株主へ交付する | 300減少する |
「減資」という名称だけでは、株主へ財産が交付されるかは分かりません。資本金の減少額、振替先、配当原資、配当額および各効力発生日を分けて確認します。
2.会社法上の二つの手続
会社法447条は資本金の額の減少、449条は債権者の異議手続を定めています。剰余金の配当は453条および454条に定められています。「有償減資」という一つの法的手続が設けられているわけではありません。
| 段階 | 主な確認事項 | 本設例 |
|---|---|---|
| 資本金の減少 | 減少額、効力発生日、決議、債権者異議手続 | 資本金300をその他資本剰余金へ振り替える |
| 剰余金の配当 | 配当財産、総額、割当方法、効力発生日、分配可能額 | その他資本剰余金300を比例配当する |
準備金の計上額と減少する剰余金の内訳は、会社計算規則22条・23条に従って確認します。また、会社法461条により、株主へ交付する財産の帳簿価額は効力発生日の分配可能額を超えられません。
3.S社の個別仕訳
資本金の減少
企業会計基準第1号第20項により、資本金の減少で生じる剰余金は、減少の法的効力が発生したときにその他資本剰余金へ計上します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金 | 300 | その他資本剰余金 | 300 |
純資産の内訳が変わるだけで、純資産合計は1,250のままです。
その他資本剰余金からの配当
配当の効力発生日に債務を計上します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| その他資本剰余金 | 300 | 未払配当金 | 300 |
支払時には未払配当金300を消し込みます。非支配株主に対する源泉徴収の要否は、その株主の属性などによって異なるため、現金支払額と源泉所得税等の預り額を区分します。ただし、両者の合計は300です。
| 項目 | 取引前 | 減資後 | 配当の効力発生後 | 支払・納付後 |
|---|---|---|---|---|
| 資産合計 | 1,250 | 1,250 | 1,250 | 950 |
| 負債合計 | 0 | 0 | 300 | 0 |
| 資本金 | 800 | 500 | 500 | 500 |
| 資本準備金 | 200 | 200 | 200 | 200 |
| その他資本剰余金 | 0 | 300 | 0 | 0 |
| 繰越利益剰余金 | 250 | 250 | 250 | 250 |
| 純資産合計 | 1,250 | 1,250 | 950 | 950 |
4.P社は決議の効力が生じた年度に認識する
企業会計基準適用指針第3号第3項により、その他資本剰余金の処分による金銭配当を受けた株主は、売買目的有価証券などを除き、原則として受領額を対象株式の帳簿価額から減額します。
配当金の認識時期について、同指針第6項は移管指針第9号第94項と同様に扱うとしています。市場価格のない株式では、原則として、配当に関する決議の効力が生じた日の属する事業年度に認識します。決議の効力発生後、通常必要な期間内に支払われる場合には、支払日の属する事業年度に認識する方法も継続適用を条件に認められます。
本設例では原則的な方法を採用し、配当決議が効力を生じる日と会社法上の配当の効力発生日を同日にしています。P社に割り当てられる金額は、300×80%=240です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未収金 | 240 | 子会社株式 | 240 |
P社はS社株式を自己名義で80%保有しており、3分の1超の保有要件を満たします。本設例の前提では、所得税法177条・212条3項により、P社に支払う配当等について源泉徴収を要しません。支払時の仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 240 | 未収金 | 240 |
国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」も、自己名義で保有する株式について、一定の内国法人が発行済株式等の3分の1を超えて保有する場合の配当等は源泉徴収を要しないと説明しています。実際の判定では、配当等に係る基準日等の名義、保有数および株主属性を確認する必要があります。
| 計算 | 金額 |
|---|---|
| 配当前の子会社株式 | 600 |
| 帳簿価額からの減額 | △240 |
| 配当後の子会社株式 | 360 |
未収金の計上と子会社株式の減額は借貸とも240であり、P社の会計上の利益は生じません。
5.連結上は非支配株主への交付だけが外部流出になる
P社に割り当てられる240は企業集団内の取引として消去します。非支配株主に割り当てられる金額は、300×20%=60です。
| 項目 | 取引前 | 取引後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| S社の純資産 | 1,250 | 950 | △300 |
| 非支配株主持分 | 250 | 190 | △60 |
| 親会社株主に帰属する持分 | - | - | 0 |
非支配株主への支払と必要な源泉所得税等の納付が完了した後の連結上の純額は、次のとおりです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 非支配株主持分 | 60 | 現金 | 60 |
これは連結上の結果を示すものであり、P社またはS社の個別帳簿へそのまま記帳する仕訳ではありません。株式数と持分比率は変わりません。
6.法人税では交付額を資本と利益に分ける
法人税法24条は、資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当を、一定のものを除き「資本の払戻し」として扱います。具体的な計算は、法人税法施行令23条・119条の9などに基づきます。
払戻割合
300÷1,250=0.240
分子は資本の払戻しにより減少した資本剰余金300、分母は法定調整後の前事業年度末の簿価純資産価額1,250です。本設例では法定の端数処理後も0.240です。
払戻等対応資本金額等
1,000×0.240=240
計算額240は、実際に減少した資本剰余金300を超えないため、そのまま使用します。
みなし配当
交付額300-払戻等対応資本金額等240=60
| 項目 | 取引前 | 減少額 | 取引後 |
|---|---|---|---|
| 資本金等の額 | 1,000 | 240 | 760 |
| 利益積立金額 | 250 | 60 | 190 |
| 合計 | 1,250 | 300 | 950 |
会計上の資本金の減少額は300ですが、税務上の資本金等の額の減少額は240です。両者を一致させることはできません。
7.P社のみなし配当・みなし譲渡・税務簿価
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 金銭交付額 | 300×80% | 240 |
| 資本金等対応額 | 240×80% | 192 |
| みなし配当 | 60×80% | 48 |
税務上の譲渡対価は、金銭交付額240からみなし配当48を除いた192です。
譲渡原価=600×0.240=144
譲渡益=192-144=48
払戻し後の税務上の株式簿価=600-144=456
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 金銭交付額 | 240 | 子会社株式の税務簿価減少 | 144 |
| みなし配当 | 48 | ||
| 譲渡益 | 48 | ||
| 合計 | 240 | 合計 | 240 |
この表は税務上の構成を検算するものであり、P社の会計帳簿へ追加記帳する仕訳ではありません。会計処理との差額は申告調整します。
| 項目 | 会計 | 法人税 |
|---|---|---|
| 交付額 | 240 | 240 |
| 利益等 | 0 | みなし配当48、譲渡益48 |
| 株式簿価の減少 | 240 | 144 |
| 払戻し後の株式簿価 | 360 | 456 |
会計簿価と税務簿価の差額は96です。みなし配当に対する受取配当等の益金不算入額は、株式区分や保有期間などを確認して別に計算するため、本設例では課税所得および税額まで算定しません。
子会社株式簿価減額特例の確認
国税庁の子会社株式簿価減額特例に関する資料では、一定の支配関係がある法人から受ける対象配当等と同一事業年度内配当等の合計額が、所定の株式簿価の10%相当額を超える場合に、適用除外要件に該当しない限り、益金不算入相当額を株式簿価から減額する仕組みが示されています。
本設例で対象となり得るみなし配当48は、株式簿価600の10%である60を超えません。同一事業年度中のほかの配当もないため、本設例ではこの特例を適用しません。
100%保有の場合との違い
本設例の持分比率は80%です。完全支配関係にある内国法人間でみなし配当事由が生じた場合には、譲渡対価を譲渡原価相当額とする法人税法上の特則があります。したがって、本設例の譲渡益48を100%保有の事例へそのまま当てはめることはできません。
8.消費税では課税対象外
国税庁「非課税と不課税の違い」では、出資に対する配当は、対価を得て行う取引に当たらないものとして整理されています。
S社が本件の金銭交付を課税売上としたり、P社が課税仕入れとしたりすることはありません。法人税上、株式の一部譲渡をみなして計算することだけを理由に、消費税の課税売上割合へ算入するものでもありません。
9.税務簿価管理ではS社からの通知も照合する
法人税法施行令119条の9には、払戻しを行った法人が株主へ払戻等割合を通知する規定があります。P社では、S社から通知された払戻等割合を申告計算資料と照合し、税務上の株式簿価456を会計簿価360と区別して管理します。
10.結論
本設例では、S社は資本金300をその他資本剰余金へ振り替えた後、その300を配当します。P社は配当決議の効力が生じた日の属する事業年度に未収金240を計上し、子会社株式を240減額します。
法人税上は、交付総額300を資本金等対応額240とみなし配当60に分けます。P社では、みなし配当48、譲渡原価144、譲渡益48となり、払戻し後の税務簿価は456です。会計簿価360との差額96は、申告調整と税務簿価管理で追跡します。
