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第208回 子会社の自己株式処分ゼロ入門:新株発行との違い・非支配株主持分・資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第207回では、子会社S社が非支配株主から自社株式を取得する場面を扱いました。今回は、S社がその自己株式を第三者へ処分します。

自己株式を処分しても、発行済株式数は増えません。ただし、議決権割合の分母に入る株式が増えるため、親会社の持分比率は下がります。

1.自己株式の取得・処分・新株発行を分ける

項目 自己株式の取得 自己株式の第三者処分 第三者への新株発行
発行済株式数 変わらない 変わらない 増加する
自己株式数 増加する 減少する 変わらない
議決権割合の分母 通常は減少する 通常は増加する 通常は増加する
子会社の現金 減少する 増加する 増加する
親会社の保有株式数 変わらない 変わらない 引き受けなければ変わらない

企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第17項・第19項は、連結子会社による非支配株主への自己株式の処分を、親会社による子会社株式の一部売却に準じ、さらに子会社による非支配株主への第三者割当増資に準じて処理するとしています。

2.持分比率は自己株式を分母から外して計算する

本設例の持分比率は、次の式で計算します。

親会社の持分比率=親会社の保有株式数÷(発行済株式数-自己株式数)

項目 処分前 処分後
発行済株式数 100株 100株
自己株式数 20株 0株
分母となる株式数 100-20=80株 100-0=100株
P社の持分比率 60÷80=75% 60÷100=60%
非支配株主の持分比率 20÷80=25% (20+20)÷100=40%

P社の保有株式数は60株のままです。比率が75%から60%へ下がる原因は、分子ではなく分母の増加です。

3.S社とP社の個別財務諸表

3-1.S社は処分差額をその他資本剰余金とする

自己株式の帳簿価額240を現金300で処分するため、処分差益は60です。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 300 自己株式 240
— — その他資本剰余金 60
合計 300 合計 300

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第9項・第10項は、自己株式処分差益をその他資本剰余金へ計上し、処分差損をその他資本剰余金から減額すると定めています。

60は売却益ではありません。株主との資本取引から生じた差額であり、当期純利益には入りません。

項目 増減
自己株式の控除額 240減少するため、純資産は240増加
その他資本剰余金 60増加
純資産 240+60=300増加
処分後純資産 760+300=1,060

3-2.P社の個別帳簿には仕訳がない

P社は株式を売却せず、現金も受け取りません。保有するS社株式も60株のままです。したがって、P社の個別帳簿には仕訳を行いません。

4.連結上の持分変動を計算する

処分後も支配が続くため、連結上は損益取引ではなく、親会社株主と非支配株主との資本取引として扱います。企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第29項・第30項は、支配継続中の一部売却や子会社の時価発行増資等による持分変動差額を資本剰余金としています。

項目 処分前 処分後 増減
S社の修正後純資産 760 760+300=1,060 +300
P社の持分比率 75% 60% △15ポイント
親会社に帰属する額 760×75%=570 1,060×60%=636 +66
非支配株主持分 760×25%=190 1,060×40%=424 +234

税効果考慮前の純資産の増加300=親会社に帰属する額の増加66+非支配株主持分の増加234

親会社の比率は下がりましたが、C社がS社へ払い込んだ現金の効果により、親会社に帰属する額は570から636へ増えます。本設例では、この持分変動差額66を税効果考慮前の連結上の資本剰余金として処理します。P社が現金66を受け取ったという意味ではありません。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第27項・第122項によれば、子会社の時価発行増資等に伴う親会社の持分変動差額は連結財務諸表固有の一時差異に該当します。その一時差異について繰延税金資産または繰延税金負債を計上する場合は、資本剰余金が相手勘定となります。したがって、税効果会計を適用した後の資本剰余金は、ここで示した66と異なる場合があります。

4-1.連結修正を二段階で確かめる

適用指針の考え方に沿って、取引を二段階に分けます。以下の「S社株式」は連結精算表上の便宜的な勘定であり、P社の個別帳簿へ記帳するものではありません。いずれも税効果会計を考慮する前の仕訳です。

第1段階:処分対価300を処分前の持分比率で配分する

借方 金額 貸方 金額
自己株式(子会社) 240 非支配株主持分 300×25%=75
資本剰余金 60 S社株式 300×75%=225
合計 300 合計 300

第2段階:親会社に対応する払込額と、非支配株主へ移る持分との差額を求める

非支配株主へ移る持分は、処分後純資産1,060の15%である159です。親会社に対応する払込額225との差額66が、税効果考慮前の資本剰余金になります。

借方 金額 貸方 金額
S社株式 225 非支配株主持分 1,060×15%=159
— — 資本剰余金 225-159=66
合計 225 合計 225

非支配株主持分の増加額は、第1段階の75と第2段階の159を合わせた234です。

S社の個別仕訳と連結修正を合わせた税効果考慮前の取引効果は、次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 300 非支配株主持分 234
— — 資本剰余金 66
合計 300 合計 300

この要約仕訳は、税効果考慮前の連結上の取引効果を示すものです。S社またはP社の法定帳簿へ、そのまま記帳する仕訳ではありません。また、連結全体の資本剰余金が期末に負の値となる場合は、連結会計基準第30-2項に基づく処理を別途検討します。

5.会社法では募集株式の手続を確認する

会社法第199条以下は、新株の発行と自己株式の処分を「募集株式の発行等」として定めています。募集株式の数、払込金額、払込期日または払込期間などを決定します。引受人が株主となる時期は、原則として同法第209条第1項によります。

自己株式を処分しても新株を発行したことにはならないため、本設例の発行済株式数は100株のままです。実際の決議機関や必要な手続は、公開会社かどうか、機関設計、定款、譲渡制限の有無、処分条件などにより異なります。

6.法人税・消費税は会計処理と分ける

確認項目 本設例の取扱い
S社の法人税所得 自己株式の処分は資本等取引であり、会計上の処分差益60を通常の売却益として益金に算入しない
S社の資本金等の額 処分対価300から、この取引による資本金の増加額0を控除した300が増加する
P社 株式の譲渡も金銭等の受取りもないため、この処分自体による譲渡損益やみなし配当は生じない
消費税 自己株式の処分は資産の譲渡等に該当せず、処分対価300は課税売上割合の分子・分母に算入しない

法人税法第22条第2項・第5項は、資本金等の額の増減を生ずる資本等取引を通常の収益取引と区別しています。さらに、法人税法施行令第8条第1項第1号は、原則として、株式の発行または自己株式の譲渡により払い込まれた金銭等から、その発行により増加した資本金の額を控除した金額を資本金等の額に加算すると定めています。

本設例は自己株式の処分だけであり、資本金は増加しません。このため、税務上の資本金等の額は300-0=300増加します。これに対し、会計上のその他資本剰余金の増加は300-240=60です。

国税庁の自己株式に関する質疑応答事例も、法人税法上、自己株式は発行法人の有価証券から除かれ、税務上の帳簿価額を持たないことを示しています。申告では、損益だけでなく、別表五(一)の資本金等の額の増減も確認します。

消費税については、消費税法基本通達5-2-9が、法人による自己株式の処分に伴う他の者への株式の引渡しは資産の譲渡等に該当しないと定めています。通常の保有株式の売却と同じ処理にはなりません。

著しく低い価額による処分、役員・従業員への報酬としての処分、現物出資、関連当事者間取引などでは、追加の検討が必要です。本設例は、第三者に対する時価相当額での現金処分に限定しています。

7.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 確認する答え
1日目 処分前後の分母とP社の持分比率を計算する 80株・75%から、100株・60%へ変わる
2日目 S社の個別仕訳を作り、借貸を合計する 借方300、貸方240+60=300
3日目 処分前後の非支配株主持分を計算する 190から424へ、234増加する
4日目 税効果考慮前の連結上の持分変動差額を二つの方法で求める 636-570=66、または225-159=66
5日目 個別会計、連結会計、法人税、消費税の処理を区別する 個別の処分差益は60、連結の持分変動差額は税効果考慮前で66、税務上の資本金等の額は300増加し、消費税では資産の譲渡等に該当しない

計算が止まったら、まず「発行済株式数-自己株式数」という分母を書きます。その後、個別仕訳、処分後純資産、持分比率、連結上の持分変動差額の順に確認します。

まとめ

自己株式の処分では、発行済株式数ではなく、議決権割合の分母に入る株式数が変化します。そのため、親会社が株式を手放さなくても持分比率は下がり得ます。個別会計、連結会計、法人税および消費税では計算の目的が異なるため、どの財務諸表と税目を確認しているかを先に区別することが重要です。本設例の連結上の資本剰余金66は税効果考慮前の金額であり、税効果会計を適用する場合は別途検討が必要です。