第206回 子会社株式の追加取得ゼロ入門:非支配株主持分・資本剰余金・取得関連費用を仕訳で整理(5日練習付き)

第205回では、子会社が第三者へ新株を発行し、親会社の持分比率が下がる場面を扱いました。今回は、親会社が非支配株主から既存の子会社株式を買い取り、持分比率を高める場面です。

現金を受け取るのは子会社ではなく、株式を売った非支配株主です。親会社の個別財務諸表では子会社株式が増えます。一方、支配が続く連結財務諸表では新たなのれんを計上せず、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金で処理します。

1.第三者割当増資との違いは「現金の行き先」

項目 子会社の第三者割当増資 親会社による追加取得
動く株式 子会社が新株を発行する 非支配株主が既存株式を売る
現金の受取人 子会社 非支配株主
発行済株式数 増加する 変わらない
親会社の個別処理 引き受けなければ原則として仕訳なし 子会社株式を取得原価で計上する
子会社の個別処理 現金と払込資本が増加する 株主間の売買なので原則として仕訳なし
支配継続時の連結処理 親会社持分の変動差額を資本剰余金とする 追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とする

どちらも連結上は非支配株主との資本取引です。ただし、追加取得では、追加取得日現在の非支配株主持分から、買い取った株式に対応する額を求めます。

2.最初に「支配が続くか」を判定する

取得前 取得後 会計処理の中心
支配していない 支配を獲得する 取得原価の配分とのれんを検討する
支配している 引き続き支配する 非支配株主持分と資本剰余金を処理する
支配している 100%保有になる 追加取得として処理し、非支配株主持分をゼロにする

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減額し、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とするよう定めています。

支配獲得時に計上した既存ののれんは従来どおり処理します。今回の追加取得を理由に、新たなのれんや負ののれん発生益は計上しません。

3.設例:75%から90%へ追加取得する

S社の発行済株式数 100株
P社の保有株式 75株、持分比率75%
非支配株主の保有株式 25株、持分比率25%
連結上の非支配株主持分 2,500
P社がA社から取得する株式 15株
株式の売買価額 2,100
取得後のP社持分比率 90%

3-1.減額する非支配株主持分

P社は、非支配株主が保有する25株のうち15株を取得します。非支配株主持分全体の60%です。

2,500×15株÷25株=1,500

減額する非支配株主持分は1,500です。取得後の残高は次のようになります。

2,500-1,500=1,000

実務では、S社の個別純資産だけから計算せず、追加取得日現在の連結精算表にある非支配株主持分を確認します。支配獲得後の利益、配当、評価差額、その他の包括利益累計額などが反映されていることがあるためです。

3-2.資本剰余金の減少額

追加取得持分1,500に対して、P社が支払う株式代金は2,100です。

追加取得持分1,500-追加投資額2,100=△600

追加投資額の方が600大きいため、連結上の資本剰余金を600減額します。

4.個別仕訳と連結修正仕訳

4-1.P社の個別財務諸表

借方科目 金額 貸方科目 金額
子会社株式 2,100 現金預金 2,100

4-2.S社の個別財務諸表

S社は株式を発行せず、現金も受け取りません。P社とA社との株主間取引なので、S社の個別帳簿では原則として仕訳を行いません。

4-3.連結修正仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 2,100
資本剰余金 600 ― ―
合計 2,100 合計 2,100

これは連結精算表上の修正であり、P社やS社の個別帳簿へ記帳する仕訳ではありません。借方・貸方はいずれも2,100です。追加取得による損益や新たなのれんは生じません。

5.残高で検算する

項目 P社個別 連結
現金預金 2,100減少 外部株主への支払いなので2,100減少
子会社株式 2,100増加 相殺消去されるため残らない
非支配株主持分 影響なし 1,500減少し、1,000になる
資本剰余金 影響なし 600減少
当期純利益 影響なし 取得関連費用がなければ影響なし

連結上は現金が2,100減り、純資産も「非支配株主持分1,500+資本剰余金600=2,100」減ります。資産と純資産の減少額が一致します。

6.取得価額が低い場合と資本剰余金が不足する場合

6-1.追加投資額が追加取得持分より少ない場合

同じ15株を1,200で取得したと仮定します。

追加取得持分1,500-追加投資額1,200=300

この場合は、非支配株主持分1,500を借方、子会社株式1,200と資本剰余金300を貸方に記入します。資本剰余金は300増加し、差額を利益にはしません。

6-2.資本剰余金全体が負の値になる場合

設例の追加取得直前に、連結上の資本剰余金残高が400だったとします。今回の600の減額により、資本剰余金全体が200の負の値になります。

連結会計基準第30-2項により、連結会計年度末には資本剰余金をゼロとし、その負の値を利益剰余金から減額します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
利益剰余金 200 資本剰余金 200

振替後の資本剰余金はゼロです。純資産合計は変わりません。

7.取得関連費用60がある場合

株式代金2,100とは別に、株式の購入へ直接要した付随費用60を支払ったと仮定します。この60は、会計上の付随費用であり、税務上も株式の購入に要した費用に該当するものとします。消費税等は設例から除外します。

移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第46-2項では、支配獲得後の追加取得についても、個別財務諸表では付随費用を取得価額に含め、連結財務諸表では取得関連費用を発生した連結会計年度の費用とします。

7-1.P社の個別仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
子会社株式 2,160 現金預金 2,160

7-2.連結修正仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 2,160
資本剰余金 600 ― ―
取得関連費用 60 ― ―
合計 2,160 合計 2,160

資本剰余金の減額600は、追加取得持分1,500と株式代金2,100の差額です。付随費用60はこの計算に混ぜず、連結上で費用に振り替えます。

7-3.税効果は差異の内訳まで確認する

税務上の子会社株式簿価は、株式代金2,100と取得価額算入対象の費用60を合わせた2,160です。今回の追加取得だけを見ると、次の二つが子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異となります。

内訳 金額
追加投資額2,100と追加取得持分1,500との差額 600
個別の取得原価に残り、連結で費用処理した付随費用 60
合計 660

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第22項では、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、原則として繰延税金資産を計上しません。予測可能な将来の売却等による解消可能性と回収可能性など、所定の要件を満たす場合に計上します。

本設例では将来の売却等に関する意思決定または実施計画がないため、この660について繰延税金資産を計上しません。要件を満たす別の事例では、適用税率と回収可能性を確認し、同適用指針第27項に従って相手勘定も判定します。

8.法人税と消費税

8-1.P社の法人税

国税庁「法人税法(基礎編)」の有価証券に関する解説では、購入した有価証券の取得価額を、購入代価に購入手数料その他の購入に要した費用を加えた金額としています。

本設例では2,160が税務上の取得価額です。株式代金と取得価額算入対象の費用を、取得時の損金にはしません。ただし、通信費や名義書換料など、取得価額に含めないことが認められる支出もあるため、実際の内容に基づく判定が必要です。

8-2.売手A社の法人税

A社の売却株式に係る税務上の譲渡原価が1,300で、譲渡費用や課税繰延べの特例がないと仮定します。

通常得べき対価2,100-譲渡原価1,300=譲渡利益800

法人税法第61条の2により、通常の有価証券譲渡では譲渡利益または譲渡損失を所得計算へ反映します。また、法人税基本通達2-1-22により、相対取引の譲渡損益は原則として約定が成立した日に計上します。

A社は連結グループ外であるため、A社の譲渡利益800はP社の連結損益には入りません。

8-3.消費税

  • 国内で行う株式などの有価証券の譲渡は非課税取引です。株式代金2,100に消費税を上乗せする取引ではありません。
  • A社が課税売上割合を計算する場合、対象となる有価証券の譲渡対価については、その5%相当額を分母の総売上高へ算入します。
  • P社の株式代金は取得額であり、P社の課税売上割合の分母へ売上として入れるものではありません。
  • 仲介や助言に対する手数料は株式代金と分け、課税仕入れへの該当性と仕入税額控除上の区分を確認します。

根拠は、国税庁のNo.6201「非課税となる取引」およびNo.6405「課税売上割合の計算方法」です。

著しく低い価額による売買、完全支配関係のある法人間取引、発行法人による自己株式の取得、組織再編、非居住者・外国法人との取引、個人株主からの取得では、別の検討が必要です。

9.連結キャッシュ・フローと注記

項目 設例の表示
株式代金2,100 連結範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出として、財務活動によるキャッシュ・フロー
関連費用60 営業活動によるキャッシュ・フロー
資本剰余金600の減少 連結株主資本等変動計算書で、非支配株主との取引に係る親会社の持分変動として表示

移管指針第6号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」第9-2項は、支配が継続する追加取得に係る支出を財務活動に、関連費用の支出を営業活動に区分しています。

取引に重要性がある場合は、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第52項により、追加取得した子会社株式の取得原価と対価の内訳、資本剰余金の主な変動要因と金額などを確認します。

10.間違えやすい点

誤りやすい処理 確認方法
持分比率が増えれば、すべて追加取得とする 取得前から支配していたかを先に確認する
支払額だけから非支配株主持分を減らす 追加取得日現在の非支配株主持分から取得株式対応額を計算する
支払額が大きい差額をのれんにする 支配継続中の差額は資本剰余金とする
S社でも現金受領や資本増加を仕訳する 既存株式の株主間売買ならS社は原則として仕訳なし
個別と連結で付随費用を同じ処理にする 個別では取得価額、連結では取得関連費用として処理する
税効果を付随費用だけで判定する 追加取得による持分変動差額を含め、子会社投資全体の一時差異を確認する
追加取得代金を連結CFの投資活動にする 連結範囲が変わらない追加取得は財務活動に区分する

11.5日で定着させる練習

「支配判定→非支配株主持分→対価→仕訳」の順で進めます。

  1. 1日目:取引を分類する

    持分比率が30%から60%、75%から90%、75%から100%へ増える三つのケースを分類してください。

    解答

    他に支配判定へ影響する事情がなければ、30%から60%は支配獲得です。75%から90%と75%から100%は追加取得です。

  2. 2日目:非支配株主持分を計算する

    P社80%、非支配株主20%、非支配株主持分1,800とします。P社が全100株のうち5株を取得した場合の減少額を求めてください。

    解答

    1,800×5÷20=450です。取得後の非支配株主持分は1,350、P社持分比率は85%です。

  3. 3日目:連結仕訳を作る

    2日目の5株を550で取得した場合の仕訳を作ってください。

    解答

    借方は非支配株主持分450と資本剰余金100、貸方は子会社株式550です。借貸はいずれも550です。

  4. 4日目:低い取得価額と付随費用を分ける

    株式代金が400なら資本剰余金はどうなりますか。また、購入へ直接要した付随費用20は個別・連結・法人税でどう扱いますか。

    解答

    追加取得持分450-株式代金400=50なので、連結上の資本剰余金は50増加します。設例の前提では、付随費用20は個別財務諸表と法人税上の取得価額に含め、連結では取得関連費用として費用処理します。

  5. 5日目:期末残高とキャッシュ・フローを確認する

    3日目の取引前の資本剰余金が70だった場合の期末処理を示してください。株式代金550と関連費用20の連結CF区分も答えてください。

    解答

    資本剰余金は100減るため30の負の値になります。期末に利益剰余金30を借方、資本剰余金30を貸方として、資本剰余金をゼロにします。株式代金550は財務活動、関連費用20は営業活動です。

12.まとめ

  • 追加取得は、親会社がすでに支配しており、取得後も支配が続く取引です。
  • 減額する非支配株主持分は、追加取得日現在の残高から取得株式対応額を求めます。
  • 追加取得持分と追加投資額との差額は資本剰余金であり、新たなのれんや損益ではありません。
  • 個別では子会社株式を計上し、連結では追加投資額を消去します。子会社自身には原則として仕訳がありません。
  • 付随費用は個別・連結・法人税で処理が異なります。
  • 税効果は付随費用だけでなく、追加取得による親会社持分の変動差額も含めて確認します。

迷ったときは、「誰が現金を受け取ったか」と「支配が続いているか」を先に書き出してください。その後に非支配株主持分を動かすと、仕訳を組み立てやすくなります。