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第198回 企業結合会計ゼロ入門:取得原価の配分(PPA)・のれん・負ののれん発生益を仕訳で整理(5日練習付き)

第197回では、関連会社への投資を持分法で評価しました。今回は、その会社や事業への支配を獲得した日の会計処理です。

第196回では、連結手続の中でのれんを計算しました。本稿では、その一つ前にある「取得対価を、どの資産・負債へ配分するか」に重点を置きます。この手続が取得原価の配分、実務でいうPPAです。

本稿は、2026年9月30日現在の日本基準および法令に基づく一般的な学習用解説です。実際の処理は、契約内容、企業結合の形式、支配の判定、税制適格要件、時価評価などによって変わります。個別案件は、公認会計士・税理士などの専門家へ確認してください。

まず、計算の順序を決める

順序 確認すること
1 企業結合が「取得」に該当するか
2 取得企業と企業結合日を決める
3 取得対価を測定する
4 取得原価を識別可能な資産・負債へ配分する
5 残額を、のれんまたは負ののれん発生益として処理する

1.法的な形式だけでは処理を決めない

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」では、企業結合を、企業または事業が一つの報告単位へ統合されることとしています。株式取得、合併、会社分割、事業譲受といった法的形式だけで、会計処理が決まるわけではありません。

会計上の分類 基本的な状況 処理の考え方
取得 ある企業が他の企業または事業への支配を獲得する パーチェス法を適用する
共同支配企業の形成 複数の独立企業が契約等に基づいて共同支配する 所定の要件と処理を確認する
共通支配下の取引 企業結合の前後で、同じ株主による最終的な支配が一時的でなく継続する 適正な帳簿価額を基礎とする

共同支配企業の形成と共通支配下の取引以外の企業結合は、原則として「取得」です。以下では、取得に該当する場合を扱います。

2.取得企業と企業結合日を決める

取得企業

取得企業は、被取得企業または取得した事業への支配を獲得する企業です。現金などを引き渡す企業結合では、通常、その現金などを引き渡す側が取得企業になります。

株式を対価とする場合は、株式を交付した企業が必ず取得企業になるとは限りません。結合後の議決権比率、主要株主、取締役会の構成、当事企業の相対的な規模、株式の交換条件などを総合して判定します。株式を交付した側が会計上の被取得企業となる「逆取得」もあります。

企業結合日

企業結合日は、被取得企業または取得した事業への支配が移転した日です。契約締結日や代金支払日と一致するとは限りません。

取得対価と識別可能資産・負債は、この日を基準に測定します。計算問題では、まず「いつ支配が移ったか」を確定させます。

3.取得対価と取得関連費用を分ける

取得原価は、原則として、取得対価となる財の企業結合日における時価で算定します。

項目 基本的な扱い
取得対価として支払う現金 取得原価に含める
対価として交付する市場価格のある自社株式 原則として企業結合日の株価を基礎に測定する
取得のために外部アドバイザーへ支払う特定の報酬・手数料 取得関連費用として、発生した事業年度の費用にする
子会社株式の購入に直接要した付随費用 親会社の個別財務諸表では、金融商品会計に従い子会社株式の取得原価に含める
個別上の子会社株式に含めた付随費用 連結財務諸表では、発生した連結会計年度の費用にする

同じ支出でも、個別財務諸表と連結財務諸表で扱いが異なることがあります。「M&Aに関する支出」というだけで、すべてをのれんに含めることはできません。

4.取得原価の配分(PPA)

PPAは、取得原価を企業結合日の識別可能資産・負債へ配分する手続です。配分には、それぞれの時価を基礎として使います。

確認対象 PPAで行うこと
棚卸資産・固定資産 被取得企業の帳簿価額をそのまま使わず、企業結合日の時価を確認する
特許権・商標権など 法律上の権利など、分離して譲渡可能な無形資産は、のれんと分けて認識する
引受負債 企業結合日に認識する負債を、純資産の計算から控除する
税効果 会計上の価額と税務上の価額との差を検討し、必要な繰延税金資産・負債を反映する

被取得企業の貸借対照表に計上されていなかった項目でも、会計上の認識要件を満たせば、識別可能資産・負債に含めます。無形の価値をすべてのれんへまとめないことが大切です。

5.事業譲受の仕訳でのれんを計算する

次の学習用設例を使います。金額単位は万円です。

  • A社はB社の事業を現金1,200で譲り受けた
  • 企業結合日の時価は、棚卸資産300、建物600、商標権200である
  • 買掛金350を引き受けた
  • 取得関連費用、条件付取得対価、消費税および税効果は考慮しない
  • 取得前のA社は、普通預金2,000と純資産2,000だけを有する

識別可能純資産とのれん

項目 計算 金額
識別可能資産 300+600+200 1,100
引受負債 買掛金 350
識別可能純資産 1,100-350 750
のれん 取得対価1,200-識別可能純資産750 450

取得日の仕訳

借方科目 借方 貸方科目 貸方
棚卸資産 300 買掛金 350
建物 600 普通預金 1,200
商標権 200
のれん 450
借方合計 1,550 貸方合計 1,550

取得直後の残高を検算する

資産 残高 負債・純資産 残高
普通預金 800 買掛金 350
棚卸資産 300 純資産 2,000
建物 600
商標権 200
のれん 450
資産合計 2,350 負債・純資産合計 2,350

取得対価1,200は、識別可能純資産750とのれん450に分かれました。仕訳の借貸だけでなく、取得後の貸借対照表も一致しています。

6.のれんは取得日から規則的に償却する

日本基準では、のれんを資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却します。重要性が乏しい場合は、企業結合年度に費用処理できます。

設例ののれん450を、効果の及ぶ期間10年、残存価額ゼロ、定額法で1年間償却する場合は、次のとおりです。

450÷10年=45

借方科目 借方 貸方科目 貸方
のれん償却額 45 のれん 45

のれん残高は405です。他の収益・費用、減価償却および税金を考慮しなければ、資産合計2,305、負債350、純資産1,955となり、貸借は一致します。

のれんの償却は企業結合日から始めます。したがって、期中取得では、単純に1年分を計上するとは限りません。のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費に表示し、未償却残高は減損処理の対象にもなります。

7.事業譲受と株式取得では、のれんが現れる場所が違う

取引形態 取得企業の個別財務諸表 のれんを認識する場所
事業譲受 取得した資産・負債を直接計上する 原則として個別財務諸表
株式取得による子会社化 子会社株式を計上する 原則として連結財務諸表

先ほどと同じ事業を営む会社の全株式を現金1,200で取得した場合、購入付随費用を考慮しない親会社の個別仕訳は次のとおりです。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
子会社株式 1,200 普通預金 1,200

個別財務諸表に、のれん450を直接計上するわけではありません。連結手続で子会社株式と子会社の資本を相殺し、取得日の時価評価差額とのれんを認識します。100%取得、取得対価1,200、識別可能純資産750、税効果なしという前提なら、連結上ののれんは450です。

株式取得の付随費用

同じ連結会計年度に、株式購入へ直接要した付随費用30を支払い、親会社の個別財務諸表で子会社株式の取得原価に含めたとします。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
子会社株式 1,230 普通預金 1,230

連結上は、付随費用30を取得関連費用として発生時に費用処理します。簡略化した連結修正は次のとおりです。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
取得関連費用 30 子会社株式 30

連結上の取得対価は1,200であり、付随費用30はのれんに含めません。

8.負ののれんは、配分を見直してから利益にする

取得対価が識別可能純資産を下回っても、すぐに利益を計上してはいけません。識別可能資産・負債の認識漏れ、時価、取得原価の算定、配分の適否を見直します。

設例の識別可能資産が1,100、引受負債が350、取得対価が650で、見直し後も金額が変わらなかったとします。識別可能純資産750と取得対価650との差額100が負ののれん発生益です。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
棚卸資産 300 買掛金 350
建物 600 普通預金 650
商標権 200 負ののれん発生益 100
借方合計 1,100 貸方合計 1,100

負ののれん発生益は企業結合年度の利益とし、原則として特別利益に表示します。

9.段階取得では持分法評価額を使う

株式を追加取得して支配を獲得する取引を、段階取得といいます。個別財務諸表では、個々の取得取引の原価を合計します。連結財務諸表では、支配獲得前から保有していた持分も企業結合日の時価で測定します。

持分法適用関連会社を子会社にした場合を考えます。

  • 既存の30%持分の個別上の取得原価:240
  • 支配獲得直前の持分法による投資評価額:270
  • 既存持分の企業結合日の時価:300
  • 追加取得する70%持分の対価:900
計算項目 計算 金額
個別上の子会社株式 240+900 1,140
連結上の取得原価 既存持分の時価300+追加対価900 1,200
段階取得に係る差益 既存持分の時価300-持分法評価額270 30

比較するのは、個別上の取得原価240ではなく、支配獲得直前の持分法評価額270です。識別可能純資産が750で、税効果などを考慮しないなら、連結上ののれんは1,200-750=450です。

10.PPAが決算までに終わらない場合

取得原価は、企業結合日後1年以内に識別可能資産・負債へ配分します。最初の決算までに土地、無形資産、偶発債務に係る引当金などの配分額を確定できない場合は、その時点で入手できる合理的な情報に基づいて暫定処理を行います。

企業結合年度の翌年度に配分額が確定した場合は、企業結合年度に確定していたかのように処理します。翌年度の財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときは、比較情報にも見直しを反映します。

この1年は、取得後に新しく発生した事象を取得日の数値へ戻すための期間ではありません。企業結合日に存在していた事実や状況について、測定を完成させるための期間です。

11.会計上ののれんと税務上の資産調整勘定は別物

会計上の企業結合と法人税上の組織再編税制では、判定の目的と要件が異なります。会計上ののれんの金額や償却期間を、そのまま法人税の計算へ使うことはできません。

取引 法人税上の確認事項
株式取得 株式を取得しただけでは、対象会社が保有する資産・負債の税務上の帳簿価額は、株式の購入額に合わせて変わらない
適格合併など 取引形態ごとの適格要件を満たすかを確認し、満たす場合は税務上の帳簿価額による引継ぎを検討する
非適格合併など 移転資産・負債の時価を基礎とする処理と、法人税法第62条の8の調整勘定を検討する
事業譲受 移転した資産・負債ごとの税務上の取得価額と、法人税法第62条の8の対象となる事業の譲受けかを確認する

資産調整勘定の60か月処理

2026年9月30日現在、法人税法第62条の8の要件を満たして資産調整勘定が生じる場合、通常の当期損金算入額は次の式で計算します。

資産調整勘定の当初計上額÷60×当該事業年度の月数

非適格合併等の日を含む最初の事業年度では、その日から事業年度終了日までの期間を基礎に月数を求めます。月数は暦に従って計算し、1月未満の端数は1月とします。残額の処理や、その後に適格組織再編成が行われた場合などには別の規定があるため、個別に確認が必要です。

計算欄は、国税庁の別表十六(十一)「非適格合併等に係る調整勘定の計算の明細書」で確認できます。

ただし、会計上ののれん450が、税務上も資産調整勘定450になるとは限りません。対象取引への該当性、非適格合併等対価額、時価純資産価額、資産等超過差額、引受債務などを法令に従って計算します。

税効果会計

PPAで認識した資産・負債の会計上の価額と税務上の価額が異なる場合は、その一時差異について繰延税金資産・負債を検討します。これらを反映すると、配分残余であるのれんの金額が変わることがあります。

一方、企業結合会計上、のれんまたは負ののれんは取得原価の配分残余なので、それ自体に対する税効果は認識しません。

12.計算問題の確認表

欄 記入する内容
A 取得対価 現金、交付株式などの時価
B 識別可能資産 企業結合日の時価を基礎とする資産の合計
C 引受負債 企業結合日に認識する負債の合計
D 識別可能純資産 B-C
E 差額 A-D
判定 Eが正ならのれん。負なら配分を見直し、なお残れば負ののれん発生益

税効果や非支配株主持分がある問題では、その項目も加えます。仕訳を書く前にAからEまでを埋めると、のれんの符号を誤りにくくなります。

13.5日で確認する練習メニュー

日 課題 終了条件
1日目 取得企業、企業結合日、取得原価、PPAを一文ずつ説明する 「誰が・いつ・いくらで・何を得たか」を区別できる
2日目 識別可能純資産とのれんを3問計算する 取得対価=識別可能純資産+のれんで検算できる
3日目 事業譲受と株式取得の仕訳を並べる 個別と連結で、のれんが現れる場所を区別できる
4日目 負ののれんと段階取得を1問ずつ解く 配分の再点検と、持分法評価額を使う理由を説明できる
5日目 会計上ののれんと税務上の資産調整勘定を比較する 両者を別々に判定できる

まとめ

  • PPAでは、取得原価を企業結合日の識別可能資産・負債へ配分する
  • 取得対価が識別可能純資産を上回る差額は、のれんになる
  • 取得対価が識別可能純資産を下回るときは、配分を見直してから負ののれん発生益を計上する
  • 事業譲受では個別上、株式取得による子会社化では原則として連結上でのれんを認識する
  • 段階取得で持分法を適用していた場合、既存持分の時価と持分法評価額との差額を段階取得損益とする
  • 会計上ののれんと税務上の資産調整勘定は、別々に判定する

主な一次資料

第197回 持分法会計ゼロ入門:利益・配当・のれんを連結修正仕訳で整理(5日練習付き)

第196回では、子会社の資産・負債・収益・費用を取り込む連結会計を学びました。今回は、関連会社などへの投資を一つの投資勘定で表す「持分法」です。

最初に覚えるのは、「利益で投資勘定が増え、配当で減る」という動きです。個別財務諸表で計上した受取配当金は、連結上、投資の回収として投資勘定の減額に振り替えます。

1.持分法は「一行連結」

企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」は、持分法を、被投資会社の資本と損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、連結決算日ごとに投資額を修正する方法と定めています。

子会社の連結では各科目を合算します。持分法では、原則として貸借対照表の投資有価証券と、損益計算書の持分法による投資損益に集約します。この表示の特徴から、移管指針第7号「持分法会計に関する実務指針」では「一行連結」と説明されています。

「一行」は表示上の特徴です。連結修正仕訳が一つだけになるという意味ではありません。また、以下の仕訳は投資会社の連結決算上の修正であり、被投資会社の帳簿に記帳するものではありません。

比較項目 子会社の連結 持分法
主な対象 連結子会社 非連結子会社と関連会社
貸借対照表 資産・負債を科目ごとに合算 原則として投資勘定を修正
損益計算書 収益・費用を科目ごとに合算 持分相当額を持分法による投資損益に集約
受取配当金 内部取引として消去 投資の回収として投資勘定を減額
持分法による投資損益 該当なし 営業外収益または営業外費用に一括表示

2.「議決権20%」だけでは決まらない

関連会社とは、出資、人事、資金、技術、取引などを通じて、子会社以外の企業の財務・営業・事業方針の決定に重要な影響を与えることができる場合の、その相手企業です。代表的な判定ルートを整理します。

議決権の状況 判定の考え方
自己の計算で20%以上を所有 原則として該当する。ただし、重要な影響を与えられないことが明らかな場合を除く
自己の計算で15%以上20%未満を所有 役員等の派遣、重要な融資・技術提供・取引など、基準所定の事実がある場合に該当する
緊密な関係者や議決権行使に同意する者と合わせて20%以上 役員等の派遣、重要な融資・取引など、基準所定の事実がある場合に該当する

非連結子会社と関連会社への投資には、原則として持分法を適用します。ただし、適用しても連結財務諸表に重要な影響を与えない場合は、適用会社としないことができます。試験問題では持分割合が明示されることが多いのですが、実務では関係の実態も確認します。

3.計算の軸

期末投資額 = 取得原価 + 取得後利益の持分相当額 - 取得後損失の持分相当額 - 受取配当金相当額 - のれん償却額 ± その他の修正

実際の計算では、会計方針の統一、取得時の時価評価、税効果、未実現損益、その他の包括利益なども検討します。未実現損益は取引の方向によって修正する科目が異なるため、上の式だけで処理を決めることはできません。まずは利益、配当、のれんの三つを確実に押さえます。

4.のれんがない基本設例

取得は期首に行い、利益剰余金を原資とする金銭配当を期中に受け取ったものとします。評価差額、未実現損益、税効果、減損、源泉所得税等は考慮しません。

項目 前提
P社の議決権割合 30%。重要な影響があり、A社は関連会社に該当
A社株式の取得価額 3,000万円
取得時のA社修正後純資産 10,000万円
取得後のA社当期純利益 1,200万円
A社の配当総額 400万円

取得価額3,000万円と純資産持分10,000万円×30%=3,000万円が一致するため、のれんはありません。

個別財務諸表の仕訳

取引 借方科目 金額(万円) 貸方科目 金額(万円)
株式取得 関係会社株式 3,000 現金預金 3,000
配当受領 現金預金 120 受取配当金 120

配当受領額は400万円×30%=120万円です。この設例では減損がないため、個別財務諸表の関係会社株式は3,000万円のままです。

連結修正仕訳

A社利益の持分相当額は1,200万円×30%=360万円です。

修正内容 借方科目 金額(万円) 貸方科目 金額(万円)
利益の持分相当額 投資有価証券 360 持分法による投資利益 360
受取配当金の振替 受取配当金 120 投資有価証券 120

どちらの仕訳も借方と貸方が一致しています。連結上は受取配当金120万円が投資の回収に振り替えられ、当期の成果として持分法による投資利益360万円が残ります。

期末残高を二方向から検算する

投資勘定から:3,000+360-120=3,240万円

A社純資産から:(10,000+1,200-400)×30%=3,240万円

二つの計算が一致しました。この検算で、配当の控除漏れや転記ミスを見つけられます。

5.のれんがある場合

前の設例の取得価額だけを3,300万円に変更します。取得時の修正後純資産持分は3,000万円なので、差額300万円がのれんです。持分法ののれんは独立した資産として表示せず、投資勘定に含めます。

日本基準では、のれんは20年以内の効果が及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却します。本設例では効果が及ぶ期間を5年と仮定します。5年は設例上の前提であり、一律の年数ではありません。

ASBJでは、のれんの会計処理と関連する開示が検討テーマとして追加され、今後、検討を開始する予定です。2026年9月29日現在、現行の償却処理を変更する会計基準は公表されていません。

計算項目 計算 金額(万円)
取得時のれん 3,300-10,000×30% 300
当期のれん償却額 300÷5年 60
利益の持分相当額 1,200×30% 360
持分法による投資利益 360-60 300
受取配当金 400×30% 120

連結修正仕訳

修正内容 借方科目 金額(万円) 貸方科目 金額(万円)
利益の持分相当額 投資有価証券 360 持分法による投資利益 360
のれんの償却 持分法による投資利益 60 投資有価証券 60
受取配当金の振替 受取配当金 120 投資有価証券 120

投資勘定から:3,300+360-60-120=3,480万円

純資産とのれんから:修正後純資産持分3,240+未償却のれん240=3,480万円

持分法による投資利益も、貸方360万円-借方60万円=300万円となります。

6.損失が投資残高を超える場合

期首投資残高が800万円、当期純損失の持分相当額が1,200万円だったとします。関連会社の欠損を負担する責任が投資額の範囲に限られ、貸付金、損失分担契約、契約上または事実上の債務保証もない場合、投資価額がゼロになる800万円まで損失を計上します。

借方科目 金額(万円) 貸方科目 金額(万円)
持分法による投資損失 800 投資有価証券 800

ただし、投資残高がゼロになれば必ず処理が終わるわけではありません。設備資金・運転資金等の貸付金があれば、投資有価証券をゼロにした後、その貸付金等を減額します。ここには、返済期限の延長を繰り返し、実質的に運転資金となっている営業債権も含まれます。さらに負担すべき額が残る場合は、「持分法適用に伴う負債」などの適切な科目を計上します。負担範囲は契約と実態に基づいて判断します。

7.持分法と法人税は別に考える

持分法による投資利益は、連結決算上の会計処理です。被投資会社の利益を投資会社が現金で受け取ったことを意味せず、通常、投資会社の個別帳簿には同額の投資利益を計上しません。

項目 会計上の扱い 法人税での確認点
持分法による投資利益 連結財務諸表上の投資損益 実際の配当とは区別し、各法人の個別所得と税法上の調整を確認する
実際の配当 個別では受取配当金、持分法上は投資勘定を減額 株式等の区分、保有関係、保有期間などから益金不算入を判定する
持分法適用後の投資価額 利益、配当、のれんなどで増減 税務上の株式簿価と一致するとは限らず、一時差異の検討が必要になることがある

法人税法第23条は、内国法人から受ける一定の配当等について、株式等の区分に応じた益金不算入を定めています。会計上の持分法適用割合だけでは、税務上の株式区分や益金不算入額を確定できません。

2026年4月1日以後終了事業年度分については、国税庁が別表八(一)「受取配当等の益金不算入に関する明細書」を公表しています。外国法人から受ける配当には別の規定や別表が関係するため、国内法人からの配当と同じ処理とは限りません。

また、グループ通算制度は、一定の完全支配関係にある企業グループを対象とする法人税の制度です。会計上の連結や持分法とは、適用要件も計算目的も異なります。

取得後の留保利益に係る税効果は、将来の配当見込み、予測可能な将来の売却・清算の方針、追加税負担の有無などを踏まえて検討します。本稿の設例では、必要な前提を置いていないため税効果の金額を計算していません。

8.問題を解く順番

  1. 持分法の適用対象か確認する
  2. 取得日と持分割合を確定する
  3. 取得日の資産・負債を必要に応じて時価評価し、税効果を反映する
  4. 投資原価と修正後純資産持分の差額から、のれんまたは負ののれんを判定する
  5. 取得後の修正済み純損益に持分割合を掛ける
  6. のれん償却、評価差額、未実現損益などを調整する
  7. 受取配当金に相当する額を投資勘定から減らす
  8. 投資勘定と純資産持分の二方向から期末残高を検算する
  9. 個別仕訳、連結修正、税務申告を混同していないか確認する

9.5日練習

日 練習内容 終了時の確認
1日目 子会社の連結と持分法の違いを3点書く 「全科目」と「一行」の違いを説明できる
2日目 20%以上、15%以上20%未満、緊密な関係者等との合算という判定ルートを整理する 持分割合だけでは決まらないと説明できる
3日目 のれんなしの設例を見ずに計算する 投資利益360万円、期末投資額3,240万円になる
4日目 取得価額を3,300万円に変更して仕訳する 投資利益300万円、期末投資額3,480万円になる
5日目 損失超過時の負担範囲と法人税との違いを整理する 投資額までの場合と、貸付金・保証等がある場合を区別できる

一度にすべてを覚える必要はありません。まず「利益で増える、配当で減る」を押さえ、最後に期末投資残高を検算してください。

まとめ

  • 持分法は、被投資会社の資本と損益の持分相当額を投資勘定に反映する
  • 利益の持分相当額は投資勘定を増やし、受取配当金相当額は投資勘定を減らす
  • のれんは投資勘定に含め、20年以内の効果が及ぶ期間にわたって規則的に償却する
  • 投資額を超える損失の負担範囲は、貸付金、損失分担契約、債務保証などの実態によって変わる
  • 持分法による投資利益、実際の配当、法人税の益金不算入は別々に判定する

本稿は日本基準を前提とする一般的な学習資料です。実際の財務諸表作成や法人税申告では、適用時点の会計基準、法令、契約、持株関係、申告書様式を確認し、必要に応じて公認会計士・税理士等の専門家へ相談してください。

第196回 連結会計ゼロ入門:投資と資本の相殺消去・のれん・非支配株主持分を仕訳で整理(5日練習付き)

第195回では、1株当たり利益(EPS)の分子を考えるとき、親会社株主に帰属する当期純利益が重要になることを確認しました。今回は、その利益を計算する土台となる連結会計を扱います。

連結財務諸表は、親会社と子会社の個別財務諸表を合計するだけでは完成しません。企業集団の内部にある投資と資本、債権と債務、売上と仕入、未実現損益を消去します。まずは、投資と資本の相殺消去、のれん、非支配株主持分の順に整理しましょう。

基準日と前提:本稿は、2026年9月28日現在に公表されている日本基準と日本の法人税法を前提とした一般的な学習用解説です。IFRSによる処理や、個別の企業結合、連結範囲、税効果、法人税申告を判断するものではありません。実際の処理では、契約内容、適用する会計基準、最新の法令を確認してください。

先に結論:合計してから、企業集団の内部を消す

論点 基本的な考え方
連結の範囲 議決権比率だけでなく、意思決定機関を実質的に支配しているかで判定する
作成の出発点 親会社と子会社の個別財務諸表を基礎にする
資本連結 親会社の子会社に対する投資と、対応する子会社の資本を相殺する
非支配株主持分 子会社の資本のうち、親会社に帰属しない部分を純資産に表示する
のれん 投資額と、投資に対応する子会社の時価純資産との差額から計算する
内部取引 債権・債務、取引高、外部へ未販売の資産に含まれる未実現損益を消去する
法人税 連結上の消去と、各法人の所得計算やグループ通算制度を分けて考える

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」は、連結財務諸表を、支配従属関係にある企業集団を単一の組織体とみなして作成するものとしています。

1.個別財務諸表と連結財務諸表の違い

項目 個別財務諸表 連結財務諸表
報告単位 親会社、子会社それぞれの法人 親会社と子会社からなる企業集団
子会社株式 親会社の資産として表示する 対応する子会社資本と相殺消去する
グループ内売上 売手の売上として計上する 企業集団内部の取引として消去する
グループ内債権 債権者の資産として計上する 対応する債務と相殺消去する

連結修正仕訳は、通常、親会社や子会社の総勘定元帳に記帳する仕訳ではありません。各社の個別財務諸表を残したまま、連結精算表上で企業集団としての表示に直す処理です。

同一環境下で行われた同一の性質の取引については、親会社と子会社の会計方針を原則として統一します。また、親会社は原則としてすべての子会社を連結しますが、連結範囲や連結手続には重要性の原則が適用されます。

2.設例1:投資と資本の相殺消去

以下は学習用の設例です。金額の単位は万円とし、消費税は考慮しません。

株式取得 P社がS社の既存株式80%を外部株主から960で取得する
取得時点 連結会計年度の期首
S社の資本金 600
S社の資本剰余金 200
S社の利益剰余金 200
時価評価 識別可能な資産・負債の時価と帳簿価額は一致する
その他 取得関連費用、税効果、段階取得、評価・換算差額等はない

P社の個別仕訳

借方 金額 貸方 金額
子会社株式 960 現金預金 960
合計 960 合計 960

既存株式が株主間で移転するため、S社には、この株式取得に伴う仕訳はありません。

のれんと非支配株主持分の計算

S社の支配獲得時の時価純資産は、600+200+200=1,000です。

項目 算式 金額
時価純資産 600+200+200 1,000
親会社持分 1,000×80% 800
非支配株主持分 1,000×20% 200
のれん 投資額960-親会社持分800 160

投資額960と比べるのは、S社の時価純資産1,000の全額ではなく、投資に対応する親会社持分800です。

連結精算表上の相殺消去

借方 金額 貸方 金額
資本金
資本剰余金
利益剰余金
のれん
600
200
200
160
子会社株式
非支配株主持分
960
200
合計 1,160 合計 1,160

連結精算表上では、S社の支配獲得時資本1,000を消去し、親会社に帰属しない200を非支配株主持分として表示します。

項目 修正前 修正 連結上の残高
子会社株式 960 -960 0
S社の支配獲得時資本 1,000 -1,000 0
のれん 0 +160 160
非支配株主持分 0 +200 200

3.のれんの償却と当期利益の帰属

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第32項では、のれんを資産に計上し、20年以内の効果が及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却するとしています。

ここでは、効果が及ぶ期間を10年、償却方法を定額法と仮定します。10年は設例上の年数であり、すべての企業結合に一律に適用する年数ではありません。

年間償却額:160÷10年=16

借方 金額 貸方 金額
のれん償却額 16 のれん 16
合計 16 合計 16

期末ののれん残高は、160-16=144です。

S社の当期純利益が150の場合

P社自身の当期損益を0、S社の連結修正後の当期純利益を150とします。配当、その他の純資産変動、追加の連結修正はないものとします。

非支配株主に帰属する当期純利益は、150×20%=30です。

借方 金額 貸方 金額
非支配株主に帰属する当期純利益 30 非支配株主持分 30
合計 30 合計 30
項目 計算 金額
連結損益計算書の当期純利益 150-のれん償却16 134
非支配株主帰属分 150×20% 30
親会社株主帰属分 134-30 104
親会社株主帰属分の別検算 150×80%-16 104
帰属額の合計 104+30 134
期末非支配株主持分 取得時200+当期利益30 230
期末のれん 取得時160-償却16 144

前回のEPSにつなげると、この設例では、親会社株主に帰属する当期純利益104が連結EPSの分子を考える出発点になります。

4.設例2:内部取引と未実現利益の消去

ここからは設例1と切り離した別の設例です。P社がS社へ商品を掛けで300販売したとします。P社にとっての原価は240で、期末時点では商品の25%がS社に残り、代金300も未決済です。消費税と税効果は考慮しません。

債権と債務の消去

借方 金額 貸方 金額
買掛金 300 売掛金 300
合計 300 合計 300

内部売上の消去

借方 金額 貸方 金額
売上高 300 売上原価 300
合計 300 合計 300

期末商品に含まれる未実現利益

内部取引全体の利益は、300-240=60です。その25%が期末商品に残っているため、未実現利益は60×25%=15となります。

借方 金額 貸方 金額
売上原価 15 商品 15
合計 15 合計 15

S社の個別財務諸表にある期末商品は300×25%=75です。一方、企業集団にとっての原価は240×25%=60です。75-15=60となり、商品残高を検算できます。

この取引は親会社が売手となるダウンストリーム取引なので、消去した未実現利益15は親会社株主側に帰属します。非支配株主のいる子会社が売手となるアップストリーム取引では、連結会計基準第38項により、未実現損益を親会社と非支配株主の持分比率に応じて配分します。

5.連結会計と法人税を混同しない

項目 連結会計 グループ通算制度
目的 企業集団を一つの報告単位として表示する 一定の完全支配関係にある法人間で法人税上の損益通算などを行う
主な範囲 会計上の支配関係にある子会社 法令上の要件を満たす完全支配関係にある法人
申告単位 税務申告制度ではない 各通算法人が個別に法人税額を計算し、申告する
内部取引 連結表示上、取引高や未実現損益を消去する 連結修正仕訳をしただけでは各法人の課税関係は変わらない

国税庁の「No.5900 グループ通算制度の概要」は、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位とし、各法人が個別に法人税額を計算・申告しながら、損益通算などの調整を行う制度と説明しています。

本稿では、P社がS社株式の80%を保有し、残る20%を外部株主が保有しています。この前提では100%の完全支配関係がないため、両社はグループ通算制度の対象となる関係ではありません。一方、P社がS社を支配しているため、会計上はS社を連結します。

また、P社が取得したのはS社の既存株式です。取得関連費用を考慮しない本設例では、P社の個別財務諸表上の子会社株式は960ですが、連結上ののれん160はP社やS社の個別帳簿には計上されません。そのため、連結上ののれん償却額16が、P社またはS社の所得計算でそのまま損金になるわけではありません。法人税法上の資産調整勘定も、連結上ののれんが生じただけで自動的に計上されるものではありません。

内部取引の未実現利益を連結上消去しても、売手側では個別の所得計算が行われます。この差額については、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に従い、税効果を検討します。本稿の設例では、売手の法定実効税率や課税所得を設定していないため、繰延税金資産の金額は計算していません。

6.間違えやすいポイント

誤り 正しい整理
80%取得なので、子会社資本も80%だけ消す 連結精算表上は子会社資本を消去し、20%分を非支配株主持分として表示する
のれんを960-1,000で計算する 投資額960から、投資に対応する親会社持分800を控除する
内部売上だけを消し、商品に残る利益はそのままにする 外部へ未販売の資産に含まれる未実現損益も消去する
連結修正仕訳を各社の帳簿へ記帳する 個別帳簿と区別し、通常は連結精算表上で処理する
連結子会社なら法人税も自動的に一括申告になる 会計上の連結範囲と、グループ通算制度の適用要件を別々に判定する

計算するときは、「時価純資産の確定→親会社と非支配株主への配分→投資額との差額」の順序を固定すると、数字の置き場所を見失いにくくなります。

7.折れずに進める5日練習

日 練習内容 確認点
1日目 個別財務諸表と連結財務諸表の違いを説明する 「合計して内部を消す」と説明できるか
2日目 時価純資産、親会社持分、非支配株主持分を再計算する 1,000、800、200になるか
3日目 支配獲得日の相殺消去仕訳を書き、借貸を合計する 借方・貸方がともに1,160になるか
4日目 当期利益とのれん償却後の期末残高を再計算する 親会社株主帰属利益104、のれん144、非支配株主持分230になるか
5日目 個別上の商品75を企業集団の原価60へ修正する 未実現利益15を仕訳で消去できるか

最初から複数年度の開始仕訳や税効果まで同時に解く必要はありません。まず支配獲得日の資本連結を固め、当期利益、内部取引、税効果を一つずつ追加しましょう。

まとめ

  • 連結財務諸表は、親会社と子会社からなる企業集団を一つの組織体として表示する
  • 投資と対応する子会社資本を相殺し、親会社に帰属しない部分を非支配株主持分として表示する
  • 設例ののれんは、投資額960-時価純資産の親会社持分800=160となる
  • 内部取引では、債権債務と取引高に加え、外部未販売分の未実現損益も消去する
  • 連結会計と法人税の所得計算、グループ通算制度は別々に判定する

主な一次資料

第195回 1株当たり利益(EPS)ゼロ入門:期中平均株式数・自己株式・潜在株式を計算と注記で整理(5日練習付き)

第194回では、ストック・オプションの付与から権利確定、行使、失効までを扱いました。今回は、その新株予約権などを1株当たり当期純利益(EPS)の計算にどう反映するかを確認します。

基準日:2026年9月27日。本稿は、日本基準を採用する株式会社を想定した一般的な学習用の記事です。設例は計算方法を学ぶための仮定であり、特定企業の数値ではありません。計算途中では丸めず、1株当たり金額は最後に小数第3位を四捨五入します。

最初に押さえる3点

  • 当期純利益は一定期間の成果なので、分母には期末株式数ではなく期中平均株式数を使う。
  • 自己株式は期中平均株式数から控除する。
  • 未行使の新株予約権は基本EPSに含めず、希薄化効果がある場合に潜在株式調整後EPSへ反映する。

EPSは開示のための計算です。計算しただけでは仕訳は発生しません。

基本EPSの計算

1株当たり当期純利益=普通株式に係る当期純利益÷普通株式の期中平均株式数

項目 計算
普通株式に係る当期純利益 損益計算書上の当期純利益-普通株主に帰属しない金額
普通株式の期中平均株式数 普通株式の期中平均発行済株式数-期中平均自己株式数

連結財務諸表では、損益計算書上の当期純利益を「親会社株主に帰属する当期純利益」と読み替えます。種類株式がある場合には、普通株式と同等の株式や優先配当額などについて別の検討も必要です。

根拠は、企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」第12項、第14項、第17項です。

3つの指標を区別する

指標 表す内容 分母
1株当たり当期純利益(基本EPS) 普通株主に関する一会計期間の成果 普通株式の期中平均株式数
潜在株式調整後1株当たり当期純利益 希薄化する潜在株式の行使や転換を仮定した成果 期中平均株式数+普通株式増加数
1株当たり純資産額 期末時点の普通株式に係る純資産 期末発行済普通株式数-期末自己株式数

当期純利益には期中平均株式数、期末純資産には期末株式数を対応させます。

分子から控除する金額

確認項目 取扱い
個別財務諸表 当期純利益から普通株主に帰属しない金額を控除する
連結財務諸表 親会社株主に帰属する当期純利益から普通株主に帰属しない金額を控除する
配当優先株式 会計基準に従って算定した優先配当額などを控除する
普通株式への配当 普通株主に帰属する利益の配分であり、通常は分子から控除しない

種類株式がある場合は、累積型か非累積型か、参加型かなどによって計算が変わります。定款、発行条件、配当決議を確認してから分子を決めます。

設例1:期中平均株式数を計算する

前提

  • 事業年度:4月1日から翌年3月31日まで
  • 期首発行済普通株式:120,000株
  • 期首自己株式:20,000株
  • 7月1日に普通株式24,000株を発行
  • 10月1日に自己株式8,000株を取得
  • 当期純利益:45,600,000円
  • 普通株主に帰属しない金額:0円
  • 取引はいずれも月初に行われ、月数による加重平均が合理的であるものとする

発行済普通株式数から自己株式数を控除した数を、ここでは「流通普通株式数」と表記します。

株式数の増減を加重する方法

内訳 計算 期中平均への影響
期首の流通普通株式 120,000株-20,000株 100,000株
7月1日の新株発行 24,000株×9か月÷12か月 +18,000株
10月1日の自己株式取得 8,000株×6か月÷12か月 -4,000株
期中平均株式数 100,000株+18,000株-4,000株 114,000株

期間別に並べる検算

期間 流通普通株式数 加重後
4月~6月 100,000株 100,000株×3÷12=25,000株
7月~9月 124,000株 124,000株×3÷12=31,000株
10月~3月 116,000株 116,000株×6÷12=58,000株
合計 ― 114,000株

どちらの方法でも114,000株になります。期末の流通普通株式数116,000株を、そのまま分母にしないことが大切です。

基本EPS:45,600,000円÷114,000株=400.00円

企業会計基準適用指針第4号第13項は、日数による方法のほか、合理的な基礎に基づく月数や月末株式数の平均による方法を認めています。月中に取引があるときは、月数による計算が合理的かを確認します。

設例2:ストック・オプションの希薄化

設例1に加え、次のストック・オプションが期首から期末まで存在したものとします。

  • 行使時に発行される普通株式:20,000株
  • 1株当たり行使価格:600円
  • オプションが存在する期間の平均株価:1,000円
  • 権利確定済みで、将来提供される勤務サービスに対応する公正な評価額はない

新株予約権は基本EPSの分母には含めません。潜在株式調整後EPSでは、行使による仮定入金額で普通株式を買い戻したものとする「自己株式方式」を使います。

手順 計算 結果
行使を仮定した発行株式数 20,000株 20,000株
行使による仮定入金額 20,000株×600円 12,000,000円
仮定入金額で買い戻せる株式数 12,000,000円÷1,000円 12,000株
普通株式増加数 20,000株-12,000株 8,000株

この新株予約権について、分子の当期純利益調整額はありません。

潜在株式調整後EPS:45,600,000円÷(114,000株+8,000株)=373.77円

373.77円は基本EPSの400.00円を下回るため、希薄化効果があります。平均株価が行使価格以下なら希薄化効果はなく、潜在株式調整後EPSの計算には含めません。

一定期間の勤務後に権利が確定するストック・オプションも、希薄化効果があれば、普通株式増加数の計算上は付与時点から行使期間が始まったものとして扱います。その場合の仮定入金額には、公正な評価額のうち将来提供されるサービスに対応する部分を含めます。権利確定前のものを単純な行使価格だけで計算しないようにします。詳しくは適用指針第22項を確認してください。

潜在株式ごとの調整

潜在株式など 分子の調整 分母の調整
新株予約権・ストック・オプション 通常はなし 自己株式方式による普通株式増加数
転換証券 支払利息等から税額相当額を控除した金額など 転換を仮定した普通株式増加数
条件付発行可能普通株式・潜在株式 契約内容に応じて判定 期末を条件期間末とした場合の条件達成状況などに応じて判定

転換負債に係る税額相当額は、適用指針第25項により法定実効税率を用いて算定します。法定実効税率は事業年度、所在地、法人区分などで変わるため、一律の数値は使えません。

潜在株式が複数ある場合は、各発行単位に分け、希薄化効果の大きいものから順に加えて最大の希薄化効果を反映します。潜在株式が存在しない場合、希薄化効果がない場合、または1株当たり当期純損失の場合は、その旨を開示し、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は開示しません。

EPSの計算では仕訳をしない

EPSは、財務諸表の利益と株式関係資料を使う開示計算です。潜在株式の行使や転換は仮定にすぎないため、帳簿には記録しません。

事象 仕訳 帳簿への影響
実際の新株発行・自己株式取得 取引時に必要 現金預金、資本金、自己株式などが変動する
期中平均株式数の計算 なし 変動しない
潜在株式の行使・転換を仮定した計算 なし 変動しない
実際の権利行使・転換 取引条件に応じて必要 現金預金、新株予約権、資本金などが変動する

EPSの計算について0円の仕訳を作る必要もありません。実際の株式取引と、開示上の仮定計算を分けます。

株式数が動いたときの取扱い

出来事 基本EPSの分母 注意点
時価発行増資 発行時から期間に応じて加算 払込額ではなく株式数を加重する
自己株式の取得 取得時から期間に応じて控除 期中平均自己株式数を使う
新株予約権の実際の行使 行使時から普通株式数に含める 行使前は基本EPSの株式数に含めない
株式分割・株式併合 表示する最も古い期間の期首に行われたものと仮定する 貸借対照表日後に行われた場合も同様に調整する
条件付発行可能普通株式 特定の条件(単に時間の経過により達成される条件を除く)を満たした時点から含める 潜在株式調整後EPSでは別に条件達成状況を判定する

法人税の所得や非上場株式評価とは別の数字

項目 目的・出発点 EPSとの関係
会計上の基本EPS 普通株主に関する期間損益の表示 普通株式に係る当期純利益と期中平均株式数を使う
法人税の所得金額 会計上の利益・欠損に申告調整を加えて計算する EPSを法人税申告書へ転記するものではない
類似業種比準価額の「1株当たりの利益金額」 取引相場のない株式を相続税・贈与税上評価するための数値 法人税の課税所得金額などを基礎とする別の計算

国税庁「別表四の記載の仕方(令和8年4月1日以後終了事業年度等分)」では、損益計算書に掲げた当期利益または当期欠損を出発点とし、益金・損金に関する申告調整を行う構造が示されています。EPSの算定だけを理由とする申告調整はありません。

財産評価基本通達183の「1株当たりの利益金額」は、直前期末以前1年間の法人税の課税所得金額から非経常的な利益を除き、所定の金額を加算する方法などで計算します。会計上のEPSとは目的、分子、分母が異なり、相互に代用できません。

開示前に確認する5項目

  1. 開示制度:会社法、金融商品取引法のどの規定が適用されるかを確認する。両方が関係する会社もある。
  2. 分子:当期純利益、普通株主に帰属しない金額、連結の場合は親会社株主に帰属する利益を照合する。
  3. 分母:株式事務資料、自己株式台帳、増資日、取得日、行使日から期中平均株式数を再計算する。
  4. 潜在株式:行使価格、平均株価、存在期間、権利確定条件、将来サービスに対応する公正な評価額を確認する。
  5. 注記:算定上の基礎、分子・分母の調整額、希薄化効果がないため除外した潜在株式を確認する。

財務諸表等規則第95条の5の2・第95条の5の3は、1株当たり当期純損益と潜在株式調整後1株当たり当期純利益の注記を定めています。連結財務諸表については、連結財務諸表規則第65条の2・第65条の3を確認します。連結財務諸表を作成する場合には、個別財務諸表側の省略規定にも注意が必要です。

会社法上は、会社計算規則第113条が1株当たり純資産額と1株当たり当期純損益を注記事項としています。ただし、第98条第2項には会社類型や注記表の種類に応じた省略規定があります。非上場かどうかだけで決めず、公開会社、会計監査人設置会社などの区分を確認します。

確認問題

4月1日から翌年3月31日までを事業年度とする会社について、基本EPSと潜在株式調整後EPSを求めてください。

  • 当期純利益:24,000,000円
  • 期首流通普通株式:80,000株
  • 7月1日に普通株式16,000株を発行
  • 1月1日に自己株式8,000株を取得
  • 期首から存在する権利確定済みストック・オプション:10,000株分
  • 行使価格:500円
  • オプションが存在する期間の平均株価:800円
  • 普通株主に帰属しない金額:0円
解答を確認する

期中平均株式数は、80,000株+16,000株×9÷12-8,000株×3÷12=90,000株です。

基本EPSは、24,000,000円÷90,000株=266.67円です。

仮定入金額は10,000株×500円=5,000,000円です。この金額で買い戻せる株式数は、5,000,000円÷800円=6,250株です。したがって、普通株式増加数は10,000株-6,250株=3,750株となります。

潜在株式調整後EPSは、24,000,000円÷(90,000株+3,750株)=256.00円です。基本EPSの266.67円を下回るため、希薄化効果があります。EPSの算定に伴う仕訳はありません。

5日で定着させる練習メニュー

日 取り組む内容 確認点
1日目 基本EPSの分子と分母を書き分ける 当期純利益と法人税の所得金額を混同していないか
2日目 新株発行と自己株式取得を期間加重する 増減方式と期間別方式で同じ結果になるか
3日目 自己株式方式を1問解く 対象株式数ではなく純増加株式数を求めたか
4日目 株式分割、反希薄化、当期純損失の取扱いを確認する 計算と開示の要否を分けて説明できるか
5日目 確認問題を資料なしで解き直す 基本EPS、潜在株式調整後EPS、仕訳不要の順に説明できるか

計算の順番は、「分子を決める」「期中平均株式数を求める」「潜在株式の希薄化を判定する」「注記を確認する」の4段階です。この順番を崩さなければ、発行条件が増えても整理しやすくなります。

一次資料

免責:本稿は一般的な学習用の説明であり、個別企業の会計・税務・法務判断を示すものではありません。実際の計算と開示では、契約条件、種類株式の内容、適用する会計基準、事業年度、会社類型および基準日時点の法令等を確認し、必要に応じて公認会計士、税理士、弁護士などの専門家へ相談してください。

第194回 ストック・オプション会計ゼロ入門:権利確定・行使・失効と法人税のずれを仕訳で整理(5日練習付き)

第193回では、退職給付を勤務期間に配分する考え方を確認しました。今回は、従業員等への報酬として付与するストック・オプションを扱います。

現金の支出がなくても、会社がサービスを受けた期間には費用が生じます。まず会計上の費用と新株予約権を整理し、その後で従業員の所得税と発行会社の法人税を分けて見ていきます。

1.付与から失効までの流れ

時点 会計処理の中心 新株予約権の残高
付与日 公正な評価単価と権利確定見込数を確認する 設例では0円
権利確定日前 受けたサービスに対応する費用を計上する 純資産の部に積み上がる
権利確定日 権利確定数に合わせて累計費用を修正する 確定した権利に対応する金額になる
権利行使日 払込額と対応する新株予約権を払込資本へ振り替える 行使分だけ減少する
権利確定後の失効日 対応する新株予約権を利益へ振り替える 失効分だけ減少する

新株予約権は借入金ではありません。発行会社では、権利行使または失効が確定するまで純資産の部に表示します。

2.用語と3種類の金額を区別する

用語 意味
付与日 ストック・オプションが付与された日。募集新株予約権では会社法上の割当日が該当します。
対象勤務期間 ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間。付与日から権利確定日までの期間です。
権利確定日 勤務条件や業績条件を満たし、権利が確定した日です。
権利行使日 権利者が行使価格に基づく金額を払い込んだ日です。
権利不確定による失効 勤務条件などを満たせず、権利確定前に失効することです。
権利不行使による失効 権利確定後、行使期間中に行使されないまま失効することです。
金額 主な用途 本設例
付与日の公正な評価単価 会計上の報酬費用を測定する 1個300円
権利行使価額 権利者が株式を取得するために払い込む 1株1,000円
権利行使日の株価 税制非適格の場合の権利行使益などを計算する 1株1,500円

オプション自体の価値、株式を取得するための払込額、株式の時価は別の金額です。また、法人税申告で用いる「交付の時等の単価」は税法に従って算定するため、会計上の公正な評価単価と常に一致するわけではありません。本設例では計算を追いやすくするため、いずれも1個300円になるものと仮定します。

3.会計上の費用を計算する

企業会計基準第8号では、従業員等から取得したサービスを、その取得に応じて費用計上します。

公正な評価額 = 付与日の公正な評価単価 × 権利確定見込数

対象勤務期間に定額で配分する場合、期末までの累計費用は次のように計算できます。

期末までの累計費用 = 公正な評価額 × 経過した勤務期間 ÷ 対象勤務期間

公正な評価単価は原則として付与日現在で算定し、所定の条件変更がない限り、その後の株価変動だけを理由に見直しません。一方、勤務条件などを満たせず失効すると見込まれる個数は、重要な変動があれば見直します。

評価に用いる主な情報 内容
行使価格 株式を取得するための払込額
満期までの期間または予想残存期間 評価モデルに応じて用いる期間
算定時点の株価 付与日などにおける対象株式の価額
株価変動性 株価がどの程度変動すると見込まれるか
予想配当 評価期間中に見込まれる配当
無リスク利子率 評価モデルで用いる割引率

未公開企業は、公正な評価単価に代えて、付与日現在の「単位当たりの本源的価値」の見積りを使うことができます。この場合も、付与日後の株価変動に合わせて単価を毎期更新するわけではありません。所定の注記は別途必要です。

4.2年間の設例で仕訳を検算する

次の数値は計算方法を学ぶための設例です。実在企業の取引ではありません。

項目 前提
付与数 100個。1個につき普通株式1株を取得できる
付与日の公正な評価単価 300円
対象勤務期間 2年間。第1期末は付与から1年後、第2期末は権利確定日とする
費用配分 対象勤務期間に定額で配分する
第1期末の権利確定見込数 90個
権利確定数 80個
権利行使価額 1株1,000円
権利行使数 60個
権利確定後の失効数 20個
株式の交付 新株を発行し、払込資本の全額を資本金に計上する。発行費用は考慮しない

第1期末

300円 × 90個 × 1年 ÷ 2年 = 13,500円

第2期末・権利確定日

最終的な権利確定数は80個なので、必要な累計費用は24,000円です。

300円 × 80個 = 24,000円

第2期の費用 = 24,000円 − 13,500円 = 10,500円

60個の権利行使時

対応する新株予約権 = 24,000円 × 60個 ÷ 80個 = 18,000円

払込額 = 1,000円 × 60株 = 60,000円

資本金への振替額 = 60,000円 + 18,000円 = 78,000円

残る20個の失効時

失効分の新株予約権 = 24,000円 × 20個 ÷ 80個 = 6,000円

時点 借方 貸方 借貸検算 仕訳後の新株予約権残高
付与日 仕訳なし 仕訳なし 0円=0円 0円
第1期末 株式報酬費用 13,500円 新株予約権 13,500円 13,500円=13,500円 貸方13,500円
第2期末 株式報酬費用 10,500円 新株予約権 10,500円 10,500円=10,500円 貸方24,000円
60個の権利行使 普通預金 60,000円
新株予約権 18,000円
資本金 78,000円 78,000円=78,000円 貸方6,000円
20個の失効 新株予約権 6,000円 新株予約権戻入益 6,000円 6,000円=6,000円 0円

「株式報酬費用」は設例上の科目名です。権利不行使による失効で生じる利益は、原則として「新株予約権戻入益」などの科目を使い、特別利益に計上します。

実際の新株発行では、会社法上の手続に従い、払込資本を資本金と資本準備金に分けることがあります。自己株式を交付する場合は、自己株式処分差額の検討も必要です。

5.権利確定前と確定後では失効の処理が違う

失効の時期 会計処理 設例での反映
権利確定前 権利確定見込数を修正し、修正後の累計費用と計上済額との差額を損益に反映する 90個の見込みを80個の確定数へ修正し、第2期の費用を10,500円とした
権利確定後 過去の報酬費用は取り消さず、対応する新株予約権を利益へ振り替える 20個分の6,000円を新株予約権戻入益とした

失効を見つけたら、まず権利確定前か確定後かを確認します。すべての失効で過去の費用を取り消すわけではありません。

6.従業員側の所得税

ここでは、雇用関係に基づき、譲渡制限のあるストック・オプションを無償で付与された場合を扱います。国税庁の令和8年4月1日現在の案内では、税制非適格ストック・オプションは、一般に権利行使時と取得株式の譲渡時に課税関係が生じます。

段階 税制非適格 税制適格
付与時 本稿の譲渡制限付きの例では課税関係が生じない 課税関係が生じない
権利行使時 雇用関係等に基づく場合、原則として権利行使益が給与所得となる 要件を満たす限り、権利行使時の課税が繰り延べられる
株式譲渡時 売却価額と権利行使時の株価との差額を、株式等の譲渡所得等として計算する 売却価額と権利行使価額との差額を、株式等の譲渡所得等として計算する

税制適格となるには、対象者、無償付与、権利行使期間、年間の権利行使価額、契約締結時の株価以上である行使価額、譲渡禁止、取得株式の保管または管理など、租税特別措置法の要件を満たす必要があります。

原則的な権利行使期間は、付与決議の日後2年を経過した日から同日後10年を経過する日までです。設立後5年未満の一定の非上場会社では、終期が15年となる場合があります。

年間の権利行使価額は原則として1,200万円以下です。ただし、付与決議日に設立後5年未満の株式会社では、1回の権利行使価額を2で除した金額で判定します。設立後5年以上20年未満で、付与決議日に非上場である会社または上場後5年未満である会社など一定の株式会社では、3で除した金額で判定します。除算後の1円未満の端数は、1回の権利行使ごとに切り上げます。一般に「年2,400万円」または「年3,600万円」と説明されることがありますが、法令上はこの除算方式で判定します。

60株を1株1,800円で売却した場合

区分 権利行使時 株式譲渡時 設例上の所得金額の合計
税制非適格 (1,500円−1,000円)×60株=30,000円 (1,800円−1,500円)×60株=18,000円 48,000円
税制適格 課税を繰り延べる (1,800円−1,000円)×60株=48,000円 48,000円

売却手数料などは考慮していません。この設例では合計額が同じですが、所得区分と課税時期は異なります。

税制非適格の権利行使益が給与所得となる場合は、付与者と権利者の関係、居住者区分などを踏まえて源泉徴収の要否を確認します。本設例のように、発行会社が自社の従業員へ給与として経済的利益を与える場合は、原則として源泉徴収の対象です。

7.発行会社の法人税と税効果会計

以下では、法人税法第54条の2の特定新株予約権に該当し、役務提供の対価として発行されたものを前提とします。該当性は、譲渡制限などの条件と契約内容を確認して判断します。

従業員に給与等課税事由が生じる場合、法人税ではその日に役務提供を受けたものとして扱います。税制適格ストック・オプションのように給与等課税事由が生じない場合、その役務提供費用は損金に算入されません。

本設例では、別表十四(四)の「交付の時等の単価」も1個300円であり、役員給与の損金不算入など他の制限を受けない従業員分とします。

時点 会計処理 税制非適格の場合 税制適格の場合
第1期 費用13,500円 13,500円を所得計算上加算 13,500円を所得計算上加算
第2期 費用10,500円 10,500円を所得計算上加算 10,500円を所得計算上加算
60個の権利行使 当期損益への影響なし 給与等課税事由が生じる前提では、300円×60個=18,000円を所得計算上減算 給与等課税事由が生じないため、18,000円は損金に算入しない
20個の失効 戻入益6,000円 6,000円を益金不算入として所得計算上減算 6,000円を益金不算入として所得計算上減算
一連の取引後 費用24,000円−戻入益6,000円=純額18,000円の費用 上記前提では18,000円が損金となり、完了後に差異は残らない 純額18,000円は損金にならず、永久差異となる

従業員側の権利行使益30,000円と、発行会社側の損金算入額18,000円は一致しません。従業員側は権利行使時の株価と権利行使価額との差額を使います。発行会社側は、本設例では新株予約権の交付時の単価を使うためです。

税効果会計では、新株予約権そのものは一時差異等として扱いません。一方、税制非適格で、従業員に給与等課税事由が生じると見込まれる場合、会計上計上したストック・オプション費用は将来減算一時差異となります。回収可能性を満たす範囲で繰延税金資産を計上します。

税制適格の場合は、役務提供費用が将来も損金に算入されないため、将来減算一時差異には該当せず、税効果会計の対象になりません。

法人税法第54条の2だけで処理が完結するとは限りません。役員へ付与する場合は、法人税法第34条などの役員給与規制も確認します。

8.間違えやすいポイント

間違いやすい考え方 確認する視点
行使価額×付与数を報酬費用にする 会計上の費用は、原則として付与日の公正な評価単価を基礎にします。
株価が上がるたびに評価単価を更新する 原則として評価単価は付与日で固定し、権利確定見込数を見直します。
新株予約権を負債に計上する 発行会社では純資産の部に計上します。
すべての失効で過去の費用を取り消す 権利確定前の失効と、確定後の権利不行使を分けます。
税制適格なら会計費用も計上しない 所得税上の適格性と、会計上の費用認識は別の問題です。
従業員の給与課税額と会社の損金額は同じ 測定時点と計算方法が異なるため、一致するとは限りません。

9.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 到達確認
1日目 付与日、権利確定日、権利行使日、失効日を順に書く 各時点の意味を一文で説明できる
2日目 第1期13,500円、第2期10,500円を再計算する 累計24,000円から第2期分を逆算できる
3日目 行使と失効の仕訳を白紙から作る 新株予約権残高が24,000円から6,000円になり、最後に0円になる
4日目 税制適格と非適格の課税時点を比べる 税制適格は行使時課税を譲渡時まで繰り延べる制度だと説明できる
5日目 会計単価300円、行使価額1,000円、行使時株価1,500円の役割を整理する 従業員側30,000円と会社側18,000円の違いを説明できる

まとめ

  • ストック・オプションは、現金支出がなくても、従業員等から受けたサービスに応じて費用計上します。
  • 公正な評価単価は原則として付与日で固定し、権利確定前は失効見込数を見直します。
  • 権利行使では新株予約権を払込資本へ振り替え、権利確定後の失効では利益へ振り替えます。
  • 税制適格か非適格かによって、従業員側の課税時期、発行会社の損金算入、税効果会計が変わります。
  • 会計費用、従業員の権利行使益、法人税上の損金算入額は分けて計算します。

確認資料

第193回 退職給付会計ゼロ入門:退職給付債務・年金資産・勤務費用と法人税のずれを仕訳で整理(5日練習付き)

第192回では、会計と税務の金額がずれる場面を税効果会計で整理しました。今回は、退職給付会計です。

最初から仕訳を作ろうとすると、退職給付債務と年金資産が混ざります。まず両者を別々に動かし、次に退職給付費用を求め、最後に仕訳と法人税の申告調整を確認します。

基準日:2026年9月25日。日本基準を前提とする一般的な学習用解説です。設例の割引率、長期期待運用収益率、金額は計算練習のための仮定であり、個別の会計処理・税務判断を示すものではありません。実務では、適用する会計基準、退職金規程、年金規約、過年度の申告調整を確認し、必要に応じて公認会計士・税理士等へ相談してください。

先に全体像をつかむ

  1. 確定給付制度か確定拠出制度かを判定する
  2. 確定給付制度では、退職給付債務と年金資産を別々に計算する
  3. 勤務費用、利息費用、期待運用収益などから退職給付費用を求める
  4. 連結財務諸表と個別財務諸表の違いを確認する
  5. 会計上の費用と法人税上の損金算入額を分ける

基本は「退職給付債務-年金資産=積立不足または積立超過」です。ただし、未認識数理計算上の差異や未認識過去勤務費用があると、個別財務諸表の計上額は連結財務諸表と異なります。

1.確定給付制度と確定拠出制度

項目 確定給付制度(DB) 確定拠出制度(DC)
意味 確定拠出制度以外の退職給付制度 一定の掛金を外部に積み立て、企業がその掛金以外の追加的な拠出義務を負わない制度
会計の中心 退職給付債務、年金資産、数理計算上の差異など 当期の要拠出額
当期費用 勤務費用、利息費用、期待運用収益などから計算する 原則として当期の要拠出額
未拠出額 制度の内容に応じて処理する 未払金に計上する

企業会計基準第26号は、一定期間の労働提供などに基づき、退職後に支給される給付を対象とします。株主総会の決議などが必要となる役員退職慰労金は、同基準の対象外です。

2.退職給付会計を構成する数字

項目 意味 基本的な動き
退職給付債務 退職給付のうち、期末までに発生したと認められる部分を割り引いた金額 期首債務+勤務費用+利息費用-給付額±数理計算上の差異等
年金資産 退職給付以外に使用できず、企業やその債権者から法的に分離されるなどの要件を満たす資産 期首資産+実際運用収益+掛金-給付額
退職給付費用 当期純利益を構成する費用 勤務費用+利息費用-期待運用収益±差異の費用処理額等
貸借対照表計上額 制度の積立状況を基礎とする金額 連結と個別では未認識項目の扱いが異なる

期待運用収益は、期首年金資産に長期期待運用収益率を乗じた計算上の収益です。実際運用収益をそのまま退職給付費用から差し引くわけではありません。期待運用収益と実際運用収益との差は、数理計算上の差異に含まれます。

現在価値の小さな設例

退職時の給付見込額1,200万円のうち、期末までに900万円が発生していると仮定します。支給まで3年、設例上の割引率を年2%とすると、単純化した現在価値は次のとおりです。

900万円÷(1+0.02)3=約848万円

実際の計算では、給付見込額の期間帰属、予想昇給率、退職率、死亡率、支払時期なども考慮します。割引率は、期末における安全性の高い債券の利回りを基礎として決めます。

3.債務・年金資産・費用を一つの設例で検算する

従業員非拠出の確定給付企業年金について、連結財務諸表上の基本構造を確認します。単位は万円です。過去勤務費用と数理計算上の差異は発生しないものとします。

前提 金額・率
期首退職給付債務 10,000
期首年金資産 6,000
勤務費用 500
割引率 2%(設例上の仮定)
長期期待運用収益率 3%(設例上の仮定)
企業の掛金拠出額 700
年金資産からの給付額 400
実際運用収益 180

退職給付債務

項目 計算 残高への影響
期首残高 10,000 10,000
勤務費用 500 +500
利息費用 10,000×2% +200
年金給付 400 -400
期末残高 10,000+500+200-400 10,300

年金資産

項目 計算 残高への影響
期首残高 6,000 6,000
実際運用収益 180 +180
企業の掛金 700 +700
年金給付 400 -400
期末残高 6,000+180+700-400 6,480

退職給付費用と期末負債

期待運用収益=6,000×3%=180

退職給付費用=勤務費用500+利息費用200-期待運用収益180=520

期末の退職給付に係る負債=退職給付債務10,300-年金資産6,480=3,820

期首の積立不足は4,000です。負債の増減からも確認できます。

期首負債4,000+退職給付費用520-掛金700=期末負債3,820

年金資産から支給された400は、退職給付債務と年金資産を同額だけ減らします。そのため、積立不足の純額には影響しません。

仕訳

取引 借方科目 借方 貸方科目 貸方
当期費用の計上 退職給付費用 520 退職給付に係る負債 520
掛金の拠出 退職給付に係る負債 700 現金預金 700

表示した仕訳の借方合計と貸方合計は、ともに1,220です。負債残高も4,000+520-700=3,820となります。退職給付費用は、原則として売上原価または販売費及び一般管理費に計上します。

未認識項目がないこの設例では、個別財務諸表でも3,820を「退職給付引当金」として表示します。

4.数理計算上の差異

前の設例で、実際運用収益が180ではなく100となり、期末の数理計算による退職給付債務が10,300ではなく10,420になったとします。

原因 計算 差異
運用実績が期待を下回った 期待180-実績100 借方差異80
退職給付債務が見込みより増えた 実績10,420-見込み10,300 借方差異120
合計 80+120 借方差異200

期末年金資産は、6,000+100+700-400=6,400です。実際の積立不足は、10,420-6,400=4,020となります。

項目 連結財務諸表 個別財務諸表の当面の取扱い
貸借対照表 積立不足4,020を退職給付に係る負債として計上 借方の未認識数理計算上の差異200を差し引き、退職給付引当金3,820を計上
当期に費用処理しない差異 税効果前200をその他の包括利益の「退職給付に係る調整額」に反映 未認識数理計算上の差異として繰り延べる

連結財務諸表の負債は、4,000+520-700+200=4,020でも確認できます。個別財務諸表は、10,420-6,400-200=3,820です。

差異を翌期から10年間の定額法で費用処理する会計方針なら、翌期以降の費用処理額は年20です。費用処理期間は平均残存勤務期間以内の一定の年数とし、費用処理を始める年度も会計方針に従います。

連結財務諸表のその他の包括利益は、法人税等と税効果を調整して表示します。上記200は税効果前の金額であり、そのまま税引後の金額になるわけではありません。

過去勤務費用は、退職給付水準の改訂などによって退職給付債務が増減した部分です。割引率や運用実績のずれから生じる数理計算上の差異とは分けて考えます。

5.簡便法と確定拠出制度

小規模企業等の簡便法

簡便法を適用できる小規模企業等は、原則として退職給付債務の計算対象となる従業員が300人未満の企業です。複数の退職給付制度がある場合は、制度ごとに判定します。

300人未満なら自動的に簡便法を選べるわけではありません。高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難な場合、または退職給付に関する財務諸表項目の重要性が乏しい場合に、簡便な方法を使うことができます。従業員が300人以上でも、年齢や勤務期間に偏りがあり、原則法による計算に一定の高い水準の信頼性を得られない場合は、簡便法を使えることがあります。

非積立型制度の退職給付費用は、次の形で確認できます。

当期退職給付費用=期末負債-(期首負債-当期の退職給付支払額)

積立型制度では、期首負債から当期拠出額を控除した残高と期末負債との差額を費用にします。事業主が退職給付を直接支払った場合は、その支払額も期首負債から控除します。

確定拠出制度

確定拠出制度では、当期の要拠出額を費用処理し、未拠出額を未払金に計上します。要拠出額120万円のうち100万円を支払い、20万円が未払いなら、仕訳は次のとおりです。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
退職給付費用 120 現金預金
未払金
100
20

借方120と貸方100+20が一致し、期末の未払金残高は20です。

6.法人税では会計費用と実際の掛金を分ける

税務上の退職給与引当金制度は、原則として平成15年3月31日以後に終了する事業年度から廃止されました。したがって、会計上の退職給付費用を計上しただけで、その全額が法人税上の損金になるわけではありません。

一方、確定給付企業年金の規約に基づいて支出した掛金や、企業型年金規約に基づく事業主掛金などは、法人税法施行令第135条により損金算入の対象となります。法人税基本通達9-3-1では、対象となる掛金等を現実に納付または払い込まなければ、未払金として損金算入できないとされています。

確定給付制度の設例を申告調整する

前の設例に、次の前提を加えます。

  • 期首負債4,000は、過年度に全額を加算・留保している
  • 当期の退職給付費用520に、別途損金算入できる部分はない
  • 掛金700は、確定給付企業年金の規約に基づき、当期中に現実に支払った
  • 旧退職給与引当金の残高など、ほかの申告調整はない
項目 会計処理 法人税上の処理 申告調整 留保残高
期首 負債4,000 過年度に調整済み なし 4,000
退職給付費用 費用520 設例では損金不算入 加算・留保520 4,520
掛金の支払い 負債を700減額 支払額700を損金算入 減算・留保700 3,820

申告調整の純額は、加算520-減算700=マイナス180です。この設例では、申告調整によって所得金額が会計上の税引前利益より180少なくなります。期末の留保残高は4,000+520-700=3,820となり、会計上の期末負債と一致します。

これは、上記の仕訳と前提だけを置いた設例です。掛金を会計上の費用として処理している場合、複数の制度がある場合、企業が退職一時金を直接支給する場合、未認識項目や過年度差異がある場合は、申告調整が変わります。

前述の確定拠出制度の例では、会計上の費用120に対し、当期中の支払額は100です。同じ税務前提なら、未払額20を加算します。その20は、実際に支払った事業年度に改めて損金算入の可否を判定します。

本稿では法人税額を計算していません。適用税率や税効果会計で用いる税率は、事業年度、所在地、法人規模、将来の解消時期などで変わります。繰延税金資産についても、期末負債へ機械的に税率を乗じるのではなく、将来の損金算入見込みと回収可能性を確認する必要があります。

7.間違えやすいポイント

誤りやすい考え方 確認すること
退職給付債務と年金資産をそのまま総額表示する 同一制度では積立状況を示す純額が基本。別制度の積立超過を他制度の債務と相殺しない
実際運用収益を退職給付費用から差し引く 費用計算では期待運用収益を差し引き、実績との差を数理計算上の差異とする
年金資産からの給付時に企業の現金を減らす 年金資産から支払われる場合、企業の現金は動かない
連結と個別の負債は必ず同額になる 未認識数理計算上の差異などがある場合は金額が異なる
掛金を未払計上すれば税務上も損金になる 施行令第135条に該当する掛金等は、現実の納付・払込みを確認する
従業員300人未満なら必ず簡便法を使える 対象人数に加え、見積りの信頼性や重要性を確認する

8.5日で定着させる

日 目安 取り組む内容 確認点
1日目 10分 確定給付制度と確定拠出制度の違いを書く 追加的な拠出義務の有無を説明できるか
2日目 15分 下の問題で退職給付債務を計算する 給付額を差し引いたか
3日目 15分 年金資産、退職給付費用、期末負債を計算する 期待運用収益の符号は正しいか
4日目 15分 仕訳を作り、借貸と残高を再計算する 二つの方法で期末残高が一致するか
5日目 15分 会計費用と実払掛金を申告調整につなぐ 未払掛金を損金にしていないか

練習問題

期首退職給付債務8,000、期首年金資産5,000、勤務費用420、利息費用200、期待運用収益100、掛金500、年金資産からの給付300とします。実際運用収益は期待運用収益と一致し、数理計算上の差異はありません。単位は万円です。

  1. 期末退職給付債務はいくらか
  2. 期末年金資産はいくらか
  3. 退職給付費用と期末負債はいくらか
  4. 掛金500を当期中に支払い、前節と同じ税務前提を満たす場合、申告調整の純額はいくらか
解答と検算

期末退職給付債務は、8,000+420+200-300=8,320です。

期末年金資産は、5,000+100+500-300=5,300です。

退職給付費用は420+200-100=520、期末負債は8,320-5,300=3,020です。期首負債3,000+費用520-掛金500=3,020でも一致します。

仕訳は、退職給付費用520/退職給付に係る負債520、退職給付に係る負債500/現金預金500です。借方合計と貸方合計は、ともに1,020です。

前節と同じ税務前提なら、費用520を加算し、実払掛金500を減算します。申告調整の純額はプラス20です。

9.確認した一次資料

退職給付会計は、債務、年金資産、費用を一度に考えないことが大切です。別々に計算し、最後に仕訳と残高を合わせます。法人税は、その後に実際の支払額から判定します。

第192回 税効果会計ゼロ入門:一時差異、繰延税金資産・負債、回収可能性を仕訳で整理(5日練習付き)

第191回では、新リース会計を通じて会計と税務の差を確認しました。今回は、その差が将来解消するときの税額を決算に反映する「税効果会計」を扱います。

税効果会計は節税の手続ではありません。会計上の利益と課税所得で収益・費用を認識する時期が異なる場合に、税引前利益と税金費用を合理的に対応させる会計処理です。

1.先に結論をつかむ

区分 将来の動き 税効果 主な例
将来減算一時差異 解消時の課税所得を減らす 繰延税金資産の候補 減価償却超過額、損金算入前の引当金、税務上まだ損金にならない減損損失
将来加算一時差異 解消時の課税所得を増やす 原則として繰延税金負債 税務上未認識のその他有価証券評価益、固定資産圧縮積立金
永久差異 将来も解消しない 認識しない 将来にわたって損金にならない交際費等や寄附金の損金不算入額

申告書で加算した金額が、すべて繰延税金資産になるわけではありません。将来の申告で減算されるかを確かめることが最初の作業です。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」では、一時差異を、会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額との差額と定義しています。一時差異と税務上の繰越欠損金などを合わせた呼び方が「一時差異等」です。

基本的な計算は次の形です。

一時差異に係る税額 = 一時差異 × 解消が見込まれる期の法定実効税率

ただし、繰延税金資産は、この計算額を無条件に計上するものではありません。将来の税負担を軽減できると認められる範囲だけを計上します。

2.資産・負債の金額から方向を判定する

対象 会計上の額と課税所得計算上の額 通常の方向
資産 会計上の額が大きい 将来加算一時差異・繰延税金負債
資産 会計上の額が小さい 将来減算一時差異・繰延税金資産
負債 会計上の額が大きい 将来減算一時差異・繰延税金資産
負債 会計上の額が小さい 将来加算一時差異・繰延税金負債

この表だけで計上を決めることはできません。差額が将来解消するか、計上しないこととされる項目ではないか、繰延税金資産なら回収可能性があるかまで確認します。

3.申告調整と税効果仕訳を分ける

確認事項 申告調整 税効果会計
目的 課税所得と納付税額を算定する 税金費用を適切な期間へ配分する
償却超過額 発生年度に加算し、認容年度に減算する 将来減算一時差異として検討する
仕訳 加算・減算そのものには仕訳をしない 繰延税金資産・負債などを仕訳する
納付税額 当期の納付税額に影響する 申告上の納付税額は変えない

申告書の加算・減算と、会計帳簿の仕訳を同じ作業として扱わないことが大切です。

4.償却超過額を2期間で追う

法人税法第31条では、減価償却費として損金に算入できる額に限度が設けられています。国税庁税務大学校「法人税法」講本では、償却不足額が生じた事業年度に前期以前の償却超過額がある場合、その償却不足額と繰越償却超過額のいずれか少ない額を損金算入し、申告書で減算することが説明されています。

例題の前提

  • 日本基準で税効果会計を適用する単体企業とする
  • X1期首に減価償却資産を1,000,000円で取得し、間接法で記帳する
  • X1期の会計上の減価償却費は400,000円、税務上の償却限度額は300,000円とする
  • X2期の会計上の減価償却費は200,000円、税務上の償却限度額は300,000円とする
  • X2期の償却不足額100,000円の範囲で、前期の償却超過額100,000円が全額損金算入されるものとする
  • 各期の会計上の税引前利益は、減価償却費計上後で1,000,000円とする
  • 計算構造を確認するため、当期税金と税効果の双方に学習用の単一税率30%を用いる。この数値は実在企業の税率ではない
  • 税額控除、繰越欠損金、住民税均等割、事業税の損金算入時期、端数処理、グループ通算制度などは考慮しない
  • 繰延税金資産30,000円には全額の回収可能性がある

各期の償却限度額も学習上の仮定であり、特定の資産に適用される法定耐用年数や償却率を示すものではありません。

X1期:償却超過額が発生する

計算項目 計算 金額
会計上の税引前利益 ― 1,000,000円
償却超過額の加算 400,000円-300,000円 100,000円
課税所得 1,000,000円+100,000円 1,100,000円
当期税金 1,100,000円×30% 330,000円
将来減算一時差異 ― 100,000円
繰延税金資産 100,000円×30% 30,000円
内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資産の取得 減価償却資産 1,000,000円 現金預金 1,000,000円
減価償却 減価償却費 400,000円 減価償却累計額 400,000円
当期税金 法人税等 330,000円 未払法人税等 330,000円
税効果 繰延税金資産 30,000円 法人税等調整額 30,000円

申告書で行う100,000円の加算そのものには仕訳をしません。

X1期末の資産の金額は、会計上が1,000,000円-400,000円=600,000円、課税所得計算上が1,000,000円-300,000円=700,000円です。会計上の額が100,000円小さく、この差額が将来減算一時差異になります。

損益計算書上の税金費用は、330,000円-30,000円=300,000円です。当期純利益は1,000,000円-300,000円=700,000円となります。

X2期:償却超過額が認容される

X2期は、会計上の減価償却費200,000円が税務上の償却限度額300,000円を100,000円下回ります。前提に従い、この償却不足額の範囲で前期の償却超過額100,000円が損金算入されます。

計算項目 計算 金額
会計上の税引前利益 ― 1,000,000円
前期償却超過額の減算 ― 100,000円
課税所得 1,000,000円-100,000円 900,000円
当期税金 900,000円×30% 270,000円
解消する一時差異 ― 100,000円
取り崩す繰延税金資産 100,000円×30% 30,000円
内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却 減価償却費 200,000円 減価償却累計額 200,000円
当期税金 法人税等 270,000円 未払法人税等 270,000円
税効果の解消 法人税等調整額 30,000円 繰延税金資産 30,000円

X2期末の資産の金額は、会計上が1,000,000円-累計償却額600,000円=400,000円です。課税所得計算上も、損金算入済みの償却額が合計600,000円となるため400,000円です。一時差異と繰延税金資産はいずれもゼロになります。

項目 X1期 X2期 合計・期末
税引前利益 1,000,000円 1,000,000円 2,000,000円
当期税金 330,000円 270,000円 600,000円
法人税等調整額 △30,000円 30,000円 0円
税金費用 300,000円 300,000円 600,000円
当期純利益 700,000円 700,000円 1,400,000円
繰延税金資産の期末残高 30,000円 0円 0円

2期間の当期税金は合計600,000円です。税効果会計はこの納付額を減らしたのではなく、税金費用を各期へ300,000円ずつ配分しています。

5.繰延税金負債の仕訳

取得原価と課税所得計算上の帳簿価額が1,000,000円のその他有価証券を、期末に1,100,000円へ評価したとします。評価益は売却まで税務上認識されず、全部純資産直入法を採用し、学習用税率を30%とする例です。

会計上の額が課税所得計算上の額より100,000円大きいため、将来加算一時差異は100,000円、繰延税金負債は30,000円です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
投資有価証券 100,000円 繰延税金負債 30,000円
その他有価証券評価差額金 70,000円

評価差額を純資産へ計上するため、税効果も法人税等調整額ではなく、純資産の評価差額に対応させます。

6.繰延税金資産は回収可能性で絞り込む

企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」では、主に次の三つを基礎として、将来の税負担を軽減できるかを判断します。

  • 収益力に基づく将来の一時差異等加減算前課税所得
  • 実行可能なタックス・プランニングに基づく課税所得
  • 将来加算一時差異の解消見込額
分類 主な要件 基本的な考え方
分類1 過去3年と当期のすべてで、期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得があり、近い将来に著しい環境変化が見込まれない 原則として全額に回収可能性がある
分類2 過去3年と当期に課税所得が安定的に生じ、重要な税務上の欠損金がなく、近い将来に著しい環境変化が見込まれない スケジューリングの結果に基づいて判断する
分類3 過去3年と当期の課税所得が大きく増減しているが、重要な税務上の欠損金は生じていない 原則として、将来の合理的な見積可能期間であるおおむね5年以内を基礎に判断する
分類4 過去3年または当期に重要な税務上の欠損金が生じた場合などで、翌期に一時差異等加減算前課税所得が見込まれる 原則として翌期の見積額を基礎に判断する
分類5 過去3年と当期のすべてで重要な税務上の欠損金があり、翌期も同様と見込まれる 原則として回収可能性はない

分類3では、合理的な根拠を説明できる場合に5年を超える期間を用いる取扱いがあります。分類4の要件を満たしても、欠損金が生じた原因や中長期計画などに基づき、分類2または分類3として扱う場合があります。また、各分類の要件を完全には満たさないときは、要件からの乖離が最も小さい分類を総合的に判断します。

分類は単年度の黒字・赤字だけでは決まりません。解消年度を並べた資料、承認された業績予測、その過去の達成状況などを使い、回収可能性を毎期見直します。

損益を相手勘定として計上した繰延税金資産について、回収可能性がなくなったときの基本的な取崩しは次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法人税等調整額 取崩額 繰延税金資産 取崩額

純資産などを相手勘定として計上した繰延税金資産は、取崩し時の相手勘定も個別に確認します。

7.税率と2026年の改正を確認する

繰延税金資産・負債には、一時差異が解消すると見込まれる期の税率を用います。国税は決算日までに国会で成立している税法、地方税は成立している地方税法や条例など、適用指針に定められた基準で確認します。

所在地の超過課税、企業規模、外形標準課税、解消年度、グループ通算制度などによって法定実効税率は変わります。すべての企業に共通する一つの率を当てはめることはできません。

8.表示と相殺

企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」では、表示と相殺を次のように定めています。

  • 繰延税金資産は「投資その他の資産」に表示する
  • 繰延税金負債は「固定負債」に表示する
  • 同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺して表示する
  • 異なる納税主体のものは相殺しない
  • グループ通算制度を適用する連結財務諸表では、実務対応報告第42号の取扱いを確認する

繰延税金資産は、直ちに現金化できる還付請求権ではありません。将来の税負担軽減効果を会計上見積もったものです。

9.5日で確認する

日 15分の課題 確認点
1日目 差額を将来減算・将来加算・永久差異に分ける 将来解消するかを説明する
2日目 資産・負債の会計上の額と課税所得計算上の額を比較する 一時差異の方向を判定する
3日目 X1期の課税所得、当期税金、繰延税金資産を再計算する 各仕訳の借方と貸方を一致させる
4日目 X2期の解消仕訳と2期間合計を検算する 期首残高+増加-取崩し=期末残高を確認する
5日目 解消年度、適用税率、回収可能性、表示区分を確認する 判断ごとの根拠資料を記録する

まとめ

  • 将来減算一時差異は繰延税金資産の候補、将来加算一時差異は原則として繰延税金負債になる
  • 将来解消しない永久差異には税効果を認識しない
  • 申告調整は課税所得の計算、税効果会計は税金費用の期間配分を目的とする
  • 繰延税金資産は回収可能性が認められる範囲だけ計上する
  • 税率は一時差異の解消年度と、決算日までに成立している法令などを基に確認する
  • 期末残高は、発生、解消、税率変更、回収可能性の見直しを反映して検算する

一次資料

参照基準日:2026年9月24日

第191回 新リース会計ゼロ入門:使用権資産・リース負債と法人税の申告調整を仕訳で整理(5日練習付き)

第190回では、資産除去債務を扱いました。対象となる資産が使用権資産であるときは、除去費用をその帳簿価額に加えます。今回は、その土台となる新しいリース会計です。

企業会計基準第34号を適用する借手について、リースの識別、使用権資産とリース負債の計上、法人税との違いを順に見ていきます。

この記事の要点

  • 借手は、原則として使用権資産とリース負債を計上します。
  • リース負債は未払リース料の現在価値、使用権資産はその負債を基礎に測定します。
  • 会計上のリースと法人税法上のリース取引は別に判定します。
  • 税務上のオペレーティング・リースでは、会計上の費用と税務上の損金に差が生じることがあります。

基準日:2026年9月23日。日本基準の企業会計基準第34号を適用する法人の借手を想定した一般的な学習用解説です。貸手、移行時の経過措置、セール・アンド・リースバック、契約変更は扱いません。個別の契約や申告については、適用する基準、契約条件、最新の法令等を確認してください。

1.新基準はいつから使うのか

2026年9月23日時点では原則適用前です。ただし、早期適用している企業もあります。まず、問題文や財務諸表がどの基準を前提としているかを確認します。

区分 適用時期
原則適用 2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から
早期適用 2025年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から可能
この記事の前提 新基準を適用する借手

適用時期は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第58項で確認できます。

2.契約名ではなく、資産の使用を支配しているかを見る

契約書に「賃貸借」と書かれているだけでは、会計上のリースとは限りません。契約の締結時に、特定された資産を使用する権利が、一定期間にわたり対価と交換に移転するかを判定します。

確認事項 見るポイント
特定された資産 車両、機械、建物などが特定されているか。供給者に資産を代替する実質的な権利がないか
経済的利益 使用期間全体を通じ、顧客が使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を持つか
使用の指図 顧客が、その資産をどのように、何の目的で使用するかを決める権利を持つか

供給者の代替権が実質的であるためには、使用期間全体を通じて代替する実質上の能力があり、代替による経済的利益がそのコストを上回ると見込まれる必要があります。詳しい判定は、企業会計基準適用指針第33号第5項から第8項に示されています。

3.借手のリース期間を決める

契約書に書かれた年数を、そのまま使うとは限りません。

借手のリース期間 = 解約不能期間 + 行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間 + 行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間

判断では、延長後のリース料、違約金、賃借設備への大幅な改良、移転費用、事業における原資産の重要性などを考慮します。期間が変われば、リース負債と使用権資産の金額も変わります。

4.短期リースと少額リース

要件を満たす場合は、使用権資産とリース負債を計上せず、リース料をリース期間にわたり原則として定額で費用計上できます。

区分 主な要件 選択単位など
短期リース リース開始日における借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まない 対応する原資産の表示科目ごと、または性質・用途が類似するグループごとに選択する
少額リースA 重要性が乏しい減価償却資産を購入時に費用処理する方針があり、借手のリース料がその基準額以下 通常取引される原資産の単位ごとに判定する
少額リースB-1 事業内容に照らして重要性が乏しく、契約1件当たりの金額にも重要性が乏しい B-2とのいずれかを選び、首尾一貫して適用する
少額リースB-2 新品時の原資産の価値が少額である リース1件ごとに適用するかを選択できる

会計上の少額リースと、法人税の少額減価償却資産制度は別の制度です。税務上の金額基準だけで会計処理を決めることはできません。

5.使用権資産とリース負債を測定する

項目 開始日の基本的な測定
リース負債 開始日に未払である借手のリース料の現在価値
使用権資産 リース負債 + 開始日までに支払った借手のリース料 + 付随費用 + 資産除去債務に対応する除去費用 − 受け取ったリース・インセンティブ

割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合はその利率を使います。知り得ない場合は、借手の追加借入に適用されると合理的に見積もられる利率を使います。

開始後のリース料は、原則としてリース負債の元本返済額と支払利息に分けます。利息相当額は、リース期間にわたり利息法で配分します。

原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースでは、自ら所有していた場合と同じ減価償却方法を使います。それ以外では、企業の実態に応じた方法を選び、原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして使用権資産を償却します。

6.国税庁の公表例で仕訳を確かめる

ここからは、国税庁「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」の設例を使います。金額の単位は千円です。消費税の処理は扱いません。

前提 内容
リース開始日・決算日 X1年4月1日・X2年3月31日
借手のリース期間 5年
リース料 毎月末1,000、60回、総額60,000
割引率 年8%の追加借入利子率
開始日の現在価値 49,318
その他 定額法、四半期ごとに償却費を計上、付随費用ゼロ、残存価額ゼロ。法人税法上はオペレーティング・リース取引

開始日の金額49,318は、60回の月額リース料を月利8%÷12で現在価値に割り引いた合計額です。

開始日とX1期の会計仕訳

時点 借方科目 借方 貸方科目 貸方
開始日 使用権資産 49,318 リース負債 49,318
X1期の支払合計 リース負債
支払利息
8,356
3,644
現金預金 12,000
X1期の償却 減価償却費 9,864 減価償却累計額 9,864

支払仕訳は、借方8,356+3,644=12,000で貸方と一致します。表は毎月の仕訳を年額にまとめたものです。

X1期末残高

項目 計算 期末残高
リース負債 49,318 − 8,356 40,962の貸方残高
使用権資産の純額 49,318 − 9,864 39,454の借方純額
X1期の会計上の費用 支払利息3,644 + 減価償却費9,864 13,508

表示単位未満の端数を最終期に調整すれば、5年間の減価償却費は合計49,318、利息は合計10,682です。両者の合計はリース料総額60,000と一致します。

7.法人税では区分を別に判定する

会計上、使用権資産を計上しただけで、法人税でも資産を取得したことになるわけではありません。

法人税上の区分 借手の基本的な取扱い
法人税法上のリース取引 中途解約不能またはこれに準ずることと、借手が経済的利益を実質的に享受し、使用費用を実質的に負担することの両方を満たす資産の賃貸借。所定の除外を除き、引渡時に売買があったものとされる
所有権移転外リース取引 法人税法上のリース取引のうち、所定の所有権移転要件などに該当しないもの。借手が取得したものとされるリース資産の償却方法はリース期間定額法となる
賃貸借取引(オペレーティング・リース取引) 法人税法上のリース取引に該当しない資産の賃貸借など。2025年4月1日以後に開始する事業年度では、契約に基づく支払額のうち各事業年度に債務が確定した部分を、その事業年度の損金に算入するのが基本

根拠は、法人税法第53条・第64条の2、国税庁No.5702「リース取引についての取扱いの概要」、No.5704「所有権移転外リース取引」およびNo.5705「賃貸借取引(オペレーティング・リース取引)についての取扱いの概要」です。

8.公表例の法人税申告調整

設例では、会計上の費用13,508に対し、法人税法第53条による損金算入額は12,000です。

別表四の調整内容 金額(千円) 方向
支払利息否認 3,644 加算
減価償却費否認 9,864 加算
賃貸借取引に係る費用の損金算入額 12,000 減算
差引 1,508 純額で加算

計算は、3,644+9,864−12,000=1,508です。これは会計帳簿に新しい仕訳を記帳するという意味ではありません。会計と税務の差を申告書で調整します。

国税庁の公表例では、別表四で各項目を加減算し、使用権資産、リース負債、減価償却累計額に関する差額を別表五(一)で管理しています。同資料は申告調整の一例であり、すべての契約に同じ記載をそのまま当てはめるものではありません。

公表例は、国税庁「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」で確認できます。

9.混同しやすい点

誤りやすい考え方 確認すること
2026年中はすべての企業が新基準を使う 原則適用は2027年4月1日以後開始年度。早期適用の有無も確認する
賃貸借契約はすべて会計上のリースである 特定された資産と、その使用を支配する権利の移転を判定する
契約期間が12か月なら必ず短期リースになる 借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まないことを確認する
使用権資産を計上すれば税務でも固定資産になる 法人税法第64条の2のリース取引か、第53条の賃貸借取引かを別に判定する
純加算1,508を帳簿に仕訳する 1,508は申告調整の純額であり、帳簿上の仕訳とは分ける

10.5日で流れを定着させる

日 15~20分の練習 確認点
1日目 原則適用と早期適用の時期を書き分ける 使う会計基準を最初に確認できる
2日目 特定資産・経済的利益・使用の指図の3点を説明する 契約名だけで判断しない
3日目 開始日、支払、償却の3つの仕訳を書く すべての仕訳で借方と貸方が一致する
4日目 リース負債40,962、使用権資産純額39,454、会計費用13,508を再計算する 仕訳から期末残高へつなげられる
5日目 会計費用13,508と税務上の損金12,000を比較する 加算13,508、減算12,000、純加算1,508を区別できる

順序は、「適用基準を確認する→リースを識別する→期間を決める→現在価値を測定する→会計と法人税を分ける」です。この順序を崩さなければ、長い問題でも確認する場所が見えやすくなります。

参考にした一次資料

ASBJの現行基準・適用指針、e-Gov掲載法令および国税庁資料を2026年9月23日に確認しました。国税庁タックスアンサーの法人税ページは令和7年4月1日現在法令等、公表設例は令和7年6月の資料です。本記事は一般的な学習用解説であり、個別の会計・税務判断を示すものではありません。

第190回 資産除去債務ゼロ入門:現在価値・減価償却・時の経過による調整・履行差額を仕訳で整理(5日練習付き)

第189回では、固定資産の減損会計を確認しました。今回は、将来の撤去や原状回復に備える「資産除去債務」を学びます。

資産除去債務では、将来の除去支出をすぐに全額費用にはしません。見積額を現在価値に割り引き、負債と固定資産を同額計上します。その後、資産計上額は減価償却し、負債は時の経過に応じて増額します。

時点 固定資産側 負債側
債務の発生時 除去費用の現在価値を帳簿価額に加える 資産除去債務を現在価値で計上する
使用期間中 資産計上額を減価償却する 時の経過による調整額を加算する
履行時 対象資産を除去する 債務を取り崩し、実際支出額との差額を損益処理する

基準日:2026年9月22日。本稿は、企業会計基準第18号および企業会計基準適用指針第21号に基づく一般的な学習情報です。適用する会計基準、契約内容、税務上の資産区分などにより、実際の処理は変わります。

1.資産除去債務に当たるかを確認する

企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」では、資産除去債務を、有形固定資産の取得・建設・開発・通常の使用によって生じ、その除去について法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものと定義しています。

確認順 確認すること 判断のポイント
1 有形固定資産に関係するか 建物、設備、構築物、内部造作などとの対応を確認する
2 取得・建設・開発・通常の使用から生じたか 事故など、通常の使用ではない原因と区別する
3 法令・契約上の除去義務などがあるか 自主的な改装計画だけでは通常は該当しない
4 金額を合理的に見積もれるか 見積可能なら計上し、見積不能なら所定の注記を行う

「合理的に見積もれない」とは、資料を集めていないため分からないという意味ではありません。決算日現在で入手可能なすべての証拠を検討し、最善の見積りを行っても金額を合理的に算定できない場合を指します。

事例 判定の目安 理由
賃借店舗の内部造作について、退去時の撤去が契約で求められている 該当し得る 内部造作と契約上の原状回復義務が対応するため
設備の除去時に、有害物質を法令所定の方法で処理する義務がある 該当し得る 除去に伴う特別な処理が法令で求められるため
経営者が将来の改装を検討しているだけである 通常は該当しない 法令・契約上の義務などを確認できないため
日常的な点検や修繕を行う 通常は該当しない 固定資産の除去ではなく維持管理だから
設備を一時休止または遊休状態にする 該当しない 一時的な停止や遊休は会計基準上の「除去」ではないため

2.将来支出額と当初計上額を区別する

資産除去債務は、除去に必要な将来キャッシュ・フローを見積もり、割引後の金額で計上します。支出額と支出時期が一つに定まる単純な設例では、次の式で計算できます。

現在価値 = 割引前の将来支出見積額 ÷(1+割引率)期間

割引前将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定と予測に基づく自社の支出見積額です。直接の除去費用だけでなく、処分までに必要となる保管・管理費用なども検討します。法人税等の影響額は含めません。

割引率には、支出が予想される時点までの期間に対応する、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前利率を使用します。詳しい見積方法は、企業会計基準適用指針第21号で確認できます。

3.取得から履行までを仕訳で確認する

次の数値は、仕訳を理解するための学習用前提です。実際の割引率や耐用年数を示すものではありません。

  • 期首に機械を5,000,000円で取得し、直ちに使用を開始した
  • 2年後に機械を除去する法的義務がある
  • 2年後の除去支出見積額は1,040,400円である
  • 学習用の割引率は年2%、割引期間は2年とする
  • 機械は残存価額ゼロ、会計上の耐用年数2年、定額法で償却する
  • 履行時の実際支出額は1,100,000円だった
  • 消費税等、税効果会計および元の機械に関する会計・税務上の償却差異は考慮しない

当初計上額

1,040,400円 ÷ 1.022 = 1,000,000円

資産除去債務は1,000,000円です。同額を機械装置の帳簿価額に加えるため、会計上の取得原価は次の金額になります。

5,000,000円 + 1,000,000円 = 6,000,000円

年間減価償却費は、6,000,000円 ÷ 2年 = 3,000,000円です。このうち500,000円が、資産計上した除去費用に対応します。

資産除去債務の残高推移

時点 期首残高 時の経過による調整額 期末・履行直前残高
取得時 ― ― 1,000,000円
1年目末 1,000,000円 20,000円 1,020,000円
2年目末 1,020,000円 20,400円 1,040,400円

時の経過による調整額は、各期首の負債帳簿価額に、負債計上時の割引率を乗じて求めます。2年目は、1年目末残高1,020,000円を計算の基礎にします。

仕訳と借貸の検算

時点 借方 貸方 検算
取得時 機械装置 6,000,000円 現金預金 5,000,000円
資産除去債務 1,000,000円
6,000,000円=6,000,000円
1年目末 減価償却費 3,000,000円 減価償却累計額 3,000,000円 3,000,000円=3,000,000円
1年目末 時の経過による調整額 20,000円 資産除去債務 20,000円 20,000円=20,000円
2年目末 減価償却費 3,000,000円 減価償却累計額 3,000,000円 3,000,000円=3,000,000円
2年目末 時の経過による調整額 20,400円 資産除去債務 20,400円 20,400円=20,400円
機械の除去 減価償却累計額 6,000,000円 機械装置 6,000,000円 6,000,000円=6,000,000円
債務の履行 資産除去債務 1,040,400円
履行差額 59,600円
現金預金 1,100,000円 1,100,000円=1,100,000円

勘定科目名は一例です。損益計算書では、時の経過による調整額を、関連する固定資産の減価償却費と同じ区分に表示します。履行差額も、原則として、資産計上した除去費用の費用配分額と同じ区分に表示します。

残高を再計算する

  • 機械装置の帳簿価額:6,000,000円-減価償却累計額6,000,000円=0円
  • 資産除去債務:1,000,000円+20,000円+20,400円=1,040,400円
  • 履行差額:実際支出1,100,000円-債務残高1,040,400円=59,600円の費用
  • 履行仕訳:借方1,040,400円+59,600円=貸方1,100,000円

実際支出額が債務残高より少ない場合は、差額を貸方に計上します。

4.見積額が途中で変わった場合

除去方法、物価、使用期間、法令などが変わり、割引前将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合は、資産除去債務と関連する固定資産の帳簿価額を同時に加減します。

変更 使用する割引率 基本処理
将来キャッシュ・フローの増加 変更時点の割引率 固定資産と資産除去債務を増額する
将来キャッシュ・フローの減少 負債計上時の割引率 固定資産と資産除去債務を減額する

過去に複数回の増額があり、減少部分に対応する割引率を特定できないときは、加重平均した割引率を用います。市場利率が変わっただけで、既存債務の全額を新しい利率により再計算するものではありません。

5.賃借物件で敷金を計上している場合

賃借店舗の内部造作などについて原状回復義務がある場合も、資産除去債務の対象になり得ます。ただし、その賃借契約に関連する敷金が資産計上されている場合は、適用指針第9項の方法を選択できることがあります。

方法 処理
原則的な方法 資産除去債務を負債計上し、同額を関連する有形固定資産に加算する
敷金を用いる方法 敷金のうち最終的に回収できないと見込まれる金額を合理的に見積もり、そのうち当期負担額を費用計上する

敷金を差し入れているだけで、原状回復義務のすべてにこの方法を適用できるわけではありません。資産計上された敷金に関連する部分であることを確認し、契約書、見積根拠、予想入居期間などに基づいて判断します。

6.法人税では会計処理と分けて考える

会計上の将来見積額が、そのまま法人税の損金になるわけではありません。法人税法第22条第3項第2号は、別段の定めがある場合を除き、償却費以外の販売費・一般管理費その他の費用について、事業年度末までに債務が確定していないものを損金から除いています。

法人税基本通達2-2-12では、債務確定の判定について、原則として次の三つをすべて満たすことを求めています。

  1. 事業年度末までに費用に係る債務が成立していること
  2. 事業年度末までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
  3. 事業年度末までに金額を合理的に算定できること

会計上の資産除去債務に該当する法令・契約上の義務があることだけで、税務上の三要件を満たすとは限りません。

また、税務上の減価償却資産の取得価額は、法人税法施行令第54条などに基づいて判定します。会計上、除去費用の現在価値を固定資産へ加算しただけで、同額が税務上の取得価額になるとは限りません。

項目 会計 法人税の確認点
当初の資産・負債計上 現在価値で両建てする 税務上の債務確定と取得価額を別に判定する
除去費用部分の減価償却 各期に費用配分する 税務上の取得価額に含まれない部分の償却費は損金算入できない
時の経過による調整額 各期の費用とする 履行前の見積費用について債務確定要件を確認する
実際の履行支出 債務を取り崩し、差額を損益処理する 支出内容、役務の完了時期、他の資産との関係から、損金算入時期や資産計上の要否を判定する

申告調整の考え方を仮定で確認する

ここでは、会計上資産計上した1,000,000円が税務上の取得価額に含まれず、実際の除去支出1,100,000円は履行した事業年度に全額損金となるものと仮定します。元の機械5,000,000円に関する償却差異と税効果会計は扱いません。

年度 会計上の関連費用 設例上の税務損金 純申告調整
1年目 減価償却500,000円+調整額20,000円=520,000円 0円 520,000円加算
2年目 減価償却500,000円+調整額20,400円+履行差額59,600円=580,000円 1,100,000円 520,000円減算
2年間合計 1,100,000円 1,100,000円 累計0円

これは設例上の仮定であり、履行すれば必ず全額がその事業年度の損金になるという意味ではありません。例えば、土地を利用する目的で建物付き土地を取得し、当初から建物を取り壊す意図が明らかな場合は、建物の帳簿価額と取壊費用を土地の取得価額に算入する取扱いがあります。詳しくは、国税庁の「No.5401 土地とともに取得した建物を取り壊した場合の土地の取得価額」を確認してください。

7.間違いやすい点

誤り 正しい確認方法
将来支出見積額をそのまま負債計上する 支出時期に応じて現在価値を計算する
負債だけを計上する 当初は同額を関連する有形固定資産へ加算する
毎期、当初負債額に割引率を掛ける 各期首の負債帳簿価額を基礎にする
合理的に見積もれないため何もしない 負債を計上しない場合も、債務の概要、見積不能である旨と理由を注記する
履行時に債務残高だけを現金と相殺する 実際支出額との差額も損益処理する
会計上の費用をそのまま法人税の損金にする 税務上の取得価額、債務確定、支出内容を別に判定する

貸借対照表では、履行が貸借対照表日後1年以内に見込まれる資産除去債務は流動負債、それ以外は固定負債に表示します。重要性が乏しい場合を除き、債務の内容、支出までの見込期間、割引率、期中の増減内容なども注記します。

8.5日で仕訳の流れを定着させる

日 取り組む内容 確認すること
1日目 事例を「対象資産・発生原因・義務・見積可能性」で判定する 計上対象と対象外を説明できる
2日目 将来支出額から現在価値を求め、負債残高表を作る 将来額と当初計上額を区別できる
3日目 発生時、決算時、履行時の仕訳を作る 資産・負債・費用の動きをつなげられる
4日目 除去費用部分の法人税上の加算・減算を整理する 会計と税務の認識時期を区別できる
5日目 設例を最初から解き、借貸と残高を再計算する 仕訳と計算を検算できる

学習が止まった日は、「対象資産」「義務」「見積り」「時期」の四つだけを書き出してください。止まったところから翌日に再開すれば十分です。

確認問題

  1. 法令・契約上の義務がなく、将来の改装を社内で検討しているだけの場合、資産除去債務を計上するか。
  2. 設例の1年目末における資産除去債務残高はいくらか。
  3. 履行直前残高1,040,400円に対し、実際支出額が1,100,000円なら履行差額はいくらか。
  4. 義務は存在するが、最善の見積りを行っても金額を合理的に算定できない場合はどうするか。
解答を確認する
  1. 通常は計上しません。法令・契約上の義務などを確認できないためです。
  2. 1,020,000円です。1,000,000円+1,000,000円×2%で計算します。
  3. 59,600円の費用です。1,100,000円-1,040,400円で計算します。
  4. 負債を計上せず、債務の概要、合理的に見積もれない旨およびその理由を注記します。

9.参照した一次資料

本稿は一般的な学習情報であり、個別案件に対する税務・会計上の判断ではありません。実際の処理では、適用する会計基準、契約書、関係法令、見積資料、固定資産の利用目的などを確認し、必要に応じて税理士・公認会計士その他の専門家へ相談してください。

第189回 固定資産の減損会計ゼロ入門:兆候・認識・測定と法人税の違いを仕訳で整理(5日練習付き)

第188回では、固定資産を売却・除却して帳簿から外す場面を学びました。今回は、その一歩手前にある「保有中の固定資産から投資額を回収できなくなった場面」を扱います。

減損会計は、価値が下がったら直ちに損失を計上する手続ではありません。資産のグルーピング→減損の兆候→認識の判定→損失の測定という順番で考えます。会計上の減損損失と法人税上の損金算入額が一致しない点にも注意が必要です。

この記事の前提:2026年9月21日現在の日本基準と法人税法令に基づく、国内法人を想定した一般的な学習用の説明です。会計基準の適用関係、資産の利用状況、将来計画、税務上の事実関係によって実際の処理は異なります。

今回のゴール

  • 減価償却・減損・除却の違いを説明できる
  • 減損の兆候と減損損失の計上を区別できる
  • 割引前将来キャッシュ・フローと回収可能価額を使い分けられる
  • 減損仕訳の借方・貸方と処理後残高を検算できる
  • 会計上の減損損失と法人税上の損金算入額が異なる理由を理解する

1.減価償却・減損・除却の違い

処理 意味 処理後の資産 代表的な費用・損失
減価償却 取得原価を使用期間にわたって規則的に配分する 原則として保有を続ける 減価償却費
減損 収益性の低下により回収できない投資額を帳簿価額に反映する 保有を続ける場合がある 減損損失
除却 使用をやめた資産などを帳簿から外す 原則として事業用資産として残さない 固定資産除却損

減損処理は、固定資産を毎期時価に置き換える手続ではありません。収益性が低下し、投資額の回収が見込めない状態になった場合に、一定の手順で帳簿価額を切り下げる処理です。

2.減損会計は4段階で考える

2026年7月7日までの修正が反映された企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に沿って、基本的な流れを整理します。

段階 行うこと 判断の中心
1.グルーピング 固定資産を減損判定の単位にまとめる ほかの資産からおおむね独立したキャッシュ・フローを生む最小単位か
2.兆候の把握 減損が生じている可能性を確認する 継続的な赤字、用途変更、経営環境悪化、市場価格下落などがあるか
3.認識の判定 減損損失を計上するか判定する 帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フロー総額を比較する
4.測定 減損損失額を計算する 帳簿価額を回収可能価額まで減額する

グルーピングを先に決める理由

店舗の建物、内装、設備が一体となって売上を生む場合、設備1台だけの収益を切り出せないことがあります。このような場合は、管理会計上の区分や投資判断の単位などを踏まえ、独立したキャッシュ・フローを生む最小単位を基礎にグルーピングします。

損失を小さくする目的で、好調な事業と不調な事業を任意にまとめることはできません。当期に採用したグルーピングは、事実関係が変わらない限り、翌期以降も同様に行うのが原則です。

3.減損の兆候を確認する

主な兆候 具体例 判断上の注意
営業損益またはキャッシュ・フローの継続的なマイナス 店舗や事業部の営業損益が継続して赤字になっている 適用指針では、おおむね過去2期がマイナスであることが目安。ただし、当期の見込みが明らかにプラスなら該当しないと考えられる
使用範囲・使用方法の大きな変化 事業廃止、大幅縮小、早期処分、用途変更、遊休化、稼働率の著しい低下など 正式な意思決定や合理的な見込みの有無を確認する
経営環境の著しい悪化 市場環境、技術環境、法的環境の著しい悪化 一時的な不振と、回収可能価額を大きく低下させる変化を区別する
市場価格の著しい下落 市場価格が帳簿価額から大きく下落した 適用指針では、少なくとも帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当する

兆候があることと、減損損失を計上することは同じではありません。兆候は、次の認識判定へ進む入口です。また、「過去2期」や「50%程度以上」は会計上の目安であり、法人税上の損金算入基準ではありません。

4.認識と測定で使う数字を分ける

用語 内容 使用場面
割引前将来キャッシュ・フロー 将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引く前の総額 減損損失を認識するかの判定
正味売却価額 時価から処分費用見込額を控除した金額 回収可能価額の算定
使用価値 継続使用と使用後の処分から得られる将来キャッシュ・フローの現在価値 回収可能価額の算定
回収可能価額 正味売却価額と使用価値のいずれか高い金額 減損損失の測定

認識判定:減損の兆候がある資産または資産グループについて、割引前将来キャッシュ・フロー総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識します。

測定:減損損失=帳簿価額-回収可能価額

認識判定に使った割引前将来キャッシュ・フローを、そのまま帳簿価額から差し引くわけではありません。

5.数値例で仕訳と残高を検算する

独立したキャッシュ・フローを生む賃貸用土地を一つの判定単位とする、学習用の仮定例です。

項目 金額・前提
減損処理前の帳簿価額 12,000,000円
割引前将来キャッシュ・フロー総額 10,000,000円
正味売却価額 6,800,000円
使用価値 8,000,000円
兆候 経営環境の著しい悪化により、兆候ありと判定済み

手順1:減損損失を認識するか

10,000,000円(割引前将来キャッシュ・フロー)<12,000,000円(帳簿価額)なので、減損損失を認識します。

手順2:回収可能価額を求める

6,800,000円(正味売却価額)と8,000,000円(使用価値)の高い方を選ぶため、回収可能価額は8,000,000円です。

手順3:減損損失を求める

12,000,000円-8,000,000円=4,000,000円

減損仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減損損失 4,000,000円 土地 4,000,000円
  • 借方合計:4,000,000円
  • 貸方合計:4,000,000円
  • 処理後の土地残高:12,000,000円-4,000,000円=8,000,000円

借方と貸方は一致し、処理後残高も回収可能価額と一致しています。減損損失は原則として特別損失に計上します。

貸借対照表では、原則として取得原価から減損損失を直接控除します。減価償却を行う有形固定資産については、減損損失累計額を取得原価から間接控除する方法や、減価償却累計額に合算する方法も認められています。

減損処理後の扱い

日本基準では、減損損失の戻入れを行いません。建物や機械などの償却資産は、減損後の帳簿価額を基礎として、その後の減価償却を行います。今回の例は土地なので減価償却はありません。

6.法人税では自動的に全額損金にならない

法人税法第33条では、資産の評価換えによる減額は原則として損金不算入とされています。同条第2項による通常の評価損については、災害による著しい損傷など法人税法施行令第68条所定の事実によって資産の価額が帳簿価額を下回り、損金経理などの要件を満たす場合に、法令上の限度額まで損金算入が認められます。

論点 会計 法人税
目的・考え方 投資額の回収可能性を帳簿価額に反映する 評価換えによる損失は原則として損金不算入とし、法令所定の場合に例外を認める
判定に使う額 割引前将来キャッシュ・フローや回収可能価額 法令所定の事実と、税務上の事業年度末の価額などを確認する
通常の収益悪化・相場下落 減損につながる場合がある それだけで損金算入できるわけではない

土地の例を税務へつなげる

先ほどの4,000,000円の減損損失が通常の収益悪化によるもので、施行令第68条所定の事実がないものとします。

項目 会計上 法人税上
減損損失 4,000,000円を費用計上 原則として損金不算入
申告調整 会計上の追加仕訳はない 別表四で4,000,000円を加算・留保し、通常は別表五(一)でも管理する
処理後の帳簿価額 8,000,000円 所得計算上は減額がなかったものとして12,000,000円

法人税法第33条第6項により、損金算入されなかった評価減額は、その後の所得計算上、なかったものとみなされます。このため、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額を分けて管理します。

税務上の価額は、法人税基本通達9-1-3により、その資産が使用収益されるものとして、事業年度末に譲渡される場合に通常付される価額を基礎とします。会計上の回収可能価額8,000,000円を、そのまま税務上の価額として使えるとは限りません。

税務上の評価損が認められない例

法人税基本通達9-1-17は、過度の使用や修理不足による損耗、減価償却不足、取得時の割高な取得価額、製造方法の進歩などによる機械装置の旧式化を、固定資産評価損について法人税法第33条第2項を適用できない例として示しています。

一方、災害による著しい損傷で時価が帳簿価額を下回った場合には、損金経理などの要件を満たす範囲で評価損が認められる場合があります。2026年4月1日現在の取扱いは、国税庁タックスアンサーNo.8009「災害により被害を受けたときの法人税の取扱い」でも確認できます。

減価償却資産では償却限度額との計算が必要

法人税基本通達7-5-1では、減価償却資産について計上した評価損のうち損金不算入となった金額も、税務上の「償却費として損金経理をした金額」に含まれます。同通達の注記により、ここでいう評価損には減損損失も含まれます。

したがって、減価償却資産では、減損損失を一律に全額加算するとは限りません。通常の減価償却費と損金不算入となる減損損失を合わせた損金経理額を、税務上の償却限度額と比較します。

次は計算関係だけを確認する仮定例です。同一の減価償却資産について、過年度からの償却超過額はなく、税務上の償却限度額3,000,000円は適用する償却方法や供用期間に基づいて別途計算済みとします。

項目 金額
会計上の通常の減価償却費 2,400,000円
会計上の減損損失 4,000,000円
税務上の償却費として損金経理した金額 2,400,000円+4,000,000円=6,400,000円
税務上の償却限度額 3,000,000円
損金算入される償却費 3,000,000円
償却超過額 6,400,000円-3,000,000円=3,400,000円

この前提では、会計上の費用6,400,000円に対して税務上損金算入される償却費は3,000,000円であり、申告調整による加算額は3,400,000円です。通常の減価償却費2,400,000円に加え、減損損失のうち600,000円が償却限度額の範囲に入る計算です。

実際の申告では、資産ごとの取得価額、税務上の未償却残額、償却方法、供用月数、過年度からの償却超過額などを確認する必要があります。

税効果会計を適用する場合

損金不算入額によって会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差が生じると、将来減算一時差異となる場合があります。ただし、繰延税金資産を計上するには、差異の解消見込みや回収可能性を検討しなければなりません。税率を掛けるだけで機械的に計上するものではありません。

7.よくある間違い

間違い 正しい整理
兆候を見つけた時点で減損損失を計上する 兆候があれば、次に認識判定を行う
割引前将来キャッシュ・フローを帳簿価額から差し引く 割引前金額は認識判定に使い、損失額は回収可能価額で測定する
正味売却価額と使用価値の低い方を選ぶ 回収可能価額は高い方を選ぶ
好調な資産と不調な資産を自由にまとめる 独立したキャッシュ・フローを生む最小単位を基礎にする
会計上の減損損失は税務でも全額損金になる 法人税法第33条と施行令第68条の要件を別に判定する
減価償却資産の減損損失を必ず全額加算する 法人税基本通達7-5-1と償却限度額を踏まえて計算する
収益力が回復したら減損損失を戻す 日本基準では減損損失の戻入れを行わない

8.ミニ問題

  1. 帳簿価額7,000,000円、割引前将来キャッシュ・フロー7,400,000円です。減損の兆候がある場合、減損損失を認識しますか。
  2. 帳簿価額9,000,000円、割引前将来キャッシュ・フロー7,600,000円、正味売却価額5,400,000円、使用価値6,300,000円です。減損損失はいくらですか。
  3. 会計上、市場価格の著しい下落を理由に減損損失を計上しました。この事実だけで法人税上も損金算入できますか。

解答

問題 解答
1 認識しません。7,400,000円が帳簿価額7,000,000円を下回っていないためです
2 2,700,000円。7,600,000円<9,000,000円なので認識し、回収可能価額は6,300,000円です。9,000,000円-6,300,000円=2,700,000円となります
3 自動的には損金算入できません。法人税法令所定の事実、事業年度末の価額、損金経理などの要件を別途確認します

9.5日間の短時間練習

日 取り組む内容 目安
1日目 減価償却・減損・除却の違いを一文ずつ書く 10分
2日目 減損の兆候を4分類し、それぞれの例を書く 10分
3日目 認識判定と測定を分けて数値例を解き直す 15分
4日目 会計上と税務上の帳簿価額を横並びで書く 10分
5日目 仕訳、借貸一致、処理後残高、申告調整を通して確認する 15分

まずは「兆候は入口」「認識は割引前」「測定は回収可能価額」という3点を、毎回同じ順番で確認しましょう。

仕上げのチェックリスト

  • 資産グループを先に決めたか
  • 兆候と損失計上を区別したか
  • 認識判定では割引前将来キャッシュ・フローを使ったか
  • 回収可能価額は正味売却価額と使用価値の高い方か
  • 借方・貸方と処理後残高が一致しているか
  • 法人税法上の事実と損金算入限度額を別に確認したか
  • 減価償却資産では償却限度額との関係を確認したか
  • 会計上と税務上の帳簿価額の差を管理したか

確認した一次資料

本記事は一般的な学習用の説明であり、個別案件についての会計・税務判断ではありません。実際の処理では、適用する会計基準、資産のグルーピング、意思決定の内容、将来キャッシュ・フローの根拠、法人税法令上の事実を確認し、必要に応じて税理士または公認会計士へ相談してください。