日別アーカイブ: 2026年10月17日

第215回 清算中子会社の期限切れ欠損金ゼロ入門:残余財産がない見込み・控除順序・別表七(四)を整理(5日練習付き)

第214回では、子会社の残余財産が確定した後に、一定の未処理欠損金額を親会社が引き継ぐ場面を扱いました。

今回は、その前の段階です。清算中の子会社に土地売却益などが生じても、残余財産がないと見込まれるときは、法人税法59条4項による欠損金の損金算入を受けられる場合があります。

先に法人税法57条の欠損金を控除し、その後に法人税法59条4項の金額を控除します。判定時点は解散日ではなく、適用を受ける清算中の事業年度終了時です。

1.第214回との違い

項目 第214回 今回
欠損金を使う法人 親会社P社 清算中の子会社S社
主な時点 子会社の残余財産確定日の翌日以後 適用を受ける清算中の事業年度終了時
中心となる規定 法人税法57条2項 法人税法59条4項
主な別表 親会社側の別表七(一)付表一など 子会社側の別表七(一)と別表七(四)

子会社がすでに使った欠損金額を、親会社が重ねて使うことはできません。また、会計上の累積赤字が、そのまま親会社へ引き継がれるわけでもありません。

2.法人税法59条4項の確認順序

法人税法59条4項・6項と法人税法施行令117条の5を、三段階に分けます。

段階 確認内容
1.判定 解散した法人について、適用年度終了時に残余財産がないと見込まれるか
2.通常の控除 法人税法57条の欠損金を先に控除する
3.限度額 政令で計算した欠損金額と、法人税法59条4項の適用前の所得金額のうち少ない額を控除する

「期限切れ欠損金」は実務上の呼び方です。期限を過ぎた欠損金を年度別に足すだけではありません。前事業年度以前から繰り越された税務上の欠損金額、税務上の資本金等の額、法人税法57条による当期控除額を使って計算します。

また、確定申告書には損金算入額とその計算明細を記載し、残余財産がないと見込まれることを説明する書類を添付する必要があります。

対象となる所得は債務免除益に限られません。本設例の土地売却益も、適用年度の所得に含まれます。

3.土地売却の仕訳と残高

土地の帳簿価額は100、売却額は800です。売却益は700になります。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 800 土地 100
合計 800 合計 800
科目 売却前 増減 売却後
現金 200 +800 1,000
土地 100 △100 0
資産合計 300 +700 1,000
外部借入金 1,200 0 1,200
資本金 100 0 100
繰越利益剰余金 △1,000 +700 △300
純資産合計 △900 +700 △200
負債・純資産合計 300 +700 1,000

売却後の資産は1,000、負債は1,200です。純資産は△200となり、資産をすべて債務の弁済に充てても株主へ分配する財産は残りません。

4.残余財産がない見込みの判定

帳簿上の純資産がマイナスであることだけで判定するのではありません。含み益のある資産、回収可能な簿外債権、保証金、未計上の債務なども確認します。

法人税基本通達12-3-7から12-3-9では、判定時点を清算中の各事業年度終了時としています。その時点で債務超過であれば、残余財産がないと見込まれる場合に該当します。

本設例では、土地は第三者へ800で売却済みです。期末資産は現金1,000、外部借入金は1,200であるため、実態価額で見ても200の債務超過です。

5.控除額を計算する

会計上・税務上の土地売却益はともに700で、ほかに所得調整項目はありません。欠損金控除前の所得金額は700です。

設例では、法人税法57条により当期に控除できる欠損金額を300としています。したがって、通常の欠損金を控除した後の所得金額は次のとおりです。

700-300=400

次に、2026年4月1日以後終了事業年度分の別表七(四)に沿って、法人税法59条4項の限度額を計算します。

計算項目 金額 計算
前事業年度以前から繰り越された欠損金額 1,000 設例の前提
資本金等の額に係る金額 0 資本金等の額がプラス100のため0
法人税法57条による当期控除額 300 別表七(一)の当期控除額
差引欠損金額 700 1,000-0-300
通常の欠損金控除後の所得 400 700-300
法人税法59条4項の損金算入額 400 700と400のうち少ない額
最終的な所得金額 0 700-300-400

土地売却益700-法人税法57条の欠損金300-法人税法59条4項の欠損金400=所得0

これは、この設例における法人税の所得計算です。所得が0でも、法人住民税の均等割などが別に生じることがあります。

6.欠損金控除の仕訳はしない

項目 会計仕訳 税務上の処理
土地の売却 現金、土地、固定資産売却益を記帳する 売却益700を所得計算に反映する
法人税法57条の300 仕訳しない 別表七(一)などで控除する
法人税法59条4項の400 仕訳しない 別表七(四)などで控除する

税金費用を除いた設例上の会計利益は700です。繰越利益剰余金は△1,000から△300になります。一方、税務上の所得金額は0です。

残った会計上の赤字300が、そのまま翌期に控除できる欠損金300を意味するわけではありません。繰越利益剰余金、別表五(一)の利益積立金額、別表七(一)の控除未済欠損金額は分けて確認します。

7.申告時に確認する資料

法人税法施行規則26条の6第3号は、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付を定めています。

資料 確認内容
別表七(一) 法人税法57条による当期控除額300
別表七(四) 法人税法59条4項による損金算入額400
別表四・別表五(一) 所得金額と利益積立金額等のつながり
実態貸借対照表 期末の資産1,000と負債1,200
土地売買契約書・入金資料 土地の処分価額800と入金額
借入金残高資料 期末借入金1,200の存在と金額

実際には、未払清算費用、租税債務、保証債務、回収予定債権なども確認します。資産と負債の一部だけを選んで債務超過を示すことはできません。

8.各事業年度で判定し直す

残余財産がない見込みは、解散時に一度だけ判定するものではありません。清算が複数年度にわたる場合は、適用を受ける各事業年度終了時の現況で判定します。

国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例」問9・問10では、ある事業年度末に適正に適用した後、翌年度に見込みが変わっても、過去の適用をさかのぼって修正する必要はないと説明されています。翌年度については、その年度末の現況で改めて判定します。

この質疑応答事例は公表当時の条文番号で記載されています。2026年10月17日現在の対応規定は、法人税法59条4項と法人税法施行令117条の5です。

9.5日で定着させる

日 練習内容 確認結果
1日目 第214回と今回について、欠損金を使う法人を書く 第214回はP社、今回はS社
2日目 土地売却の仕訳を書く 借方800、貸方100+700
3日目 売却後の貸借対照表を再計算する 資産1,000=負債1,200+純資産△200
4日目 欠損金の控除順序を書く 700-300-400=0
5日目 売却後に損金となる清算費用100を現金で支払った場合を計算する 600-300-300=0。資産900=負債1,200+純資産△300

覚える順序は、期末判定、法人税法57条、法人税法59条4項、所得の再計算です。最初から別表のすべての欄を覚える必要はありません。

10.まとめ

  • 法人税法59条4項は、残余財産がないと見込まれる清算中の法人自身が適用する制度です。
  • 判定は、適用を受ける清算中の事業年度終了時に行います。
  • 設例では、土地売却益700から法人税法57条の欠損金300を先に控除し、残る400を法人税法59条4項により控除しました。
  • 欠損金の控除は税務申告上の処理であり、固定資産売却益を消す会計仕訳は行いません。
  • 申告時には、別表七(四)だけでなく、残余財産がないと見込まれることを説明する書類の添付も確認します。

実務では、過去の申告書、別表五(一)、別表七(一)、資産の処分価額、債務残高、清算日程を一体で確認してください。個別案件は税理士などの専門家へ確認する必要があります。

根拠資料