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第201回 共同支配企業の形成ゼロ入門:4要件・帳簿価額・持分法を仕訳で整理(5日練習付き)

第200回では、同じ最終支配の中で行う共通支配下の取引を確認しました。今回は、複数の独立した企業が事業を持ち寄り、共同で支配する会社をつくる「共同支配企業の形成」を扱います。

50対50で出資しただけでは、共同支配企業の形成とはいえません。独立企業、契約、対価、その他の支配という4要件を確認してから、共同支配企業、投資企業の個別財務諸表、連結財務諸表の順に処理します。

1.取得・共同支配・共通支配を分ける

区分 支配の状態 会計処理の中心
取得 一つの企業が他の企業または事業への支配を獲得する 時価を基礎とするパーチェス法
共同支配企業の形成 複数の独立企業が契約等に基づいて共同で支配する 共同支配企業は適正な帳簿価額を引き継ぐ。共同支配投資企業は連結上、共同支配企業への投資に持分法を適用する
共通支配下の取引 結合の前後で同じ株主による最終的な支配が続く 個別では帳簿価額を基礎とし、連結では内部取引として消去する

共同支配企業の形成は、独立企業間の共同事業です。共通支配下の取引のように、企業集団内の取引としてすべて消去するものではありません。

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第8項、第11項、第12項が、共同支配、共同支配企業、共同支配投資企業を定義しています。

2.4要件を順に確認する

企業会計基準適用指針第10号第175項では、次の4要件をすべて満たす企業結合を共同支配企業の形成としています。

要件 確認内容
独立企業要件 共同支配投資企業が複数の独立した企業で構成されているか
契約要件 共同支配の契約等が文書化され、事業目的、各社の重要な役割、重要事項に全投資企業の同意が必要であることが定められているか
対価要件 共同支配投資企業に支払われる対価のすべてが、原則として議決権のある株式か
その他の支配要件 いずれか一社による実質的な支配を示す一定の事実がないか

独立企業要件では、投資企業とその子会社、緊密な者、同意している者を単一の企業として扱います。

契約要件では、予算、事業計画、重要な人事、多額の資金調達、重要資産の取得・処分、事業の拡大・撤退などについて、すべての共同支配投資企業の同意が必要かを確認します。契約書に役割が書かれていても、実態が伴わなければ足りません。

議決権比率そのものは判定要件ではありません。50対50でも契約要件を欠けば共同支配企業の形成にはならず、議決権比率が異なっていても4要件を満たすことはあります。

対価要件の補足

企業結合会計基準の注7では、議決権のある株式による対価と認めるため、単一の取引または原則として一事業年度内に完了する取引であること、議決権の行使制限がないこと、企業結合日に対価が確定していること、償還・再取得の取決めなどがないことも求めています。

その他の支配要件では、特定の投資企業の役員・従業員またはその経験者が意思決定機関の構成員の過半数を占めていないか、特定の投資企業だけが重要な契約上有利になっていないか、企業結合日後2年以内にいずれかの投資企業が投資した大部分の事業を処分する予定がないかを確認します。

3.共同新設分割の設例

A社とB社は互いに独立しており、関連する事業を共同新設分割によってJ社へ移転します。両社はJ社の議決権を50%ずつ取得し、重要事項には両社の同意が必要です。対価はJ社の議決権株式だけで、会計上の4要件を満たすものとします。

税務上の適格要件を満たすかどうかは、まだ仮定しません。

項目 A社 B社 合計
棚卸資産 250 300 550
有形固定資産 750 600 1,350
資産合計 1,000 900 1,900
買掛金 180 120 300
長期借入金 220 180 400
負債合計 400 300 700
株主資本相当額 600 600 1,200

A社の株主資本相当額は1,000-400=600、B社は900-300=600です。

4.A社とB社の個別仕訳

共同支配投資企業が受け取るJ社株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額を基礎に計算します。

A社

借方科目 金額 貸方科目 金額
買掛金 180 棚卸資産 250
長期借入金 220 有形固定資産 750
共同支配企業株式 600
借方合計 1,000 貸方合計 1,000

B社

借方科目 金額 貸方科目 金額
買掛金 120 棚卸資産 300
長期借入金 180 有形固定資産 600
共同支配企業株式 600
借方合計 900 貸方合計 900

負債を借方に記入するのは、A社・B社の帳簿から移転した負債を取り除くためです。どちらも移転損益を計上しません。

移転事業に繰延税金資産・負債が含まれる場合、適用指針第196項に従い、共同支配企業株式の取得原価を算定する際に、移転事業に係る株主資本相当額から当該繰延税金資産・負債を控除する点に留意が必要です。

組織再編に伴う支出額については、適用指針第91項により、事業分離に要した支出額は分離元企業で発生した事業年度の費用とします。一方、受取株式の取得に係る付随費用は、金融商品会計に関する実務上の取扱いに従って株式の取得原価へ加算します。本設例では、これらの支出額を除外しています。

5.J社の受入仕訳

J社は、A社とB社から移転された資産・負債を、それぞれの移転直前の適正な帳簿価額で引き継ぎます。払込資本1,200のうち、資本金を600、資本剰余金を600とすることは、分割計画等に基づく設例上の仮定です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
棚卸資産 550 買掛金 300
有形固定資産 1,350 長期借入金 400
資本金 600
資本剰余金 600
借方合計 1,900 貸方合計 1,900

J社の純資産は1,900-700=1,200です。A社とB社が計上したJ社株式600ずつの合計とも一致します。J社は移転された資産・負債を時価へ評価替えせず、形成の受入仕訳でのれんも計上しません。

6.個別と連結を混ぜない

作成主体 処理
J社の個別財務諸表 移転された資産・負債を適正な帳簿価額で引き継ぐ
A社・B社の個別財務諸表 移転事業の株主資本相当額を基礎にJ社株式を計上する
A社・B社の連結財務諸表 共同支配企業に対する投資へ通常の持分法を適用する

共同支配企業について比例連結は行いません。A社とB社がJ社の資産・負債を50%ずつ科目ごとに取り込む処理ではありません。

企業結合会計基準第39項(2)と適用指針第197項・第431項・第432項により、共同支配投資企業は連結財務諸表上、共同支配企業への投資について通常の持分法を適用します。したがって、共同支配企業に対する投資の取得原価と、共同支配企業の資本のうち持分比率に対応する額との差額があれば、通常の持分法に従って分析し、処理します。差額を処理しない取扱いは、2008年改正前の基準によるものです。

本設例の形成時には、A社の投資取得原価600と、J社の形成時純資産1,200の50%である持分相当額600が一致します。B社についても同じです。このため、設例の前提では形成時に処理すべき差額はありません。共同支配企業の形成では常に差額やのれんが生じない、という意味ではありません。

形成後にJ社が120の当期純利益を計上し、配当を行わなかったとします。A社の持分相当額は120×50%=60です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
共同支配企業株式 60 持分法による投資利益 60
借方合計 60 貸方合計 60

A社の連結上の投資残高は600+60=660です。J社の期末純資産1,200+120=1,320の50%とも一致します。この持分法仕訳はA社の個別帳簿には記帳しません。B社も同額です。

7.共同支配企業の形成にならない例

状況 確認すべき点
50%ずつ出資したが、共同支配契約が文書化されていない 契約要件を満たさない
A社の役員・従業員またはその経験者が、J社の意思決定機関の構成員の過半数を占める A社による支配を示す事実に該当しないか確認する
重要事項を多数決だけで決められる 全共同支配投資企業の同意を求める契約になっていない
対価に通常の現金が含まれる 原則として対価要件を満たさない
結合後2年以内に、一方が投資した大部分の事業を処分する予定がある その他の支配要件を満たさない

8.税務上の適格分社型分割は別に判定する

本設例ではJ社株式をA社とB社自身が受け取るため、法人税法上は分社型分割に当たるかを確認します。会計上の「共同支配企業の形成」と、税務上の「適格分社型分割」は別の判定です。

A社とB社がそれぞれJ社株式の50%を保有する本設例では、各社とJ社との間に50%超の保有関係があるとはしていません。そこで、共同事業要件による適格判定を検討します。

要件 確認内容
対価要件 原則として、J社または一定の分割承継親法人の株式以外の資産が交付されないこと
事業関連性 A社とB社が移転する事業が相互に関連すること
事業規模または特定役員 所定の事業規模の割合がおおむね5倍を超えないこと、または特定役員引継要件を満たすこと
主要資産等の移転 各分割事業に係る主要な資産・負債がJ社へ移転していること
従業者の引継ぎ 各分割事業の従業者のうち、おおむね80%以上に相当する数が分割後にJ社の業務へ従事する見込みであること
事業継続 関連する各分割事業がJ社で引き続き営まれる見込みであること
株式継続保有 分社型分割で各分割法人に交付される所定の株式の全部が、継続して保有される見込みであること

「おおむね5倍」や「おおむね80%」は税務上の要件です。会計上の共同支配要件へ置き換えてはいけません。また、分割時から具体的な株式売却計画がある場合は、株式継続保有要件に影響します。

本設例では、事業関連性、事業規模、役員、従業者、事業継続などの事実を与えていません。したがって、適格分社型分割に該当するとは断定できません。

区分 移転時の基本的な取扱い
適格分社型分割 税務上の帳簿価額による譲渡として、移転時の譲渡損益を繰り延べる
非適格分割 時価による譲渡として、原則として譲渡損益を所得計算へ反映する

適格分社型分割の基本規定は法人税法第62条の3、非適格分割の基本規定は同法第62条です。適格分割で用いる帳簿価額は税務上の帳簿価額であり、減価償却超過額などがあれば会計上の帳簿価額とは一致しません。

9.間違えやすい点

誤りやすい理解 正しい整理
50%ずつ持てば必ず共同支配になる 文書化された契約と実態を含む4要件で判定する
共同支配企業は各投資企業の子会社である 一社が単独で支配するものではない
J社の資産・負債を50%ずつ比例連結する 比例連結は行わず、連結上は共同支配企業への投資に持分法を適用する
形成時は投資原価と持分相当額の差額を処理しない 通常の持分法により差額を分析して処理する。本設例では両者が600で一致するため差額がない
事業分離に要した支出額は受取株式の取得原価になる 事業分離に要した支出額は発生時の費用とし、受取株式の取得に係る付随費用は金融商品会計に関する実務上の取扱いに従う
会計上の共同支配なら税務上も適格になる 法人税法上の要件を別に判定する
移転元では負債を貸方に記入する 移転元の帳簿から負債を取り除くため借方に記入する

10.5日で確認する

  1. 1日目:4要件を言う
    独立企業、契約、対価、その他の支配です。

  2. 2日目:A社の投資原価を計算する
    資産1,000-負債400=600です。

  3. 3日目:J社の残高を検算する
    資産1,900-負債700=純資産1,200です。

  4. 4日目:持分法を計算する
    形成時は投資原価600と持分相当額600が一致します。形成後の利益については120×持分比率50%=60となり、A社の連結上の投資残高は600+60=660です。

  5. 5日目:税務との違いを説明する
    会計上の4要件を満たしただけでは、適格分社型分割とは断定できません。税務上の共同事業要件などを別に確認します。

順番は、「4要件で分類する→J社は帳簿価額で引き継ぐ→A社・B社の個別では株式へ振り替える→連結では通常の持分法を適用する→税務は別に判定する」です。

確認した一次資料

国税庁の質疑応答事例は、同ページに記載された令和7年8月1日現在の法令・通達等を基礎としています。本稿では2026年10月3日を基準日として、企業会計基準委員会、e-Gov法令検索および国税庁の公表資料を確認しています。

第200回 共通支配下の取引ゼロ入門:グループ内合併・帳簿価額引継ぎ・非支配株主との取引を仕訳で整理(5日練習付き)

第198回では支配を新たに獲得する企業結合、第199回では事業を手放す側の事業分離を確認しました。今回は、同じ企業集団の中で会社や事業を組み替える「共通支配下の取引」を扱います。

最初に押さえる結論は、最終的な支配が変わらない組織再編では、原則として資産・負債を移転元の適正な帳簿価額で引き継ぐことです。ただし、個別財務諸表と連結財務諸表、共通支配下の取引と非支配株主との取引、会計上の判定と法人税法上の適格判定は分けなければなりません。

まず3種類の取引を区別する

区分 支配の動き 会計処理の中心
取得 他の企業・事業への支配を新たに獲得する 取得日の時価を基礎に取得原価を配分し、のれん等を計算する
共通支配下の取引 企業結合の前後で、同じ株主による最終的な支配が一時的でなく続く 個別では移転元の適正な帳簿価額を基礎とし、連結では内部取引として消去する
非支配株主との取引 支配を維持したまま親会社の持分比率が変わる 個別では子会社株式の取得・売却、連結では親会社株主と非支配株主との資本取引として処理する

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第16項は、共通支配下の取引を、結合当事企業または事業のすべてが企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、その支配が一時的でない場合の企業結合と定義しています。

親会社と子会社の合併、同じ親会社が支配する子会社同士の合併などが代表例です。「同一の株主」には企業だけでなく個人も含まれます。一方、投資会社とその関連会社との結合は、支配関係がないため、それだけでは共通支配下の取引になりません。

1.判定は5段階で進める

順序 確認すること 間違えやすい点
1 結合当事企業・事業を特定する 株主だけでなく、実際に移転する会社や事業を確認する
2 取引前の最終支配者を確認する 直接の株主だけでなく、企業集団の最上位までたどる
3 取引後も同じ支配が続くか確認する 一時的な支配や、直後の売却が予定された支配を機械的に含めない
4 非支配株主との持分取引を分ける 親会社がすでに支配している子会社株式の追加取得は、新たな「取得」ではない
5 個別・連結・法人税を別々に判定する 会計上の共通支配下の取引が、税務上も当然に適格となるわけではない

2.個別と連結では見ている単位が違う

財務諸表 見ている単位 基本処理
移転先企業の個別財務諸表 法的に独立した一社 受け入れた資産・負債を移転元の適正な帳簿価額で計上する
株主である親会社の個別財務諸表 親会社自身 交付・受領した株式や、消滅した子会社株式を処理する
親会社の連結財務諸表 企業集団全体 共通支配下の取引を内部取引として消去する

企業結合会計基準第41項から第44項では、企業集団内を移転する資産・負債を原則として移転直前の適正な帳簿価額で計上し、共通支配下の取引を連結上すべて消去すると定めています。

ここでいう「適正な帳簿価額」は、記帳されている数字を無条件で写すという意味ではありません。吸収合併消滅会社は合併期日の前日に決算を行い、減価償却、引当金、評価損など必要な決算整理を反映した残高を確定します。

3.設例1:100%子会社同士の吸収合併

P社はS1社とS2社の株式をそれぞれ100%保有しています。S1社を存続会社、S2社を消滅会社とする吸収合併を行い、P社にはS1社株式のみを交付します。合併後もP社がS1社を100%保有します。

S2社の合併期日前日の貸借対照表は次のとおりです。時価純資産は5,200ですが、会計処理には下表の適正な帳簿価額を使用します。

資産 金額 負債・株主資本 金額
現金 1,000 買掛金 1,800
売掛金 2,000 借入金 2,200
棚卸資産 1,600 資本金 2,500
機械装置 3,400 利益剰余金 1,500
合計 8,000 合計 8,000

受け入れる資産と負債の差額は、8,000-4,000=4,000です。設例では、会社法上の手続に基づき、この4,000をその他資本剰余金として処理するものとします。

S1社の個別仕訳

借方 金額 貸方 金額
現金 1,000 買掛金 1,800
売掛金 2,000 借入金 2,200
棚卸資産 1,600 その他資本剰余金 4,000
機械装置 3,400 ― ―
合計 8,000 合計 8,000

検算:増加資産8,000=増加負債4,000+増加株主資本4,000です。時価純資産5,200との差額1,200を評価益や新しいのれんとして計上しません。

株式のみを対価とする子会社同士の合併では、原則として消滅会社の株主資本額を払込資本として処理します。一定の場合には、消滅会社の資本金、資本準備金、利益剰余金などの構成を引き継ぐ方法も認められます。具体的な内訳は、合併契約と会社法上の手続を確認します。

P社の個別仕訳

P社における合併直前のS2社株式の帳簿価額を3,600とします。受け取ったS1社株式の取得原価は、引き換えられたS2社株式の適正な帳簿価額を基礎にします。

借方 金額 貸方 金額
S1社株式 3,600 S2社株式 3,600

交換損益は計上しません。S2社への投資がS1社への投資に置き換わったと考えます。

連結財務諸表での見え方

企業集団全体では、合併前からS2社の資産・負債を連結していました。合併によって資産の置き場所がS2社からS1社へ変わっても、外部から新しい資産を取得したわけではありません。P社の投資勘定、S1社・S2社の資本、合併に伴う内部取引を消去するため、合併そのものによって連結上の資産・負債・純資産の総額は増えません。

ただし、登記費用や専門家報酬など外部に支払った組織再編費用は、内部取引ではありません。企業結合に要した支出額は、原則として発生した事業年度の費用として処理します。

4.帳簿価額引継ぎにも例外と注意点がある

場面 注意点
親会社が子会社を吸収合併する 親会社の連結上、子会社資産・負債を時価評価していた場合は、原則としてその修正後の帳簿価額を親会社の個別財務諸表へ引き継ぐ
連結上の既存のれんが残っている 親会社による子会社の吸収合併では、のれんの未償却残高を親会社の個別財務諸表へ引き継ぐことがある
同一株主に支配される子会社同士の合併で、現金等のみを対価とする 消滅会社の株主資本額と、対価として支払った現金等の適正な帳簿価額との差額から、存続会社の個別財務諸表にのれん等が生じる場合がある
企業結合直前の取得と合併が一体である 形式だけで共通支配下の取引とせず、一連の取引として支配獲得時の会計処理を検討する

したがって、「共通支配下なら、どの会社でも未修正の簿価を使う」「共通支配下では、のれんが絶対に出ない」と覚えるのは危険です。組織再編の当事者、対価、親子関係、既存の連結修正を確認します。具体的な形式別処理は、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第200項以降に示されています。

5.設例2:非支配株主から子会社株式を追加取得する

P社はS社株式の80%を保有し、すでにS社を支配しています。P社が非支配株主から残り20%を現金3,000で取得します。追加取得日の連結貸借対照表における非支配株主持分は2,400とし、取得関連費用やその他の包括利益累計額は考慮しません。

P社の個別仕訳

借方 金額 貸方 金額
S社株式 3,000 現金 3,000

個別財務諸表では、外部の株主から取得した子会社株式を取得原価で追加計上します。

連結修正仕訳

支配は80%取得時にすでに成立しています。残り20%の取得は、企業集団の支配獲得ではなく、親会社株主と非支配株主との資本取引です。

借方 金額 貸方 金額
非支配株主持分 2,400 S社株式 3,000
資本剰余金 600 ― ―
合計 3,000 合計 3,000

検算:追加投資額3,000-減少する非支配株主持分2,400=600です。この600は連結上の新しいのれんや費用ではなく、資本剰余金の減少となります。取引後の非支配株主持分はゼロです。

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得持分と追加投資額の差額を資本剰余金とする処理を定めています。連結会計年度末に資本剰余金全体が負の値となる場合は、資本剰余金をゼロとし、その負の値を利益剰余金から減額します。

6.法人税は会計と別に適格性を判定する

会計上の「共通支配下」と法人税法上の「適格合併」は、目的も要件も同じではありません。法人税では、合併当事法人の資本関係、交付する対価、合併後の関係継続見込みなどを、法令上の区分に従って判定します。

設例1では、P社による完全支配関係が合併前から存在し、合併後も継続する見込みで、P社へS1社株式以外の資産を交付しないものと仮定します。この前提では、法人税法上の適格合併に該当します。完全支配関係にある法人間の適格要件は、国税庁「合併法人と被合併法人との間に『当事者間の完全支配関係』と『法人相互の完全支配関係』のいずれにも該当する関係がある場合の適格判定について」でも確認できます。

税務上の区分 移転資産・負債の基本的な扱い 移転時の譲渡損益
適格合併 税務上の帳簿価額による引継ぎ 原則として繰り延べる
非適格合併 原則として時価による移転 原則として認識する

根拠となる現行法は、e-Gov法令検索「法人税法」第62条および第62条の2です。

会計上の簿価と税務上の簿価は一致しないことがある

設例1の機械装置について、会計上の帳簿価額は3,400ですが、過年度に減価償却超過額300があるため、税務上の帳簿価額は3,700だったとします。

項目 会計上の帳簿価額 税務上の帳簿価額 差額
機械装置 3,400 3,700 300

適格合併でS1社が税務上の帳簿価額として引き継ぐのは3,700です。会計仕訳の3,400をそのまま税務上の帳簿価額として扱ってはいけません。国税庁の「被合併法人等から引継ぎ等を受けた帳簿価額の修正」も、適格合併でいう帳簿価額は会計上の帳簿価額ではなく、税務上の帳簿価額であると説明しています。

この3,700は、減価償却費の計算の基礎となる税務上の取得価額ではありません。取得価額は帳簿価額とは別の概念です。適格合併で移転を受けた減価償却資産の取得価額は、原則として、被合併法人が合併日の前日の属する事業年度において償却限度額の計算の基礎とすべき取得価額に、合併法人がその資産を事業の用に供するため直接要した費用を加えた額です。ただし、採用する償却方法や中古資産の耐用年数を適用する場合には取扱いが異なることがあります。詳細は、国税庁の「適格合併により移転を受けた減価償却資産に係る耐用年数」を確認してください。

この差額300は、税効果会計上、将来減算一時差異となる可能性があります。ただし、適用税率、解消見込み、繰延税金資産の回収可能性を設例で定めていないため、税効果額は計算しません。

また、適格合併で資産・負債を帳簿価額で引き継げても、被合併法人の欠損金を無条件で全額利用できるとは限りません。欠損金の引継制限や特定資産の譲渡等損失の制限は、適格性とは別に確認します。

7.よくある誤りを整理する

誤った処理・考え方 修正のポイント
同じグループなので、時価で資産を計上する 共通支配下の取引では、原則として移転元の適正な帳簿価額を使う
親会社の持分が80%から100%になったので、新たにのれんを計上する すでに支配しているため、連結上は非支配株主との資本取引として差額を資本剰余金にする
子会社の試算表残高をそのまま引き継ぐ 合併期日前日の決算整理後の適正な帳簿価額を確認する
会計上の簿価を税務でも使用する 減価償却超過額などを反映した税務上の帳簿価額を別に確認し、減価償却計算の基礎となる取得価額とも区別する
会計上の共通支配下なら必ず適格合併である 法人税法上の資本関係、対価、継続見込みなどを独立して判定する
関連会社との合併も共通支配下である 関連会社への重要な影響力と、子会社への支配を区別する
グループ内再編は連結上まったく影響しない 外部へ支払う再編費用や、非支配株主との取引による資本剰余金の変動は残る

8.問題を解くときの答案メモ

  1. 取引前後の資本関係図を作る。
  2. 最終支配者が同じで、その支配が一時的でないかを確認する。
  3. 共通支配下の取引と非支配株主との取引を分ける。
  4. 個別仕訳か連結修正仕訳かを明記する。
  5. 移転資産、移転負債、株主資本相当額、対価をそれぞれ計算する。
  6. 借方合計と貸方合計、処理後の投資残高・非支配株主持分を検算する。
  7. 法人税は、法的形式ごとに適格性と税務上の帳簿価額を判定する。

9.5日で定着させる練習

日 15分程度の練習 確認点
1日目 取得・共通支配下・非支配株主との取引を3行で比較する 支配が新しく生じたか
2日目 設例1の資産8,000、負債4,000から株主資本相当額を再計算する 8,000-4,000=4,000
3日目 S1社とP社の個別仕訳を何も見ずに再現する 会社ごとに仕訳を分けたか
4日目 設例2の連結修正仕訳を再計算する 3,000-2,400=600をのれんにしていないか
5日目 会計上の簿価と税務上の簿価が違う理由を説明する 減価償却超過額などの申告調整を引き継げるか

仕上げ問題

P社はS社株式の75%を保有しています。追加で15%を1,800で取得しました。追加取得直前の非支配株主持分25%の残高は2,500です。取得関連費用等はありません。

取得した15%に対応する非支配株主持分は、2,500×15%÷25%=1,500です。取引後に残る非支配株主持分は2,500-1,500=1,000となります。

借方 金額 貸方 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 1,800
資本剰余金 300 ― ―
合計 1,800 合計 1,800

まとめ

  • 共通支配下の取引は、企業結合の前後で最終的な支配が変わらない取引である。
  • 個別財務諸表では、原則として移転元の適正な帳簿価額を引き継ぐ。
  • 連結財務諸表では、グループ内の移転を内部取引として消去する。
  • 支配獲得後の子会社株式の追加取得は、連結上、のれんではなく資本剰余金を使う。
  • 親会社による子会社吸収合併では、連結上の簿価修正や既存のれんの引継ぎにも注意する。
  • 会計上の共通支配下の判定と、法人税法上の適格判定は別に行う。
  • 適格合併で引き継ぐ税務上の帳簿価額は、会計上の帳簿価額と一致しないことがあり、減価償却計算の基礎となる取得価額とも別の概念である。

難しい組織再編でも、「支配は変わったか」「誰の個別仕訳か」「連結では何を消すか」「税務上の簿価はいくらか」の4点に分ければ、計算の順序を保てます。

第199回 事業分離会計ゼロ入門:移転損益・株主資本相当額と適格分社型分割を整理(5日練習付き)

第198回では、事業を取得する側から、取得原価の配分とのれんを確認しました。今回は反対側です。事業を手放す分離元企業の会計処理を整理します。

最初に判断するのは、移転した事業への投資が清算されたか、分離先企業の株式を通じて継続しているかです。ただし、共同支配企業の形成に該当する場合は別区分として扱います。

1.事業分離とは何か

企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」は、事業分離を、企業を構成する事業を他の企業へ移転することと定めています。

用語 意味
事業 企業活動を行うために組織化され、有機的一体として機能する経営資源
分離元企業 事業を移転する企業
分離先企業 事業を受け入れる企業
事業分離日 事業が移転される日。会社分割では通常は分割期日、事業譲渡では譲渡期日

機械や土地を一つ売っただけでは、必ずしも事業分離になりません。人員、設備、契約などの経営資源が、一体として事業を構成しているかを確認します。

2.処理を決める順序

順序 確認すること
1 移転対象が事業に当たるか
2 受取対価が現金等か、分離先企業の株式か
3 共同支配企業の形成に該当するか。該当しない場合は、分離後の分離先企業が子会社、関連会社、またはそれら以外のいずれになるか
4 個別財務諸表と連結財務諸表のどちらを処理しているか
5 会社分割では、法人税法上の適格要件を満たすか

会計上の投資の清算・継続、共同支配企業の形成、法人税法上の適格・非適格は、それぞれ区別して判定します。

3.受取対価ごとの基本処理

受取対価 分離後の関係 基本処理
現金等のみ 子会社・関連会社以外 原則として投資の清算。受取対価の時価と株主資本相当額との差額を移転損益とする
現金等のみ 子会社 個別財務諸表では共通支配下の取引として処理し、差額は原則として移転損益とする。連結上は未実現損益の消去に準じて処理する
現金等のみ 関連会社 個別財務諸表では原則として移転損益を認識する。連結上は持分法の未実現損益の消去に準じて処理する
分離先企業の株式のみ 子会社または関連会社となる 投資の継続。個別財務諸表では移転損益を認識せず、受取株式の取得原価を株主資本相当額に基づいて算定する
分離先企業の株式のみ 共同支配企業の形成 別区分として扱う。共同支配投資企業の個別財務諸表では、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて共同支配企業株式の取得原価を算定し、連結財務諸表では共同支配企業への投資に持分法を適用する
分離先企業の株式のみ 子会社・関連会社以外で、共同支配企業の形成にも該当しない 原則として投資の清算。移転事業または分離先企業株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定できる時価に基づいて株式を計上し、移転損益を認識する
現金等と株式 各区分 分離後の関係に応じた規定を適用する。現金と株式へ単純に割合配分する処理ではない

共同支配企業の形成は、企業会計基準第7号第23項が「子会社や関連会社以外」となる場合の原則から明示的に除外しています。株式だけを受け取り、子会社にも関連会社にもならないという理由だけで、投資の清算と判断してはいけません。分類と処理は、企業会計基準適用指針第10号第97項、第196項および第197項で確認します。

現金を受け取っても、買戻条件がある場合や、長期購入契約を通じて移転事業のほとんどすべてのコストを負担する場合など、重要な継続的関与が残るときは移転損益を認識できないことがあります。詳細は企業会計基準適用指針第10号第96項を確認します。

4.株主資本相当額を計算する

移転損益と受取株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額を基礎にします。

株主資本相当額=移転資産の適正な帳簿価額-移転負債の適正な帳簿価額-移転事業に係る評価・換算差額等-新株予約権

事業分離日の前日における適正な帳簿価額を、移転事業へ合理的に区分します。

項目 区分 金額
棚卸資産 資産 3,000
機械装置 資産 7,000
買掛金 負債 2,000

移転資産10,000から移転負債2,000を差し引くと、株主資本相当額は8,000です。

5.設例1:現金11,000で外部企業へ事業譲渡する

A社は、共通設例の事業を資本関係のないB社へ移転し、現金11,000を受け取ります。重要な継続的関与はないものとします。

移転利益=現金11,000-株主資本相当額8,000=3,000

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 11,000 棚卸資産 3,000
買掛金 2,000 機械装置 7,000
事業譲渡益 3,000
合計 13,000 合計 13,000

買掛金はA社の負債から外れるため、借方に記入します。仕訳後、移転した棚卸資産、機械装置、買掛金の残高はゼロです。借方合計と貸方合計はいずれも13,000で一致します。

6.設例2:株式だけを受け取り、B社が子会社となる

A社は同じ事業をB社へ移転し、対価としてB社株式だけを受け取ります。A社は事業分離前にB社株式を保有しておらず、分離後にB社がA社の子会社となるものとします。

A社はB社株式を通じて事業投資を続けています。個別財務諸表では移転利益を認識せず、子会社株式を株主資本相当額8,000で計上します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
子会社株式 8,000 棚卸資産 3,000
買掛金 2,000 機械装置 7,000
合計 10,000 合計 10,000

移転事業の純額8,000が子会社株式8,000に置き換わりました。この取引だけではA社の純資産は増減しません。仕訳後、移転した棚卸資産、機械装置、買掛金の残高はゼロで、子会社株式の残高は8,000です。

関連会社株式だけを受け取る場合も、個別財務諸表では同じ考え方です。B社が子会社にも関連会社にもならない場合は、共同支配企業の形成に該当するかを先に確認します。共同支配企業の形成でなければ、原則として投資の清算となり、より高い信頼性をもって測定できる時価に基づいて株式と移転損益を計上します。

7.個別と連結を混ぜない

状況 連結上の確認
子会社へ事業を移転し、個別上で移転損益を認識した 企業集団内部の損益として、未実現損益の消去に準じて処理する
関連会社へ移転して個別上で移転損益を認識した 持分法における未実現損益の消去に準じて処理する
株式対価により分離先企業が新たに子会社となった 分離先企業の従来の事業には取得の会計処理を適用する。移転事業に関する差額は、個別仕訳とは別に連結上の処理を行う
会社分割が共同支配企業の形成に該当した 共同支配投資企業は共同支配企業への投資に持分法を適用する

個別財務諸表で利益を計上したからといって、その全額が連結損益に残るとは限りません。第196回の連結会計、第197回の持分法、第198回の企業結合会計とつながる部分です。

8.法人税では適格・非適格を判定する

適格分社型分割は、分社型分割のうち法人税法上の適格分割に該当するものです。事業譲渡に適格・非適格の判定をそのまま当てはめるものではありません。

税務上の区分 分割法人の基本的な取扱い
適格分社型分割 移転資産・負債を分割直前の税務上の帳簿価額で譲渡したものとして所得を計算し、譲渡損益の計上を繰り延べる
非適格分割 移転資産・負債を分割時の価額で譲渡したものとして、譲渡利益または譲渡損失を所得計算へ反映する

根拠は、e-Gov法令検索「法人税法」第2条、第62条および第62条の3です。

適格要件は、分割法人と分割承継法人の資本関係などによって異なります。株式以外の資産が交付されないという共通要件だけでなく、資本関係に応じて主要な資産・負債、従業者、事業継続、株式の継続保有などの要件を確認します。100%グループ内であることや、株式だけを受け取ることだけで適格と断定してはいけません。

要件の構造は、国税庁「いわゆる三角分割(分社型分割)に係る適格要件について」および国税庁「法人税基本通達 第4節 組織再編成」で確認できます。

設例2の会計上の移転利益はゼロですが、それだけでは税務上の譲渡損益もゼロとは判断できません。分社型分割に該当するか、適格要件を満たすか、移転資産・負債の税務上の帳簿価額はいくらかを別に確認します。非適格分割では資産調整勘定や負債調整勘定が関係することもあるため、事業全体の時価だけで申告調整額を決めることはできません。

9.見落としやすい点

誤りやすい考え方 確認すること
会社全体の純資産を使う 移転事業に属する資産・負債を合理的に区分する
株式の時価が高ければ必ず利益を計上する 子会社・関連会社となるか、共同支配企業の形成に該当するかを先に判定する
子会社・関連会社にならなければ必ず投資の清算と考える 共同支配企業の形成は、子会社・関連会社以外となる場合の原則から除外される
現金対価なら無条件で利益を計上する 重要な継続的関与が残っていないかを確認する
個別上の利益を連結でも残す 子会社・関連会社への移転では消去の要否を確認する
会計上の利益がゼロなら課税もないと考える 適格要件と税務上の帳簿価額を別に確認する
事業分離に要した支出をすべて受取株式へ加算する 事業分離に要した支出は発生時の事業年度の費用とする。ただし、交付された株式等の取得原価には、金融商品会計実務指針に従って株式等の取得に係る付随費用を加算する

最後の取扱いは企業会計基準適用指針第10号第91項に基づきます。事業分離に要した支出と、交付された株式等の取得に係る付随費用を区別する必要があります。

10.5日間の練習

日 練習内容 確認する答え
1日目 分離元企業、分離先企業、事業分離日を説明する 誰が事業を移転し、誰が受け入れるかを区別できる
2日目 共通設例の株主資本相当額を計算する 3,000+7,000-2,000=8,000
3日目 現金11,000の場合と現金7,000の場合の仕訳を作る 前者は利益3,000、後者は損失1,000。借貸はいずれも一致する
4日目 株式だけを受け取り、子会社となる場合を仕訳する 子会社株式8,000を計上し、移転損益は認識しない
5日目 会計判定と税務判定を別々の欄に分ける 投資の清算・継続、共同支配企業の形成、適格・非適格を区別して確認する

まとめ

  • 事業分離では、移転事業の株主資本相当額を先に計算する。
  • 現金等の対価は原則として投資の清算となり、移転損益を認識する。
  • 子会社・関連会社となる分離先企業の株式だけを受け取る場合は、原則として投資が継続する。
  • 共同支配企業の形成は別区分であり、子会社・関連会社以外という理由だけで投資の清算としてはいけない。
  • 個別財務諸表で認識した損益が、連結または持分法上で消去されることがある。
  • 法人税法上の適格・非適格は、会計処理とは別に判定する。

問題を解くときは、「受取対価」「分離後の関係」「共同支配企業の形成の該当性」「税務上の適格判定」を分けて書きます。一度に結論を出さないことが大切です。