第216回では、解散日から残余財産確定日までの時間軸を整理しました。
今回は、解散日現在の財産目録と貸借対照表です。
清算開始時には、解散直前の会計簿価、会社法上の処分価格、法人税上の帳簿価額が異なることがあります。
処分価格へ評価し直しても、法人税上の帳簿価額が自動的に変わるわけではありません。
1.清算で作る書類を三段階に分ける
会社法492条、494条、507条と会社法施行規則144条から150条を基に並べます。
| 段階 | 主な書類 | 内容 |
|---|---|---|
| 清算開始時 | 財産目録、貸借対照表 | 解散日現在の財産状態を示す |
| 各清算事務年度 | 貸借対照表、事務報告、各附属明細書 | 清算事務中の財産状態と執行状況を示す |
| 清算事務終了時 | 決算報告 | 収入、費用、残余財産、一株当たり分配額などを示す |
清算人は、就任後遅滞なく財産の現況を調査し、解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成します。
清算人会設置会社では、先に清算人会の承認が必要です。その後、清算人は財産目録と貸借対照表を株主総会へ提出または提供し、承認を受けます。
作成した財産目録と貸借対照表は、作成時から本店所在地における清算結了登記の時まで保存します。
2.財産目録と貸借対照表を分ける
会社法施行規則144条と145条は、二つの書類を別に定めています。
| 項目 | 財産目録 | 貸借対照表 |
|---|---|---|
| 作成の基礎 | 清算人による財産調査 | 財産目録に基づく |
| 資産の金額 | 処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格 | 財産目録の金額を引き継ぐ |
| 表示区分 | 資産、負債、正味資産 | 資産、負債、純資産 |
| 処分価格を付すことが困難な資産 | 処分価格による評価の例外 | 財産評価の方針を注記する |
正味資産と純資産は名称が異なります。本設例では、いずれも資産から負債を差し引いた金額になります。
3.三つの金額を二列以上で管理する
会社法施行規則144条2項は、財産目録に計上する財産について、処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格を付すよう定めています。
同項は、清算株式会社の会計帳簿について、財産目録に付した価格を取得価額とみなすことも定めています。
| 金額 | 土地 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 解散直前の会計簿価 | 500 | 解散直前の帳簿残高 |
| 清算開始時の処分価格 | 700 | 財産目録、清算開始時貸借対照表、清算帳簿 |
| 法人税上の帳簿価額 | 500 | 法人税上の譲渡損益計算 |
処分価格には一律の算定方法があるわけではありません。基準日、購入申出、鑑定、回収可能性、処分費用など、見積りの根拠を残します。
見積額は、将来の売却額を保証するものではありません。
4.清算開始時の金額を仕訳でつなぐ
まず、解散直前の残高を確認します。
| 区分 | 科目 | 金額 |
|---|---|---|
| 資産 | 現金 | 300 |
| 負債 | 買掛金 | 200 |
| 純資産 | 資本金500+繰越利益剰余金100 | 600 |
資産800=負債200+純資産600です。
土地を500から700へ組み替える差額は200です。通常帳簿から清算帳簿へのつながりを確認するため、学習上は次のように表せます。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 土地 200 | 清算開始時評価差額 200 |
借方と貸方は、ともに200です。
「清算開始時評価差額」は説明用の名称です。法令がこの勘定科目名を指定しているわけではありません。実務上の表示や帳簿への反映方法は、作成する計算書類とのつながりを確認して決めます。
| 区分 | 科目 | 金額 |
|---|---|---|
| 資産 | 現金 | 300 |
| 負債 | 買掛金 | 200 |
| 正味資産・純資産 | 1,000-200 | 800 |
資産1,000=負債200+純資産800となり、貸借は一致します。
5.売却後の清算帳簿を検算する
清算帳簿では、財産目録に付した700を土地の取得価額とみなします。
土地を700で売却したときの仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 現金 700 | 土地 700 |
清算帳簿上の売却損益は、700-700=0です。現金は300+700=1,000になります。
買掛金200を支払います。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 買掛金 200 | 現金 200 |
支払後は、現金800、負債0、純資産800です。
ただし、税額と清算費用を計算していません。現金800をそのまま最終的な残余財産とすることはできません。
6.法人税上の土地簿価は500のまま
法人税法25条では、資産の評価換えによる評価益は、同条に定める例外を除き、益金の額に算入しないとされています。評価損については同法33条に対応する規定があります。
本設例は、評価益を益金算入する例外に該当しない前提です。清算開始時に土地を700で表示しても、法人税上の帳簿価額は500のまま残ります。
土地を700で売却した時点の法人税上の譲渡益は、次のとおりです。
売却額700-法人税上の帳簿価額500=譲渡益200
| 時点 | 清算帳簿 | 法人税 |
|---|---|---|
| 清算開始時 | 土地を500から700へ組み替える | 評価益200は本設例では益金不算入 |
| 700で売却 | 売却損益0 | 譲渡益200 |
税務申告では、会計上の利益と法人税上の所得の差を別表四で調整し、必要に応じて別表五(一)などの残高とつなぎます。
ただし、申告調整の時期と記載方法は、清算開始時の評価差額を損益へ計上したか、純資産へ直接反映したか、会社法用の組替表だけで管理したかによって異なります。
損益に含まれていない評価差額を、別表四で機械的に減算してはいけません。申告書の出発点となる利益と、土地の法人税上の帳簿価額500を照合して調整します。
現行の様式と記載要領は、国税庁「令和8年4月以降に提供した法人税等各種別表関係」で確認できます。
7.よくある混同
| 混同 | 整理 |
|---|---|
| 解散直前の貸借対照表をそのまま財産目録にする | 財産を調査し、原則として解散日現在の処分価格を付す |
| 財産目録と貸借対照表を同じ書類と考える | 貸借対照表は財産目録に基づいて別に作成する |
| 処分価格700を税務簿価にする | 本設例の法人税上の帳簿価額は500のまま |
| 清算帳簿の売却益が0なら課税所得も0と考える | 法人税上は700-500=200の譲渡益を計算する |
| 評価差額を必ず別表四で減算する | 申告書の出発点となる利益に含まれているかを先に確認する |
| 現金800をすべて分配できると考える | 税金、清算費用、未確定債務などを反映してから残余財産を確定する |
8.5日で定着させる
| 日 | 取り組むこと | 確認点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 清算開始時、各清算事務年度、清算事務終了時の書類を分ける | 財産目録と決算報告を混同していないか |
| 2日目 | 三つの金額を表にする | 会計簿価、処分価格、税務簿価を区別できるか |
| 3日目 | 処分価格への組替えを再現する | 700-500=200で借貸が一致するか |
| 4日目 | 売却時の清算帳簿と法人税を二列で計算する | 清算帳簿0、法人税200を説明できるか |
| 5日目 | 次の確認問題を解く | 税金控除前の現金を残余財産と断定していないか |
確認問題
T社の解散直前の残高は、現金180、土地400、買掛金140です。土地の法人税上の帳簿価額も400です。解散日現在の処分価格は460で、後日同額で売却します。処分費用と税額は計算しません。
- 処分価格への評価差額はいくらですか。
- 財産目録の資産、負債、正味資産はいくらですか。
- 学習用の組替仕訳を示してください。
- 土地売却時の清算帳簿上の損益と、法人税上の譲渡益はいくらですか。
- 土地売却と買掛金支払後の現金はいくらですか。その全額を残余財産と断定できますか。
答え
- 460-400=60です。
- 資産は180+460=640、負債は140、正味資産は640-140=500です。
- 借方「土地60」、貸方「清算開始時評価差額60」です。
- 清算帳簿上は460-460=0、法人税上は460-400=60の譲渡益です。
- 現金は180+460-140=500です。税額や清算費用を計算していないため、500全額を最終残余財産とは断定できません。
9.今回のまとめ
- 清算人は、解散日現在の財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受けます。
- 財産目録の財産には、処分価格を付すことが困難な場合を除き、解散日現在の処分価格を付します。
- 財産目録は資産・負債・正味資産、貸借対照表は資産・負債・純資産に区分します。
- 本設例では、清算帳簿の土地は700、法人税上の帳簿価額は500です。
- 700で売却すると、清算帳簿上の売却損益は0でも、法人税上の譲渡益は200です。
- 別表四の調整は、評価差額が申告書の出発点となる利益に含まれているかを確認して行います。
清算では、一つの金額だけを追うと混乱します。
会社法上の処分価格と法人税上の帳簿価額を分けて残し、売却時までつなげてください。
