役員変更登記を個人の司法書士へ依頼した場合の請求額と支払額を、仕訳まで整理します。
請求・精算額54,000円と、司法書士へ振り込む50,937円は一致しません。差額3,063円は値引きではなく、会社が源泉徴収し、後日国へ納める所得税および復興特別所得税です。
1.請求書を三つに分ける
最初に「報酬」「報酬に対する消費税等」「会社が負担する登録免許税」を分けます。
| 項目 | 金額 | 税抜経理の科目 | 源泉徴収の計算対象 |
|---|---|---|---|
| 司法書士報酬 | 40,000円 | 支払手数料 | 対象 |
| 消費税等 | 4,000円 | 仮払消費税等 | 明確に区分されているため、本設例では対象から除外 |
| 登録免許税の立替額 | 10,000円 | 租税公課 | 会社が本来納付すべき実費であることが明らかなため対象外 |
| 合計 | 54,000円 | 三つの科目へ区分 | 計算対象額は40,000円 |
国税庁「No.2801 司法書士等に支払う報酬・料金」は、会社が本来納付すべき登録免許税等に充てることが明らかな金額について、源泉徴収は不要としています。
役員に関する事項の変更登記に対する登録免許税は、登録免許税法別表第一第24号(一)カにより、申請1件につき30,000円、資本金1億円以下の会社は10,000円です。資本金3,000万円のT社は後者に該当します。
2.源泉徴収税額3,063円を計算する
2026年中に居住者である個人の司法書士へ支払う本設例では、同一人に対する1回の報酬額から10,000円を控除し、残額へ10.21%を掛けます。1円未満の端数が生じた場合は切り捨てます。
(40,000円-10,000円)×10.21%=3,063円
計算式で控除する10,000円と、請求明細にある登録免許税10,000円は別物です。前者は源泉徴収税額の計算上の控除額、後者はT社が負担する税金です。設例では偶然同額になっています。
国税庁「No.6929 消費税等と源泉所得税および復興特別所得税」によれば、報酬と消費税等が明確に区分されていれば、消費税等を除いた報酬額だけを源泉徴収の対象にして差し支えありません。
| 請求書の表示 | 計算対象額 | 計算 | 源泉徴収税額 |
|---|---|---|---|
| 報酬40,000円と消費税等4,000円を明確に区分 | 40,000円 | (40,000-10,000)×10.21% | 3,063円 |
| 報酬等44,000円とのみ表示 | 44,000円 | (44,000-10,000)×10.21% | 3,471円 |
二段目は、報酬と消費税等が区分されていない場合の比較です。本設例の仕訳には一段目の3,063円を使います。
3.司法書士への振込額は50,937円
請求・精算額から源泉徴収税額を差し引きます。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 報酬 | 税抜報酬 | 40,000円 |
| 消費税等 | 40,000円×10% | 4,000円 |
| 登録免許税 | 明確に区分された立替額 | 10,000円 |
| 請求・精算額 | 40,000+4,000+10,000 | 54,000円 |
| 源泉徴収税額 | 差し引く金額 | △3,063円 |
| 振込額 | 54,000-3,063 | 50,937円 |
2026年10月26日の仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 支払手数料 | 40,000円 | 預り金 | 3,063円 |
| 仮払消費税等 | 4,000円 | 普通預金 | 50,937円 |
| 租税公課 | 10,000円 | ||
| 合計 | 54,000円 | 合計 | 54,000円 |
借方合計と貸方合計は、ともに54,000円です。預り金3,063円は会社の収益でも費用の値引きでもなく、国へ納付するまでの負債です。
4.預り金を国へ納付する
源泉徴収した税額は、原則として支払った月の翌月10日までに納付します。T社は2026年10月26日に支払っているため、本設例の納付期限は2026年11月10日です。
給与の支給人員が常時10人未満で、申請により納期の特例の適用を受けている場合は期限が異なります。要件と期限は、国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」で確認できます。
2026年11月10日に3,063円を納付した仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金 | 3,063円 | 普通預金 | 3,063円 |
関連科目の残高を確認します。
| 時点 | 普通預金 | 仮払消費税等 | 預り金 | 費用累計 |
|---|---|---|---|---|
| 取引前 | 100,000円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 10月26日の支払後 | 49,063円 | 4,000円 | 3,063円 | 50,000円 |
| 11月10日の納付後 | 46,000円 | 4,000円 | 0円 | 50,000円 |
普通預金の減少額は、司法書士への50,937円と国への3,063円を合わせた54,000円です。請求・精算額と一致します。
5.源泉徴収と仕入税額控除は別に判定する
本設例では、司法書士報酬に標準税率10%を適用します。登録免許税10,000円には消費税等を上乗せせず、仮払消費税等も計上しません。
国税庁「No.6303 消費税および地方消費税の税率」は、消費税等の標準税率を10%としています。また、国税庁「No.6355 課税売上げと課税仕入れ」によれば、仕入税額控除には原則として一定事項を記載した帳簿と適格請求書等の保存が必要です。
消費税等を報酬と区分して源泉徴収の対象から外せるかという判定と、仕入税額控除を受けられるかという判定は別です。本設例では、後者の要件も満たすと仮定しています。
免税事業者、簡易課税制度の適用事業者、税込経理の事業者などでは処理が変わります。税込経理では、報酬と消費税等の合計44,000円を支払手数料として処理し、仮払消費税等を別計上しない方法があります。登録免許税10,000円は租税公課として区分します。
6.間違えやすい四つの点
| 間違えやすい処理 | 問題点 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 54,000円の全額を支払手数料にする | 報酬、消費税等、登録免許税が混ざる | 請求明細を三つに分ける |
| 請求額54,000円をそのまま源泉計算に使う | 明確に区分された消費税等と登録免許税の除外、計算上の10,000円控除が反映されない | 対象額40,000円を確定し、そこから10,000円を控除する |
| 二つの10,000円を同じものと考える | 登録免許税と計算上の控除額を混同する | 実費の除外と法定計算を別の行にする |
| 50,937円を振り込んで処理を終える | 預り金3,063円が残ったままになる | 納付日と納付後残高ゼロまで確認する |
実務では、依頼先が個人か法人か、請求書の表示、登録免許税の負担者、消費税の課税方式、納期の特例の有無を資料から確認してください。不明点がある場合は、所轄税務署、税理士、司法書士などへ個別に確認する必要があります。
