第212回では、残余財産がある完全子会社の清算を扱いました。今回は、負債が資産を上回る子会社です。
親会社の貸付金と子会社株式は別の資産です。債権放棄による損失と株式の損失を分け、会計と法人税も別々に判定します。
1.貸付金の回収と残余財産を分ける
| 区分 | 科目 | 金額 |
|---|---|---|
| 資産 | 現金 | 500 |
| 負債 | 外部債務 | 300 |
| 純資産 | 資本金 | 200 |
- P社への返済原資:現金500-外部債務300=200
- 貸付金の回収不能額:500-200=300
- 株主への残余財産:500-300-200=0
S社からP社へ支払う200は、貸付金の返済です。株主として受け取る残余財産ではありません。
この計算は、P社貸付金が外部債務に契約上劣後するという設例の前提によります。一般に外部債務が親会社借入金より優先するわけではありません。担保、租税債権、契約および債権者間の合意を確認します。
2.通常清算へ進めるかを先に確認する
会社法484条、510条、511条では、清算株式会社の財産で債務を完済できないことが明らかになった場合の破産手続開始の申立てと、債務超過の疑いがある場合の特別清算開始の申立てが定められています。
本設例では、解散前に300を免除します。免除後は資産500、負債500、純資産0となるため、すべての債務を弁済できることを確認した上で通常清算へ進む前提です。
| 順序 | 処理 | 残高の確認 |
|---|---|---|
| 1 | 財産、債務、税金、清算費用を調査する | 免除前は300の債務超過 |
| 2 | P社が回収不能部分300を免除する | 資産500、負債500 |
| 3 | S社が解散し、債権者保護手続を行う | 未計上債務がないか再確認 |
| 4 | 外部債務300とP社借入金200を弁済する | 資産、負債、純資産はいずれも0 |
税金や清算費用を見落とすと、免除後も債務を完済できません。会計上の債務超過額だけで通常清算の可否を決めないことが大切です。
3.親会社と子会社の仕訳
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」は、債務者の財政状態などに応じて貸倒見積高を算定することを定めています。また、市場価格のない株式等は、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに減額します。
(1)回収不能見込額と株式評価損を計上する
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 300 | 貸倒引当金 | 300 |
| S社株式評価損 | 200 | S社株式 | 200 |
貸付金500から貸倒引当金300を控除した純額は200です。S社には株主へ分配できる財産がないため、本設例では株式の実質価額を0として200を減額します。
回収不能や株式価値の低下が以前の決算ですでに明らかだった場合は、その時点で引当てや減額が必要だった可能性があります。本設例では、当期に回収見積りが確定したものとします。
(2)債権放棄が効力を生じる
| 会社 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| P社 | 貸倒引当金 | 300 | S社貸付金 | 300 |
| S社 | P社借入金 | 300 | 債務免除益 | 300 |
P社はすでに貸倒引当金300を計上しているため、債権放棄時に同じ損失をもう一度計上しません。事前の引当てがない場合は、「貸倒損失300/S社貸付金300」とする処理が考えられます。
(3)残った債務を弁済する
| 会社 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| S社 | 外部債務 P社借入金 |
300 200 |
現金 | 500 |
| P社 | 現金 | 200 | S社貸付金 | 200 |
S社の現金と債務は0になります。債務免除益300により繰越利益剰余金はマイナス200となり、資本金200と合わせた純資産合計も0です。
4.残高で二重計上を防ぐ
| 科目 | 放棄前 | 放棄後 | 弁済後 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 500 | 500 | 0 |
| 外部債務 | 300 | 300 | 0 |
| P社借入金 | 500 | 200 | 0 |
| 純資産合計 | △300 | 0 | 0 |
| 貸借一致 | 500=800+△300 | 500=500+0 | 0=0+0 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 株式と貸付金の当初合計 | 200+500=700 |
| 貸付金に係る損失 | 300 |
| 株式評価損 | 200 |
| 現金回収額 | 200 |
| 検算 | 700-300-200=200 |
P社の会計上の損失は合計500です。これに回収額200を加えると、当初の投下額700と一致します。
5.法人税は三つの区分を混ぜない
法人税基本通達9-6-1(4)は、債務超過が相当期間継続し、弁済を受けられないと認められる場合に、書面で明らかにされた債務免除額を貸倒れとして損金算入する取扱いを示しています。
単に100%子会社であることや、貸借対照表が債務超過であることだけでは足りません。資産状況、支払能力、担保・保証、弁済順位、回収経緯および免除額を総合して判定します。
法人税基本通達9-4-1は、子会社の整理に伴う損失負担について、より大きな損失を避けるためにやむを得ないなど相当な理由がある場合、その経済的利益を寄附金に該当しないものとしています。
| 区分 | P社 | S社 |
|---|---|---|
| 9-6-1(4)の貸倒れ | 要件を満たす免除額を損金算入 | 債務免除益を益金算入 |
| 9-4-1の子会社整理損 | 相当な理由があれば寄附金に該当しない損失として処理 | 債務免除益を益金算入 |
| 寄附金 | 法人による完全支配関係では対応額を全額損金不算入 | 対応する受贈益を益金不算入 |
法人税基本通達4-2-5によれば、親会社側の経済的利益が9-4-1などにより寄附金に該当しない場合、子会社側の受贈益には法人税法25条の2の益金不算入を適用しません。
反対に、債権放棄が寄附金と判定された場合は、国税庁タックスアンサーNo.5281のとおり、法人による完全支配関係がある内国法人間では、対応する寄附金が親会社で全額損金不算入となり、子会社の受贈益は益金不算入となります。
本設例では、貸倒引当金繰入300を税務上加算済みであるため、債権放棄時に貸倒れ300を認容して減算します。会計仕訳に新たな費用が現れない場合でも、申告調整による認容は別に検討します。
判断資料を残す
| 確認事項 | 資料の例 |
|---|---|
| 実際の財産状態 | 換価価額による貸借対照表、債権者一覧、偶発債務の調査 |
| 回収可能額 | 現金収支表、担保・保証、劣後合意、弁済順位の資料 |
| 免除額の合理性 | 500のうち300だけを免除する計算過程 |
| 整理の必要性 | 清算計画、代替案との比較、取締役会等の議事録 |
| 免除の成立 | 債務免除通知書、到達記録または合意書 |
国税庁「再建支援等事案に係る検討項目及びその概要」でも、実質債務超過、損失負担の必要性、支援額および負担割合などが確認項目とされています。
6.債務免除益と欠損金は事業年度で判定する
S社の会計上の繰越利益剰余金マイナス500と、税務上の繰越欠損金は同じとは限りません。別表五(一)、別表七(一)および過去の申告調整を確認します。
本設例では、通常の繰越欠損金を債務免除益300に充てる前提です。実際の控除額は、欠損金の発生時期、申告要件、控除期限および控除限度額によって変わります。
法人税基本通達12-3-7から12-3-9によれば、法人税法59条4項の「残余財産がないと見込まれる」かどうかは、清算中に終了する各事業年度末の現況で判定します。
債権放棄日が解散前というだけで、59条4項を一律に適用できないとはいえません。解散によって通常の事業年度が直ちに区切られるとは限らないためです。債務免除益が計上された事業年度が清算中に終了するか、その期末に残余財産がないと見込まれるか、他の欠損金規定が適用されるかを時系列で確認します。
残余財産確定時に未処理欠損金額が残る場合は、完全支配関係などの要件を満たせば法人税法57条2項によるP社への引継ぎを検討します。S社ですでに控除した欠損金や、59条4項で損金算入した金額が重ねて引き継がれるわけではありません。
7.子会社株式評価損200は税務上損金不算入
P社は会計上、S社株式200を減額します。しかし、会計上の評価損と法人税上の評価損は別です。
国税庁タックスアンサーNo.5574および法人税法33条5項によれば、完全支配関係がある内国法人のうち、清算中の法人や解散することが見込まれる法人の株式等に係る評価損は損金算入できません。
本設例では清算計画が客観的に確定しているため、会計上の株式評価損200を申告加算します。さらに、残余財産の確定まで完全支配関係が続く場合は、法人税法61条の2により株式の譲渡損益を計上しません。税務簿価200を清算時の追加損金にする処理ではありません。
8.連結では内部取引を消去する
連結財務諸表では、P社貸付金とS社借入金を相殺し、内部の債権放棄に伴う損益も消去します。P社個別の株式評価損も、投資と資本の相殺消去を基礎に処理します。
| 個別上の項目 | 連結上の処理 |
|---|---|
| P社貸付金とS社借入金 | 内部債権・債務として相殺 |
| 貸倒引当金関係の損失と債務免除益 | 内部取引に係る損益として消去 |
| S社株式とS社純資産 | 投資と資本の相殺消去を基礎に処理 |
| P社への200の返済 | 連結グループ内の現金移動 |
| 外部債務300の支払 | 連結現金を300減額 |
S社の過去の損失は、連結期間中の各期に連結損益へ取り込まれています。P社個別で計上した損失500を、そのまま連結損失へ追加するわけではありません。
9.5日練習
| 日 | 練習 |
|---|---|
| 1日目 | 現金500、優先する外部債務300、親会社借入金500から回収額と免除額を計算する |
| 2日目 | S社の債務免除時の仕訳を書く |
| 3日目 | P社が貸倒引当金300を計上済みの場合の仕訳を書く |
| 4日目 | 債権放棄が寄附金と判定された場合のP社・S社の税務処理を答える |
| 5日目 | 現金620、優先する外部債務270、親会社借入金500、株式簿価200の場合の回収額と会計上の損失を計算する |
練習の答え
- 回収額は500-300=200、免除額は500-200=300です。
- 借方はP社借入金300、貸方は債務免除益300です。
- 借方は貸倒引当金300、貸方はS社貸付金300です。
- 法人による完全支配関係が続く前提では、P社の対応する寄附金は全額損金不算入、S社の受贈益は益金不算入です。
- 回収額は620-270=350、免除額は500-350=150です。株式の実質価額を0とすれば、会計上の損失は150+200=350です。投下額700-回収額350=損失350で検算できます。
まとめ
債務超過子会社の清算では、先に貸付金の回収可能額を求めます。本設例では、P社は貸付金500のうち200を回収し、回収不能部分300を免除します。株主として受け取る残余財産はありません。
会計上は貸付金と株式の損失を分けます。税務上は、貸倒れ、子会社整理損、寄附金のどれに当たるかを資料に基づいて判定します。
回収可能額、仕訳、税務区分、欠損金の事業年度。この順に確認すると、二重計上と時期の誤りを防げます。
