第195回では、1株当たり利益(EPS)の分子を考えるとき、親会社株主に帰属する当期純利益が重要になることを確認しました。今回は、その利益を計算する土台となる連結会計を扱います。
連結財務諸表は、親会社と子会社の個別財務諸表を合計するだけでは完成しません。企業集団の内部にある投資と資本、債権と債務、売上と仕入、未実現損益を消去します。まずは、投資と資本の相殺消去、のれん、非支配株主持分の順に整理しましょう。
基準日と前提:本稿は、2026年9月28日現在に公表されている日本基準と日本の法人税法を前提とした一般的な学習用解説です。IFRSによる処理や、個別の企業結合、連結範囲、税効果、法人税申告を判断するものではありません。実際の処理では、契約内容、適用する会計基準、最新の法令を確認してください。
先に結論:合計してから、企業集団の内部を消す
| 論点 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 連結の範囲 | 議決権比率だけでなく、意思決定機関を実質的に支配しているかで判定する |
| 作成の出発点 | 親会社と子会社の個別財務諸表を基礎にする |
| 資本連結 | 親会社の子会社に対する投資と、対応する子会社の資本を相殺する |
| 非支配株主持分 | 子会社の資本のうち、親会社に帰属しない部分を純資産に表示する |
| のれん | 投資額と、投資に対応する子会社の時価純資産との差額から計算する |
| 内部取引 | 債権・債務、取引高、外部へ未販売の資産に含まれる未実現損益を消去する |
| 法人税 | 連結上の消去と、各法人の所得計算やグループ通算制度を分けて考える |
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」は、連結財務諸表を、支配従属関係にある企業集団を単一の組織体とみなして作成するものとしています。
1.個別財務諸表と連結財務諸表の違い
| 項目 | 個別財務諸表 | 連結財務諸表 |
|---|---|---|
| 報告単位 | 親会社、子会社それぞれの法人 | 親会社と子会社からなる企業集団 |
| 子会社株式 | 親会社の資産として表示する | 対応する子会社資本と相殺消去する |
| グループ内売上 | 売手の売上として計上する | 企業集団内部の取引として消去する |
| グループ内債権 | 債権者の資産として計上する | 対応する債務と相殺消去する |
連結修正仕訳は、通常、親会社や子会社の総勘定元帳に記帳する仕訳ではありません。各社の個別財務諸表を残したまま、連結精算表上で企業集団としての表示に直す処理です。
同一環境下で行われた同一の性質の取引については、親会社と子会社の会計方針を原則として統一します。また、親会社は原則としてすべての子会社を連結しますが、連結範囲や連結手続には重要性の原則が適用されます。
2.設例1:投資と資本の相殺消去
以下は学習用の設例です。金額の単位は万円とし、消費税は考慮しません。
| 株式取得 | P社がS社の既存株式80%を外部株主から960で取得する |
| 取得時点 | 連結会計年度の期首 |
| S社の資本金 | 600 |
| S社の資本剰余金 | 200 |
| S社の利益剰余金 | 200 |
| 時価評価 | 識別可能な資産・負債の時価と帳簿価額は一致する |
| その他 | 取得関連費用、税効果、段階取得、評価・換算差額等はない |
P社の個別仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 960 | 現金預金 | 960 |
| 合計 | 960 | 合計 | 960 |
既存株式が株主間で移転するため、S社には、この株式取得に伴う仕訳はありません。
のれんと非支配株主持分の計算
S社の支配獲得時の時価純資産は、600+200+200=1,000です。
| 項目 | 算式 | 金額 |
|---|---|---|
| 時価純資産 | 600+200+200 | 1,000 |
| 親会社持分 | 1,000×80% | 800 |
| 非支配株主持分 | 1,000×20% | 200 |
| のれん | 投資額960-親会社持分800 | 160 |
投資額960と比べるのは、S社の時価純資産1,000の全額ではなく、投資に対応する親会社持分800です。
連結精算表上の相殺消去
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金 資本剰余金 利益剰余金 のれん |
600 200 200 160 |
子会社株式 非支配株主持分 |
960 200 |
| 合計 | 1,160 | 合計 | 1,160 |
連結精算表上では、S社の支配獲得時資本1,000を消去し、親会社に帰属しない200を非支配株主持分として表示します。
| 項目 | 修正前 | 修正 | 連結上の残高 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 960 | -960 | 0 |
| S社の支配獲得時資本 | 1,000 | -1,000 | 0 |
| のれん | 0 | +160 | 160 |
| 非支配株主持分 | 0 | +200 | 200 |
3.のれんの償却と当期利益の帰属
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第32項では、のれんを資産に計上し、20年以内の効果が及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却するとしています。
ここでは、効果が及ぶ期間を10年、償却方法を定額法と仮定します。10年は設例上の年数であり、すべての企業結合に一律に適用する年数ではありません。
年間償却額:160÷10年=16
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| のれん償却額 | 16 | のれん | 16 |
| 合計 | 16 | 合計 | 16 |
期末ののれん残高は、160-16=144です。
S社の当期純利益が150の場合
P社自身の当期損益を0、S社の連結修正後の当期純利益を150とします。配当、その他の純資産変動、追加の連結修正はないものとします。
非支配株主に帰属する当期純利益は、150×20%=30です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 非支配株主に帰属する当期純利益 | 30 | 非支配株主持分 | 30 |
| 合計 | 30 | 合計 | 30 |
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 連結損益計算書の当期純利益 | 150-のれん償却16 | 134 |
| 非支配株主帰属分 | 150×20% | 30 |
| 親会社株主帰属分 | 134-30 | 104 |
| 親会社株主帰属分の別検算 | 150×80%-16 | 104 |
| 帰属額の合計 | 104+30 | 134 |
| 期末非支配株主持分 | 取得時200+当期利益30 | 230 |
| 期末のれん | 取得時160-償却16 | 144 |
前回のEPSにつなげると、この設例では、親会社株主に帰属する当期純利益104が連結EPSの分子を考える出発点になります。
4.設例2:内部取引と未実現利益の消去
ここからは設例1と切り離した別の設例です。P社がS社へ商品を掛けで300販売したとします。P社にとっての原価は240で、期末時点では商品の25%がS社に残り、代金300も未決済です。消費税と税効果は考慮しません。
債権と債務の消去
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 300 | 売掛金 | 300 |
| 合計 | 300 | 合計 | 300 |
内部売上の消去
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 300 | 売上原価 | 300 |
| 合計 | 300 | 合計 | 300 |
期末商品に含まれる未実現利益
内部取引全体の利益は、300-240=60です。その25%が期末商品に残っているため、未実現利益は60×25%=15となります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 15 | 商品 | 15 |
| 合計 | 15 | 合計 | 15 |
S社の個別財務諸表にある期末商品は300×25%=75です。一方、企業集団にとっての原価は240×25%=60です。75-15=60となり、商品残高を検算できます。
この取引は親会社が売手となるダウンストリーム取引なので、消去した未実現利益15は親会社株主側に帰属します。非支配株主のいる子会社が売手となるアップストリーム取引では、連結会計基準第38項により、未実現損益を親会社と非支配株主の持分比率に応じて配分します。
5.連結会計と法人税を混同しない
| 項目 | 連結会計 | グループ通算制度 |
|---|---|---|
| 目的 | 企業集団を一つの報告単位として表示する | 一定の完全支配関係にある法人間で法人税上の損益通算などを行う |
| 主な範囲 | 会計上の支配関係にある子会社 | 法令上の要件を満たす完全支配関係にある法人 |
| 申告単位 | 税務申告制度ではない | 各通算法人が個別に法人税額を計算し、申告する |
| 内部取引 | 連結表示上、取引高や未実現損益を消去する | 連結修正仕訳をしただけでは各法人の課税関係は変わらない |
国税庁の「No.5900 グループ通算制度の概要」は、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位とし、各法人が個別に法人税額を計算・申告しながら、損益通算などの調整を行う制度と説明しています。
本稿では、P社がS社株式の80%を保有し、残る20%を外部株主が保有しています。この前提では100%の完全支配関係がないため、両社はグループ通算制度の対象となる関係ではありません。一方、P社がS社を支配しているため、会計上はS社を連結します。
また、P社が取得したのはS社の既存株式です。取得関連費用を考慮しない本設例では、P社の個別財務諸表上の子会社株式は960ですが、連結上ののれん160はP社やS社の個別帳簿には計上されません。そのため、連結上ののれん償却額16が、P社またはS社の所得計算でそのまま損金になるわけではありません。法人税法上の資産調整勘定も、連結上ののれんが生じただけで自動的に計上されるものではありません。
内部取引の未実現利益を連結上消去しても、売手側では個別の所得計算が行われます。この差額については、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に従い、税効果を検討します。本稿の設例では、売手の法定実効税率や課税所得を設定していないため、繰延税金資産の金額は計算していません。
6.間違えやすいポイント
| 誤り | 正しい整理 |
|---|---|
| 80%取得なので、子会社資本も80%だけ消す | 連結精算表上は子会社資本を消去し、20%分を非支配株主持分として表示する |
| のれんを960-1,000で計算する | 投資額960から、投資に対応する親会社持分800を控除する |
| 内部売上だけを消し、商品に残る利益はそのままにする | 外部へ未販売の資産に含まれる未実現損益も消去する |
| 連結修正仕訳を各社の帳簿へ記帳する | 個別帳簿と区別し、通常は連結精算表上で処理する |
| 連結子会社なら法人税も自動的に一括申告になる | 会計上の連結範囲と、グループ通算制度の適用要件を別々に判定する |
計算するときは、「時価純資産の確定→親会社と非支配株主への配分→投資額との差額」の順序を固定すると、数字の置き場所を見失いにくくなります。
7.折れずに進める5日練習
| 日 | 練習内容 | 確認点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 個別財務諸表と連結財務諸表の違いを説明する | 「合計して内部を消す」と説明できるか |
| 2日目 | 時価純資産、親会社持分、非支配株主持分を再計算する | 1,000、800、200になるか |
| 3日目 | 支配獲得日の相殺消去仕訳を書き、借貸を合計する | 借方・貸方がともに1,160になるか |
| 4日目 | 当期利益とのれん償却後の期末残高を再計算する | 親会社株主帰属利益104、のれん144、非支配株主持分230になるか |
| 5日目 | 個別上の商品75を企業集団の原価60へ修正する | 未実現利益15を仕訳で消去できるか |
最初から複数年度の開始仕訳や税効果まで同時に解く必要はありません。まず支配獲得日の資本連結を固め、当期利益、内部取引、税効果を一つずつ追加しましょう。
まとめ
- 連結財務諸表は、親会社と子会社からなる企業集団を一つの組織体として表示する
- 投資と対応する子会社資本を相殺し、親会社に帰属しない部分を非支配株主持分として表示する
- 設例ののれんは、投資額960-時価純資産の親会社持分800=160となる
- 内部取引では、債権債務と取引高に加え、外部未販売分の未実現損益も消去する
- 連結会計と法人税の所得計算、グループ通算制度は別々に判定する
