第195回 1株当たり利益(EPS)ゼロ入門:期中平均株式数・自己株式・潜在株式を計算と注記で整理(5日練習付き)

第194回では、ストック・オプションの付与から権利確定、行使、失効までを扱いました。今回は、その新株予約権などを1株当たり当期純利益(EPS)の計算にどう反映するかを確認します。

基準日:2026年9月27日。本稿は、日本基準を採用する株式会社を想定した一般的な学習用の記事です。設例は計算方法を学ぶための仮定であり、特定企業の数値ではありません。計算途中では丸めず、1株当たり金額は最後に小数第3位を四捨五入します。

最初に押さえる3点

  • 当期純利益は一定期間の成果なので、分母には期末株式数ではなく期中平均株式数を使う。
  • 自己株式は期中平均株式数から控除する。
  • 未行使の新株予約権は基本EPSに含めず、希薄化効果がある場合に潜在株式調整後EPSへ反映する。

EPSは開示のための計算です。計算しただけでは仕訳は発生しません。

基本EPSの計算

1株当たり当期純利益=普通株式に係る当期純利益÷普通株式の期中平均株式数

項目 計算
普通株式に係る当期純利益 損益計算書上の当期純利益-普通株主に帰属しない金額
普通株式の期中平均株式数 普通株式の期中平均発行済株式数-期中平均自己株式数

連結財務諸表では、損益計算書上の当期純利益を「親会社株主に帰属する当期純利益」と読み替えます。種類株式がある場合には、普通株式と同等の株式や優先配当額などについて別の検討も必要です。

根拠は、企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」第12項、第14項、第17項です。

3つの指標を区別する

指標 表す内容 分母
1株当たり当期純利益(基本EPS) 普通株主に関する一会計期間の成果 普通株式の期中平均株式数
潜在株式調整後1株当たり当期純利益 希薄化する潜在株式の行使や転換を仮定した成果 期中平均株式数+普通株式増加数
1株当たり純資産額 期末時点の普通株式に係る純資産 期末発行済普通株式数-期末自己株式数

当期純利益には期中平均株式数、期末純資産には期末株式数を対応させます。

分子から控除する金額

確認項目 取扱い
個別財務諸表 当期純利益から普通株主に帰属しない金額を控除する
連結財務諸表 親会社株主に帰属する当期純利益から普通株主に帰属しない金額を控除する
配当優先株式 会計基準に従って算定した優先配当額などを控除する
普通株式への配当 普通株主に帰属する利益の配分であり、通常は分子から控除しない

種類株式がある場合は、累積型か非累積型か、参加型かなどによって計算が変わります。定款、発行条件、配当決議を確認してから分子を決めます。

設例1:期中平均株式数を計算する

前提

  • 事業年度:4月1日から翌年3月31日まで
  • 期首発行済普通株式:120,000株
  • 期首自己株式:20,000株
  • 7月1日に普通株式24,000株を発行
  • 10月1日に自己株式8,000株を取得
  • 当期純利益:45,600,000円
  • 普通株主に帰属しない金額:0円
  • 取引はいずれも月初に行われ、月数による加重平均が合理的であるものとする

発行済普通株式数から自己株式数を控除した数を、ここでは「流通普通株式数」と表記します。

株式数の増減を加重する方法

内訳 計算 期中平均への影響
期首の流通普通株式 120,000株-20,000株 100,000株
7月1日の新株発行 24,000株×9か月÷12か月 +18,000株
10月1日の自己株式取得 8,000株×6か月÷12か月 -4,000株
期中平均株式数 100,000株+18,000株-4,000株 114,000株

期間別に並べる検算

期間 流通普通株式数 加重後
4月~6月 100,000株 100,000株×3÷12=25,000株
7月~9月 124,000株 124,000株×3÷12=31,000株
10月~3月 116,000株 116,000株×6÷12=58,000株
合計 ― 114,000株

どちらの方法でも114,000株になります。期末の流通普通株式数116,000株を、そのまま分母にしないことが大切です。

基本EPS:45,600,000円÷114,000株=400.00円

企業会計基準適用指針第4号第13項は、日数による方法のほか、合理的な基礎に基づく月数や月末株式数の平均による方法を認めています。月中に取引があるときは、月数による計算が合理的かを確認します。

設例2:ストック・オプションの希薄化

設例1に加え、次のストック・オプションが期首から期末まで存在したものとします。

  • 行使時に発行される普通株式:20,000株
  • 1株当たり行使価格:600円
  • オプションが存在する期間の平均株価:1,000円
  • 権利確定済みで、将来提供される勤務サービスに対応する公正な評価額はない

新株予約権は基本EPSの分母には含めません。潜在株式調整後EPSでは、行使による仮定入金額で普通株式を買い戻したものとする「自己株式方式」を使います。

手順 計算 結果
行使を仮定した発行株式数 20,000株 20,000株
行使による仮定入金額 20,000株×600円 12,000,000円
仮定入金額で買い戻せる株式数 12,000,000円÷1,000円 12,000株
普通株式増加数 20,000株-12,000株 8,000株

この新株予約権について、分子の当期純利益調整額はありません。

潜在株式調整後EPS:45,600,000円÷(114,000株+8,000株)=373.77円

373.77円は基本EPSの400.00円を下回るため、希薄化効果があります。平均株価が行使価格以下なら希薄化効果はなく、潜在株式調整後EPSの計算には含めません。

一定期間の勤務後に権利が確定するストック・オプションも、希薄化効果があれば、普通株式増加数の計算上は付与時点から行使期間が始まったものとして扱います。その場合の仮定入金額には、公正な評価額のうち将来提供されるサービスに対応する部分を含めます。権利確定前のものを単純な行使価格だけで計算しないようにします。詳しくは適用指針第22項を確認してください。

潜在株式ごとの調整

潜在株式など 分子の調整 分母の調整
新株予約権・ストック・オプション 通常はなし 自己株式方式による普通株式増加数
転換証券 支払利息等から税額相当額を控除した金額など 転換を仮定した普通株式増加数
条件付発行可能普通株式・潜在株式 契約内容に応じて判定 期末を条件期間末とした場合の条件達成状況などに応じて判定

転換負債に係る税額相当額は、適用指針第25項により法定実効税率を用いて算定します。法定実効税率は事業年度、所在地、法人区分などで変わるため、一律の数値は使えません。

潜在株式が複数ある場合は、各発行単位に分け、希薄化効果の大きいものから順に加えて最大の希薄化効果を反映します。潜在株式が存在しない場合、希薄化効果がない場合、または1株当たり当期純損失の場合は、その旨を開示し、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は開示しません。

EPSの計算では仕訳をしない

EPSは、財務諸表の利益と株式関係資料を使う開示計算です。潜在株式の行使や転換は仮定にすぎないため、帳簿には記録しません。

事象 仕訳 帳簿への影響
実際の新株発行・自己株式取得 取引時に必要 現金預金、資本金、自己株式などが変動する
期中平均株式数の計算 なし 変動しない
潜在株式の行使・転換を仮定した計算 なし 変動しない
実際の権利行使・転換 取引条件に応じて必要 現金預金、新株予約権、資本金などが変動する

EPSの計算について0円の仕訳を作る必要もありません。実際の株式取引と、開示上の仮定計算を分けます。

株式数が動いたときの取扱い

出来事 基本EPSの分母 注意点
時価発行増資 発行時から期間に応じて加算 払込額ではなく株式数を加重する
自己株式の取得 取得時から期間に応じて控除 期中平均自己株式数を使う
新株予約権の実際の行使 行使時から普通株式数に含める 行使前は基本EPSの株式数に含めない
株式分割・株式併合 表示する最も古い期間の期首に行われたものと仮定する 貸借対照表日後に行われた場合も同様に調整する
条件付発行可能普通株式 特定の条件(単に時間の経過により達成される条件を除く)を満たした時点から含める 潜在株式調整後EPSでは別に条件達成状況を判定する

法人税の所得や非上場株式評価とは別の数字

項目 目的・出発点 EPSとの関係
会計上の基本EPS 普通株主に関する期間損益の表示 普通株式に係る当期純利益と期中平均株式数を使う
法人税の所得金額 会計上の利益・欠損に申告調整を加えて計算する EPSを法人税申告書へ転記するものではない
類似業種比準価額の「1株当たりの利益金額」 取引相場のない株式を相続税・贈与税上評価するための数値 法人税の課税所得金額などを基礎とする別の計算

国税庁「別表四の記載の仕方(令和8年4月1日以後終了事業年度等分)」では、損益計算書に掲げた当期利益または当期欠損を出発点とし、益金・損金に関する申告調整を行う構造が示されています。EPSの算定だけを理由とする申告調整はありません。

財産評価基本通達183の「1株当たりの利益金額」は、直前期末以前1年間の法人税の課税所得金額から非経常的な利益を除き、所定の金額を加算する方法などで計算します。会計上のEPSとは目的、分子、分母が異なり、相互に代用できません。

開示前に確認する5項目

  1. 開示制度:会社法、金融商品取引法のどの規定が適用されるかを確認する。両方が関係する会社もある。
  2. 分子:当期純利益、普通株主に帰属しない金額、連結の場合は親会社株主に帰属する利益を照合する。
  3. 分母:株式事務資料、自己株式台帳、増資日、取得日、行使日から期中平均株式数を再計算する。
  4. 潜在株式:行使価格、平均株価、存在期間、権利確定条件、将来サービスに対応する公正な評価額を確認する。
  5. 注記:算定上の基礎、分子・分母の調整額、希薄化効果がないため除外した潜在株式を確認する。

財務諸表等規則第95条の5の2・第95条の5の3は、1株当たり当期純損益と潜在株式調整後1株当たり当期純利益の注記を定めています。連結財務諸表については、連結財務諸表規則第65条の2・第65条の3を確認します。連結財務諸表を作成する場合には、個別財務諸表側の省略規定にも注意が必要です。

会社法上は、会社計算規則第113条が1株当たり純資産額と1株当たり当期純損益を注記事項としています。ただし、第98条第2項には会社類型や注記表の種類に応じた省略規定があります。非上場かどうかだけで決めず、公開会社、会計監査人設置会社などの区分を確認します。

確認問題

4月1日から翌年3月31日までを事業年度とする会社について、基本EPSと潜在株式調整後EPSを求めてください。

  • 当期純利益:24,000,000円
  • 期首流通普通株式:80,000株
  • 7月1日に普通株式16,000株を発行
  • 1月1日に自己株式8,000株を取得
  • 期首から存在する権利確定済みストック・オプション:10,000株分
  • 行使価格:500円
  • オプションが存在する期間の平均株価:800円
  • 普通株主に帰属しない金額:0円
解答を確認する

期中平均株式数は、80,000株+16,000株×9÷12-8,000株×3÷12=90,000株です。

基本EPSは、24,000,000円÷90,000株=266.67円です。

仮定入金額は10,000株×500円=5,000,000円です。この金額で買い戻せる株式数は、5,000,000円÷800円=6,250株です。したがって、普通株式増加数は10,000株-6,250株=3,750株となります。

潜在株式調整後EPSは、24,000,000円÷(90,000株+3,750株)=256.00円です。基本EPSの266.67円を下回るため、希薄化効果があります。EPSの算定に伴う仕訳はありません。

5日で定着させる練習メニュー

日 取り組む内容 確認点
1日目 基本EPSの分子と分母を書き分ける 当期純利益と法人税の所得金額を混同していないか
2日目 新株発行と自己株式取得を期間加重する 増減方式と期間別方式で同じ結果になるか
3日目 自己株式方式を1問解く 対象株式数ではなく純増加株式数を求めたか
4日目 株式分割、反希薄化、当期純損失の取扱いを確認する 計算と開示の要否を分けて説明できるか
5日目 確認問題を資料なしで解き直す 基本EPS、潜在株式調整後EPS、仕訳不要の順に説明できるか

計算の順番は、「分子を決める」「期中平均株式数を求める」「潜在株式の希薄化を判定する」「注記を確認する」の4段階です。この順番を崩さなければ、発行条件が増えても整理しやすくなります。

一次資料

免責:本稿は一般的な学習用の説明であり、個別企業の会計・税務・法務判断を示すものではありません。実際の計算と開示では、契約条件、種類株式の内容、適用する会計基準、事業年度、会社類型および基準日時点の法令等を確認し、必要に応じて公認会計士、税理士、弁護士などの専門家へ相談してください。