第194回 ストック・オプション会計ゼロ入門:権利確定・行使・失効と法人税のずれを仕訳で整理(5日練習付き)

第193回では、退職給付を勤務期間に配分する考え方を確認しました。今回は、従業員等への報酬として付与するストック・オプションを扱います。

現金の支出がなくても、会社がサービスを受けた期間には費用が生じます。まず会計上の費用と新株予約権を整理し、その後で従業員の所得税と発行会社の法人税を分けて見ていきます。

1.付与から失効までの流れ

時点 会計処理の中心 新株予約権の残高
付与日 公正な評価単価と権利確定見込数を確認する 設例では0円
権利確定日前 受けたサービスに対応する費用を計上する 純資産の部に積み上がる
権利確定日 権利確定数に合わせて累計費用を修正する 確定した権利に対応する金額になる
権利行使日 払込額と対応する新株予約権を払込資本へ振り替える 行使分だけ減少する
権利確定後の失効日 対応する新株予約権を利益へ振り替える 失効分だけ減少する

新株予約権は借入金ではありません。発行会社では、権利行使または失効が確定するまで純資産の部に表示します。

2.用語と3種類の金額を区別する

用語 意味
付与日 ストック・オプションが付与された日。募集新株予約権では会社法上の割当日が該当します。
対象勤務期間 ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間。付与日から権利確定日までの期間です。
権利確定日 勤務条件や業績条件を満たし、権利が確定した日です。
権利行使日 権利者が行使価格に基づく金額を払い込んだ日です。
権利不確定による失効 勤務条件などを満たせず、権利確定前に失効することです。
権利不行使による失効 権利確定後、行使期間中に行使されないまま失効することです。
金額 主な用途 本設例
付与日の公正な評価単価 会計上の報酬費用を測定する 1個300円
権利行使価額 権利者が株式を取得するために払い込む 1株1,000円
権利行使日の株価 税制非適格の場合の権利行使益などを計算する 1株1,500円

オプション自体の価値、株式を取得するための払込額、株式の時価は別の金額です。また、法人税申告で用いる「交付の時等の単価」は税法に従って算定するため、会計上の公正な評価単価と常に一致するわけではありません。本設例では計算を追いやすくするため、いずれも1個300円になるものと仮定します。

3.会計上の費用を計算する

企業会計基準第8号では、従業員等から取得したサービスを、その取得に応じて費用計上します。

公正な評価額 = 付与日の公正な評価単価 × 権利確定見込数

対象勤務期間に定額で配分する場合、期末までの累計費用は次のように計算できます。

期末までの累計費用 = 公正な評価額 × 経過した勤務期間 ÷ 対象勤務期間

公正な評価単価は原則として付与日現在で算定し、所定の条件変更がない限り、その後の株価変動だけを理由に見直しません。一方、勤務条件などを満たせず失効すると見込まれる個数は、重要な変動があれば見直します。

評価に用いる主な情報 内容
行使価格 株式を取得するための払込額
満期までの期間または予想残存期間 評価モデルに応じて用いる期間
算定時点の株価 付与日などにおける対象株式の価額
株価変動性 株価がどの程度変動すると見込まれるか
予想配当 評価期間中に見込まれる配当
無リスク利子率 評価モデルで用いる割引率

未公開企業は、公正な評価単価に代えて、付与日現在の「単位当たりの本源的価値」の見積りを使うことができます。この場合も、付与日後の株価変動に合わせて単価を毎期更新するわけではありません。所定の注記は別途必要です。

4.2年間の設例で仕訳を検算する

次の数値は計算方法を学ぶための設例です。実在企業の取引ではありません。

項目 前提
付与数 100個。1個につき普通株式1株を取得できる
付与日の公正な評価単価 300円
対象勤務期間 2年間。第1期末は付与から1年後、第2期末は権利確定日とする
費用配分 対象勤務期間に定額で配分する
第1期末の権利確定見込数 90個
権利確定数 80個
権利行使価額 1株1,000円
権利行使数 60個
権利確定後の失効数 20個
株式の交付 新株を発行し、払込資本の全額を資本金に計上する。発行費用は考慮しない

第1期末

300円 × 90個 × 1年 ÷ 2年 = 13,500円

第2期末・権利確定日

最終的な権利確定数は80個なので、必要な累計費用は24,000円です。

300円 × 80個 = 24,000円

第2期の費用 = 24,000円 − 13,500円 = 10,500円

60個の権利行使時

対応する新株予約権 = 24,000円 × 60個 ÷ 80個 = 18,000円

払込額 = 1,000円 × 60株 = 60,000円

資本金への振替額 = 60,000円 + 18,000円 = 78,000円

残る20個の失効時

失効分の新株予約権 = 24,000円 × 20個 ÷ 80個 = 6,000円

時点 借方 貸方 借貸検算 仕訳後の新株予約権残高
付与日 仕訳なし 仕訳なし 0円=0円 0円
第1期末 株式報酬費用 13,500円 新株予約権 13,500円 13,500円=13,500円 貸方13,500円
第2期末 株式報酬費用 10,500円 新株予約権 10,500円 10,500円=10,500円 貸方24,000円
60個の権利行使 普通預金 60,000円
新株予約権 18,000円
資本金 78,000円 78,000円=78,000円 貸方6,000円
20個の失効 新株予約権 6,000円 新株予約権戻入益 6,000円 6,000円=6,000円 0円

「株式報酬費用」は設例上の科目名です。権利不行使による失効で生じる利益は、原則として「新株予約権戻入益」などの科目を使い、特別利益に計上します。

実際の新株発行では、会社法上の手続に従い、払込資本を資本金と資本準備金に分けることがあります。自己株式を交付する場合は、自己株式処分差額の検討も必要です。

5.権利確定前と確定後では失効の処理が違う

失効の時期 会計処理 設例での反映
権利確定前 権利確定見込数を修正し、修正後の累計費用と計上済額との差額を損益に反映する 90個の見込みを80個の確定数へ修正し、第2期の費用を10,500円とした
権利確定後 過去の報酬費用は取り消さず、対応する新株予約権を利益へ振り替える 20個分の6,000円を新株予約権戻入益とした

失効を見つけたら、まず権利確定前か確定後かを確認します。すべての失効で過去の費用を取り消すわけではありません。

6.従業員側の所得税

ここでは、雇用関係に基づき、譲渡制限のあるストック・オプションを無償で付与された場合を扱います。国税庁の令和8年4月1日現在の案内では、税制非適格ストック・オプションは、一般に権利行使時と取得株式の譲渡時に課税関係が生じます。

段階 税制非適格 税制適格
付与時 本稿の譲渡制限付きの例では課税関係が生じない 課税関係が生じない
権利行使時 雇用関係等に基づく場合、原則として権利行使益が給与所得となる 要件を満たす限り、権利行使時の課税が繰り延べられる
株式譲渡時 売却価額と権利行使時の株価との差額を、株式等の譲渡所得等として計算する 売却価額と権利行使価額との差額を、株式等の譲渡所得等として計算する

税制適格となるには、対象者、無償付与、権利行使期間、年間の権利行使価額、契約締結時の株価以上である行使価額、譲渡禁止、取得株式の保管または管理など、租税特別措置法の要件を満たす必要があります。

原則的な権利行使期間は、付与決議の日後2年を経過した日から同日後10年を経過する日までです。設立後5年未満の一定の非上場会社では、終期が15年となる場合があります。

年間の権利行使価額は原則として1,200万円以下です。ただし、付与決議日に設立後5年未満の株式会社では、1回の権利行使価額を2で除した金額で判定します。設立後5年以上20年未満で、付与決議日に非上場である会社または上場後5年未満である会社など一定の株式会社では、3で除した金額で判定します。除算後の1円未満の端数は、1回の権利行使ごとに切り上げます。一般に「年2,400万円」または「年3,600万円」と説明されることがありますが、法令上はこの除算方式で判定します。

60株を1株1,800円で売却した場合

区分 権利行使時 株式譲渡時 設例上の所得金額の合計
税制非適格 (1,500円−1,000円)×60株=30,000円 (1,800円−1,500円)×60株=18,000円 48,000円
税制適格 課税を繰り延べる (1,800円−1,000円)×60株=48,000円 48,000円

売却手数料などは考慮していません。この設例では合計額が同じですが、所得区分と課税時期は異なります。

税制非適格の権利行使益が給与所得となる場合は、付与者と権利者の関係、居住者区分などを踏まえて源泉徴収の要否を確認します。本設例のように、発行会社が自社の従業員へ給与として経済的利益を与える場合は、原則として源泉徴収の対象です。

7.発行会社の法人税と税効果会計

以下では、法人税法第54条の2の特定新株予約権に該当し、役務提供の対価として発行されたものを前提とします。該当性は、譲渡制限などの条件と契約内容を確認して判断します。

従業員に給与等課税事由が生じる場合、法人税ではその日に役務提供を受けたものとして扱います。税制適格ストック・オプションのように給与等課税事由が生じない場合、その役務提供費用は損金に算入されません。

本設例では、別表十四(四)の「交付の時等の単価」も1個300円であり、役員給与の損金不算入など他の制限を受けない従業員分とします。

時点 会計処理 税制非適格の場合 税制適格の場合
第1期 費用13,500円 13,500円を所得計算上加算 13,500円を所得計算上加算
第2期 費用10,500円 10,500円を所得計算上加算 10,500円を所得計算上加算
60個の権利行使 当期損益への影響なし 給与等課税事由が生じる前提では、300円×60個=18,000円を所得計算上減算 給与等課税事由が生じないため、18,000円は損金に算入しない
20個の失効 戻入益6,000円 6,000円を益金不算入として所得計算上減算 6,000円を益金不算入として所得計算上減算
一連の取引後 費用24,000円−戻入益6,000円=純額18,000円の費用 上記前提では18,000円が損金となり、完了後に差異は残らない 純額18,000円は損金にならず、永久差異となる

従業員側の権利行使益30,000円と、発行会社側の損金算入額18,000円は一致しません。従業員側は権利行使時の株価と権利行使価額との差額を使います。発行会社側は、本設例では新株予約権の交付時の単価を使うためです。

税効果会計では、新株予約権そのものは一時差異等として扱いません。一方、税制非適格で、従業員に給与等課税事由が生じると見込まれる場合、会計上計上したストック・オプション費用は将来減算一時差異となります。回収可能性を満たす範囲で繰延税金資産を計上します。

税制適格の場合は、役務提供費用が将来も損金に算入されないため、将来減算一時差異には該当せず、税効果会計の対象になりません。

法人税法第54条の2だけで処理が完結するとは限りません。役員へ付与する場合は、法人税法第34条などの役員給与規制も確認します。

8.間違えやすいポイント

間違いやすい考え方 確認する視点
行使価額×付与数を報酬費用にする 会計上の費用は、原則として付与日の公正な評価単価を基礎にします。
株価が上がるたびに評価単価を更新する 原則として評価単価は付与日で固定し、権利確定見込数を見直します。
新株予約権を負債に計上する 発行会社では純資産の部に計上します。
すべての失効で過去の費用を取り消す 権利確定前の失効と、確定後の権利不行使を分けます。
税制適格なら会計費用も計上しない 所得税上の適格性と、会計上の費用認識は別の問題です。
従業員の給与課税額と会社の損金額は同じ 測定時点と計算方法が異なるため、一致するとは限りません。

9.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 到達確認
1日目 付与日、権利確定日、権利行使日、失効日を順に書く 各時点の意味を一文で説明できる
2日目 第1期13,500円、第2期10,500円を再計算する 累計24,000円から第2期分を逆算できる
3日目 行使と失効の仕訳を白紙から作る 新株予約権残高が24,000円から6,000円になり、最後に0円になる
4日目 税制適格と非適格の課税時点を比べる 税制適格は行使時課税を譲渡時まで繰り延べる制度だと説明できる
5日目 会計単価300円、行使価額1,000円、行使時株価1,500円の役割を整理する 従業員側30,000円と会社側18,000円の違いを説明できる

まとめ

  • ストック・オプションは、現金支出がなくても、従業員等から受けたサービスに応じて費用計上します。
  • 公正な評価単価は原則として付与日で固定し、権利確定前は失効見込数を見直します。
  • 権利行使では新株予約権を払込資本へ振り替え、権利確定後の失効では利益へ振り替えます。
  • 税制適格か非適格かによって、従業員側の課税時期、発行会社の損金算入、税効果会計が変わります。
  • 会計費用、従業員の権利行使益、法人税上の損金算入額は分けて計算します。

確認資料