第192回 税効果会計ゼロ入門:一時差異、繰延税金資産・負債、回収可能性を仕訳で整理(5日練習付き)

第191回では、新リース会計を通じて会計と税務の差を確認しました。今回は、その差が将来解消するときの税額を決算に反映する「税効果会計」を扱います。

税効果会計は節税の手続ではありません。会計上の利益と課税所得で収益・費用を認識する時期が異なる場合に、税引前利益と税金費用を合理的に対応させる会計処理です。

1.先に結論をつかむ

区分 将来の動き 税効果 主な例
将来減算一時差異 解消時の課税所得を減らす 繰延税金資産の候補 減価償却超過額、損金算入前の引当金、税務上まだ損金にならない減損損失
将来加算一時差異 解消時の課税所得を増やす 原則として繰延税金負債 税務上未認識のその他有価証券評価益、固定資産圧縮積立金
永久差異 将来も解消しない 認識しない 将来にわたって損金にならない交際費等や寄附金の損金不算入額

申告書で加算した金額が、すべて繰延税金資産になるわけではありません。将来の申告で減算されるかを確かめることが最初の作業です。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」では、一時差異を、会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額との差額と定義しています。一時差異と税務上の繰越欠損金などを合わせた呼び方が「一時差異等」です。

基本的な計算は次の形です。

一時差異に係る税額 = 一時差異 × 解消が見込まれる期の法定実効税率

ただし、繰延税金資産は、この計算額を無条件に計上するものではありません。将来の税負担を軽減できると認められる範囲だけを計上します。

2.資産・負債の金額から方向を判定する

対象 会計上の額と課税所得計算上の額 通常の方向
資産 会計上の額が大きい 将来加算一時差異・繰延税金負債
資産 会計上の額が小さい 将来減算一時差異・繰延税金資産
負債 会計上の額が大きい 将来減算一時差異・繰延税金資産
負債 会計上の額が小さい 将来加算一時差異・繰延税金負債

この表だけで計上を決めることはできません。差額が将来解消するか、計上しないこととされる項目ではないか、繰延税金資産なら回収可能性があるかまで確認します。

3.申告調整と税効果仕訳を分ける

確認事項 申告調整 税効果会計
目的 課税所得と納付税額を算定する 税金費用を適切な期間へ配分する
償却超過額 発生年度に加算し、認容年度に減算する 将来減算一時差異として検討する
仕訳 加算・減算そのものには仕訳をしない 繰延税金資産・負債などを仕訳する
納付税額 当期の納付税額に影響する 申告上の納付税額は変えない

申告書の加算・減算と、会計帳簿の仕訳を同じ作業として扱わないことが大切です。

4.償却超過額を2期間で追う

法人税法第31条では、減価償却費として損金に算入できる額に限度が設けられています。国税庁税務大学校「法人税法」講本では、償却不足額が生じた事業年度に前期以前の償却超過額がある場合、その償却不足額と繰越償却超過額のいずれか少ない額を損金算入し、申告書で減算することが説明されています。

例題の前提

  • 日本基準で税効果会計を適用する単体企業とする
  • X1期首に減価償却資産を1,000,000円で取得し、間接法で記帳する
  • X1期の会計上の減価償却費は400,000円、税務上の償却限度額は300,000円とする
  • X2期の会計上の減価償却費は200,000円、税務上の償却限度額は300,000円とする
  • X2期の償却不足額100,000円の範囲で、前期の償却超過額100,000円が全額損金算入されるものとする
  • 各期の会計上の税引前利益は、減価償却費計上後で1,000,000円とする
  • 計算構造を確認するため、当期税金と税効果の双方に学習用の単一税率30%を用いる。この数値は実在企業の税率ではない
  • 税額控除、繰越欠損金、住民税均等割、事業税の損金算入時期、端数処理、グループ通算制度などは考慮しない
  • 繰延税金資産30,000円には全額の回収可能性がある

各期の償却限度額も学習上の仮定であり、特定の資産に適用される法定耐用年数や償却率を示すものではありません。

X1期:償却超過額が発生する

計算項目 計算 金額
会計上の税引前利益 ― 1,000,000円
償却超過額の加算 400,000円-300,000円 100,000円
課税所得 1,000,000円+100,000円 1,100,000円
当期税金 1,100,000円×30% 330,000円
将来減算一時差異 ― 100,000円
繰延税金資産 100,000円×30% 30,000円
内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資産の取得 減価償却資産 1,000,000円 現金預金 1,000,000円
減価償却 減価償却費 400,000円 減価償却累計額 400,000円
当期税金 法人税等 330,000円 未払法人税等 330,000円
税効果 繰延税金資産 30,000円 法人税等調整額 30,000円

申告書で行う100,000円の加算そのものには仕訳をしません。

X1期末の資産の金額は、会計上が1,000,000円-400,000円=600,000円、課税所得計算上が1,000,000円-300,000円=700,000円です。会計上の額が100,000円小さく、この差額が将来減算一時差異になります。

損益計算書上の税金費用は、330,000円-30,000円=300,000円です。当期純利益は1,000,000円-300,000円=700,000円となります。

X2期:償却超過額が認容される

X2期は、会計上の減価償却費200,000円が税務上の償却限度額300,000円を100,000円下回ります。前提に従い、この償却不足額の範囲で前期の償却超過額100,000円が損金算入されます。

計算項目 計算 金額
会計上の税引前利益 ― 1,000,000円
前期償却超過額の減算 ― 100,000円
課税所得 1,000,000円-100,000円 900,000円
当期税金 900,000円×30% 270,000円
解消する一時差異 ― 100,000円
取り崩す繰延税金資産 100,000円×30% 30,000円
内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却 減価償却費 200,000円 減価償却累計額 200,000円
当期税金 法人税等 270,000円 未払法人税等 270,000円
税効果の解消 法人税等調整額 30,000円 繰延税金資産 30,000円

X2期末の資産の金額は、会計上が1,000,000円-累計償却額600,000円=400,000円です。課税所得計算上も、損金算入済みの償却額が合計600,000円となるため400,000円です。一時差異と繰延税金資産はいずれもゼロになります。

項目 X1期 X2期 合計・期末
税引前利益 1,000,000円 1,000,000円 2,000,000円
当期税金 330,000円 270,000円 600,000円
法人税等調整額 △30,000円 30,000円 0円
税金費用 300,000円 300,000円 600,000円
当期純利益 700,000円 700,000円 1,400,000円
繰延税金資産の期末残高 30,000円 0円 0円

2期間の当期税金は合計600,000円です。税効果会計はこの納付額を減らしたのではなく、税金費用を各期へ300,000円ずつ配分しています。

5.繰延税金負債の仕訳

取得原価と課税所得計算上の帳簿価額が1,000,000円のその他有価証券を、期末に1,100,000円へ評価したとします。評価益は売却まで税務上認識されず、全部純資産直入法を採用し、学習用税率を30%とする例です。

会計上の額が課税所得計算上の額より100,000円大きいため、将来加算一時差異は100,000円、繰延税金負債は30,000円です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
投資有価証券 100,000円 繰延税金負債 30,000円
その他有価証券評価差額金 70,000円

評価差額を純資産へ計上するため、税効果も法人税等調整額ではなく、純資産の評価差額に対応させます。

6.繰延税金資産は回収可能性で絞り込む

企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」では、主に次の三つを基礎として、将来の税負担を軽減できるかを判断します。

  • 収益力に基づく将来の一時差異等加減算前課税所得
  • 実行可能なタックス・プランニングに基づく課税所得
  • 将来加算一時差異の解消見込額
分類 主な要件 基本的な考え方
分類1 過去3年と当期のすべてで、期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得があり、近い将来に著しい環境変化が見込まれない 原則として全額に回収可能性がある
分類2 過去3年と当期に課税所得が安定的に生じ、重要な税務上の欠損金がなく、近い将来に著しい環境変化が見込まれない スケジューリングの結果に基づいて判断する
分類3 過去3年と当期の課税所得が大きく増減しているが、重要な税務上の欠損金は生じていない 原則として、将来の合理的な見積可能期間であるおおむね5年以内を基礎に判断する
分類4 過去3年または当期に重要な税務上の欠損金が生じた場合などで、翌期に一時差異等加減算前課税所得が見込まれる 原則として翌期の見積額を基礎に判断する
分類5 過去3年と当期のすべてで重要な税務上の欠損金があり、翌期も同様と見込まれる 原則として回収可能性はない

分類3では、合理的な根拠を説明できる場合に5年を超える期間を用いる取扱いがあります。分類4の要件を満たしても、欠損金が生じた原因や中長期計画などに基づき、分類2または分類3として扱う場合があります。また、各分類の要件を完全には満たさないときは、要件からの乖離が最も小さい分類を総合的に判断します。

分類は単年度の黒字・赤字だけでは決まりません。解消年度を並べた資料、承認された業績予測、その過去の達成状況などを使い、回収可能性を毎期見直します。

損益を相手勘定として計上した繰延税金資産について、回収可能性がなくなったときの基本的な取崩しは次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法人税等調整額 取崩額 繰延税金資産 取崩額

純資産などを相手勘定として計上した繰延税金資産は、取崩し時の相手勘定も個別に確認します。

7.税率と2026年の改正を確認する

繰延税金資産・負債には、一時差異が解消すると見込まれる期の税率を用います。国税は決算日までに国会で成立している税法、地方税は成立している地方税法や条例など、適用指針に定められた基準で確認します。

所在地の超過課税、企業規模、外形標準課税、解消年度、グループ通算制度などによって法定実効税率は変わります。すべての企業に共通する一つの率を当てはめることはできません。

8.表示と相殺

企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」では、表示と相殺を次のように定めています。

  • 繰延税金資産は「投資その他の資産」に表示する
  • 繰延税金負債は「固定負債」に表示する
  • 同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺して表示する
  • 異なる納税主体のものは相殺しない
  • グループ通算制度を適用する連結財務諸表では、実務対応報告第42号の取扱いを確認する

繰延税金資産は、直ちに現金化できる還付請求権ではありません。将来の税負担軽減効果を会計上見積もったものです。

9.5日で確認する

日 15分の課題 確認点
1日目 差額を将来減算・将来加算・永久差異に分ける 将来解消するかを説明する
2日目 資産・負債の会計上の額と課税所得計算上の額を比較する 一時差異の方向を判定する
3日目 X1期の課税所得、当期税金、繰延税金資産を再計算する 各仕訳の借方と貸方を一致させる
4日目 X2期の解消仕訳と2期間合計を検算する 期首残高+増加-取崩し=期末残高を確認する
5日目 解消年度、適用税率、回収可能性、表示区分を確認する 判断ごとの根拠資料を記録する

まとめ

  • 将来減算一時差異は繰延税金資産の候補、将来加算一時差異は原則として繰延税金負債になる
  • 将来解消しない永久差異には税効果を認識しない
  • 申告調整は課税所得の計算、税効果会計は税金費用の期間配分を目的とする
  • 繰延税金資産は回収可能性が認められる範囲だけ計上する
  • 税率は一時差異の解消年度と、決算日までに成立している法令などを基に確認する
  • 期末残高は、発生、解消、税率変更、回収可能性の見直しを反映して検算する

一次資料

参照基準日:2026年9月24日