第200回 共通支配下の取引ゼロ入門:グループ内合併・帳簿価額引継ぎ・非支配株主との取引を仕訳で整理(5日練習付き)

第198回では支配を新たに獲得する企業結合、第199回では事業を手放す側の事業分離を確認しました。今回は、同じ企業集団の中で会社や事業を組み替える「共通支配下の取引」を扱います。

最初に押さえる結論は、最終的な支配が変わらない組織再編では、原則として資産・負債を移転元の適正な帳簿価額で引き継ぐことです。ただし、個別財務諸表と連結財務諸表、共通支配下の取引と非支配株主との取引、会計上の判定と法人税法上の適格判定は分けなければなりません。

まず3種類の取引を区別する

区分 支配の動き 会計処理の中心
取得 他の企業・事業への支配を新たに獲得する 取得日の時価を基礎に取得原価を配分し、のれん等を計算する
共通支配下の取引 企業結合の前後で、同じ株主による最終的な支配が一時的でなく続く 個別では移転元の適正な帳簿価額を基礎とし、連結では内部取引として消去する
非支配株主との取引 支配を維持したまま親会社の持分比率が変わる 個別では子会社株式の取得・売却、連結では親会社株主と非支配株主との資本取引として処理する

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第16項は、共通支配下の取引を、結合当事企業または事業のすべてが企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、その支配が一時的でない場合の企業結合と定義しています。

親会社と子会社の合併、同じ親会社が支配する子会社同士の合併などが代表例です。「同一の株主」には企業だけでなく個人も含まれます。一方、投資会社とその関連会社との結合は、支配関係がないため、それだけでは共通支配下の取引になりません。

1.判定は5段階で進める

順序 確認すること 間違えやすい点
1 結合当事企業・事業を特定する 株主だけでなく、実際に移転する会社や事業を確認する
2 取引前の最終支配者を確認する 直接の株主だけでなく、企業集団の最上位までたどる
3 取引後も同じ支配が続くか確認する 一時的な支配や、直後の売却が予定された支配を機械的に含めない
4 非支配株主との持分取引を分ける 親会社がすでに支配している子会社株式の追加取得は、新たな「取得」ではない
5 個別・連結・法人税を別々に判定する 会計上の共通支配下の取引が、税務上も当然に適格となるわけではない

2.個別と連結では見ている単位が違う

財務諸表 見ている単位 基本処理
移転先企業の個別財務諸表 法的に独立した一社 受け入れた資産・負債を移転元の適正な帳簿価額で計上する
株主である親会社の個別財務諸表 親会社自身 交付・受領した株式や、消滅した子会社株式を処理する
親会社の連結財務諸表 企業集団全体 共通支配下の取引を内部取引として消去する

企業結合会計基準第41項から第44項では、企業集団内を移転する資産・負債を原則として移転直前の適正な帳簿価額で計上し、共通支配下の取引を連結上すべて消去すると定めています。

ここでいう「適正な帳簿価額」は、記帳されている数字を無条件で写すという意味ではありません。吸収合併消滅会社は合併期日の前日に決算を行い、減価償却、引当金、評価損など必要な決算整理を反映した残高を確定します。

3.設例1:100%子会社同士の吸収合併

P社はS1社とS2社の株式をそれぞれ100%保有しています。S1社を存続会社、S2社を消滅会社とする吸収合併を行い、P社にはS1社株式のみを交付します。合併後もP社がS1社を100%保有します。

S2社の合併期日前日の貸借対照表は次のとおりです。時価純資産は5,200ですが、会計処理には下表の適正な帳簿価額を使用します。

資産 金額 負債・株主資本 金額
現金 1,000 買掛金 1,800
売掛金 2,000 借入金 2,200
棚卸資産 1,600 資本金 2,500
機械装置 3,400 利益剰余金 1,500
合計 8,000 合計 8,000

受け入れる資産と負債の差額は、8,000-4,000=4,000です。設例では、会社法上の手続に基づき、この4,000をその他資本剰余金として処理するものとします。

S1社の個別仕訳

借方 金額 貸方 金額
現金 1,000 買掛金 1,800
売掛金 2,000 借入金 2,200
棚卸資産 1,600 その他資本剰余金 4,000
機械装置 3,400 ― ―
合計 8,000 合計 8,000

検算:増加資産8,000=増加負債4,000+増加株主資本4,000です。時価純資産5,200との差額1,200を評価益や新しいのれんとして計上しません。

株式のみを対価とする子会社同士の合併では、原則として消滅会社の株主資本額を払込資本として処理します。一定の場合には、消滅会社の資本金、資本準備金、利益剰余金などの構成を引き継ぐ方法も認められます。具体的な内訳は、合併契約と会社法上の手続を確認します。

P社の個別仕訳

P社における合併直前のS2社株式の帳簿価額を3,600とします。受け取ったS1社株式の取得原価は、引き換えられたS2社株式の適正な帳簿価額を基礎にします。

借方 金額 貸方 金額
S1社株式 3,600 S2社株式 3,600

交換損益は計上しません。S2社への投資がS1社への投資に置き換わったと考えます。

連結財務諸表での見え方

企業集団全体では、合併前からS2社の資産・負債を連結していました。合併によって資産の置き場所がS2社からS1社へ変わっても、外部から新しい資産を取得したわけではありません。P社の投資勘定、S1社・S2社の資本、合併に伴う内部取引を消去するため、合併そのものによって連結上の資産・負債・純資産の総額は増えません。

ただし、登記費用や専門家報酬など外部に支払った組織再編費用は、内部取引ではありません。企業結合に要した支出額は、原則として発生した事業年度の費用として処理します。

4.帳簿価額引継ぎにも例外と注意点がある

場面 注意点
親会社が子会社を吸収合併する 親会社の連結上、子会社資産・負債を時価評価していた場合は、原則としてその修正後の帳簿価額を親会社の個別財務諸表へ引き継ぐ
連結上の既存のれんが残っている 親会社による子会社の吸収合併では、のれんの未償却残高を親会社の個別財務諸表へ引き継ぐことがある
同一株主に支配される子会社同士の合併で、現金等のみを対価とする 消滅会社の株主資本額と、対価として支払った現金等の適正な帳簿価額との差額から、存続会社の個別財務諸表にのれん等が生じる場合がある
企業結合直前の取得と合併が一体である 形式だけで共通支配下の取引とせず、一連の取引として支配獲得時の会計処理を検討する

したがって、「共通支配下なら、どの会社でも未修正の簿価を使う」「共通支配下では、のれんが絶対に出ない」と覚えるのは危険です。組織再編の当事者、対価、親子関係、既存の連結修正を確認します。具体的な形式別処理は、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第200項以降に示されています。

5.設例2:非支配株主から子会社株式を追加取得する

P社はS社株式の80%を保有し、すでにS社を支配しています。P社が非支配株主から残り20%を現金3,000で取得します。追加取得日の連結貸借対照表における非支配株主持分は2,400とし、取得関連費用やその他の包括利益累計額は考慮しません。

P社の個別仕訳

借方 金額 貸方 金額
S社株式 3,000 現金 3,000

個別財務諸表では、外部の株主から取得した子会社株式を取得原価で追加計上します。

連結修正仕訳

支配は80%取得時にすでに成立しています。残り20%の取得は、企業集団の支配獲得ではなく、親会社株主と非支配株主との資本取引です。

借方 金額 貸方 金額
非支配株主持分 2,400 S社株式 3,000
資本剰余金 600 ― ―
合計 3,000 合計 3,000

検算:追加投資額3,000-減少する非支配株主持分2,400=600です。この600は連結上の新しいのれんや費用ではなく、資本剰余金の減少となります。取引後の非支配株主持分はゼロです。

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得持分と追加投資額の差額を資本剰余金とする処理を定めています。連結会計年度末に資本剰余金全体が負の値となる場合は、資本剰余金をゼロとし、その負の値を利益剰余金から減額します。

6.法人税は会計と別に適格性を判定する

会計上の「共通支配下」と法人税法上の「適格合併」は、目的も要件も同じではありません。法人税では、合併当事法人の資本関係、交付する対価、合併後の関係継続見込みなどを、法令上の区分に従って判定します。

設例1では、P社による完全支配関係が合併前から存在し、合併後も継続する見込みで、P社へS1社株式以外の資産を交付しないものと仮定します。この前提では、法人税法上の適格合併に該当します。完全支配関係にある法人間の適格要件は、国税庁「合併法人と被合併法人との間に『当事者間の完全支配関係』と『法人相互の完全支配関係』のいずれにも該当する関係がある場合の適格判定について」でも確認できます。

税務上の区分 移転資産・負債の基本的な扱い 移転時の譲渡損益
適格合併 税務上の帳簿価額による引継ぎ 原則として繰り延べる
非適格合併 原則として時価による移転 原則として認識する

根拠となる現行法は、e-Gov法令検索「法人税法」第62条および第62条の2です。

会計上の簿価と税務上の簿価は一致しないことがある

設例1の機械装置について、会計上の帳簿価額は3,400ですが、過年度に減価償却超過額300があるため、税務上の帳簿価額は3,700だったとします。

項目 会計上の帳簿価額 税務上の帳簿価額 差額
機械装置 3,400 3,700 300

適格合併でS1社が税務上の帳簿価額として引き継ぐのは3,700です。会計仕訳の3,400をそのまま税務上の帳簿価額として扱ってはいけません。国税庁の「被合併法人等から引継ぎ等を受けた帳簿価額の修正」も、適格合併でいう帳簿価額は会計上の帳簿価額ではなく、税務上の帳簿価額であると説明しています。

この3,700は、減価償却費の計算の基礎となる税務上の取得価額ではありません。取得価額は帳簿価額とは別の概念です。適格合併で移転を受けた減価償却資産の取得価額は、原則として、被合併法人が合併日の前日の属する事業年度において償却限度額の計算の基礎とすべき取得価額に、合併法人がその資産を事業の用に供するため直接要した費用を加えた額です。ただし、採用する償却方法や中古資産の耐用年数を適用する場合には取扱いが異なることがあります。詳細は、国税庁の「適格合併により移転を受けた減価償却資産に係る耐用年数」を確認してください。

この差額300は、税効果会計上、将来減算一時差異となる可能性があります。ただし、適用税率、解消見込み、繰延税金資産の回収可能性を設例で定めていないため、税効果額は計算しません。

また、適格合併で資産・負債を帳簿価額で引き継げても、被合併法人の欠損金を無条件で全額利用できるとは限りません。欠損金の引継制限や特定資産の譲渡等損失の制限は、適格性とは別に確認します。

7.よくある誤りを整理する

誤った処理・考え方 修正のポイント
同じグループなので、時価で資産を計上する 共通支配下の取引では、原則として移転元の適正な帳簿価額を使う
親会社の持分が80%から100%になったので、新たにのれんを計上する すでに支配しているため、連結上は非支配株主との資本取引として差額を資本剰余金にする
子会社の試算表残高をそのまま引き継ぐ 合併期日前日の決算整理後の適正な帳簿価額を確認する
会計上の簿価を税務でも使用する 減価償却超過額などを反映した税務上の帳簿価額を別に確認し、減価償却計算の基礎となる取得価額とも区別する
会計上の共通支配下なら必ず適格合併である 法人税法上の資本関係、対価、継続見込みなどを独立して判定する
関連会社との合併も共通支配下である 関連会社への重要な影響力と、子会社への支配を区別する
グループ内再編は連結上まったく影響しない 外部へ支払う再編費用や、非支配株主との取引による資本剰余金の変動は残る

8.問題を解くときの答案メモ

  1. 取引前後の資本関係図を作る。
  2. 最終支配者が同じで、その支配が一時的でないかを確認する。
  3. 共通支配下の取引と非支配株主との取引を分ける。
  4. 個別仕訳か連結修正仕訳かを明記する。
  5. 移転資産、移転負債、株主資本相当額、対価をそれぞれ計算する。
  6. 借方合計と貸方合計、処理後の投資残高・非支配株主持分を検算する。
  7. 法人税は、法的形式ごとに適格性と税務上の帳簿価額を判定する。

9.5日で定着させる練習

日 15分程度の練習 確認点
1日目 取得・共通支配下・非支配株主との取引を3行で比較する 支配が新しく生じたか
2日目 設例1の資産8,000、負債4,000から株主資本相当額を再計算する 8,000-4,000=4,000
3日目 S1社とP社の個別仕訳を何も見ずに再現する 会社ごとに仕訳を分けたか
4日目 設例2の連結修正仕訳を再計算する 3,000-2,400=600をのれんにしていないか
5日目 会計上の簿価と税務上の簿価が違う理由を説明する 減価償却超過額などの申告調整を引き継げるか

仕上げ問題

P社はS社株式の75%を保有しています。追加で15%を1,800で取得しました。追加取得直前の非支配株主持分25%の残高は2,500です。取得関連費用等はありません。

取得した15%に対応する非支配株主持分は、2,500×15%÷25%=1,500です。取引後に残る非支配株主持分は2,500-1,500=1,000となります。

借方 金額 貸方 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 1,800
資本剰余金 300 ― ―
合計 1,800 合計 1,800

まとめ

  • 共通支配下の取引は、企業結合の前後で最終的な支配が変わらない取引である。
  • 個別財務諸表では、原則として移転元の適正な帳簿価額を引き継ぐ。
  • 連結財務諸表では、グループ内の移転を内部取引として消去する。
  • 支配獲得後の子会社株式の追加取得は、連結上、のれんではなく資本剰余金を使う。
  • 親会社による子会社吸収合併では、連結上の簿価修正や既存のれんの引継ぎにも注意する。
  • 会計上の共通支配下の判定と、法人税法上の適格判定は別に行う。
  • 適格合併で引き継ぐ税務上の帳簿価額は、会計上の帳簿価額と一致しないことがあり、減価償却計算の基礎となる取得価額とも別の概念である。

難しい組織再編でも、「支配は変わったか」「誰の個別仕訳か」「連結では何を消すか」「税務上の簿価はいくらか」の4点に分ければ、計算の順序を保てます。