第211回では、有償減資による資本の払戻しを扱いました。今回は、完全子会社を解散し、清算する場面です。
解散しただけでは、会社は消滅しません。資産を換金し、債務を弁済し、残余財産を株主へ分配します。親会社では、会計上の清算損益と法人税上のみなし配当を分けて考えます。
1.解散から清算結了まで
会社法471条、475条、476条、481条、492条、507条、929条を基に流れを並べます。決算報告の承認は会社法507条、清算結了登記は同法929条に定められています。
| 段階 | 会社の状態 | 確認すること |
|---|---|---|
| 解散 | P社による株主総会決議などで解散する | 解散だけで会社や子会社株式が消えるわけではない |
| 清算開始 | 清算目的の範囲で会社が存続する | 財産目録と清算開始時の貸借対照表を作成する |
| 清算事務 | 現務を終え、債権を取り立て、債務を弁済する | 資産処分損益や清算事務費を計上する |
| 残余財産の分配 | 残った財産を株主へ分配する | 子会社の純資産と親会社の子会社株式を整理する |
| 清算結了 | 決算報告の承認を受け、清算結了登記を行う | 資産、負債、純資産の残高を確認する |
会社法施行規則144条・145条では、処分価格を付すことが困難な場合を除き、財産目録の財産に清算開始時の処分価格を付すこととされています。
会社法499条による債権者の申出期間は、2か月を下回ることができません。会社法502条により、原則として債務を弁済する前に残余財産を分配することもできません。解散直後に全額を親会社へ送金するわけではありません。
2.S社の清算開始時残高
S社の資産は、会計簿価、税務簿価、清算開始時の処分価格が一致しているものとします。したがって、清算開始時の評価替えはありません。
| 区分 | 科目 | 金額 |
|---|---|---|
| 資産 | 現金 | 300 |
| 売掛金 | 500 | |
| 備品 | 330 | |
| 資産合計 | 1,130 | |
| 負債 | 買掛金 | 200 |
| 負債合計 | 200 | |
| 純資産 | 資本金 | 700 |
| 繰越利益剰余金 | 230 | |
| 純資産合計 | 930 |
資産1,130=負債200+純資産930
P社は、S社の純資産が900だった時点で全株式を900で取得しました。取得時の評価差額とのれんはありません。その後にS社が計上した利益30が、現在の純資産930に含まれています。
3.清算会社S社の仕訳
S社は、売掛金500を回収し、備品を帳簿価額と同じ330で売却します。その後、買掛金200と清算事務費30を現金で支払います。
| 取引 | 借方 | 貸方 | 取引後の現金 |
|---|---|---|---|
| 売掛金の回収 | 現金 500 | 売掛金 500 | 800 |
| 備品の売却 | 現金 330 | 備品 330 | 1,130 |
| 買掛金の支払 | 買掛金 200 | 現金 200 | 930 |
| 清算事務費の支払 | 清算事務費 30 | 現金 30 | 900 |
300+500+330-200-30=900
清算事務費30により、繰越利益剰余金は230から200へ減ります。残余財産分配直前の残高は、現金900、資本金700、繰越利益剰余金200です。
必要な手続と債務の弁済を終え、残余財産900をP社へ分配します。残高をゼロにするための学習上の閉鎖仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 資本金 700 繰越利益剰余金 200 |
現金 900 |
借方と貸方は、ともに900です。実務では清算会社の勘定体系に応じて残余財産勘定などを使うことがあります。
4.親会社P社の個別会計
解散決議だけで、P社の子会社株式を直ちに消すことはありません。一方、決算時には市場価格のない子会社株式について減損の要否を判定します。
移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」では、市場価格のない株式について、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下した場合の減損処理を定めています。本設例では、清算費用等を反映したS社株式の実質価額が900であり、会計簿価900を著しく下回らないものとします。この前提により、評価損は計上しません。
最終残余財産900を受け取ったときの仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 現金 900 | 子会社株式 900 |
受取残余財産900-子会社株式簿価900=会計上の清算損益0
法人税上のみなし配当があることだけを理由に、会計仕訳を「現金/受取配当金」とするわけではありません。
5.連結財務諸表での見方
清算株式会社であっても、意思決定機関を支配している限り、原則として連結の範囲に含まれます。解散日だけを理由に連結から外しません。
連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針と移管指針第4号に従い、支配を失った日以後の資産、負債、収益、費用を連結から除外します。
| 項目 | P社個別 | 連結 |
|---|---|---|
| 清算事務費30 | S社の費用なので計上しない | S社の費用として連結損益に含める |
| 残余財産900 | 現金を受け取り、子会社株式を消す | 企業集団全体の現金総額は変わらない |
| 分配時の追加損益 | 0 | 本設例では生じない |
S社は取得後に利益30を計上し、その後に清算事務費30を計上しました。取得後損益の累計は0です。残余財産分配後にS社の資産と負債は残らないため、本設例では連結除外時にも追加損益は生じません。
6.法人税は三段階で計算する
法人税法23条、24条、61条の2および法人税法施行令8条・23条を基に計算します。
第一段階:みなし配当を求める
残余財産900-株式対応資本金等の額700=みなし配当200
ここで使う700は、会計上の資本金をそのまま転記したものではありません。法人税法施行令の算式で求める金額です。
第二段階:特則がない場合の株式譲渡損益を確認する
譲渡対価部分700-S社株式の税務簿価900=譲渡損200
これは、完全支配関係の特則を適用する前の計算です。
第三段階:完全支配関係の特則を適用する
P社とS社には完全支配関係があります。この場合、S社株式の譲渡対価は譲渡原価相当額900とされ、法人税上の株式譲渡損益は0になります。前段階で求めた譲渡損200を損金にはできません。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| みなし配当 | 900-700 | 200 |
| 特則前の譲渡対価部分 | 900-200 | 700 |
| 特則前の譲渡損 | 700-900 | △200 |
| 特則適用後の譲渡対価 | 譲渡原価相当額 | 900 |
| 実際に計上する譲渡損益 | 900-900 | 0 |
譲渡損相当額200は消えるのではなく、P社の税務上の資本金等の額を調整します。本設例では、次の200が減算額です。
みなし配当200+特則による譲渡対価900-受取現金900=200
国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例」は、残余財産分配時の株式譲渡損益不計上と資本金等の額の調整算式を確認するために参照しています。同資料は平成22年度税制改正時の旧資料であり、金銭交付部分のみなし配当に源泉徴収が必要であるとする当時の記載が残っています。その源泉徴収に関する記載は、2026年10月14日現在の本設例には適用しません。
みなし配当200は、本設例の前提では完全子法人株式等に係る配当等として全額が益金不算入です。帳簿上は配当収益を計上していないため、申告書では、みなし配当の認識と益金不算入の調整を行います。所得金額への純影響は0ですが、資本金等の額の減算200は残ります。
2026年10月14日現在、自己名義で保有する完全子法人株式等に係る一定の配当等に該当する本設例では、源泉徴収を要しません。現在の取扱いは、国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし・配当所得の源泉徴収事務」で確認できます。
100%保有でない場合は、株式譲渡損益、受取配当等の益金不算入額、源泉徴収の取扱いが変わります。
7.清算中の申告期限
2010年10月1日以後に解散した普通法人は、清算中も各事業年度の所得に対する法人税の申告を行います。
| 事業年度 | 原則的な申告期限 |
|---|---|
| 事業年度開始日から解散日まで | 事業年度終了日の翌日から2か月以内 |
| 解散日の翌日から始まる清算事務年度 | 原則として1年ごとに区切り、終了日の翌日から2か月以内 |
| 残余財産確定日の属する最後事業年度 | 終了日の翌日から1か月以内。ただし、その期間内に最後の分配をする場合は分配日の前日まで |
根拠と設例は、国税庁「法人税法」教材および法人税法14条・74条で確認できます。期限延長などの特例は別に判定します。
消費税では、清算中に行う備品などの売却が課税資産の譲渡等に当たることがあります。一方、金銭による残余財産分配は、対価を得て行う資産の譲渡等ではありません。課税対象の基本は国税庁「『資産の譲渡等』とは」、残余財産確定時の申告期限は国税庁「法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について」で確認できます。
8.よくある混同
| 混同 | 整理 |
|---|---|
| 解散日に会社が消滅する | 清算目的の範囲で会社は存続する |
| 債務を残したまま親会社へ分配する | 原則として債務を弁済してから残余財産を分配する |
| 受取額900を会計上すべて配当収益にする | 受取額と子会社株式簿価の差額から清算損益を求める |
| 会計上の資本金を税務計算にそのまま使う | 株式対応資本金等の額を法人税法令により計算する |
| 特則前の譲渡損200を損金にする | 完全支配関係の特則により譲渡損益を計上しない |
| 解散日に連結から外す | 事実関係に基づいて支配喪失日を判定する |
9.5日で定着させる練習
| 日 | 取り組むこと | 確認点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 解散から清算結了までを順番に書く | 解散と消滅を同じにしていないか |
| 2日目 | S社の4仕訳を再現する | 現金が300から900になるか |
| 3日目 | S社とP社の最終仕訳を書く | 借方と貸方が一致するか |
| 4日目 | 900をみなし配当200と資本対応額700に分ける | 会計上の清算損益と混ぜていないか |
| 5日目 | 確認問題を解く | 譲渡損益不計上と資本金等の額の調整を説明できるか |
確認問題
P社が完全子会社S社から最終残余財産760を受け取ります。P社の子会社株式の会計簿価・税務簿価は760、株式対応資本金等の額は600です。ほかの前提は本設例と同じです。
- 会計上の清算損益はいくらですか。
- 法人税上のみなし配当はいくらですか。
- 完全支配関係の特則がなければ、株式譲渡損益はいくらですか。
- 実際に法人税上計上する株式譲渡損益はいくらですか。
- P社の税務上の資本金等の額の減算額はいくらですか。
答え
- 760-760=0です。
- 760-600=160です。
- 600-760=△160で、譲渡損160です。
- 完全支配関係の特則により0です。
- 160+760-760=160です。
10.今回のまとめ
- 解散後も、清算が終わるまで会社は清算目的の範囲で存続します。
- 子会社では、資産の換金、債務の弁済、清算費用、残余財産分配の順に残高を追います。
- 親会社の個別会計では、最終分配額と子会社株式簿価との差額から清算損益を求めます。
- 法人税では、残余財産をみなし配当と株式の譲渡対価部分に分けます。
- 完全支配関係がある場合、株式譲渡損益は計上せず、その相当額を資本金等の額で調整します。
清算では、解散日、残余財産確定日、分配日、清算結了日が別々に現れます。最初に日付と残高を並べ、その後で会計と税務を分けると整理しやすくなります。
