第197回では、関連会社への投資を持分法で評価しました。今回は、その会社や事業への支配を獲得した日の会計処理です。
第196回では、連結手続の中でのれんを計算しました。本稿では、その一つ前にある「取得対価を、どの資産・負債へ配分するか」に重点を置きます。この手続が取得原価の配分、実務でいうPPAです。
本稿は、2026年9月30日現在の日本基準および法令に基づく一般的な学習用解説です。実際の処理は、契約内容、企業結合の形式、支配の判定、税制適格要件、時価評価などによって変わります。個別案件は、公認会計士・税理士などの専門家へ確認してください。
まず、計算の順序を決める
| 順序 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 企業結合が「取得」に該当するか |
| 2 | 取得企業と企業結合日を決める |
| 3 | 取得対価を測定する |
| 4 | 取得原価を識別可能な資産・負債へ配分する |
| 5 | 残額を、のれんまたは負ののれん発生益として処理する |
1.法的な形式だけでは処理を決めない
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」では、企業結合を、企業または事業が一つの報告単位へ統合されることとしています。株式取得、合併、会社分割、事業譲受といった法的形式だけで、会計処理が決まるわけではありません。
| 会計上の分類 | 基本的な状況 | 処理の考え方 |
|---|---|---|
| 取得 | ある企業が他の企業または事業への支配を獲得する | パーチェス法を適用する |
| 共同支配企業の形成 | 複数の独立企業が契約等に基づいて共同支配する | 所定の要件と処理を確認する |
| 共通支配下の取引 | 企業結合の前後で、同じ株主による最終的な支配が一時的でなく継続する | 適正な帳簿価額を基礎とする |
共同支配企業の形成と共通支配下の取引以外の企業結合は、原則として「取得」です。以下では、取得に該当する場合を扱います。
2.取得企業と企業結合日を決める
取得企業
取得企業は、被取得企業または取得した事業への支配を獲得する企業です。現金などを引き渡す企業結合では、通常、その現金などを引き渡す側が取得企業になります。
株式を対価とする場合は、株式を交付した企業が必ず取得企業になるとは限りません。結合後の議決権比率、主要株主、取締役会の構成、当事企業の相対的な規模、株式の交換条件などを総合して判定します。株式を交付した側が会計上の被取得企業となる「逆取得」もあります。
企業結合日
企業結合日は、被取得企業または取得した事業への支配が移転した日です。契約締結日や代金支払日と一致するとは限りません。
取得対価と識別可能資産・負債は、この日を基準に測定します。計算問題では、まず「いつ支配が移ったか」を確定させます。
3.取得対価と取得関連費用を分ける
取得原価は、原則として、取得対価となる財の企業結合日における時価で算定します。
| 項目 | 基本的な扱い |
|---|---|
| 取得対価として支払う現金 | 取得原価に含める |
| 対価として交付する市場価格のある自社株式 | 原則として企業結合日の株価を基礎に測定する |
| 取得のために外部アドバイザーへ支払う特定の報酬・手数料 | 取得関連費用として、発生した事業年度の費用にする |
| 子会社株式の購入に直接要した付随費用 | 親会社の個別財務諸表では、金融商品会計に従い子会社株式の取得原価に含める |
| 個別上の子会社株式に含めた付随費用 | 連結財務諸表では、発生した連結会計年度の費用にする |
同じ支出でも、個別財務諸表と連結財務諸表で扱いが異なることがあります。「M&Aに関する支出」というだけで、すべてをのれんに含めることはできません。
4.取得原価の配分(PPA)
PPAは、取得原価を企業結合日の識別可能資産・負債へ配分する手続です。配分には、それぞれの時価を基礎として使います。
| 確認対象 | PPAで行うこと |
|---|---|
| 棚卸資産・固定資産 | 被取得企業の帳簿価額をそのまま使わず、企業結合日の時価を確認する |
| 特許権・商標権など | 法律上の権利など、分離して譲渡可能な無形資産は、のれんと分けて認識する |
| 引受負債 | 企業結合日に認識する負債を、純資産の計算から控除する |
| 税効果 | 会計上の価額と税務上の価額との差を検討し、必要な繰延税金資産・負債を反映する |
被取得企業の貸借対照表に計上されていなかった項目でも、会計上の認識要件を満たせば、識別可能資産・負債に含めます。無形の価値をすべてのれんへまとめないことが大切です。
5.事業譲受の仕訳でのれんを計算する
次の学習用設例を使います。金額単位は万円です。
- A社はB社の事業を現金1,200で譲り受けた
- 企業結合日の時価は、棚卸資産300、建物600、商標権200である
- 買掛金350を引き受けた
- 取得関連費用、条件付取得対価、消費税および税効果は考慮しない
- 取得前のA社は、普通預金2,000と純資産2,000だけを有する
識別可能純資産とのれん
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 識別可能資産 | 300+600+200 | 1,100 |
| 引受負債 | 買掛金 | 350 |
| 識別可能純資産 | 1,100-350 | 750 |
| のれん | 取得対価1,200-識別可能純資産750 | 450 |
取得日の仕訳
| 借方科目 | 借方 | 貸方科目 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| 棚卸資産 | 300 | 買掛金 | 350 |
| 建物 | 600 | 普通預金 | 1,200 |
| 商標権 | 200 | ||
| のれん | 450 | ||
| 借方合計 | 1,550 | 貸方合計 | 1,550 |
取得直後の残高を検算する
| 資産 | 残高 | 負債・純資産 | 残高 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 800 | 買掛金 | 350 |
| 棚卸資産 | 300 | 純資産 | 2,000 |
| 建物 | 600 | ||
| 商標権 | 200 | ||
| のれん | 450 | ||
| 資産合計 | 2,350 | 負債・純資産合計 | 2,350 |
取得対価1,200は、識別可能純資産750とのれん450に分かれました。仕訳の借貸だけでなく、取得後の貸借対照表も一致しています。
6.のれんは取得日から規則的に償却する
日本基準では、のれんを資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却します。重要性が乏しい場合は、企業結合年度に費用処理できます。
設例ののれん450を、効果の及ぶ期間10年、残存価額ゼロ、定額法で1年間償却する場合は、次のとおりです。
450÷10年=45
| 借方科目 | 借方 | 貸方科目 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| のれん償却額 | 45 | のれん | 45 |
のれん残高は405です。他の収益・費用、減価償却および税金を考慮しなければ、資産合計2,305、負債350、純資産1,955となり、貸借は一致します。
のれんの償却は企業結合日から始めます。したがって、期中取得では、単純に1年分を計上するとは限りません。のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費に表示し、未償却残高は減損処理の対象にもなります。
7.事業譲受と株式取得では、のれんが現れる場所が違う
| 取引形態 | 取得企業の個別財務諸表 | のれんを認識する場所 |
|---|---|---|
| 事業譲受 | 取得した資産・負債を直接計上する | 原則として個別財務諸表 |
| 株式取得による子会社化 | 子会社株式を計上する | 原則として連結財務諸表 |
先ほどと同じ事業を営む会社の全株式を現金1,200で取得した場合、購入付随費用を考慮しない親会社の個別仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方 | 貸方科目 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 1,200 | 普通預金 | 1,200 |
個別財務諸表に、のれん450を直接計上するわけではありません。連結手続で子会社株式と子会社の資本を相殺し、取得日の時価評価差額とのれんを認識します。100%取得、取得対価1,200、識別可能純資産750、税効果なしという前提なら、連結上ののれんは450です。
株式取得の付随費用
同じ連結会計年度に、株式購入へ直接要した付随費用30を支払い、親会社の個別財務諸表で子会社株式の取得原価に含めたとします。
| 借方科目 | 借方 | 貸方科目 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 1,230 | 普通預金 | 1,230 |
連結上は、付随費用30を取得関連費用として発生時に費用処理します。簡略化した連結修正は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方 | 貸方科目 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| 取得関連費用 | 30 | 子会社株式 | 30 |
連結上の取得対価は1,200であり、付随費用30はのれんに含めません。
8.負ののれんは、配分を見直してから利益にする
取得対価が識別可能純資産を下回っても、すぐに利益を計上してはいけません。識別可能資産・負債の認識漏れ、時価、取得原価の算定、配分の適否を見直します。
設例の識別可能資産が1,100、引受負債が350、取得対価が650で、見直し後も金額が変わらなかったとします。識別可能純資産750と取得対価650との差額100が負ののれん発生益です。
| 借方科目 | 借方 | 貸方科目 | 貸方 |
|---|---|---|---|
| 棚卸資産 | 300 | 買掛金 | 350 |
| 建物 | 600 | 普通預金 | 650 |
| 商標権 | 200 | 負ののれん発生益 | 100 |
| 借方合計 | 1,100 | 貸方合計 | 1,100 |
負ののれん発生益は企業結合年度の利益とし、原則として特別利益に表示します。
9.段階取得では持分法評価額を使う
株式を追加取得して支配を獲得する取引を、段階取得といいます。個別財務諸表では、個々の取得取引の原価を合計します。連結財務諸表では、支配獲得前から保有していた持分も企業結合日の時価で測定します。
持分法適用関連会社を子会社にした場合を考えます。
- 既存の30%持分の個別上の取得原価:240
- 支配獲得直前の持分法による投資評価額:270
- 既存持分の企業結合日の時価:300
- 追加取得する70%持分の対価:900
| 計算項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 個別上の子会社株式 | 240+900 | 1,140 |
| 連結上の取得原価 | 既存持分の時価300+追加対価900 | 1,200 |
| 段階取得に係る差益 | 既存持分の時価300-持分法評価額270 | 30 |
比較するのは、個別上の取得原価240ではなく、支配獲得直前の持分法評価額270です。識別可能純資産が750で、税効果などを考慮しないなら、連結上ののれんは1,200-750=450です。
10.PPAが決算までに終わらない場合
取得原価は、企業結合日後1年以内に識別可能資産・負債へ配分します。最初の決算までに土地、無形資産、偶発債務に係る引当金などの配分額を確定できない場合は、その時点で入手できる合理的な情報に基づいて暫定処理を行います。
企業結合年度の翌年度に配分額が確定した場合は、企業結合年度に確定していたかのように処理します。翌年度の財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときは、比較情報にも見直しを反映します。
この1年は、取得後に新しく発生した事象を取得日の数値へ戻すための期間ではありません。企業結合日に存在していた事実や状況について、測定を完成させるための期間です。
11.会計上ののれんと税務上の資産調整勘定は別物
会計上の企業結合と法人税上の組織再編税制では、判定の目的と要件が異なります。会計上ののれんの金額や償却期間を、そのまま法人税の計算へ使うことはできません。
| 取引 | 法人税上の確認事項 |
|---|---|
| 株式取得 | 株式を取得しただけでは、対象会社が保有する資産・負債の税務上の帳簿価額は、株式の購入額に合わせて変わらない |
| 適格合併など | 取引形態ごとの適格要件を満たすかを確認し、満たす場合は税務上の帳簿価額による引継ぎを検討する |
| 非適格合併など | 移転資産・負債の時価を基礎とする処理と、法人税法第62条の8の調整勘定を検討する |
| 事業譲受 | 移転した資産・負債ごとの税務上の取得価額と、法人税法第62条の8の対象となる事業の譲受けかを確認する |
資産調整勘定の60か月処理
2026年9月30日現在、法人税法第62条の8の要件を満たして資産調整勘定が生じる場合、通常の当期損金算入額は次の式で計算します。
資産調整勘定の当初計上額÷60×当該事業年度の月数
非適格合併等の日を含む最初の事業年度では、その日から事業年度終了日までの期間を基礎に月数を求めます。月数は暦に従って計算し、1月未満の端数は1月とします。残額の処理や、その後に適格組織再編成が行われた場合などには別の規定があるため、個別に確認が必要です。
計算欄は、国税庁の別表十六(十一)「非適格合併等に係る調整勘定の計算の明細書」で確認できます。
ただし、会計上ののれん450が、税務上も資産調整勘定450になるとは限りません。対象取引への該当性、非適格合併等対価額、時価純資産価額、資産等超過差額、引受債務などを法令に従って計算します。
税効果会計
PPAで認識した資産・負債の会計上の価額と税務上の価額が異なる場合は、その一時差異について繰延税金資産・負債を検討します。これらを反映すると、配分残余であるのれんの金額が変わることがあります。
一方、企業結合会計上、のれんまたは負ののれんは取得原価の配分残余なので、それ自体に対する税効果は認識しません。
12.計算問題の確認表
| 欄 | 記入する内容 |
|---|---|
| A 取得対価 | 現金、交付株式などの時価 |
| B 識別可能資産 | 企業結合日の時価を基礎とする資産の合計 |
| C 引受負債 | 企業結合日に認識する負債の合計 |
| D 識別可能純資産 | B-C |
| E 差額 | A-D |
| 判定 | Eが正ならのれん。負なら配分を見直し、なお残れば負ののれん発生益 |
税効果や非支配株主持分がある問題では、その項目も加えます。仕訳を書く前にAからEまでを埋めると、のれんの符号を誤りにくくなります。
13.5日で確認する練習メニュー
| 日 | 課題 | 終了条件 |
|---|---|---|
| 1日目 | 取得企業、企業結合日、取得原価、PPAを一文ずつ説明する | 「誰が・いつ・いくらで・何を得たか」を区別できる |
| 2日目 | 識別可能純資産とのれんを3問計算する | 取得対価=識別可能純資産+のれんで検算できる |
| 3日目 | 事業譲受と株式取得の仕訳を並べる | 個別と連結で、のれんが現れる場所を区別できる |
| 4日目 | 負ののれんと段階取得を1問ずつ解く | 配分の再点検と、持分法評価額を使う理由を説明できる |
| 5日目 | 会計上ののれんと税務上の資産調整勘定を比較する | 両者を別々に判定できる |
まとめ
- PPAでは、取得原価を企業結合日の識別可能資産・負債へ配分する
- 取得対価が識別可能純資産を上回る差額は、のれんになる
- 取得対価が識別可能純資産を下回るときは、配分を見直してから負ののれん発生益を計上する
- 事業譲受では個別上、株式取得による子会社化では原則として連結上でのれんを認識する
- 段階取得で持分法を適用していた場合、既存持分の時価と持分法評価額との差額を段階取得損益とする
- 会計上ののれんと税務上の資産調整勘定は、別々に判定する
