第213回では、債務超過子会社の債権放棄と、子会社が繰越欠損金を使う場面を扱いました。
今回は、清算後も残る税務上の欠損金を親会社が引き継ぐ場面です。
解散しただけでは欠損金は移りません。完全支配関係などの要件を満たした子会社の残余財産が確定すると、その未処理欠損金額が親会社の過年度の欠損金額とみなされます。
1.前回と今回では欠損金を使う会社が違う
| 項目 | 第213回 | 今回 |
|---|---|---|
| 欠損金を使う法人 | S社 | P社 |
| 用途 | S社の所得計算で使う | P社の所得計算で使う |
| 基準となる時点 | S社の各事業年度 | S社の残余財産確定日の翌日 |
| 欠損金引継ぎの仕訳 | ― | 仕訳なし |
S社がすでに繰越控除した額や、繰戻還付の計算の基礎とした額を、P社がもう一度使うことはできません。引継ぎの対象は、それらを除いた未処理欠損金額です。
2.解散日ではなく残余財産確定日を見る
法人税法14条1項5号・57条2項に沿って日付を並べます。
| 段階 | 本設例の日付 | 意味 |
|---|---|---|
| 解散 | 設例では省略 | 清算を始める。解散だけでは欠損金は移らない |
| 残余財産の確定 | 2026年10月16日 | S社の最後事業年度が終了する |
| 確定日の翌日 | 2026年10月17日 | この日が属するP社の事業年度を合併等事業年度とする |
| P社の合併等事業年度 | 2026年4月1日~2027年3月31日 | 要件を満たす欠損金を利用できる最初の事業年度になる |
残余財産確定日の翌日が、親会社のどの事業年度に入るかまで確認します。
例えば、子会社の残余財産が3月31日に確定した場合、その翌日は4月1日です。3月決算の親会社では、原則として4月1日から始まる事業年度が合併等事業年度になります。
3.会計上の赤字と未処理欠損金額は別である
| 項目 | 意味 | 引継ぎの扱い |
|---|---|---|
| 繰越利益剰余金のマイナス | 会計上の累積損失 | 税務上の欠損金額とは一致しない |
| 欠損金額 | 法人税の所得計算で生じた税務上の赤字 | 発生年度、申告、保存などの要件を確認する |
| 未処理欠損金額 | 繰越控除済額や繰戻還付の基礎とした額などを除いた残額 | 法人税法57条2項・3項などの範囲で引き継ぐ |
| 繰越期間を過ぎた欠損金 | 通常の繰越控除に使えなくなった欠損金 | 法人税法57条2項による通常の引継ぎ対象にはならない |
国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」では、原則として各事業年度開始日前10年以内に開始した事業年度の欠損金を対象としています。
引継ぎによって、新たな10年が始まるわけではありません。S社で欠損金が生じた年度を基礎として、P社における発生年度と残存期間を判定します。
4.100%・10年・5年を分ける
| 数字 | 確認すること | 本設例 |
|---|---|---|
| 100% | 残余財産確定時に法人税法57条2項所定の完全支配関係があるか | P社がS社を直接100%保有している |
| 10年 | 残余財産確定日の翌日前10年以内に開始したS社の事業年度か | 設例の欠損年度はすべて期間内にある |
| 5年 | 法人税法57条3項による引継制限を受けない継続支配関係があるか | 判定期間を通じて支配関係が続いている |
5年継続支配の判定では、次の日のうち最も遅い日を起点にします。
- P社の合併等事業年度開始日の5年前の日
- P社の設立日
- S社の設立日
本設例では、最も遅い日は2021年4月1日です。P社とS社の支配関係は2020年4月1日から続いているため、2021年4月1日から残余財産確定日までの継続支配を満たします。
100%は引継ぎの入口です。5年継続支配は、引継ぎから除外される欠損金がないかを判定するための要件です。残余財産確定日に100%保有しているだけで、すべての欠損金を引き継げるとは限りません。
5.未処理欠損金額500を年度別に置く
| S社の欠損事業年度 | 未処理欠損金額 | P社で生じたものとみなす事業年度 |
|---|---|---|
| 2022年4月1日~2023年3月31日 | 250 | 2022年4月1日~2023年3月31日 |
| 2023年4月1日~2024年3月31日 | 150 | 2023年4月1日~2024年3月31日 |
| 2026年4月1日~2026年10月16日 | 100 | 2025年4月1日~2026年3月31日 |
| 合計 | 500 | ― |
S社の最後事業年度は、P社の合併等事業年度開始日と同じ2026年4月1日に始まっています。
このように、S社の欠損事業年度がP社の合併等事業年度開始日以後に始まる場合、その欠損金は法人税法57条2項後段により、P社の合併等事業年度の前事業年度に生じたものとみなします。
P社自身には、2021年4月1日から2022年3月31日までの事業年度に生じた欠損金100があります。欠損金は古い年度のものから控除します。
| 順序 | 欠損金 | 控除額 | 控除後所得 |
|---|---|---|---|
| 控除前 | ― | ― | 800 |
| 1 | P社自身の欠損金 | 100 | 700 |
| 2 | S社の2022年度分 | 250 | 450 |
| 3 | S社の2023年度分 | 150 | 300 |
| 4 | S社の最後事業年度分 | 100 | 200 |
| 計算項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 利用可能額 | 100+250+150+100 | 600 |
| 損金算入限度額 | 800×100% | 800 |
| 当期控除額 | 600と800の少ない額 | 600 |
| 欠損金控除後所得 | 800-600 | 200 |
| 翌期繰越額 | 600-600 | 0 |
本設例では、利用可能額600をすべて控除し、控除後所得は200、翌期繰越額は0です。
P社が中小法人等事業年度に該当せず、法人税法57条11項のほかの例外にも該当しない場合、2026年10月16日現在の損金算入限度額は欠損金控除前所得の50%です。同じ数値なら限度額と当期控除額は400、控除後所得は400、翌期繰越額は200となります。
6.欠損金の引継ぎ自体に仕訳はない
| 処理 | 借方 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未処理欠損金額500の引継ぎ | 仕訳なし | 仕訳なし | ― |
| 法人税申告での欠損金控除600 | 欠損金控除自体の仕訳なし | 欠損金控除自体の仕訳なし | ― |
欠損金の引継ぎは、法人税法上、P社の過年度の欠損金額とみなす処理です。現金、資産、負債が動く処理ではありません。
したがって、P社の会計上の税引前利益800は変わりません。税務申告上の欠損金控除後所得が200になります。
残余財産の受取りや子会社株式の消滅に関する仕訳は別に必要です。本稿では、第212回・第213回で扱った処理と分けて、欠損金の引継ぎだけを確認しています。
本設例では引き継いだ欠損金を当期中にすべて使うため、期末に残る引継欠損金はありません。法人税等の計上や、未使用額が残る場合の繰延税金資産は別に判定します。
7.5年継続支配を満たさない場合
仮にP社がS社株式を取得した日が2025年4月1日で、それ以前に両社間の支配関係がなかった場合、本設例の5年継続支配は満たしません。
ただし、引継額が自動的にすべて0になるわけではありません。法人税法57条3項と法人税法施行令112条に基づき、次の金額を年度別に計算します。
| 欠損金の区分 | 確認すること |
|---|---|
| 支配関係事業年度前の欠損金 | 引継ぎから除外される額を確認する |
| 支配関係事業年度以後の欠損金 | 特定資産譲渡等損失額に相当する部分を確認する |
| 欠損等法人に関する欠損金 | 法人税法57条の2の適用がないかを別に確認する |
短期間だけ完全子会社にして清算すれば、欠損金を全額利用できるという制度ではありません。
8.申告書はS社からP社へつなぐ
| 順序 | 確認する書類 | 役割 |
|---|---|---|
| 1 | S社の最後事業年度の別表七(一) | 最終的な未処理欠損金額を確認する |
| 2 | P社の別表七(一)付表一 | P社自身の欠損金とS社からの引継額を年度別に調整する |
| 3 | P社の別表七(一) | 当期控除額と翌期繰越額を計算する |
| 4 | S社の別表七(一)の写し | P社の合併等事業年度の申告書に添付する |
国税庁「別表七(一)付表一の記載の仕方」は、残余財産が確定した法人の最後事業年度の申告書に添付された別表七(一)の写しを添付するよう示しています。
最後事業年度について修正申告や更正があり、別表の金額が変わっている場合は、最も新しい別表または金額を確認できる書類の写しを使います。
株主名簿、資本関係図、支配関係が生じた日、各欠損年度の申告書、繰戻還付の有無も突き合わせます。実際の申告では、その事業年度に対応する国税庁の法人税申告書別表を確認してください。
9.間違えやすい点
| 誤り | 正しい整理 |
|---|---|
| 解散日に欠損金を引き継ぐ | 残余財産確定日と、その翌日が属するP社の事業年度を確認する |
| 繰越利益剰余金のマイナスを使う | S社の税務申告上の未処理欠損金額を使う |
| 引継日から10年間使える | S社で欠損金が生じた年度を基礎に残存期間を確認する |
| 確定日に100%なら全額引継ぎ | 5年継続支配、特定資産譲渡等損失、欠損等法人の制限も確認する |
| 引継額を費用として仕訳する | 引継ぎ自体は税務上のみなし処理であり、直接の仕訳はない |
| S社の期首残高を使う | 最後事業年度の所得計算や繰戻還付を反映した最終残高を使う |
| 利用可能額を必ず全額控除する | P社の法人区分と損金算入限度額を確認する |
10.5日で定着させる
| 日 | 取り組むこと | 確認点 |
|---|---|---|
| 1日目 | 解散日、残余財産確定日、その翌日を時系列で書く | 引継ぎの基準日を説明できる |
| 2日目 | 会計上の赤字と税務上の未処理欠損金額を分ける | 繰越利益剰余金を使わないと判断できる |
| 3日目 | 100%、10年、5年の役割を一行ずつ書く | 三つの判定を混同しない |
| 4日目 | 800-100-250-150-100を再計算する | 控除後所得200、翌期繰越額0になる |
| 5日目 | S社の別表七(一)からP社の付表一・別表七(一)への流れを書く | 仕訳がなくても申告書処理が必要だと説明できる |
まとめ
- 欠損金引継ぎの起点は、解散ではなく残余財産の確定である
- 引継ぎ対象は、会計上の累積損失ではなく税務上の未処理欠損金額である
- 完全支配関係、10年内事業年度、5年継続支配は別々に判定する
- 欠損金の発生年度と繰越期間は、引継ぎによってリセットされない
- 本設例では600を控除し、控除後所得200、翌期繰越額0となる
- 引継ぎ自体に仕訳はないが、別表七(一)付表一と添付書類の確認が必要になる
実際の引継額は、資本関係の変遷、設立日、過年度申告、繰戻還付、特定資産の譲渡、グループ通算制度などによって変わります。清算前から欠損金を年度別に整理し、適用法令と申告年度用の様式に基づいて個別に判定してください。
