第209回 子会社の自己株式消却をゼロから学ぶ:発行済株式数・持分比率・仕訳(5日間の復習例付き)

自己株式とは、自社が取得して保有する自社の株式です。本稿では、子会社が取得済みの自己株式を第三者へ処分せず、消却する場合を整理します。

消却すると発行済株式数は減ります。ただし、自己株式は消却前から持分比率の分母に含めないため、本設例では親会社の持分比率は変わりません。

1.発行済株式数と持分比率

項目 消却前 消却後
発行済株式数 100株 100株-20株=80株
自己株式数 20株 0株
社外株式数 100株-20株=80株 80株-0株=80株
P社の持分比率 60株÷80株=75% 60株÷80株=75%
B社の持分比率 20株÷80株=25% 20株÷80株=25%

消却では、発行済株式数と自己株式数が同じ20株ずつ減ります。社外株式数は80株のままなので、P社とB社の持分比率も変わりません。これに対し、自己株式を第三者へ処分すると、自己株式が社外へ戻るため社外株式数が増え、通常は持分比率が変わります。

実際の支配判定では、議決権の内容、種類株式、契約関係なども確認します。本設例の株式数による計算を、すべての支配判定にそのまま使うことはできません。

2.自己株式の消却と資本金の減少は別の手続

会社法178条により、株式会社は保有する自己株式を消却できます。消却する自己株式数を定め、取締役会設置会社では取締役会決議によらなければなりません。消却の対象は会社が保有する自己株式であり、P社やB社の保有株式をS社の決定だけで消却するものではありません。

会社計算規則24条は、消却する自己株式の帳簿価額を自己株式から減らし、同額をその他資本剰余金から減らすことを定めています。自己株式の消却だけでは資本金は減少しません。資本金の額の減少は会社法447条以下による別の手続です。

3.S社の個別仕訳

消却直前のS社の純資産を次のように仮定します。

項目 残高
資本金 400
資本準備金 100
その他資本剰余金 260
繰越利益剰余金 240
自己株式 △240
純資産合計 400+100+260+240-240=760

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第11項に基づき、消却手続が完了したときに次の仕訳を行います。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
その他資本剰余金 240 自己株式 240
合計 240 合計 240

自己株式は純資産の控除項目です。貸方に240を記入して、消却した自己株式の借方残高をゼロにします。消却益や消却損は計上しません。

項目 消却前 増減 消却後
資本金 400 0 400
資本準備金 100 0 100
その他資本剰余金 260 △240 20
繰越利益剰余金 240 0 240
自己株式 △240 240 0
純資産合計 760 0 400+100+20+240=760

その他資本剰余金と自己株式の控除額が同額ずつ減るため、純資産合計は760のままです。消却時に現金も動きません。

一部だけを消却する場合の帳簿価額は、同会計基準第13項に従い、会社が定めた計算方法によって株式の種類ごとに算定します。

4.その他資本剰余金が不足する場合

消却直前のその他資本剰余金が100、消却する自己株式の帳簿価額が240であれば、消却手続の完了時には「その他資本剰余金240/自己株式240」と仕訳し、その他資本剰余金は△140になります。

同会計基準第12項により、会計期間末に「繰越利益剰余金140/その他資本剰余金140」と仕訳して、その他資本剰余金をゼロにします。消却時から240の全額を繰越利益剰余金へ振り替えるのではなく、不足額140だけを会計期間末に減額します。

5.親会社個別と連結の処理

確認先 処理
S社の個別財務諸表 その他資本剰余金240/自己株式240
P社の個別財務諸表 P社の保有株式数、子会社株式の帳簿価額および現金に変動がないため、消却に伴う仕訳はない
P社の連結財務諸表 S社が計上した消却仕訳を連結修正で取り消す

企業会計基準適用指針第2号第20項は、連結子会社が保有する自己株式を消却しても、連結貸借対照表の資産、負債および純資産に変動は生じないとしています。同適用指針の設例3では、子会社の消却処理を取り消す次の連結修正が示されています。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
自己株式(子会社) 240 その他資本剰余金 240

これはS社の個別仕訳を取り消す連結修正であり、新たな持分変動を認識する仕訳ではありません。消却前後とも、P社持分相当額は760×75%=570、非支配株主持分は760×25%=190です。自己株式取得時に認識した持分変動を消却時に再計上すると、二重計上になります。

6.法人税と消費税

法人税

会計上のその他資本剰余金の減少は費用ではないため、本設例の240を消却損として損金算入する処理は行いません。

法人税法施行令8条・9条では、自己株式の取得について、取得の態様や交付対価などに応じて税務上の資本金等の額および利益積立金額を計算する仕組みが定められています。一方、取得済みの自己株式を会社法上消却することは、これらの条文に掲げる新たな増減事由ではありません。

したがって、本設例のように消却時に株主への金銭その他の資産の交付がない場合、消却だけを理由として新たな益金、損金またはみなし配当を認識しません。実際の申告では、自己株式の取得方法、取得対価、取得相手、みなし配当の有無ならびに取得時からの資本金等の額および利益積立金額の履歴を確認する必要があります。

消費税

今回の消却には対価の受領も他者への資産移転もないため、消却自体は消費税の課税対象外です。有価証券を第三者へ譲渡する非課税取引とは区別します。

国税庁「非課税と不課税の違い」によれば、不課税取引は課税売上割合の分母にも分子にも算入しません。したがって、消却した自己株式の帳簿価額240を課税売上割合へ算入しません。登記費用や専門家報酬などが生じた場合は、それぞれの取引について消費税区分を別途判定します。

7.確認問題

S社の発行済株式数は200株です。P社が120株、B社が40株を保有し、S社は40株を自己株式として保有しています。自己株式の帳簿価額は360、その他資本剰余金は300です。同一種類の自己株式の1株当たり帳簿価額を9として、S社が30株を消却した場合を計算してください。

答えと検算

消却する自己株式の帳簿価額は9×30株=270です。

項目 答え
発行済株式数 200株-30株=170株
自己株式数 40株-30株=10株
社外株式数 170株-10株=160株
P社の持分比率 消却前後とも120株÷160株=75%
消却仕訳 その他資本剰余金270/自己株式270
その他資本剰余金 300-270=30
自己株式 △360+270=△90

その他資本剰余金と自己株式の控除額が270ずつ減るため、純資産合計は変わりません。

8.5日間の復習例

  1. 取得・処分・消却について、発行済株式数と自己株式数の動きを表にする。
  2. 「発行済株式数-自己株式数」で社外株式数を求め、持分比率を再計算する。
  3. その他資本剰余金が足りる場合と不足する場合の仕訳を書く。
  4. S社個別、P社個別、連結の処理を並べ、持分変動を二重計上していないか確認する。
  5. 確認問題を見ずに解き、株式数、借貸、残高、税務の順で検算する。

まとめ

  • 自己株式の消却では、発行済株式数と自己株式数が同数だけ減る。
  • 社外株式数が変わらないため、本設例のP社持分は75%のままである。
  • S社個別では、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
  • その他資本剰余金が負となる場合は、会計期間末に不足額を繰越利益剰余金から減額する。
  • P社個別では消却に伴う仕訳はなく、連結ではS社の消却仕訳を取り消す。
  • 消却だけを理由とする新たな法人税上の益金・損金や消費税上の課税売上は生じない。