第200回では、同じ最終支配の中で行う共通支配下の取引を確認しました。今回は、複数の独立した企業が事業を持ち寄り、共同で支配する会社をつくる「共同支配企業の形成」を扱います。
50対50で出資しただけでは、共同支配企業の形成とはいえません。独立企業、契約、対価、その他の支配という4要件を確認してから、共同支配企業、投資企業の個別財務諸表、連結財務諸表の順に処理します。
1.取得・共同支配・共通支配を分ける
| 区分 | 支配の状態 | 会計処理の中心 |
|---|---|---|
| 取得 | 一つの企業が他の企業または事業への支配を獲得する | 時価を基礎とするパーチェス法 |
| 共同支配企業の形成 | 複数の独立企業が契約等に基づいて共同で支配する | 共同支配企業は適正な帳簿価額を引き継ぐ。共同支配投資企業は連結上、共同支配企業への投資に持分法を適用する |
| 共通支配下の取引 | 結合の前後で同じ株主による最終的な支配が続く | 個別では帳簿価額を基礎とし、連結では内部取引として消去する |
共同支配企業の形成は、独立企業間の共同事業です。共通支配下の取引のように、企業集団内の取引としてすべて消去するものではありません。
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第8項、第11項、第12項が、共同支配、共同支配企業、共同支配投資企業を定義しています。
2.4要件を順に確認する
企業会計基準適用指針第10号第175項では、次の4要件をすべて満たす企業結合を共同支配企業の形成としています。
| 要件 | 確認内容 |
|---|---|
| 独立企業要件 | 共同支配投資企業が複数の独立した企業で構成されているか |
| 契約要件 | 共同支配の契約等が文書化され、事業目的、各社の重要な役割、重要事項に全投資企業の同意が必要であることが定められているか |
| 対価要件 | 共同支配投資企業に支払われる対価のすべてが、原則として議決権のある株式か |
| その他の支配要件 | いずれか一社による実質的な支配を示す一定の事実がないか |
独立企業要件では、投資企業とその子会社、緊密な者、同意している者を単一の企業として扱います。
契約要件では、予算、事業計画、重要な人事、多額の資金調達、重要資産の取得・処分、事業の拡大・撤退などについて、すべての共同支配投資企業の同意が必要かを確認します。契約書に役割が書かれていても、実態が伴わなければ足りません。
議決権比率そのものは判定要件ではありません。50対50でも契約要件を欠けば共同支配企業の形成にはならず、議決権比率が異なっていても4要件を満たすことはあります。
対価要件の補足
企業結合会計基準の注7では、議決権のある株式による対価と認めるため、単一の取引または原則として一事業年度内に完了する取引であること、議決権の行使制限がないこと、企業結合日に対価が確定していること、償還・再取得の取決めなどがないことも求めています。
その他の支配要件では、特定の投資企業の役員・従業員またはその経験者が意思決定機関の構成員の過半数を占めていないか、特定の投資企業だけが重要な契約上有利になっていないか、企業結合日後2年以内にいずれかの投資企業が投資した大部分の事業を処分する予定がないかを確認します。
3.共同新設分割の設例
A社とB社は互いに独立しており、関連する事業を共同新設分割によってJ社へ移転します。両社はJ社の議決権を50%ずつ取得し、重要事項には両社の同意が必要です。対価はJ社の議決権株式だけで、会計上の4要件を満たすものとします。
税務上の適格要件を満たすかどうかは、まだ仮定しません。
| 項目 | A社 | B社 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 棚卸資産 | 250 | 300 | 550 |
| 有形固定資産 | 750 | 600 | 1,350 |
| 資産合計 | 1,000 | 900 | 1,900 |
| 買掛金 | 180 | 120 | 300 |
| 長期借入金 | 220 | 180 | 400 |
| 負債合計 | 400 | 300 | 700 |
| 株主資本相当額 | 600 | 600 | 1,200 |
A社の株主資本相当額は1,000-400=600、B社は900-300=600です。
4.A社とB社の個別仕訳
共同支配投資企業が受け取るJ社株式の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額を基礎に計算します。
A社
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 180 | 棚卸資産 | 250 |
| 長期借入金 | 220 | 有形固定資産 | 750 |
| 共同支配企業株式 | 600 | ||
| 借方合計 | 1,000 | 貸方合計 | 1,000 |
B社
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 120 | 棚卸資産 | 300 |
| 長期借入金 | 180 | 有形固定資産 | 600 |
| 共同支配企業株式 | 600 | ||
| 借方合計 | 900 | 貸方合計 | 900 |
負債を借方に記入するのは、A社・B社の帳簿から移転した負債を取り除くためです。どちらも移転損益を計上しません。
移転事業に繰延税金資産・負債が含まれる場合、適用指針第196項に従い、共同支配企業株式の取得原価を算定する際に、移転事業に係る株主資本相当額から当該繰延税金資産・負債を控除する点に留意が必要です。
組織再編に伴う支出額については、適用指針第91項により、事業分離に要した支出額は分離元企業で発生した事業年度の費用とします。一方、受取株式の取得に係る付随費用は、金融商品会計に関する実務上の取扱いに従って株式の取得原価へ加算します。本設例では、これらの支出額を除外しています。
5.J社の受入仕訳
J社は、A社とB社から移転された資産・負債を、それぞれの移転直前の適正な帳簿価額で引き継ぎます。払込資本1,200のうち、資本金を600、資本剰余金を600とすることは、分割計画等に基づく設例上の仮定です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 棚卸資産 | 550 | 買掛金 | 300 |
| 有形固定資産 | 1,350 | 長期借入金 | 400 |
| 資本金 | 600 | ||
| 資本剰余金 | 600 | ||
| 借方合計 | 1,900 | 貸方合計 | 1,900 |
J社の純資産は1,900-700=1,200です。A社とB社が計上したJ社株式600ずつの合計とも一致します。J社は移転された資産・負債を時価へ評価替えせず、形成の受入仕訳でのれんも計上しません。
6.個別と連結を混ぜない
| 作成主体 | 処理 |
|---|---|
| J社の個別財務諸表 | 移転された資産・負債を適正な帳簿価額で引き継ぐ |
| A社・B社の個別財務諸表 | 移転事業の株主資本相当額を基礎にJ社株式を計上する |
| A社・B社の連結財務諸表 | 共同支配企業に対する投資へ通常の持分法を適用する |
共同支配企業について比例連結は行いません。A社とB社がJ社の資産・負債を50%ずつ科目ごとに取り込む処理ではありません。
企業結合会計基準第39項(2)と適用指針第197項・第431項・第432項により、共同支配投資企業は連結財務諸表上、共同支配企業への投資について通常の持分法を適用します。したがって、共同支配企業に対する投資の取得原価と、共同支配企業の資本のうち持分比率に対応する額との差額があれば、通常の持分法に従って分析し、処理します。差額を処理しない取扱いは、2008年改正前の基準によるものです。
本設例の形成時には、A社の投資取得原価600と、J社の形成時純資産1,200の50%である持分相当額600が一致します。B社についても同じです。このため、設例の前提では形成時に処理すべき差額はありません。共同支配企業の形成では常に差額やのれんが生じない、という意味ではありません。
形成後にJ社が120の当期純利益を計上し、配当を行わなかったとします。A社の持分相当額は120×50%=60です。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 共同支配企業株式 | 60 | 持分法による投資利益 | 60 |
| 借方合計 | 60 | 貸方合計 | 60 |
A社の連結上の投資残高は600+60=660です。J社の期末純資産1,200+120=1,320の50%とも一致します。この持分法仕訳はA社の個別帳簿には記帳しません。B社も同額です。
7.共同支配企業の形成にならない例
| 状況 | 確認すべき点 |
|---|---|
| 50%ずつ出資したが、共同支配契約が文書化されていない | 契約要件を満たさない |
| A社の役員・従業員またはその経験者が、J社の意思決定機関の構成員の過半数を占める | A社による支配を示す事実に該当しないか確認する |
| 重要事項を多数決だけで決められる | 全共同支配投資企業の同意を求める契約になっていない |
| 対価に通常の現金が含まれる | 原則として対価要件を満たさない |
| 結合後2年以内に、一方が投資した大部分の事業を処分する予定がある | その他の支配要件を満たさない |
8.税務上の適格分社型分割は別に判定する
本設例ではJ社株式をA社とB社自身が受け取るため、法人税法上は分社型分割に当たるかを確認します。会計上の「共同支配企業の形成」と、税務上の「適格分社型分割」は別の判定です。
A社とB社がそれぞれJ社株式の50%を保有する本設例では、各社とJ社との間に50%超の保有関係があるとはしていません。そこで、共同事業要件による適格判定を検討します。
| 要件 | 確認内容 |
|---|---|
| 対価要件 | 原則として、J社または一定の分割承継親法人の株式以外の資産が交付されないこと |
| 事業関連性 | A社とB社が移転する事業が相互に関連すること |
| 事業規模または特定役員 | 所定の事業規模の割合がおおむね5倍を超えないこと、または特定役員引継要件を満たすこと |
| 主要資産等の移転 | 各分割事業に係る主要な資産・負債がJ社へ移転していること |
| 従業者の引継ぎ | 各分割事業の従業者のうち、おおむね80%以上に相当する数が分割後にJ社の業務へ従事する見込みであること |
| 事業継続 | 関連する各分割事業がJ社で引き続き営まれる見込みであること |
| 株式継続保有 | 分社型分割で各分割法人に交付される所定の株式の全部が、継続して保有される見込みであること |
「おおむね5倍」や「おおむね80%」は税務上の要件です。会計上の共同支配要件へ置き換えてはいけません。また、分割時から具体的な株式売却計画がある場合は、株式継続保有要件に影響します。
本設例では、事業関連性、事業規模、役員、従業者、事業継続などの事実を与えていません。したがって、適格分社型分割に該当するとは断定できません。
| 区分 | 移転時の基本的な取扱い |
|---|---|
| 適格分社型分割 | 税務上の帳簿価額による譲渡として、移転時の譲渡損益を繰り延べる |
| 非適格分割 | 時価による譲渡として、原則として譲渡損益を所得計算へ反映する |
適格分社型分割の基本規定は法人税法第62条の3、非適格分割の基本規定は同法第62条です。適格分割で用いる帳簿価額は税務上の帳簿価額であり、減価償却超過額などがあれば会計上の帳簿価額とは一致しません。
9.間違えやすい点
| 誤りやすい理解 | 正しい整理 |
|---|---|
| 50%ずつ持てば必ず共同支配になる | 文書化された契約と実態を含む4要件で判定する |
| 共同支配企業は各投資企業の子会社である | 一社が単独で支配するものではない |
| J社の資産・負債を50%ずつ比例連結する | 比例連結は行わず、連結上は共同支配企業への投資に持分法を適用する |
| 形成時は投資原価と持分相当額の差額を処理しない | 通常の持分法により差額を分析して処理する。本設例では両者が600で一致するため差額がない |
| 事業分離に要した支出額は受取株式の取得原価になる | 事業分離に要した支出額は発生時の費用とし、受取株式の取得に係る付随費用は金融商品会計に関する実務上の取扱いに従う |
| 会計上の共同支配なら税務上も適格になる | 法人税法上の要件を別に判定する |
| 移転元では負債を貸方に記入する | 移転元の帳簿から負債を取り除くため借方に記入する |
10.5日で確認する
-
1日目:4要件を言う
独立企業、契約、対価、その他の支配です。 -
2日目:A社の投資原価を計算する
資産1,000-負債400=600です。 -
3日目:J社の残高を検算する
資産1,900-負債700=純資産1,200です。 -
4日目:持分法を計算する
形成時は投資原価600と持分相当額600が一致します。形成後の利益については120×持分比率50%=60となり、A社の連結上の投資残高は600+60=660です。 -
5日目:税務との違いを説明する
会計上の4要件を満たしただけでは、適格分社型分割とは断定できません。税務上の共同事業要件などを別に確認します。
順番は、「4要件で分類する→J社は帳簿価額で引き継ぐ→A社・B社の個別では株式へ振り替える→連結では通常の持分法を適用する→税務は別に判定する」です。
確認した一次資料
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準」
- 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第10号」
- e-Gov法令検索「法人税法」
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」
- 国税庁「分割後に分割承継法人が上場する場合の株式継続保有要件について」
- 国税庁「組織再編成に係る所得の金額の計算」
国税庁の質疑応答事例は、同ページに記載された令和7年8月1日現在の法令・通達等を基礎としています。本稿では2026年10月3日を基準日として、企業会計基準委員会、e-Gov法令検索および国税庁の公表資料を確認しています。
