第191回 新リース会計ゼロ入門:使用権資産・リース負債と法人税の申告調整を仕訳で整理(5日練習付き)

第190回では、資産除去債務を扱いました。対象となる資産が使用権資産であるときは、除去費用をその帳簿価額に加えます。今回は、その土台となる新しいリース会計です。

企業会計基準第34号を適用する借手について、リースの識別、使用権資産とリース負債の計上、法人税との違いを順に見ていきます。

この記事の要点

  • 借手は、原則として使用権資産とリース負債を計上します。
  • リース負債は未払リース料の現在価値、使用権資産はその負債を基礎に測定します。
  • 会計上のリースと法人税法上のリース取引は別に判定します。
  • 税務上のオペレーティング・リースでは、会計上の費用と税務上の損金に差が生じることがあります。

基準日:2026年9月23日。日本基準の企業会計基準第34号を適用する法人の借手を想定した一般的な学習用解説です。貸手、移行時の経過措置、セール・アンド・リースバック、契約変更は扱いません。個別の契約や申告については、適用する基準、契約条件、最新の法令等を確認してください。

1.新基準はいつから使うのか

2026年9月23日時点では原則適用前です。ただし、早期適用している企業もあります。まず、問題文や財務諸表がどの基準を前提としているかを確認します。

区分 適用時期
原則適用 2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から
早期適用 2025年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から可能
この記事の前提 新基準を適用する借手

適用時期は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第58項で確認できます。

2.契約名ではなく、資産の使用を支配しているかを見る

契約書に「賃貸借」と書かれているだけでは、会計上のリースとは限りません。契約の締結時に、特定された資産を使用する権利が、一定期間にわたり対価と交換に移転するかを判定します。

確認事項 見るポイント
特定された資産 車両、機械、建物などが特定されているか。供給者に資産を代替する実質的な権利がないか
経済的利益 使用期間全体を通じ、顧客が使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を持つか
使用の指図 顧客が、その資産をどのように、何の目的で使用するかを決める権利を持つか

供給者の代替権が実質的であるためには、使用期間全体を通じて代替する実質上の能力があり、代替による経済的利益がそのコストを上回ると見込まれる必要があります。詳しい判定は、企業会計基準適用指針第33号第5項から第8項に示されています。

3.借手のリース期間を決める

契約書に書かれた年数を、そのまま使うとは限りません。

借手のリース期間 = 解約不能期間 + 行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間 + 行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間

判断では、延長後のリース料、違約金、賃借設備への大幅な改良、移転費用、事業における原資産の重要性などを考慮します。期間が変われば、リース負債と使用権資産の金額も変わります。

4.短期リースと少額リース

要件を満たす場合は、使用権資産とリース負債を計上せず、リース料をリース期間にわたり原則として定額で費用計上できます。

区分 主な要件 選択単位など
短期リース リース開始日における借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まない 対応する原資産の表示科目ごと、または性質・用途が類似するグループごとに選択する
少額リースA 重要性が乏しい減価償却資産を購入時に費用処理する方針があり、借手のリース料がその基準額以下 通常取引される原資産の単位ごとに判定する
少額リースB-1 事業内容に照らして重要性が乏しく、契約1件当たりの金額にも重要性が乏しい B-2とのいずれかを選び、首尾一貫して適用する
少額リースB-2 新品時の原資産の価値が少額である リース1件ごとに適用するかを選択できる

会計上の少額リースと、法人税の少額減価償却資産制度は別の制度です。税務上の金額基準だけで会計処理を決めることはできません。

5.使用権資産とリース負債を測定する

項目 開始日の基本的な測定
リース負債 開始日に未払である借手のリース料の現在価値
使用権資産 リース負債 + 開始日までに支払った借手のリース料 + 付随費用 + 資産除去債務に対応する除去費用 − 受け取ったリース・インセンティブ

割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合はその利率を使います。知り得ない場合は、借手の追加借入に適用されると合理的に見積もられる利率を使います。

開始後のリース料は、原則としてリース負債の元本返済額と支払利息に分けます。利息相当額は、リース期間にわたり利息法で配分します。

原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースでは、自ら所有していた場合と同じ減価償却方法を使います。それ以外では、企業の実態に応じた方法を選び、原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして使用権資産を償却します。

6.国税庁の公表例で仕訳を確かめる

ここからは、国税庁「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」の設例を使います。金額の単位は千円です。消費税の処理は扱いません。

前提 内容
リース開始日・決算日 X1年4月1日・X2年3月31日
借手のリース期間 5年
リース料 毎月末1,000、60回、総額60,000
割引率 年8%の追加借入利子率
開始日の現在価値 49,318
その他 定額法、四半期ごとに償却費を計上、付随費用ゼロ、残存価額ゼロ。法人税法上はオペレーティング・リース取引

開始日の金額49,318は、60回の月額リース料を月利8%÷12で現在価値に割り引いた合計額です。

開始日とX1期の会計仕訳

時点 借方科目 借方 貸方科目 貸方
開始日 使用権資産 49,318 リース負債 49,318
X1期の支払合計 リース負債
支払利息
8,356
3,644
現金預金 12,000
X1期の償却 減価償却費 9,864 減価償却累計額 9,864

支払仕訳は、借方8,356+3,644=12,000で貸方と一致します。表は毎月の仕訳を年額にまとめたものです。

X1期末残高

項目 計算 期末残高
リース負債 49,318 − 8,356 40,962の貸方残高
使用権資産の純額 49,318 − 9,864 39,454の借方純額
X1期の会計上の費用 支払利息3,644 + 減価償却費9,864 13,508

表示単位未満の端数を最終期に調整すれば、5年間の減価償却費は合計49,318、利息は合計10,682です。両者の合計はリース料総額60,000と一致します。

7.法人税では区分を別に判定する

会計上、使用権資産を計上しただけで、法人税でも資産を取得したことになるわけではありません。

法人税上の区分 借手の基本的な取扱い
法人税法上のリース取引 中途解約不能またはこれに準ずることと、借手が経済的利益を実質的に享受し、使用費用を実質的に負担することの両方を満たす資産の賃貸借。所定の除外を除き、引渡時に売買があったものとされる
所有権移転外リース取引 法人税法上のリース取引のうち、所定の所有権移転要件などに該当しないもの。借手が取得したものとされるリース資産の償却方法はリース期間定額法となる
賃貸借取引(オペレーティング・リース取引) 法人税法上のリース取引に該当しない資産の賃貸借など。2025年4月1日以後に開始する事業年度では、契約に基づく支払額のうち各事業年度に債務が確定した部分を、その事業年度の損金に算入するのが基本

根拠は、法人税法第53条・第64条の2、国税庁No.5702「リース取引についての取扱いの概要」No.5704「所有権移転外リース取引」およびNo.5705「賃貸借取引(オペレーティング・リース取引)についての取扱いの概要」です。

8.公表例の法人税申告調整

設例では、会計上の費用13,508に対し、法人税法第53条による損金算入額は12,000です。

別表四の調整内容 金額(千円) 方向
支払利息否認 3,644 加算
減価償却費否認 9,864 加算
賃貸借取引に係る費用の損金算入額 12,000 減算
差引 1,508 純額で加算

計算は、3,644+9,864−12,000=1,508です。これは会計帳簿に新しい仕訳を記帳するという意味ではありません。会計と税務の差を申告書で調整します。

国税庁の公表例では、別表四で各項目を加減算し、使用権資産、リース負債、減価償却累計額に関する差額を別表五(一)で管理しています。同資料は申告調整の一例であり、すべての契約に同じ記載をそのまま当てはめるものではありません。

公表例は、国税庁「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」で確認できます。

9.混同しやすい点

誤りやすい考え方 確認すること
2026年中はすべての企業が新基準を使う 原則適用は2027年4月1日以後開始年度。早期適用の有無も確認する
賃貸借契約はすべて会計上のリースである 特定された資産と、その使用を支配する権利の移転を判定する
契約期間が12か月なら必ず短期リースになる 借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まないことを確認する
使用権資産を計上すれば税務でも固定資産になる 法人税法第64条の2のリース取引か、第53条の賃貸借取引かを別に判定する
純加算1,508を帳簿に仕訳する 1,508は申告調整の純額であり、帳簿上の仕訳とは分ける

10.5日で流れを定着させる

15~20分の練習 確認点
1日目 原則適用と早期適用の時期を書き分ける 使う会計基準を最初に確認できる
2日目 特定資産・経済的利益・使用の指図の3点を説明する 契約名だけで判断しない
3日目 開始日、支払、償却の3つの仕訳を書く すべての仕訳で借方と貸方が一致する
4日目 リース負債40,962、使用権資産純額39,454、会計費用13,508を再計算する 仕訳から期末残高へつなげられる
5日目 会計費用13,508と税務上の損金12,000を比較する 加算13,508、減算12,000、純加算1,508を区別できる

順序は、「適用基準を確認する→リースを識別する→期間を決める→現在価値を測定する→会計と法人税を分ける」です。この順序を崩さなければ、長い問題でも確認する場所が見えやすくなります。

参考にした一次資料

ASBJの現行基準・適用指針、e-Gov掲載法令および国税庁資料を2026年9月23日に確認しました。国税庁タックスアンサーの法人税ページは令和7年4月1日現在法令等、公表設例は令和7年6月の資料です。本記事は一般的な学習用解説であり、個別の会計・税務判断を示すものではありません。