第14回 簿記入門(14)減価償却はなぜ必要なのか

前回は、商品の決算整理の仕訳について見ました。

売れた分だけを費用にし、売れ残った分は資産として残す、という考え方が大切でした。

今回は、決算整理の中でももうひとつ重要なテーマである「減価償却」について見ていきます。

簿記を勉強し始めた人が、最初に少し不思議に感じる論点のひとつが、この減価償却です。

なぜなら、現金が動いていないのに費用になる、という場面が出てくるからです。

しかし、考え方がわかると、減価償却はむしろ非常に自然な処理だと理解できます。


1.減価償却とは何か

減価償却とは、建物や備品、車両などのように、長い期間にわたって使う資産の取得原価を、使用する期間にわたって少しずつ費用にしていく手続です。

たとえば、会社が仕事で使うパソコンを20万円で購入したとします。

このパソコンは、買ったその日だけ使って終わりではありません。

1年後も、2年後も、場合によってはもっと長く使うかもしれません。

そうすると、その20万円を買った年だけの費用としてしまうのは不自然です。

そのパソコンは、その年だけでなく、今後の仕事にも役立つからです。

そこで、取得原価を何年かに分けて費用にしていく必要が出てきます。

これが減価償却です。


2.なぜ買った年に全部費用にしてはいけないのか

ここが減価償却の一番大事なポイントです。

もし20万円のパソコンを買った年に、その全額を費用にしてしまうと、その年の費用が大きくなりすぎます。

反対に、翌年以降はそのパソコンを使っているのに、費用がまったく出てこないことになります。

これでは、期間ごとの成績が正しく表せません。

簿記では、ある期間の収益と、その収益を得るために使われた費用を対応させて考えることが大切です。

パソコンや建物のように、何年にもわたって収益獲得に役立つものは、その費用も何年かに分けて配分するのが自然なのです。


3.具体例で考える

たとえば、備品を60万円で購入し、これを5年間使うとします。

このとき、毎年均等に費用配分するなら、1年あたりの減価償却費は

60万円 ÷ 5年 = 12万円

になります。

つまり、購入時には60万円の資産として計上し、その後は毎年12万円ずつ費用にしていくわけです。

このようにすると、その備品を使っている期間にわたって、少しずつ費用が計上されます。

これなら、ある年だけ費用が大きくなりすぎることもありません。


4.減価償却は「価値が減る」からだけではない

減価償却という言葉を見ると、物の値段が下がることを想像するかもしれません。

もちろん、建物や備品は使っていくうちに古くなり、価値が下がる面もあります。

しかし、簿記でいう減価償却は、それだけを意味しているわけではありません。

大事なのは、

「長期間使う資産の取得原価を、使用期間にわたって配分する」

という考え方です。

実際の中古価格が毎年きれいに下がるから償却する、というよりも、会計上の期間配分の考え方のほうが重要です。


5.購入時の仕訳と、決算時の仕訳は違う

減価償却を理解するには、購入時と決算時を分けて考えることが大切です。

たとえば、備品を現金60万円で購入したときは、次のように仕訳します。

(借)備品 600,000 / (貸)現金 600,000

この段階では、まだ費用ではありません。

備品という資産を取得しただけです。

そして決算時に、その年の使用分だけを費用に振り替えます。

たとえば1年分の減価償却費が12万円なら、

(借)減価償却費 120,000 / (貸)減価償却累計額 120,000

という形で処理します。

こうして初めて、その年の費用が計上されるのです。


6.なぜ現金が動かないのに費用になるのか

ここで多くの人が戸惑います。

減価償却費を計上するとき、現金は出ていきません。

だから「費用ではないのでは」と感じやすいのです。

しかし、費用とは必ずしもその場で現金が出ていくものだけではありません。

費用とは、ある期間の収益を得るために使われた価値を表すものです。

減価償却の場合、現金の支出は購入時にすでに終わっています。

ただし、その資産の価値は数年間にわたって事業のために使われていきます。

そのため、使用した分を毎年費用として認識するのです。

つまり、現金の動きと費用の計上の時期は、必ずしも一致しません。


7.貸借対照表にはどう表れるのか

減価償却は損益計算書だけの話ではありません。

貸借対照表にも影響します。

たとえば60万円の備品について、1年分12万円の減価償却を行った場合、貸借対照表では、備品の価値がその分だけ減った形で表されます。

実際には、備品そのものの取得原価を残しつつ、減価償却累計額という形で差し引いて表示することが一般的です。

その結果、帳簿上の残りの価値は

60万円 - 12万円 = 48万円

となります。

こうして、損益計算書では当期の費用が示され、貸借対照表では決算日時点での資産の残りの価値が示されるのです。


8.実務でも非常に重要な考え方

減価償却は、簿記の試験だけの知識ではありません。

会社が設備投資をするとき、その費用が一度に利益を圧迫するのか、何年かに分かれて影響するのかで、数字の見え方は大きく変わります。

たとえば、新しい機械を導入した年に全額費用になってしまえば、その年だけ利益が極端に小さく見えてしまいます。

しかし、減価償却によって期間配分すれば、その機械を使って利益を生み出す期間に応じて、費用も配分されます。

この考え方は、会社の成績をより正確に表すために欠かせません。


9.最初は「分けて考える」だけでよい

初学者の段階では、減価償却の細かい計算方法や税法上の扱いまで一気に覚える必要はありません。

まずは、

  • 長期間使う資産は、買った年に全部費用にしない
  • 使用期間にわたって少しずつ費用にする
  • そのための手続が減価償却である

という3点を押さえれば十分です。

この考え方がわかると、減価償却費や減価償却累計額という言葉も、ただの暗記ではなく意味のあるものとして理解しやすくなります。


10.まとめ

減価償却とは、建物や備品などの長期間使う資産の取得原価を、使用する期間にわたって少しずつ費用にしていく手続です。

買った年に全額を費用にしてしまうと、期間ごとの成績が正しく表せなくなるため、減価償却が必要になります。

このとき大切なのは、

「現金が動いた時」と「費用として認識する時」は必ずしも同じではない

という点です。

減価償却は、収益と費用を正しく対応させるための重要な決算整理なのです。

次回は、この減価償却を実際の仕訳と結びつけながら、もう少し具体的に見ていきましょう。