第189回 固定資産の減損会計ゼロ入門:兆候・認識・測定と法人税の違いを仕訳で整理(5日練習付き)

第188回では、固定資産を売却・除却して帳簿から外す場面を学びました。今回は、その一歩手前にある「保有中の固定資産から投資額を回収できなくなった場面」を扱います。

減損会計は、価値が下がったら直ちに損失を計上する手続ではありません。資産のグルーピング→減損の兆候→認識の判定→損失の測定という順番で考えます。会計上の減損損失と法人税上の損金算入額が一致しない点にも注意が必要です。

この記事の前提:2026年9月21日現在の日本基準と法人税法令に基づく、国内法人を想定した一般的な学習用の説明です。会計基準の適用関係、資産の利用状況、将来計画、税務上の事実関係によって実際の処理は異なります。

今回のゴール

  • 減価償却・減損・除却の違いを説明できる
  • 減損の兆候と減損損失の計上を区別できる
  • 割引前将来キャッシュ・フローと回収可能価額を使い分けられる
  • 減損仕訳の借方・貸方と処理後残高を検算できる
  • 会計上の減損損失と法人税上の損金算入額が異なる理由を理解する

1.減価償却・減損・除却の違い

処理 意味 処理後の資産 代表的な費用・損失
減価償却 取得原価を使用期間にわたって規則的に配分する 原則として保有を続ける 減価償却費
減損 収益性の低下により回収できない投資額を帳簿価額に反映する 保有を続ける場合がある 減損損失
除却 使用をやめた資産などを帳簿から外す 原則として事業用資産として残さない 固定資産除却損

減損処理は、固定資産を毎期時価に置き換える手続ではありません。収益性が低下し、投資額の回収が見込めない状態になった場合に、一定の手順で帳簿価額を切り下げる処理です。

2.減損会計は4段階で考える

2026年7月7日までの修正が反映された企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に沿って、基本的な流れを整理します。

段階 行うこと 判断の中心
1.グルーピング 固定資産を減損判定の単位にまとめる ほかの資産からおおむね独立したキャッシュ・フローを生む最小単位か
2.兆候の把握 減損が生じている可能性を確認する 継続的な赤字、用途変更、経営環境悪化、市場価格下落などがあるか
3.認識の判定 減損損失を計上するか判定する 帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フロー総額を比較する
4.測定 減損損失額を計算する 帳簿価額を回収可能価額まで減額する

グルーピングを先に決める理由

店舗の建物、内装、設備が一体となって売上を生む場合、設備1台だけの収益を切り出せないことがあります。このような場合は、管理会計上の区分や投資判断の単位などを踏まえ、独立したキャッシュ・フローを生む最小単位を基礎にグルーピングします。

損失を小さくする目的で、好調な事業と不調な事業を任意にまとめることはできません。当期に採用したグルーピングは、事実関係が変わらない限り、翌期以降も同様に行うのが原則です。

3.減損の兆候を確認する

主な兆候 具体例 判断上の注意
営業損益またはキャッシュ・フローの継続的なマイナス 店舗や事業部の営業損益が継続して赤字になっている 適用指針では、おおむね過去2期がマイナスであることが目安。ただし、当期の見込みが明らかにプラスなら該当しないと考えられる
使用範囲・使用方法の大きな変化 事業廃止、大幅縮小、早期処分、用途変更、遊休化、稼働率の著しい低下など 正式な意思決定や合理的な見込みの有無を確認する
経営環境の著しい悪化 市場環境、技術環境、法的環境の著しい悪化 一時的な不振と、回収可能価額を大きく低下させる変化を区別する
市場価格の著しい下落 市場価格が帳簿価額から大きく下落した 適用指針では、少なくとも帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当する

兆候があることと、減損損失を計上することは同じではありません。兆候は、次の認識判定へ進む入口です。また、「過去2期」や「50%程度以上」は会計上の目安であり、法人税上の損金算入基準ではありません。

4.認識と測定で使う数字を分ける

用語 内容 使用場面
割引前将来キャッシュ・フロー 将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引く前の総額 減損損失を認識するかの判定
正味売却価額 時価から処分費用見込額を控除した金額 回収可能価額の算定
使用価値 継続使用と使用後の処分から得られる将来キャッシュ・フローの現在価値 回収可能価額の算定
回収可能価額 正味売却価額と使用価値のいずれか高い金額 減損損失の測定

認識判定:減損の兆候がある資産または資産グループについて、割引前将来キャッシュ・フロー総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識します。

測定:減損損失=帳簿価額-回収可能価額

認識判定に使った割引前将来キャッシュ・フローを、そのまま帳簿価額から差し引くわけではありません。

5.数値例で仕訳と残高を検算する

独立したキャッシュ・フローを生む賃貸用土地を一つの判定単位とする、学習用の仮定例です。

項目 金額・前提
減損処理前の帳簿価額 12,000,000円
割引前将来キャッシュ・フロー総額 10,000,000円
正味売却価額 6,800,000円
使用価値 8,000,000円
兆候 経営環境の著しい悪化により、兆候ありと判定済み

手順1:減損損失を認識するか

10,000,000円(割引前将来キャッシュ・フロー)<12,000,000円(帳簿価額)なので、減損損失を認識します。

手順2:回収可能価額を求める

6,800,000円(正味売却価額)と8,000,000円(使用価値)の高い方を選ぶため、回収可能価額は8,000,000円です。

手順3:減損損失を求める

12,000,000円-8,000,000円=4,000,000円

減損仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減損損失 4,000,000円 土地 4,000,000円
  • 借方合計:4,000,000円
  • 貸方合計:4,000,000円
  • 処理後の土地残高:12,000,000円-4,000,000円=8,000,000円

借方と貸方は一致し、処理後残高も回収可能価額と一致しています。減損損失は原則として特別損失に計上します。

貸借対照表では、原則として取得原価から減損損失を直接控除します。減価償却を行う有形固定資産については、減損損失累計額を取得原価から間接控除する方法や、減価償却累計額に合算する方法も認められています。

減損処理後の扱い

日本基準では、減損損失の戻入れを行いません。建物や機械などの償却資産は、減損後の帳簿価額を基礎として、その後の減価償却を行います。今回の例は土地なので減価償却はありません。

6.法人税では自動的に全額損金にならない

法人税法第33条では、資産の評価換えによる減額は原則として損金不算入とされています。同条第2項による通常の評価損については、災害による著しい損傷など法人税法施行令第68条所定の事実によって資産の価額が帳簿価額を下回り、損金経理などの要件を満たす場合に、法令上の限度額まで損金算入が認められます。

論点 会計 法人税
目的・考え方 投資額の回収可能性を帳簿価額に反映する 評価換えによる損失は原則として損金不算入とし、法令所定の場合に例外を認める
判定に使う額 割引前将来キャッシュ・フローや回収可能価額 法令所定の事実と、税務上の事業年度末の価額などを確認する
通常の収益悪化・相場下落 減損につながる場合がある それだけで損金算入できるわけではない

土地の例を税務へつなげる

先ほどの4,000,000円の減損損失が通常の収益悪化によるもので、施行令第68条所定の事実がないものとします。

項目 会計上 法人税上
減損損失 4,000,000円を費用計上 原則として損金不算入
申告調整 会計上の追加仕訳はない 別表四で4,000,000円を加算・留保し、通常は別表五(一)でも管理する
処理後の帳簿価額 8,000,000円 所得計算上は減額がなかったものとして12,000,000円

法人税法第33条第6項により、損金算入されなかった評価減額は、その後の所得計算上、なかったものとみなされます。このため、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額を分けて管理します。

税務上の価額は、法人税基本通達9-1-3により、その資産が使用収益されるものとして、事業年度末に譲渡される場合に通常付される価額を基礎とします。会計上の回収可能価額8,000,000円を、そのまま税務上の価額として使えるとは限りません。

税務上の評価損が認められない例

法人税基本通達9-1-17は、過度の使用や修理不足による損耗、減価償却不足、取得時の割高な取得価額、製造方法の進歩などによる機械装置の旧式化を、固定資産評価損について法人税法第33条第2項を適用できない例として示しています。

一方、災害による著しい損傷で時価が帳簿価額を下回った場合には、損金経理などの要件を満たす範囲で評価損が認められる場合があります。2026年4月1日現在の取扱いは、国税庁タックスアンサーNo.8009「災害により被害を受けたときの法人税の取扱い」でも確認できます。

減価償却資産では償却限度額との計算が必要

法人税基本通達7-5-1では、減価償却資産について計上した評価損のうち損金不算入となった金額も、税務上の「償却費として損金経理をした金額」に含まれます。同通達の注記により、ここでいう評価損には減損損失も含まれます。

したがって、減価償却資産では、減損損失を一律に全額加算するとは限りません。通常の減価償却費と損金不算入となる減損損失を合わせた損金経理額を、税務上の償却限度額と比較します。

次は計算関係だけを確認する仮定例です。同一の減価償却資産について、過年度からの償却超過額はなく、税務上の償却限度額3,000,000円は適用する償却方法や供用期間に基づいて別途計算済みとします。

項目 金額
会計上の通常の減価償却費 2,400,000円
会計上の減損損失 4,000,000円
税務上の償却費として損金経理した金額 2,400,000円+4,000,000円=6,400,000円
税務上の償却限度額 3,000,000円
損金算入される償却費 3,000,000円
償却超過額 6,400,000円-3,000,000円=3,400,000円

この前提では、会計上の費用6,400,000円に対して税務上損金算入される償却費は3,000,000円であり、申告調整による加算額は3,400,000円です。通常の減価償却費2,400,000円に加え、減損損失のうち600,000円が償却限度額の範囲に入る計算です。

実際の申告では、資産ごとの取得価額、税務上の未償却残額、償却方法、供用月数、過年度からの償却超過額などを確認する必要があります。

税効果会計を適用する場合

損金不算入額によって会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差が生じると、将来減算一時差異となる場合があります。ただし、繰延税金資産を計上するには、差異の解消見込みや回収可能性を検討しなければなりません。税率を掛けるだけで機械的に計上するものではありません。

7.よくある間違い

間違い 正しい整理
兆候を見つけた時点で減損損失を計上する 兆候があれば、次に認識判定を行う
割引前将来キャッシュ・フローを帳簿価額から差し引く 割引前金額は認識判定に使い、損失額は回収可能価額で測定する
正味売却価額と使用価値の低い方を選ぶ 回収可能価額は高い方を選ぶ
好調な資産と不調な資産を自由にまとめる 独立したキャッシュ・フローを生む最小単位を基礎にする
会計上の減損損失は税務でも全額損金になる 法人税法第33条と施行令第68条の要件を別に判定する
減価償却資産の減損損失を必ず全額加算する 法人税基本通達7-5-1と償却限度額を踏まえて計算する
収益力が回復したら減損損失を戻す 日本基準では減損損失の戻入れを行わない

8.ミニ問題

  1. 帳簿価額7,000,000円、割引前将来キャッシュ・フロー7,400,000円です。減損の兆候がある場合、減損損失を認識しますか。
  2. 帳簿価額9,000,000円、割引前将来キャッシュ・フロー7,600,000円、正味売却価額5,400,000円、使用価値6,300,000円です。減損損失はいくらですか。
  3. 会計上、市場価格の著しい下落を理由に減損損失を計上しました。この事実だけで法人税上も損金算入できますか。

解答

問題 解答
1 認識しません。7,400,000円が帳簿価額7,000,000円を下回っていないためです
2 2,700,000円。7,600,000円<9,000,000円なので認識し、回収可能価額は6,300,000円です。9,000,000円-6,300,000円=2,700,000円となります
3 自動的には損金算入できません。法人税法令所定の事実、事業年度末の価額、損金経理などの要件を別途確認します

9.5日間の短時間練習

取り組む内容 目安
1日目 減価償却・減損・除却の違いを一文ずつ書く 10分
2日目 減損の兆候を4分類し、それぞれの例を書く 10分
3日目 認識判定と測定を分けて数値例を解き直す 15分
4日目 会計上と税務上の帳簿価額を横並びで書く 10分
5日目 仕訳、借貸一致、処理後残高、申告調整を通して確認する 15分

まずは「兆候は入口」「認識は割引前」「測定は回収可能価額」という3点を、毎回同じ順番で確認しましょう。

仕上げのチェックリスト

  • 資産グループを先に決めたか
  • 兆候と損失計上を区別したか
  • 認識判定では割引前将来キャッシュ・フローを使ったか
  • 回収可能価額は正味売却価額と使用価値の高い方か
  • 借方・貸方と処理後残高が一致しているか
  • 法人税法上の事実と損金算入限度額を別に確認したか
  • 減価償却資産では償却限度額との関係を確認したか
  • 会計上と税務上の帳簿価額の差を管理したか

確認した一次資料

本記事は一般的な学習用の説明であり、個別案件についての会計・税務判断ではありません。実際の処理では、適用する会計基準、資産のグルーピング、意思決定の内容、将来キャッシュ・フローの根拠、法人税法令上の事実を確認し、必要に応じて税理士または公認会計士へ相談してください。