学習を進める中で「在庫の評価」や「期末仕訳」がわかりにくく感じることはよくあります。ここでは税理士試験の初学者に向けて、用語・評価方法・典型的な仕訳パターンを表で整理し、続けやすい週次チェックと短い実践問題で理解を定着させます。dai173(試算表/決算整理)やdai174(青色申告)からの自然な続きになるよう配慮しています。
なお、以下の仕訳例・実践問題の金額は消費税を考慮しないものとし、税込・税抜の区分および仮払消費税等・仮受消費税等の仕訳は省略しています。
導入:基本用語と処理の流れ
| 用語 | 簡潔な説明 | 決算での扱い |
|---|---|---|
| 取得原価 | 仕入代金・運賃・関税など在庫を取得するためにかかった費用の合計 | 期首在庫+当期仕入−期末在庫=売上原価の基礎 |
| 期末棚卸 | 決算日時点の実際の在庫数量・評価を確定する作業 | 期末に帳簿と実在庫を照合し、減耗などの差異を内容に応じて調整 |
| 評価減(減損) | 市場価格低下や破損で回収可能価額が下がった場合の見積り減額 | 必要に応じて期末に評価損を計上し、損益に反映する |
主要評価方法の比較
| 方法 | 概要 | 長所 | 短所 | 試験上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 先入先出法(FIFO) | 古くに取得した在庫を先に売れたとみなす方法 | 在庫回転を反映しやすい。物理的流れに整合しやすい | 物価変動が激しいと利益変動が大きくなる | 期末在庫は後から取得した層で構成される。数量によっては複数の取得単価が残る点に注意 |
| 移動平均法 | 仕入れの都度、直前の在庫原価と新たな仕入原価から平均単価を再計算する方法 | 価格変動の影響を平準化する | 仕入れの都度、平均単価の計算が必要 | 仕入れと販売の時系列に沿って平均単価を更新する |
| 総平均法 | 一定期間の期首在庫原価と仕入原価の総額を、その期間の総数量で割って平均単価を求める方法 | 価格変動の影響を平準化し、期間単位で計算できる | 期間終了まで平均単価が確定しない | 期首在庫と当期仕入の合計金額・合計数量から平均単価を算出する |
| 個別法 | 各品目を個別に評価。高額品や識別可能な在庫向け | 正確な原価配分が可能 | 大量かつ同質の在庫には不向き | 識別可能性が前提となる点を押さえる |
| 低価法 | 取得原価と期末時点の正味売却価額のうち低い方で評価 | 保守的な評価で回収可能性を重視 | 頻繁に使うと課税所得が変動する | 正味売却価額の見積り根拠を明確にすること |
仕訳パターン表(典型例)
| 状況・タイミング | 仕訳(借方/貸方) | 説明 |
|---|---|---|
| 在庫取得(仕入)時 | 仕入/買掛金(または現金) | 三分法による通常の仕入計上。販売目的の在庫を取得した段階で計上 |
| 売上計上(売上発生時) | 売掛金(現金)/売上 | 売上高を計上。三分法では売上原価を期末に算出する |
| 期首商品の振戻し(期末処理) | 仕入/商品 | 三分法では期首の商品残高を仕入勘定へ振り戻す |
| 期末商品の繰越し(期末処理) | 商品/仕入 | 実地棚卸と評価により確定した期末商品を翌期へ繰り越す |
| 売上原価への振替(期末処理) | 売上原価/仕入 | 期首商品の振戻しと期末商品の繰越し後、仕入勘定の残高を売上原価へ振り替える |
| 評価減(期末、価値の低下) | 評価損(費用)/棚卸資産(評価減額) | 市況下落や破損で正味売却価額が低下した場合に計上 |
| 廃棄(使用不能) | 廃棄損/棚卸資産 | 廃棄処理。実務では廃棄理由・数量を記録する |
以下はコピーしやすい代表的な仕訳例です。
(1)仕入発生時の仕訳
借方 仕入 100,000
貸方 買掛金 100,000
(2)期末に在庫評価して売上原価を計上(三分法)
期首在庫 30,000
当期仕入 120,000
期末在庫 20,000
売上原価 =30,000+120,000−20,000=130,000
期首商品の振戻し
借方 仕入 30,000
貸方 商品 30,000
期末商品の繰越し
借方 商品 20,000
貸方 仕入 20,000
売上原価への振替
借方 売上原価 130,000
貸方 仕入 130,000
(3)評価減を計上する場合
借方 評価損 10,000
貸方 棚卸資産 10,000
税務上の要点(法人税)
| 項目 | 法人税上の扱い | 申告への反映 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 評価方法の選択 | 原則として継続適用が原則(選定届出が必要な場合あり) | 期ごとに方法を変更する場合は理由・手続きの確認が必要 | 税務調査で過去の方法変更が問題となることがある |
| 評価減(損金算入) | 会計上の評価損がそのまま損金になるとは限らず、法人税上の要件を満たすか確認が必要 | 適用する法令・通達に基づき、事実関係と評価根拠を示す資料を保存する | 単なる市況下落などを理由に安易に損金算入しないこと |
| 低価法の適用 | 低価法を適用すると保守的な評価になり、課税所得に影響 | 方法を明確にし、計算根拠を申告書で整備 | 頻繁な適用変更は説明責任が生じる |
試験対策:覚えておきたい処理フロー(短い項目別)
| ステップ | 処理内容 | 暗記ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 期末棚卸で実在庫を確定 | まず数量。差異は内容に応じた調整仕訳で処理 |
| 2 | 評価単価で期末評価額を算出 | 選んだ評価方法を適用して計算 |
| 3 | 売上原価を計算(期首+仕入−期末) | 売上原価=利益計算の要 |
| 4 | 必要なら評価減を計上 | 価値の低下と評価額の判定が鍵 |
続けられる週次チェックリスト(毎週10分×5日)
各行は「当日の作業時間/狙い/確認ポイント」を示します。5項目を毎週繰り返すことで実務感覚を養えます。
| 当日の作業時間 | 狙い | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 月曜:10分 | 入庫記録の確認 | 伝票と納品書の数量・金額が一致しているか |
| 火曜:10分 | 出庫記録の確認 | 売上伝票と在庫帳の差異をメモ |
| 水曜:10分 | 在庫残高の概算チェック | 主要商品の在庫数量が想定内か |
| 木曜:10分 | 価格変動のメモ | 最近の仕入単価の変動を記録 |
| 金曜:10分 | 週次振り返りと問題演習1問 | 差異の要因と翌週の対処をメモ |
短い実践問題(3問)
解答は折りたたみ式で掲載します。
問題1
期末(12月31日)に在庫の実査を行ったところ、帳簿上の在庫が50個、実在庫が45個でした。1個当たりの取得単価は2,000円。差異は原因調査中(未確定)です。仕訳を示してください。
解答
差異の原因が未確定なため、棚卸減耗として処理する例です。
借方 棚卸減耗 10,000(=5個×2,000)
貸方 棚卸資産 10,000
問題2
期末に評価したところ、ある商品の正味売却価額が取得原価より低下していることが判明。減少額は30,000円。回収可能性の確認は後日(未確定)です。仕訳を示してください。
解答
会計上、評価減を計上する場合の仕訳例です。法人税上の損金算入可否は、会計処理とは別に要件を確認する必要があります。
借方 評価損 30,000
貸方 棚卸資産 30,000
問題3
期末において総平均法を採用している企業が平均単価を計算します。期首在庫30個、期首平均単価1,000円、当期仕入60個(仕入単価変動あり、合計仕入額120,000円)、期末在庫40個です。期末在庫評価額と売上原価を示してください。
解答
総平均法での計算例です。仕入れと販売の時系列や各仕入単価が示されていないため、移動平均法の計算はできません。
合計在庫量=期首30+仕入60=90個
合計在庫原価=期首30×1,000+仕入合計120,000
=30,000+120,000=150,000
平均単価=150,000÷90=1,666.66...円
期末在庫評価額=40×1,666.66...=約66,667円
売上原価=150,000−期末在庫評価額=約83,333円
※端数処理は問題の指示や会社の処理基準に従います。
まとめ
棚卸資産は「数量の確定」「評価単価の決定」「期末仕訳」の3点セットで考えると整理しやすいです。移動平均法と総平均法の違いを含めて評価方法ごとの特徴を押さえ、決算前の週次チェックを習慣化することで、実務力と試験対応力が同時に向上します。dai173-trial-balance-closing(試算表・決算整理)や dai174(青色申告)とあわせて復習すると理解が深まります。
次回は「棚卸資産の帳簿外差異(廃棄・返品処理)の実務的対応」について、仕訳の実務観点から掘り下げます。
