第218回では、清算株式会社の債権者保護手続と債務弁済を確認しました。
債権の回収、債務や税金の支払、残余財産の分配が終わると、清算人は決算報告を作成します。
決算報告の「収入・費用」は、会計帳簿上の「収益・費用」と同じではありません。売掛金の回収は決算報告の収入ですが、新たな売上ではありません。借入金の返済は決算報告の費用ですが、会計上の費用ではありません。
1.決算報告に記載する四つの項目
会社法507条は、清算事務が終了したとき、清算株式会社が遅滞なく決算報告を作成するよう定めています。
決算報告の内容は、会社法施行規則150条に定められています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 収入の額 | 債権の取立て、資産の処分その他の行為による収入 |
| 費用の額 | 債務の弁済、清算に係る費用の支払その他の行為による費用 |
| 残余財産の額 | 支払税額がある場合は、その税額と控除後の財産額も表示 |
| 一株当たりの分配額 | 種類株式発行会社では株式の種類ごとに表示 |
一株当たりの分配額には、残余財産の分配を完了した日を注記します。金銭以外の財産を分配した場合は、その種類と価額も必要です。
2.第218回から引き継ぐ現金を確認する
前回までの回収と弁済を、決算報告に必要な数字へまとめます。
| 取引 | 借方 | 貸方 | 取引後の現金 |
|---|---|---|---|
| 売掛金の回収 | 現金1,000 | 売掛金1,000 | 1,000 |
| 貸付金の回収 | 現金300 | 貸付金300 | 1,300 |
| 買掛金の弁済 | 買掛金250 | 現金250 | 1,050 |
| 借入金の弁済 | 借入金400 | 現金400 | 650 |
債権の回収額は1,000+300=1,300、債務の弁済額は250+400=650です。弁済後の現金は650になります。
3.清算費用と法人税等を反映する
| 取引 | 借方 | 貸方 | 取引後の現金 |
|---|---|---|---|
| 清算費用の計上 | 清算費用40 | 未払金40 | 650 |
| 清算費用の支払 | 未払金40 | 現金40 | 610 |
| 法人税等の計上 | 法人税等10 | 未払法人税等10 | 610 |
| 法人税等の納付 | 未払法人税等10 | 現金10 | 600 |
最終的な現金は、650-40-10=600です。
清算費用40と法人税等10を反映すると、繰越利益剰余金は150-40-10=100になります。分配直前の残高は、現金600、資本金500、繰越利益剰余金100です。
資産600=純資産500+100となり、借方と貸方が一致します。
4.決算報告の数字を組み立てる
| 項目 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|
| 収入の額 | 売掛金の回収1,000+貸付金の回収300 | 1,300 |
| 費用の額 | 債務の弁済650+清算費用40+法人税等10 | 700 |
| 税額控除前の残余財産 | 税額控除後600+支払税額10 | 610 |
| 支払税額 | 法人税等 | 10 |
| 税額控除後の財産 | 610-10 | 600 |
| 一株当たりの分配額 | 600÷100株 | 6 |
開始時の現金がゼロなので、現金収支は1,300-700=600です。
支払税額10は費用700に含まれています。一方、会社法施行規則150条に沿った残余財産の表示では、税額控除前610、支払税額10、控除後600を分けて示します。税額10を二重に差し引くものではありません。
5.会計帳簿上の損益と混同しない
| 取引 | 決算報告 | 会計帳簿上の損益 |
|---|---|---|
| 売掛金1,000の回収 | 収入1,000 | 回収時の収益ではない |
| 貸付金300の回収 | 収入300 | 元本回収なので収益ではない |
| 買掛金・借入金650の弁済 | 費用650 | 元本弁済なので費用ではない |
| 清算費用40 | 費用40 | 会計上も費用40 |
| 法人税等10 | 費用10 | 法人税等10を計上 |
会計帳簿上の損益減少額は50ですが、決算報告の収入は1,300、費用は700です。差額600は分配できる財産であり、「清算利益600」ではありません。
6.一株当たり分配額を検算する
会社法504条では、残余財産の割当ては、種類株式について異なる取扱いを定める場合などを除き、株主の有する株式数に応じて行います。
本設例の一株当たり分配額は、600÷100株=6です。金額の単位を円へ戻すと、一株6,000円になります。
| 株主 | 株式数 | 計算 | 分配総額 |
|---|---|---|---|
| 株主A | 60株 | 60×6 | 360 |
| 株主B | 40株 | 40×6 | 240 |
| 合計 | 100株 | 100×6 | 600 |
360+240=600となり、税額控除後の財産と一致します。
7.株主側の税務は別に判定する
法人税法22条5項では、残余財産の分配または引渡しは資本等取引に含まれます。清算会社が残余財産600を分配しても、その600を費用や損金にはしません。
会計上の繰越利益剰余金100が、そのまま株主側のみなし配当100になるわけでもありません。みなし配当は、交付額と税務上の資本金等の額のうち株式に対応する部分などから計算します。
国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし・第5 配当所得の源泉徴収事務」でも、解散による残余財産の分配は、みなし配当が生じ得る事由として示されています。
ただし、本設例では株主の属性や税務上の資本金等の額を設定していません。源泉徴収の要否、税率、税額は数値化せず、実際の分配前に個別に確認します。
8.株主総会の承認から清算結了登記へ進む
| 順序 | 確認事項 |
|---|---|
| 1 | 債権回収、債務・税金・清算費用の支払を終える |
| 2 | 残余財産の割当てを決め、株主への分配を完了する |
| 3 | 収入、費用、残余財産、一株当たり分配額、分配完了日を記載した決算報告を作る |
| 4 | 清算人会設置会社では清算人会の承認を受ける |
| 5 | 株主総会へ決算報告を提出または提供し、承認を受ける |
| 6 | 承認の日から二週間以内に、本店所在地で清算結了の登記を申請する |
| 7 | 本店所在地における清算結了登記の時から、帳簿資料を十年間保存する |
登記期限は会社法929条、帳簿資料の保存期間は会社法508条によります。
法務局「株式会社清算結了登記申請書・決算報告書の記載例」では、決算報告書の例と必要な記載事項を確認できます。実際の添付書類は、会社の機関設計や申請方法に応じて確認してください。
9.間違えやすい点
| 誤り | 確認方法 |
|---|---|
| 売掛金回収を新たな売上にする | 回収時の仕訳は現金と売掛金の振替 |
| 借入金返済を決算報告の費用から外す | 会計上の費用でなくても、決算報告では債務の弁済として集計する |
| 税額控除前610を分配する | 支払税額10を控除した600を用いる |
| 税額10を二重に差し引く | 費用総額700と、税額控除前後の表示を区別する |
| 一株当たりの分配額を省く | 600÷100株=6、株主別合計360+240=600を確認する |
| 分配完了日を記載しない | 予定日ではなく、実際に分配を完了した日を記載する |
| 利益剰余金100をみなし配当100と決める | 税務上の資本金等の額と株主属性を使って別に判定する |
10.5日で定着させる練習
- 1日目:決算報告の四つの記載事項を書き出します。
- 2日目:売掛金1,000と貸付金300の回収から、収入1,300を求めます。
- 3日目:債務650、清算費用40、法人税等10から、費用700と税額控除後の財産600を求めます。
- 4日目:600÷100株=6、60株分360、40株分240を計算します。
- 5日目:決算報告の収入・費用と、会計帳簿上の収益・費用を取引ごとに分けます。
まとめ
清算結了時の決算報告は、清算中の損益だけを示す書類ではありません。債権回収や債務弁済を含む清算事務全体をまとめます。
本設例では、収入1,300、費用700、税額控除前の残余財産610、支払税額10、控除後の財産600です。一株当たり分配額は6で、株主Aへの360と株主Bへの240を合計すると600になります。
決算報告の収入・費用、会計帳簿上の収益・費用、税務上の益金・損金は分けて確認します。
