第202回では、発行済株式の全部を取得する株式交換・株式移転を確認しました。今回は、全部を取得せずに他社を子会社にできる「株式交付」を扱います。
会社法上の議決権割合、会計上の支配、税務上の親会社株式80%要件は、別々の判定です。まず、ここを分けます。
1.三つの判定を分ける
| 判定 | 確認するもの | 意味 |
|---|---|---|
| 会社法 | 株式交付後の議決権保有割合 | 議決権の過半数を取得し、新たに子会社とすることが株式交付の前提 |
| 会計 | 財務・営業・事業方針の決定を支配しているか | 企業結合の分類、取得企業、取得日を決める |
| 税務 | 各株主が受け取る対価に占める株式交付親会社株式の価額 | 80%以上かどうかが株主側の課税繰延べの要件になる |
会社法の「50%超」は議決権の割合です。税務の「80%以上」は受取対価の構成割合です。S社株式の60%を取得しても、税務上の対価割合が60%になるわけではありません。
2.株式交付とは何か
会社法2条32号の2、774条の2以下による株式交付は、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、その会社の株式を譲り受け、譲渡人に自社株式を交付する制度です。
会社法施行規則4条の2は、株式交付で用いる子会社判定を同規則3条3項1号の議決権過半数基準に限っています。役員構成や契約などによる実質的な支配だけでは、会社法上の株式交付を利用できません。
| 項目 | 株式交付 | 株式交換 | 株式移転 |
|---|---|---|---|
| 親会社 | 既存の株式会社 | 既存の株式会社または合同会社 | 新設する株式会社 |
| 取得する株式 | 子会社化に必要な株式。全部でなくてもよい | 発行済株式の全部 | 発行済株式の全部 |
| 対象会社 | 国内の株式会社 | 完全子会社となる株式会社 | 完全子会社となる一社または複数の株式会社 |
| 既存子会社の追加取得 | 新たに「子会社とする」取引ではないため対象外 | 完全子会社化する場合は利用を検討できる | 新設親会社の下に完全子会社として置く |
株式交付計画には、譲り受ける株式数の下限、交付する親会社株式の数または算定方法、資本金・準備金に関する事項、申込期日、効力発生日などを定めます。取得下限は、効力発生日に対象会社が子会社となる数でなければなりません。
3.親会社の個別仕訳
ここからは、P社とS社に従前の支配関係がなく、株式交付によりP社が会計上もS社の支配を獲得し、P社が取得企業となる場合を考えます。
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」23項と企業会計基準適用指針第10号38項では、取得企業の株式を対価とする場合、取得の対価を原則として企業結合日における交付株式の時価で算定します。
設例:P社がS社の議決権60%を取得する
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 取得前 | P社はS社株式を保有していない |
| S社株式 | 議決権のある株式は100株 |
| 取得株式 | 60株。取得後の議決権割合は60% |
| 交付するP社株式 | 新株3,000株 |
| P社株式の時価 | 1株2 |
| 取得対価 | 3,000株×2=6,000 |
| 増加する株主資本 | 資本金3,000、資本準備金3,000 |
会社計算規則39条の2に基づく株主資本等変動額を6,000とし、株式交付計画の定めに従って資本金と資本準備金へ半分ずつ振り分ける前提です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 子会社株式 | 6,000 | 資本金 | 3,000 |
| 資本準備金 | 3,000 | ||
| 合計 | 6,000 | 合計 | 6,000 |
P社の子会社株式と株主資本が、それぞれ6,000増えます。この設例では取得日に現金は減りません。
S社自身には、既存のS社株式が株主からP社へ移ったことだけを理由とする仕訳はありません。S社株主の会計・税務は、S社自身の帳簿と分けて考えます。
4.連結ではのれんを計算する
S社の取得日時点の帳簿価額と時価が等しく、識別可能な資産・負債が次のとおりだったとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 識別可能資産 | 15,000 |
| 負債 | 6,000 |
| 時価純資産 | 9,000 |
| 資本金 | 4,000 |
| 資本剰余金 | 1,000 |
| 利益剰余金 | 4,000 |
P社持分相当額:9,000×60%=5,400
のれん:取得対価6,000-5,400=600
非支配株主持分:9,000×40%=3,600
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 資本金(S社) | 4,000 | 子会社株式(P社) | 6,000 |
| 資本剰余金(S社) | 1,000 | 非支配株主持分 | 3,600 |
| 利益剰余金(S社) | 4,000 | ||
| のれん | 600 | ||
| 合計 | 9,600 | 合計 | 9,600 |
消去するのは、S社の取得日時点の資本とP社の子会社株式です。P社が株式交付で増加させた自社の資本金・資本準備金は消去しません。のれん600は連結上の金額であり、P社の個別帳簿には計上しません。
日本基準では、のれんを原則として20年以内の効果が及ぶ期間にわたり規則的に償却します。実務では、識別可能な無形資産、時価評価差額、税効果などを検討してから金額を確定します。
5.税務の80%要件は取得割合ではない
株式交付の税務特例は、適格合併や適格分割とは別の制度です。個人株主については租税特別措置法37条の13の4、法人株主については同法66条の2に規定されています。
国税庁「No.1545 株式等を対価とする株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例」は、個人株主について、受取対価に占める株式交付親会社株式の価額が80%以上である場合、親会社株式に対応する部分の譲渡がなかったものとみなす取扱いを示しています。
この割合は、株式交付子会社の株主ごとに判定します。法令上の要件を満たす場合に適用される規定であり、株主が課税と繰延べを自由に選ぶ制度ではありません。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 法的形式 | 会社法上の株式交付による譲渡か |
| 対価割合 | 受取対価に占める株式交付親会社株式の価額が80%以上か |
| 親会社の属性 | 株式交付直後の親会社が、対象外となる一定の同族会社に該当しないか |
| 繰延べの範囲 | 親会社株式だけなら原則として全部、混合対価なら親会社株式に対応する部分 |
| 取得価額 | 旧株式の取得価額のうち、親会社株式に対応する部分を引き継ぐ |
2023年10月1日以後に行われる株式交付では、株式交付直後の親会社が一定の同族会社に該当すると特例の対象外です。ただし、いわゆる非同族の同族会社は一律に除外されません。名称だけで決めず、株主構成を確認します。範囲は国税庁の措置法66条の2関係通達の趣旨説明で確認できます。
税務設例1:親会社株式だけを受け取る
S社株主Aが、取得価額2,400のS社株式を譲渡し、時価6,000のP社株式だけを受け取ります。P社は対象外となる一定の同族会社に該当せず、株式の交付を受けるための費用はないものとします。
| 項目 | 計算 |
|---|---|
| 通常の譲渡益相当額 | 6,000-2,400=3,600 |
| 親会社株式の対価割合 | 6,000÷6,000=100% |
| 株式交付時の譲渡損益 | 特例により0 |
| 取得したP社株式の取得価額 | 2,400 |
| 繰り延べられる含み益 | 6,000-2,400=3,600 |
利益3,600が消えるわけではありません。Aが将来P社株式を譲渡するときは、引き継いだ取得価額2,400を基礎に譲渡損益を計算します。
税務設例2:親会社株式80%、現金20%を受け取る
Aが時価4,800のP社株式と現金1,200を受け取る場合を考えます。対価総額は6,000です。
株式交付割合:4,800÷(4,800+1,200)=80%
除外されるのは80%に満たない場合です。ちょうど80%なら割合要件を満たします。ただし、他の要件は別に確認します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 課税部分の収入金額 | 6,000×20% | 1,200 |
| 課税部分へ配分する取得価額 | 2,400×20% | 480 |
| 今回認識する譲渡益 | 1,200-480 | 720 |
| 取得したP社株式の取得価額 | 2,400×80% | 1,920 |
| P社株式へ繰り延べる含み益 | 4,800-1,920 | 2,880 |
| 検算 | 認識する利益720+繰延べる利益2,880 | 3,600 |
この計算方法は国税庁の措置法37条の13の4関係通達に沿ったものです。親会社株式の割合が80%未満なら、この特例は全体に適用されず、通常の譲渡損益計算に戻ります。
割合計算に使う親会社株式の価額は、原則として株式交付日の価額です。ただし、80%要件の判定については、課税上の弊害がない限り、株式交付計画の算定基準日の株価を基礎に合理的に算定した価額を使える取扱いがあります。評価日と根拠を残しておきます。
6.間違えやすい点
| 誤りやすい理解 | 正しい整理 |
|---|---|
| S社株式を80%取得しなければ特例を使えない | 80%は取得割合ではなく、各株主の受取対価に占める親会社株式の価額割合 |
| 議決権50%で株式交付を利用できる | 単純な過半数基準では50%を超える必要がある |
| のれん600をP社の個別帳簿にも計上する | 個別帳簿は子会社株式6,000。のれん600は連結上で認識する |
| S社も資本金を増やす | 既存のS社株式が移るだけなら、S社自身にその移転仕訳はない |
| 課税繰延べは非課税である | 親会社株式に旧株式の取得価額を引き継ぎ、将来の譲渡時に利益が表れる |
| 会社法上の株式交付なら必ず課税が繰り延べられる | 80%要件、一定の同族会社からの除外、株主属性などを別に確認する |
7.5日で定着させる
| 日 | 練習 | 答え |
|---|---|---|
| 1日目 | 株式交付、株式交換、株式移転を「既存・新設」「全部・一部」で分ける | 株式交付は既存の株式会社による一部取得が可能。株式交換・株式移転は全部取得 |
| 2日目 | 議決権100個の会社を子会社にする場合、50個と51個のどちらが必要か考える | 単純な過半数基準では51個以上 |
| 3日目 | 取得対価6,000、資本金3,000、資本準備金3,000の個別仕訳を書く | 借方・子会社株式6,000、貸方・資本金3,000、資本準備金3,000 |
| 4日目 | 時価純資産9,000、持分60%、対価6,000から、のれんと非支配株主持分を求める | のれん600、非支配株主持分3,600 |
| 5日目 | 取得価額2,400、親会社株式4,800、現金1,200から税務計算をする | 割合80%、今回の譲渡益720、親会社株式の取得価額1,920 |
8.まとめ
- 株式交付は、既存の株式会社が自社株式を対価として、他の国内株式会社を新たに子会社とする制度です。
- 株式交換と異なり、対象会社の発行済株式全部を取得する必要はありません。
- 親会社の個別財務諸表では子会社株式を計上します。
- 連結では投資と資本を相殺し、のれんと非支配株主持分を計算します。
- 会社法上の議決権50%超と、税務上の親会社株式80%以上は別の判定です。
- 税務特例は非課税ではなく、親会社株式に対応する利益を将来へ繰り延べる仕組みです。
問題文に「株式交付」とあったら、会社法上の子会社化、会計上の支配獲得、株主税務の対価割合の順に分けます。この順番で十分です。
