日別アーカイブ: 2026年6月25日

第106回 損金・益金ゼロ入門:会計と税務のズレを表でやさしく整理(続けられる学習メニュー付き)

決算を進めるときに「会計では費用になっているのに、税務では損金にならない」「税務は損金だが会計上は費用計上できない」といったズレでつまずく初学者は多いです。ここでは代表的な論点を、会計処理/税務処理/判定ポイントの3列の表で整理します。試験で出やすいポイントに絞り、決算日時点で何が未提供・未経過かも明示します。最後に練習問題と、続けられる学習メニューを付けます。

最重要チェック表(まず押さえる点)

会計処理 税務処理 判定ポイント
会計は発生主義で費用・収益を認識する 税務は損金・益金の判定基準が別に定められる(例:交際費の損金不算入) 発生の有無と税法上の損金算入要件を照合する
減価償却は会計基準に基づく耐用年数・方法で計上 税務は税法上の耐用年数・償却率に従う(差額は調整) 決算時点の償却累計と税務上の帳尻を確認する
交際費・福利厚生費は会計上の性質で分類 交際費等は損金不算入規定や少額経費の損金算入特例あり 支出の目的と相手、金額基準で税務上の扱いを判定する
貸倒引当金は発生見積りに基づき計上 税務上は原則として実際の貸倒損失か、法定の引当限度額で判定 決算日時点で回収不能が確定しているか、ただの見込みかを区別する
資本的支出は資産計上、修繕費は費用計上 税務上も資本的支出は資産(減価償却)、修繕費は損金扱い 支出の目的(増加・改善か、原状回復か)で区分する
受取配当は会計上は収益(受取配当金) 一定の要件で益金不算入(持株割合等)となる場合がある 持株比率や関連法規の要件を確認する(益金不算入の適用可否)

代表例ごとの会計/税務対比

1. 交際費・福利厚生費

会計処理 税務処理 判定ポイント
取引先接待の費用は交際費または会議費として費用計上 交際費は一定額を超えると損金不算入。少額経費や交際費の損金算入特例あり 支出の相手・目的・金額(決算日時点で請求書の有無や招待の実施状況)を確認

2. 貸倒引当金

会計処理 税務処理 判定ポイント
回収見込みの低下が認められれば貸倒引当金を設定(発生主義) 税務上は実際の貸倒損失が原則。一般引当金は法定限度内でしか損金算入できない 決算日時点で既に回収不能が確定しているか(債権の消滅や差押え等)、単なる見込みかを区別する

3. 資本的支出と修繕費の区分

会計処理 税務処理 判定ポイント
耐用年数を延ばす、資産の価値を増加させる支出は資本的支出として資産計上 税務上も同様。資本的支出は資産計上で、修繕費は損金算入 目的(改善・増加か、原状回復か)、金額の重要性、作業の一体性で判断する。決算日時点で工事が未完了なら資本的支出扱いに注意

4. 減価償却(会計と税務の差異)

会計処理 税務処理 判定ポイント
会計基準に基づき合理的な耐用年数・償却方法を採用して減価償却費を計上 税法上の耐用年数・償却率に基づき計算。差額は税務調整(加算・減算)で処理 取得日や使用開始日、会計処理と税務処理での耐用年数差を確認(決算日時点で使用開始が未了かどうか)

5. 受取配当の益金不算入

会計処理 税務処理 判定ポイント
受取配当は会計上の収益として計上(受取基準に従う) 一定の持株割合等の要件に該当すれば益金不算入(全部または一部)となる場合がある 決算日時点で受取が確定しているか、持株比率・連結等の要件を確認する

実務・試験で使えるチェックリスト

  • 決算日時点で「請求書が到着しているか」「サービスが提供済みか」「工事が完了しているか」を確認する(未提供・未経過の有無)。
  • 支出の目的を明文化する:取引先贈答、従業員福利厚生、設備の改善・復旧など。
  • 貸倒の判断基準:債務者の破産・解散、督促状や法的手続きの状況などを証拠化する。
  • 資本的支出か修繕費か迷ったら「効果の持続性」「増強か原状回復か」「一体的工事か分割可能か」を基準に検討する。
  • 減価償却は会計と税務の基準を並べて差額調整を行う(税効果の取り扱いは第100回参照)。
  • 受取配当の益金不算入は持株比率など要件確認。関連会社・子会社かどうかで扱いが変わる。

練習問題(仕訳の書き換え:決算日時点での未提供・未経過が分かる設例)

以下は決算日時点で何が未提供・未経過かが分かるように設計した5問です。まず仕訳を書いてみてください。下に解答と解説があります。

問題1

12月決算のA社。12月28日に取引先との忘年会を開催し、費用30万円を発生主義で会計上計上した。請求書は翌年1月10日に到着した。決算日時点では請求書未到着で、会計では費用計上済み。

問題2

B社は11月に古い機械の一部を交換する修繕工事を発注。工事は12月25日に着手したが、年内に完了せず、年明けに完了した。支払金額は50万円(請求は年明け)。

問題3

C社の売掛金の一部(100万円)について、取引先が破産手続き開始の申立てをしている。決算日時点で債権回収不能が明らかであるが、法的確定は翌期。会計では貸倒引当金を一部計上済み。

問題4

D社は7月に車両(取得価額300万円)を購入し、会計上の耐用年数を5年として償却を始めた。税務上は法定耐用年数が6年である。決算日時点で会計と税務で差が生じている。

問題5

E社は子会社F社からの配当100万円を受け取ることが決定しているが、受取日は決算日後(翌月)。決算日に配当の決議がなされているため、受取確定の事実はあるが、入金は未到着。

解答と解説

  • 問題1(交際費の請求書未到着)
会計処理 税務処理 判定ポイント
12/28に交際費30万円を費用計上(支払未了・請求書未到着でも発生主義で計上) 税務上は交際費の損金算入要件を確認。少額経費の特例に該当するか、損金不算入となる部分があるかを判定する。請求書未到着でも実際に会が開催され支出が確定しているかが重要。 決算日時点で会が開催済みで支出が確定しているか(未提供ではない)。請求書未到着は通常、未払費用で処理し税務上も損金算入が認められるケースが多い。ただし交際費判定基準を確認する。
  • 問題2(工事未完了)
  • 会計処理 税務処理 判定ポイント
    年内未完了なので会計上は未払工事高や前払金の処理(完了基準で費用化)になる場合が多い 税務上は工事の完了状況と目的で資本的支出か修繕費かを判定。未完了なら資本的支出の可能性があるため、単純に当期の修繕費として損金算入できない場合がある 決算日時点で工事が未完了か完了かを確認。未完了なら資産計上の要否を検討する。
  • 問題3(貸倒見込みと法的確定のタイミング)
  • 会計処理 税務処理 判定ポイント
    会計では回収不能の見込みが高ければ貸倒引当金を計上(保守的に処理) 税務は実際の貸倒損失を原則重視。一般引当金については法定の計算方法・限度額がある。破産手続き開始の申立ては重要な事実だが、税務上の損金算入時点は厳格に扱われることがある 決算日時点で回収不能が「確定」しているか(債権の放棄や裁判確定等)を確認。単なる申立てや見込みだけでは税務上の損金算入に制約がある。
  • 問題4(会計と税務の耐用年数差)
  • 会計処理 税務処理 判定ポイント
    会計:耐用年数5年で1/5ずつ償却(例:期末までの償却費計上) 税務:法定耐用年数6年に基づく償却。会計上と税務上の差額は税務調整で処理し、法人税申告書で加算・減算する 決算日時点での会計処理と税務処理の耐用年数・償却額の差を明確にし、税務申告で調整すること。
  • 問題5(受取配当の受取確定だが入金未了)
  • 会計処理 税務処理 判定ポイント
    配当の決議が行われていれば会計上は受取配当(受取の事実により収益認識) 税務上は受取配当の益金不算入の要件(持株比率など)を確認。入金未了でも決議済みであれば益金不算入の判定に影響しないことが多い 決議の有無や持株比率を確認。決議済みかつ要件該当なら税務上の益金不算入を適用可能(入金時期は別問題)。

    続けられる学習メニュー(3段階)

    段階 内容 続ける工夫(時間目安)
    習得 最重要チェック表を読み、各論点の判定ポイントを理解する(本記事の表を熟読) 15分でチェック表を一度読む→ノートに要点を書き出す(×3回で定着)
    演習 代表仕訳の書き換え問題(本記事の5問)を解く。実務資料を想定して未提供・未経過を判定する訓練 1問につき15〜30分。解答と解説を見て間違いを復習する(週2回程度)
    定着 月次チェックリストを使って実務での判定を習慣化。過去問・模擬問題で判定力をチェック 毎月の決算直前にチェックリストを15分で実行。WordPressのチェックリストブロックを活用(テンプレート配布)

    実務テンプレート(そのまま貼れる会計/税務/判定の表)

    以下は各論点を整理するためのコピー&ペースト用テンプレートです。必要に応じて行を増やして使ってください。

    会計処理 税務処理 判定ポイント
    ここに会計処理を記入 ここに税務処理を記入 ここに判定ポイント(決算日時点の未提供・未経過の有無)を記入

    関連記事と導線

    本記事は「税務上の取扱いを判定するスキル」の習得を目標としています。決算から申告の流れについては第95回をご覧ください:第95回(決算→申告フロー)。税効果会計の考え方や会計・税務差額の処理については第100回も参考になります:第100回(税効果会計)

    まとめ

    会計と税務は目的や判定基準が異なるため、決算日時点で「何が未提供・未経過か」を明確にすることが重要です。本記事の3列表(会計処理/税務処理/判定ポイント)を日々のチェックに取り入れてください。まずは15分でチェック表を確認する習慣から始め、代表的な仕訳問題で判定力を鍛えることをおすすめします。継続的な訓練が、試験でも実務でも折れない力につながります。