退職給付は「給与の先送り」とも言えますが、年金数理や見積りが出てくるため初めはつまずきやすい分野です。ここでは税理士受験の初学者に向け、用語の対照と代表的な仕訳を表で整理し、決算日時点で何が未提供・未経過かが分かるように実務的にまとめます。第85回の給与・賞与の記事(dai85-kyuyo-gensen-nenmatsu)からの自然な続きとして読んでください。関連:第73回(試算表)、第83回(法人税)も参照すると理解が進みます。
退職給付の全体像(短い説明)
退職給付制度は主に確定給付(DB)と確定拠出(DC)に分かれます。会計では期中に発生する「サービスコスト」や、割引率を用いる「年金債務(退職給付債務)」、そして年金資産(企業が運用する資産)を記録して、差額を貸借対照表に計上します。
用語対照表
| 用語 | 意味(簡潔) | 試験で押さえる点 |
|---|---|---|
| PBO(Projected Benefit Obligation) | 見積将来給付総額を割引した負債 | 期末の退職給付債務の認識基礎 |
| サービスコスト | 当期に従業員が新たに獲得した給付債務の増加 | 損益計算書上の費用として段階配分する |
| 利息費用(interest cost) | 期首債務×割引率による利息相当額 | 費用に計上されるが、数理差異と区別する |
| 年金資産(Plan assets) | 積立金や運用資産の簿価 | PBOと相殺して純額を貸借対照表に表示 |
| 拠出金 | 企業が年金制度に拠出した現金 | 拠出が未払いの場合は未払金で表示 |
代表的な仕訳パターン(決算日時点の未提供・未経過が分かる形で)
| 事象 | 借方 | 貸方 | 注記(決算日時点の状態) |
|---|---|---|---|
| サービスコストの認識(期中) | 退職給付費用 | 退職給付債務(PBO増加) | 給付は未払。費用計上、債務増加で未提供を示す |
| 利息費用の計上(期末) | 退職給付費用 | 退職給付債務 | 期首債務に対する利息。費用に計上 |
| 企業の拠出(現金払) | 年金資産 | 現金預金 | 拠出が未払いなら貸方は未払金で計上 |
| 受取年金収益(運用差益) | 年金資産 | 受取利息等(またはその他包括利益) | 運用収益は当期の損益またはOCIへ振替 |
| 支払(退職給付の支給) | 退職給付債務(減少) | 年金資産(支払) | 支払が未実施なら未払金を利用 |
簡単な計算例(段階的に示す)
前提:期首PBO 1,000,000円、期首年金資産 900,000円、当期サービスコスト 80,000円、割引率による利息費用 50,000円、企業拠出(現金)100,000円、給付支払60,000円、期末に拠出のうち40,000円が未払い。
| 項目 | 計算 | 金額(円) |
|---|---|---|
| 期末PBO | 期首PBO + サービスコスト + 利息費用 – 支払 | 1,000,000 + 80,000 + 50,000 – 60,000 = 1,070,000 |
| 期末年金資産 | 期首資産 + 運用収益(仮) + 拠出 – 支払 | 900,000 + 36,000 + 100,000 – 60,000 = 976,000 |
| 期末純額(債務) | PBO – 年金資産 | 1,070,000 – 976,000 = 94,000(純退職給付債務) |
| 未払拠出の扱い | 期末の未払い40,000は未払金で計上 | 未払金 40,000(注記) |
この例の仕訳(主要なもの)は以下のとおりです。
| 仕訳内容 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| サービスコストと利息の計上 | 退職給付費用 130,000 | 退職給付債務 130,000 |
| 企業拠出(うち現金60,000、未払40,000) | 年金資産 100,000 | 現金預金 60,000 / 未払金 40,000 |
| 給付支払 | 退職給付債務 60,000 | 年金資産 60,000 |
税務との接点(骨子)
法人税法上の損金算入の可否は、拠出の実際の支払や制度の性質に依存します。一般的なポイントは以下です。
- 企業拠出が現金で支払われた場合は損金処理の対象となることが多い
- 会計上のPBO増加(引当)は必ずしも税務上損金にならない場合がある
- 未払拠出は決算日時点での実態を確認し、税務上の損金算入時期に留意する
詳しい取扱いは第83回(法人税)の該当節を参照してください。
試験ポイントとチェックリスト
| 項目 | 確認すべき点 |
|---|---|
| 退職給付債務の認識基準 | 将来給付を見積り、適切に割引して計上しているか |
| 費用配分の内訳 | サービスコスト・利息費用・運用収益を分けて理解する |
| 貸借対照表の純額表示 | PBOと年金資産の差額を正しく表示しているか |
| 税務上の差異 | 会計処理と税務処理の相違点を把握する |
練習問題(仕訳ドリル 5問)
| 問 | 設問(決算日時点の状態を明示) | 解答(要点) |
|---|---|---|
| 1 | 当期のサービスコストは50,000円。期末に支払はない。仕訳は? | 借方:退職給付費用 50,000 / 貸方:退職給付債務 50,000 |
| 2 | 期首PBO 200,000円、割引率で利息20,000円が発生。仕訳は? | 借方:退職給付費用 20,000 / 貸方:退職給付債務 20,000 |
| 3 | 企業が年金基金に現金で30,000円拠出。うち期末に10,000円未払。仕訳は? | 借方:年金資産 30,000 / 貸方:現金 20,000、未払金 10,000 |
| 4 | 年金資産の運用益が5,000円発生。損益計上する場合の仕訳は? | 借方:年金資産 5,000 / 貸方:受取利息等 5,000 |
| 5 | 給付支払120,000円(年金資産で支払)。仕訳は? | 借方:退職給付債務 120,000 / 貸方:年金資産 120,000 |
続けられる学習メニュー(短時間で継続)
以下は短時間で毎日続けやすいメニューです。継続を重視してください。
| 期間 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 毎日15分 × 7日 | 用語対照の確認(7項目)+仕訳1問 | 用語の定着と仕訳慣れ |
| 週内ドリル | 仕訳ドリル5問を時間を計って解く | 試験形式に慣れる |
| 暗記カード | 頻出7項目をカード化して反復 | 主要論点の迅速な想起 |
進捗チェック表(コピーして使える)
| 日付 | 学習内容 | 所要時間 | 達成チェック |
|---|---|---|---|
| 1日目 | 用語対照確認 | 15分 | □ |
| 2日目 | 仕訳ドリル1問 | 15分 | □ |
| 3日目 | 計算例の復習 | 15分 | □ |
まとめ
退職給付会計は用語(PBO・サービスコスト・年金資産)を押さえ、主な仕訳パターンを繰り返すことで着実に理解が進みます。本文で示した表と例は、決算日時点での未払い・未経過が分かるように整理しています。まずは短時間の反復学習を続け、数理の深掘りは別章で行うと効率的です。次は第85回の記事(dai85-kyuyo-gensen-nenmatsu)の給与・賞与処理と合わせて復習してください。関連:第73回(試算表)、第83回(法人税)の該当節も参照を。
