日別アーカイブ: 2026年4月15日

第35回 簿記入門(35) 繰延税金資産と繰延税金負債の基礎:決算整理から税効果会計の仕訳まで

決算で「会計と税務の数字が合わない」と感じてつまずく方は多いです。とくに繰延税金資産・繰延税金負債は、目に見える現金の出入りがないため理解が進みにくい分野です。本記事では、簿記の仕訳レベルで「差異がどのように決算に表れるか」を段階的に示し、試験で問われやすいポイントを明確にします。図は最小限にし、テーブル中心で整理します。

まず押さえる基本の流れ(学習のフレーム)

簿記の問題では、次のフローで考えると迷いが少なくなります。

  • 差異の発生(会計処理と税務処理の違い)
  • 当期の課税所得と現在の法人税(現金・未払計上)を決定
  • 将来の課税に影響するかどうかを判定(課税一時差異/控除一時差異)
  • 税率で将来税額を算定し、繰延税金資産(DTA)または繰延税金負債(DTL)を計上
  • 財務諸表(損益計算書の法人税等、貸借対照表の繰延税金資産/負債)へ反映

税務ベースと会計ベースの対比(簿記視点)

項目 会計上(財務会計) 税務上(法人税申告) 決算処理上の影響
固定資産(減価償却) 会計基準に基づく償却(例:定額法) 税法上の償却(定率法や特例が適用されることがある) 差異が将来逆転すれば繰延税金負債/資産を認識
貸倒引当金 見積計上(会計上の合理的見積) 税務上は認められる額が制限されることがある 税務で認められない部分は繰延税金資産になる場合が多い
引当金(賞与・退職給付等) 発生主義で計上 税務上は支払基準等で差異が生じる 将来の税金差異としてDTA/DTLに反映
売上・収益の認識タイミング 会計基準に従う 税務上の収益認識基準に差異がある 受取前収益や前受収益などで一時差異発生

代表的な一時差異の一覧(試験でよく出る例)

一時差異の原因 会計上の処理 税務上の処理 税効果(資産/負債)
減価償却の方法差 定額法などで償却費を計上 税法で加速償却や定率の適用あり 税務償却が会計より大きければ繰延税金負債(将来税負担増)
貸倒引当金の税務制限 合理的見積で引当金を計上 税務上は一部否認や額の制限あり 税務で否認された部分は繰延税金資産(将来税負担減)
引当金(賞与・退職給付等) 発生額を計上(会計利益を圧縮) 税務では支払ベースで扱われることが多い 支払が将来にずれる場合はDTA
繰延収益・未払費用の認識差 発生主義で計上 税務上の処理で課税時期が異なる 発生時点での差異に応じDTA/DTL

具体例1:減価償却差異による繰延税金負債(数値例)

前提:取得価額1,200,000円、耐用年数3年。会計は定額法(年400,000円)。税務は初年度の特別償却などで年次配分が変わり、税務償却費は年1:600,000、年2:360,000、年3:240,000とする。法人税率は30%。決算日時点での各年終了後の状況で考えます。

年度 会計償却費 税務償却費 当期差額(税務−会計) 法人税率 当期の繰延税金負債増減 繰延税金負債期末残高
年1 400,000 600,000 200,000 30% 60,000(200,000×30%) 60,000
年2 400,000 360,000 -40,000 30% -12,000(-40,000×30%) 48,000(60,000-12,000)
年3 400,000 240,000 -160,000 30% -48,000(-160,000×30%) 0(48,000-48,000)

仕訳(各段階)

この例では、当期の税務計算により当期の現金支出となる法人税(未払額)は別に算定されます。ここでは「繰延税金負債」の仕訳のみを示します。

段階 仕訳(借方/貸方) 説明
繰延税金負債の認識(年1) 借方:法人税等(費用)60,000 / 貸方:繰延税金負債60,000 税務償却が会計より大きく、将来増税的影響が見込まれるためDTLを計上
繰延税金負債の調整(年2) 借方:繰延税金負債12,000 / 貸方:法人税等(費用)12,000 課税ベースと会計ベースの差が縮小したためDTLを減少(税効果は費用の減少)

精算表・貸借対照表への反映(要点)

帳票 反映事項
試算表/精算表 繰延税金負債を負債の調整項目として計上し、法人税等(費用)を調整する
貸借対照表 流動・固定の区分は性質に応じて表示(多くは固定負債に分類)

具体例2:貸倒引当金の税務差異による繰延税金資産

前提:期末において会計上の貸倒引当金を100,000円計上したが、税務上は40,000円のみが当期控除可能で、残り60,000円は将来の貸倒時に認められる扱いとする。法人税率30%。決算日時点では未払の現金支出は発生していない(将来の支出に備えた見積計上)。

項目 金額(円) 説明
会計上の貸倒引当金 100,000 当期に見積計上
税務上で当期に認められる額 40,000 税法上の制限により一部しか控除されない
控除されない部分(控除将来時) 60,000 将来の支出時に税務上認められる可能性あり(控除一時差異)
繰延税金資産(DTA) 18,000(60,000×30%) 将来の税負担軽減として計上

仕訳(貸倒引当金とDTA)

段階 仕訳(借方/貸方) 説明
会計上の引当金計上(期末) 借方:貸倒損失100,000 / 貸方:貸倒引当金100,000 会計上の見積計上
繰延税金資産の認識 借方:繰延税金資産18,000 / 貸方:法人税等(費用)18,000 税務で当期に控除されない分について将来の税負担減を見積りDTAを計上(費用の減少として処理)

精算表反映とB/S表示

帳票 反映事項
精算表 繰延税金資産を資産の調整項目として計上し、法人税等(費用)を調整
貸借対照表 繰延税金資産は流動・固定の区分を検討して表示(通常は流動に近い性質でも企業の判断により分類)

試験対策:チェックリスト(フローで考える)

暗記よりも『差異の流れ』をチェックする習慣をつけましょう。以下を順に確認します。

  • 会計処理と税務処理でどの科目に差異があるかを特定する
  • その差異は将来逆転するのか(将来課税か将来控除か)を判定する(課税一時差異=DTL、控除一時差異=DTA)
  • 差額に適用される法定実効税率を乗じて金額を算定する
  • 当期の法人税等(損益)と繰延税金資産/負債の仕訳を確認する(増減の仕訳)
  • 貸借対照表で資産/負債どちらに表示されるかを確認する

短問(練習問題・解答付き)

(所要時間:各問2〜5分。決算日時点で未払・未経過の状態がどう影響するかを意識してください。)

問題1:取得価額600,000円、耐用年数2年、会計は定額法(年300,000円)、税務は年1:400,000、年2:200,000。法人税率30%。年1の繰延税金負債の期末残高はいくらか?

解答:差額(税務−会計)=100,000、DTL=100,000×30%=30,000円。

  • 問題2:期末に会計上の貸倒引当金50,000円を計上したが、税務上は当期に認められるのは20,000円のみである。法人税率30%。繰延税金資産はいくらか?

    解答:控除されない部分=30,000、DTA=30,000×30%=9,000円。

  • 問題3:繰延税金負債と繰延税金資産は貸借対照表のどちらに表示されるか。短く答えよ。

    解答:繰延税金資産は資産に、繰延税金負債は負債に表示する(流動・固定の区分は性質により判断)。

    週次ミニ課題(10分×3問テンプレート)

    習慣化のために毎週短時間で3問解くことを推奨します。テンプレートは以下のとおりです。

    問題番号 設問(要点) 所要時間 確認項目
    1 減価償却の差異からDTLを計算 10分 差額→税率→DTL
    2 貸倒引当金でDTAを計算 10分 会計額・税務額・差額→DTA
    3 仕訳を一問:DTA/DTLの認識仕訳 10分 借方・貸方の検証(法人税等との関係)

    付録:WordPressで使える仕訳テンプレート表(コピーして使えます)

    日付 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額 備考
    (例) 繰延税金資産 18,000 法人税等 18,000 貸倒引当金の税務差異に対応

    まとめ

    繰延税金資産・繰延税金負債は、会計と税務の「タイミングのずれ(=一時差異)」を将来税金に換算して認識する仕組みです。重要なのは仕組み(差異の発生→税効果の計算→仕訳→B/S表示)をフローで押さえること。試験では数値計算と仕訳がセットで出ることが多いため、今回示した段階的な表やテンプレートを繰り返し練習してください。

    次回予告

    次回は「税務調整と繰延税金が複合した実務例」を扱い、複数の差異が同時に存在する場合の処理(仕訳の優先順位、帳票反映の実務的注意点)を扱う予定です。

    シリーズ:「税理士合格ロードマップ」 — 第34回(決算後の税務調整)を読んだ方を前提に作成しています。継続学習の方針やミニ課題はサイト内の学習ツールと組み合わせて活用してください。