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第195回 1株当たり利益(EPS)ゼロ入門:期中平均株式数・自己株式・潜在株式を計算と注記で整理(5日練習付き)

第194回では、ストック・オプションの付与から権利確定、行使、失効までを扱いました。今回は、その新株予約権などを1株当たり当期純利益(EPS)の計算にどう反映するかを確認します。

基準日:2026年9月27日。本稿は、日本基準を採用する株式会社を想定した一般的な学習用の記事です。設例は計算方法を学ぶための仮定であり、特定企業の数値ではありません。計算途中では丸めず、1株当たり金額は最後に小数第3位を四捨五入します。

最初に押さえる3点

  • 当期純利益は一定期間の成果なので、分母には期末株式数ではなく期中平均株式数を使う。
  • 自己株式は期中平均株式数から控除する。
  • 未行使の新株予約権は基本EPSに含めず、希薄化効果がある場合に潜在株式調整後EPSへ反映する。

EPSは開示のための計算です。計算しただけでは仕訳は発生しません。

基本EPSの計算

1株当たり当期純利益=普通株式に係る当期純利益÷普通株式の期中平均株式数

項目 計算
普通株式に係る当期純利益 損益計算書上の当期純利益-普通株主に帰属しない金額
普通株式の期中平均株式数 普通株式の期中平均発行済株式数-期中平均自己株式数

連結財務諸表では、損益計算書上の当期純利益を「親会社株主に帰属する当期純利益」と読み替えます。種類株式がある場合には、普通株式と同等の株式や優先配当額などについて別の検討も必要です。

根拠は、企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」第12項、第14項、第17項です。

3つの指標を区別する

指標 表す内容 分母
1株当たり当期純利益(基本EPS) 普通株主に関する一会計期間の成果 普通株式の期中平均株式数
潜在株式調整後1株当たり当期純利益 希薄化する潜在株式の行使や転換を仮定した成果 期中平均株式数+普通株式増加数
1株当たり純資産額 期末時点の普通株式に係る純資産 期末発行済普通株式数-期末自己株式数

当期純利益には期中平均株式数、期末純資産には期末株式数を対応させます。

分子から控除する金額

確認項目 取扱い
個別財務諸表 当期純利益から普通株主に帰属しない金額を控除する
連結財務諸表 親会社株主に帰属する当期純利益から普通株主に帰属しない金額を控除する
配当優先株式 会計基準に従って算定した優先配当額などを控除する
普通株式への配当 普通株主に帰属する利益の配分であり、通常は分子から控除しない

種類株式がある場合は、累積型か非累積型か、参加型かなどによって計算が変わります。定款、発行条件、配当決議を確認してから分子を決めます。

設例1:期中平均株式数を計算する

前提

  • 事業年度:4月1日から翌年3月31日まで
  • 期首発行済普通株式:120,000株
  • 期首自己株式:20,000株
  • 7月1日に普通株式24,000株を発行
  • 10月1日に自己株式8,000株を取得
  • 当期純利益:45,600,000円
  • 普通株主に帰属しない金額:0円
  • 取引はいずれも月初に行われ、月数による加重平均が合理的であるものとする

発行済普通株式数から自己株式数を控除した数を、ここでは「流通普通株式数」と表記します。

株式数の増減を加重する方法

内訳 計算 期中平均への影響
期首の流通普通株式 120,000株-20,000株 100,000株
7月1日の新株発行 24,000株×9か月÷12か月 +18,000株
10月1日の自己株式取得 8,000株×6か月÷12か月 -4,000株
期中平均株式数 100,000株+18,000株-4,000株 114,000株

期間別に並べる検算

期間 流通普通株式数 加重後
4月~6月 100,000株 100,000株×3÷12=25,000株
7月~9月 124,000株 124,000株×3÷12=31,000株
10月~3月 116,000株 116,000株×6÷12=58,000株
合計 ― 114,000株

どちらの方法でも114,000株になります。期末の流通普通株式数116,000株を、そのまま分母にしないことが大切です。

基本EPS:45,600,000円÷114,000株=400.00円

企業会計基準適用指針第4号第13項は、日数による方法のほか、合理的な基礎に基づく月数や月末株式数の平均による方法を認めています。月中に取引があるときは、月数による計算が合理的かを確認します。

設例2:ストック・オプションの希薄化

設例1に加え、次のストック・オプションが期首から期末まで存在したものとします。

  • 行使時に発行される普通株式:20,000株
  • 1株当たり行使価格:600円
  • オプションが存在する期間の平均株価:1,000円
  • 権利確定済みで、将来提供される勤務サービスに対応する公正な評価額はない

新株予約権は基本EPSの分母には含めません。潜在株式調整後EPSでは、行使による仮定入金額で普通株式を買い戻したものとする「自己株式方式」を使います。

手順 計算 結果
行使を仮定した発行株式数 20,000株 20,000株
行使による仮定入金額 20,000株×600円 12,000,000円
仮定入金額で買い戻せる株式数 12,000,000円÷1,000円 12,000株
普通株式増加数 20,000株-12,000株 8,000株

この新株予約権について、分子の当期純利益調整額はありません。

潜在株式調整後EPS:45,600,000円÷(114,000株+8,000株)=373.77円

373.77円は基本EPSの400.00円を下回るため、希薄化効果があります。平均株価が行使価格以下なら希薄化効果はなく、潜在株式調整後EPSの計算には含めません。

一定期間の勤務後に権利が確定するストック・オプションも、希薄化効果があれば、普通株式増加数の計算上は付与時点から行使期間が始まったものとして扱います。その場合の仮定入金額には、公正な評価額のうち将来提供されるサービスに対応する部分を含めます。権利確定前のものを単純な行使価格だけで計算しないようにします。詳しくは適用指針第22項を確認してください。

潜在株式ごとの調整

潜在株式など 分子の調整 分母の調整
新株予約権・ストック・オプション 通常はなし 自己株式方式による普通株式増加数
転換証券 支払利息等から税額相当額を控除した金額など 転換を仮定した普通株式増加数
条件付発行可能普通株式・潜在株式 契約内容に応じて判定 期末を条件期間末とした場合の条件達成状況などに応じて判定

転換負債に係る税額相当額は、適用指針第25項により法定実効税率を用いて算定します。法定実効税率は事業年度、所在地、法人区分などで変わるため、一律の数値は使えません。

潜在株式が複数ある場合は、各発行単位に分け、希薄化効果の大きいものから順に加えて最大の希薄化効果を反映します。潜在株式が存在しない場合、希薄化効果がない場合、または1株当たり当期純損失の場合は、その旨を開示し、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は開示しません。

EPSの計算では仕訳をしない

EPSは、財務諸表の利益と株式関係資料を使う開示計算です。潜在株式の行使や転換は仮定にすぎないため、帳簿には記録しません。

事象 仕訳 帳簿への影響
実際の新株発行・自己株式取得 取引時に必要 現金預金、資本金、自己株式などが変動する
期中平均株式数の計算 なし 変動しない
潜在株式の行使・転換を仮定した計算 なし 変動しない
実際の権利行使・転換 取引条件に応じて必要 現金預金、新株予約権、資本金などが変動する

EPSの計算について0円の仕訳を作る必要もありません。実際の株式取引と、開示上の仮定計算を分けます。

株式数が動いたときの取扱い

出来事 基本EPSの分母 注意点
時価発行増資 発行時から期間に応じて加算 払込額ではなく株式数を加重する
自己株式の取得 取得時から期間に応じて控除 期中平均自己株式数を使う
新株予約権の実際の行使 行使時から普通株式数に含める 行使前は基本EPSの株式数に含めない
株式分割・株式併合 表示する最も古い期間の期首に行われたものと仮定する 貸借対照表日後に行われた場合も同様に調整する
条件付発行可能普通株式 特定の条件(単に時間の経過により達成される条件を除く)を満たした時点から含める 潜在株式調整後EPSでは別に条件達成状況を判定する

法人税の所得や非上場株式評価とは別の数字

項目 目的・出発点 EPSとの関係
会計上の基本EPS 普通株主に関する期間損益の表示 普通株式に係る当期純利益と期中平均株式数を使う
法人税の所得金額 会計上の利益・欠損に申告調整を加えて計算する EPSを法人税申告書へ転記するものではない
類似業種比準価額の「1株当たりの利益金額」 取引相場のない株式を相続税・贈与税上評価するための数値 法人税の課税所得金額などを基礎とする別の計算

国税庁「別表四の記載の仕方(令和8年4月1日以後終了事業年度等分)」では、損益計算書に掲げた当期利益または当期欠損を出発点とし、益金・損金に関する申告調整を行う構造が示されています。EPSの算定だけを理由とする申告調整はありません。

財産評価基本通達183の「1株当たりの利益金額」は、直前期末以前1年間の法人税の課税所得金額から非経常的な利益を除き、所定の金額を加算する方法などで計算します。会計上のEPSとは目的、分子、分母が異なり、相互に代用できません。

開示前に確認する5項目

  1. 開示制度:会社法、金融商品取引法のどの規定が適用されるかを確認する。両方が関係する会社もある。
  2. 分子:当期純利益、普通株主に帰属しない金額、連結の場合は親会社株主に帰属する利益を照合する。
  3. 分母:株式事務資料、自己株式台帳、増資日、取得日、行使日から期中平均株式数を再計算する。
  4. 潜在株式:行使価格、平均株価、存在期間、権利確定条件、将来サービスに対応する公正な評価額を確認する。
  5. 注記:算定上の基礎、分子・分母の調整額、希薄化効果がないため除外した潜在株式を確認する。

財務諸表等規則第95条の5の2・第95条の5の3は、1株当たり当期純損益と潜在株式調整後1株当たり当期純利益の注記を定めています。連結財務諸表については、連結財務諸表規則第65条の2・第65条の3を確認します。連結財務諸表を作成する場合には、個別財務諸表側の省略規定にも注意が必要です。

会社法上は、会社計算規則第113条が1株当たり純資産額と1株当たり当期純損益を注記事項としています。ただし、第98条第2項には会社類型や注記表の種類に応じた省略規定があります。非上場かどうかだけで決めず、公開会社、会計監査人設置会社などの区分を確認します。

確認問題

4月1日から翌年3月31日までを事業年度とする会社について、基本EPSと潜在株式調整後EPSを求めてください。

  • 当期純利益:24,000,000円
  • 期首流通普通株式:80,000株
  • 7月1日に普通株式16,000株を発行
  • 1月1日に自己株式8,000株を取得
  • 期首から存在する権利確定済みストック・オプション:10,000株分
  • 行使価格:500円
  • オプションが存在する期間の平均株価:800円
  • 普通株主に帰属しない金額:0円
解答を確認する

期中平均株式数は、80,000株+16,000株×9÷12-8,000株×3÷12=90,000株です。

基本EPSは、24,000,000円÷90,000株=266.67円です。

仮定入金額は10,000株×500円=5,000,000円です。この金額で買い戻せる株式数は、5,000,000円÷800円=6,250株です。したがって、普通株式増加数は10,000株-6,250株=3,750株となります。

潜在株式調整後EPSは、24,000,000円÷(90,000株+3,750株)=256.00円です。基本EPSの266.67円を下回るため、希薄化効果があります。EPSの算定に伴う仕訳はありません。

5日で定着させる練習メニュー

日 取り組む内容 確認点
1日目 基本EPSの分子と分母を書き分ける 当期純利益と法人税の所得金額を混同していないか
2日目 新株発行と自己株式取得を期間加重する 増減方式と期間別方式で同じ結果になるか
3日目 自己株式方式を1問解く 対象株式数ではなく純増加株式数を求めたか
4日目 株式分割、反希薄化、当期純損失の取扱いを確認する 計算と開示の要否を分けて説明できるか
5日目 確認問題を資料なしで解き直す 基本EPS、潜在株式調整後EPS、仕訳不要の順に説明できるか

計算の順番は、「分子を決める」「期中平均株式数を求める」「潜在株式の希薄化を判定する」「注記を確認する」の4段階です。この順番を崩さなければ、発行条件が増えても整理しやすくなります。

一次資料

免責:本稿は一般的な学習用の説明であり、個別企業の会計・税務・法務判断を示すものではありません。実際の計算と開示では、契約条件、種類株式の内容、適用する会計基準、事業年度、会社類型および基準日時点の法令等を確認し、必要に応じて公認会計士、税理士、弁護士などの専門家へ相談してください。

第194回 ストック・オプション会計ゼロ入門:権利確定・行使・失効と法人税のずれを仕訳で整理(5日練習付き)

第193回では、退職給付を勤務期間に配分する考え方を確認しました。今回は、従業員等への報酬として付与するストック・オプションを扱います。

現金の支出がなくても、会社がサービスを受けた期間には費用が生じます。まず会計上の費用と新株予約権を整理し、その後で従業員の所得税と発行会社の法人税を分けて見ていきます。

1.付与から失効までの流れ

時点 会計処理の中心 新株予約権の残高
付与日 公正な評価単価と権利確定見込数を確認する 設例では0円
権利確定日前 受けたサービスに対応する費用を計上する 純資産の部に積み上がる
権利確定日 権利確定数に合わせて累計費用を修正する 確定した権利に対応する金額になる
権利行使日 払込額と対応する新株予約権を払込資本へ振り替える 行使分だけ減少する
権利確定後の失効日 対応する新株予約権を利益へ振り替える 失効分だけ減少する

新株予約権は借入金ではありません。発行会社では、権利行使または失効が確定するまで純資産の部に表示します。

2.用語と3種類の金額を区別する

用語 意味
付与日 ストック・オプションが付与された日。募集新株予約権では会社法上の割当日が該当します。
対象勤務期間 ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間。付与日から権利確定日までの期間です。
権利確定日 勤務条件や業績条件を満たし、権利が確定した日です。
権利行使日 権利者が行使価格に基づく金額を払い込んだ日です。
権利不確定による失効 勤務条件などを満たせず、権利確定前に失効することです。
権利不行使による失効 権利確定後、行使期間中に行使されないまま失効することです。
金額 主な用途 本設例
付与日の公正な評価単価 会計上の報酬費用を測定する 1個300円
権利行使価額 権利者が株式を取得するために払い込む 1株1,000円
権利行使日の株価 税制非適格の場合の権利行使益などを計算する 1株1,500円

オプション自体の価値、株式を取得するための払込額、株式の時価は別の金額です。また、法人税申告で用いる「交付の時等の単価」は税法に従って算定するため、会計上の公正な評価単価と常に一致するわけではありません。本設例では計算を追いやすくするため、いずれも1個300円になるものと仮定します。

3.会計上の費用を計算する

企業会計基準第8号では、従業員等から取得したサービスを、その取得に応じて費用計上します。

公正な評価額 = 付与日の公正な評価単価 × 権利確定見込数

対象勤務期間に定額で配分する場合、期末までの累計費用は次のように計算できます。

期末までの累計費用 = 公正な評価額 × 経過した勤務期間 ÷ 対象勤務期間

公正な評価単価は原則として付与日現在で算定し、所定の条件変更がない限り、その後の株価変動だけを理由に見直しません。一方、勤務条件などを満たせず失効すると見込まれる個数は、重要な変動があれば見直します。

評価に用いる主な情報 内容
行使価格 株式を取得するための払込額
満期までの期間または予想残存期間 評価モデルに応じて用いる期間
算定時点の株価 付与日などにおける対象株式の価額
株価変動性 株価がどの程度変動すると見込まれるか
予想配当 評価期間中に見込まれる配当
無リスク利子率 評価モデルで用いる割引率

未公開企業は、公正な評価単価に代えて、付与日現在の「単位当たりの本源的価値」の見積りを使うことができます。この場合も、付与日後の株価変動に合わせて単価を毎期更新するわけではありません。所定の注記は別途必要です。

4.2年間の設例で仕訳を検算する

次の数値は計算方法を学ぶための設例です。実在企業の取引ではありません。

項目 前提
付与数 100個。1個につき普通株式1株を取得できる
付与日の公正な評価単価 300円
対象勤務期間 2年間。第1期末は付与から1年後、第2期末は権利確定日とする
費用配分 対象勤務期間に定額で配分する
第1期末の権利確定見込数 90個
権利確定数 80個
権利行使価額 1株1,000円
権利行使数 60個
権利確定後の失効数 20個
株式の交付 新株を発行し、払込資本の全額を資本金に計上する。発行費用は考慮しない

第1期末

300円 × 90個 × 1年 ÷ 2年 = 13,500円

第2期末・権利確定日

最終的な権利確定数は80個なので、必要な累計費用は24,000円です。

300円 × 80個 = 24,000円

第2期の費用 = 24,000円 − 13,500円 = 10,500円

60個の権利行使時

対応する新株予約権 = 24,000円 × 60個 ÷ 80個 = 18,000円

払込額 = 1,000円 × 60株 = 60,000円

資本金への振替額 = 60,000円 + 18,000円 = 78,000円

残る20個の失効時

失効分の新株予約権 = 24,000円 × 20個 ÷ 80個 = 6,000円

時点 借方 貸方 借貸検算 仕訳後の新株予約権残高
付与日 仕訳なし 仕訳なし 0円=0円 0円
第1期末 株式報酬費用 13,500円 新株予約権 13,500円 13,500円=13,500円 貸方13,500円
第2期末 株式報酬費用 10,500円 新株予約権 10,500円 10,500円=10,500円 貸方24,000円
60個の権利行使 普通預金 60,000円
新株予約権 18,000円
資本金 78,000円 78,000円=78,000円 貸方6,000円
20個の失効 新株予約権 6,000円 新株予約権戻入益 6,000円 6,000円=6,000円 0円

「株式報酬費用」は設例上の科目名です。権利不行使による失効で生じる利益は、原則として「新株予約権戻入益」などの科目を使い、特別利益に計上します。

実際の新株発行では、会社法上の手続に従い、払込資本を資本金と資本準備金に分けることがあります。自己株式を交付する場合は、自己株式処分差額の検討も必要です。

5.権利確定前と確定後では失効の処理が違う

失効の時期 会計処理 設例での反映
権利確定前 権利確定見込数を修正し、修正後の累計費用と計上済額との差額を損益に反映する 90個の見込みを80個の確定数へ修正し、第2期の費用を10,500円とした
権利確定後 過去の報酬費用は取り消さず、対応する新株予約権を利益へ振り替える 20個分の6,000円を新株予約権戻入益とした

失効を見つけたら、まず権利確定前か確定後かを確認します。すべての失効で過去の費用を取り消すわけではありません。

6.従業員側の所得税

ここでは、雇用関係に基づき、譲渡制限のあるストック・オプションを無償で付与された場合を扱います。国税庁の令和8年4月1日現在の案内では、税制非適格ストック・オプションは、一般に権利行使時と取得株式の譲渡時に課税関係が生じます。

段階 税制非適格 税制適格
付与時 本稿の譲渡制限付きの例では課税関係が生じない 課税関係が生じない
権利行使時 雇用関係等に基づく場合、原則として権利行使益が給与所得となる 要件を満たす限り、権利行使時の課税が繰り延べられる
株式譲渡時 売却価額と権利行使時の株価との差額を、株式等の譲渡所得等として計算する 売却価額と権利行使価額との差額を、株式等の譲渡所得等として計算する

税制適格となるには、対象者、無償付与、権利行使期間、年間の権利行使価額、契約締結時の株価以上である行使価額、譲渡禁止、取得株式の保管または管理など、租税特別措置法の要件を満たす必要があります。

原則的な権利行使期間は、付与決議の日後2年を経過した日から同日後10年を経過する日までです。設立後5年未満の一定の非上場会社では、終期が15年となる場合があります。

年間の権利行使価額は原則として1,200万円以下です。ただし、付与決議日に設立後5年未満の株式会社では、1回の権利行使価額を2で除した金額で判定します。設立後5年以上20年未満で、付与決議日に非上場である会社または上場後5年未満である会社など一定の株式会社では、3で除した金額で判定します。除算後の1円未満の端数は、1回の権利行使ごとに切り上げます。一般に「年2,400万円」または「年3,600万円」と説明されることがありますが、法令上はこの除算方式で判定します。

60株を1株1,800円で売却した場合

区分 権利行使時 株式譲渡時 設例上の所得金額の合計
税制非適格 (1,500円−1,000円)×60株=30,000円 (1,800円−1,500円)×60株=18,000円 48,000円
税制適格 課税を繰り延べる (1,800円−1,000円)×60株=48,000円 48,000円

売却手数料などは考慮していません。この設例では合計額が同じですが、所得区分と課税時期は異なります。

税制非適格の権利行使益が給与所得となる場合は、付与者と権利者の関係、居住者区分などを踏まえて源泉徴収の要否を確認します。本設例のように、発行会社が自社の従業員へ給与として経済的利益を与える場合は、原則として源泉徴収の対象です。

7.発行会社の法人税と税効果会計

以下では、法人税法第54条の2の特定新株予約権に該当し、役務提供の対価として発行されたものを前提とします。該当性は、譲渡制限などの条件と契約内容を確認して判断します。

従業員に給与等課税事由が生じる場合、法人税ではその日に役務提供を受けたものとして扱います。税制適格ストック・オプションのように給与等課税事由が生じない場合、その役務提供費用は損金に算入されません。

本設例では、別表十四(四)の「交付の時等の単価」も1個300円であり、役員給与の損金不算入など他の制限を受けない従業員分とします。

時点 会計処理 税制非適格の場合 税制適格の場合
第1期 費用13,500円 13,500円を所得計算上加算 13,500円を所得計算上加算
第2期 費用10,500円 10,500円を所得計算上加算 10,500円を所得計算上加算
60個の権利行使 当期損益への影響なし 給与等課税事由が生じる前提では、300円×60個=18,000円を所得計算上減算 給与等課税事由が生じないため、18,000円は損金に算入しない
20個の失効 戻入益6,000円 6,000円を益金不算入として所得計算上減算 6,000円を益金不算入として所得計算上減算
一連の取引後 費用24,000円−戻入益6,000円=純額18,000円の費用 上記前提では18,000円が損金となり、完了後に差異は残らない 純額18,000円は損金にならず、永久差異となる

従業員側の権利行使益30,000円と、発行会社側の損金算入額18,000円は一致しません。従業員側は権利行使時の株価と権利行使価額との差額を使います。発行会社側は、本設例では新株予約権の交付時の単価を使うためです。

税効果会計では、新株予約権そのものは一時差異等として扱いません。一方、税制非適格で、従業員に給与等課税事由が生じると見込まれる場合、会計上計上したストック・オプション費用は将来減算一時差異となります。回収可能性を満たす範囲で繰延税金資産を計上します。

税制適格の場合は、役務提供費用が将来も損金に算入されないため、将来減算一時差異には該当せず、税効果会計の対象になりません。

法人税法第54条の2だけで処理が完結するとは限りません。役員へ付与する場合は、法人税法第34条などの役員給与規制も確認します。

8.間違えやすいポイント

間違いやすい考え方 確認する視点
行使価額×付与数を報酬費用にする 会計上の費用は、原則として付与日の公正な評価単価を基礎にします。
株価が上がるたびに評価単価を更新する 原則として評価単価は付与日で固定し、権利確定見込数を見直します。
新株予約権を負債に計上する 発行会社では純資産の部に計上します。
すべての失効で過去の費用を取り消す 権利確定前の失効と、確定後の権利不行使を分けます。
税制適格なら会計費用も計上しない 所得税上の適格性と、会計上の費用認識は別の問題です。
従業員の給与課税額と会社の損金額は同じ 測定時点と計算方法が異なるため、一致するとは限りません。

9.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 到達確認
1日目 付与日、権利確定日、権利行使日、失効日を順に書く 各時点の意味を一文で説明できる
2日目 第1期13,500円、第2期10,500円を再計算する 累計24,000円から第2期分を逆算できる
3日目 行使と失効の仕訳を白紙から作る 新株予約権残高が24,000円から6,000円になり、最後に0円になる
4日目 税制適格と非適格の課税時点を比べる 税制適格は行使時課税を譲渡時まで繰り延べる制度だと説明できる
5日目 会計単価300円、行使価額1,000円、行使時株価1,500円の役割を整理する 従業員側30,000円と会社側18,000円の違いを説明できる

まとめ

  • ストック・オプションは、現金支出がなくても、従業員等から受けたサービスに応じて費用計上します。
  • 公正な評価単価は原則として付与日で固定し、権利確定前は失効見込数を見直します。
  • 権利行使では新株予約権を払込資本へ振り替え、権利確定後の失効では利益へ振り替えます。
  • 税制適格か非適格かによって、従業員側の課税時期、発行会社の損金算入、税効果会計が変わります。
  • 会計費用、従業員の権利行使益、法人税上の損金算入額は分けて計算します。

確認資料

第193回 退職給付会計ゼロ入門:退職給付債務・年金資産・勤務費用と法人税のずれを仕訳で整理(5日練習付き)

第192回では、会計と税務の金額がずれる場面を税効果会計で整理しました。今回は、退職給付会計です。

最初から仕訳を作ろうとすると、退職給付債務と年金資産が混ざります。まず両者を別々に動かし、次に退職給付費用を求め、最後に仕訳と法人税の申告調整を確認します。

基準日:2026年9月25日。日本基準を前提とする一般的な学習用解説です。設例の割引率、長期期待運用収益率、金額は計算練習のための仮定であり、個別の会計処理・税務判断を示すものではありません。実務では、適用する会計基準、退職金規程、年金規約、過年度の申告調整を確認し、必要に応じて公認会計士・税理士等へ相談してください。

先に全体像をつかむ

  1. 確定給付制度か確定拠出制度かを判定する
  2. 確定給付制度では、退職給付債務と年金資産を別々に計算する
  3. 勤務費用、利息費用、期待運用収益などから退職給付費用を求める
  4. 連結財務諸表と個別財務諸表の違いを確認する
  5. 会計上の費用と法人税上の損金算入額を分ける

基本は「退職給付債務-年金資産=積立不足または積立超過」です。ただし、未認識数理計算上の差異や未認識過去勤務費用があると、個別財務諸表の計上額は連結財務諸表と異なります。

1.確定給付制度と確定拠出制度

項目 確定給付制度(DB) 確定拠出制度(DC)
意味 確定拠出制度以外の退職給付制度 一定の掛金を外部に積み立て、企業がその掛金以外の追加的な拠出義務を負わない制度
会計の中心 退職給付債務、年金資産、数理計算上の差異など 当期の要拠出額
当期費用 勤務費用、利息費用、期待運用収益などから計算する 原則として当期の要拠出額
未拠出額 制度の内容に応じて処理する 未払金に計上する

企業会計基準第26号は、一定期間の労働提供などに基づき、退職後に支給される給付を対象とします。株主総会の決議などが必要となる役員退職慰労金は、同基準の対象外です。

2.退職給付会計を構成する数字

項目 意味 基本的な動き
退職給付債務 退職給付のうち、期末までに発生したと認められる部分を割り引いた金額 期首債務+勤務費用+利息費用-給付額±数理計算上の差異等
年金資産 退職給付以外に使用できず、企業やその債権者から法的に分離されるなどの要件を満たす資産 期首資産+実際運用収益+掛金-給付額
退職給付費用 当期純利益を構成する費用 勤務費用+利息費用-期待運用収益±差異の費用処理額等
貸借対照表計上額 制度の積立状況を基礎とする金額 連結と個別では未認識項目の扱いが異なる

期待運用収益は、期首年金資産に長期期待運用収益率を乗じた計算上の収益です。実際運用収益をそのまま退職給付費用から差し引くわけではありません。期待運用収益と実際運用収益との差は、数理計算上の差異に含まれます。

現在価値の小さな設例

退職時の給付見込額1,200万円のうち、期末までに900万円が発生していると仮定します。支給まで3年、設例上の割引率を年2%とすると、単純化した現在価値は次のとおりです。

900万円÷(1+0.02)3=約848万円

実際の計算では、給付見込額の期間帰属、予想昇給率、退職率、死亡率、支払時期なども考慮します。割引率は、期末における安全性の高い債券の利回りを基礎として決めます。

3.債務・年金資産・費用を一つの設例で検算する

従業員非拠出の確定給付企業年金について、連結財務諸表上の基本構造を確認します。単位は万円です。過去勤務費用と数理計算上の差異は発生しないものとします。

前提 金額・率
期首退職給付債務 10,000
期首年金資産 6,000
勤務費用 500
割引率 2%(設例上の仮定)
長期期待運用収益率 3%(設例上の仮定)
企業の掛金拠出額 700
年金資産からの給付額 400
実際運用収益 180

退職給付債務

項目 計算 残高への影響
期首残高 10,000 10,000
勤務費用 500 +500
利息費用 10,000×2% +200
年金給付 400 -400
期末残高 10,000+500+200-400 10,300

年金資産

項目 計算 残高への影響
期首残高 6,000 6,000
実際運用収益 180 +180
企業の掛金 700 +700
年金給付 400 -400
期末残高 6,000+180+700-400 6,480

退職給付費用と期末負債

期待運用収益=6,000×3%=180

退職給付費用=勤務費用500+利息費用200-期待運用収益180=520

期末の退職給付に係る負債=退職給付債務10,300-年金資産6,480=3,820

期首の積立不足は4,000です。負債の増減からも確認できます。

期首負債4,000+退職給付費用520-掛金700=期末負債3,820

年金資産から支給された400は、退職給付債務と年金資産を同額だけ減らします。そのため、積立不足の純額には影響しません。

仕訳

取引 借方科目 借方 貸方科目 貸方
当期費用の計上 退職給付費用 520 退職給付に係る負債 520
掛金の拠出 退職給付に係る負債 700 現金預金 700

表示した仕訳の借方合計と貸方合計は、ともに1,220です。負債残高も4,000+520-700=3,820となります。退職給付費用は、原則として売上原価または販売費及び一般管理費に計上します。

未認識項目がないこの設例では、個別財務諸表でも3,820を「退職給付引当金」として表示します。

4.数理計算上の差異

前の設例で、実際運用収益が180ではなく100となり、期末の数理計算による退職給付債務が10,300ではなく10,420になったとします。

原因 計算 差異
運用実績が期待を下回った 期待180-実績100 借方差異80
退職給付債務が見込みより増えた 実績10,420-見込み10,300 借方差異120
合計 80+120 借方差異200

期末年金資産は、6,000+100+700-400=6,400です。実際の積立不足は、10,420-6,400=4,020となります。

項目 連結財務諸表 個別財務諸表の当面の取扱い
貸借対照表 積立不足4,020を退職給付に係る負債として計上 借方の未認識数理計算上の差異200を差し引き、退職給付引当金3,820を計上
当期に費用処理しない差異 税効果前200をその他の包括利益の「退職給付に係る調整額」に反映 未認識数理計算上の差異として繰り延べる

連結財務諸表の負債は、4,000+520-700+200=4,020でも確認できます。個別財務諸表は、10,420-6,400-200=3,820です。

差異を翌期から10年間の定額法で費用処理する会計方針なら、翌期以降の費用処理額は年20です。費用処理期間は平均残存勤務期間以内の一定の年数とし、費用処理を始める年度も会計方針に従います。

連結財務諸表のその他の包括利益は、法人税等と税効果を調整して表示します。上記200は税効果前の金額であり、そのまま税引後の金額になるわけではありません。

過去勤務費用は、退職給付水準の改訂などによって退職給付債務が増減した部分です。割引率や運用実績のずれから生じる数理計算上の差異とは分けて考えます。

5.簡便法と確定拠出制度

小規模企業等の簡便法

簡便法を適用できる小規模企業等は、原則として退職給付債務の計算対象となる従業員が300人未満の企業です。複数の退職給付制度がある場合は、制度ごとに判定します。

300人未満なら自動的に簡便法を選べるわけではありません。高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難な場合、または退職給付に関する財務諸表項目の重要性が乏しい場合に、簡便な方法を使うことができます。従業員が300人以上でも、年齢や勤務期間に偏りがあり、原則法による計算に一定の高い水準の信頼性を得られない場合は、簡便法を使えることがあります。

非積立型制度の退職給付費用は、次の形で確認できます。

当期退職給付費用=期末負債-(期首負債-当期の退職給付支払額)

積立型制度では、期首負債から当期拠出額を控除した残高と期末負債との差額を費用にします。事業主が退職給付を直接支払った場合は、その支払額も期首負債から控除します。

確定拠出制度

確定拠出制度では、当期の要拠出額を費用処理し、未拠出額を未払金に計上します。要拠出額120万円のうち100万円を支払い、20万円が未払いなら、仕訳は次のとおりです。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
退職給付費用 120 現金預金
未払金
100
20

借方120と貸方100+20が一致し、期末の未払金残高は20です。

6.法人税では会計費用と実際の掛金を分ける

税務上の退職給与引当金制度は、原則として平成15年3月31日以後に終了する事業年度から廃止されました。したがって、会計上の退職給付費用を計上しただけで、その全額が法人税上の損金になるわけではありません。

一方、確定給付企業年金の規約に基づいて支出した掛金や、企業型年金規約に基づく事業主掛金などは、法人税法施行令第135条により損金算入の対象となります。法人税基本通達9-3-1では、対象となる掛金等を現実に納付または払い込まなければ、未払金として損金算入できないとされています。

確定給付制度の設例を申告調整する

前の設例に、次の前提を加えます。

  • 期首負債4,000は、過年度に全額を加算・留保している
  • 当期の退職給付費用520に、別途損金算入できる部分はない
  • 掛金700は、確定給付企業年金の規約に基づき、当期中に現実に支払った
  • 旧退職給与引当金の残高など、ほかの申告調整はない
項目 会計処理 法人税上の処理 申告調整 留保残高
期首 負債4,000 過年度に調整済み なし 4,000
退職給付費用 費用520 設例では損金不算入 加算・留保520 4,520
掛金の支払い 負債を700減額 支払額700を損金算入 減算・留保700 3,820

申告調整の純額は、加算520-減算700=マイナス180です。この設例では、申告調整によって所得金額が会計上の税引前利益より180少なくなります。期末の留保残高は4,000+520-700=3,820となり、会計上の期末負債と一致します。

これは、上記の仕訳と前提だけを置いた設例です。掛金を会計上の費用として処理している場合、複数の制度がある場合、企業が退職一時金を直接支給する場合、未認識項目や過年度差異がある場合は、申告調整が変わります。

前述の確定拠出制度の例では、会計上の費用120に対し、当期中の支払額は100です。同じ税務前提なら、未払額20を加算します。その20は、実際に支払った事業年度に改めて損金算入の可否を判定します。

本稿では法人税額を計算していません。適用税率や税効果会計で用いる税率は、事業年度、所在地、法人規模、将来の解消時期などで変わります。繰延税金資産についても、期末負債へ機械的に税率を乗じるのではなく、将来の損金算入見込みと回収可能性を確認する必要があります。

7.間違えやすいポイント

誤りやすい考え方 確認すること
退職給付債務と年金資産をそのまま総額表示する 同一制度では積立状況を示す純額が基本。別制度の積立超過を他制度の債務と相殺しない
実際運用収益を退職給付費用から差し引く 費用計算では期待運用収益を差し引き、実績との差を数理計算上の差異とする
年金資産からの給付時に企業の現金を減らす 年金資産から支払われる場合、企業の現金は動かない
連結と個別の負債は必ず同額になる 未認識数理計算上の差異などがある場合は金額が異なる
掛金を未払計上すれば税務上も損金になる 施行令第135条に該当する掛金等は、現実の納付・払込みを確認する
従業員300人未満なら必ず簡便法を使える 対象人数に加え、見積りの信頼性や重要性を確認する

8.5日で定着させる

日 目安 取り組む内容 確認点
1日目 10分 確定給付制度と確定拠出制度の違いを書く 追加的な拠出義務の有無を説明できるか
2日目 15分 下の問題で退職給付債務を計算する 給付額を差し引いたか
3日目 15分 年金資産、退職給付費用、期末負債を計算する 期待運用収益の符号は正しいか
4日目 15分 仕訳を作り、借貸と残高を再計算する 二つの方法で期末残高が一致するか
5日目 15分 会計費用と実払掛金を申告調整につなぐ 未払掛金を損金にしていないか

練習問題

期首退職給付債務8,000、期首年金資産5,000、勤務費用420、利息費用200、期待運用収益100、掛金500、年金資産からの給付300とします。実際運用収益は期待運用収益と一致し、数理計算上の差異はありません。単位は万円です。

  1. 期末退職給付債務はいくらか
  2. 期末年金資産はいくらか
  3. 退職給付費用と期末負債はいくらか
  4. 掛金500を当期中に支払い、前節と同じ税務前提を満たす場合、申告調整の純額はいくらか
解答と検算

期末退職給付債務は、8,000+420+200-300=8,320です。

期末年金資産は、5,000+100+500-300=5,300です。

退職給付費用は420+200-100=520、期末負債は8,320-5,300=3,020です。期首負債3,000+費用520-掛金500=3,020でも一致します。

仕訳は、退職給付費用520/退職給付に係る負債520、退職給付に係る負債500/現金預金500です。借方合計と貸方合計は、ともに1,020です。

前節と同じ税務前提なら、費用520を加算し、実払掛金500を減算します。申告調整の純額はプラス20です。

9.確認した一次資料

退職給付会計は、債務、年金資産、費用を一度に考えないことが大切です。別々に計算し、最後に仕訳と残高を合わせます。法人税は、その後に実際の支払額から判定します。

第192回 税効果会計ゼロ入門:一時差異、繰延税金資産・負債、回収可能性を仕訳で整理(5日練習付き)

第191回では、新リース会計を通じて会計と税務の差を確認しました。今回は、その差が将来解消するときの税額を決算に反映する「税効果会計」を扱います。

税効果会計は節税の手続ではありません。会計上の利益と課税所得で収益・費用を認識する時期が異なる場合に、税引前利益と税金費用を合理的に対応させる会計処理です。

1.先に結論をつかむ

区分 将来の動き 税効果 主な例
将来減算一時差異 解消時の課税所得を減らす 繰延税金資産の候補 減価償却超過額、損金算入前の引当金、税務上まだ損金にならない減損損失
将来加算一時差異 解消時の課税所得を増やす 原則として繰延税金負債 税務上未認識のその他有価証券評価益、固定資産圧縮積立金
永久差異 将来も解消しない 認識しない 将来にわたって損金にならない交際費等や寄附金の損金不算入額

申告書で加算した金額が、すべて繰延税金資産になるわけではありません。将来の申告で減算されるかを確かめることが最初の作業です。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」では、一時差異を、会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額との差額と定義しています。一時差異と税務上の繰越欠損金などを合わせた呼び方が「一時差異等」です。

基本的な計算は次の形です。

一時差異に係る税額 = 一時差異 × 解消が見込まれる期の法定実効税率

ただし、繰延税金資産は、この計算額を無条件に計上するものではありません。将来の税負担を軽減できると認められる範囲だけを計上します。

2.資産・負債の金額から方向を判定する

対象 会計上の額と課税所得計算上の額 通常の方向
資産 会計上の額が大きい 将来加算一時差異・繰延税金負債
資産 会計上の額が小さい 将来減算一時差異・繰延税金資産
負債 会計上の額が大きい 将来減算一時差異・繰延税金資産
負債 会計上の額が小さい 将来加算一時差異・繰延税金負債

この表だけで計上を決めることはできません。差額が将来解消するか、計上しないこととされる項目ではないか、繰延税金資産なら回収可能性があるかまで確認します。

3.申告調整と税効果仕訳を分ける

確認事項 申告調整 税効果会計
目的 課税所得と納付税額を算定する 税金費用を適切な期間へ配分する
償却超過額 発生年度に加算し、認容年度に減算する 将来減算一時差異として検討する
仕訳 加算・減算そのものには仕訳をしない 繰延税金資産・負債などを仕訳する
納付税額 当期の納付税額に影響する 申告上の納付税額は変えない

申告書の加算・減算と、会計帳簿の仕訳を同じ作業として扱わないことが大切です。

4.償却超過額を2期間で追う

法人税法第31条では、減価償却費として損金に算入できる額に限度が設けられています。国税庁税務大学校「法人税法」講本では、償却不足額が生じた事業年度に前期以前の償却超過額がある場合、その償却不足額と繰越償却超過額のいずれか少ない額を損金算入し、申告書で減算することが説明されています。

例題の前提

  • 日本基準で税効果会計を適用する単体企業とする
  • X1期首に減価償却資産を1,000,000円で取得し、間接法で記帳する
  • X1期の会計上の減価償却費は400,000円、税務上の償却限度額は300,000円とする
  • X2期の会計上の減価償却費は200,000円、税務上の償却限度額は300,000円とする
  • X2期の償却不足額100,000円の範囲で、前期の償却超過額100,000円が全額損金算入されるものとする
  • 各期の会計上の税引前利益は、減価償却費計上後で1,000,000円とする
  • 計算構造を確認するため、当期税金と税効果の双方に学習用の単一税率30%を用いる。この数値は実在企業の税率ではない
  • 税額控除、繰越欠損金、住民税均等割、事業税の損金算入時期、端数処理、グループ通算制度などは考慮しない
  • 繰延税金資産30,000円には全額の回収可能性がある

各期の償却限度額も学習上の仮定であり、特定の資産に適用される法定耐用年数や償却率を示すものではありません。

X1期:償却超過額が発生する

計算項目 計算 金額
会計上の税引前利益 ― 1,000,000円
償却超過額の加算 400,000円-300,000円 100,000円
課税所得 1,000,000円+100,000円 1,100,000円
当期税金 1,100,000円×30% 330,000円
将来減算一時差異 ― 100,000円
繰延税金資産 100,000円×30% 30,000円
内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資産の取得 減価償却資産 1,000,000円 現金預金 1,000,000円
減価償却 減価償却費 400,000円 減価償却累計額 400,000円
当期税金 法人税等 330,000円 未払法人税等 330,000円
税効果 繰延税金資産 30,000円 法人税等調整額 30,000円

申告書で行う100,000円の加算そのものには仕訳をしません。

X1期末の資産の金額は、会計上が1,000,000円-400,000円=600,000円、課税所得計算上が1,000,000円-300,000円=700,000円です。会計上の額が100,000円小さく、この差額が将来減算一時差異になります。

損益計算書上の税金費用は、330,000円-30,000円=300,000円です。当期純利益は1,000,000円-300,000円=700,000円となります。

X2期:償却超過額が認容される

X2期は、会計上の減価償却費200,000円が税務上の償却限度額300,000円を100,000円下回ります。前提に従い、この償却不足額の範囲で前期の償却超過額100,000円が損金算入されます。

計算項目 計算 金額
会計上の税引前利益 ― 1,000,000円
前期償却超過額の減算 ― 100,000円
課税所得 1,000,000円-100,000円 900,000円
当期税金 900,000円×30% 270,000円
解消する一時差異 ― 100,000円
取り崩す繰延税金資産 100,000円×30% 30,000円
内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却 減価償却費 200,000円 減価償却累計額 200,000円
当期税金 法人税等 270,000円 未払法人税等 270,000円
税効果の解消 法人税等調整額 30,000円 繰延税金資産 30,000円

X2期末の資産の金額は、会計上が1,000,000円-累計償却額600,000円=400,000円です。課税所得計算上も、損金算入済みの償却額が合計600,000円となるため400,000円です。一時差異と繰延税金資産はいずれもゼロになります。

項目 X1期 X2期 合計・期末
税引前利益 1,000,000円 1,000,000円 2,000,000円
当期税金 330,000円 270,000円 600,000円
法人税等調整額 △30,000円 30,000円 0円
税金費用 300,000円 300,000円 600,000円
当期純利益 700,000円 700,000円 1,400,000円
繰延税金資産の期末残高 30,000円 0円 0円

2期間の当期税金は合計600,000円です。税効果会計はこの納付額を減らしたのではなく、税金費用を各期へ300,000円ずつ配分しています。

5.繰延税金負債の仕訳

取得原価と課税所得計算上の帳簿価額が1,000,000円のその他有価証券を、期末に1,100,000円へ評価したとします。評価益は売却まで税務上認識されず、全部純資産直入法を採用し、学習用税率を30%とする例です。

会計上の額が課税所得計算上の額より100,000円大きいため、将来加算一時差異は100,000円、繰延税金負債は30,000円です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
投資有価証券 100,000円 繰延税金負債 30,000円
その他有価証券評価差額金 70,000円

評価差額を純資産へ計上するため、税効果も法人税等調整額ではなく、純資産の評価差額に対応させます。

6.繰延税金資産は回収可能性で絞り込む

企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」では、主に次の三つを基礎として、将来の税負担を軽減できるかを判断します。

  • 収益力に基づく将来の一時差異等加減算前課税所得
  • 実行可能なタックス・プランニングに基づく課税所得
  • 将来加算一時差異の解消見込額
分類 主な要件 基本的な考え方
分類1 過去3年と当期のすべてで、期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得があり、近い将来に著しい環境変化が見込まれない 原則として全額に回収可能性がある
分類2 過去3年と当期に課税所得が安定的に生じ、重要な税務上の欠損金がなく、近い将来に著しい環境変化が見込まれない スケジューリングの結果に基づいて判断する
分類3 過去3年と当期の課税所得が大きく増減しているが、重要な税務上の欠損金は生じていない 原則として、将来の合理的な見積可能期間であるおおむね5年以内を基礎に判断する
分類4 過去3年または当期に重要な税務上の欠損金が生じた場合などで、翌期に一時差異等加減算前課税所得が見込まれる 原則として翌期の見積額を基礎に判断する
分類5 過去3年と当期のすべてで重要な税務上の欠損金があり、翌期も同様と見込まれる 原則として回収可能性はない

分類3では、合理的な根拠を説明できる場合に5年を超える期間を用いる取扱いがあります。分類4の要件を満たしても、欠損金が生じた原因や中長期計画などに基づき、分類2または分類3として扱う場合があります。また、各分類の要件を完全には満たさないときは、要件からの乖離が最も小さい分類を総合的に判断します。

分類は単年度の黒字・赤字だけでは決まりません。解消年度を並べた資料、承認された業績予測、その過去の達成状況などを使い、回収可能性を毎期見直します。

損益を相手勘定として計上した繰延税金資産について、回収可能性がなくなったときの基本的な取崩しは次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
法人税等調整額 取崩額 繰延税金資産 取崩額

純資産などを相手勘定として計上した繰延税金資産は、取崩し時の相手勘定も個別に確認します。

7.税率と2026年の改正を確認する

繰延税金資産・負債には、一時差異が解消すると見込まれる期の税率を用います。国税は決算日までに国会で成立している税法、地方税は成立している地方税法や条例など、適用指針に定められた基準で確認します。

所在地の超過課税、企業規模、外形標準課税、解消年度、グループ通算制度などによって法定実効税率は変わります。すべての企業に共通する一つの率を当てはめることはできません。

8.表示と相殺

企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」では、表示と相殺を次のように定めています。

  • 繰延税金資産は「投資その他の資産」に表示する
  • 繰延税金負債は「固定負債」に表示する
  • 同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺して表示する
  • 異なる納税主体のものは相殺しない
  • グループ通算制度を適用する連結財務諸表では、実務対応報告第42号の取扱いを確認する

繰延税金資産は、直ちに現金化できる還付請求権ではありません。将来の税負担軽減効果を会計上見積もったものです。

9.5日で確認する

日 15分の課題 確認点
1日目 差額を将来減算・将来加算・永久差異に分ける 将来解消するかを説明する
2日目 資産・負債の会計上の額と課税所得計算上の額を比較する 一時差異の方向を判定する
3日目 X1期の課税所得、当期税金、繰延税金資産を再計算する 各仕訳の借方と貸方を一致させる
4日目 X2期の解消仕訳と2期間合計を検算する 期首残高+増加-取崩し=期末残高を確認する
5日目 解消年度、適用税率、回収可能性、表示区分を確認する 判断ごとの根拠資料を記録する

まとめ

  • 将来減算一時差異は繰延税金資産の候補、将来加算一時差異は原則として繰延税金負債になる
  • 将来解消しない永久差異には税効果を認識しない
  • 申告調整は課税所得の計算、税効果会計は税金費用の期間配分を目的とする
  • 繰延税金資産は回収可能性が認められる範囲だけ計上する
  • 税率は一時差異の解消年度と、決算日までに成立している法令などを基に確認する
  • 期末残高は、発生、解消、税率変更、回収可能性の見直しを反映して検算する

一次資料

参照基準日:2026年9月24日

第191回 新リース会計ゼロ入門:使用権資産・リース負債と法人税の申告調整を仕訳で整理(5日練習付き)

第190回では、資産除去債務を扱いました。対象となる資産が使用権資産であるときは、除去費用をその帳簿価額に加えます。今回は、その土台となる新しいリース会計です。

企業会計基準第34号を適用する借手について、リースの識別、使用権資産とリース負債の計上、法人税との違いを順に見ていきます。

この記事の要点

  • 借手は、原則として使用権資産とリース負債を計上します。
  • リース負債は未払リース料の現在価値、使用権資産はその負債を基礎に測定します。
  • 会計上のリースと法人税法上のリース取引は別に判定します。
  • 税務上のオペレーティング・リースでは、会計上の費用と税務上の損金に差が生じることがあります。

基準日:2026年9月23日。日本基準の企業会計基準第34号を適用する法人の借手を想定した一般的な学習用解説です。貸手、移行時の経過措置、セール・アンド・リースバック、契約変更は扱いません。個別の契約や申告については、適用する基準、契約条件、最新の法令等を確認してください。

1.新基準はいつから使うのか

2026年9月23日時点では原則適用前です。ただし、早期適用している企業もあります。まず、問題文や財務諸表がどの基準を前提としているかを確認します。

区分 適用時期
原則適用 2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から
早期適用 2025年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から可能
この記事の前提 新基準を適用する借手

適用時期は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第58項で確認できます。

2.契約名ではなく、資産の使用を支配しているかを見る

契約書に「賃貸借」と書かれているだけでは、会計上のリースとは限りません。契約の締結時に、特定された資産を使用する権利が、一定期間にわたり対価と交換に移転するかを判定します。

確認事項 見るポイント
特定された資産 車両、機械、建物などが特定されているか。供給者に資産を代替する実質的な権利がないか
経済的利益 使用期間全体を通じ、顧客が使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を持つか
使用の指図 顧客が、その資産をどのように、何の目的で使用するかを決める権利を持つか

供給者の代替権が実質的であるためには、使用期間全体を通じて代替する実質上の能力があり、代替による経済的利益がそのコストを上回ると見込まれる必要があります。詳しい判定は、企業会計基準適用指針第33号第5項から第8項に示されています。

3.借手のリース期間を決める

契約書に書かれた年数を、そのまま使うとは限りません。

借手のリース期間 = 解約不能期間 + 行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間 + 行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間

判断では、延長後のリース料、違約金、賃借設備への大幅な改良、移転費用、事業における原資産の重要性などを考慮します。期間が変われば、リース負債と使用権資産の金額も変わります。

4.短期リースと少額リース

要件を満たす場合は、使用権資産とリース負債を計上せず、リース料をリース期間にわたり原則として定額で費用計上できます。

区分 主な要件 選択単位など
短期リース リース開始日における借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まない 対応する原資産の表示科目ごと、または性質・用途が類似するグループごとに選択する
少額リースA 重要性が乏しい減価償却資産を購入時に費用処理する方針があり、借手のリース料がその基準額以下 通常取引される原資産の単位ごとに判定する
少額リースB-1 事業内容に照らして重要性が乏しく、契約1件当たりの金額にも重要性が乏しい B-2とのいずれかを選び、首尾一貫して適用する
少額リースB-2 新品時の原資産の価値が少額である リース1件ごとに適用するかを選択できる

会計上の少額リースと、法人税の少額減価償却資産制度は別の制度です。税務上の金額基準だけで会計処理を決めることはできません。

5.使用権資産とリース負債を測定する

項目 開始日の基本的な測定
リース負債 開始日に未払である借手のリース料の現在価値
使用権資産 リース負債 + 開始日までに支払った借手のリース料 + 付随費用 + 資産除去債務に対応する除去費用 − 受け取ったリース・インセンティブ

割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合はその利率を使います。知り得ない場合は、借手の追加借入に適用されると合理的に見積もられる利率を使います。

開始後のリース料は、原則としてリース負債の元本返済額と支払利息に分けます。利息相当額は、リース期間にわたり利息法で配分します。

原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースでは、自ら所有していた場合と同じ減価償却方法を使います。それ以外では、企業の実態に応じた方法を選び、原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして使用権資産を償却します。

6.国税庁の公表例で仕訳を確かめる

ここからは、国税庁「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」の設例を使います。金額の単位は千円です。消費税の処理は扱いません。

前提 内容
リース開始日・決算日 X1年4月1日・X2年3月31日
借手のリース期間 5年
リース料 毎月末1,000、60回、総額60,000
割引率 年8%の追加借入利子率
開始日の現在価値 49,318
その他 定額法、四半期ごとに償却費を計上、付随費用ゼロ、残存価額ゼロ。法人税法上はオペレーティング・リース取引

開始日の金額49,318は、60回の月額リース料を月利8%÷12で現在価値に割り引いた合計額です。

開始日とX1期の会計仕訳

時点 借方科目 借方 貸方科目 貸方
開始日 使用権資産 49,318 リース負債 49,318
X1期の支払合計 リース負債
支払利息
8,356
3,644
現金預金 12,000
X1期の償却 減価償却費 9,864 減価償却累計額 9,864

支払仕訳は、借方8,356+3,644=12,000で貸方と一致します。表は毎月の仕訳を年額にまとめたものです。

X1期末残高

項目 計算 期末残高
リース負債 49,318 − 8,356 40,962の貸方残高
使用権資産の純額 49,318 − 9,864 39,454の借方純額
X1期の会計上の費用 支払利息3,644 + 減価償却費9,864 13,508

表示単位未満の端数を最終期に調整すれば、5年間の減価償却費は合計49,318、利息は合計10,682です。両者の合計はリース料総額60,000と一致します。

7.法人税では区分を別に判定する

会計上、使用権資産を計上しただけで、法人税でも資産を取得したことになるわけではありません。

法人税上の区分 借手の基本的な取扱い
法人税法上のリース取引 中途解約不能またはこれに準ずることと、借手が経済的利益を実質的に享受し、使用費用を実質的に負担することの両方を満たす資産の賃貸借。所定の除外を除き、引渡時に売買があったものとされる
所有権移転外リース取引 法人税法上のリース取引のうち、所定の所有権移転要件などに該当しないもの。借手が取得したものとされるリース資産の償却方法はリース期間定額法となる
賃貸借取引(オペレーティング・リース取引) 法人税法上のリース取引に該当しない資産の賃貸借など。2025年4月1日以後に開始する事業年度では、契約に基づく支払額のうち各事業年度に債務が確定した部分を、その事業年度の損金に算入するのが基本

根拠は、法人税法第53条・第64条の2、国税庁No.5702「リース取引についての取扱いの概要」、No.5704「所有権移転外リース取引」およびNo.5705「賃貸借取引(オペレーティング・リース取引)についての取扱いの概要」です。

8.公表例の法人税申告調整

設例では、会計上の費用13,508に対し、法人税法第53条による損金算入額は12,000です。

別表四の調整内容 金額(千円) 方向
支払利息否認 3,644 加算
減価償却費否認 9,864 加算
賃貸借取引に係る費用の損金算入額 12,000 減算
差引 1,508 純額で加算

計算は、3,644+9,864−12,000=1,508です。これは会計帳簿に新しい仕訳を記帳するという意味ではありません。会計と税務の差を申告書で調整します。

国税庁の公表例では、別表四で各項目を加減算し、使用権資産、リース負債、減価償却累計額に関する差額を別表五(一)で管理しています。同資料は申告調整の一例であり、すべての契約に同じ記載をそのまま当てはめるものではありません。

公表例は、国税庁「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」で確認できます。

9.混同しやすい点

誤りやすい考え方 確認すること
2026年中はすべての企業が新基準を使う 原則適用は2027年4月1日以後開始年度。早期適用の有無も確認する
賃貸借契約はすべて会計上のリースである 特定された資産と、その使用を支配する権利の移転を判定する
契約期間が12か月なら必ず短期リースになる 借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まないことを確認する
使用権資産を計上すれば税務でも固定資産になる 法人税法第64条の2のリース取引か、第53条の賃貸借取引かを別に判定する
純加算1,508を帳簿に仕訳する 1,508は申告調整の純額であり、帳簿上の仕訳とは分ける

10.5日で流れを定着させる

日 15~20分の練習 確認点
1日目 原則適用と早期適用の時期を書き分ける 使う会計基準を最初に確認できる
2日目 特定資産・経済的利益・使用の指図の3点を説明する 契約名だけで判断しない
3日目 開始日、支払、償却の3つの仕訳を書く すべての仕訳で借方と貸方が一致する
4日目 リース負債40,962、使用権資産純額39,454、会計費用13,508を再計算する 仕訳から期末残高へつなげられる
5日目 会計費用13,508と税務上の損金12,000を比較する 加算13,508、減算12,000、純加算1,508を区別できる

順序は、「適用基準を確認する→リースを識別する→期間を決める→現在価値を測定する→会計と法人税を分ける」です。この順序を崩さなければ、長い問題でも確認する場所が見えやすくなります。

参考にした一次資料

ASBJの現行基準・適用指針、e-Gov掲載法令および国税庁資料を2026年9月23日に確認しました。国税庁タックスアンサーの法人税ページは令和7年4月1日現在法令等、公表設例は令和7年6月の資料です。本記事は一般的な学習用解説であり、個別の会計・税務判断を示すものではありません。

第190回 資産除去債務ゼロ入門:現在価値・減価償却・時の経過による調整・履行差額を仕訳で整理(5日練習付き)

第189回では、固定資産の減損会計を確認しました。今回は、将来の撤去や原状回復に備える「資産除去債務」を学びます。

資産除去債務では、将来の除去支出をすぐに全額費用にはしません。見積額を現在価値に割り引き、負債と固定資産を同額計上します。その後、資産計上額は減価償却し、負債は時の経過に応じて増額します。

時点 固定資産側 負債側
債務の発生時 除去費用の現在価値を帳簿価額に加える 資産除去債務を現在価値で計上する
使用期間中 資産計上額を減価償却する 時の経過による調整額を加算する
履行時 対象資産を除去する 債務を取り崩し、実際支出額との差額を損益処理する

基準日:2026年9月22日。本稿は、企業会計基準第18号および企業会計基準適用指針第21号に基づく一般的な学習情報です。適用する会計基準、契約内容、税務上の資産区分などにより、実際の処理は変わります。

1.資産除去債務に当たるかを確認する

企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」では、資産除去債務を、有形固定資産の取得・建設・開発・通常の使用によって生じ、その除去について法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものと定義しています。

確認順 確認すること 判断のポイント
1 有形固定資産に関係するか 建物、設備、構築物、内部造作などとの対応を確認する
2 取得・建設・開発・通常の使用から生じたか 事故など、通常の使用ではない原因と区別する
3 法令・契約上の除去義務などがあるか 自主的な改装計画だけでは通常は該当しない
4 金額を合理的に見積もれるか 見積可能なら計上し、見積不能なら所定の注記を行う

「合理的に見積もれない」とは、資料を集めていないため分からないという意味ではありません。決算日現在で入手可能なすべての証拠を検討し、最善の見積りを行っても金額を合理的に算定できない場合を指します。

事例 判定の目安 理由
賃借店舗の内部造作について、退去時の撤去が契約で求められている 該当し得る 内部造作と契約上の原状回復義務が対応するため
設備の除去時に、有害物質を法令所定の方法で処理する義務がある 該当し得る 除去に伴う特別な処理が法令で求められるため
経営者が将来の改装を検討しているだけである 通常は該当しない 法令・契約上の義務などを確認できないため
日常的な点検や修繕を行う 通常は該当しない 固定資産の除去ではなく維持管理だから
設備を一時休止または遊休状態にする 該当しない 一時的な停止や遊休は会計基準上の「除去」ではないため

2.将来支出額と当初計上額を区別する

資産除去債務は、除去に必要な将来キャッシュ・フローを見積もり、割引後の金額で計上します。支出額と支出時期が一つに定まる単純な設例では、次の式で計算できます。

現在価値 = 割引前の将来支出見積額 ÷(1+割引率)期間

割引前将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定と予測に基づく自社の支出見積額です。直接の除去費用だけでなく、処分までに必要となる保管・管理費用なども検討します。法人税等の影響額は含めません。

割引率には、支出が予想される時点までの期間に対応する、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前利率を使用します。詳しい見積方法は、企業会計基準適用指針第21号で確認できます。

3.取得から履行までを仕訳で確認する

次の数値は、仕訳を理解するための学習用前提です。実際の割引率や耐用年数を示すものではありません。

  • 期首に機械を5,000,000円で取得し、直ちに使用を開始した
  • 2年後に機械を除去する法的義務がある
  • 2年後の除去支出見積額は1,040,400円である
  • 学習用の割引率は年2%、割引期間は2年とする
  • 機械は残存価額ゼロ、会計上の耐用年数2年、定額法で償却する
  • 履行時の実際支出額は1,100,000円だった
  • 消費税等、税効果会計および元の機械に関する会計・税務上の償却差異は考慮しない

当初計上額

1,040,400円 ÷ 1.022 = 1,000,000円

資産除去債務は1,000,000円です。同額を機械装置の帳簿価額に加えるため、会計上の取得原価は次の金額になります。

5,000,000円 + 1,000,000円 = 6,000,000円

年間減価償却費は、6,000,000円 ÷ 2年 = 3,000,000円です。このうち500,000円が、資産計上した除去費用に対応します。

資産除去債務の残高推移

時点 期首残高 時の経過による調整額 期末・履行直前残高
取得時 ― ― 1,000,000円
1年目末 1,000,000円 20,000円 1,020,000円
2年目末 1,020,000円 20,400円 1,040,400円

時の経過による調整額は、各期首の負債帳簿価額に、負債計上時の割引率を乗じて求めます。2年目は、1年目末残高1,020,000円を計算の基礎にします。

仕訳と借貸の検算

時点 借方 貸方 検算
取得時 機械装置 6,000,000円 現金預金 5,000,000円
資産除去債務 1,000,000円
6,000,000円=6,000,000円
1年目末 減価償却費 3,000,000円 減価償却累計額 3,000,000円 3,000,000円=3,000,000円
1年目末 時の経過による調整額 20,000円 資産除去債務 20,000円 20,000円=20,000円
2年目末 減価償却費 3,000,000円 減価償却累計額 3,000,000円 3,000,000円=3,000,000円
2年目末 時の経過による調整額 20,400円 資産除去債務 20,400円 20,400円=20,400円
機械の除去 減価償却累計額 6,000,000円 機械装置 6,000,000円 6,000,000円=6,000,000円
債務の履行 資産除去債務 1,040,400円
履行差額 59,600円
現金預金 1,100,000円 1,100,000円=1,100,000円

勘定科目名は一例です。損益計算書では、時の経過による調整額を、関連する固定資産の減価償却費と同じ区分に表示します。履行差額も、原則として、資産計上した除去費用の費用配分額と同じ区分に表示します。

残高を再計算する

  • 機械装置の帳簿価額:6,000,000円-減価償却累計額6,000,000円=0円
  • 資産除去債務:1,000,000円+20,000円+20,400円=1,040,400円
  • 履行差額:実際支出1,100,000円-債務残高1,040,400円=59,600円の費用
  • 履行仕訳:借方1,040,400円+59,600円=貸方1,100,000円

実際支出額が債務残高より少ない場合は、差額を貸方に計上します。

4.見積額が途中で変わった場合

除去方法、物価、使用期間、法令などが変わり、割引前将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合は、資産除去債務と関連する固定資産の帳簿価額を同時に加減します。

変更 使用する割引率 基本処理
将来キャッシュ・フローの増加 変更時点の割引率 固定資産と資産除去債務を増額する
将来キャッシュ・フローの減少 負債計上時の割引率 固定資産と資産除去債務を減額する

過去に複数回の増額があり、減少部分に対応する割引率を特定できないときは、加重平均した割引率を用います。市場利率が変わっただけで、既存債務の全額を新しい利率により再計算するものではありません。

5.賃借物件で敷金を計上している場合

賃借店舗の内部造作などについて原状回復義務がある場合も、資産除去債務の対象になり得ます。ただし、その賃借契約に関連する敷金が資産計上されている場合は、適用指針第9項の方法を選択できることがあります。

方法 処理
原則的な方法 資産除去債務を負債計上し、同額を関連する有形固定資産に加算する
敷金を用いる方法 敷金のうち最終的に回収できないと見込まれる金額を合理的に見積もり、そのうち当期負担額を費用計上する

敷金を差し入れているだけで、原状回復義務のすべてにこの方法を適用できるわけではありません。資産計上された敷金に関連する部分であることを確認し、契約書、見積根拠、予想入居期間などに基づいて判断します。

6.法人税では会計処理と分けて考える

会計上の将来見積額が、そのまま法人税の損金になるわけではありません。法人税法第22条第3項第2号は、別段の定めがある場合を除き、償却費以外の販売費・一般管理費その他の費用について、事業年度末までに債務が確定していないものを損金から除いています。

法人税基本通達2-2-12では、債務確定の判定について、原則として次の三つをすべて満たすことを求めています。

  1. 事業年度末までに費用に係る債務が成立していること
  2. 事業年度末までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
  3. 事業年度末までに金額を合理的に算定できること

会計上の資産除去債務に該当する法令・契約上の義務があることだけで、税務上の三要件を満たすとは限りません。

また、税務上の減価償却資産の取得価額は、法人税法施行令第54条などに基づいて判定します。会計上、除去費用の現在価値を固定資産へ加算しただけで、同額が税務上の取得価額になるとは限りません。

項目 会計 法人税の確認点
当初の資産・負債計上 現在価値で両建てする 税務上の債務確定と取得価額を別に判定する
除去費用部分の減価償却 各期に費用配分する 税務上の取得価額に含まれない部分の償却費は損金算入できない
時の経過による調整額 各期の費用とする 履行前の見積費用について債務確定要件を確認する
実際の履行支出 債務を取り崩し、差額を損益処理する 支出内容、役務の完了時期、他の資産との関係から、損金算入時期や資産計上の要否を判定する

申告調整の考え方を仮定で確認する

ここでは、会計上資産計上した1,000,000円が税務上の取得価額に含まれず、実際の除去支出1,100,000円は履行した事業年度に全額損金となるものと仮定します。元の機械5,000,000円に関する償却差異と税効果会計は扱いません。

年度 会計上の関連費用 設例上の税務損金 純申告調整
1年目 減価償却500,000円+調整額20,000円=520,000円 0円 520,000円加算
2年目 減価償却500,000円+調整額20,400円+履行差額59,600円=580,000円 1,100,000円 520,000円減算
2年間合計 1,100,000円 1,100,000円 累計0円

これは設例上の仮定であり、履行すれば必ず全額がその事業年度の損金になるという意味ではありません。例えば、土地を利用する目的で建物付き土地を取得し、当初から建物を取り壊す意図が明らかな場合は、建物の帳簿価額と取壊費用を土地の取得価額に算入する取扱いがあります。詳しくは、国税庁の「No.5401 土地とともに取得した建物を取り壊した場合の土地の取得価額」を確認してください。

7.間違いやすい点

誤り 正しい確認方法
将来支出見積額をそのまま負債計上する 支出時期に応じて現在価値を計算する
負債だけを計上する 当初は同額を関連する有形固定資産へ加算する
毎期、当初負債額に割引率を掛ける 各期首の負債帳簿価額を基礎にする
合理的に見積もれないため何もしない 負債を計上しない場合も、債務の概要、見積不能である旨と理由を注記する
履行時に債務残高だけを現金と相殺する 実際支出額との差額も損益処理する
会計上の費用をそのまま法人税の損金にする 税務上の取得価額、債務確定、支出内容を別に判定する

貸借対照表では、履行が貸借対照表日後1年以内に見込まれる資産除去債務は流動負債、それ以外は固定負債に表示します。重要性が乏しい場合を除き、債務の内容、支出までの見込期間、割引率、期中の増減内容なども注記します。

8.5日で仕訳の流れを定着させる

日 取り組む内容 確認すること
1日目 事例を「対象資産・発生原因・義務・見積可能性」で判定する 計上対象と対象外を説明できる
2日目 将来支出額から現在価値を求め、負債残高表を作る 将来額と当初計上額を区別できる
3日目 発生時、決算時、履行時の仕訳を作る 資産・負債・費用の動きをつなげられる
4日目 除去費用部分の法人税上の加算・減算を整理する 会計と税務の認識時期を区別できる
5日目 設例を最初から解き、借貸と残高を再計算する 仕訳と計算を検算できる

学習が止まった日は、「対象資産」「義務」「見積り」「時期」の四つだけを書き出してください。止まったところから翌日に再開すれば十分です。

確認問題

  1. 法令・契約上の義務がなく、将来の改装を社内で検討しているだけの場合、資産除去債務を計上するか。
  2. 設例の1年目末における資産除去債務残高はいくらか。
  3. 履行直前残高1,040,400円に対し、実際支出額が1,100,000円なら履行差額はいくらか。
  4. 義務は存在するが、最善の見積りを行っても金額を合理的に算定できない場合はどうするか。
解答を確認する
  1. 通常は計上しません。法令・契約上の義務などを確認できないためです。
  2. 1,020,000円です。1,000,000円+1,000,000円×2%で計算します。
  3. 59,600円の費用です。1,100,000円-1,040,400円で計算します。
  4. 負債を計上せず、債務の概要、合理的に見積もれない旨およびその理由を注記します。

9.参照した一次資料

本稿は一般的な学習情報であり、個別案件に対する税務・会計上の判断ではありません。実際の処理では、適用する会計基準、契約書、関係法令、見積資料、固定資産の利用目的などを確認し、必要に応じて税理士・公認会計士その他の専門家へ相談してください。

第189回 固定資産の減損会計ゼロ入門:兆候・認識・測定と法人税の違いを仕訳で整理(5日練習付き)

第188回では、固定資産を売却・除却して帳簿から外す場面を学びました。今回は、その一歩手前にある「保有中の固定資産から投資額を回収できなくなった場面」を扱います。

減損会計は、価値が下がったら直ちに損失を計上する手続ではありません。資産のグルーピング→減損の兆候→認識の判定→損失の測定という順番で考えます。会計上の減損損失と法人税上の損金算入額が一致しない点にも注意が必要です。

この記事の前提:2026年9月21日現在の日本基準と法人税法令に基づく、国内法人を想定した一般的な学習用の説明です。会計基準の適用関係、資産の利用状況、将来計画、税務上の事実関係によって実際の処理は異なります。

今回のゴール

  • 減価償却・減損・除却の違いを説明できる
  • 減損の兆候と減損損失の計上を区別できる
  • 割引前将来キャッシュ・フローと回収可能価額を使い分けられる
  • 減損仕訳の借方・貸方と処理後残高を検算できる
  • 会計上の減損損失と法人税上の損金算入額が異なる理由を理解する

1.減価償却・減損・除却の違い

処理 意味 処理後の資産 代表的な費用・損失
減価償却 取得原価を使用期間にわたって規則的に配分する 原則として保有を続ける 減価償却費
減損 収益性の低下により回収できない投資額を帳簿価額に反映する 保有を続ける場合がある 減損損失
除却 使用をやめた資産などを帳簿から外す 原則として事業用資産として残さない 固定資産除却損

減損処理は、固定資産を毎期時価に置き換える手続ではありません。収益性が低下し、投資額の回収が見込めない状態になった場合に、一定の手順で帳簿価額を切り下げる処理です。

2.減損会計は4段階で考える

2026年7月7日までの修正が反映された企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に沿って、基本的な流れを整理します。

段階 行うこと 判断の中心
1.グルーピング 固定資産を減損判定の単位にまとめる ほかの資産からおおむね独立したキャッシュ・フローを生む最小単位か
2.兆候の把握 減損が生じている可能性を確認する 継続的な赤字、用途変更、経営環境悪化、市場価格下落などがあるか
3.認識の判定 減損損失を計上するか判定する 帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フロー総額を比較する
4.測定 減損損失額を計算する 帳簿価額を回収可能価額まで減額する

グルーピングを先に決める理由

店舗の建物、内装、設備が一体となって売上を生む場合、設備1台だけの収益を切り出せないことがあります。このような場合は、管理会計上の区分や投資判断の単位などを踏まえ、独立したキャッシュ・フローを生む最小単位を基礎にグルーピングします。

損失を小さくする目的で、好調な事業と不調な事業を任意にまとめることはできません。当期に採用したグルーピングは、事実関係が変わらない限り、翌期以降も同様に行うのが原則です。

3.減損の兆候を確認する

主な兆候 具体例 判断上の注意
営業損益またはキャッシュ・フローの継続的なマイナス 店舗や事業部の営業損益が継続して赤字になっている 適用指針では、おおむね過去2期がマイナスであることが目安。ただし、当期の見込みが明らかにプラスなら該当しないと考えられる
使用範囲・使用方法の大きな変化 事業廃止、大幅縮小、早期処分、用途変更、遊休化、稼働率の著しい低下など 正式な意思決定や合理的な見込みの有無を確認する
経営環境の著しい悪化 市場環境、技術環境、法的環境の著しい悪化 一時的な不振と、回収可能価額を大きく低下させる変化を区別する
市場価格の著しい下落 市場価格が帳簿価額から大きく下落した 適用指針では、少なくとも帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当する

兆候があることと、減損損失を計上することは同じではありません。兆候は、次の認識判定へ進む入口です。また、「過去2期」や「50%程度以上」は会計上の目安であり、法人税上の損金算入基準ではありません。

4.認識と測定で使う数字を分ける

用語 内容 使用場面
割引前将来キャッシュ・フロー 将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引く前の総額 減損損失を認識するかの判定
正味売却価額 時価から処分費用見込額を控除した金額 回収可能価額の算定
使用価値 継続使用と使用後の処分から得られる将来キャッシュ・フローの現在価値 回収可能価額の算定
回収可能価額 正味売却価額と使用価値のいずれか高い金額 減損損失の測定

認識判定:減損の兆候がある資産または資産グループについて、割引前将来キャッシュ・フロー総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識します。

測定:減損損失=帳簿価額-回収可能価額

認識判定に使った割引前将来キャッシュ・フローを、そのまま帳簿価額から差し引くわけではありません。

5.数値例で仕訳と残高を検算する

独立したキャッシュ・フローを生む賃貸用土地を一つの判定単位とする、学習用の仮定例です。

項目 金額・前提
減損処理前の帳簿価額 12,000,000円
割引前将来キャッシュ・フロー総額 10,000,000円
正味売却価額 6,800,000円
使用価値 8,000,000円
兆候 経営環境の著しい悪化により、兆候ありと判定済み

手順1:減損損失を認識するか

10,000,000円(割引前将来キャッシュ・フロー)<12,000,000円(帳簿価額)なので、減損損失を認識します。

手順2:回収可能価額を求める

6,800,000円(正味売却価額)と8,000,000円(使用価値)の高い方を選ぶため、回収可能価額は8,000,000円です。

手順3:減損損失を求める

12,000,000円-8,000,000円=4,000,000円

減損仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減損損失 4,000,000円 土地 4,000,000円
  • 借方合計:4,000,000円
  • 貸方合計:4,000,000円
  • 処理後の土地残高:12,000,000円-4,000,000円=8,000,000円

借方と貸方は一致し、処理後残高も回収可能価額と一致しています。減損損失は原則として特別損失に計上します。

貸借対照表では、原則として取得原価から減損損失を直接控除します。減価償却を行う有形固定資産については、減損損失累計額を取得原価から間接控除する方法や、減価償却累計額に合算する方法も認められています。

減損処理後の扱い

日本基準では、減損損失の戻入れを行いません。建物や機械などの償却資産は、減損後の帳簿価額を基礎として、その後の減価償却を行います。今回の例は土地なので減価償却はありません。

6.法人税では自動的に全額損金にならない

法人税法第33条では、資産の評価換えによる減額は原則として損金不算入とされています。同条第2項による通常の評価損については、災害による著しい損傷など法人税法施行令第68条所定の事実によって資産の価額が帳簿価額を下回り、損金経理などの要件を満たす場合に、法令上の限度額まで損金算入が認められます。

論点 会計 法人税
目的・考え方 投資額の回収可能性を帳簿価額に反映する 評価換えによる損失は原則として損金不算入とし、法令所定の場合に例外を認める
判定に使う額 割引前将来キャッシュ・フローや回収可能価額 法令所定の事実と、税務上の事業年度末の価額などを確認する
通常の収益悪化・相場下落 減損につながる場合がある それだけで損金算入できるわけではない

土地の例を税務へつなげる

先ほどの4,000,000円の減損損失が通常の収益悪化によるもので、施行令第68条所定の事実がないものとします。

項目 会計上 法人税上
減損損失 4,000,000円を費用計上 原則として損金不算入
申告調整 会計上の追加仕訳はない 別表四で4,000,000円を加算・留保し、通常は別表五(一)でも管理する
処理後の帳簿価額 8,000,000円 所得計算上は減額がなかったものとして12,000,000円

法人税法第33条第6項により、損金算入されなかった評価減額は、その後の所得計算上、なかったものとみなされます。このため、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額を分けて管理します。

税務上の価額は、法人税基本通達9-1-3により、その資産が使用収益されるものとして、事業年度末に譲渡される場合に通常付される価額を基礎とします。会計上の回収可能価額8,000,000円を、そのまま税務上の価額として使えるとは限りません。

税務上の評価損が認められない例

法人税基本通達9-1-17は、過度の使用や修理不足による損耗、減価償却不足、取得時の割高な取得価額、製造方法の進歩などによる機械装置の旧式化を、固定資産評価損について法人税法第33条第2項を適用できない例として示しています。

一方、災害による著しい損傷で時価が帳簿価額を下回った場合には、損金経理などの要件を満たす範囲で評価損が認められる場合があります。2026年4月1日現在の取扱いは、国税庁タックスアンサーNo.8009「災害により被害を受けたときの法人税の取扱い」でも確認できます。

減価償却資産では償却限度額との計算が必要

法人税基本通達7-5-1では、減価償却資産について計上した評価損のうち損金不算入となった金額も、税務上の「償却費として損金経理をした金額」に含まれます。同通達の注記により、ここでいう評価損には減損損失も含まれます。

したがって、減価償却資産では、減損損失を一律に全額加算するとは限りません。通常の減価償却費と損金不算入となる減損損失を合わせた損金経理額を、税務上の償却限度額と比較します。

次は計算関係だけを確認する仮定例です。同一の減価償却資産について、過年度からの償却超過額はなく、税務上の償却限度額3,000,000円は適用する償却方法や供用期間に基づいて別途計算済みとします。

項目 金額
会計上の通常の減価償却費 2,400,000円
会計上の減損損失 4,000,000円
税務上の償却費として損金経理した金額 2,400,000円+4,000,000円=6,400,000円
税務上の償却限度額 3,000,000円
損金算入される償却費 3,000,000円
償却超過額 6,400,000円-3,000,000円=3,400,000円

この前提では、会計上の費用6,400,000円に対して税務上損金算入される償却費は3,000,000円であり、申告調整による加算額は3,400,000円です。通常の減価償却費2,400,000円に加え、減損損失のうち600,000円が償却限度額の範囲に入る計算です。

実際の申告では、資産ごとの取得価額、税務上の未償却残額、償却方法、供用月数、過年度からの償却超過額などを確認する必要があります。

税効果会計を適用する場合

損金不算入額によって会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差が生じると、将来減算一時差異となる場合があります。ただし、繰延税金資産を計上するには、差異の解消見込みや回収可能性を検討しなければなりません。税率を掛けるだけで機械的に計上するものではありません。

7.よくある間違い

間違い 正しい整理
兆候を見つけた時点で減損損失を計上する 兆候があれば、次に認識判定を行う
割引前将来キャッシュ・フローを帳簿価額から差し引く 割引前金額は認識判定に使い、損失額は回収可能価額で測定する
正味売却価額と使用価値の低い方を選ぶ 回収可能価額は高い方を選ぶ
好調な資産と不調な資産を自由にまとめる 独立したキャッシュ・フローを生む最小単位を基礎にする
会計上の減損損失は税務でも全額損金になる 法人税法第33条と施行令第68条の要件を別に判定する
減価償却資産の減損損失を必ず全額加算する 法人税基本通達7-5-1と償却限度額を踏まえて計算する
収益力が回復したら減損損失を戻す 日本基準では減損損失の戻入れを行わない

8.ミニ問題

  1. 帳簿価額7,000,000円、割引前将来キャッシュ・フロー7,400,000円です。減損の兆候がある場合、減損損失を認識しますか。
  2. 帳簿価額9,000,000円、割引前将来キャッシュ・フロー7,600,000円、正味売却価額5,400,000円、使用価値6,300,000円です。減損損失はいくらですか。
  3. 会計上、市場価格の著しい下落を理由に減損損失を計上しました。この事実だけで法人税上も損金算入できますか。

解答

問題 解答
1 認識しません。7,400,000円が帳簿価額7,000,000円を下回っていないためです
2 2,700,000円。7,600,000円<9,000,000円なので認識し、回収可能価額は6,300,000円です。9,000,000円-6,300,000円=2,700,000円となります
3 自動的には損金算入できません。法人税法令所定の事実、事業年度末の価額、損金経理などの要件を別途確認します

9.5日間の短時間練習

日 取り組む内容 目安
1日目 減価償却・減損・除却の違いを一文ずつ書く 10分
2日目 減損の兆候を4分類し、それぞれの例を書く 10分
3日目 認識判定と測定を分けて数値例を解き直す 15分
4日目 会計上と税務上の帳簿価額を横並びで書く 10分
5日目 仕訳、借貸一致、処理後残高、申告調整を通して確認する 15分

まずは「兆候は入口」「認識は割引前」「測定は回収可能価額」という3点を、毎回同じ順番で確認しましょう。

仕上げのチェックリスト

  • 資産グループを先に決めたか
  • 兆候と損失計上を区別したか
  • 認識判定では割引前将来キャッシュ・フローを使ったか
  • 回収可能価額は正味売却価額と使用価値の高い方か
  • 借方・貸方と処理後残高が一致しているか
  • 法人税法上の事実と損金算入限度額を別に確認したか
  • 減価償却資産では償却限度額との関係を確認したか
  • 会計上と税務上の帳簿価額の差を管理したか

確認した一次資料

本記事は一般的な学習用の説明であり、個別案件についての会計・税務判断ではありません。実際の処理では、適用する会計基準、資産のグルーピング、意思決定の内容、将来キャッシュ・フローの根拠、法人税法令上の事実を確認し、必要に応じて税理士または公認会計士へ相談してください。

第188回 固定資産の売却・除却ゼロ入門:帳簿価額・売却損益・消費税を仕訳で整理(5日練習付き)

前回は、1月1日現在の資産を基に行う償却資産申告を扱いました。今回は、その前段階となる「機械や備品を売却・廃棄したとき、帳簿からどう外すか」を整理します。主題は、帳簿価額と売却損益の計算、除却の判定、仕訳、固定資産台帳の更新です。

基準日と前提:本稿は2026年9月19日を確認基準日とし、同日に閲覧できる国税庁・e-Govの法令、通達および公表資料を参照しています。仕訳例は、日本国内の法人が所有する機械装置・器具備品について、間接法、税抜経理方式、消費税の課税事業者、通常の国内取引を前提とします。一般的な学習用の説明であり、個別の契約、会計方針、税務申告に対する判断ではありません。

1.売却損益は帳簿価額と売却価額を比べる

固定資産を売却するときは、最初に売却直前の帳簿価額を求めます。間接法の場合の基本式は次のとおりです。

帳簿価額=取得価額-売却直前までの減価償却累計額

本稿のような税抜経理方式では、会計上の売却損益を次のように計算します。

売却損益=税抜売却価額-売却直前の帳簿価額

用語 意味 主な確認資料
取得価額 固定資産の購入代価と、事業に使用できる状態にするための付随費用などからなる金額 固定資産台帳、契約書、請求書
減価償却累計額 対象資産について計上した減価償却費の累計額 固定資産台帳、総勘定元帳
帳簿価額 間接法では、取得価額から対象資産の減価償却累計額を差し引いた残額 固定資産台帳
税抜売却価額 売却対価から消費税等を分けた本体価額 売買契約書、請求書、入金資料
固定資産売却益 税抜売却価額が帳簿価額を上回る場合の差額 計算明細、仕訳帳
固定資産売却損 帳簿価額が税抜売却価額を上回る場合の差額 計算明細、仕訳帳
固定資産除却損 廃棄などにより帳簿から外す資産の帳簿価額を基礎とする損失 廃棄記録、社内決裁、固定資産台帳

売却日までの減価償却費を計上する会計処理を採用している場合は、先に「借方:減価償却費/貸方:減価償却累計額」を記帳し、その後の帳簿価額で売却損益を計算します。以下の数値例は、売却直前までに必要な減価償却が計上済みという前提です。

2.売却・除却・使用停止を区別する

状況 基本的な処理 注意点
売却 対価を得て資産を他者へ移転し、帳簿から外す 売却価額と帳簿価額の差から売却損益を計算する
下取り 旧資産の売却と新資産の取得に分ける 差額決済だけで処理せず、それぞれの対価を確認する
物理的な廃棄 使用を終えた資産を処分し、帳簿から外す 廃材などに価値が残る場合や処分費用がある場合は、その内容も確認する
一時的な使用停止 保有を続け、再使用や売却の可能性が残る 使用を止めただけで直ちに除却損を計上できるとは限らない
有姿除却 現物が残っていても、明確な事実と税務上の要件に基づいて除却を検討する 単なる遊休状態と区別し、今後の使用可能性と処分見込価額を確認する

3.売却益が生じる仕訳

取得価額1,200,000円、売却直前の減価償却累計額900,000円の機械を、税抜400,000円で売却したとします。消費税等40,000円を含む440,000円は普通預金へ入金されました。

取得価額 1,200,000円
減価償却累計額 900,000円
帳簿価額 1,200,000円-900,000円=300,000円
税抜売却価額 400,000円
固定資産売却益 400,000円-300,000円=100,000円
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 440,000円 機械装置 1,200,000円
減価償却累計額 900,000円 仮受消費税等 40,000円
固定資産売却益 100,000円
合計 1,340,000円 合計 1,340,000円

仕訳後は、対象資産分の機械装置1,200,000円と減価償却累計額900,000円が帳簿から外れます。売却益は100,000円であり、入金額440,000円の全額ではありません。

4.売却損が生じる仕訳

取得価額800,000円、減価償却累計額500,000円の備品を税抜200,000円で売却し、消費税等20,000円を含む220,000円が入金されたとします。

帳簿価額300,000円-税抜売却価額200,000円=固定資産売却損100,000円

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 220,000円 器具備品 800,000円
減価償却累計額 500,000円 仮受消費税等 20,000円
固定資産売却損 100,000円
合計 820,000円 合計 820,000円

直接法では、固定資産勘定が減価償却後の帳簿価額まで直接減額されているため、売却時に減価償却累計額を使いません。直接法と間接法を一つの仕訳に混在させないようにします。

5.対価のない廃棄の仕訳

取得価額600,000円、減価償却累計額500,000円の備品を廃棄したとします。廃材などの価値はなく、処分業者への支払いもこの仕訳には含めません。帳簿価額は100,000円です。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却累計額 500,000円 器具備品 600,000円
固定資産除却損 100,000円
合計 600,000円 合計 600,000円

処分業者への支払いがある場合は、請求内容に応じて処分費用と消費税区分を別に確認します。廃材などが資産として残る場合や売却対価を受け取る場合は、その価額または収入も反映するため、帳簿価額の全額を機械的に除却損としないよう注意します。

6.消費税は売却益ではなく売却対価を基礎にする

国内で事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡は、消費税の課税対象です。国税庁は、事業に使用していた建物、機械、車両などの売却も、事業に付随する資産の譲渡として課税対象になると示しています。したがって、本稿の例では売却益100,000円ではなく、税抜売却価額400,000円を基礎に消費税等を処理します。根拠は、国税庁の「事業者の事業用固定資産の売却」で確認できます。

取引 消費税上の基本区分 確認点
国内で行う機械・備品・車両・建物の売却 原則として課税取引 売却損益ではなく、売却対価を基礎にする
土地の売却 非課税取引 土地と建物の一括売却では、それぞれの対価を合理的に区分する
資産の廃棄・盗難・滅失 資産の譲渡等に該当しない 対価を得て資産を移転する取引ではない
処分業者への支払い 廃棄そのものとは別の役務提供として判定する 請求内容、課税区分、採用する経理方式を確認する

廃棄・盗難・滅失の取扱いは、国税庁の消費税法基本通達5-2-13に示されています。

本稿の機械・備品の売却例には、通常の国内取引に適用される消費税と地方消費税の合計10%を使用しています。国税庁の「No.6303 消費税および地方消費税の税率」は、2026年4月1日現在の法令等として、標準税率を合計10%としています。実際の処理では、取引日、経過措置、資産の種類、売手の納税義務、税込・税抜経理の別を確認してください。

7.法人税では会計上と税務上の金額を分けて確認する

法人税基本通達2-1-14では、固定資産の譲渡収益は、別段の定めがある場合を除き、原則として引渡しがあった日の属する事業年度の益金に算入するとされています。ただし、土地、建物その他これらに類する資産について、契約の効力発生日に収益計上している場合の取扱いも定められています。契約日や入金日だけで一律に判断せず、資産の種類、契約内容、引渡しの事実、実際の収益計上を確認します。根拠は国税庁の「固定資産の譲渡等に係る収益」です。

会計上の帳簿価額と、申告調整を反映した税務上の未償却残額は一致しないことがあります。過年度の償却限度超過額、圧縮記帳、特別償却などがある場合は、会計上の売却損益をそのまま税務上の譲渡損益とせず、固定資産台帳と法人税申告書の明細を照合します。減価償却費の損金算入については、法人税法第31条および国税庁の「償却費の損金経理」を確認してください。

有姿除却は「使っていないだけ」では足りない

法人税基本通達7-7-2では、物理的な解撤や廃棄をしていなくても、次のような固定資産について、帳簿価額から処分見込価額を控除した金額を除却損として損金算入できる取扱いが示されています。

  • 使用を廃止し、今後通常の方法で事業に使用する可能性がないと認められる固定資産
  • 特定製品専用の金型などで、その製品の生産中止により将来使用される可能性がほとんどないことが、その後の状況などから明らかなもの

自社利用ソフトウェアについても、対象業務の廃止やハードウェア・OSの変更などにより、今後使用しないことが明らかな場合の取扱いが同通達7-7-2の2に示されています。詳しい要件は、国税庁の「除却損失等の損金算入」で確認できます。

有姿除却を検討するときは、使用廃止日、使用できない理由、再使用・転用・売却の可能性、処分見込価額を整理します。社内決裁書、製品の生産中止資料、現物写真、資産台帳、処分見積書などは事実関係を確認する資料になり得ますが、必要な証拠と税務判断は個別事情によって異なります。

8.記帳から固定資産台帳更新までの手順

  1. 対象資産を特定する:資産番号、勘定科目、取得日、取得価額を照合します。
  2. 売却・除却直前の残高を確定する:対象資産の減価償却累計額と当期の減価償却処理を確認します。
  3. 処分方法を判定する:売却、下取り、廃棄、滅失、単なる使用停止を区別します。
  4. 対価と消費税区分を確認する:税抜価額、消費税等、入金額を分けます。
  5. 仕訳を検算する:帳簿価額と売却損益を再計算し、借方合計と貸方合計の一致を確認します。
  6. 固定資産台帳を更新する:売却日または除却日、相手先、対価、処分理由を記録し、総勘定元帳と照合します。
  7. 根拠資料をひも付ける:契約書、請求書、入金資料、社内決裁、廃棄関係資料を資産番号から追えるようにします。

9.初学者が間違えやすいポイント

間違い 正しい確認方法
売却価額を取得価額と比べる 売却直前の帳簿価額と比べる
売却益だけに消費税を掛ける 原則として売却対価を基礎にする
間接法で固定資産を帳簿価額だけ貸方へ記入し、累計額も借方へ記入する 固定資産を取得価額で消し、対象資産分の累計額を借方へ振り戻す
資産勘定だけを消し、累計額を残す 対象資産と対応する累計額を同じ処理で帳簿から外す
使っていない資産をすべて除却する 物理的な廃棄の事実、または有姿除却の要件と事実関係を確認する
下取りの差額だけを新資産の取得価額にする 旧資産の売却と新資産の取得を分けて記帳する
会計上の帳簿価額をそのまま法人税でも使う 税務上の未償却残額と申告調整の有無を別に確認する

10.確認問題

取得価額1,000,000円、減価償却累計額700,000円の機械を、税抜250,000円で売却しました。消費税等25,000円を含む275,000円は普通預金へ入金されています。当期に必要な減価償却は計上済みです。

答えと検算を表示

帳簿価額は1,000,000円-700,000円=300,000円です。帳簿価額と税抜売却価額との差額50,000円が固定資産売却損になります。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 275,000円 機械装置 1,000,000円
減価償却累計額 700,000円 仮受消費税等 25,000円
固定資産売却損 50,000円
合計 1,025,000円 合計 1,025,000円

11.5日練習

日 取り組む内容
1日目 取得価額、減価償却累計額、帳簿価額の関係を確認する
2日目 売却益、売却損、除却損を一例ずつ計算する
3日目 間接法の仕訳を書き、借方・貸方を検算する
4日目 売却、廃棄、使用停止を分類し、消費税区分を確認する
5日目 仕訳後に対象資産分の取得価額と減価償却累計額が帳簿から外れているか確認する

固定資産の処分では、「帳簿価額を求める」「取引を分類する」「資産と対応する累計額を帳簿から外す」という順番が基本です。関係会社間取引、著しい低額譲渡、圧縮記帳資産、土地建物の一括売却などでは追加の検討が必要になるため、基準日現在の法令・通達と個別の事実関係を確認してください。

第187回 償却資産申告ゼロ入門:対象判定・評価額・固定資産税の仕訳を表で整理(令和9年度の免税点改正対応)

第186回では、法人住民税と事業税の全体像を確認しました。今回は同じ地方税のうち、土地・家屋以外の事業用資産にかかる固定資産税(償却資産)の申告を扱います。

先に結論です。償却資産の所有者は、原則として毎年1月1日現在の資産を、その資産が所在する市町村へ申告します。法人税・所得税で取得価額の全額を損金または必要経費に算入した資産でも、固定資産税では申告対象になることがあります。また、課税標準額が免税点未満でも、申告義務までなくなるわけではありません。

本稿は2026年9月18日時点で公布・公表されている法令と公的資料に基づく一般的な説明です。個別の資産区分、リース契約、課税標準の特例、自治体条例または会計処理を判断するものではありません。実際の申告では、資産所在地の自治体が公表する対象年度の手引と様式を確認してください。

1.償却資産申告の基本

確認項目 基本的な取扱い 覚える言葉
税金の種類 固定資産税のうち、土地・家屋以外の事業用償却資産にかかる部分 「償却資産税」という独立した税目ではない
基準日 毎年1月1日 賦課期日
申告する人 原則として、1月1日現在の償却資産の所有者 所有者判定
申告先 資産が所在する市町村。東京都23区内に所在する資産は東京都 本店所在地ではなく資産所在地
申告期限 原則として毎年1月31日。休日に当たる場合の具体的な期限は自治体の案内で確認 1月31日
課税方法 申告内容などを基に自治体が価格と税額を決定 賦課課税方式
税率 地方税法上の標準税率は1.4%。適用税率は自治体条例を確認 標準税率

法人税申告書の減価償却明細を税務署へ提出しても、償却資産申告をしたことにはなりません。提出先と制度が異なるためです。償却資産の定義、標準税率、免税点、賦課期日および申告義務は、e-Gov法令検索「地方税法」の第341条、第350条、第351条、第359条および第383条で確認できます。

2.令和9年度から償却資産の免税点は180万円

令和8年法律第2号により、償却資産にかかる固定資産税の免税点は、令和9年度分から180万円へ引き上げられました。

適用年度 償却資産の免税点
令和8年度分まで 課税標準額が150万円未満
令和9年度分以後 課税標準額が180万円未満

免税点改正の施行日は2027年4月1日で、改正後の地方税法第351条は令和9年度分以後の固定資産税に適用されます。改正文、施行日および適用年度は、参議院掲載の「地方税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第2号)」第1条、附則第1条第3号および附則第14条第2項で確認できます。

令和9年度申告では、2027年1月1日現在の所有状況を申告します。2027年1月31日は日曜日であるため、一般的な期限計算では翌日の2027年2月1日(月)が期限となりますが、提出先、受付期限、様式および添付書類は資産所在地の自治体が公表する令和9年度版の案内で最終確認してください。

免税点を理解するための注意点

  • 取得価額ではなく、申告先の課税単位における課税標準額の合計で判定します。指定都市の区など、集計単位に注意が必要な場合があるため、自治体の手引を確認します。
  • 資産1個ごとに180万円未満かどうかを判定する制度ではありません。
  • 180万円を控除して残額へ課税する制度ではありません。免税点以上の場合は、原則として課税標準額全体が税額計算の基礎になります。
  • 免税点未満と見込まれても、償却資産の所有者には原則として申告が必要です。
  • 地方税法第351条ただし書に基づく条例上の取扱いもあるため、申告先自治体の条例と手引を確認します。

3.申告対象になる資産・ならない資産

区分 主な例 基本判定
構築物 駐車場舗装、門、塀、広告塔、外構、テナント施工の内装・造作など 対象になり得る
機械・装置 製造設備、加工機械、発電設備、機械式駐車設備など 対象
船舶・航空機 事業用船舶、飛行機、ヘリコプターなど 対象
車両・運搬具 大型特殊自動車など 対象になり得る
工具・器具・備品 パソコン、机、椅子、陳列棚、冷蔵庫、医療機器、看板など 対象
土地・家屋 土地、固定資産税上の家屋として評価される建物や設備 償却資産申告の対象外
無形固定資産 ソフトウェア、特許権、商標権、営業権など 対象外
棚卸資産 販売目的の商品、製品、原材料など 対象外
自動車税・軽自動車税の対象車両 普通自動車、軽自動車、小型特殊自動車など 対象外

建物附属設備は判断を誤りやすい分野です。家屋と一体で評価される設備がある一方、特定の生産・業務用設備や、賃借人が取り付けた内装・造作などは償却資産になる場合があります。名称だけで決めず、所有者、用途、施工内容および家屋との一体性を確認します。具体例は東京都主税局「固定資産税(償却資産)」で確認できます。自治体によって取扱いが異なる場合がある点にも注意してください。

4.国税の少額資産と同じ判定をしない

法人税・所得税で早期に費用化できるかどうかと、固定資産税の申告対象になるかどうかは別の問題です。

国税上の処理 固定資産税の基本的な取扱い 注意点
使用可能期間1年未満または取得価額10万円未満の資産を、法人税法・所得税法の規定により一時に損金または必要経費へ算入 対象外 個別に減価償却資産として計上した場合は対象になり得る
取得価額20万円未満の資産について3年間の一括償却を選択 対象外 通常の耐用年数で個別償却した場合は対象
中小企業者等の少額減価償却資産の特例により全額を損金または必要経費へ算入 対象 国税で即時に費用化しても、固定資産税では除外されない
通常の減価償却 対象 帳簿価額が少額または1円でも対象になり得る

中小企業者等の少額減価償却資産の特例では、一定の要件を満たす場合、2026年4月1日以後に取得等をした取得価額10万円以上40万円未満の資産が対象になります。2026年3月31日以前の取得分は30万円未満でした。年間合計300万円までという上限などもあり、法人と個人では適用要件をそれぞれ確認する必要があります。詳細は、国税庁の「減価償却のあらまし」、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」および「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」を確認してください。

例えば、要件を満たす法人が2026年6月に取得した35万円のパソコンをこの特例で全額損金算入しても、それだけを理由に償却資産申告から除外することはできません。他の除外要件に該当しなければ申告対象です。

5.1月1日現在の資産を帳簿から拾う

申告書へ直接転記する前に、前年度の申告明細と固定資産台帳を照合します。

前年度の申告資産 + 増加資産 - 減少資産 = 1月1日現在の申告候補資産

確認資料 確認する内容
前年度の種類別明細書 前年まで申告していた資産と資産番号
固定資産台帳・減価償却明細 取得年月、取得価額、耐用年数、除却状況
固定資産勘定の総勘定元帳 前年中の取得、売却、除却、他拠点への移動
請求書・契約書・工事明細 資産の内容、取得価額に含まれる付随費用、内装工事の内訳
廃棄・売却記録 1月1日より前に所有しなくなった事実
拠点別の資産一覧 申告先となる市町村と実際の設置場所

年末年始の判定

1月1日現在の状況 基本判定 理由
12月中に取得し、事業に使用できる状態にある 対象 取得月にかかわらず1月1日に所有している
1月2日に取得し、1月1日には所有していない 当年度は対象外 賦課期日後の取得
12月31日までに売却または廃棄が完了している 対象外 1月1日に所有していない
1月2日に廃棄した 対象 1月1日には所有している
減価償却済みだが、現在も使用できる 対象 帳簿価額と申告対象の判定は別
休止中だが、いつでも事業に使用できる 対象 現に事業の用に供することができる状態にある

6.評価額と税額の計算

償却資産の評価は、取得年月、取得価額および耐用年数に応じて一品ごとに行います。耐用年数に対応する減価率を「r」とした基本式は次のとおりです。

  • 前年中に取得した資産:取得価額 ×(1-r÷2)
  • 前年前に取得した資産:前年度評価額 ×(1-r)
  • 算出額が取得価額の5%を下回る場合:取得価額の5%を評価額とする

前年中に取得した資産は、取得月にかかわらず半年分の減価を反映します。法人税・所得税の月割計算とは異なるため、会計上または国税上の帳簿価額を、そのまま固定資産税の評価額として使うことはできません。

税額 = 課税標準額 × 適用税率

課税標準額は、原則として資産の評価額を合計し、課税標準の特例がある場合はその特例を反映して求めます。端数処理や適用税率は自治体の条例と手引を確認してください。例えば横浜市の公表資料では、課税標準額の1,000円未満と税額の100円未満を切り捨てる取扱いが示されています。

令和9年度の計算例

次の前提で、評価額から税額までを計算します。

取得日 2026年7月1日
資産 事務用備品
取得価額 2,400,000円
耐用年数 8年
固定資産評価上の減価率 0.250
課税標準の特例 なし
同じ課税単位内の他の償却資産 なし
税率 標準税率1.4%を使用

評価額
2,400,000円 ×(1-0.250÷2)=2,100,000円

免税点の判定
2,100,000円は令和9年度の免税点1,800,000円以上であるため、この前提では課税対象になります。

税額
2,100,000円 × 1.4% = 29,400円

この例では課税標準額と税額に切捨て対象となる端数がありません。免税点との差額30万円に税率を掛けるのではなく、課税標準額210万円全体を基に計算します。

7.帳簿価額と固定資産税評価額を区別する

同じ資産でも、会計上の帳簿価額と固定資産税の評価額は別々に計算します。前記の備品について、消費税等を考慮せず、会計上は定額法、償却率0.125、残存価額0円、2026年7月から12月までの6か月を償却するものと仮定します。

日付・内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
2026年7月1日・備品取得 備品 2,400,000円 普通預金 2,400,000円
2026年12月31日・減価償却 減価償却費 150,000円 減価償却累計額 150,000円

減価償却費は、2,400,000円 × 0.125 × 6か月÷12か月=150,000円です。2026年12月31日現在の残高は次のようになります。

  • 備品:借方残高2,400,000円
  • 減価償却累計額:貸方残高150,000円
  • 帳簿価額:2,400,000円-150,000円=2,250,000円

一方、2027年1月1日を基準とする固定資産税評価額は2,100,000円です。帳簿価額との差額150,000円を仕訳で調整することはありません。償却資産申告書の提出や評価額の計算だけを理由とする仕訳も不要です。

賦課決定時と納付時の仕訳

前記の前提による固定資産税29,400円について、納税通知書の到達により債務を計上し、その後に普通預金から全額を納付する場合は次のとおりです。

内容 借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
賦課決定による計上 租税公課 29,400円 未払金 29,400円
普通預金から納付 未払金 29,400円 普通預金 29,400円

賦課決定時には未払金の貸方残高が29,400円となり、納付時に借方へ同額を計上することで残高は0円になります。租税公課は29,400円増加し、普通預金は29,400円減少します。各仕訳の借方金額と貸方金額は一致しています。

法人が負担する固定資産税は、原則として賦課決定のあった事業年度の損金です。ただし、納期の開始日または実際の納付日の属する事業年度に損金経理した場合は、その事業年度の損金とする取扱いがあります。詳細は国税庁「租税公課等の損金算入の可否と租税の損金算入時期」を確認してください。個人事業者の必要経費算入時期は、国税庁「固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合」で確認できます。

8.申告作業の順番

  1. 資産所在地を分ける:本店、支店、店舗、工場などの所在地ごとに申告先を確認します。
  2. 前年度明細を起点にする:前年の申告資産へ、取得、売却、除却および移動を反映します。
  3. 対象・対象外を判定する:少額資産、ソフトウェア、車両および内装工事を重点的に確認します。
  4. 1月1日現在で締める:年末取得と年始売却・除却の時期を取り違えないようにします。
  5. 申告書と種類別明細書を作る:取得年月、取得価額、耐用年数および増減理由などを転記します。
  6. 特例資料を確認する:課税標準の特例を受ける場合は、自治体指定の記載方法と添付書類を確認します。
  7. 期限までに提出する:紙またはeLTAXなど、自治体が案内する方法で提出し、提出控えを保存します。

提出前チェック

  • 前年度の申告資産に当年中の増加・減少を正しく反映した
  • 取得価額、取得年月および耐用年数を請求書や台帳と照合した
  • 除却資産について、廃棄日や売却日を確認した
  • 償却済みでも使用中または使用可能な資産を除外していない
  • 中小企業者等の少額減価償却資産の特例と3年一括償却を区別した
  • ソフトウェアをパソコンなどの有形資産と分けた
  • 複数の市町村に所在する資産を本店所在地へまとめていない
  • 免税点未満という理由だけで申告を省略していない

9.短い判定練習

資産と処理 基本判定 理由
2026年6月取得の35万円のパソコンを、中小企業者等の特例で全額損金算入 対象 国税上の特例による費用化だけでは、固定資産税の対象から除外されない
18万円の事務机を3年間の一括償却資産として処理 対象外 法人税法・所得税法の規定による一括償却資産は除外される
減価償却が終了したまま使用している製造機械 対象 事業に使用できる状態なら、償却済みでも対象になる
50万円の業務用ソフトウェア 対象外 無形固定資産に該当する
自動車税の対象となる普通乗用車 対象外 自動車税の課税対象となる自動車は償却資産から除かれる

10.続けるための週次メニュー

  1. 固定資産台帳から5件を選び、「対象・対象外・要確認」に分類する。
  2. 前年度明細と前年中の増減資産を、1つの申告先について照合する。
  3. 取得価額と耐用年数を使い、評価額を1件だけ手計算する。
  4. 「免税点未満でも申告義務は別」「国税で即時費用化しても対象になる場合がある」「帳簿価額と評価額は別」の3点を説明する。

一度に全資産を覚える必要はありません。対象判定、台帳照合、評価計算を少数の資産で繰り返すと、申告書と簿記のつながりを確認しやすくなります。

まとめ

  • 償却資産の所有者は、原則として毎年1月1日現在の状況を資産所在地の自治体へ申告する。
  • 令和9年度分以後の償却資産の免税点は180万円だが、免税点未満でも申告義務は別に判定する。
  • 国税の少額減価償却資産の特例で全額を損金または必要経費にした資産でも、固定資産税では申告対象になり得る。
  • 帳簿価額と固定資産税評価額は別計算であり、評価額と帳簿価額との差額を仕訳で調整しない。
  • 適用税率、課税標準の特例、集計単位、提出期限および添付書類は資産所在地の自治体資料で最終確認する。

主な一次資料

実際の申告では、資産所在地の自治体が公表する最新年度の申告手引、条例および申告書様式を優先してください。判断が難しい資産や契約については、自治体の償却資産担当部署または税理士へ個別に確認してください。

第186回 地方税ゼロ入門:法人住民税・事業税の仕組みと申告ポイントを表でやさしく整理(続けられる週次チェック付き)

読了所要時間: 約8〜12分

学習の初期は「法人税は何とか分かってきたが、地方税になるとルールや仕訳の順序が混乱する」という声をよく聞きます。本記事では法人住民税・事業税という“次に押さえるべき地方税”を、表を中心に整理して実務と試験の結びつきを分かりやすく示します。少しずつ続けられる週次メニューも付け、挫折しにくい学習を目指します。

地方税の全体像(まずは俯瞰)

以下は主要な法人向け地方税を要点でまとめた表です。計算の起点(課税標準)や申告のタイミングが、一目で分かるようにしています。

税目 対象 課税標準 主な計算式 税率(目安) 申告期限
法人住民税(法人税割+均等割) 法人税額および事務所等の規模 法人税割は基本的に法人税額、均等割は資本金等の額・従業員数等を基礎とする 法人税割:法人税額×税率/均等割:資本金等の額・従業員数等に応じた定額 法人税割:都道府県+市区町村合計で数%/均等割:標準額あり 原則として事業年度終了日の翌日から2か月以内(延長等の例外あり)
事業税(所得割/外形標準課税等) 事業を行う法人の所得等 所得金額(外形は付加価値・資本等) 事業税額=課税標準×率(業種別)/外形は別途計算 業種により3〜7%程度(外形標準は別基準) 原則として事業年度終了日の翌日から2か月以内(延長等の例外あり)

法人住民税の計算と仕訳

法人住民税は、基本的に法人税額を課税標準とする法人税割と、資本金等の額・従業員数等に応じて課される均等割から構成されます。決算日時点では申告税額が確定前のため、法人税割と均等割を含む見積額を未払計上する点が重要です。

下表は計算フローと仕訳例です。決算時の見積額を80,000円、その後の確定額を85,000円としています。

手順 説明 仕訳(例)
1. 税額の概算見積 決算時点で、法人税額を基礎とする法人税割と均等割を含む概算税額を見積もる(確定前) (借)法人税、住民税及び事業税 80,000
(貸)未払法人税等 80,000
2. 確定後の調整 確定税額85,000円と見積額80,000円との差額5,000円について、費用と未払額を増額する (借)法人税、住民税及び事業税 5,000
(貸)未払法人税等 5,000
3. 納付時 確定した未払税額を自治体へ納付する (借)未払法人税等 85,000
(貸)現金預金 85,000

税額控除等がある場合は申告時の税額計算に反映し、そこで確定した未払税額を納付時に取り崩します。

事業税の計算と仕訳

事業税には所得割(所得ベース)と外形標準課税があります。所得割は所得金額に必要な調整を行って計算し、外形標準課税の付加価値割・資本割は付加価値額や資本金等の額を基準に計算します。勘定科目については、所得割を「法人税、住民税及び事業税」等、付加価値割・資本割を「租税公課」等として区分します。

手順 説明 仕訳(例)
1. 所得割の見積 決算時点で所得金額に各種調整を行い、概算税額を算出 (借)法人税、住民税及び事業税 120,000
(貸)未払法人税等 120,000
2. 外形標準課税(該当する場合) 外形標準課税の対象となる場合は、付加価値割・資本割を別途計算 (借)租税公課 200,000
(貸)未払事業税 200,000
3. 確定後の差額修正・納付 確定税額に合わせて未払額を調整し、所得割と外形標準課税分を納付 (借)未払法人税等 120,000
(借)未払事業税 200,000
(貸)現金預金 320,000

よくある誤解とチェックリスト

実務で陥りやすい誤解を整理し、確認すべきポイントを示します。

誤解 実務での影響 チェックポイント
法人税と地方税の税額は常に連動する 法人住民税には法人税割のほかに均等割があり、事業税には所得割や外形標準課税等があるため税額差が生じる 法人税割の課税標準、均等割、外形標準課税の有無と各自治体の税率を確認する
決算で未払がなくても申告で調整は不要 見積不足で後日追徴や利息が発生する可能性 決算で概算を計上し、確定後に差額調整するフローを確立する
事業税はすべて同じ勘定科目で処理する 所得割と付加価値割・資本割の会計上の区分を誤る可能性がある 所得割は「法人税、住民税及び事業税」等、付加価値割・資本割は「租税公課」等として区分する
  • 決算時:法人税割と均等割を含め、法人住民税の概算を計上しているか
  • 申告時:各自治体の申告書様式・添付書類を確認しているか
  • 納付時:事業年度終了日を基準とした申告・納付期限を確認しているか

試験出題ポイント対応表(税理士試験との接続)

試験で問われやすい論点と学習上の対応をまとめます。過去問練習に進む前にチェックしてください。

論点 狙われやすい切り口 学習対策
課税標準の基準 法人住民税の法人税割、均等割、事業税の所得割等における課税標準の違い 法人税割は基本的に法人税額、均等割は資本金等の額・従業員数等、事業税の所得割は所得金額を基礎とする点を整理する
地方税の税額調整 均等割・法人税割・外形それぞれの計算過程 典型例で計算演習を行い、仕訳と申告書記載を確認する
外形標準課税の基礎 付加価値額、資本割の計算・適用除外規定 算式を暗記せず、要素ごとに数値計算の練習を重ねる

過去問練習は以下からどうぞ:
第183回(法人税の所得と調整)/
第184回(法人税申告の実務)/
第185回(税務調査の基礎)

週次で続ける学習メニュー(5分チェック表付き)

継続しやすさを重視した、週次→月次→期末の三段階メニューです。まずは週1回、5分で確認する習慣をつけましょう。

項目 確認内容 所要時間
5分チェック(週) 決算フローの一行確認・事業年度終了日を基準とした申告期限カレンダーを見る・仕訳1問を解く 5分
月次確認 未払計上の残高確認・地方税に関する注記事項の整理 20〜30分
期末準備 概算計算・外形該当判定・申告書のドラフト作成 1〜2時間
  • 週1回は「仕訳1問」を解く習慣をつける(記事内の練習問題を活用)
  • 月次では自治体ごとの税率表を更新する(重要)
  • 期末は外形の該当性を早めに判定しておくと負担が減る

練習問題(簡単な計算例)と解説

以下は決算日時点で税額が確定していないケースの練習問題です。解答では決算時の見積計上と確定後の差額調整まで示します。

【問題】決算日時点で、法人税額を課税標準とする法人税割と均等割を合計した法人住民税の概算額は80,000円と見積もられた。決算日時点で未払計上し、後日、確定税額が85,000円となった。仕訳を示しなさい。

【解答の考え方】決算時には概算額80,000円を費用および未払額として計上します。確定額85,000円は見積額より5,000円多いため、確定後に費用と未払額をそれぞれ5,000円増額し、その後85,000円を納付します。

仕訳(決算時)
(借)法人税、住民税及び事業税 80,000
(貸)未払法人税等 80,000

仕訳(確定後の修正)
(借)法人税、住民税及び事業税 5,000
(貸)未払法人税等 5,000

仕訳(納付時)
(借)未払法人税等 85,000
(貸)現金預金 85,000

まとめ・次に学ぶべき項目

地方税は、法人住民税の法人税割が基本的に法人税額を課税標準とする一方、均等割や事業税の所得割、外形標準課税など、それぞれ異なる基準があります。決算時の見積計上では「法人税、住民税及び事業税」等の適切な勘定科目を使い、確定額が見積額を上回る場合は費用と未払額を増額することが重要です。本記事の表を繰り返し確認し、週1回の「5分チェック」を習慣化してください。

次回の学習案内(連続学習案):法人税の細かな税務調整や申告書への記載方法を深めると地方税の理解がさらに定着します。関連回:
第183回 → 第184回 → 第185回 の順で復習すると接続がよいでしょう。

この記事を基に、まずは「決算時の概算見積を1問解く」ことから始めてください。継続が力になります。