日別アーカイブ: 2026年7月15日

第126回 キャッシュ・フロー計算書ゼロ入門:作成の流れと試算表とのつながりを表でやさしく整理(続けられる学習メニュー付き)

会計処理と現金の増減が一致しない──初学者がつまずきやすい典型です。帳簿上の利益や試算表の残高は正しくても、決算日に現金残高が想定と違うと混乱します。本稿では、試算表から間接法でキャッシュ・フロー計算書(CF)を作る手順を、表を中心に段階的に整理します。実務と試験でよく出る論点(減価償却、棚卸資産、引当金など)とのつながりも明示し、次に何をすべきかが分かる設計にしています。

キャッシュ・フロー計算書の3区分とは(簡潔に)

CFは現金の「発生源」と「使途」を区分して示します。試験でもこの区別を前提に論点が出ます。

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF): 本業の現金収支。試算表の利益をベースに調整して作ります(間接法が一般的)。
  • 投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF): 固定資産の取得・処分、投資有価証券の取得・処分など。
  • 財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF): 借入・返済、株主への配当など。

試算表→間接法キャッシュフロー作成の全体フロー(ステップ表)

まずは作業の全体像を把握しましょう。以下は手順をチェックリスト化した表です。

ステップ 作業内容 試算表で注目する科目 CF上の区分
1 当期純利益(損益)を確認 損益計算書の当期純利益 営業CF(間接法の出発点)
2 非現金項目を加減算 減価償却費、引当金繰入など(損益科目) 営業CFへ調整(加算・控除)
3 運転資本の増減を反映 売掛金・買掛金・棚卸資産・前受金・前払金 営業CFへ調整(増加はマイナス等)
4 投資・財務の現金収支を抽出 固定資産、長期借入金、配当金等 投資CF・財務CFへ記入
5 現金及び現金同等物の期首・期末差異を確認 現金預金の期首・期末残高 CF合計と一致するか検証

読み方: 上から順に進めれば、損益→非現金調整→運転資本→投資・財務の順でCFが出来上がります。次にやること(1行): 試算表と損益計算書を手元に置いてステップ1から実際に当期純利益を書き出してください。

主要調整項目の対応表(原因・仕訳・営業CFへの影響)

ここでは試験で頻出する調整項目を、原因と代表的な仕訳、営業CFへの影響で整理します。

項目 原因(決算時点の未提供/未経過など) 代表的な仕訳(決算時点) 営業CFへの影響 試験上の論点
減価償却 現金支出なしで費用計上(非現金) 減価償却費 / 減価償却累計額(帳簿計上) 営業CFに加算(非現金費用の戻し) 費用の非現金性・耐用年数の取扱い
引当金の増減 将来支出に備えて費用化(現金は未払い) 貸倒引当金繰入 / 貸倒引当金(負債) 増加は営業CFに加算(費用だが現金未払い) 引当金の会計基準・見積りの妥当性
棚卸資産の増減 仕入れや販売のタイミング差(在庫増は現金使用) 棚卸資産 / 仕入(期末増加の場合) 棚卸資産増加は営業CFでマイナス(現金は出ている) 期末棚卸の評価方法(先入先出法等)
売掛金の増減 売上は計上済だが回収前(未回収) 売掛金 / 売上(売上計上、未回収) 売掛金増加は営業CFでマイナス(現金未回収) 与信管理と回収期間の変動
買掛金の増減 仕入は計上済だが支払前(未払) 仕入 / 買掛金(仕入計上、支払未了) 買掛金増加は営業CFでプラス(支払が先送り) 支払サイトの変更がCFに与える影響
前受金・前払金 現金と収益/費用の認識タイミング差 現金 / 前受金(前受収益)/前払金 / 現金(前払) 前受金増加は営業CFでプラス、前払金増加はマイナス 収益認識とキャッシュの受払いタイミング

読み方: 各項目は「帳簿上の費用・収益」と「現金の有無」を分けて考えると整理しやすいです。次にやること(1行): あなたの直近の試算表から上位3つの変動(売掛金・棚卸・減価償却等)を選び、影響をメモしてください。

用語対照表(会計用語 ⇄ CF上の表現)

会計用語 CF上の表現 例(短文)
当期純利益 営業CFの出発点(間接法) 損益での利益をベースに非現金項目等を調整する
減価償却費 営業CFに加算する非現金費用 費用だが現金は期初に支出済み(または分割)
売掛金 運転資本の増減(営業CF調整項目) 売上計上したが未入金の金額が増えれば営業CFはマイナス
固定資産取得 投資CFでの支出 機械を現金で購入した場合は投資CFのマイナス

読み方: 左の会計語を右のCF表現に置き換えて考える癖をつけると、試験問題での判断が速くなります。次にやること(1行): 日常的に出会う用語3つを対照表で対応づけてメモする習慣をつけましょう。

具体的な仕訳からCFへ転記する例(順を追う)

以下は代表的な仕訳を例に、どの科目を見て間接法のどこに反映するかを示した表です。決算日時点で「何が未提供・未経過」かを注記しています。

仕訳(要点) 試算表の該当科目 間接法での調整欄 CF区分(営業/投資/財務)
減価償却費計上:減価償却費 / 減価償却累計額(現金支出なし) 減価償却費(損益)・累計額(貸借対照表) 減価償却費を当期純利益に加算 営業(非現金調整)
売上計上だが未回収:売掛金増加(売掛金 / 売上) 売掛金(資産)・売上(損益) 売掛金増加を当期純利益から差し引く 営業(運転資本調整)
仕入(現金支出済だが在庫増):棚卸資産増加 棚卸資産(資産)・仕入(損益) 棚卸資産増加を当期純利益から差し引く 営業(運転資本調整)
固定資産購入(現金減):有形固定資産 / 現金 有形固定資産(資産)・現金(資産) 投資CFに取得原価のマイナスを計上 投資(固定資産取得)
借入金返済(元本):長期借入金減少 / 現金減少 長期借入金(負債)・現金(資産) 財務CFに返済額のマイナス 財務(返済)

読み方: 仕訳の「現金増減」が含まれると投資/財務へ、含まれない(非現金)は営業の調整へ振り分けます。次にやること(1行): 手元の1件の仕訳(例:売掛金増加)を使って、どのCF区分に入るか書いてみてください。

短い演習問題(基本)

以下は簡略化した期末の状況です。試算表と仕訳のうち「決算日時点で未提供・未経過となっている点」を意識して、間接法で営業CFを求めてください。

試算表抜粋(当期):

  • 当期純利益:100
  • 減価償却費(当期計上):20(現金支出はなし)
  • 売掛金:期首→期末で20増(売上は計上済だが未回収)
  • 棚卸資産:期首→期末で15増(仕入が現金で払われている場合も含む)
  • 買掛金:期首→期末で10増(支払が先送り)

設問:間接法で営業活動によるキャッシュ・フローを求めよ(簡便に、税金等は無視)。

解答(開く)

計算手順:

当期純利益 100

加算:減価償却費 20(非現金費用)

調整(運転資本の増減):売掛金増加 -20、棚卸資産増加 -15、買掛金増加 +10

営業CF = 100 + 20 – 20 – 15 + 10 = 95

補足(決算日時点の未提供・未経過の明示):売掛金は売上が計上済で回収未了、棚卸増は現金が既に払われている場合もあるが在庫として残っている点に注意(現金の先行支出があるかは試算表の現金科目で確認)。

読み方: まず当期純利益からスタートし、非現金費用は戻し、運転資本の増加は現金流出を意味するのでマイナスとします。次にやること(1行): 上と同じ形式で、あなたの直近の月次試算表1件を用いて営業CFの骨子を作ってみましょう。

続けられる学習メニュー(週次・月次プラン)

短時間で繰り返せるメニューを提示します。継続が重要なので負荷は小さめに設定しています。

頻度 時間 内容
週次(短) 15分 本日の現金差分を確認:現金残高の増減と主な原因をメモする
週次(演習) 30分 間接法で小さな仕訳1件をCFに反映する(減価償却/売掛金増減など)
月次 60分 月次試算表1件からCF(簡易)を作成し、前月差分をレビューする

読み方: 週に小さく触れることで知識が定着します。次にやること(1行): 今週は『15分現金チェック』を1回実行してください。

進捗管理用の簡易表(学習時間・問題数・理解度)

学習時間(分) 問題数(演習) 理解度(自己評価)
第1週 60 4 60%

読み方: 単純なKPIで継続を可視化します。次にやること(1行): 今週分の行をコピーしてあなたの記録を1行追加してください。

まとめ(試験での活用ポイント)

  • CFは「現金の動き」を示す書類。損益と同じ語句が出ても目的が違うことを常に意識する。
  • 間接法では当期純利益を出発点に「非現金項目の戻し」と「運転資本の変動」を行う。減価償却・引当金・棚卸資産・売掛金・買掛金は要チェック。
  • 試験では、仕訳や試算表のどの科目がCFのどの欄に影響するかを素早く判断する力が重要。用語対照表とステップ表を覚えておくと有利です。
  • 演習は短時間集中を繰り返すこと。実務感覚が身につけば試験の応用問題にも強くなります。

次回の学習ステップ: 「手元の直近試算表で、ステップ表に沿って間接法による営業CFの下書きを作る(所要時間60分)」をおすすめします。この記事で示した表をテンプレートとして使い、まずは1件を完成させましょう。