本稿は、給与および賞与に関する基本的な仕訳と決算時の取扱いに論点を絞り、税理士を目指す初学者向けに誤解のない簡潔な解説を行います。前払・前受、福利厚生の外注やWordPress用テンプレート、架空の数値例等の余分な論点は除外します。新しい事実は推測せず、一般的な会計処理の原則に基づいて整理します。
基本的な考え方(要点)
- 給与・賞与は「労務提供に対する対価」。決算日において、当該労務が提供済であり会社に支払義務(債務)があるならば費用と負債を計上する。
- 「預り金」は従業員から一時的に預かっている税金や社会保険料であり、会社の費用ではなく負債として扱う。預り金は、会社が従業員から控除し「実際に預かった」時点で計上する点を明確にする。
- 源泉所得税(給与税)の処理は、原則として給与等を支給し、従業員から控除した時点で「預り金(源泉所得税)」として計上し、所定の期限に納付する。支払前に預り金を計上する運用は行わないことを基本とする。
- 未払給与は決算日までの労務提供に対応する未払債務のみを対象とする。賞与の未払は、会計上の認識条件を満たす具体的状況(社内手続きで支給義務が形式的に確定している等)に限定して計上する。決算日後に支給が確定した場合は、原則としてその期の未払には含めない。
代表的な仕訳(基本パターン)
| 状況 | 仕訳(借方 / 貸方) |
|---|---|
| 給与を支払った時(支給時) | 給与手当(総支給額) / 普通預金(差引支給額) / 預り金(源泉所得税) / 預り金(社会保険料) |
| 決算時に未払給与がある場合(労務提供済かつ支払義務あり) | 給与手当 / 未払給与 |
| 会社負担の社会保険料(当月分)を費用計上し未払の場合 | 法定福利費 / 未払社会保険料 |
| 賞与について決算日までに支給義務が形式的に確定しているが未払いの場合 | 賞与 / 未払賞与 |
| 源泉所得税の納付時 | 預り金(源泉所得税) / 普通預金(納付額) |
仕訳のポイントと留意点(詳述)
- 給与支給時の借方「給与手当」は必ず総支給額(控除前の額)で示すこと。貸方の構成は、(1)従業員に実際に支払う差引支給額=普通預金等、(2)従業員から控除した源泉所得税=預り金(源泉所得税)、(3)従業員負担の社会保険料=預り金(社会保険料)であり、三者の合計が借方の給与手当と一致する。
- 未払給与は「決算日までの労務提供に対応する債務」のみを対象とするため、未払給与の仕訳は総支給額ベースで行う(給与手当/未払給与)。ここで重要なのは、未払給与の計上は控除の有無にかかわらず労務提供に対応する金額で判断する点である。
- 従業員負担分(源泉所得税・社会保険料)は、会社が従業員から実際に控除した時点で預り金として計上する。したがって、支給前に預り金を計上することは基本的に行わない。決算時に控除済で税務署等へ未納の分があれば、その控除済の金額を預り金として負債計上する(納付時に預り金/普通預金で取り崩す)。
- 会社負担分の社会保険料は会社の費用(法定福利費等)であり、未払であれば未払社会保険料等で負債計上する点を混同しない。従業員負担分とは性質が異なる。
- 賞与の未払計上は慎重を要する。一般的な考え方は、支給の「社内における形式的確定」(例:取締役会決議、給与規程に基づく確定した支給決定及び従業員への通知等)がある場合に限り、決算時に未払賞与として計上する。逆に、決算日後に支給が初めて確定した場合は、その期の未払としては計上しない。
源泉所得税の納付期限等(簡潔に)
給与から控除した源泉所得税は、原則として翌月10日までに納付します。ただし、従業員数等に応じて納付期限をまとめる「納期の特例」があり得ます(本稿では制度の細部は扱いません)。決算で控除済み分が未納であれば預り金として負債に計上し、納付時に取り崩します。
年末調整と住宅借入金等特別控除(要点のみ)
- 年末調整はその年分の給与に係る所得税の過不足を精算する手続きであり、年内で還付・追徴が確定した金額は発生時点で預り金の調整等を行う。
- 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、原則として初年度は確定申告が必要で、2年目以降は所定の書類により年末調整で反映できる場合がある、という範囲に留めます。制度の細部や要件の判断はここでは扱いません。
決算チェックリスト(実務上の注意)
- 決算日までに提供された労務分の給与が未払いであれば、未払給与で計上しているか(総額ベースでの認識)。
- 賞与について、社内で支給が形式的に確定している場合のみ未払賞与を計上しているか。決算日後の決定は当期未払にしないか。
- 給与支給時に控除した源泉所得税・従業員負担の社会保険料は預り金で計上し、控除済みで未納の分は負債として残しているか。
- 会社負担の社会保険料は法定福利費等として計上し、未払があれば未払科目で処理しているか。
- 年末調整での未確定項目(控除証明の未提出等)を決算で誤って確定処理にしていないか。
まとめ
給与・賞与の会計処理の核は、「労務提供の有無」と「支払義務の有無」を切り分けることです。給与は支給時に借方で総額を計上し(給与手当)、貸方で差引支給額と預り金(源泉・社会保険)とが一致するように処理します。未払給与は決算日までの労務提供に対応する債務のみを対象とし、賞与の未払は社内で支給義務が具体的に確定している場合に限定して計上します。源泉所得税は給与等を実際に支給し控除した時点で預り金とし、納付時に取り崩す点を基本ルールとして押さえてください。
本稿は基本的仕訳に論点を限定しています。実務では個別の事実関係(決定の根拠、通知状況、労務の確定時期等)により判断が分かれることがあるため、具体事例では都度確認してください。
