第63回 源泉徴収と給与会計入門:仕訳・納付・支払調書を整理する

給与に関する会計処理では、「給与の仕訳」「源泉所得税の預り金処理」「納付期限」「支払調書・法定調書」など、いくつかの論点がつながって出てきます。ひとつひとつは難しくなくても、決算時の未払処理や、源泉税の納付スケジュールと結びつくと、混乱しやすいところです。

今回は、源泉徴収と給与会計の基本を、仕訳・納付・支払調書の流れに分けて整理します。試験で確認すべきポイントも、最後にチェック表としてまとめておきます。

1. 基本の用語を整理する

まず、給与会計でよく出てくる用語を確認しておきましょう。給与、源泉所得税、社会保険料、未払給与などは、それぞれ会計上の扱いが異なります。

用語 意味 決算での扱い
給与 従業員に対する勤務の対価 決算日時点で勤務済み・未支給なら未払給与として負債計上
賞与 勤務期間や業績に応じて支給される臨時的な給与 支給が確定して未払いなら未払賞与、見積計上なら賞与引当金を検討
源泉所得税 給与等から差し引き、会社が預かって納付する所得税 控除済みで未納なら預り金として負債計上
社会保険料(従業員負担分) 従業員の給与から控除する健康保険・厚生年金等 控除済みで未納なら預り金として処理
社会保険料(会社負担分) 会社が負担する社会保険料 法定福利費として費用計上し、未払いなら未払費用等で処理

2. 給与支払時の基本仕訳

給与を支払うときは、給与総額をそのまま従業員に支払うわけではありません。源泉所得税や社会保険料の従業員負担分を控除し、差引支給額を支払います。

たとえば、次のようなケースを考えます。

項目 金額
給与総額 300,000円
源泉所得税 10,000円
社会保険料(従業員負担分) 30,000円
差引支給額 260,000円

この場合の仕訳は、次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
給与手当 300,000 預り金(源泉所得税) 10,000
預り金(社会保険料) 30,000
普通預金 260,000

ポイントは、源泉所得税や社会保険料の従業員負担分は、会社の費用ではなく「従業員から預かったもの」として処理することです。そのため、貸方に預り金が出てきます。

3. 社会保険料の会社負担分

社会保険料には、従業員負担分と会社負担分があります。従業員負担分は給与から控除しますが、会社負担分は会社の費用です。

会社負担分50,000円を支払った場合は、次のように処理します。

借方 金額 貸方 金額
法定福利費 50,000 普通預金 50,000

給与の仕訳と社会保険料の仕訳を一緒に考えるときは、「従業員から預かった分」と「会社が負担する分」を分けて考えることが大切です。

4. 決算時の未払給与

決算日までに勤務は終わっているが、給与の支給日は翌期になる、ということがあります。この場合、当期に発生した給与費用として計上し、まだ支払っていない分を未払給与として処理します。

たとえば、決算日時点で200,000円分の給与が未払いである場合は、次のように仕訳します。

借方 金額 貸方 金額
給与手当 200,000 未払給与 200,000

ここで大切なのは、支払ったかどうかではなく、当期に発生した費用かどうかです。給与の締日と支給日が決算日をまたぐ場合は、未払給与の処理に注意します。

5. 賞与と賞与引当金

賞与については、支給が確定しているかどうかで処理が変わります。支給額が確定しており、まだ支払っていない場合は未払賞与として処理します。

借方 金額 貸方 金額
賞与 500,000 未払賞与 500,000

一方、支給額はまだ確定していないものの、将来の賞与支給に備えて当期に負担すべき金額を見積もる場合には、賞与引当金を使うことがあります。

試験では、「支給確定なら未払賞与」「見積計上なら賞与引当金」と整理しておくと判断しやすくなります。

6. 源泉所得税の考え方

源泉所得税は、会社が従業員の給与から差し引き、税務署に納付する税金です。会社が負担する税金ではなく、従業員から預かって納付するものです。

したがって、給与支給時には預り金として処理し、納付時にその預り金を減らします。

給与支給時の仕訳は、先ほどの通りです。

借方 金額 貸方 金額
給与手当 300,000 預り金(源泉所得税) 10,000
預り金(社会保険料) 30,000
普通預金 260,000

そして、源泉所得税10,000円を納付したときは、次のように処理します。

借方 金額 貸方 金額
預り金(源泉所得税) 10,000 普通預金 10,000

この仕訳によって、給与支給時に計上した預り金が消えます。

7. 源泉所得税の計算の流れ

源泉所得税の計算では、給与総額から社会保険料などを差し引いた金額をもとに、源泉徴収税額表を使って税額を求めます。

項目 金額例 確認ポイント
給与総額 300,000円 当月の総支給額を確認する
社会保険料等 30,000円 給与から控除する金額を確認する
課税対象額 270,000円 給与総額から社会保険料等を差し引く
源泉所得税 税額表により算定 扶養親族等の数にも注意する

試験問題では、単純に給与総額に税率をかけるのではなく、社会保険料等を控除した後の金額を使う点に注意します。

8. 源泉所得税の納付期限

給与から差し引いた源泉所得税は、原則として、給与を支払った月の翌月10日までに納付します。

区分 納付期限 注意点
原則 給与支払月の翌月10日まで 毎月納付する
納期の特例 1月〜6月分を7月10日、7月〜12月分を翌年1月20日まで 一定の小規模事業者が対象

納期の特例が適用されている場合、毎月納付ではなく、年2回の納付になります。試験では、問題文に「納期の特例の承認を受けている」などの条件があるかどうかを必ず確認します。

9. 支払調書・法定調書の基本

給与や報酬の支払いに関しては、年末から翌年1月にかけて、さまざまな書類の作成・提出が必要になります。

書類 提出先 内容
給与支払報告書 市区町村 従業員の給与支払額などを報告する
源泉徴収票 従業員・税務署 年間の給与額や源泉徴収税額を記載する
支払調書 税務署 報酬・料金等の支払額や源泉徴収税額を記載する
法定調書合計表 税務署 各種法定調書の合計をまとめる

ここで注意したいのは、給与に関する書類と、外部の個人事業主などに支払った報酬に関する書類を混同しないことです。

給与については源泉徴収票や給与支払報告書が中心になります。一方、税理士、弁護士、講師、原稿料などの報酬については、支払調書が関係してきます。

10. 支払調書で確認するポイント

支払調書では、支払先、支払金額、源泉徴収税額、支払の区分などを正しく記載する必要があります。

確認項目 見るべきポイント
支払先 個人か法人か、氏名・住所・マイナンバー等が正しいか
支払金額 年間の支払額が正しく集計されているか
源泉徴収税額 実際に控除した源泉税額と一致しているか
支払区分 報酬、料金、契約金、賞金などの区分が正しいか
合計表との整合 支払調書の合計と法定調書合計表が一致しているか

実務では、支払先ごとの年間集計を早めに確認しておくと、年明けの作業がスムーズになります。

11. 試験で押さえるチェック表

給与会計と源泉徴収は、仕訳、計算、納付期限、書類作成がまとめて問われることがあります。次のポイントを整理しておきましょう。

論点 よくあるミス 確認ポイント
給与仕訳 控除額を費用として処理してしまう 源泉所得税・社会保険料の従業員負担分は預り金
未払給与 支払日基準で処理してしまう 勤務済みなら当期の費用として未払計上
賞与 未払賞与と賞与引当金を混同する 支給確定なら未払賞与、見積なら賞与引当金
源泉税計算 給与総額をそのまま課税対象にしてしまう 社会保険料等を控除した後の金額を確認
納付期限 納期の特例を見落とす 原則は翌月10日、特例なら年2回
支払調書 給与関係書類と報酬関係書類を混同する 給与は源泉徴収票・給与支払報告書、報酬は支払調書

12. 短時間で進める学習メニュー

この分野は、一度読んだだけではなかなか定着しません。仕訳、計算、納付期限、書類作成を分けて、少しずつ確認していくと理解しやすくなります。

学習内容 目安時間
1回目 給与仕訳と預り金の考え方を確認する 30分
2回目 未払給与・未払賞与・賞与引当金を整理する 30分
3回目 源泉所得税の計算と納付期限を確認する 30分
4回目 支払調書・法定調書の種類を整理する 30分
5回目 総合問題として、仕訳から納付までを通して確認する 45分

長時間まとめて勉強するよりも、論点を分けて短時間で繰り返す方が、この分野は定着しやすくなります。

まとめ

源泉徴収と給与会計では、給与を支払ったときの仕訳だけでなく、源泉所得税の預り金処理、納付期限、年末の法定調書までを一連の流れとして理解することが大切です。

特に試験では、源泉所得税や社会保険料を「会社の費用」として処理してしまうミス、未払給与と賞与引当金の区別、納期の特例の見落としが起こりやすいところです。

まずは、給与総額、控除額、差引支給額、預り金の関係をしっかり押さえましょう。そのうえで、納付時に預り金が消える流れまで確認できれば、給与会計の基本はかなり整理されます。