第214回 完全子会社清算の欠損金引継ぎゼロ入門:残余財産確定・10年枠・5年継続支配を整理(5日練習付き)

第213回では、債務超過子会社の債権放棄と、子会社が繰越欠損金を使う場面を扱いました。

今回は、清算後も残る税務上の欠損金を親会社が引き継ぐ場面です。

解散しただけでは欠損金は移りません。完全支配関係などの要件を満たした子会社の残余財産が確定すると、その未処理欠損金額が親会社の過年度の欠損金額とみなされます。

1.前回と今回では欠損金を使う会社が違う

項目 第213回 今回
欠損金を使う法人 S社 P社
用途 S社の所得計算で使う P社の所得計算で使う
基準となる時点 S社の各事業年度 S社の残余財産確定日の翌日
欠損金引継ぎの仕訳 ― 仕訳なし

S社がすでに繰越控除した額や、繰戻還付の計算の基礎とした額を、P社がもう一度使うことはできません。引継ぎの対象は、それらを除いた未処理欠損金額です。

2.解散日ではなく残余財産確定日を見る

法人税法14条1項5号・57条2項に沿って日付を並べます。

段階 本設例の日付 意味
解散 設例では省略 清算を始める。解散だけでは欠損金は移らない
残余財産の確定 2026年10月16日 S社の最後事業年度が終了する
確定日の翌日 2026年10月17日 この日が属するP社の事業年度を合併等事業年度とする
P社の合併等事業年度 2026年4月1日~2027年3月31日 要件を満たす欠損金を利用できる最初の事業年度になる

残余財産確定日の翌日が、親会社のどの事業年度に入るかまで確認します。

例えば、子会社の残余財産が3月31日に確定した場合、その翌日は4月1日です。3月決算の親会社では、原則として4月1日から始まる事業年度が合併等事業年度になります。

3.会計上の赤字と未処理欠損金額は別である

項目 意味 引継ぎの扱い
繰越利益剰余金のマイナス 会計上の累積損失 税務上の欠損金額とは一致しない
欠損金額 法人税の所得計算で生じた税務上の赤字 発生年度、申告、保存などの要件を確認する
未処理欠損金額 繰越控除済額や繰戻還付の基礎とした額などを除いた残額 法人税法57条2項・3項などの範囲で引き継ぐ
繰越期間を過ぎた欠損金 通常の繰越控除に使えなくなった欠損金 法人税法57条2項による通常の引継ぎ対象にはならない

国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」では、原則として各事業年度開始日前10年以内に開始した事業年度の欠損金を対象としています。

引継ぎによって、新たな10年が始まるわけではありません。S社で欠損金が生じた年度を基礎として、P社における発生年度と残存期間を判定します。

4.100%・10年・5年を分ける

数字 確認すること 本設例
100% 残余財産確定時に法人税法57条2項所定の完全支配関係があるか P社がS社を直接100%保有している
10年 残余財産確定日の翌日前10年以内に開始したS社の事業年度か 設例の欠損年度はすべて期間内にある
5年 法人税法57条3項による引継制限を受けない継続支配関係があるか 判定期間を通じて支配関係が続いている

5年継続支配の判定では、次の日のうち最も遅い日を起点にします。

  • P社の合併等事業年度開始日の5年前の日
  • P社の設立日
  • S社の設立日

本設例では、最も遅い日は2021年4月1日です。P社とS社の支配関係は2020年4月1日から続いているため、2021年4月1日から残余財産確定日までの継続支配を満たします。

100%は引継ぎの入口です。5年継続支配は、引継ぎから除外される欠損金がないかを判定するための要件です。残余財産確定日に100%保有しているだけで、すべての欠損金を引き継げるとは限りません。

5.未処理欠損金額500を年度別に置く

S社の欠損事業年度 未処理欠損金額 P社で生じたものとみなす事業年度
2022年4月1日~2023年3月31日 250 2022年4月1日~2023年3月31日
2023年4月1日~2024年3月31日 150 2023年4月1日~2024年3月31日
2026年4月1日~2026年10月16日 100 2025年4月1日~2026年3月31日
合計 500 ―

S社の最後事業年度は、P社の合併等事業年度開始日と同じ2026年4月1日に始まっています。

このように、S社の欠損事業年度がP社の合併等事業年度開始日以後に始まる場合、その欠損金は法人税法57条2項後段により、P社の合併等事業年度の前事業年度に生じたものとみなします。

P社自身には、2021年4月1日から2022年3月31日までの事業年度に生じた欠損金100があります。欠損金は古い年度のものから控除します。

順序 欠損金 控除額 控除後所得
控除前 ― ― 800
1 P社自身の欠損金 100 700
2 S社の2022年度分 250 450
3 S社の2023年度分 150 300
4 S社の最後事業年度分 100 200
計算項目 計算 金額
利用可能額 100+250+150+100 600
損金算入限度額 800×100% 800
当期控除額 600と800の少ない額 600
欠損金控除後所得 800-600 200
翌期繰越額 600-600 0

本設例では、利用可能額600をすべて控除し、控除後所得は200、翌期繰越額は0です。

P社が中小法人等事業年度に該当せず、法人税法57条11項のほかの例外にも該当しない場合、2026年10月16日現在の損金算入限度額は欠損金控除前所得の50%です。同じ数値なら限度額と当期控除額は400、控除後所得は400、翌期繰越額は200となります。

6.欠損金の引継ぎ自体に仕訳はない

処理 借方 貸方 金額
未処理欠損金額500の引継ぎ 仕訳なし 仕訳なし ―
法人税申告での欠損金控除600 欠損金控除自体の仕訳なし 欠損金控除自体の仕訳なし ―

欠損金の引継ぎは、法人税法上、P社の過年度の欠損金額とみなす処理です。現金、資産、負債が動く処理ではありません。

したがって、P社の会計上の税引前利益800は変わりません。税務申告上の欠損金控除後所得が200になります。

残余財産の受取りや子会社株式の消滅に関する仕訳は別に必要です。本稿では、第212回・第213回で扱った処理と分けて、欠損金の引継ぎだけを確認しています。

本設例では引き継いだ欠損金を当期中にすべて使うため、期末に残る引継欠損金はありません。法人税等の計上や、未使用額が残る場合の繰延税金資産は別に判定します。

7.5年継続支配を満たさない場合

仮にP社がS社株式を取得した日が2025年4月1日で、それ以前に両社間の支配関係がなかった場合、本設例の5年継続支配は満たしません。

ただし、引継額が自動的にすべて0になるわけではありません。法人税法57条3項と法人税法施行令112条に基づき、次の金額を年度別に計算します。

欠損金の区分 確認すること
支配関係事業年度前の欠損金 引継ぎから除外される額を確認する
支配関係事業年度以後の欠損金 特定資産譲渡等損失額に相当する部分を確認する
欠損等法人に関する欠損金 法人税法57条の2の適用がないかを別に確認する

短期間だけ完全子会社にして清算すれば、欠損金を全額利用できるという制度ではありません。

8.申告書はS社からP社へつなぐ

順序 確認する書類 役割
1 S社の最後事業年度の別表七(一) 最終的な未処理欠損金額を確認する
2 P社の別表七(一)付表一 P社自身の欠損金とS社からの引継額を年度別に調整する
3 P社の別表七(一) 当期控除額と翌期繰越額を計算する
4 S社の別表七(一)の写し P社の合併等事業年度の申告書に添付する

国税庁「別表七(一)付表一の記載の仕方」は、残余財産が確定した法人の最後事業年度の申告書に添付された別表七(一)の写しを添付するよう示しています。

最後事業年度について修正申告や更正があり、別表の金額が変わっている場合は、最も新しい別表または金額を確認できる書類の写しを使います。

株主名簿、資本関係図、支配関係が生じた日、各欠損年度の申告書、繰戻還付の有無も突き合わせます。実際の申告では、その事業年度に対応する国税庁の法人税申告書別表を確認してください。

9.間違えやすい点

誤り 正しい整理
解散日に欠損金を引き継ぐ 残余財産確定日と、その翌日が属するP社の事業年度を確認する
繰越利益剰余金のマイナスを使う S社の税務申告上の未処理欠損金額を使う
引継日から10年間使える S社で欠損金が生じた年度を基礎に残存期間を確認する
確定日に100%なら全額引継ぎ 5年継続支配、特定資産譲渡等損失、欠損等法人の制限も確認する
引継額を費用として仕訳する 引継ぎ自体は税務上のみなし処理であり、直接の仕訳はない
S社の期首残高を使う 最後事業年度の所得計算や繰戻還付を反映した最終残高を使う
利用可能額を必ず全額控除する P社の法人区分と損金算入限度額を確認する

10.5日で定着させる

日 取り組むこと 確認点
1日目 解散日、残余財産確定日、その翌日を時系列で書く 引継ぎの基準日を説明できる
2日目 会計上の赤字と税務上の未処理欠損金額を分ける 繰越利益剰余金を使わないと判断できる
3日目 100%、10年、5年の役割を一行ずつ書く 三つの判定を混同しない
4日目 800-100-250-150-100を再計算する 控除後所得200、翌期繰越額0になる
5日目 S社の別表七(一)からP社の付表一・別表七(一)への流れを書く 仕訳がなくても申告書処理が必要だと説明できる

まとめ

  • 欠損金引継ぎの起点は、解散ではなく残余財産の確定である
  • 引継ぎ対象は、会計上の累積損失ではなく税務上の未処理欠損金額である
  • 完全支配関係、10年内事業年度、5年継続支配は別々に判定する
  • 欠損金の発生年度と繰越期間は、引継ぎによってリセットされない
  • 本設例では600を控除し、控除後所得200、翌期繰越額0となる
  • 引継ぎ自体に仕訳はないが、別表七(一)付表一と添付書類の確認が必要になる

実際の引継額は、資本関係の変遷、設立日、過年度申告、繰戻還付、特定資産の譲渡、グループ通算制度などによって変わります。清算前から欠損金を年度別に整理し、適用法令と申告年度用の様式に基づいて個別に判定してください。

第213回 債務超過子会社の清算ゼロ入門:債権放棄・貸倒損失・債務免除益を仕訳で整理(5日練習付き)

第212回では、残余財産がある完全子会社の清算を扱いました。今回は、負債が資産を上回る子会社です。

親会社の貸付金と子会社株式は別の資産です。債権放棄による損失と株式の損失を分け、会計と法人税も別々に判定します。

1.貸付金の回収と残余財産を分ける

区分 科目 金額
資産 現金 500
負債 外部債務 300
純資産 資本金 200
  1. P社への返済原資:現金500-外部債務300=200
  2. 貸付金の回収不能額:500-200=300
  3. 株主への残余財産:500-300-200=0

S社からP社へ支払う200は、貸付金の返済です。株主として受け取る残余財産ではありません。

この計算は、P社貸付金が外部債務に契約上劣後するという設例の前提によります。一般に外部債務が親会社借入金より優先するわけではありません。担保、租税債権、契約および債権者間の合意を確認します。

2.通常清算へ進めるかを先に確認する

会社法484条、510条、511条では、清算株式会社の財産で債務を完済できないことが明らかになった場合の破産手続開始の申立てと、債務超過の疑いがある場合の特別清算開始の申立てが定められています。

本設例では、解散前に300を免除します。免除後は資産500、負債500、純資産0となるため、すべての債務を弁済できることを確認した上で通常清算へ進む前提です。

順序 処理 残高の確認
1 財産、債務、税金、清算費用を調査する 免除前は300の債務超過
2 P社が回収不能部分300を免除する 資産500、負債500
3 S社が解散し、債権者保護手続を行う 未計上債務がないか再確認
4 外部債務300とP社借入金200を弁済する 資産、負債、純資産はいずれも0

税金や清算費用を見落とすと、免除後も債務を完済できません。会計上の債務超過額だけで通常清算の可否を決めないことが大切です。

3.親会社と子会社の仕訳

企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」は、債務者の財政状態などに応じて貸倒見積高を算定することを定めています。また、市場価格のない株式等は、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに減額します。

(1)回収不能見込額と株式評価損を計上する

借方 金額 貸方 金額
貸倒引当金繰入 300 貸倒引当金 300
S社株式評価損 200 S社株式 200

貸付金500から貸倒引当金300を控除した純額は200です。S社には株主へ分配できる財産がないため、本設例では株式の実質価額を0として200を減額します。

回収不能や株式価値の低下が以前の決算ですでに明らかだった場合は、その時点で引当てや減額が必要だった可能性があります。本設例では、当期に回収見積りが確定したものとします。

(2)債権放棄が効力を生じる

会社 借方 金額 貸方 金額
P社 貸倒引当金 300 S社貸付金 300
S社 P社借入金 300 債務免除益 300

P社はすでに貸倒引当金300を計上しているため、債権放棄時に同じ損失をもう一度計上しません。事前の引当てがない場合は、「貸倒損失300/S社貸付金300」とする処理が考えられます。

(3)残った債務を弁済する

会社 借方 金額 貸方 金額
S社 外部債務
P社借入金
300
200
現金 500
P社 現金 200 S社貸付金 200

S社の現金と債務は0になります。債務免除益300により繰越利益剰余金はマイナス200となり、資本金200と合わせた純資産合計も0です。

4.残高で二重計上を防ぐ

科目 放棄前 放棄後 弁済後
現金 500 500 0
外部債務 300 300 0
P社借入金 500 200 0
純資産合計 △300 0 0
貸借一致 500=800+△300 500=500+0 0=0+0
項目 金額
株式と貸付金の当初合計 200+500=700
貸付金に係る損失 300
株式評価損 200
現金回収額 200
検算 700-300-200=200

P社の会計上の損失は合計500です。これに回収額200を加えると、当初の投下額700と一致します。

5.法人税は三つの区分を混ぜない

法人税基本通達9-6-1(4)は、債務超過が相当期間継続し、弁済を受けられないと認められる場合に、書面で明らかにされた債務免除額を貸倒れとして損金算入する取扱いを示しています。

単に100%子会社であることや、貸借対照表が債務超過であることだけでは足りません。資産状況、支払能力、担保・保証、弁済順位、回収経緯および免除額を総合して判定します。

法人税基本通達9-4-1は、子会社の整理に伴う損失負担について、より大きな損失を避けるためにやむを得ないなど相当な理由がある場合、その経済的利益を寄附金に該当しないものとしています。

区分 P社 S社
9-6-1(4)の貸倒れ 要件を満たす免除額を損金算入 債務免除益を益金算入
9-4-1の子会社整理損 相当な理由があれば寄附金に該当しない損失として処理 債務免除益を益金算入
寄附金 法人による完全支配関係では対応額を全額損金不算入 対応する受贈益を益金不算入

法人税基本通達4-2-5によれば、親会社側の経済的利益が9-4-1などにより寄附金に該当しない場合、子会社側の受贈益には法人税法25条の2の益金不算入を適用しません。

反対に、債権放棄が寄附金と判定された場合は、国税庁タックスアンサーNo.5281のとおり、法人による完全支配関係がある内国法人間では、対応する寄附金が親会社で全額損金不算入となり、子会社の受贈益は益金不算入となります。

本設例では、貸倒引当金繰入300を税務上加算済みであるため、債権放棄時に貸倒れ300を認容して減算します。会計仕訳に新たな費用が現れない場合でも、申告調整による認容は別に検討します。

判断資料を残す

確認事項 資料の例
実際の財産状態 換価価額による貸借対照表、債権者一覧、偶発債務の調査
回収可能額 現金収支表、担保・保証、劣後合意、弁済順位の資料
免除額の合理性 500のうち300だけを免除する計算過程
整理の必要性 清算計画、代替案との比較、取締役会等の議事録
免除の成立 債務免除通知書、到達記録または合意書

国税庁「再建支援等事案に係る検討項目及びその概要」でも、実質債務超過、損失負担の必要性、支援額および負担割合などが確認項目とされています。

6.債務免除益と欠損金は事業年度で判定する

S社の会計上の繰越利益剰余金マイナス500と、税務上の繰越欠損金は同じとは限りません。別表五(一)、別表七(一)および過去の申告調整を確認します。

本設例では、通常の繰越欠損金を債務免除益300に充てる前提です。実際の控除額は、欠損金の発生時期、申告要件、控除期限および控除限度額によって変わります。

法人税基本通達12-3-7から12-3-9によれば、法人税法59条4項の「残余財産がないと見込まれる」かどうかは、清算中に終了する各事業年度末の現況で判定します。

債権放棄日が解散前というだけで、59条4項を一律に適用できないとはいえません。解散によって通常の事業年度が直ちに区切られるとは限らないためです。債務免除益が計上された事業年度が清算中に終了するか、その期末に残余財産がないと見込まれるか、他の欠損金規定が適用されるかを時系列で確認します。

残余財産確定時に未処理欠損金額が残る場合は、完全支配関係などの要件を満たせば法人税法57条2項によるP社への引継ぎを検討します。S社ですでに控除した欠損金や、59条4項で損金算入した金額が重ねて引き継がれるわけではありません。

7.子会社株式評価損200は税務上損金不算入

P社は会計上、S社株式200を減額します。しかし、会計上の評価損と法人税上の評価損は別です。

国税庁タックスアンサーNo.5574および法人税法33条5項によれば、完全支配関係がある内国法人のうち、清算中の法人や解散することが見込まれる法人の株式等に係る評価損は損金算入できません。

本設例では清算計画が客観的に確定しているため、会計上の株式評価損200を申告加算します。さらに、残余財産の確定まで完全支配関係が続く場合は、法人税法61条の2により株式の譲渡損益を計上しません。税務簿価200を清算時の追加損金にする処理ではありません。

8.連結では内部取引を消去する

連結財務諸表では、P社貸付金とS社借入金を相殺し、内部の債権放棄に伴う損益も消去します。P社個別の株式評価損も、投資と資本の相殺消去を基礎に処理します。

個別上の項目 連結上の処理
P社貸付金とS社借入金 内部債権・債務として相殺
貸倒引当金関係の損失と債務免除益 内部取引に係る損益として消去
S社株式とS社純資産 投資と資本の相殺消去を基礎に処理
P社への200の返済 連結グループ内の現金移動
外部債務300の支払 連結現金を300減額

S社の過去の損失は、連結期間中の各期に連結損益へ取り込まれています。P社個別で計上した損失500を、そのまま連結損失へ追加するわけではありません。

9.5日練習

日 練習
1日目 現金500、優先する外部債務300、親会社借入金500から回収額と免除額を計算する
2日目 S社の債務免除時の仕訳を書く
3日目 P社が貸倒引当金300を計上済みの場合の仕訳を書く
4日目 債権放棄が寄附金と判定された場合のP社・S社の税務処理を答える
5日目 現金620、優先する外部債務270、親会社借入金500、株式簿価200の場合の回収額と会計上の損失を計算する
練習の答え
  1. 回収額は500-300=200、免除額は500-200=300です。
  2. 借方はP社借入金300、貸方は債務免除益300です。
  3. 借方は貸倒引当金300、貸方はS社貸付金300です。
  4. 法人による完全支配関係が続く前提では、P社の対応する寄附金は全額損金不算入、S社の受贈益は益金不算入です。
  5. 回収額は620-270=350、免除額は500-350=150です。株式の実質価額を0とすれば、会計上の損失は150+200=350です。投下額700-回収額350=損失350で検算できます。

まとめ

債務超過子会社の清算では、先に貸付金の回収可能額を求めます。本設例では、P社は貸付金500のうち200を回収し、回収不能部分300を免除します。株主として受け取る残余財産はありません。

会計上は貸付金と株式の損失を分けます。税務上は、貸倒れ、子会社整理損、寄附金のどれに当たるかを資料に基づいて判定します。

回収可能額、仕訳、税務区分、欠損金の事業年度。この順に確認すると、二重計上と時期の誤りを防げます。

第212回 完全子会社の解散・清算ゼロ入門:残余財産・みなし配当・株式譲渡損益不計上を仕訳で整理(5日練習付き)

第211回では、有償減資による資本の払戻しを扱いました。今回は、完全子会社を解散し、清算する場面です。

解散しただけでは、会社は消滅しません。資産を換金し、債務を弁済し、残余財産を株主へ分配します。親会社では、会計上の清算損益と法人税上のみなし配当を分けて考えます。

1.解散から清算結了まで

会社法471条、475条、476条、481条、492条、507条、929条を基に流れを並べます。決算報告の承認は会社法507条、清算結了登記は同法929条に定められています。

段階 会社の状態 確認すること
解散 P社による株主総会決議などで解散する 解散だけで会社や子会社株式が消えるわけではない
清算開始 清算目的の範囲で会社が存続する 財産目録と清算開始時の貸借対照表を作成する
清算事務 現務を終え、債権を取り立て、債務を弁済する 資産処分損益や清算事務費を計上する
残余財産の分配 残った財産を株主へ分配する 子会社の純資産と親会社の子会社株式を整理する
清算結了 決算報告の承認を受け、清算結了登記を行う 資産、負債、純資産の残高を確認する

会社法施行規則144条・145条では、処分価格を付すことが困難な場合を除き、財産目録の財産に清算開始時の処分価格を付すこととされています。

会社法499条による債権者の申出期間は、2か月を下回ることができません。会社法502条により、原則として債務を弁済する前に残余財産を分配することもできません。解散直後に全額を親会社へ送金するわけではありません。

2.S社の清算開始時残高

S社の資産は、会計簿価、税務簿価、清算開始時の処分価格が一致しているものとします。したがって、清算開始時の評価替えはありません。

区分 科目 金額
資産 現金 300
売掛金 500
備品 330
資産合計 1,130
負債 買掛金 200
負債合計 200
純資産 資本金 700
繰越利益剰余金 230
純資産合計 930

資産1,130=負債200+純資産930

P社は、S社の純資産が900だった時点で全株式を900で取得しました。取得時の評価差額とのれんはありません。その後にS社が計上した利益30が、現在の純資産930に含まれています。

3.清算会社S社の仕訳

S社は、売掛金500を回収し、備品を帳簿価額と同じ330で売却します。その後、買掛金200と清算事務費30を現金で支払います。

取引 借方 貸方 取引後の現金
売掛金の回収 現金 500 売掛金 500 800
備品の売却 現金 330 備品 330 1,130
買掛金の支払 買掛金 200 現金 200 930
清算事務費の支払 清算事務費 30 現金 30 900

300+500+330-200-30=900

清算事務費30により、繰越利益剰余金は230から200へ減ります。残余財産分配直前の残高は、現金900、資本金700、繰越利益剰余金200です。

必要な手続と債務の弁済を終え、残余財産900をP社へ分配します。残高をゼロにするための学習上の閉鎖仕訳は次のとおりです。

借方 貸方
資本金 700
繰越利益剰余金 200
現金 900

借方と貸方は、ともに900です。実務では清算会社の勘定体系に応じて残余財産勘定などを使うことがあります。

4.親会社P社の個別会計

解散決議だけで、P社の子会社株式を直ちに消すことはありません。一方、決算時には市場価格のない子会社株式について減損の要否を判定します。

移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」では、市場価格のない株式について、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下した場合の減損処理を定めています。本設例では、清算費用等を反映したS社株式の実質価額が900であり、会計簿価900を著しく下回らないものとします。この前提により、評価損は計上しません。

最終残余財産900を受け取ったときの仕訳は次のとおりです。

借方 貸方
現金 900 子会社株式 900

受取残余財産900-子会社株式簿価900=会計上の清算損益0

法人税上のみなし配当があることだけを理由に、会計仕訳を「現金/受取配当金」とするわけではありません。

5.連結財務諸表での見方

清算株式会社であっても、意思決定機関を支配している限り、原則として連結の範囲に含まれます。解散日だけを理由に連結から外しません。

連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針と移管指針第4号に従い、支配を失った日以後の資産、負債、収益、費用を連結から除外します。

項目 P社個別 連結
清算事務費30 S社の費用なので計上しない S社の費用として連結損益に含める
残余財産900 現金を受け取り、子会社株式を消す 企業集団全体の現金総額は変わらない
分配時の追加損益 0 本設例では生じない

S社は取得後に利益30を計上し、その後に清算事務費30を計上しました。取得後損益の累計は0です。残余財産分配後にS社の資産と負債は残らないため、本設例では連結除外時にも追加損益は生じません。

6.法人税は三段階で計算する

法人税法23条、24条、61条の2および法人税法施行令8条・23条を基に計算します。

第一段階:みなし配当を求める

残余財産900-株式対応資本金等の額700=みなし配当200

ここで使う700は、会計上の資本金をそのまま転記したものではありません。法人税法施行令の算式で求める金額です。

第二段階:特則がない場合の株式譲渡損益を確認する

譲渡対価部分700-S社株式の税務簿価900=譲渡損200

これは、完全支配関係の特則を適用する前の計算です。

第三段階:完全支配関係の特則を適用する

P社とS社には完全支配関係があります。この場合、S社株式の譲渡対価は譲渡原価相当額900とされ、法人税上の株式譲渡損益は0になります。前段階で求めた譲渡損200を損金にはできません。

項目 計算 金額
みなし配当 900-700 200
特則前の譲渡対価部分 900-200 700
特則前の譲渡損 700-900 △200
特則適用後の譲渡対価 譲渡原価相当額 900
実際に計上する譲渡損益 900-900 0

譲渡損相当額200は消えるのではなく、P社の税務上の資本金等の額を調整します。本設例では、次の200が減算額です。

みなし配当200+特則による譲渡対価900-受取現金900=200

国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例」は、残余財産分配時の株式譲渡損益不計上と資本金等の額の調整算式を確認するために参照しています。同資料は平成22年度税制改正時の旧資料であり、金銭交付部分のみなし配当に源泉徴収が必要であるとする当時の記載が残っています。その源泉徴収に関する記載は、2026年10月14日現在の本設例には適用しません。

みなし配当200は、本設例の前提では完全子法人株式等に係る配当等として全額が益金不算入です。帳簿上は配当収益を計上していないため、申告書では、みなし配当の認識と益金不算入の調整を行います。所得金額への純影響は0ですが、資本金等の額の減算200は残ります。

2026年10月14日現在、自己名義で保有する完全子法人株式等に係る一定の配当等に該当する本設例では、源泉徴収を要しません。現在の取扱いは、国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし・配当所得の源泉徴収事務」で確認できます。

100%保有でない場合は、株式譲渡損益、受取配当等の益金不算入額、源泉徴収の取扱いが変わります。

7.清算中の申告期限

2010年10月1日以後に解散した普通法人は、清算中も各事業年度の所得に対する法人税の申告を行います。

事業年度 原則的な申告期限
事業年度開始日から解散日まで 事業年度終了日の翌日から2か月以内
解散日の翌日から始まる清算事務年度 原則として1年ごとに区切り、終了日の翌日から2か月以内
残余財産確定日の属する最後事業年度 終了日の翌日から1か月以内。ただし、その期間内に最後の分配をする場合は分配日の前日まで

根拠と設例は、国税庁「法人税法」教材および法人税法14条・74条で確認できます。期限延長などの特例は別に判定します。

消費税では、清算中に行う備品などの売却が課税資産の譲渡等に当たることがあります。一方、金銭による残余財産分配は、対価を得て行う資産の譲渡等ではありません。課税対象の基本は国税庁「『資産の譲渡等』とは」、残余財産確定時の申告期限は国税庁「法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について」で確認できます。

8.よくある混同

混同 整理
解散日に会社が消滅する 清算目的の範囲で会社は存続する
債務を残したまま親会社へ分配する 原則として債務を弁済してから残余財産を分配する
受取額900を会計上すべて配当収益にする 受取額と子会社株式簿価の差額から清算損益を求める
会計上の資本金を税務計算にそのまま使う 株式対応資本金等の額を法人税法令により計算する
特則前の譲渡損200を損金にする 完全支配関係の特則により譲渡損益を計上しない
解散日に連結から外す 事実関係に基づいて支配喪失日を判定する

9.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 確認点
1日目 解散から清算結了までを順番に書く 解散と消滅を同じにしていないか
2日目 S社の4仕訳を再現する 現金が300から900になるか
3日目 S社とP社の最終仕訳を書く 借方と貸方が一致するか
4日目 900をみなし配当200と資本対応額700に分ける 会計上の清算損益と混ぜていないか
5日目 確認問題を解く 譲渡損益不計上と資本金等の額の調整を説明できるか

確認問題

P社が完全子会社S社から最終残余財産760を受け取ります。P社の子会社株式の会計簿価・税務簿価は760、株式対応資本金等の額は600です。ほかの前提は本設例と同じです。

  1. 会計上の清算損益はいくらですか。
  2. 法人税上のみなし配当はいくらですか。
  3. 完全支配関係の特則がなければ、株式譲渡損益はいくらですか。
  4. 実際に法人税上計上する株式譲渡損益はいくらですか。
  5. P社の税務上の資本金等の額の減算額はいくらですか。

答え

  1. 760-760=0です。
  2. 760-600=160です。
  3. 600-760=△160で、譲渡損160です。
  4. 完全支配関係の特則により0です。
  5. 160+760-760=160です。

10.今回のまとめ

  • 解散後も、清算が終わるまで会社は清算目的の範囲で存続します。
  • 子会社では、資産の換金、債務の弁済、清算費用、残余財産分配の順に残高を追います。
  • 親会社の個別会計では、最終分配額と子会社株式簿価との差額から清算損益を求めます。
  • 法人税では、残余財産をみなし配当と株式の譲渡対価部分に分けます。
  • 完全支配関係がある場合、株式譲渡損益は計上せず、その相当額を資本金等の額で調整します。

清算では、解散日、残余財産確定日、分配日、清算結了日が別々に現れます。最初に日付と残高を並べ、その後で会計と税務を分けると整理しやすくなります。

第211回 子会社の有償減資:資本の払戻し・みなし配当・株式簿価を仕訳で整理

資本金を減少させ、その結果生じたその他資本剰余金を株主へ配当する取引は、実務上「有償減資」と呼ばれることがあります。ただし、資本金の減少と剰余金の配当は別の手続です。

本稿では、非上場子会社が金銭を交付する設例を用い、子会社と親会社の会計処理、法人税上の資本の払戻し、みなし配当、株式簿価の動きを整理します。

1.資本金の減少と金銭配当を分ける

段階 S社の処理 純資産合計
資本金の減少 資本金300をその他資本剰余金へ振り替える 変わらない
剰余金の配当 その他資本剰余金300を株主へ交付する 300減少する

「減資」という名称だけでは、株主へ財産が交付されるかは分かりません。資本金の減少額、振替先、配当原資、配当額および各効力発生日を分けて確認します。

2.会社法上の二つの手続

会社法447条は資本金の額の減少、449条は債権者の異議手続を定めています。剰余金の配当は453条および454条に定められています。「有償減資」という一つの法的手続が設けられているわけではありません。

段階 主な確認事項 本設例
資本金の減少 減少額、効力発生日、決議、債権者異議手続 資本金300をその他資本剰余金へ振り替える
剰余金の配当 配当財産、総額、割当方法、効力発生日、分配可能額 その他資本剰余金300を比例配当する

準備金の計上額と減少する剰余金の内訳は、会社計算規則22条・23条に従って確認します。また、会社法461条により、株主へ交付する財産の帳簿価額は効力発生日の分配可能額を超えられません。

3.S社の個別仕訳

資本金の減少

企業会計基準第1号第20項により、資本金の減少で生じる剰余金は、減少の法的効力が発生したときにその他資本剰余金へ計上します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
資本金 300 その他資本剰余金 300

純資産の内訳が変わるだけで、純資産合計は1,250のままです。

その他資本剰余金からの配当

配当の効力発生日に債務を計上します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
その他資本剰余金 300 未払配当金 300

支払時には未払配当金300を消し込みます。非支配株主に対する源泉徴収の要否は、その株主の属性などによって異なるため、現金支払額と源泉所得税等の預り額を区分します。ただし、両者の合計は300です。

項目 取引前 減資後 配当の効力発生後 支払・納付後
資産合計 1,250 1,250 1,250 950
負債合計 0 0 300 0
資本金 800 500 500 500
資本準備金 200 200 200 200
その他資本剰余金 0 300 0 0
繰越利益剰余金 250 250 250 250
純資産合計 1,250 1,250 950 950

4.P社は決議の効力が生じた年度に認識する

企業会計基準適用指針第3号第3項により、その他資本剰余金の処分による金銭配当を受けた株主は、売買目的有価証券などを除き、原則として受領額を対象株式の帳簿価額から減額します。

配当金の認識時期について、同指針第6項は移管指針第9号第94項と同様に扱うとしています。市場価格のない株式では、原則として、配当に関する決議の効力が生じた日の属する事業年度に認識します。決議の効力発生後、通常必要な期間内に支払われる場合には、支払日の属する事業年度に認識する方法も継続適用を条件に認められます。

本設例では原則的な方法を採用し、配当決議が効力を生じる日と会社法上の配当の効力発生日を同日にしています。P社に割り当てられる金額は、300×80%=240です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
未収金 240 子会社株式 240

P社はS社株式を自己名義で80%保有しており、3分の1超の保有要件を満たします。本設例の前提では、所得税法177条・212条3項により、P社に支払う配当等について源泉徴収を要しません。支払時の仕訳は次のとおりです。

借方科目 金額 貸方科目 金額
現金 240 未収金 240

国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」も、自己名義で保有する株式について、一定の内国法人が発行済株式等の3分の1を超えて保有する場合の配当等は源泉徴収を要しないと説明しています。実際の判定では、配当等に係る基準日等の名義、保有数および株主属性を確認する必要があります。

計算 金額
配当前の子会社株式 600
帳簿価額からの減額 △240
配当後の子会社株式 360

未収金の計上と子会社株式の減額は借貸とも240であり、P社の会計上の利益は生じません。

5.連結上は非支配株主への交付だけが外部流出になる

P社に割り当てられる240は企業集団内の取引として消去します。非支配株主に割り当てられる金額は、300×20%=60です。

項目 取引前 取引後 増減
S社の純資産 1,250 950 △300
非支配株主持分 250 190 △60
親会社株主に帰属する持分 - - 0

非支配株主への支払と必要な源泉所得税等の納付が完了した後の連結上の純額は、次のとおりです。

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 60 現金 60

これは連結上の結果を示すものであり、P社またはS社の個別帳簿へそのまま記帳する仕訳ではありません。株式数と持分比率は変わりません。

6.法人税では交付額を資本と利益に分ける

法人税法24条は、資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当を、一定のものを除き「資本の払戻し」として扱います。具体的な計算は、法人税法施行令23条・119条の9などに基づきます。

払戻割合

300÷1,250=0.240

分子は資本の払戻しにより減少した資本剰余金300、分母は法定調整後の前事業年度末の簿価純資産価額1,250です。本設例では法定の端数処理後も0.240です。

払戻等対応資本金額等

1,000×0.240=240

計算額240は、実際に減少した資本剰余金300を超えないため、そのまま使用します。

みなし配当

交付額300-払戻等対応資本金額等240=60

項目 取引前 減少額 取引後
資本金等の額 1,000 240 760
利益積立金額 250 60 190
合計 1,250 300 950

会計上の資本金の減少額は300ですが、税務上の資本金等の額の減少額は240です。両者を一致させることはできません。

7.P社のみなし配当・みなし譲渡・税務簿価

項目 計算 金額
金銭交付額 300×80% 240
資本金等対応額 240×80% 192
みなし配当 60×80% 48

税務上の譲渡対価は、金銭交付額240からみなし配当48を除いた192です。

譲渡原価=600×0.240=144

譲渡益=192-144=48

払戻し後の税務上の株式簿価=600-144=456

借方 金額 貸方 金額
金銭交付額 240 子会社株式の税務簿価減少 144
みなし配当 48
譲渡益 48
合計 240 合計 240

この表は税務上の構成を検算するものであり、P社の会計帳簿へ追加記帳する仕訳ではありません。会計処理との差額は申告調整します。

項目 会計 法人税
交付額 240 240
利益等 0 みなし配当48、譲渡益48
株式簿価の減少 240 144
払戻し後の株式簿価 360 456

会計簿価と税務簿価の差額は96です。みなし配当に対する受取配当等の益金不算入額は、株式区分や保有期間などを確認して別に計算するため、本設例では課税所得および税額まで算定しません。

子会社株式簿価減額特例の確認

国税庁の子会社株式簿価減額特例に関する資料では、一定の支配関係がある法人から受ける対象配当等と同一事業年度内配当等の合計額が、所定の株式簿価の10%相当額を超える場合に、適用除外要件に該当しない限り、益金不算入相当額を株式簿価から減額する仕組みが示されています。

本設例で対象となり得るみなし配当48は、株式簿価600の10%である60を超えません。同一事業年度中のほかの配当もないため、本設例ではこの特例を適用しません。

100%保有の場合との違い

本設例の持分比率は80%です。完全支配関係にある内国法人間でみなし配当事由が生じた場合には、譲渡対価を譲渡原価相当額とする法人税法上の特則があります。したがって、本設例の譲渡益48を100%保有の事例へそのまま当てはめることはできません。

8.消費税では課税対象外

国税庁「非課税と不課税の違い」では、出資に対する配当は、対価を得て行う取引に当たらないものとして整理されています。

S社が本件の金銭交付を課税売上としたり、P社が課税仕入れとしたりすることはありません。法人税上、株式の一部譲渡をみなして計算することだけを理由に、消費税の課税売上割合へ算入するものでもありません。

9.税務簿価管理ではS社からの通知も照合する

法人税法施行令119条の9には、払戻しを行った法人が株主へ払戻等割合を通知する規定があります。P社では、S社から通知された払戻等割合を申告計算資料と照合し、税務上の株式簿価456を会計簿価360と区別して管理します。

10.結論

本設例では、S社は資本金300をその他資本剰余金へ振り替えた後、その300を配当します。P社は配当決議の効力が生じた日の属する事業年度に未収金240を計上し、子会社株式を240減額します。

法人税上は、交付総額300を資本金等対応額240とみなし配当60に分けます。P社では、みなし配当48、譲渡原価144、譲渡益48となり、払戻し後の税務簿価は456です。会計簿価360との差額96は、申告調整と税務簿価管理で追跡します。

第210回 子会社の無償減資ゼロ入門:資本金・欠損填補・税務上の資本金等の額を仕訳で整理(5日練習付き)

第209回では、子会社が自己株式を消却する場面を扱いました。自己株式の消却では発行済株式数が減ります。

今回扱う無償減資では、株主へ財産を払い戻さず、株式数も変えません。動くのは資本金などの内訳です。

無償減資と欠損填補は二段階で考えます。まず資本金をその他資本剰余金へ振り替え、次にその他資本剰余金で繰越利益剰余金のマイナスを埋めます。

1.自己株式の消却、無償減資、欠損填補を分ける

手続 主に動くもの 発行済株式数 純資産合計
自己株式の消却 自己株式と対応する株主資本項目 減る 原則として変わらない
無償減資 資本金から資本剰余金への振替 減資だけでは変わらない 変わらない
欠損填補 その他資本剰余金から繰越利益剰余金への振替 変わらない 変わらない

減資は株式を消す手続ではありません。株式併合や自己株式の消却を併せて行えば株式数も動きますが、本設例では行いません。

株主へ財産を交付する減資は、今回のような払戻しのない無償減資とは会計・税務が異なります。

2.会社法上も二つの手続になる

会社法447条により、資本金を減少するときは、減少額、準備金とする額、効力発生日などを定めます。本設例では株主総会で決議します。

資本金の減少については、同法449条の債権者異議手続が必要です。官報公告と知れている債権者への各別催告を行い、異議を述べられる期間は1か月以上とします。官報に加え、定款所定の日刊新聞紙または電子公告による公告を行った場合は、各別催告を省略できます。手続が終わっていなければ、予定した効力発生日は到来しません。

欠損填補は、同法452条に基づく剰余金の処分です。本設例では、資本金の減少と欠損填補について、それぞれ必要な事項を決議します。

順序 確認すること
1 資本金の減少と剰余金の処分について決議する
2 債権者異議手続を行う
3 効力発生日に資本金の減少を帳簿へ反映する
4 その他資本剰余金で確定した欠損を填補する
5 資本金の変更登記と税務申告への反映を確認する

会計仕訳だけで法的手続が終わるわけではありません。

3.取引前の残高

科目 金額
資産 900
負債 300
資本金 800
資本準備金 100
その他資本剰余金 0
繰越利益剰余金 △300
純資産合計 600

貸借対照表は「資産900=負債300+純資産600」です。純資産も「800+100+0-300=600」と一致します。

4.S社の個別仕訳

第1段階:資本金をその他資本剰余金へ振り替える

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金 300 その他資本剰余金 300

資本金は800から500へ減り、その他資本剰余金は0から300へ増えます。株主資本内部の振替なので、収益や費用は生じません。

第2段階:その他資本剰余金で欠損を填補する

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
その他資本剰余金 300 繰越利益剰余金 300

繰越利益剰余金は「△300+300=0」となります。利益が300発生したのではありません。

科目 取引前 減資後 欠損填補後
資本金 800 500 500
資本準備金 100 100 100
その他資本剰余金 0 300 0
繰越利益剰余金 △300 △300 0
純資産合計 600 600 600

検算:第1段階も第2段階も借方300=貸方300です。資産900、負債300、純資産600も変わりません。

企業会計基準第1号では、資本金の減少によって生じる剰余金を、減少の法的効力が生じたときにその他資本剰余金へ計上します。

資本剰余金から利益剰余金への振替は原則として認められません。ただし、年度決算時の利益剰余金が負の残高である場合に、その他資本剰余金でその負の残高を補う処理は、両者の混同には当たらないとされています。正の利益剰余金をつくるための振替はできません。

欠損が200なら填補額も200です。残る100はその他資本剰余金に残します。

5.P社の個別と連結

P社の個別財務諸表

P社は現金や財産を受け取らず、保有株式数も子会社株式の取得原価480も変わりません。本設例では仕訳を行いません。

子会社の資本金が減ったという理由だけで、子会社株式を減額することもありません。ただし、実際に子会社株式の実質価額が著しく低下している場合は、減損処理の要否を別に検討します。

連結財務諸表

S社の純資産600とP社の持分比率80%は変わりません。P社持分は480、非支配株主持分は120のままです。

区分 計算 減資前 欠損填補後
P社持分 600×80% 480 480
非支配株主持分 600×20% 120 120

本設例の前提による欠損填補後の投資と資本の相殺消去は、次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金 500 子会社株式 480
資本準備金 100 非支配株主持分 120
合計 600 合計 600

無償減資と欠損填補だけを理由に、連結上の損益、新たなのれん、持分変動差額は生じません。実際の資本連結仕訳は、取得日、取得後損益、評価差額、既存ののれんなどによって変わります。

6.法人税、消費税、地方税

確認項目 本設例の扱い
S社の法人税所得 株主資本内部の振替だけであり、この取引単独による益金・損金はない
法人税上の資本金等の額 株主への払戻しがないため900のまま
税務上の繰越欠損金 会計上の欠損填補だけでは増減しない
P社の法人税 財産の交付も株式譲渡もないため、この取引単独による収益はない
消費税 対価を得て行う資産の譲渡等ではなく、課税対象外

法人税法施行令8条による資本金等の額は、会計上の資本金と同じではありません。資本金を300減少させても、払戻しのない本設例では、その減少額に対応する税務上の調整によって資本金等の額900は変わりません。

指標 金額
会計上の資本金 500
会計上の資本金+資本準備金 600
会計上の純資産合計 600
法人税上の資本金等の額 900

会計上の繰越利益剰余金が0になっても、税務上の繰越欠損金は消えません。欠損金の繰越控除は、欠損金が生じた事業年度の申告や、その後の申告などについて、法人税法57条等の要件を別に判定します。国税庁のタックスアンサーNo.5762は、2026年4月1日現在の取扱いを案内しています。

消費税についても、無償減資は有価証券の譲渡ではありません。対価を得て行う取引に当たらないため、国税庁タックスアンサーNo.6209にいう不課税取引、つまり課税対象外の取引として整理します。

地方税の資本金等の額はもう一度計算する

法人住民税均等割では、法人税上の資本金等の額に無償減資等による損失填補の調整を行い、会計上の資本金と資本準備金の合計額と比較します。

本設例で、損失填補に使ったその他資本剰余金300が、填補日前1年以内の資本金減少によって計上されたものであり、必要書類も整っている場合は、調整後の資本金等の額は「900-300=600」です。会計上の資本金と資本準備金の合計も「500+100=600」なので、均等割の税率区分の基準は600となります。

ここでいう損失は、填補時のその他利益剰余金全体のマイナス額を基礎に判定します。添付書類や過去の組織再編によって計算が変わることもあります。申告時は、申告先自治体の様式と案内を確認してください。東京都主税局のチェックポイントでは、1年以内という要件や必要書類が示されています。

7.間違えやすいポイント

  • 無償減資だけで現金を減らさない。
  • 減資だけで発行済株式数や持分比率を変えない。
  • 欠損填補額を収益にしない。
  • 正の利益剰余金をつくるために資本剰余金を振り替えない。
  • 親会社の子会社株式を自動的に減額しない。
  • 会計上の欠損と税務上の繰越欠損金を同一視しない。
  • 会計上の資本金500を地方税の判定へそのまま使わない。

8.3問で確認する

問題1

資本金を300減少させた直後、欠損填補前の残高はいくらでしょうか。

答え:資本金500、資本準備金100、その他資本剰余金300、繰越利益剰余金△300、純資産合計600です。

問題2

資本金800、資本準備金100、その他資本剰余金0、繰越利益剰余金△200の会社が、資本金を300減少させて欠損を全額填補する場合はどうなるでしょうか。

答え:まず「借方:資本金300/貸方:その他資本剰余金300」、次に「借方:その他資本剰余金200/貸方:繰越利益剰余金200」とします。最終残高は資本金500、資本準備金100、その他資本剰余金100、繰越利益剰余金0です。純資産合計700は変わりません。

問題3

本設例の無償減資と欠損填補により、非支配株主持分120は増減するでしょうか。

答え:増減しません。S社の純資産600と非支配株主の持分比率20%が変わらないため、「600×20%=120」のままです。

9.5日で定着させる

日 練習内容
1日目 自己株式の消却、無償減資、欠損填補の違いを書く
2日目 資本金からその他資本剰余金への仕訳と残高を確認する
3日目 欠損填補の仕訳を書き、純資産合計を検算する
4日目 親会社個別、連結、法人税、消費税、地方税を分けて説明する
5日目 上の3問を資料なしで解き、借貸と残高を再計算する

10.まとめ

  • 自己株式の消却は株式数、無償減資は資本金の額を動かす。
  • 欠損填補は、資本金からその他資本剰余金、その他資本剰余金から繰越利益剰余金という二段階で考える。
  • 本設例では、現金、純資産合計、株式数、持分比率は変わらない。
  • 会計上の資本金、法人税上の資本金等の額、税務上の繰越欠損金、地方税の判定額は別に確認する。

主な一次資料

第209回 子会社の自己株式消却をゼロから学ぶ:発行済株式数・持分比率・仕訳(5日間の復習例付き)

自己株式とは、自社が取得して保有する自社の株式です。本稿では、子会社が取得済みの自己株式を第三者へ処分せず、消却する場合を整理します。

消却すると発行済株式数は減ります。ただし、自己株式は消却前から持分比率の分母に含めないため、本設例では親会社の持分比率は変わりません。

1.発行済株式数と持分比率

項目 消却前 消却後
発行済株式数 100株 100株-20株=80株
自己株式数 20株 0株
社外株式数 100株-20株=80株 80株-0株=80株
P社の持分比率 60株÷80株=75% 60株÷80株=75%
B社の持分比率 20株÷80株=25% 20株÷80株=25%

消却では、発行済株式数と自己株式数が同じ20株ずつ減ります。社外株式数は80株のままなので、P社とB社の持分比率も変わりません。これに対し、自己株式を第三者へ処分すると、自己株式が社外へ戻るため社外株式数が増え、通常は持分比率が変わります。

実際の支配判定では、議決権の内容、種類株式、契約関係なども確認します。本設例の株式数による計算を、すべての支配判定にそのまま使うことはできません。

2.自己株式の消却と資本金の減少は別の手続

会社法178条により、株式会社は保有する自己株式を消却できます。消却する自己株式数を定め、取締役会設置会社では取締役会決議によらなければなりません。消却の対象は会社が保有する自己株式であり、P社やB社の保有株式をS社の決定だけで消却するものではありません。

会社計算規則24条は、消却する自己株式の帳簿価額を自己株式から減らし、同額をその他資本剰余金から減らすことを定めています。自己株式の消却だけでは資本金は減少しません。資本金の額の減少は会社法447条以下による別の手続です。

3.S社の個別仕訳

消却直前のS社の純資産を次のように仮定します。

項目 残高
資本金 400
資本準備金 100
その他資本剰余金 260
繰越利益剰余金 240
自己株式 △240
純資産合計 400+100+260+240-240=760

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第11項に基づき、消却手続が完了したときに次の仕訳を行います。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
その他資本剰余金 240 自己株式 240
合計 240 合計 240

自己株式は純資産の控除項目です。貸方に240を記入して、消却した自己株式の借方残高をゼロにします。消却益や消却損は計上しません。

項目 消却前 増減 消却後
資本金 400 0 400
資本準備金 100 0 100
その他資本剰余金 260 △240 20
繰越利益剰余金 240 0 240
自己株式 △240 240 0
純資産合計 760 0 400+100+20+240=760

その他資本剰余金と自己株式の控除額が同額ずつ減るため、純資産合計は760のままです。消却時に現金も動きません。

一部だけを消却する場合の帳簿価額は、同会計基準第13項に従い、会社が定めた計算方法によって株式の種類ごとに算定します。

4.その他資本剰余金が不足する場合

消却直前のその他資本剰余金が100、消却する自己株式の帳簿価額が240であれば、消却手続の完了時には「その他資本剰余金240/自己株式240」と仕訳し、その他資本剰余金は△140になります。

同会計基準第12項により、会計期間末に「繰越利益剰余金140/その他資本剰余金140」と仕訳して、その他資本剰余金をゼロにします。消却時から240の全額を繰越利益剰余金へ振り替えるのではなく、不足額140だけを会計期間末に減額します。

5.親会社個別と連結の処理

確認先 処理
S社の個別財務諸表 その他資本剰余金240/自己株式240
P社の個別財務諸表 P社の保有株式数、子会社株式の帳簿価額および現金に変動がないため、消却に伴う仕訳はない
P社の連結財務諸表 S社が計上した消却仕訳を連結修正で取り消す

企業会計基準適用指針第2号第20項は、連結子会社が保有する自己株式を消却しても、連結貸借対照表の資産、負債および純資産に変動は生じないとしています。同適用指針の設例3では、子会社の消却処理を取り消す次の連結修正が示されています。

借方科目 借方 貸方科目 貸方
自己株式(子会社) 240 その他資本剰余金 240

これはS社の個別仕訳を取り消す連結修正であり、新たな持分変動を認識する仕訳ではありません。消却前後とも、P社持分相当額は760×75%=570、非支配株主持分は760×25%=190です。自己株式取得時に認識した持分変動を消却時に再計上すると、二重計上になります。

6.法人税と消費税

法人税

会計上のその他資本剰余金の減少は費用ではないため、本設例の240を消却損として損金算入する処理は行いません。

法人税法施行令8条・9条では、自己株式の取得について、取得の態様や交付対価などに応じて税務上の資本金等の額および利益積立金額を計算する仕組みが定められています。一方、取得済みの自己株式を会社法上消却することは、これらの条文に掲げる新たな増減事由ではありません。

したがって、本設例のように消却時に株主への金銭その他の資産の交付がない場合、消却だけを理由として新たな益金、損金またはみなし配当を認識しません。実際の申告では、自己株式の取得方法、取得対価、取得相手、みなし配当の有無ならびに取得時からの資本金等の額および利益積立金額の履歴を確認する必要があります。

消費税

今回の消却には対価の受領も他者への資産移転もないため、消却自体は消費税の課税対象外です。有価証券を第三者へ譲渡する非課税取引とは区別します。

国税庁「非課税と不課税の違い」によれば、不課税取引は課税売上割合の分母にも分子にも算入しません。したがって、消却した自己株式の帳簿価額240を課税売上割合へ算入しません。登記費用や専門家報酬などが生じた場合は、それぞれの取引について消費税区分を別途判定します。

7.確認問題

S社の発行済株式数は200株です。P社が120株、B社が40株を保有し、S社は40株を自己株式として保有しています。自己株式の帳簿価額は360、その他資本剰余金は300です。同一種類の自己株式の1株当たり帳簿価額を9として、S社が30株を消却した場合を計算してください。

答えと検算

消却する自己株式の帳簿価額は9×30株=270です。

項目 答え
発行済株式数 200株-30株=170株
自己株式数 40株-30株=10株
社外株式数 170株-10株=160株
P社の持分比率 消却前後とも120株÷160株=75%
消却仕訳 その他資本剰余金270/自己株式270
その他資本剰余金 300-270=30
自己株式 △360+270=△90

その他資本剰余金と自己株式の控除額が270ずつ減るため、純資産合計は変わりません。

8.5日間の復習例

  1. 取得・処分・消却について、発行済株式数と自己株式数の動きを表にする。
  2. 「発行済株式数-自己株式数」で社外株式数を求め、持分比率を再計算する。
  3. その他資本剰余金が足りる場合と不足する場合の仕訳を書く。
  4. S社個別、P社個別、連結の処理を並べ、持分変動を二重計上していないか確認する。
  5. 確認問題を見ずに解き、株式数、借貸、残高、税務の順で検算する。

まとめ

  • 自己株式の消却では、発行済株式数と自己株式数が同数だけ減る。
  • 社外株式数が変わらないため、本設例のP社持分は75%のままである。
  • S社個別では、自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
  • その他資本剰余金が負となる場合は、会計期間末に不足額を繰越利益剰余金から減額する。
  • P社個別では消却に伴う仕訳はなく、連結ではS社の消却仕訳を取り消す。
  • 消却だけを理由とする新たな法人税上の益金・損金や消費税上の課税売上は生じない。

第208回 子会社の自己株式処分ゼロ入門:新株発行との違い・非支配株主持分・資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第207回では、子会社S社が非支配株主から自社株式を取得する場面を扱いました。今回は、S社がその自己株式を第三者へ処分します。

自己株式を処分しても、発行済株式数は増えません。ただし、議決権割合の分母に入る株式が増えるため、親会社の持分比率は下がります。

1.自己株式の取得・処分・新株発行を分ける

項目 自己株式の取得 自己株式の第三者処分 第三者への新株発行
発行済株式数 変わらない 変わらない 増加する
自己株式数 増加する 減少する 変わらない
議決権割合の分母 通常は減少する 通常は増加する 通常は増加する
子会社の現金 減少する 増加する 増加する
親会社の保有株式数 変わらない 変わらない 引き受けなければ変わらない

企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第17項・第19項は、連結子会社による非支配株主への自己株式の処分を、親会社による子会社株式の一部売却に準じ、さらに子会社による非支配株主への第三者割当増資に準じて処理するとしています。

2.持分比率は自己株式を分母から外して計算する

本設例の持分比率は、次の式で計算します。

親会社の持分比率=親会社の保有株式数÷(発行済株式数-自己株式数)

項目 処分前 処分後
発行済株式数 100株 100株
自己株式数 20株 0株
分母となる株式数 100-20=80株 100-0=100株
P社の持分比率 60÷80=75% 60÷100=60%
非支配株主の持分比率 20÷80=25% (20+20)÷100=40%

P社の保有株式数は60株のままです。比率が75%から60%へ下がる原因は、分子ではなく分母の増加です。

3.S社とP社の個別財務諸表

3-1.S社は処分差額をその他資本剰余金とする

自己株式の帳簿価額240を現金300で処分するため、処分差益は60です。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 300 自己株式 240
— — その他資本剰余金 60
合計 300 合計 300

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第9項・第10項は、自己株式処分差益をその他資本剰余金へ計上し、処分差損をその他資本剰余金から減額すると定めています。

60は売却益ではありません。株主との資本取引から生じた差額であり、当期純利益には入りません。

項目 増減
自己株式の控除額 240減少するため、純資産は240増加
その他資本剰余金 60増加
純資産 240+60=300増加
処分後純資産 760+300=1,060

3-2.P社の個別帳簿には仕訳がない

P社は株式を売却せず、現金も受け取りません。保有するS社株式も60株のままです。したがって、P社の個別帳簿には仕訳を行いません。

4.連結上の持分変動を計算する

処分後も支配が続くため、連結上は損益取引ではなく、親会社株主と非支配株主との資本取引として扱います。企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第29項・第30項は、支配継続中の一部売却や子会社の時価発行増資等による持分変動差額を資本剰余金としています。

項目 処分前 処分後 増減
S社の修正後純資産 760 760+300=1,060 +300
P社の持分比率 75% 60% △15ポイント
親会社に帰属する額 760×75%=570 1,060×60%=636 +66
非支配株主持分 760×25%=190 1,060×40%=424 +234

税効果考慮前の純資産の増加300=親会社に帰属する額の増加66+非支配株主持分の増加234

親会社の比率は下がりましたが、C社がS社へ払い込んだ現金の効果により、親会社に帰属する額は570から636へ増えます。本設例では、この持分変動差額66を税効果考慮前の連結上の資本剰余金として処理します。P社が現金66を受け取ったという意味ではありません。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第27項・第122項によれば、子会社の時価発行増資等に伴う親会社の持分変動差額は連結財務諸表固有の一時差異に該当します。その一時差異について繰延税金資産または繰延税金負債を計上する場合は、資本剰余金が相手勘定となります。したがって、税効果会計を適用した後の資本剰余金は、ここで示した66と異なる場合があります。

4-1.連結修正を二段階で確かめる

適用指針の考え方に沿って、取引を二段階に分けます。以下の「S社株式」は連結精算表上の便宜的な勘定であり、P社の個別帳簿へ記帳するものではありません。いずれも税効果会計を考慮する前の仕訳です。

第1段階:処分対価300を処分前の持分比率で配分する

借方 金額 貸方 金額
自己株式(子会社) 240 非支配株主持分 300×25%=75
資本剰余金 60 S社株式 300×75%=225
合計 300 合計 300

第2段階:親会社に対応する払込額と、非支配株主へ移る持分との差額を求める

非支配株主へ移る持分は、処分後純資産1,060の15%である159です。親会社に対応する払込額225との差額66が、税効果考慮前の資本剰余金になります。

借方 金額 貸方 金額
S社株式 225 非支配株主持分 1,060×15%=159
— — 資本剰余金 225-159=66
合計 225 合計 225

非支配株主持分の増加額は、第1段階の75と第2段階の159を合わせた234です。

S社の個別仕訳と連結修正を合わせた税効果考慮前の取引効果は、次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
現金預金 300 非支配株主持分 234
— — 資本剰余金 66
合計 300 合計 300

この要約仕訳は、税効果考慮前の連結上の取引効果を示すものです。S社またはP社の法定帳簿へ、そのまま記帳する仕訳ではありません。また、連結全体の資本剰余金が期末に負の値となる場合は、連結会計基準第30-2項に基づく処理を別途検討します。

5.会社法では募集株式の手続を確認する

会社法第199条以下は、新株の発行と自己株式の処分を「募集株式の発行等」として定めています。募集株式の数、払込金額、払込期日または払込期間などを決定します。引受人が株主となる時期は、原則として同法第209条第1項によります。

自己株式を処分しても新株を発行したことにはならないため、本設例の発行済株式数は100株のままです。実際の決議機関や必要な手続は、公開会社かどうか、機関設計、定款、譲渡制限の有無、処分条件などにより異なります。

6.法人税・消費税は会計処理と分ける

確認項目 本設例の取扱い
S社の法人税所得 自己株式の処分は資本等取引であり、会計上の処分差益60を通常の売却益として益金に算入しない
S社の資本金等の額 処分対価300から、この取引による資本金の増加額0を控除した300が増加する
P社 株式の譲渡も金銭等の受取りもないため、この処分自体による譲渡損益やみなし配当は生じない
消費税 自己株式の処分は資産の譲渡等に該当せず、処分対価300は課税売上割合の分子・分母に算入しない

法人税法第22条第2項・第5項は、資本金等の額の増減を生ずる資本等取引を通常の収益取引と区別しています。さらに、法人税法施行令第8条第1項第1号は、原則として、株式の発行または自己株式の譲渡により払い込まれた金銭等から、その発行により増加した資本金の額を控除した金額を資本金等の額に加算すると定めています。

本設例は自己株式の処分だけであり、資本金は増加しません。このため、税務上の資本金等の額は300-0=300増加します。これに対し、会計上のその他資本剰余金の増加は300-240=60です。

国税庁の自己株式に関する質疑応答事例も、法人税法上、自己株式は発行法人の有価証券から除かれ、税務上の帳簿価額を持たないことを示しています。申告では、損益だけでなく、別表五(一)の資本金等の額の増減も確認します。

消費税については、消費税法基本通達5-2-9が、法人による自己株式の処分に伴う他の者への株式の引渡しは資産の譲渡等に該当しないと定めています。通常の保有株式の売却と同じ処理にはなりません。

著しく低い価額による処分、役員・従業員への報酬としての処分、現物出資、関連当事者間取引などでは、追加の検討が必要です。本設例は、第三者に対する時価相当額での現金処分に限定しています。

7.5日で定着させる練習

日 取り組むこと 確認する答え
1日目 処分前後の分母とP社の持分比率を計算する 80株・75%から、100株・60%へ変わる
2日目 S社の個別仕訳を作り、借貸を合計する 借方300、貸方240+60=300
3日目 処分前後の非支配株主持分を計算する 190から424へ、234増加する
4日目 税効果考慮前の連結上の持分変動差額を二つの方法で求める 636-570=66、または225-159=66
5日目 個別会計、連結会計、法人税、消費税の処理を区別する 個別の処分差益は60、連結の持分変動差額は税効果考慮前で66、税務上の資本金等の額は300増加し、消費税では資産の譲渡等に該当しない

計算が止まったら、まず「発行済株式数-自己株式数」という分母を書きます。その後、個別仕訳、処分後純資産、持分比率、連結上の持分変動差額の順に確認します。

まとめ

自己株式の処分では、発行済株式数ではなく、議決権割合の分母に入る株式数が変化します。そのため、親会社が株式を手放さなくても持分比率は下がり得ます。個別会計、連結会計、法人税および消費税では計算の目的が異なるため、どの財務諸表と税目を確認しているかを先に区別することが重要です。本設例の連結上の資本剰余金66は税効果考慮前の金額であり、税効果会計を適用する場合は別途検討が必要です。

第207回 子会社の自己株式取得ゼロ入門:持分比率・非支配株主持分・資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第206回では、親会社が非支配株主から子会社株式を追加取得する場面を扱いました。今回は、子会社自身が非支配株主から自社株式を取得します。

親会社の保有株式数が変わらなくても、子会社の自己株式を分母から除くため、親会社の持分比率は上がります。親会社の個別財務諸表では仕訳がありません。連結財務諸表では、非支配株主からの追加取得に準じて処理します。

1.個別と連結を分ける

確認先 基本処理
S社の個別財務諸表 取得原価で自己株式を計上し、株主資本から控除する
P社の個別財務諸表 P社の株式数と現金は動かないため、仕訳はない
P社の連結財務諸表 非支配株主からの追加取得に準じ、非支配株主持分と資本剰余金を調整する

企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第7項は、取得した自己株式を取得原価で株主資本から控除すると定めています。

企業会計基準適用指針第2号第17項・第18項は、連結子会社が非支配株主から自己株式を取得した場合、親会社による追加取得に準じて処理し、取得対価と非支配株主持分の減少額との差額を資本剰余金とするよう定めています。

2.自己株式を分母から除く

S社の発行済株式総数は、自己株式を消却するまでは100株のままです。ただし、連結上の持分比率は、発行済株式総数からS社の自己株式数を控除して計算します。

項目 取得前 取得後
発行済株式総数 100株 100株
S社の自己株式 0株 20株
持分比率の分母 100株 100株-20株=80株
P社の保有株式 60株 60株
P社の持分比率 60株÷100株=60% 60株÷80株=75%
非支配株主の持分比率 40株÷100株=40% B社20株÷80株=25%

P社の株式数は60株のままです。分母が100株から80株へ減ったため、持分比率は60%から75%へ上がります。比率の変動は、自己株式を取得した時点で認識します。

3.S社とP社の個別仕訳

S社の仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
自己株式 240 現金預金 240
合計 240 合計 240

自己株式は借方に記入しますが、資産ではありません。貸借対照表では、純資産の部の株主資本から控除して表示します。取得時に資本金や利益剰余金を直接減額することはなく、損失も計上しません。

この仕訳は取得対価総額を示したものです。みなし配当に対する源泉徴収が必要となる場合の預り金と納付は、別に処理します。

P社の仕訳

仕訳はありません。P社はS社株式を取得しておらず、対価も支払っていないためです。P社の個別貸借対照表に計上されたS社株式の帳簿価額も、この取引だけでは変わりません。

4.連結上の非支配株主持分を計算する

取得前後の非支配株主持分を比べます。

順序 計算 金額
1.取得前の非支配株主持分 1,000×40% 400
2.取得後のS社純資産 1,000-240 760
3.取得後の非支配株主持分 760×25% 190
4.非支配株主持分の減少額 400-190 210
5.取得対価との差額 240-210 30

取得対価240が非支配株主持分の減少額210を30上回ります。この30を、連結上の資本剰余金から減額します。支配が継続しているため、のれんや当期損失にはしません。

連結修正仕訳

S社の個別仕訳を取り込んだ後、次の連結修正を行います。

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 210 自己株式(S社) 240
資本剰余金 30 ― ―
合計 240 合計 240

S社の個別仕訳と合わせると、連結上では「現金240の減少」に対し、「非支配株主持分210」と「資本剰余金30」が減少します。

帰属先 取得前 取得後 増減
親会社株主に帰属する部分 1,000×60%=600 760×75%=570 △30
非支配株主持分 400 190 △210
合計 1,000 760 △240

親会社株主に帰属する部分の減少30は、資本剰余金の減少額と一致します。非支配株主持分の減少210と合わせると、現金の減少240とも一致します。

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とするよう定めています。第30-2項により、一連の処理で連結上の資本剰余金が負の値となる場合は、連結会計年度末に資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。本例ではこの処理は生じません。

5.取得・処分・消却を分ける

S社の行為 持分比率への影響 連結上の基本処理
非支配株主から取得 P社の比率が上がる 親会社による追加取得に準じる
非支配株主へ処分 P社の比率が下がることがある 非支配株主への第三者割当増資に準じる
取得済み自己株式を消却 比率は変わらない 連結貸借対照表の資産・負債・純資産に変動は生じない

本例で20株を消却すると、発行済株式総数は80株、自己株式は0株になります。持分比率の分母は、消却前も消却後も80株です。P社の持分比率は75%のままです。

6.会社法上の手続も確認する

会社法第156条、第160条、第461条などにより、取得する株式数、交付する金銭等の総額、取得期間、特定の株主から取得する場合の手続、分配可能額を確認します。

S社がA社だけを取得先とする本例では、特定の株主から取得する場合の決議や他の株主への通知等が検討対象になります。適用される例外や機関決定は会社の状況によって異なります。会計仕訳が正しくても、会社法上の手続を満たしたことにはなりません。

7.法人税ではみなし配当を分ける

税務上、取得対価の全額が株式の譲渡対価になるとは限りません。市場取引による取得などの除外事由に該当しない自己株式取得では、交付を受ける金銭等が、その株式に対応する資本金等の額を超えると、超過額がみなし配当になります。

法人税法第24条・第61条の2と、法人税法施行令の計算規定を前提に、税務上の数値を追加します。

項目 計算 金額
取得株式に対応する資本金等の額 500÷100株×20株 100
交付を受ける金銭等の額 ― 240
みなし配当 240-100 140
税務上の株式譲渡対価 240-140 100
譲渡株式の税務簿価 ― 120
税務上の譲渡損 100-120 △20

240は、みなし配当140と譲渡対価100に分かれます。譲渡損益は240ではなく、みなし配当を控除した譲渡対価100から計算します。

S社側では、税務上の資本金等の額を100、利益積立金額を140減額します。合計240は取得対価と一致しますが、240を損金に算入する処理ではありません。

A社における受取配当等の益金不算入額や、S社における源泉徴収の要否・税率・納付手続は、株式区分、保有関係、支払時期などを確認して別に判定します。この設例だけで納付税額までは決まりません。

消費税では課税対象外になる

消費税法基本通達5-2-9は、証券市場での買入れを除き、法人が自己株式を取得する場合の株主から法人への株式の引渡しを「資産の譲渡等」に該当しないものとしています。

したがって、本例の相対取引は、通常の有価証券譲渡に当たる非課税取引ではなく、消費税の課税対象外です。取得対価240は、課税売上割合の分子にも分母にも算入しません。専門家報酬などの付随取引は、その内容に応じて別に判定します。

8.解答するときの順序

  1. 誰が自己株式を取得し、対価を支払ったかを確認する。
  2. 発行済株式総数から自己株式数を控除して持分比率を計算する。
  3. 子会社と親会社の個別仕訳を分ける。
  4. 取得前後の非支配株主持分を計算する。
  5. 取得対価との差額を資本剰余金で処理する。
  6. 法人税のみなし配当と譲渡対価を分ける。
  7. 消費税の課税対象外取引を、通常の有価証券譲渡と区別する。
誤った処理 正しい考え方
P社の比率を60株÷100株のままにする 自己株式20株を分母から除き、60株÷80株とする
P社でS社株式を追加計上する 取得者はS社なので、P社の個別仕訳はない
S社が支払う240を損失にする 自己株式として株主資本から控除する
連結差額30をのれんにする 支配継続中の資本取引なので、資本剰余金を減額する
消費税上、通常の有価証券譲渡として対価の5%を課税売上割合の分母に入れる 本例の自己株式取得は資産の譲渡等に該当せず、分子にも分母にも入れない

9.5日で定着させる

日 取り組む内容 確認点
1日目 100株、自己株式20株、P社60株から持分比率を計算する 分母を80株にできるか
2日目 S社とP社の個別仕訳を書く S社だけに仕訳があるか
3日目 取得前後の非支配株主持分を計算する 400から190への減少210を求められるか
4日目 連結修正仕訳を作り、借貸を合計する 借方210+30と貸方240が一致するか
5日目 240をみなし配当140と譲渡対価100に分ける 会計、法人税、消費税を混同していないか

まとめ

  • 子会社が自己株式を取得すると、親会社の株式数が同じでも持分比率が上がる。
  • S社の個別仕訳は「自己株式240/現金預金240」で、P社の個別仕訳はない。
  • 連結上は非支配株主持分を210、資本剰余金を30減額する。
  • 支配継続中の資本取引なので、新たなのれんや当期損失は計上しない。
  • 法人税ではみなし配当と譲渡対価を分け、本例の自己株式取得は消費税の課税対象外として扱う。

第206回 子会社株式の追加取得ゼロ入門:非支配株主持分・資本剰余金・取得関連費用を仕訳で整理(5日練習付き)

第205回では、子会社が第三者へ新株を発行し、親会社の持分比率が下がる場面を扱いました。今回は、親会社が非支配株主から既存の子会社株式を買い取り、持分比率を高める場面です。

現金を受け取るのは子会社ではなく、株式を売った非支配株主です。親会社の個別財務諸表では子会社株式が増えます。一方、支配が続く連結財務諸表では新たなのれんを計上せず、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金で処理します。

1.第三者割当増資との違いは「現金の行き先」

項目 子会社の第三者割当増資 親会社による追加取得
動く株式 子会社が新株を発行する 非支配株主が既存株式を売る
現金の受取人 子会社 非支配株主
発行済株式数 増加する 変わらない
親会社の個別処理 引き受けなければ原則として仕訳なし 子会社株式を取得原価で計上する
子会社の個別処理 現金と払込資本が増加する 株主間の売買なので原則として仕訳なし
支配継続時の連結処理 親会社持分の変動差額を資本剰余金とする 追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とする

どちらも連結上は非支配株主との資本取引です。ただし、追加取得では、追加取得日現在の非支配株主持分から、買い取った株式に対応する額を求めます。

2.最初に「支配が続くか」を判定する

取得前 取得後 会計処理の中心
支配していない 支配を獲得する 取得原価の配分とのれんを検討する
支配している 引き続き支配する 非支配株主持分と資本剰余金を処理する
支配している 100%保有になる 追加取得として処理し、非支配株主持分をゼロにする

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第28項は、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減額し、追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金とするよう定めています。

支配獲得時に計上した既存ののれんは従来どおり処理します。今回の追加取得を理由に、新たなのれんや負ののれん発生益は計上しません。

3.設例:75%から90%へ追加取得する

S社の発行済株式数 100株
P社の保有株式 75株、持分比率75%
非支配株主の保有株式 25株、持分比率25%
連結上の非支配株主持分 2,500
P社がA社から取得する株式 15株
株式の売買価額 2,100
取得後のP社持分比率 90%

3-1.減額する非支配株主持分

P社は、非支配株主が保有する25株のうち15株を取得します。非支配株主持分全体の60%です。

2,500×15株÷25株=1,500

減額する非支配株主持分は1,500です。取得後の残高は次のようになります。

2,500-1,500=1,000

実務では、S社の個別純資産だけから計算せず、追加取得日現在の連結精算表にある非支配株主持分を確認します。支配獲得後の利益、配当、評価差額、その他の包括利益累計額などが反映されていることがあるためです。

3-2.資本剰余金の減少額

追加取得持分1,500に対して、P社が支払う株式代金は2,100です。

追加取得持分1,500-追加投資額2,100=△600

追加投資額の方が600大きいため、連結上の資本剰余金を600減額します。

4.個別仕訳と連結修正仕訳

4-1.P社の個別財務諸表

借方科目 金額 貸方科目 金額
子会社株式 2,100 現金預金 2,100

4-2.S社の個別財務諸表

S社は株式を発行せず、現金も受け取りません。P社とA社との株主間取引なので、S社の個別帳簿では原則として仕訳を行いません。

4-3.連結修正仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 2,100
資本剰余金 600 ― ―
合計 2,100 合計 2,100

これは連結精算表上の修正であり、P社やS社の個別帳簿へ記帳する仕訳ではありません。借方・貸方はいずれも2,100です。追加取得による損益や新たなのれんは生じません。

5.残高で検算する

項目 P社個別 連結
現金預金 2,100減少 外部株主への支払いなので2,100減少
子会社株式 2,100増加 相殺消去されるため残らない
非支配株主持分 影響なし 1,500減少し、1,000になる
資本剰余金 影響なし 600減少
当期純利益 影響なし 取得関連費用がなければ影響なし

連結上は現金が2,100減り、純資産も「非支配株主持分1,500+資本剰余金600=2,100」減ります。資産と純資産の減少額が一致します。

6.取得価額が低い場合と資本剰余金が不足する場合

6-1.追加投資額が追加取得持分より少ない場合

同じ15株を1,200で取得したと仮定します。

追加取得持分1,500-追加投資額1,200=300

この場合は、非支配株主持分1,500を借方、子会社株式1,200と資本剰余金300を貸方に記入します。資本剰余金は300増加し、差額を利益にはしません。

6-2.資本剰余金全体が負の値になる場合

設例の追加取得直前に、連結上の資本剰余金残高が400だったとします。今回の600の減額により、資本剰余金全体が200の負の値になります。

連結会計基準第30-2項により、連結会計年度末には資本剰余金をゼロとし、その負の値を利益剰余金から減額します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
利益剰余金 200 資本剰余金 200

振替後の資本剰余金はゼロです。純資産合計は変わりません。

7.取得関連費用60がある場合

株式代金2,100とは別に、株式の購入へ直接要した付随費用60を支払ったと仮定します。この60は、会計上の付随費用であり、税務上も株式の購入に要した費用に該当するものとします。消費税等は設例から除外します。

移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第46-2項では、支配獲得後の追加取得についても、個別財務諸表では付随費用を取得価額に含め、連結財務諸表では取得関連費用を発生した連結会計年度の費用とします。

7-1.P社の個別仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
子会社株式 2,160 現金預金 2,160

7-2.連結修正仕訳

借方科目 金額 貸方科目 金額
非支配株主持分 1,500 子会社株式 2,160
資本剰余金 600 ― ―
取得関連費用 60 ― ―
合計 2,160 合計 2,160

資本剰余金の減額600は、追加取得持分1,500と株式代金2,100の差額です。付随費用60はこの計算に混ぜず、連結上で費用に振り替えます。

7-3.税効果は差異の内訳まで確認する

税務上の子会社株式簿価は、株式代金2,100と取得価額算入対象の費用60を合わせた2,160です。今回の追加取得だけを見ると、次の二つが子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異となります。

内訳 金額
追加投資額2,100と追加取得持分1,500との差額 600
個別の取得原価に残り、連結で費用処理した付随費用 60
合計 660

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第22項では、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、原則として繰延税金資産を計上しません。予測可能な将来の売却等による解消可能性と回収可能性など、所定の要件を満たす場合に計上します。

本設例では将来の売却等に関する意思決定または実施計画がないため、この660について繰延税金資産を計上しません。要件を満たす別の事例では、適用税率と回収可能性を確認し、同適用指針第27項に従って相手勘定も判定します。

8.法人税と消費税

8-1.P社の法人税

国税庁「法人税法(基礎編)」の有価証券に関する解説では、購入した有価証券の取得価額を、購入代価に購入手数料その他の購入に要した費用を加えた金額としています。

本設例では2,160が税務上の取得価額です。株式代金と取得価額算入対象の費用を、取得時の損金にはしません。ただし、通信費や名義書換料など、取得価額に含めないことが認められる支出もあるため、実際の内容に基づく判定が必要です。

8-2.売手A社の法人税

A社の売却株式に係る税務上の譲渡原価が1,300で、譲渡費用や課税繰延べの特例がないと仮定します。

通常得べき対価2,100-譲渡原価1,300=譲渡利益800

法人税法第61条の2により、通常の有価証券譲渡では譲渡利益または譲渡損失を所得計算へ反映します。また、法人税基本通達2-1-22により、相対取引の譲渡損益は原則として約定が成立した日に計上します。

A社は連結グループ外であるため、A社の譲渡利益800はP社の連結損益には入りません。

8-3.消費税

  • 国内で行う株式などの有価証券の譲渡は非課税取引です。株式代金2,100に消費税を上乗せする取引ではありません。
  • A社が課税売上割合を計算する場合、対象となる有価証券の譲渡対価については、その5%相当額を分母の総売上高へ算入します。
  • P社の株式代金は取得額であり、P社の課税売上割合の分母へ売上として入れるものではありません。
  • 仲介や助言に対する手数料は株式代金と分け、課税仕入れへの該当性と仕入税額控除上の区分を確認します。

根拠は、国税庁のNo.6201「非課税となる取引」およびNo.6405「課税売上割合の計算方法」です。

著しく低い価額による売買、完全支配関係のある法人間取引、発行法人による自己株式の取得、組織再編、非居住者・外国法人との取引、個人株主からの取得では、別の検討が必要です。

9.連結キャッシュ・フローと注記

項目 設例の表示
株式代金2,100 連結範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出として、財務活動によるキャッシュ・フロー
関連費用60 営業活動によるキャッシュ・フロー
資本剰余金600の減少 連結株主資本等変動計算書で、非支配株主との取引に係る親会社の持分変動として表示

移管指針第6号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」第9-2項は、支配が継続する追加取得に係る支出を財務活動に、関連費用の支出を営業活動に区分しています。

取引に重要性がある場合は、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第52項により、追加取得した子会社株式の取得原価と対価の内訳、資本剰余金の主な変動要因と金額などを確認します。

10.間違えやすい点

誤りやすい処理 確認方法
持分比率が増えれば、すべて追加取得とする 取得前から支配していたかを先に確認する
支払額だけから非支配株主持分を減らす 追加取得日現在の非支配株主持分から取得株式対応額を計算する
支払額が大きい差額をのれんにする 支配継続中の差額は資本剰余金とする
S社でも現金受領や資本増加を仕訳する 既存株式の株主間売買ならS社は原則として仕訳なし
個別と連結で付随費用を同じ処理にする 個別では取得価額、連結では取得関連費用として処理する
税効果を付随費用だけで判定する 追加取得による持分変動差額を含め、子会社投資全体の一時差異を確認する
追加取得代金を連結CFの投資活動にする 連結範囲が変わらない追加取得は財務活動に区分する

11.5日で定着させる練習

「支配判定→非支配株主持分→対価→仕訳」の順で進めます。

  1. 1日目:取引を分類する

    持分比率が30%から60%、75%から90%、75%から100%へ増える三つのケースを分類してください。

    解答

    他に支配判定へ影響する事情がなければ、30%から60%は支配獲得です。75%から90%と75%から100%は追加取得です。

  2. 2日目:非支配株主持分を計算する

    P社80%、非支配株主20%、非支配株主持分1,800とします。P社が全100株のうち5株を取得した場合の減少額を求めてください。

    解答

    1,800×5÷20=450です。取得後の非支配株主持分は1,350、P社持分比率は85%です。

  3. 3日目:連結仕訳を作る

    2日目の5株を550で取得した場合の仕訳を作ってください。

    解答

    借方は非支配株主持分450と資本剰余金100、貸方は子会社株式550です。借貸はいずれも550です。

  4. 4日目:低い取得価額と付随費用を分ける

    株式代金が400なら資本剰余金はどうなりますか。また、購入へ直接要した付随費用20は個別・連結・法人税でどう扱いますか。

    解答

    追加取得持分450-株式代金400=50なので、連結上の資本剰余金は50増加します。設例の前提では、付随費用20は個別財務諸表と法人税上の取得価額に含め、連結では取得関連費用として費用処理します。

  5. 5日目:期末残高とキャッシュ・フローを確認する

    3日目の取引前の資本剰余金が70だった場合の期末処理を示してください。株式代金550と関連費用20の連結CF区分も答えてください。

    解答

    資本剰余金は100減るため30の負の値になります。期末に利益剰余金30を借方、資本剰余金30を貸方として、資本剰余金をゼロにします。株式代金550は財務活動、関連費用20は営業活動です。

12.まとめ

  • 追加取得は、親会社がすでに支配しており、取得後も支配が続く取引です。
  • 減額する非支配株主持分は、追加取得日現在の残高から取得株式対応額を求めます。
  • 追加取得持分と追加投資額との差額は資本剰余金であり、新たなのれんや損益ではありません。
  • 個別では子会社株式を計上し、連結では追加投資額を消去します。子会社自身には原則として仕訳がありません。
  • 付随費用は個別・連結・法人税で処理が異なります。
  • 税効果は付随費用だけでなく、追加取得による親会社持分の変動差額も含めて確認します。

迷ったときは、「誰が現金を受け取ったか」と「支配が続いているか」を先に書き出してください。その後に非支配株主持分を動かすと、仕訳を組み立てやすくなります。

第205回 子会社の第三者割当増資ゼロ入門:持分比率の希薄化・非支配株主持分・資本剰余金を仕訳で整理(5日練習付き)

第204回では、親会社が子会社株式を一部売却する場面を扱いました。今回は、親会社は株式を売らず、子会社が外部投資家へ新株を発行します。

現金を受け取るのは親会社ではなく子会社です。親会社の個別財務諸表では仕訳がなくても、連結財務諸表では非支配株主持分と資本剰余金が動くことがあります。

1.一部売却との違い

項目 親会社による一部売却 子会社による第三者割当増資
株式を動かす会社 親会社が保有株式を売る 子会社が新株を発行する
現金を受け取る会社 親会社 子会社
発行済株式数 変わらない 増加する
親会社の個別財務諸表 投資を減額し、売却損益を計上する 引受けも売却もしなければ仕訳なし
子会社の個別財務諸表 原則として仕訳なし 現金と払込資本が増加する
支配継続時の連結処理 持分変動差額を資本剰余金とする 持分変動差額を資本剰余金とする

持分比率が下がっただけでは、売却とはいえません。誰が株式を発行し、誰が現金を受け取ったかを先に確認します。

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第30項は、支配関係が続く場合、子会社の時価発行増資等に伴う親会社の払込額と親会社持分の増減額との差額を資本剰余金としています。移管指針第4号第47項では、従来の持分比率でいったん新株を引き受け、その後に追加取得または一部売却をしたものとみなして考えます。

2.設例:親会社が新株を引き受けない場合

S社の発行済株式数 100株
P社の保有株式数 80株
P社の持分比率 80%
S社の修正後純資産 9,000
P社個別貸借対照表上のS社株式の会計簿価 7,200
P社が保有するS社株式の税務簿価 設例では提示しない
外部投資家への発行株式数 20株
1株当たり払込金額 150
払込総額 3,000
P社の引受株式数・払込額 0株・0

払込金額150は、必要な株価算定を経た価額であると仮定します。増資前の1株当たり純資産額90を上回るという理由だけで、時価と判断するものではありません。

増資後の持分比率

80株÷(100株+20株)=66と3分の2%

株主 増資前 増資後 増資後の比率
P社 80株 80株 66と3分の2%
非支配株主 20株 40株 33と3分の1%
合計 100株 120株 100%

P社は議決権の過半数を維持しているため、本設例では支配が続きます。

3.子会社と親会社の個別仕訳

会社法第199条・第445条により、募集株式の払込金額などを定め、株式発行時の払込財産を資本金とするのが基本です。ただし、払込額の2分の1を超えない額は資本金に計上せず、資本準備金にできます。

本設例では、払込額の半分ずつを資本金と資本準備金にします。

S社の個別仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 3,000 資本金 1,500
資本準備金 1,500
合計 3,000 合計 3,000
科目 増資前 増加 増資後
資本金 5,000 1,500 6,500
資本準備金 1,000 1,500 2,500
利益剰余金 3,000 0 3,000
合計 9,000 3,000 12,000

P社の個別仕訳

仕訳はありません。P社は保有株式を売却せず、新株も引き受けていないためです。P社の個別貸借対照表にあるS社株式の会計簿価は7,200のままです。

4.連結上の持分変動

増資前後の修正後純資産を、それぞれの時点の持分比率で配分します。

項目 増資前 増資後 増減
S社の修正後純資産 9,000 12,000 +3,000
親会社持分 9,000×80%=7,200 12,000×80株÷120株=8,000 +800
非支配株主持分 9,000×20%=1,800 12,000×40株÷120株=4,000 +2,200

持分比率は80%から66と3分の2%へ下がりました。一方、親会社持分の金額は7,200から8,000へ増えています。新株の払込金額が増資前の1株当たり純資産額を上回るためです。

この800は、P社の個別財務諸表にあるS社株式を評価替えする金額ではありません。連結上の持分配分から生じた差額です。

親会社持分の増加800-P社の払込額0=資本剰余金800

非支配株主持分の増加=4,000-1,800=2,200

増資分に関する連結修正仕訳

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
資本金(S社増資分) 1,500 非支配株主持分 2,200
資本準備金(S社増資分) 1,500 資本剰余金 800
合計 3,000 合計 3,000

これは連結精算表上の修正です。P社やS社の個別帳簿には記帳しません。

外部から増えた現金 3,000
資本剰余金の増加 800
非支配株主持分の増加 2,200
検算 800+2,200=3,000
増資後の純資産配分 親会社持分8,000+非支配株主持分4,000=12,000

支配が続いているため、800は連結損益ではなく、のれんも計上しません。連結会計基準第28項から第30項までの処理の結果、期末の資本剰余金が負の値となる場合は、同基準第30-2項により資本剰余金をゼロとし、その負の額を利益剰余金から減額します。

5.親会社の引受割合による違い

新株20株のうち、P社が16株を引き受ければ従来の80%を維持できます。

P社の引受け 増資後の持分比率 連結上の見方
16株 (80株+16株)÷120株=80% 従来の比率どおりの引受け
16株未満 80%より低下 不足分を一部売却に準じて考える
16株超 80%より上昇 超過分を追加取得に準じて考える

増資でも、親会社が多く引き受ければ持分比率は上がります。

6.支配が続くかを先に判定する

資本剰余金として処理できるのは、増資後も親会社と子会社の支配関係が続く場合です。

増資後の関係 処理の入口
支配が続く 連結を続け、持分変動差額を資本剰余金とする
支配を失い、重要な影響力が残る 連結範囲から外し、持分法の適用を判定する
支配も重要な影響力も失う 連結範囲から外し、金融商品会計による処理を検討する

議決権の過半数は重要な目安ですが、会計上の支配は比率だけで決まりません。連結会計基準第7項では、40%以上50%以下の場合でも、同一内容の議決権を行使する者、役員構成、重要な方針を支配する契約などを含めて判定します。

7.法人税上の処理

法人税法第22条は、資本金等の額の増減を生ずる取引を資本等取引として、通常の損益取引と区別しています。資本金等の額と有価証券の取得価額については、法人税法施行令第8条・第119条を確認します。

当事者 基本的な整理
発行法人S社 払込額3,000は資本等取引による受入れであり、通常の収益として益金に算入するものではない。資本金等の額は合計3,000増加する
既存株主P社 株式を取得も譲渡もしていないため、増資時の株式譲渡損益は生じない。本設例の前提では、既存のS社株式の税務簿価総額は増資直前の税務簿価から変わらない。ただし、増資直前の税務簿価は提示していないため、会計簿価と同じ7,200であるとは断定できない
新株を引き受ける法人 有利発行に該当しない本設例では、払込額に取得のため直接要した費用を加えた金額が取得価額となる

連結上の資本剰余金800を、P社の法人税申告でそのまま益金800とするわけではありません。連結修正と各法人の所得計算を分けます。

有利発行は本設例の外

払込金額が株式の取得に通常要する価額に比べて有利な場合は、法人税法施行令第119条による取得価額や経済的利益の検討が必要です。会社法上の「特に有利な金額」と税務上の有利発行は、根拠規定と目的が異なります。非上場株式では、帳簿上の1株当たり純資産額だけで結論を出さず、発行条件、株価算定の前提、当事者間の関係を確認します。

8.税効果会計

税効果会計では、P社個別貸借対照表上のS社株式の会計簿価7,200と、その税務簿価を混同しないことが重要です。本設例では増資直前の税務簿価と、増資前から存在する投資に係る一時差異の有無を示していません。そのため、増資後の投資に係る一時差異の総額を800と断定することはできません。

項目 本設例で確認できる金額
P社個別貸借対照表上の会計簿価 7,200
P社が保有するS社株式の税務簿価 提示なし
増資後の連結上の親会社持分 8,000
増資後の税務簿価との差額 8,000-増資直前の税務簿価。税務簿価が未提示のため金額は確定できない

仮に、増資直前の税務簿価も7,200であり、増資前から存在する投資に係る一時差異がないという追加前提を置く場合に限り、増資後の8,000との差額800を、本件増資に伴う連結財務諸表固有の将来加算一時差異として整理できます。この条件を置かない場合は、実際の税務簿価と既存の一時差異を確認して計算します。

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第23項・第27項によれば、親会社が投資の売却等を自ら決めることができ、予測可能な将来に売却等を行う意思がないなどの要件を満たす場合は、繰延税金負債を計上しません。要件を満たさず、時価発行増資等に伴う親会社の持分変動差額に係る繰延税金負債を計上する場合、その相手勘定は資本剰余金です。

本設例では、税務簿価、既存の一時差異、売却方針および適用税率の前提を置いていないため、一時差異の総額と税効果額は計算しません。

9.よくある誤り

誤り 正しい確認
P社が現金3,000を受け取る 現金を受け取るのは新株を発行したS社
P社の個別帳簿で売却益を計上する P社は株式を売却していない
非支配株主持分を3,000増やす 本設例では4,000-1,800=2,200増やす
差額800を連結利益にする 支配継続中の持分変動差額は資本剰余金
P社個別のS社株式を8,000にする 8,000は連結上の親会社持分。個別の会計簿価は7,200のまま
会計簿価7,200をそのまま税務簿価とする 税務簿価は税務上の取得価額やその後の調整を確認する。本設例では金額を提示していない
1株当たり純資産額を税務上の時価と決める 発行条件や株価算定の前提を別に確認する

10.5日で定着させる練習

日 練習内容 確認点
1日目 一部売却との違いを説明する 現金を受け取る会社を区別できるか
2日目 増資前後の株式数と持分比率を計算する 分母に新株数を加えたか
3日目 親会社持分と非支配株主持分を計算する 増資前後の純資産を使い分けたか
4日目 S社個別、P社個別、連結修正の仕訳を書く 個別と連結を混ぜていないか
5日目 確認問題を解く 借貸と純資産残高を検算できるか

確認問題

S社の修正後純資産は6,000、発行済株式は100株です。P社は70株を保有しています。S社が外部投資家へ25株を2,500で時価発行し、P社は引き受けません。増資後も支配は続くものとします。

  1. 増資後のP社持分比率
  2. 親会社持分の増減額
  3. 非支配株主持分の増減額
  4. 連結上の資本剰余金
解答と検算

P社持分比率は70株÷125株=56%です。

増資前の親会社持分 6,000×70%=4,200
増資後の純資産 6,000+2,500=8,500
増資後の親会社持分 8,500×56%=4,760
親会社持分の増加 4,760-4,200=560
増資前の非支配株主持分 6,000-4,200=1,800
増資後の非支配株主持分 8,500-4,760=3,740
非支配株主持分の増加 3,740-1,800=1,940
資本剰余金 親会社持分増加560-P社払込額0=560
最終検算 560+1,940=2,500

連結修正仕訳は、借方のS社払込資本2,500に対し、貸方が非支配株主持分1,940と資本剰余金560です。

まとめ

  • 現金は新株を発行した子会社に入る
  • 親会社が引受けも売却もしなければ、親会社の個別財務諸表では仕訳をしない
  • 支配が続く場合、連結上の持分変動差額は資本剰余金とする
  • 持分比率が下がっても、親会社持分の金額が増えることがある
  • 非支配株主持分は増資前後の残高差で検算する
  • 会計簿価と税務簿価を区別し、税務簿価が未確認なら一時差異の金額を断定しない
  • 連結会計、法人税、有利発行、税効果会計を分けて考える

「株数、支配、個別仕訳、持分配分、資本剰余金」の順に確認すると、売却との混同を防げます。税効果会計まで検討するときは、これに税務簿価と既存の一時差異の確認を加えます。