学びを始めたばかりのとき、引当金と準備金の違いや仕訳のタイミングでつまずきやすいです。特に「決算日時点で何が未提供(未経過)か」を見落とすと、仕訳や税務判断で誤りが出ます。本稿では、初学者が読み進めやすいよう表で整理し、代表的な引当金の仕訳・税務上の扱いと、すぐに続けられる実践メニューを提供します。
まず短く定義(本記事での扱い)
引当金:将来に生じる見込まれる特定の費用や損失に備えて計上する負債性の勘定科目。準備金:会計上/税務上の意味合いが広く、資本的なものや経常的な積立を含む。この記事では、経常的な見積りに基づく「引当金」に焦点をあて、代表例として貸倒引当金・賞与引当金・修繕引当金を取り扱います。
引当金の種類とイメージ
| 種類 | 会計上のイメージ | 代表的な仕訳科目 |
|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 回収不能見込みの債権に対する将来損失の見積り(負債の増加) | 貸倒損失(費用)/貸倒引当金(負債) |
| 賞与引当金 | 決算日における未払賞与の見積り(発生主義に基づく費用計上) | 賞与手当(費用)/賞与引当金(負債) |
| 修繕引当金 | 将来予定される大規模修繕等に備えた見積り(発生時期が確定していない場合は留意) | 修繕費(費用)/修繕引当金(負債) |
| その他(参考) | 退職給付引当金は第110回で扱った通り特殊性あり | 退職給与引当金 等 |
各引当金ごとの仕訳(発生時/戻入/実際支出)
貸倒引当金(期末の見積り)
| 事象 | 仕訳(借方/貸方) | 補足(決算日時点の未提供・未経過の状態) |
|---|---|---|
| 発生時(見積り計上) | 貸倒損失 XXX / 貸倒引当金 XXX | 決算日時点で回収不能または回収不能見込みがある債権が存在する(未回収) |
| 戻入(見込み減少) | 貸倒引当金 YYY / 貸倒益(戻入益) YYY | 決算日時点で回収見込みが改善し、見積りを減額する場合 |
| 実際の回収不能確定時(債権の償却) | 貸倒引当金 ZZZ / 売掛金等 ZZZ | 既に当期以前に引当計上済みの部分を実際に取り崩す(現金の支出はない) |
賞与引当金(従業員への賞与)
| 事象 | 仕訳(借方/貸方) | 補足(決算日時点の未提供・未経過の状態) |
|---|---|---|
| 発生時(決算で見積計上) | 賞与手当 AAA / 賞与引当金 AAA | 決算日時点で支給日が翌期で支払が未発生(未提供)だが、当期に発生した費用として見積る |
| 戻入(見積り減) | 賞与引当金 BBB / 賞与手当(戻入) BBB | 見積りが過大であったと判明した場合に戻す |
| 実際支払時 | 賞与引当金 CCC / 現金預金 CCC | 決算時に計上した引当金を取り崩して支払う(支払日が翌期) |
修繕引当金(定期的大修繕等)
| 事象 | 仕訳(借方/貸方) | 補足(決算日時点の未提供・未経過の状態) |
|---|---|---|
| 発生時(見積計上) | 修繕費 DDD / 修繕引当金 DDD | 将来予定の定期的な大規模修繕について、決算日時点では支出が未発生(未経過)だが費用計上する場合 |
| 戻入(見積り減) | 修繕引当金 EEE / 修繕費(戻入) EEE | 見積りを減額する場合 |
| 実際支出時 | 修繕引当金 FFF / 現金預金 FFF | 決算時に計上した引当金を取り崩して修繕支出を充当する |
税務上の扱い(損金算入の可否と条件)
| 引当金 | 税務上の取扱い(損金算入/不算入) | 条件・留意点(認容される主な要件) |
|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 原則として損金算入(一定の要件あり) | 回収可能性の合理的な見積り、法人税法上の計算方法(個別評価・一括評価の区別等)に従う必要あり |
| 賞与引当金 | 損金算入が認められる場合あり | 支給額の算定根拠が明確であること、決算日時点で発生主義に基づく見積りが妥当であること(支給予定日・支給対象者が確定していることが重要) |
| 修繕引当金 | 原則、損金不算入となることが多い(例外あり) | 通常は費用処理が認められず、資産の減価償却や修繕費で処理するのが原則。ただし、法人税法上の特例や明確な計画・契約に基づく時は認容される場合があるため慎重な判定が必要 |
試験で押さえるチェックリスト
| チェック項目 | ポイント解説 |
|---|---|
| 決算日時点での発生・未提供の有無 | 支払日が翌期でも当期に発生しているか(発生主義)を判断する |
| 見積りの合理性 | 根拠となる資料(履歴、見積書、契約等)があるかを確認する |
| 税務上の認容条件 | 該当する引当金が税法上どう扱われるか(損金算入可否)を確認する |
| 既出テーマとの関係 | 貸倒は第100回(税効果会計)と関連。退職給付は第110回を参照し、重複を避ける |
実践メニュー(『続けられる』ための小さな習慣)
1) 仕訳ドリル(代表ケース5問)
- (貸倒)12月31日決算。売掛金500,000円のうち、得意先Aについて回収不能見込みが100,000円ある。引当計上する仕訳は?(決算日時点で未回収・未償却)
- (賞与)12月31日決算。支給予定日が翌年3月で、支給見込額300,000円。従業員と支給条件が確定している。仕訳は?(決算日時点で支払未実行)
- (修繕)12月31日決算。大規模修繕の契約はないが、過去実績から見積りで200,000円を引当てる場合、仕訳は?(決算日時点で支出未発生)
- (戻入)前年に貸倒引当金として150,000円計上していたが、回収見込みが改善し50,000円を戻す場合の仕訳は?
- (実支出)賞与引当金200,000円を翌期に実際支払ったときの仕訳は?(決算で引当計上済)
2) 問題の解答(仕訳)
| 問 | 仕訳(借方/貸方) |
|---|---|
| 1 | 貸倒損失 100,000 / 貸倒引当金 100,000 |
| 2 | 賞与手当 300,000 / 賞与引当金 300,000 |
| 3 | 修繕費 200,000 / 修繕引当金 200,000 |
| 4 | 貸倒引当金 50,000 / 貸倒益(戻入) 50,000 |
| 5 | 賞与引当金 200,000 / 現金預金 200,000 |
3) 税務判定フローチャート(表形式)
| Step | 判定内容(簡易) |
|---|---|
| 1 | 決算日時点で費用が発生しているか(発生主義)を確認する |
| 2 | 見積りの根拠(契約・履歴・見積書等)があるかを確認する |
| 3 | 該当する引当金が法人税法上損金算入可か否かを判定する(例:貸倒は原則可、修繕は原則不) |
| 4 | 税務上不明瞭な点は注記・社内資料で保管し、必要なら税務相談を行う |
4) 週次チェックリスト(15分×3回で定着)
| 回 | 内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| 1 | 引当金の定義と各種類の仕訳を復習(表を読む) | 15分 |
| 2 | 仕訳ドリル2問を解き、答え合わせ | 15分 |
| 3 | 税務上の判定フローを1つケースで検証する(ノートに根拠を書く) | 15分 |
まとめと次の学習への案内
引当金は「決算日時点で何が未提供(未経過)か」を見極めることが最も大切です。貸倒引当金は回収可能性の合理的な見積りが重要で、賞与引当金は支給条件の確定度がポイント、修繕引当金は税務上の取扱いが厳格である点に注意してください。仕訳の型を表で覚え、短いドリルを継続することで確実に身につきます。
関連:第100回(税効果会計)/第98回(有形固定資産)/第110回(退職金)。これらの記事と合わせて学ぶと、引当金と繰延税金の関係や固定資産の費用処理との整合がわかりやすくなります。
次回は「引当金が実務でどのように注記されるか(注記例と試験的表現)」を予定しています。小さな習慣を続けていきましょう。
