ここまでで、お金の流れや5つのグループ(資産・負債・純資産・収益・費用)のイメージを見てきました。
今回はよく聞かれる
「家計簿と簿記って何が違うの?」
というテーマを、ざっくり整理してみます。
1.家計簿は「いくら使ったか」をざっくり見るノート
多くのご家庭で使っている家計簿は、
一言でいうと
「現金や銀行口座がどれくらい減ったかを追いかけるノート」
です。
たとえば、こんな感じです。
- 3/5 スーパー 食費 4,000円
- 3/10 電気料金 6,500円
- 3/25 給料日 +250,000円
ここで気にしているのは、
「今月いくら使ったか」「残高がどれくらいか」
という点です。
少し乱暴に言えば、
「財布や口座から出ていったお金」だけ分かれば目的は達成されます。
ですから、家計簿は次のような特徴を持っています。
- 現金・預金の出入りが中心(お金の動きだけ)
- お金を払った日ベースで記録(現金主義)
- 1行に1つの数字を書く単式の形が多い
- 目的は家計の管理・使い過ぎのチェック
これに対して、会社で行う簿記は、もう少し「ガチ」です。
2.簿記は「もうけ」と「財産」をきちんと説明する仕組み
会社が行う簿記は、
「今年どれくらいもうかったのか」と
「今どれくらい財産があるのか」を、
税務署や銀行、株主などの第三者にも説明できる形で示すための仕組みです。
そのために、家計簿よりも少し厳密なルールが必要になります。
- 現金だけでなく、ツケ(掛取引)やモノ(商品・建物など)も記録
- お金を払った日ではなく、約束が発生した日で費用・収益を計上(発生主義)
- 左側(借方)と右側(貸方)の2つの側に記録する「複式簿記」
- 目的は、利益の計算と財産・負債の把握
文章だと分かりづらいので、図1で家計簿と簿記を並べて比較しています。
3.図で比較:家計簿と簿記のちがい
図1:家計簿と会社の簿記のちがい(ざっくり)では、
左に「家計簿」、右に「会社の簿記」の箱を置き、
次のようなポイントを書き込んであります。
- 家計簿:
現金中心/支払った日ベース/単式/家計管理が目的 - 会社の簿記:
現金+掛け+モノ/約束が発生した日ベース/複式簿記/利益計算と財産管理が目的
イメージとしては、
家計簿は「ざっくり管理」、
簿記は「きっちり説明」のための道具、と考えると分かりやすいです。

4.現金主義と発生主義の違いを、具体例で見てみる
家計簿と簿記の違いで、いちばん大きいのが
「いつ費用として記録するか」という発想です。
ここでは、スマホの電話料金を例にしてみましょう。
- 3月:スマホを使って電話をしている
- 4月上旬:3月分の利用について、請求書が届く
- 4月末:口座から料金が引き落とされる
このとき、家計簿と簿記では記録のタイミングが変わります。
家計簿(現金主義)
- 4月末、口座からお金が引き落とされたタイミングで
「通信費 〇〇円」と1回だけ記録する。
簿記(発生主義)
- サービスを受けた3月分の電話料金として、「通信費」を計上する。
- まだ支払っていないので、「未払金」という負債も同時に計上する。
- 4月末に実際に支払ったとき、「未払金の支払」として処理する。
つまり簿記では、
「サービスを受けた月の成績に、その費用をきちんと入れる」
ことを大事にしています。
この違いを、図2:現金主義と発生主義のちがい(電話料金の例)で整理しています。

5.なぜ簿記はそこまで細かくする必要があるの?
「そんなに細かく分けなくても、トータルで払っている額は同じでは?」
と感じるかもしれません。
しかし、会社の場合は次のような理由から、
「いつの利益なのか」を正しく分ける必要があります。
- 銀行や投資家に対して、「今年どれくらいもうかったか」を説明する必要がある
- 税金(法人税など)は、「その年のもうけ」をもとに計算される
- いつも同じルールで計算しないと、去年と今年の比較ができない
そのため、発生主義(サービスを受けたタイミングで費用を認識)という考え方が使われています。
6.家計簿ができる人は、簿記もきっと得意になれる
ここまで読むと、「簿記ってなんだか難しそう…」と感じるかもしれません。
ただ、家計簿をちゃんとつけられる人は、簿記の素質アリです。
違いをざっくりまとめると:
- 家計簿:
「お金が減った瞬間」に印をつける習慣づくり - 簿記:
その印を、5つの箱(資産・負債・純資産・収益・費用)のどこに入れるかまで整理する作業
つまり簿記は、家計簿に「箱分け」と「約束の管理」が加わったイメージです。
今の段階では、そこまで構えなくて大丈夫なので、
- 家計簿は現金ベース・1行だけ
- 簿記は、約束も含めて2つの側に記録する
この2点が頭に残っていれば十分です。
7.今回のまとめと、次回予告
今回のポイントを整理すると:
- 家計簿は、現金の出入りを中心に「いくら使ったか」を見るノート
- 簿記は、第三者に説明できる形で「利益」と「財産」を示すしくみ
- 家計簿は支払った日ベース(現金主義)、簿記はサービスを受けた日ベース(発生主義)
- 簿記では、掛取引やモノ(商品・建物など)も含めて5つの箱に分けて整理する
次回は、ここまでの話を踏まえて、
「仕訳って結局何をしているの?」というテーマに入っていきます。
簿記の世界で何度も出てくる「借方・貸方」の入口を、できるだけやさしく解説していきます。



