前回は、減価償却の仕訳について見ました。
長期間使う資産については、買ったときに全額を費用にするのではなく、使った分だけをその年の費用にしていく、という考え方が大切でした。
今回は、決算整理の中でもよく出てくる「前払費用」と「未払費用」について見ていきます。
このあたりから、簿記は少し会計らしくなってきます。
ただ、難しく見えても、やっていることの本質は同じです。
「その期に属する費用を正しく計上する」
ただそれだけです。
1.なぜこの整理が必要なのか
日々の取引では、現金を支払ったときに費用を記録したり、請求書が来たときに記録したりします。
しかし、現金の支払時期と、費用がその期に属するかどうかは、必ずしも一致しません。
たとえば、1年分の保険料をまとめて先に支払うことがあります。
このとき、支払ったのは今年でも、そのうちの一部は来年の分かもしれません。
反対に、今月分の水道光熱費や家賃をまだ支払っていなくても、すでに今期に使った分として費用にすべき場合もあります。
つまり、現金の動きに合わせるだけでは、期間ごとの成績が正しく出ないのです。
そこで、決算時に調整が必要になります。
2.前払費用とは何か
前払費用とは、まだサービスを受けていない将来の分について、先に支払ってしまった費用のことです。
代表的な例としては、保険料、家賃、地代などがあります。
たとえば、12月1日に1年分の保険料12万円を現金で支払ったとします。
この場合、12月中に使った分は1か月分だけです。
残りの11か月分は、まだ来期の分です。
にもかかわらず、12万円全部を今年の費用にしてしまうと、今年の費用が多くなりすぎてしまいます。
そこで、来期分を費用から外して、資産として処理する必要があります。
これが前払費用です。
3.前払費用の考え方
前払費用は、すでに現金を支払っているので、一見するともう終わった取引のように見えます。
しかし会計では、
「支払ったかどうか」よりも「その期に属するかどうか」
のほうが大切です。
来期分はまだこれから受けるサービスに対応するものですから、今年の費用にはできません。
したがって、その部分は資産として翌期へ繰り越します。
つまり前払費用とは、
「将来のために先に支払ってあるもの」
と考えるとわかりやすいでしょう。
4.前払費用の仕訳例
では、先ほどの例で考えてみます。
12月1日に1年分の保険料12万円を支払ったとします。
支払時には、通常
(借)保険料 120,000 / (貸)現金 120,000
と記帳します。
しかし、決算日が12月31日なら、そのうち当期分は1か月分だけです。
1年分12万円ですから、1か月分は1万円、残り11万円は来期分になります。
そこで決算時に、
(借)前払費用 110,000 / (貸)保険料 110,000
という仕訳をします。
こうすることで、今年の費用は1万円だけが残り、残り11万円は資産として翌期へ繰り越されます。
5.未払費用とは何か
これに対して未払費用は、すでに当期にサービスを受けているのに、まだ支払っていない費用です。
代表的なものには、給料、家賃、水道光熱費、利息などがあります。
たとえば、12月分の家賃10万円を翌年1月に支払う契約だとします。
この場合、12月中に事務所は使っていますから、12月分の家賃は今年の費用にしなければなりません。
しかし、まだ現金は支払っていません。
このままでは今年の費用が少なく出てしまいます。
そこで、未払費用として計上するのです。
6.未払費用の考え方
未払費用も、基本は前払費用と同じです。
大切なのは、
「現金を払ったかどうか」ではなく、「その期に属しているかどうか」
です。
すでにその期にサービスを受けているなら、その分はその期の費用です。
まだ払っていないからといって、翌期の費用にしてはいけません。
したがって、決算時には負債として計上します。
つまり未払費用とは、
「すでに受けたサービスの代金で、まだ払っていないもの」
です。
7.未払費用の仕訳例
たとえば、12月分の家賃10万円を翌年1月に支払う場合、決算日である12月31日には、まだ支払いはしていません。
しかし、12月分はすでに使った費用です。
そこで決算時に、
(借)支払家賃 100,000 / (貸)未払費用 100,000
という仕訳をします。
こうしておけば、今年の損益計算書には正しく家賃10万円が費用として載ります。
そして翌年実際に支払うときに、未払費用を取り崩すことになります。
8.前払費用と未払費用は反対の関係
ここまで見るとわかるように、前払費用と未払費用は、ちょうど反対の関係にあります。
- 前払費用:先に払ったが、まだ来期分なので資産になる
- 未払費用:まだ払っていないが、当期分なので負債になる
つまり、
前払費用は「払いすぎて先に持っている権利」
未払費用は「まだ払っていない義務」
と考えると整理しやすくなります。
この整理がつくと、借方・貸方も迷いにくくなります。
9.試験で混乱しやすいポイント
この論点でよくあるミスは、現金の動きに引っ張られてしまうことです。
たとえば、先に払ったのだから全部費用でよい、まだ払っていないのだから費用ではない、と考えてしまうと間違えます。
簿記では、現金のタイミングではなく、どの期間に属するかを見なければなりません。
また、前払費用は資産、未払費用は負債、という整理もよく問われます。
単なる言葉の暗記ではなく、意味とセットで理解することが大切です。
10.実務でも非常に自然な処理
実務的に考えると、この処理はむしろ自然です。
たとえば、保険料を1年分まとめて払ったからといって、その効果が全部今年だけにあるわけではありません。
来年にも及ぶなら、その分は来年の費用にすべきです。
また、今月分の家賃を来月払う契約でも、事務所を今月使った以上、その費用は今月分です。
会計は、現金の出入りをそのまま書き写すだけではなく、会社の活動をより正確に表そうとしています。
前払費用と未払費用は、その考え方がよく表れている論点です。
11.まとめ
前払費用と未払費用は、どちらも費用を正しい期間に配分するための決算整理です。
前払費用は、先に支払ったけれど来期分であるため、当期の費用から外して資産にします。
未払費用は、まだ支払っていないけれど当期分であるため、当期の費用として計上し、負債にします。
大切なのは、
「払ったかどうか」ではなく、「その費用がどの期に属するか」
という視点です。
ここが理解できると、決算整理の考え方がかなり見えてきます。
次回は、この流れで前受収益と未収収益について見ていきましょう。
