前回は、減価償却はなぜ必要なのかを見ました。
建物や備品のように長期間使う資産は、買った年に全額を費用にするのではなく、使用する期間にわたって少しずつ費用にしていく、というのが基本の考え方でした。
今回は、その考え方を実際の仕訳と結びつけて見ていきます。
減価償却の仕訳は、最初は少しとっつきにくく感じるかもしれません。
しかし、意味がわかれば、やっていることはそれほど難しくありません。
大事なのは、
「資産として持っていたものの一部を、その年の費用に振り替えている」
と理解することです。
1.まず購入時の仕訳を思い出す
たとえば、会社が備品を60万円で現金購入したとします。
このときの仕訳は、
(借)備品 600,000 / (貸)現金 600,000
です。
ここで大事なのは、この時点ではまだ費用ではない、ということです。
備品は今後何年にもわたって使うものですから、まずは資産として処理します。
つまり、会社が現金を使って「将来の事業に役立つもの」を手に入れた、という形です。
2.決算時に何をするのか
ところが、その備品は使っていくうちに、少しずつ事業のために消費されていきます。
そこで決算時には、その年に使った分だけを費用にする必要があります。
これが減価償却です。
たとえば、60万円の備品を5年間使うとすれば、毎年の減価償却費は
600,000 ÷ 5 = 120,000円
になります。
この1年分12万円を、その年の費用として計上するのです。
3.基本の仕訳
このときの基本的な仕訳は、次のようになります。
(借)減価償却費 120,000 / (貸)減価償却累計額 120,000
借方の減価償却費は、その年の費用です。
一方、貸方の減価償却累計額は、資産の価値がこれまでにどれだけ費用化されたかを積み上げていく勘定です。
この形が、減価償却の基本になります。
4.なぜ貸方が備品ではなく減価償却累計額なのか
ここで疑問に思う人が多いのが、
「なぜ貸方は備品ではないのか」
という点です。
たしかに考え方としては、備品の価値が減っているのですから、備品を直接減らしてもよさそうに見えます。
しかし、実務や簿記の学習では、通常は備品そのものの取得原価はそのまま残しておき、減った分だけを減価償却累計額として別に記録します。
こうすると、
- もともとの取得原価はいくらだったのか
- これまでにどれだけ償却したのか
- 残りの帳簿価額はいくらなのか
がわかりやすくなります。
つまり、資産の元の姿を残しながら、減った分を別に管理しているのです。
5.貸借対照表ではどう見えるのか
たとえば、60万円の備品について、1年分12万円の減価償却を行ったとします。
貸借対照表では、
- 備品 600,000円
- 減価償却累計額 120,000円
という形になり、差し引きした帳簿価額は
600,000円 - 120,000円 = 480,000円
になります。
つまり、備品そのものは60万円で取得した事実を残しつつ、今までに12万円分は費用化済みですよ、ということがわかるわけです。
6.直接法という考え方もある
実は減価償却には、備品などの資産勘定を直接減らしていく考え方もあります。
これを直接法といいます。
たとえば直接法なら、
(借)減価償却費 120,000 / (貸)備品 120,000
のような仕訳になります。
ただし、簿記の学習や実務では、減価償却累計額を使う間接法が中心になることが多いので、まずはそちらを確実に理解しておくのがよいでしょう。
最初の段階では、
「費用は借方、価値の減少は貸方で累計額にためる」
と覚えておけば十分です。
7.月割り計算が出てくることもある
減価償却は、1年まるごと使ったとは限りません。
たとえば、期の途中で備品を購入した場合、その年は使った月数分だけ減価償却を行います。
たとえば、60万円の備品を年の途中、10月1日に購入し、耐用年数5年、毎年均等償却とすると、1年分は12万円です。
しかし、その年に使ったのは10月から12月までの3か月だけです。
したがって、その年の減価償却費は
120,000 × 3/12 = 30,000円
となります。
仕訳は、
(借)減価償却費 30,000 / (貸)減価償却累計額 30,000
です。
試験ではこの月割り計算がよく出るので、注意が必要です。
8.なぜ現金が動かなくてもこの仕訳をするのか
前回も触れましたが、減価償却の仕訳をするとき、現金は出ていきません。
それでも費用を計上するのは、現金の動きではなく、その年に使った資産の価値を表しているからです。
購入時に支払った現金は、すでに過去の話です。
しかし、その資産は今も事業に使われています。
だから、その年に使った分だけを、その年の費用として認識するのです。
ここがわかると、減価償却費は「現金支出のない費用」だとしても、十分に意味のある処理だと理解できます。
9.試験で間違えやすいポイント
減価償却の仕訳では、次のようなミスが起こりやすいです。
- 借方と貸方を逆にしてしまう
- 減価償却累計額ではなく、いきなり現金を使ってしまう
- 1年分そのままで計算し、月割りを忘れる
- 取得原価と減価償却費を混同する
特に、減価償却費は費用だから借方、という基本をしっかり押さえることが大切です。
そして貸方は、価値が減った分を累計額として記録する、と考えると整理しやすくなります。
10.実務感覚で考えると自然に見える
実務的に見れば、この仕訳は「備品の使用分を1年ごとに費用へ振り替えている」と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば、会社で使うコピー機やパソコンは、毎日少しずつ事業のために役立っています。
その価値を一気に費用にするのではなく、使う期間に応じて少しずつ配分する。
それを帳簿の形にしたのが減価償却の仕訳です。
言い換えれば、簿記は単に数字を動かしているのではなく、会社の活動を時間の流れに合わせて正しく表そうとしているのです。
11.まとめ
減価償却の仕訳は、長期間使う資産の取得原価を、その年に使った分だけ費用として計上するための処理です。
基本の仕訳は、
(借)減価償却費 ×× / (貸)減価償却累計額 ××
です。
借方の減価償却費は当期の費用を表し、貸方の減価償却累計額はこれまでに費用化した金額の累計を表します。
最初は形だけを覚えたくなりますが、
「資産の一部を、その年の費用に振り替えている」
と理解すると、ずっとわかりやすくなります。
次回は、減価償却と並んで重要な決算整理である前払費用・未払費用について見ていきましょう。
