第25回 簿記入門(18) 決算の全体像・総復習

第25回 簿記入門(18)
決算とは何をしているのか
― 仕訳から財務諸表までを一気に整理する ―

第20回から第24回にかけて、
私たちは決算の流れを段階的に見てきました。

今回はそれをまとめて、
決算とは結局、何をしている作業なのか
を整理します。


1. 決算とは何のために行うのか

決算の目的は、ひとことで言えば次の通りです。

一定期間(通常は1年)の
経営成績財政状態
正しく外部に示すこと

そのために、日々の取引をそのまま集計するのではなく、
決算特有の調整を行います。


2. 決算の全体像(流れの整理)

決算は、次の順序で進みます。

段階 何をしているか
日々の仕訳 取引をその都度記録(現金に近い)
試算表 記録が正しいかを確認
決算整理仕訳 期間のズレを修正(発生主義)
精算表 決算作業全体を一覧で確認
財務諸表 結果を外部に報告

3. 決算整理でやっていること(再確認)

決算整理仕訳では、次のような処理を行いました。

処理内容 意味
減価償却 過去の支出を期間配分
前払・未払 費用の時間調整
前受・未収 収益の時間調整
引当金 将来リスクの見積り

これらはすべて、

現金ではなく「期間」で
利益を正しく計算するための処理

でした。


4. 精算表の役割(総整理)

精算表は、決算の中でも特に重要な位置にあります。

役割 意味
整理 決算整理の影響を横断的に確認
確認 計算ミス・転記ミスの防止
橋渡し 試算表から財務諸表への接続

5. 財務諸表で最終的に何が分かるのか

決算の最終成果物は、
損益計算書(P/L)貸借対照表(B/S)です。

書類 分かること
損益計算書 1年間でどれだけ儲かったか
貸借対照表 期末時点でどれだけの財産があるか

決算とは、
この2つを正しく作るための一連の作業
だと言えます。


まとめ

  • 決算は「特別な作業」ではない
  • 日々の取引を期間で整理し直すだけ
  • 精算表は決算の地図
  • 最終目的は正しい財務諸表

ここまで理解できれば、
決算は暗記ではなく、流れで説明できる
ようになります。


次回予告

次回からは、
決算で作った財務諸表の読み方に進みます。

数字の意味を、
経営の視点で読み取る練習をしていきます。

第24回 簿記入門(17) 精算表と財務諸表の関係

第24回 簿記入門(17)
精算表から財務諸表をどう読み取るのか
― 損益計算書・貸借対照表が完成する瞬間 ―

前回(第23回)では、
精算表は決算作業を一覧で確認するための表
だということを学びました。

今回は一歩進んで、
精算表のどこを見れば、損益計算書と貸借対照表が完成するのか
を整理します。


1. 精算表は「完成図」ではない

まず大切な前提を確認します。

精算表そのものが、
財務諸表ではありません。

精算表はあくまで、

  • 決算整理が正しく行われたか
  • 数字がどこへ流れていくか

を確認するための途中経過の表です。


2. 精算表の「右側」が重要

精算表は横に区分が並んでいますが、
実際に財務諸表になるのは、右側の欄です。

精算表の欄 役割
損益計算書欄 収益・費用を集め、当期純利益を計算する
貸借対照表欄 資産・負債・純資産を確定させる

左側(試算表・決算整理欄)は、
あくまで「そこへ至るまでの過程」です。


3. 損益計算書はどこから作るのか

損益計算書(P/L)は、

精算表の「損益計算書欄」だけを縦に集計して作る

書類です。

精算表の項目 損益計算書での扱い
収益の金額 上から順に合計される
費用の金額 収益から差し引かれる
差額 当期純利益(または損失)

つまり、
精算表の右側を見れば、すでにP/Lは完成している
ということです。


4. 貸借対照表はどこから作るのか

貸借対照表(B/S)も同じです。

精算表の「貸借対照表欄」だけを集計して作る

精算表の項目 B/Sでの意味
資産 期末時点で会社が持っている財産
負債 将来支払う義務
純資産 返済不要の自己資本

ここに、

損益計算書で確定した当期純利益が、
純資産として組み込まれる

ことで、
貸借対照表が完成します。


5. 精算表から財務諸表を読むコツ

精算表を見て混乱しないためには、
次の見方を意識すると効果的です。

見るポイント 理由
左右の合計が一致しているか 計算ミス・転記ミスの防止
P/L欄とB/S欄を分けて考える 役割の混同を防ぐ
利益がどこへ行ったか 損益と財産のつながりを理解する

まとめ

  • 精算表は「流れ」を確認する表
  • 右側の欄が財務諸表の元データ
  • P/Lで利益を確定し、B/Sへ引き継ぐ
  • 精算表が読めれば、決算は怖くない

ここまで理解できれば、
決算の全体像は完全に頭の中で再現できる
ようになります。


次回予告(第25回)

次回は、
決算の全体像を最初から最後まで総復習します。

仕訳 → 決算整理 → 精算表 → 財務諸表、
その流れを一気に整理します。

第23回 簿記入門(16) 精算表

第23回 簿記入門(16)
精算表とは何をしている表なのか
― 決算の全工程を1枚で確認する ―

前回(第22回)では、
損益振替・資本振替によって帳簿を締める意味を整理しました。

今回は、決算作業の流れを
1枚の表でまとめて確認できる道具
精算表を扱います。


1. 精算表とは何か

精算表とは、

試算表から決算整理、
そして損益計算書・貸借対照表までの流れを
一覧で確認するための表

です。

大切なポイントは、

  • 帳簿そのものではない
  • 試験や学習用に作られた「整理のための表」

だということです。


2. 精算表は何のために使うのか

決算では、

  • 決算整理仕訳
  • 損益計算書の作成
  • 貸借対照表の作成

と、多くの作業が連続します。

精算表は、それらを

「ちゃんとつながっているか」
「数字が合っているか」

を確認するためのチェックシートです。


3. 精算表の基本構造

精算表は、横に区分が並ぶ形をしています。

区分 内容
試算表 決算整理前の残高
決算整理 前払・未払・減価償却などの修正
損益計算書 収益・費用を集計
貸借対照表 資産・負債・純資産を集計

左から右へ見ていくことで、
決算の流れをそのまま追える構造になっています。


4. 具体例で見る精算表の考え方

例えば、次のような決算整理があったとします。

内容 処理
前払家賃が1か月分残っていた 前払費用として資産計上
給料の未払いがあった 未払費用として負債計上

これらは、

  • 決算整理欄で修正され
  • 損益計算書欄に費用が反映され
  • 貸借対照表欄に資産・負債が反映される

という流れで、
横方向につながっていきます


5. 精算表を見るときのコツ

精算表は、
細かい数字を追うよりも、次の点を見るのが大切です。

チェックポイント 見る理由
左右が必ず一致しているか 仕訳のミスを防ぐため
決算整理がどこに影響しているか 処理の意味を理解するため
P/LとB/Sに正しく振り分けられているか 財務諸表作成の確認

まとめ

  • 精算表は決算作業の「地図」
  • 帳簿ではなく、整理・確認のための表
  • 決算の流れを横に追えるのが最大の特徴
  • 理解できれば、決算は一気に楽になる

精算表を使って考えられるようになると、
決算は暗記ではなく流れで処理できるようになります。


次回予告(第24回)

次回は、
精算表と財務諸表の関係をもう一歩深めます。

精算表のどこを見れば、
損益計算書・貸借対照表が完成するのかを整理します。

第22回 簿記入門(15) 損益振替・資本振替

前回(第21回)では、
決算整理後試算表から、損益計算書と貸借対照表が作られる
ことを確認しました。

今回はその続きとして、
帳簿を締める作業、つまり
損益振替・資本振替を扱います。


1. 帳簿を「締める」とは何をすることか

「帳簿を締める」と聞くと、
特別な作業を想像しがちですが、やっていることはシンプルです。

1年間使った勘定科目をリセットし、
次の期をゼロから始められるようにする

そのために使われるのが、
損益振替資本振替です。


2. なぜ振替が必要なのか

収益や費用の勘定は、
1年間の成績を記録するためのものです。

そのまま残してしまうと、
翌年の成績と混ざってしまいます。

そこで、

  • 今年の収益・費用 → 今年で完結させる
  • 翌年はまたゼロから記録する

という区切りをつける必要があります。


3. 損益振替とは何か

損益振替とは、

すべての収益・費用を、
「損益」勘定に集める作業

です。

対象 意味
収益 すべて損益勘定へ振り替える
費用 すべて損益勘定へ振り替える

この結果、
損益勘定の残高=当期純利益(または損失)
になります。


4. 資本振替とは何か

資本振替は、損益振替の次のステップです。

損益勘定に集まった利益(または損失)を、
資本(純資産)へ移す作業

振替内容 意味
利益の場合 純資産が増える
損失の場合 純資産が減る

これにより、
今年の成績が、会社の財産に反映されます。


5. 損益振替と資本振替の関係(整理)

手順 何をしているか
損益振替 収益・費用をまとめて、当期の利益を確定
資本振替 確定した利益を、純資産に組み込む

この2つを行うことで、
帳簿は次の期に向けてリセットされます。


まとめ

  • 帳簿を締める=区切りをつける
  • 損益振替で「今年の成績」を確定
  • 資本振替で「会社の財産」に反映
  • 翌期はまたゼロからスタート

ここまで理解できれば、
決算の流れは完全に一本につながります。


次回予告(第23回)

次回は、
精算表とは何かを扱います。

決算整理・損益振替・財務諸表作成を、
1枚でまとめる道具として整理します。

第21回 簿記入門(14) 決算整理後試算表と財務諸表

第21回 簿記入門(14)
決算整理後試算表から財務諸表はどう作られるのか
― 損益計算書と貸借対照表の正体 ―

前回(第20回)では、
決算整理仕訳とは「期間のズレを直す作業」だということを学びました。

今回はいよいよ、その結果がどのように
損益計算書(P/L)貸借対照表(B/S)になるのかを見ていきます。


1. 決算整理後試算表とは何か

決算整理後試算表とは、

決算整理仕訳をすべて反映させたあとの
最終的な勘定科目の一覧表

です。

ここには、

  • 費用・収益(1年間の結果)
  • 資産・負債・純資産(期末の状態)

がすべてそろっています。


2. 決算整理後試算表の中身

決算整理後試算表は、大きく見ると次の2種類の科目でできています。

種類 内容
損益計算書項目 収益・費用(その年の成績)
貸借対照表項目 資産・負債・純資産(期末の財産状況)

3. 損益計算書はどう作られるのか

損益計算書(P/L)は、

決算整理後試算表のうち、
「収益」と「費用」だけを集めて作る

書類です。

区分 代表例
収益 売上、受取利息 など
費用 仕入、給料、減価償却費 など

収益 − 費用 = 当期純利益

これが、
1年間の経営成績です。


4. 貸借対照表はどう作られるのか

貸借対照表(B/S)は、

決算整理後試算表のうち、
「資産・負債・純資産」を集めて作る

書類です。

区分 意味
資産 会社が持っている財産
負債 将来支払う義務
純資産 返さなくてよい自己資本

ここに、
当期純利益が純資産として組み込まれることで、
貸借対照表は完成します。


5. 決算整理後試算表 → 財務諸表の流れ(整理)

段階 何をしているか
決算整理後試算表 すべての勘定科目を確定
損益計算書 収益・費用を抜き出して利益計算
貸借対照表 期末時点の財産状況を表示

まとめ

  • 決算整理後試算表は「すべての完成形」
  • P/Lは「成績表」
  • B/Sは「健康診断書」
  • 利益はP/Lで計算され、B/Sに引き継がれる

ここまで理解できれば、
決算の全体像は頭の中で1本につながります。


次回予告(第22回)

次回は、
帳簿を締めるとはどういうことかを扱います。

損益振替・資本振替の意味を、
暗記ではなく流れで整理します。

第20回 簿記入門(13) 決算整理仕訳・総まとめ

第20回 簿記入門(13)
決算整理仕訳とは何をしているのか
― 発生主義を完成させる最後の作業 ―

ここまでの回で、私たちは次のことを学んできました。

  • 減価償却:過去の支出を期間配分する
  • 引当金:将来のリスクを今期に見積もる
  • 前払費用・未払費用:費用の時間調整
  • 前受収益・未収収益:収益の時間調整

今回は、それらを一本につなぐ回です。


1. 決算整理仕訳とは何か

決算整理仕訳とは、

日々の取引だけではズレてしまう
「費用」と「収益」を、正しい期間に直すための仕訳

です。

日常の取引は、どうしても現金基準に引きずられます。
それを、決算のタイミングで発生主義に修正する。
それが決算整理仕訳の役割です。


2. なぜ決算で大量の仕訳を入れるのか

決算で突然、

  • 前払費用
  • 未払費用
  • 前受収益
  • 未収収益
  • 減価償却費
  • 各種引当金

がまとめて出てくるのは、偶然ではありません。

これらはすべて、

現金の動きと、
期間のズレを修正するための仕訳

だからです。


3. 決算整理仕訳でやっていること(整理)

決算整理仕訳の中身を、役割別に整理するとこうなります。

  • 期間配分
    └ 減価償却、前払費用
  • 未処理の確定費用・収益
    └ 未払費用、未収収益
  • 将来リスクの見積り
    └ 引当金
  • 先にもらった・払った分の調整
    └ 前受収益

見た目はバラバラでも、
目的はすべて同じです。

それは、

「この1年間の正しい利益を計算すること」


4. 【図】決算整理仕訳の全体像


【決算整理仕訳とは】


現金の動きではなく
「期間」
利益を確定させるための仕訳


5. 決算整理仕訳=利益調整ではない

初学者がよく誤解するのが、

決算整理仕訳は、
利益を操作するためのもの

という考え方です。

実際はその逆で、

利益を「ごまかさない」ために行う

のが決算整理仕訳です。


まとめ

  • 日々の取引=現金に近い
  • 決算整理仕訳=期間に修正
  • 目的は「正しい利益」の計算
  • 発生主義を完成させる最後の工程

ここまで理解できれば、
決算整理仕訳は暗記ではなく、意味で処理できるようになります。


次回予告(第21回)

次回は、
決算整理後試算表と財務諸表のつながりを扱います。

決算整理仕訳が、
どのように損益計算書・貸借対照表に反映されるのかを見ていきます。

第19回 簿記入門(12) なぜ「まだもらっていないお金」が収益になるのか― 前受収益・未収収益と発生主義

前回(第18回)では、
前払費用・未払費用を通じて、
「費用は現金ではなく、期間で決まる」という考え方を完成させました。

今回はその反対側です。

もうお金をもらったのに、収益じゃないもの
まだお金をもらっていないのに、収益になるもの

これを整理するのが、
前受収益未収収益です。


1. 前受収益 ― もらったが、まだ収益ではない

前受収益とは、

すでにお金を受け取っているが、まだサービスを提供していないもの
をいいます。

具体例

  • 翌月分・翌年分の家賃を先にもらった
  • 前受けした授業料・会費

現金は手元にありますが、
まだ仕事は終わっていません。

したがって、受け取った時点では収益ではなく「負債」として扱います。

(将来サービスを提供する義務があるためです)

サービスを提供した時点で、
はじめて収益に振り替えます。


2. 未収収益 ― 収益だが、まだもらっていない

未収収益は、前受収益とは逆です。

すでにサービスは提供しているが、まだお金を受け取っていないもの
を指します。

具体例

  • 利息収益(入金は翌期)
  • 月末締めで翌月請求する手数料収入

仕事は終わっている。
つまり、収益は今期に属しています

ただし入金がまだなので、
その分を資産(未収収益)として計上します。


3. 費用との完全な対称関係

ここまでで、気づいたかもしれません。

費用 収益
前払費用 前受収益
未払費用 未収収益

費用と収益は、
鏡写しの関係になっています。


4. 収益も「現金」ではなく「期間」で決まる

まとめると、収益についても判断基準は同じです。

  • 前受収益:先にもらったが、期間はこれから
  • 未収収益:期間は終わったが、入金はこれから

現金の有無は関係ありません。

「いつ、何を提供したか」
これが収益計上の基準です。


【図】収益計上の全体マップ(まとめ)


まとめ

  • 前受収益:もらったが、まだ収益でない
  • 未収収益:収益だが、まだもらっていない
  • 判断基準は常に「期間」

これで、
発生主義は費用・収益の両面から完成です。


次回予告(第20回)

次回は、
「決算整理仕訳とは何をしているのか」を総復習します。

なぜ決算で大量の仕訳を入れるのか。
その意味を、ここまでの知識で一本につなげます。

第18回 簿記入門(11)費用計上の時間調整

第18回 簿記入門(11)
「払った」「払っていない」は関係ない?
前払費用・未払費用で完成する“期間の考え方”

第17回では、引当金を通じて、
「まだ起きていない将来の出来事」でも、費用として計上する理由を学びました。

今回は、その流れを受けてもう一歩進みます。

もう払ったのに費用じゃないもの
まだ払っていないのに費用になるもの

この「ズレ」を整理することで、
発生主義による費用計上は完成します。


1. 前払費用 ― 払ったが、まだ費用ではない

前払費用とは、

すでにお金を支払っているが、まだ使っていない部分です。

具体例

  • 1年分をまとめて支払った家賃
  • 前払いした保険料

お金は出ていますが、その効果はこれから発生します。
そのため、支払時点では費用ではなく「資産」として扱います。

時間の経過に応じて、少しずつ費用に振り替えていく。
これが前払費用の考え方です。


2. 未払費用 ― 費用だが、まだ払っていない

未払費用は、前払費用とは逆です。

すでに費用は発生しているが、支払いがまだのもの
を指します。

具体例

  • 月末までの給与(支払いは翌月)
  • まだ請求書が来ていない電気代・水道代

働いてもらった、使った。
つまり、費用は今期に属しています

ただし支払いはこれからなので、
その分を負債(未払費用)として計上します。


3. 引当金との違いを整理する

ここで、第17回で学んだ引当金と比べてみましょう。

  • 未払費用
    すでに起きた出来事。金額もほぼ確定している。
  • 引当金
    将来起きる可能性のある出来事。金額は見積り。

未払費用は「時間のズレ」、
引当金は「将来リスクへの備え」。

性格は違いますが、
どちらも“期間を正しくするための処理”という点では共通しています。


4. 費用計上は「現金」ではなく「期間」で決まる

ここまで見てきた内容を整理すると、次のことが分かります。

  • 減価償却:過去に払ったお金を期間配分
  • 引当金:将来のリスクを今期に見積り
  • 前払費用:先に払った分をこれから費用化
  • 未払費用:今期の費用を後で支払う

これらはすべて、
「現金の動き」と「費用の計上時期」を切り離す仕組みです。


【図】費用計上の全体マップ(まとめ)

費用は「現金」ではなく「期間」で考える。4つの処理はすべてそのための仕組み。

まとめ

  • 前払費用:払ったが、まだ費用でない
  • 未払費用:費用だが、まだ払っていない
  • 引当金:将来リスクを見積って今期の費用に
  • 減価償却:過去の支出を期間配分

すべての判断基準は、
「どの期間の活動か」です。


次回予告(第19回)

次回は、費用の反対側。
前受収益・未収収益を扱い、
発生主義を収益の側から完成させます。

第17回 簿記入門(10)引当金はなぜ「まだ起きていない費用」なのに計上するのか

1.引当金が分かりにくい理由

引当金は、減価償却と並んで、
直感に反する会計処理
の代表例です。

なぜなら引当金は、
まだ実際には発生していない費用
を、先に計上するからです。

「お金も払っていない」
「まだ問題も起きていない」
それなのに、なぜ費用になるのでしょうか。

2.引当金は「将来の支出」を見積もる処理

引当金とは、一言で言えば、


将来、高い確率で発生する支出を、あらかじめ見積もる処理

です。

代表例として、次のようなものがあります。

  • 貸倒引当金
  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金

3.なぜ今、費用にする必要があるのか

ここで重要なのが、
「いつ費用として認識するか」
という問題です。

例えば、売上は今期に計上しているのに、
その売上に対応する費用を来期に回すと、
今期の利益は不自然に大きくなってしまいます。

そこで会計では、


収益と、それに対応する費用は、同じ期間に計上する

という考え方を取ります。

4.貸倒引当金を例に考えてみる

例:売掛金100万円のうち、5万円は回収不能になりそうだ

この時点では、まだ実際に貸倒れは起きていません。

しかし、

  • 売上はすでに計上済み
  • 回収できない可能性が高い

という状況です。

そこで、


将来の損失を見積もって、今のうちに費用として計上する

これが引当金の考え方です。

5.引当金を計上すると何が動くのか

引当金を計上すると、次の変化が起こります。

  • P/L:引当金繰入額(費用)が発生
  • B/S:引当金(負債または控除項目)が増える

そして重要なのは、


この時点で、現金は一切動いていない

という点です。

6.引当金と純資産の関係

引当金繰入額は費用ですから、

  • 利益を減らす
  • 純資産を減らす

という効果を持ちます。

つまり引当金とは、


将来の損失を、前倒しで純資産から差し引いている

処理だと言えます。

7.なぜ「予想」で会計処理してよいのか

会計は、
事実だけを記録する世界
だと思われがちです。

しかし実際には、


将来を合理的に見積もること

も、非常に重要な役割を持っています。

引当金は、

  • 利益を過大に見せない
  • 会社の実態をより正確に表す

ための仕組みなのです。

8.まとめ

  • 引当金は将来の支出を見積もる処理
  • まだ現金は動いていない
  • 費用は先に計上される
  • 結果として純資産が減る

次回は、
「前払費用・未払費用はなぜ“ズレ”を調整するのか」
を扱います。

第16回 簿記入門(9)減価償却はなぜ現金が動かないのに費用になるのか

1.減価償却が分かりにくい理由

減価償却は、会計の中でも特につまずきやすいテーマです。

理由は明確で、
「現金が動かないのに、費用が発生する」
からです。

これまで見てきた費用は、
現金の支払や掛取引と結びついていました。

しかし減価償却では、
そのどちらも起きません。

2.まず「購入時」に何が起きているか

減価償却を理解するには、
時間を2つに分けて考える
ことが重要です。

例:100万円の機械を現金で購入した

購入時点で起きているのは、次のことです。

  • 現金が減る
  • 機械(固定資産)が増える

これは、


資産 → 資産への置き換え

であり、この時点では
P/Lは一切動いていません。

3.時間の経過で価値が減っていく

機械や建物は、使えば使うほど価値が下がっていきます。

この価値の減少を、
会計上、少しずつ費用として認識する
のが減価償却です。

4.減価償却費が計上されたときの動き

減価償却費を計上すると、次の変化が起こります。

  • P/L:減価償却費が発生(費用)
  • B/S:固定資産の価値が減少

そして重要なのは、


この時点で、現金は一切動いていない

という点です。

5.なぜ費用になるのか

減価償却費は、
「お金を払ったから費用になる」
のではありません。


資産を使って価値を消費した

その事実を、
期間ごとにP/Lへ配分している
だけなのです。

6.減価償却は「過去の支出」を整理している

現金の支出は、
すでに過去に終わっています。

減価償却とは、


過去に支払ったお金を、あとから費用に直している

と考えると、非常に分かりやすくなります。

7.減価償却と純資産の関係

減価償却費は費用ですから、

  • P/Lの利益を減らす
  • 結果として純資産を減らす

という影響を持ちます。

ただし、


現金は減らないが、純資産は減る

という点が、減価償却の最大の特徴です。

8.まとめ

  • 購入時は資産の置き換えでP/Lは動かない
  • 減価償却は時間の経過による価値の消費
  • 現金が動かなくても費用は発生する
  • 減価償却費は純資産を減らす

次回は、
「引当金はなぜ“まだ起きていない費用”なのに計上するのか」
を扱います。