第9回 簿記入門(3)家計簿と簿記の違い

ここまでで、お金の流れ5つのグループ(資産・負債・純資産・収益・費用)のイメージを見てきました。
今回はよく聞かれる
「家計簿と簿記って何が違うの?」
というテーマを、ざっくり整理してみます。


1.家計簿は「いくら使ったか」をざっくり見るノート

多くのご家庭で使っている家計簿は、
一言でいうと
「現金や銀行口座がどれくらい減ったかを追いかけるノート」
です。

たとえば、こんな感じです。

  • 3/5 スーパー 食費 4,000円
  • 3/10 電気料金 6,500円
  • 3/25 給料日 +250,000円

ここで気にしているのは、
「今月いくら使ったか」「残高がどれくらいか」
という点です。
少し乱暴に言えば、
「財布や口座から出ていったお金」だけ分かれば目的は達成されます。

ですから、家計簿は次のような特徴を持っています。

  • 現金・預金の出入りが中心(お金の動きだけ
  • お金を払った日ベースで記録(現金主義)
  • 1行に1つの数字を書く単式の形が多い
  • 目的は家計の管理・使い過ぎのチェック

これに対して、会社で行う簿記は、もう少し「ガチ」です。


2.簿記は「もうけ」と「財産」をきちんと説明する仕組み

会社が行う簿記は、
「今年どれくらいもうかったのか」
「今どれくらい財産があるのか」を、
税務署や銀行、株主などの第三者にも説明できる形で示すための仕組みです。

そのために、家計簿よりも少し厳密なルールが必要になります。

  • 現金だけでなく、ツケ(掛取引)やモノ(商品・建物など)も記録
  • お金を払った日ではなく、約束が発生した日で費用・収益を計上(発生主義)
  • 左側(借方)と右側(貸方)の2つの側に記録する「複式簿記」
  • 目的は、利益の計算財産・負債の把握

文章だと分かりづらいので、図1で家計簿と簿記を並べて比較しています。


3.図で比較:家計簿と簿記のちがい

図1:家計簿と会社の簿記のちがい(ざっくり)では、
左に「家計簿」、右に「会社の簿記」の箱を置き、
次のようなポイントを書き込んであります。

  • 家計簿:
    現金中心/支払った日ベース/単式/家計管理が目的
  • 会社の簿記:
    現金+掛け+モノ/約束が発生した日ベース/複式簿記/利益計算と財産管理が目的

イメージとしては、
家計簿は「ざっくり管理」
簿記は「きっちり説明」のための道具、と考えると分かりやすいです。


4.現金主義と発生主義の違いを、具体例で見てみる

家計簿と簿記の違いで、いちばん大きいのが
「いつ費用として記録するか」という発想です。

ここでは、スマホの電話料金を例にしてみましょう。

  • 3月:スマホを使って電話をしている
  • 4月上旬:3月分の利用について、請求書が届く
  • 4月末:口座から料金が引き落とされる

このとき、家計簿と簿記では記録のタイミングが変わります。

家計簿(現金主義)

  • 4月末、口座からお金が引き落とされたタイミングで
    「通信費 〇〇円」と1回だけ記録する。

簿記(発生主義)

  • サービスを受けた3月分の電話料金として、「通信費」を計上する。
  • まだ支払っていないので、「未払金」という負債も同時に計上する。
  • 4月末に実際に支払ったとき、「未払金の支払」として処理する。

つまり簿記では、
「サービスを受けた月の成績に、その費用をきちんと入れる」
ことを大事にしています。
この違いを、図2:現金主義と発生主義のちがい(電話料金の例)で整理しています。


5.なぜ簿記はそこまで細かくする必要があるの?

「そんなに細かく分けなくても、トータルで払っている額は同じでは?」
と感じるかもしれません。

しかし、会社の場合は次のような理由から、
「いつの利益なのか」を正しく分ける必要があります。

  • 銀行や投資家に対して、「今年どれくらいもうかったか」を説明する必要がある
  • 税金(法人税など)は、「その年のもうけ」をもとに計算される
  • いつも同じルールで計算しないと、去年と今年の比較ができない

そのため、発生主義(サービスを受けたタイミングで費用を認識)という考え方が使われています。


6.家計簿ができる人は、簿記もきっと得意になれる

ここまで読むと、「簿記ってなんだか難しそう…」と感じるかもしれません。
ただ、家計簿をちゃんとつけられる人は、簿記の素質アリです。

違いをざっくりまとめると:

  • 家計簿:
    「お金が減った瞬間」に印をつける習慣づくり
  • 簿記:
    その印を、5つの箱(資産・負債・純資産・収益・費用)のどこに入れるかまで整理する作業

つまり簿記は、家計簿に「箱分け」と「約束の管理」が加わったイメージです。
今の段階では、そこまで構えなくて大丈夫なので、

  • 家計簿は現金ベース・1行だけ
  • 簿記は、約束も含めて2つの側に記録する

この2点が頭に残っていれば十分です。


7.今回のまとめと、次回予告

今回のポイントを整理すると:

  • 家計簿は、現金の出入りを中心に「いくら使ったか」を見るノート
  • 簿記は、第三者に説明できる形で「利益」と「財産」を示すしくみ
  • 家計簿は支払った日ベース(現金主義)、簿記はサービスを受けた日ベース(発生主義)
  • 簿記では、掛取引やモノ(商品・建物など)も含めて5つの箱に分けて整理する

次回は、ここまでの話を踏まえて、
「仕訳って結局何をしているの?」というテーマに入っていきます。
簿記の世界で何度も出てくる「借方・貸方」の入口を、できるだけやさしく解説していきます。