第3回 科目選択と受験順序の考え方
第2回では、「税理士試験ってどんな試験か」という全体像を見てきました。科目合格制で、年1回コツコツ積み上げていく試験――というイメージはだいぶ掴めてきたと思います。
そこで今回のテーマは、受験生の最大の関心ごとでもある「どの科目から、どんな順番で受けていくか」です。
実は、この「科目選択と受験順序」は、合否そのものと同じくらい重要です。
自分に合わない科目から始めてしまうと、最初の1〜2年をムダにしてしまうこともありますし、逆にうまくハマると、最初の数年で一気に合格まで走り抜けることもできます。
1.なぜ「科目選択」がそんなに大事なのか
税理士試験は、ざっくり言えば次のようなステップで合格を目指します。
- 会計科目(簿記論・財務諸表論)で「計算の基礎体力」をつける
- 税法科目で「暗記+理解+計算」をミックスして仕上げていく
- 合計5科目に合格したら、実務経験などを経て税理士登録へ
どの科目から始めるかで、
- 日商簿記との相性(すでに持っているか、これから取るか)
- 仕事や生活との両立のしやすさ
- 「得意な型」を早めに見つけられるかどうか
が大きく変わってきます。
特に、最初の1〜2年で「勝ちパターン」を作れるかが、その後の受験生活のメンタルにも直結します。
2.王道は「会計科目から」スタート
まず、大きな方向性としては
- 会計科目(簿記論・財務諸表論)から始める
- ある程度会計の土台ができてから税法科目に進む
という流れが王道です。理由はシンプルで、
- 税法も結局は「儲けがいくらか」「資産がいくらか」をもとに計算する
- 会計が分かっていると、税法の計算・理論の理解が楽になる
- 日商簿記2級以上のレベルと重なるため、仕事にも直結しやすい
からです。
まだ日商簿記を持っていない方は、「日商3級 → 2級 → 簿財」という流れをイメージしておくと良いでしょう。
すでに2級を持っている方は、比較的スムーズに簿記論・財務諸表論に入っていけます。
3.典型的な受験順序モデル
ここから、よくある受験順序を「モデルケース」としてイメージしてみましょう。実際には人それぞれですが、まずは「基本形」を知っておくことが大切です。
モデルA:オーソドックスに積み上げるパターン
- 1年目:簿記論 + 財務諸表論(いわゆる「簿財同時」)
- 2年目:メイン税法①(法人税法 or 所得税法)
- 3年目:メイン税法②(上記のもう一方 or 消費税法など)
- 4年目以降:残りの税法1〜2科目を埋めていく
このパターンのメリットは、
- 最初の1〜2年で会計の基礎がしっかり固まる
- 「簿財合格」という大きな山を早めに越えられる
- その後の税法の勉強が比較的スムーズになる
一方で、
- 働きながらだと、初年度に簿財2科目は負担がかなり重い
- 途中でどちらかだけ合格、というパターンも多い
という現実的なデメリットもあります。
最初から「簿財2科目同時」は不安…という方は、1年目に1科目だけという選択も十分アリです。
モデルB:会計1科目+税法1科目でバランスを取るパターン
- 1年目:簿記論 + 消費税法(または住民からイメージしやすい税法)
- 2年目:財務諸表論 + メイン税法(法人税法など)
- 3年目以降:残りの税法を詰めていく
このパターンは、
- 毎年「会計+税法」で勉強に変化をつけられる
- 得意な方でモチベーションを保ちつつ、もう一方を引き上げる
というメリットがあります。
ただし、2種類の科目を同時並行する負荷はそれなりに高くなりますので、仕事や家庭との両立を考えながら調整が必要です。
4.あえて「例外パターン」を取った方がいい人
ここまで王道パターンを紹介してきましたが、受験生全員がそれに当てはまるわけではありません。
むしろ、次のようなタイプの方は、あえて少し変則的な順序を取った方がうまくいくこともあります。
- 法律系が得意で、条文を読むことに抵抗がない
- 逆に、計算より暗記・読解のほうが得意
- すでに実務で特定の税法に触れている(例:所得税メインの事務所勤務)
こうした方は、例えば
- 最初に消費税法や相続税法など、なじみのある税法1科目から始めてみる
- 「税法で1科目合格してから会計に戻る」という順番を検討する
といった例外パターンも選択肢になります。
ただし、その場合でもどこかのタイミングで会計科目2つはしっかりやる必要がある、という点だけは忘れずに押さえておきましょう。
5.受験順序を決めるときのチェックポイント
最後に、「自分の科目選択・受験順序をどう決めればいいか」を考えるためのチェックポイントをまとめておきます。
- 日商簿記の経験はどこまであるか(これから3級/すでに2級済み…)
- 仕事・家庭の状況から見て、今年どれくらい時間を使えそうか
- 文系寄りか、理系寄りか、暗記型か、計算型か
- 将来どんな働き方をしたいか(一般企業経理/税理士法人/独立開業…)
これらを一度紙に書き出して整理し、
「まずは1年目にこの1〜2科目をやってみよう」
というところまで落とし込むのがおすすめです。
このサイトでは、今後の回で
- 「税法入門」編でそれぞれの税法の特徴
- 「勉強法・ライフプラン」編で、立場別の受験プラン
も詳しく扱っていきます。
現時点では、「王道パターン」と「自分のタイプ」を頭の中で重ね合わせて、ざっくりとした受験ロードマップをイメージしておけば十分です。
次回は、「勉強期間の目安と人生設計(学生/社会人/主婦)」の視点から、
「何年くらいかけて合格を目指すのか」「その間の働き方・生活をどう組み立てるか」について考えていきます。
